昔助けた王子様に求婚されて外堀を埋められています

水無瀬雨音

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 クロードの愛馬に乗って、ソフィアは小高い丘の上に来ていた。
 一番高いところに立てば城下町が見渡せる。
 離れたところから騎士たちが見守っているのが居心地が悪いが、クロードの立場を鑑みれば仕方がないだろう。
「買い物でもよかったのだがな。今からでも行くか?」
「いいえ。クロードとゆっくりしたかったのでここがいいです」
 ここに来たのはソフィアの希望だった。
 城下町に行けばまたあれやこれやとお金を使わせてしまうだろうし、天気もよかったのでクロードと自然の中でゆっくりしてみたかったのも本当だ。
 人ごみの中ではクロードに向けられる令嬢の視線が気になる。もっともソフィアも同じくらい見られているが、自分に向けられる視線には無頓着なものだ。
 馬を走らせれば一時間ほどの距離に丘があるというので、料理長にお弁当を作ってもらい、クロードの前に乗せてもらってここにやってきた。
 一応ソフィアも乗馬の心得はあるが、あまり得意ではないので長い距離は自信がない。
「ソフィー、ありがとうね」
 美しい黒い毛並みを撫でて、ソフィアが皿に水をついでやるとソフィーは音を立てて飲み始めた。二人をのせて走ったのだからのどが渇いているだろう。
 ソフィーは二歳の牝馬だが、名前の由来はもちろんソフィアだ。
「王宮も小さく見えますね」
「そうだな」
 城ならばこの距離でも十分わかるが、一般庶民の家ならばここから確認することはできないだろう。
「城からしばらく行ったところの鐘のついた白い建物が分かるか?」
「はい。なんとか。教会、ですかね?」
 城よりはもちろん小さいが、白い建物はあまりないため分かりやすい。
「あれが一か月後私たちが式をあげる教会だ。あとで下見に行ってみるか?」
「ぜひ」
「当日のソフィアは女神も嫉妬する美しさであろうな」
「ふふ。クロードったら」
 クロードの衣装も楽しみだと言うのは恥ずかしいので黙っておく。黒っぽい服装を好むクロードだが、結婚式には白い衣装が用意されているはずだ。普段あまり見たことがないので楽しみだ。
「クロードから頂いたお菓子をいくつか持ってきたのですが、召し上がりますか?」
「少しだけもらう」
 ソフィアだけぱくぱく食べていたら食いしん坊のようで気になるが、クロードは甘いものが苦手なのだ。できるだけ甘くなさそうなものを選んできたのだが。
 敷物を敷き、トレイの上にお菓子を並べ、ポットから注いだお茶をクロードに渡す。
「王妃の祖国には行かれることがあるのですか?」
「幼少の折は年に一回は行っていたが、最近はあまり行かぬな。
 式にはおじい様、おばあ様も来られるから紹介する。
 春にソフィアを連れて行けるとよいのだが」
 四季のはっきりした国で、秋の紅葉や、春の満開の桜がことさら美しいのだとクロードは言った。
「サクラは王宮にもありますよね。アメリー様に教えていただきました」
「そうだな。一本でも美しいのだが、何本も並んでいるともっと美しい」
「クロードとたくさん美しいものを見たいです」
 たぶん世界にはソフィアの見たことがない美しいものがたくさんあるのだろう。そしてすべてを見ることはできないだろう。
 だが少しでも多くのものを見られたらとても幸運だ。クロードが隣にいればもっと。
「私も同意だ」
 クロードが微笑んでうなづく。
「まぁいずれにしてもソフィアには遠く及ばぬだろうがな」
「……恥ずかしいのでもうやめてください」
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