昔助けた王子様に求婚されて外堀を埋められています

水無瀬雨音

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 ノックもなしにドアが開き、ベルが入ってきた。
 その瞬間ソフィアは心臓が止まるかと思った。
 今一番会いたくない人物だ。
「……ベル、様」
「相変わらず人が悪いですわね、ベル。ずっと立ち聞きしていたんでしょうし、聡明なあなたなら真実が予想できるのでは?
 それよりやはり黒幕はあなたでしたのね。何しにいらしたのか存じませんが」
 マリアが珍しく冷淡な口調でベルを睨みつける。
 その冷たい目線と底冷えするような冷たい声にソフィアであればすくみ上りそうだったが、当然ベルは動じない。不遜な笑みを浮かべ、
「オレーユはちゃんとやってるか不安で来たら、やっぱりずいぶん手ぬるいことをしているんですもの。
 クロードにソフィア様が連れ戻されても結婚できないようにしなくちゃ意味ないわ。そうでしょう?」
 具体的にどうされるのかは気になるが聞きたくない。
 ただソフィアにとって喜ばしいことではないことは容易に想像がつく。震えるソフィアの手をフランソワの手が落ち着かせるように優しく包んだ。言葉はなくても少し不安が和らぐ。
 何をされるかは分からないが、その前にきっとーー。

「クロードは来ませんわよ。ここに来るまでにあとをつけてきたようですけれど、撒きましたから」

 ソフィアの心中を見透かしたようにクスクスとベルが笑う。
「……そんな」
「大丈夫です。ソフィア様。クロードも撒かれることは想定内のはずですわ。別の方法でここにきっとたどり着きます」
 落ち込むソフィアを、安心させるようにフランソワが励ます。
「確かにそうでしょう。ですが、それは全部終わったあとでしょうけどね」
 ベルが部屋の外を振り返る。
「ソフィア様をオレーユの部屋にお連れして」
「はい」
 現れた男がソフィアの腕をつかむ。背が高く、服の上からでも盛り上がった筋肉が分かる。屈強そうな男だ。
「フランソワ様!」
「ソフィア様を連れていかないで!
 離れないよう二人は固く手を握り合うが、屈強な男にかなうはずもなく、あっさりほどかれる。
「ソフィア様!」
 バタバタと暴れるが、男にとっては子供が抵抗しているようなものだっただろう。ソフィアは肩に担がれてオレーユの部屋に連れていかれてしまった。
 オレーユの部屋は同じフロアの端にあった。
「ソフィア様をお連れしました」
 男に中からオレーユが応える。
「入れ」
 簡素ではあるが、ソフィアたちがいた部屋より幾分広い。家具もわずかだが多く、ベッドのわきには銀製の水差しの載ったサイドテーブルもある。
 男はソフィアをベッドに降ろすと出て行った。
 オレーユは開いていた本をしおりを挟んで閉じるとテーブルに置いた。椅子から立ち上がってソフィアの上にのしかかる。
 ベッドがぎしっときしむ音がした。

「本来ならもう少し時間をかけたかったのですが、仕方がありません。ベルの機嫌を損ねると私の仕事に支障が出てきますのでね」 
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