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異世界編 1章
第25話 加護その3
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正秀と為次は生命の加護を受ける為に、ターナに連れられ神殿へとやって来た。
上級国民区画へ上がる時に、階段の手前に居る2人の兵士。
今回は「ターナ様にあまり近づくなよ、変態」と為次に言うだけであった。
ターナが一緒であったからであろう、すんなり通してもらえたのだ。
神殿はターナが言ったように上級国民区画の中央にあった。
ガザ府邸より、更に奥へと行った場所だ。
着いた頃には、為次一人ヘロヘロになっていた。
「はぁ、はぁ…… 疲れた…… もうだめぽ」
「ほんと、だらしないわねぇ」
為次を横目で見ながらマヨーラは言った。
「マヨーラもスイも華奢なくせして体力有り過ぎるでしょ。ターナは脂肪タップリで気持ちいいけど」
それを聞いたターナは笑顔で為次を睨む。
「何か言いまして? タ・メ・ツ・グ」
「あ、いやいや、なんでもありません…… ありませんです、はい……」
「また、殴られるぞ」
正秀がツッこむと、為次は慌てて話をそらそうとする。
「……えっと、そのなんだ、うわーすごいしんでんだー」
「何、わざとらしこと言ってんだよ…… とは言え、確かに豪華な造りの神殿だな」
二人の言うように、神殿はとても豪華な造りだ。
天井も高く様々な装飾も施してある。
中央には巨大な円柱状の柱があり、正面にはきらびやかな祭壇があった。
「ほんと、何時来ても素敵なとこねー」
マヨーラは周囲を見渡し感動していた。
「正に加護を受けるに、相応しいって感じだぜ」
正秀の言う通りかも知れない。
それほどに美しい神殿なのだ。
「加護の儀式は別の部屋で行ないますわ、どうぞこちらへ」
ターナは皆を中央の柱へと案内する。
「別の部屋? もっと凄い部屋なんだねー」
「ああ、そうだろうな、多分」
為次と正秀は更に期待が膨らむ。
案内された柱には横開きの扉らしきモノがある。
しかし、その扉にはドアノブも手を掛けるとこも無いのだ。
ターナは横にあるスイッチらしきモノに触れる。
プシュー
すると、エアー音を伴いながら扉が自動で開いた。
自動ドアは2枚重になっており、それが中央から同時にスライドして開くのだ。
扉の先は狭くて四角い部屋だ。
壁も真っ白であり、豪華な神殿には似合わない味気ない場所であった。
「お、自動ドア。マジカルドアですな」
「どうぞ、お入り下さい」
ターナに連られ、ゾロゾロと狭い部屋に入る。
6人も入ると窮屈になるくらい狭い。
「こんな狭いとこでやるのか?」
正秀の疑問にスレイブは答える。
「ここは儀式の場に行ける、神の箱だぜ」
「神の箱?」
神の箱の内側には、扉の横に縦12個のボタンが2列になって並んでいた。
それぞれのボタンに数字が振ってある。
それとは別に『開』『閉』と書かれた2個のボタンもあった。
その文字も数字も二人の元居た世界はもちろん、この世界の文字とも違っていた。
しかし、正秀と為次には、その文字が読めるのだ。
「なんだ、エレベーターあるじゃん」
上級国民区画への長い階段を思い出しながら為次は言った。
「えれべいたぁ?」
聞かない言葉にマヨーラは訊き直した。
「上がったり下がったりする乗り物だよ」
「何言ってんのよタメツグ、ここは神様の傍へと誘ってくれるありがたい部屋なのよ」
「マヨマヨは何言ってんの? それより何階っすか?」
「3ですわ」
ターナの放った言葉は、マヨーラとスイには分からない。
為次は『3』を押すと、自動ドアが閉まり神の箱が動き出す。
神殿は建物の中間辺りだったらしく、『12』の位置のボタンが光っている。
その光が、1つづつ少ない数字へと移り変わっていく。
ウィィィィィン……
神の箱が動き出すと、微かな機械音だけが聴こえる。
狭い密室では何故か皆、静かになるものなのだ。
そして、『3』が光ると自動ドアが開く……
開いた扉の先は通路だった。
またしても味気のない、白い壁の通路が続いている。
「どうぞ、こちらですわ」
ターナは皆を誘導して通路を進んでいく。
所々には隔壁と思われるような箇所も通路には設置してある。
途中には幾つか部屋への扉があった。
扉にはプレートが貼り付けてある。
メディカルルーム……
為次は声に出さず読んでみた。
他にも『増殖プラント』『ラボラトリー』などと書かれた部屋が見受けられる。
やはりそのプレートの文字も、この世界のものとは違っていた。
しかし、正秀と為次にはその文字が読めるのだ。
そのような部屋への扉の内、1つの扉の前でターナは止まった。
「こちらですわ」
そう言いながら、扉の横のボタンに触れる。
プシュー
自動ドアが開いた。
扉のプレートには『生態ナノマシン制御室』と書かれている。
「なんだ、ここは……」
正秀が驚くのも無理はない。
部屋の中には、人が入れるほどのカプセルが幾つも並んでいた。
そのカプセルは、上半分がガラスのような透明なモノで出来ている。
中が透けて見えるのだ。
周りにはそれを制御する為だろうか?
