寡黙な騎士団長は花嫁を溺愛する 番外編

水無瀬雨音

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ギフト 2

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「で、追い出されたまま仕事行ったんですけど、まだ怒ってるだろうなー。換金率がいいプレゼントっていつも言ってるんだから、現金なら間違いないってなるじゃないですか?
 なにが不満なのか本当に理解できないです。どうせ換金されるかもしれないなら、現金の方が手間かからなくてお互いいいじゃないですか」

 騎士団長室のソファーで、ドミニクは長々と愚痴っていた。
 書類仕事をしながら、アーノルドは半分は聞き流していた。
 ドミニクといえば愛妻ヴィオレットの幼なじみであり、もともとは恋敵。その彼がなぜここにいるのか分からない。
 突然訪ねてきて、一応少しなら対応する時間もあるし、ヴィオレットに関する用事なのかもしれないと思い通してみれば、ひたすらに自分の妻の愚痴をこぼしている。ヴィオレットのことにかすってもいない。
 彼の妻であるエミリエンヌは、ヴィオレットの友人ではあるが、アーノルドとは面識もさほどない。性格もあまり把握していないので、そんな彼女の愚痴をこぼされても困るのだが。

「……オレと君は親しい仲ではなかったはずだが。オレの認識が間違っていなければ」

 彼と親しい瞬間など一瞬たりともなかった。なんなら顔も合わせたくない。
 ドミニクもあっさり同意した。

「お間違えではありませんよ。オレも同意見なので」

 身分の高いアーノルドに対しても一切の忖度がないのはさすがというか。彼のはっきりしているところは嫌いではなかった。
 控えめなノックとともに下級騎士が入ってくる。

「失礼いたします。お茶を入れてきました」
「……彼には必要ない」

 きっぱり追い返そうとするアーノルドに反し、ドミニクはにこやかに

「ありがとうございます。ちょうどのどが渇いていたので。あ、その焼き菓子おいしそうですね」
「え、ええと」

 困惑した下級騎士は、その場に佇んだまま、アーノルドとドミニクを交互に眺めた。

「まあまあ。せっかく入れていただいたのに無駄になりますから。どうぞご自分のお仕事にお戻りください」

 ソファーから立ち上がったドミニクが強引に下級騎士からトレーを奪い取ると、

「で、では失礼します!」

 逃げるように団長室から出て行ってしまった。

「さすが団長に出すお茶はいい茶葉使ってますねー。香りがいいですし。はい、どうぞ」

 素知らぬ顔でドミニクがアーノルドの前のテーブルにカップを置き、自分もソファーに座ってお茶を口にする。

「わー、やっぱ美味いな。どこの茶葉使ってんですか? あー、アーノルド様が入れることないでしょうし、ご存じないですよね。帰るときに聞いてみよー」

 アーノルドが反応しなくても、一人でずっとしゃべっている。
 ……うるさくて疲れる。

「……」

 アーノルドも喉が渇いていたので、お茶を一口飲む。

「……多忙なんだが」

 穏やかなアーノルドにしては珍しく、帰って欲しいという願いを込めて威圧的に言ったが、

「奇遇ですね。オレもです」

 平然と返したドミニクは帰る気配すらない。
 本当に忙しいのだろうか。

「……はぁ」

 アーノルドは深々とため息をつくと、額に手をあてた。

「……帰ってくれないか」

 延々愚痴られてもアーノルドには何のアドバイスもできないし、心から帰って欲しい。

「そんな冷たいこと言わないでくださいよー。オレ本当に忙しい合間にちょーっと愚痴きいてほしかっただけなので! お茶とお菓子食ったら帰りますから!」
「……それならいいが」

 普通に考えて三十分ほどだろうか。それ以上かかりそうなら強引にでもつまみだそうとアーノルドは心に誓う。

「今まで一番だった宝石の産出国が、最近質のいいものが採れなくなっててー。量が安定してて質はよくて良かったんですけどね。まあ資源はいつか枯渇しますからね。だからー……」

 ドミニクはその言葉通り、一人で勝手にどうでもいいことをぺらぺら話しながらお茶と菓子を食べ終わると、あっさりソファーから立ち上がった。

「じゃ、そろそろ帰りますね。向こうに戻るときにまた寄ります。お邪魔しましたー」
「……来なくていい」

 本心からそういうと、

「つれないなー。お会いできなければそのまま大人しく帰りますしー。お茶とお菓子すっげー美味しかったのでまたいただきたいですもん。それでは」
「……ノアイユ」

 ドアノブに手をかけたドミニクを、呼び止める。

「はい?」

 怪訝そうにドミニクが振り返る。
 自分で呼び止めておいて、「妻へのプレゼントに現金はありえない」とか言いたいことはたくさんあったのに、ありすぎてまったくまとまらなかった。だから口について出たのは、特に気になっていなかったことだった。

「……君、相談できるような友人はいないのか? なぜオレのところに来たんだ。なんのアドバイスもできないのに」

 ふふっとドミニクが笑った。

「友人はたくさんいます。ここに来たのは、あなたのことが嫌いだからです。オレは楽しかったですよ」
「……ん?」

 そう言ってドミニクは静かに扉を閉めた。
 後に残されたアーノルドは彼の言っていることが分からず困惑した。
 ドミニクが向けた笑顔は、およそ嫌っている人間に向けなさそうな、ごく自然な楽しそうなものだったからだ。それでいてアーノルドをよく思っていないのは確かだろう。アーノルドだってそうだ。
 アーノルドはかかえている仕事が山ほどあったので、すぐにそのことを考えるのをやめた。他人の考えを一から十まで理解しようとするのは無駄だ。ましてや特につき合う必要のない相手のことを。
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