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ソフィアは特にその日用事がなかったため、そのままマリアの部屋にいることになった。久しぶりにソフィアと会話するのは楽しい。どちらともなくクロードの話題は避けた。
ふと時計を見ると、間もなく正午をさすところだった。
「そろそろ昼食を頼みますね」
「ええ。ありがとう」
そのとき部屋のドアがノックされ、
「今日からこちらで働くことになりましたのでご挨拶に参りました」
確かに今日から新しいメイドが増えることは聞いていた。マリアは少し考えてから
「どうぞ」
入ってきたのは初めて見るメイド二人だけだ。
年齢はどちらもソフィアくらいだろうか。
「よろしくお願いいたします。ソフィア様、マリアさん」
マリアは訝しげな表情になる。
通常新人の使用人が挨拶に来るときはメイド頭が一緒だからだ。
「よろしくね」
ソフィアはマリアの表情に気づいていないのかにこやかに言った。お嬢様のソフィアは警戒心が薄い。
「……メイド頭は一緒じゃないの?」
「今日はご用事があるとかでご一緒に来てはいただけなかったのですが、私たち早くご挨拶がしたくて」
「……よろしくね。わざわざ挨拶に来てくれてありがとう。では仕事に戻って」
そっけなく返答し退室を促すがメイドたちは退室しない。
不信に思ったマリアが声をあげようとするより、彼女たちが動くほうが早かった。
「はい。私たち仕事熱心ですので」
口元から鼻まで湿った布を押し当てられる。つんと薬品の臭いがした。本能的に息をしてはいけないと悟ったが、特殊な訓練も受けていないのに呼吸を止めるなど長くできるはずもない。
(ソフィア様)
ソフィアの方に伸ばした手がむなしく空を掴む。
ほどなくしてマリアとソフィアは意識を手放した。
先程今日から働くことになったと紹介状を提示され通過を許可したメイドたちが、大きな荷物とともに荷馬車の荷台部分に乗ってやってきた。運転しているのはこちらも今日から来た使用人だ。
「その荷物はなんだ」
門番が呼び止めると、
「ドレスの手直しが必要なので、城下の店に持っていくのです」
「中を改める」
「どうぞ」
門番は荷台に乗り込んだ。
メイドが箱を開けると、確かにドレスが入っている。
「確かにそうだな。一応もっと見させて……」
門番がドレスに手をかけると、
「門番様、私たち急いでもって行かないと後の仕事がありますのでメイド頭に叱られてしまいます」
「やっと王宮で働くことができましたのに解雇されてしまうかも」
メイドが二人してくすんくすんと泣き始める。
門番は慌てて荷台を降りた。
「わ、分かった。仕事の邪魔をしてすまなかったな。早く行きなさい」
「ありがとうございます」
「郷里の母も喜びますわ」
にっこりと微笑んだメイドたちを乗せた馬車が遠ざかっていく。
男はだれでも女性の涙には勝てないものだ。特に美人ならばなおさら。だから仕方がないのだと門番は自分に言い聞かせる。
それにしても二人とも美人だったと思い返して鼻の下を伸ばしていた門番は、しばらくして顔を蒼白させた。今日から働く手はずになっていたが道中襲われて紹介状も奪われた、と身なりがぼろぼろの女性が二人やってきたからだ。
ふと時計を見ると、間もなく正午をさすところだった。
「そろそろ昼食を頼みますね」
「ええ。ありがとう」
そのとき部屋のドアがノックされ、
「今日からこちらで働くことになりましたのでご挨拶に参りました」
確かに今日から新しいメイドが増えることは聞いていた。マリアは少し考えてから
「どうぞ」
入ってきたのは初めて見るメイド二人だけだ。
年齢はどちらもソフィアくらいだろうか。
「よろしくお願いいたします。ソフィア様、マリアさん」
マリアは訝しげな表情になる。
通常新人の使用人が挨拶に来るときはメイド頭が一緒だからだ。
「よろしくね」
ソフィアはマリアの表情に気づいていないのかにこやかに言った。お嬢様のソフィアは警戒心が薄い。
「……メイド頭は一緒じゃないの?」
「今日はご用事があるとかでご一緒に来てはいただけなかったのですが、私たち早くご挨拶がしたくて」
「……よろしくね。わざわざ挨拶に来てくれてありがとう。では仕事に戻って」
そっけなく返答し退室を促すがメイドたちは退室しない。
不信に思ったマリアが声をあげようとするより、彼女たちが動くほうが早かった。
「はい。私たち仕事熱心ですので」
口元から鼻まで湿った布を押し当てられる。つんと薬品の臭いがした。本能的に息をしてはいけないと悟ったが、特殊な訓練も受けていないのに呼吸を止めるなど長くできるはずもない。
(ソフィア様)
ソフィアの方に伸ばした手がむなしく空を掴む。
ほどなくしてマリアとソフィアは意識を手放した。
先程今日から働くことになったと紹介状を提示され通過を許可したメイドたちが、大きな荷物とともに荷馬車の荷台部分に乗ってやってきた。運転しているのはこちらも今日から来た使用人だ。
「その荷物はなんだ」
門番が呼び止めると、
「ドレスの手直しが必要なので、城下の店に持っていくのです」
「中を改める」
「どうぞ」
門番は荷台に乗り込んだ。
メイドが箱を開けると、確かにドレスが入っている。
「確かにそうだな。一応もっと見させて……」
門番がドレスに手をかけると、
「門番様、私たち急いでもって行かないと後の仕事がありますのでメイド頭に叱られてしまいます」
「やっと王宮で働くことができましたのに解雇されてしまうかも」
メイドが二人してくすんくすんと泣き始める。
門番は慌てて荷台を降りた。
「わ、分かった。仕事の邪魔をしてすまなかったな。早く行きなさい」
「ありがとうございます」
「郷里の母も喜びますわ」
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男はだれでも女性の涙には勝てないものだ。特に美人ならばなおさら。だから仕方がないのだと門番は自分に言い聞かせる。
それにしても二人とも美人だったと思い返して鼻の下を伸ばしていた門番は、しばらくして顔を蒼白させた。今日から働く手はずになっていたが道中襲われて紹介状も奪われた、と身なりがぼろぼろの女性が二人やってきたからだ。
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