インストルメントパネルのようなモノも見受けられる。
「ここが生命の儀式の祭壇ですわ。準備はよろしっくて? タメツグ、マサヒデ」
「ちょ、ちょっと待ってくれターナ。ここはいったい……」
「大丈夫なのかコレは……」
「何も心配ありませんわ」
「しかし、これは……」
そんな正秀の不安を遮ったのは為次だった。
「うぉー! スゲー! 何コレ、はいはい、俺が先ね。ヒャッハー」
「お、おい、為次」
「悪いねマサ、俺が先に受けるよ」
「為次……」
「ご安心下さい、お二人とも同時に加護は受けれますわ」
「いや、俺が先だよ」
「何言ってんだよ、二人でさっさと終わらせりゃいいだろ」
スレイブは文句を言うが、それでも為次は自分が先だと言い張る。
「いやいや、二人同時なら悪いけど帰らせてもらうよ。俺が先だ」
「「「「…………」」」」
意地でも譲らない為次に皆は黙った。
「何か問題でも?」
「いえ…… では、タメツグが先に受けられるのですね」
仕方なくターナは言った。
「うん」
「ちっ、めんどくせー奴だな」
「おいっ! 為次! お前はなんで……」
「俺が先だ、文句があるならまた殴ればいいだろ」
「お前は…… くそっ」
「心配するな、何も問題ない。皆こうやって永遠の命を手に入れているんだ」
スレイブは諦めた感じで言った。
「だってさ、マサ」
「勝手にしろっ!」
「んじゃ、決まりだね」
「…………」
それ以上は何も言わない正秀は少し安心していた……
こんな得体の知れない機械に入れられて、何をされるか分かったモノではない。
せめて何が起こるのかくらいは、知っておきたいのが当然の考えである。
だが、それを知る為には前例を見るしかない。
今この目で……
だから、為次はそれを正秀に見せてやるのだ。
自分の身で……
そんな為次の行為を受け入れる正秀。
またしても仲間を頼り、安心する自分が腹立たしい。
そして、儀式が始まる……
「ではタメツグ、幾つか質問しますが、よろしくって?」
ターナは操作パネルやディスプレイらしき機械の前にで何か操作している。
「うん」
「まず初めに、年齢はどうしますの?」
「どうって?」
「肉体年齢ですわ、20歳くらいが一般的ですの」
「じゃ、20歳で」
「寿命は永遠で、よろしかったかしら?」
「寿命も設定できるんか、めんどくさいから永遠でいいかも」
「アンチウイルスは…… 自動更新でよろしいですわね?」
「よう分からんけど、うい」
「それでは最後に職業ですが、戦士か魔道士ですわ。適正を調べないとですわね」
「アレ? もう一個無かったけ?」
「気功士ですか?」
「そうそう、それそれ」
「気功士は実用的ではありませんわ」
「気功士でいいや」
その為次の言葉に慌てたのはスイであった。
「ご、ご主人様っ、ちょっと待って下さい」
「何?」
「気功士では、なんの力も得られないですぅ」
「だからいいじゃない」
「はう?」
「下手に力があると、モンスターと戦ったりするハメになるしー。色々と、めんどくさいじゃない」
「どうしようもない奴だな……」
「怠け者もいいとこね…」
スレイブとマヨーラは呆れて言った。
「酷い言われようですな」
「……分かりました! ご安心下さいご主人様! 例え、ご主人様が怠け者の役立たずの無能力者でも、スイが全力でお世話させていただきます。むっふー」
「え…… う、うん…… ありがと……」
「誰も、そこまで言ってないけどね……」
とマヨーラは言った。
「では、タメツグ。それでよろしいかしら?」
ターナは機械の前で、キーボードのようなもので先程のデータを入力している。
「おおむね良好」
「それでは、こちらの生命の揺り籠に入ってちょうだい」
1つのカプセルへと為次を案内する。
「あ、そのポッドそんな名前なんだ」
「それと、服は全て脱いでもらいますわ」
「マジすか」
「はい。私はあちらの揺り籠に入りますわ」
ターナの指す方には、1つだけ離れた所に別のカプセルがある。
それには複数並んでいる全部のカプセルから、ケーブルで接続されていた。
「為次、ほんとにいいのか?」
「うーん…… ま、なんとかなるでしょ」
「…………」
「それより、もっと気がかりなことがあるんだけど……」
「なんだ?」
「ターナも脱ぐの?」
「は?」
「えー…… タメツグ最低……」
マヨーラは変態を見るような目で為次を見ていた。
スレイブも益々呆れ顔だ。
「どうしようもない奴だな……」
為次の心配をしていた正秀も言う。
「さっさとポッドに入れよ……」
「ご主人様、スイの体ならいつでも使って下さい」
「タ・メ・ツ・グ・ッ!」
ゲシッ!
ターナは為次をカプセルに蹴り入れるのであった。
「にぎゃ」
「入ったら、さっさと脱ぎなさい!」
「は、はい……」
為次は、しぶしぶ服を脱ぐと近寄って来たスイに手渡す。
そんなスイは、主を見て嬉しそうに笑っていたのだ。
脱いだのを確認するとターナは説明をする。
「揺り籠の中は生命の水で浸されますわ。でも、決して慌てずに落ち着いて水に身を任せてちょうだい」
「うい」
ターナは操作パネルで何かのボタンを押しまくり始めた。
為次がカプセルの中で仰向けになると、透明な蓋が自動で閉まる。
そして、カプセルの中が水で浸され始めるのだ。
「ちょ、この水、何処まで入って来るの」
「揺り籠の中は完全に水で浸されますわ。だけど心配しないで普通にしてい居てちょうだい」
「うっそ、溺れるって…… うっぼぼぼぉ……」
「お、おい、本当に大丈夫なのか!」
これには正秀も焦った。
カプセルの中は、完全に生命の水に浸かってしまった。
為次は苦しそうに、もがいている……
うぉぉぉ…… 死ぬる……
と水中で喋れなくなった為次は思った。
息を止めていたが流石に限界がある。
肺に残った空気を、全て吐き出してしまった。
「うぼぼぼぉ」
息ができない苦しさに、透明な蓋を必死に内側から叩く。
しかし……
と、思ったけど大丈夫だわ、液体呼吸かよ…… 変な気分。
為次が思ったように、なんと水の中で呼吸ができたのだ。
ようやく落ち着きを取り戻す。
液体の向こうには心配そうにしている正秀が見える。
液体呼吸に慣れてきたので、親指を立てグッジョブしてみた。
「呼吸できるのか?」
正秀は訊くとターナが教えてくれる。
「そうですわ、だから心配いりませんの」
「そ、そうか……」
「それでは私も行ってまいりますわ」
「がんばってね~」
マヨーラは手を振りながら送り出す。
そして、ターナも裸体になると、1つ離れたカプセルへと入って行く。
すげぇ…… 為次が見たがるはずだぜ。
そう思いながら正秀はゴクリと生唾を飲み込むのだ。
「マサヒデ、あまり見られると恥ずかしいですわ」
「す、す、すんません!」
気まずそうに、慌てて横を向く。
「よろしくってよ、ふふっ。私とタメツグのカプセルが開けば儀式は終わりですわ」
「お、おう」
「それまで、待っていてちょうだい」
「分かった……」
ターナのカプセルも蓋が閉まると、生命の水で浸されて行く。
残された者は、しばらくの間は何もすることがない。
只、待つだけなのだ……
上級国民区画へ上がる時に、階段の手前に居る2人の兵士。
今回は「ターナ様にあまり近づくなよ、変態」と為次に言うだけであった。
ターナが一緒であったからであろう、すんなり通してもらえたのだ。
神殿はターナが言ったように上級国民区画の中央にあった。
ガザ府邸より、更に奥へと行った場所だ。
着いた頃には、為次一人ヘロヘロになっていた。
「はぁ、はぁ…… 疲れた…… もうだめぽ」
「ほんと、だらしないわねぇ」
為次を横目で見ながらマヨーラは言った。
「マヨーラもスイも華奢なくせして体力有り過ぎるでしょ。ターナは脂肪タップリで気持ちいいけど」
それを聞いたターナは笑顔で為次を睨む。
「何か言いまして? タ・メ・ツ・グ」
「あ、いやいや、なんでもありません…… ありませんです、はい……」
「また、殴られるぞ」
正秀がツッこむと、為次は慌てて話をそらそうとする。
「……えっと、そのなんだ、うわーすごいしんでんだー」
「何、わざとらしこと言ってんだよ…… とは言え、確かに豪華な造りの神殿だな」
二人の言うように、神殿はとても豪華な造りだ。
天井も高く様々な装飾も施してある。
中央には巨大な円柱状の柱があり、正面にはきらびやかな祭壇があった。
「ほんと、何時来ても素敵なとこねー」
マヨーラは周囲を見渡し感動していた。
「正に加護を受けるに、相応しいって感じだぜ」
正秀の言う通りかも知れない。
それほどに美しい神殿なのだ。
「加護の儀式は別の部屋で行ないますわ、どうぞこちらへ」
ターナは皆を中央の柱へと案内する。
「別の部屋? もっと凄い部屋なんだねー」
「ああ、そうだろうな、多分」
為次と正秀は更に期待が膨らむ。
案内された柱には横開きの扉らしきモノがある。
しかし、その扉にはドアノブも手を掛けるとこも無いのだ。
ターナは横にあるスイッチらしきモノに触れる。
プシュー
すると、エアー音を伴いながら扉が自動で開いた。
自動ドアは2枚重になっており、それが中央から同時にスライドして開くのだ。
扉の先は狭くて四角い部屋だ。
壁も真っ白であり、豪華な神殿には似合わない味気ない場所であった。
「お、自動ドア。マジカルドアですな」
「どうぞ、お入り下さい」
ターナに連られ、ゾロゾロと狭い部屋に入る。
6人も入ると窮屈になるくらい狭い。
「こんな狭いとこでやるのか?」
正秀の疑問にスレイブは答える。
「ここは儀式の場に行ける、神の箱だぜ」
「神の箱?」
神の箱の内側には、扉の横に縦12個のボタンが2列になって並んでいた。
それぞれのボタンに数字が振ってある。
それとは別に『開』『閉』と書かれた2個のボタンもあった。
その文字も数字も二人の元居た世界はもちろん、この世界の文字とも違っていた。
しかし、正秀と為次には、その文字が読めるのだ。
「なんだ、エレベーターあるじゃん」
上級国民区画への長い階段を思い出しながら為次は言った。
「えれべいたぁ?」
聞かない言葉にマヨーラは訊き直した。
「上がったり下がったりする乗り物だよ」
「何言ってんのよタメツグ、ここは神様の傍へと誘ってくれるありがたい部屋なのよ」
「マヨマヨは何言ってんの? それより何階っすか?」
「3ですわ」
ターナの放った言葉は、マヨーラとスイには分からない。
為次は『3』を押すと、自動ドアが閉まり神の箱が動き出す。
神殿は建物の中間辺りだったらしく、『12』の位置のボタンが光っている。
その光が、1つづつ少ない数字へと移り変わっていく。
ウィィィィィン……
神の箱が動き出すと、微かな機械音だけが聴こえる。
狭い密室では何故か皆、静かになるものなのだ。
そして、『3』が光ると自動ドアが開く……
開いた扉の先は通路だった。
またしても味気のない、白い壁の通路が続いている。
「どうぞ、こちらですわ」
ターナは皆を誘導して通路を進んでいく。
所々には隔壁と思われるような箇所も通路には設置してある。
途中には幾つか部屋への扉があった。
扉にはプレートが貼り付けてある。
メディカルルーム……
為次は声に出さず読んでみた。
他にも『増殖プラント』『ラボラトリー』などと書かれた部屋が見受けられる。
やはりそのプレートの文字も、この世界のものとは違っていた。
しかし、正秀と為次にはその文字が読めるのだ。
そのような部屋への扉の内、1つの扉の前でターナは止まった。
「こちらですわ」
そう言いながら、扉の横のボタンに触れる。
プシュー
自動ドアが開いた。
扉のプレートには『生態ナノマシン制御室』と書かれている。
「なんだ、ここは……」
正秀が驚くのも無理はない。
部屋の中には、人が入れるほどのカプセルが幾つも並んでいた。
そのカプセルは、上半分がガラスのような透明なモノで出来ている。
中が透けて見えるのだ。
周りにはそれを制御する為だろうか?
インストルメントパネルのようなモノも見受けられる。
「ここが生命の儀式の祭壇ですわ。準備はよろしっくて? タメツグ、マサヒデ」
「ちょ、ちょっと待ってくれターナ。ここはいったい……」
「大丈夫なのかコレは……」
「何も心配ありませんわ」
「しかし、これは……」
そんな正秀の不安を遮ったのは為次だった。
「うぉー! スゲー! 何コレ、はいはい、俺が先ね。ヒャッハー」
「お、おい、為次」
「悪いねマサ、俺が先に受けるよ」
「為次……」
「ご安心下さい、お二人とも同時に加護は受けれますわ」
「いや、俺が先だよ」
「何言ってんだよ、二人でさっさと終わらせりゃいいだろ」
スレイブは文句を言うが、それでも為次は自分が先だと言い張る。
「いやいや、二人同時なら悪いけど帰らせてもらうよ。俺が先だ」
「「「「…………」」」」
意地でも譲らない為次に皆は黙った。
「何か問題でも?」
「いえ…… では、タメツグが先に受けられるのですね」
仕方なくターナは言った。
「うん」
「ちっ、めんどくせー奴だな」
「おいっ! 為次! お前はなんで……」
「俺が先だ、文句があるならまた殴ればいいだろ」
「お前は…… くそっ」
「心配するな、何も問題ない。皆こうやって永遠の命を手に入れているんだ」
スレイブは諦めた感じで言った。
「だってさ、マサ」
「勝手にしろっ!」
「んじゃ、決まりだね」
「…………」
それ以上は何も言わない正秀は少し安心していた……
こんな得体の知れない機械に入れられて、何をされるか分かったモノではない。
せめて何が起こるのかくらいは、知っておきたいのが当然の考えである。
だが、それを知る為には前例を見るしかない。
今この目で……
だから、為次はそれを正秀に見せてやるのだ。
自分の身で……
そんな為次の行為を受け入れる正秀。
またしても仲間を頼り、安心する自分が腹立たしい。
そして、儀式が始まる……
「ではタメツグ、幾つか質問しますが、よろしくって?」
ターナは操作パネルやディスプレイらしき機械の前にで何か操作している。
「うん」
「まず初めに、年齢はどうしますの?」
「どうって?」
「肉体年齢ですわ、20歳くらいが一般的ですの」
「じゃ、20歳で」
「寿命は永遠で、よろしかったかしら?」
「寿命も設定できるんか、めんどくさいから永遠でいいかも」
「アンチウイルスは…… 自動更新でよろしいですわね?」
「よう分からんけど、うい」
「それでは最後に職業ですが、戦士か魔道士ですわ。適正を調べないとですわね」
「アレ? もう一個無かったけ?」
「気功士ですか?」
「そうそう、それそれ」
「気功士は実用的ではありませんわ」
「気功士でいいや」
その為次の言葉に慌てたのはスイであった。
「ご、ご主人様っ、ちょっと待って下さい」
「何?」
「気功士では、なんの力も得られないですぅ」
「だからいいじゃない」
「はう?」
「下手に力があると、モンスターと戦ったりするハメになるしー。色々と、めんどくさいじゃない」
「どうしようもない奴だな……」
「怠け者もいいとこね…」
スレイブとマヨーラは呆れて言った。
「酷い言われようですな」
「……分かりました! ご安心下さいご主人様! 例え、ご主人様が怠け者の役立たずの無能力者でも、スイが全力でお世話させていただきます。むっふー」
「え…… う、うん…… ありがと……」
「誰も、そこまで言ってないけどね……」
とマヨーラは言った。
「では、タメツグ。それでよろしいかしら?」
ターナは機械の前で、キーボードのようなもので先程のデータを入力している。
「おおむね良好」
「それでは、こちらの生命の揺り籠に入ってちょうだい」
1つのカプセルへと為次を案内する。
「あ、そのポッドそんな名前なんだ」
「それと、服は全て脱いでもらいますわ」
「マジすか」
「はい。私はあちらの揺り籠に入りますわ」
ターナの指す方には、1つだけ離れた所に別のカプセルがある。
それには複数並んでいる全部のカプセルから、ケーブルで接続されていた。
「為次、ほんとにいいのか?」
「うーん…… ま、なんとかなるでしょ」
「…………」
「それより、もっと気がかりなことがあるんだけど……」
「なんだ?」
「ターナも脱ぐの?」
「は?」
「えー…… タメツグ最低……」
マヨーラは変態を見るような目で為次を見ていた。
スレイブも益々呆れ顔だ。
「どうしようもない奴だな……」
為次の心配をしていた正秀も言う。
「さっさとポッドに入れよ……」
「ご主人様、スイの体ならいつでも使って下さい」
「タ・メ・ツ・グ・ッ!」
ゲシッ!
ターナは為次をカプセルに蹴り入れるのであった。
「にぎゃ」
「入ったら、さっさと脱ぎなさい!」
「は、はい……」
為次は、しぶしぶ服を脱ぐと近寄って来たスイに手渡す。
そんなスイは、主を見て嬉しそうに笑っていたのだ。
脱いだのを確認するとターナは説明をする。
「揺り籠の中は生命の水で浸されますわ。でも、決して慌てずに落ち着いて水に身を任せてちょうだい」
「うい」
ターナは操作パネルで何かのボタンを押しまくり始めた。
為次がカプセルの中で仰向けになると、透明な蓋が自動で閉まる。
そして、カプセルの中が水で浸され始めるのだ。
「ちょ、この水、何処まで入って来るの」
「揺り籠の中は完全に水で浸されますわ。だけど心配しないで普通にしてい居てちょうだい」
「うっそ、溺れるって…… うっぼぼぼぉ……」
「お、おい、本当に大丈夫なのか!」
これには正秀も焦った。
カプセルの中は、完全に生命の水に浸かってしまった。
為次は苦しそうに、もがいている……
うぉぉぉ…… 死ぬる……
と水中で喋れなくなった為次は思った。
息を止めていたが流石に限界がある。
肺に残った空気を、全て吐き出してしまった。
「うぼぼぼぉ」
息ができない苦しさに、透明な蓋を必死に内側から叩く。
しかし……
と、思ったけど大丈夫だわ、液体呼吸かよ…… 変な気分。
為次が思ったように、なんと水の中で呼吸ができたのだ。
ようやく落ち着きを取り戻す。
液体の向こうには心配そうにしている正秀が見える。
液体呼吸に慣れてきたので、親指を立てグッジョブしてみた。
「呼吸できるのか?」
正秀は訊くとターナが教えてくれる。
「そうですわ、だから心配いりませんの」
「そ、そうか……」
「それでは私も行ってまいりますわ」
「がんばってね~」
マヨーラは手を振りながら送り出す。
そして、ターナも裸体になると、1つ離れたカプセルへと入って行く。
すげぇ…… 為次が見たがるはずだぜ。
そう思いながら正秀はゴクリと生唾を飲み込むのだ。
「マサヒデ、あまり見られると恥ずかしいですわ」
「す、す、すんません!」
気まずそうに、慌てて横を向く。
「よろしくってよ、ふふっ。私とタメツグのカプセルが開けば儀式は終わりですわ」
「お、おう」
「それまで、待っていてちょうだい」
「分かった……」
ターナのカプセルも蓋が閉まると、生命の水で浸されて行く。
残された者は、しばらくの間は何もすることがない。
只、待つだけなのだ……
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相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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