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異世界編 1章
第32話 手記その2
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ガザフから貰った手記を読み終わった。
皆は、取り敢えずご飯を食べるのです。
内容は、この世界での出来事らしきことが書いてあった。
だけど今すぐどうこしようと言う分けでもない。
なので、ご飯を食べながら相談することにしたのだ。
スイはさっきの続きがしたいのか、ひたすら為次に擦り寄っている。
ちょっと鬱陶しい感じもするが、機嫌も良くなったようだ。
何より可愛いので為次的にはOKであった。
「どう思う? この手記」
正秀はバサリと手記を大剣の上に投げながら言った。
「うーん、ガザフも嘘を言っているとは思えないしねぇ。このお手紙も本当かも知れないけど、妄想って可能性もあるかも」
「確かにな」
「とは言え、ターナがマザーナノマシンの保有者ってのが事実なら、今日俺達が受けた加護の儀式も納得できるし」
それを聞いた正秀は、生命の儀式の際に、ターナだけ1つ離れたカプセルに入っていたのを思い出した。
「そうだな、あのポッドの配置からしても辻褄が合うな」
「それにマインドジェネレーターってやつ。ナノマシンで不老不死になれる副作用が糖質患者ってなら、これだけの技術を持ってた文明だし、当然その対策でもおかしくないよね」
「ああ、おかしくは無いが、糖質言うな。だけど、俺達は実際にバーサーカーを見た分けじゃない」
「スイは見たこと、ありますよぉ」
「そうなのか? どこで見たんだスイちゃん?」
「闘技場です、たまに闘わさせられましたぁ」
「そ、そうか…… 大変だったなスイちゃん」
「ガオーって、狂ったように襲って来るので大変でしたです」
「そりゃ、ほんと大変だな」
「ですぅ」
「まあ、それに関しても王宮に行ってみれば分かるでしょ」
為次は言った。
「簡単に入れるかはともかく、やろうと思えば確認はできるな」
「うん。後は、雪山の残骸かなー」
「手記を書いたガザフが、次元を裂く装置とやらを拾って来たとこか」
「その装置も気になるし、行ってみれば他にも何か見つかるかもね」
「なるほどな。じゃあこれからの予定は、王宮に行くか、雪山に行くかのどっちか? か?」
「うーん。それか、ターナに魔獣作りのことを直接聞くか、ガザフに拾った装置見せてもらうとか」
「流石にターナに直接聞くのはどうかと思うが、装置は見てみたいな。もしかしたら帰れるかもしれないぜ」
「確かに、帰れればいいけど」
「望みは薄いな」
「うん」
「しかし、ターナが博士ってのも驚きだな」
「しかも、子供まで作ってたとか……」
「ご主人様も子供が欲しいのでしたら、私がんばりますよっ」
「頑張らなくて、いいよ…… スイ」
「息吹の加護を受けれたら、ポンポン産みたいですぅ」
「い、いや…… ぽんぽんはいいから……」
「えー」
「えー。じゃなくて、卵かなんかと勘違いしてるんじゃぁ……」
「ご主人様のなら卵でもいいですよ、頑張って産卵しますー」
「しなくていいから……」
「スイちゃん……」
「んー」
構ってもらえないスイは、為次に抱きついて来た。
「もー、スイは…… しょうがないなー」
そう言いながらも、為次はスイを抱き寄せると頭を撫でてやるのだ。
「えへへへぇー」
スイは、すっかりご機嫌だ。
すると、ガザフの手記を一枚手にする。
それは1行しか書いてない3枚目の手記であった。
「ご主人様、これを頂いてもよろしいですか?」
「え? それが欲しいの? 別にいいけど」
「ありがとうございますぅ」
「変なもの欲しがるんだな、スイちゃん」
「あー、うん。そうね」
適当な返事をする為次は、よしよしとスイを撫で回すのであった。
「お前ら仲直りしたのはいいけど、そう言うのは夜にした方が……」
「ちょ、ちょ、何言ってんのマサっ」
「何って、スイちゃん子供が欲しいって言ってるだろ?」
「んー、ご主人様ぁ」
「はぁっ!? な、な、な、何を……」
「なーに照れてんだよ」
「違っ、こ、これは、その、アレだ」
「まあ、アレでもコレでもいいけどよ。それよか、どうすんだ?」
「は? どうって?」
「子供の名前とか国籍だよっ」
「はぁっ!? 意味わかんないっ! いや、マジで何言ってんの!」
「うひゃひゃ、お前こそマジになるなよ。ジョーダンに決まってるだろ。はははっ」
「なっ、うぐぅ……」
「スイは本気でも問題ありませんよぉ」
「あるよっ、大ありだよ」
「うあっはっは。ほんと為次からかうと面白れーな」
「ぐぬぬぬ」
そんな下らない相談をしていた時であった。
ドン ドン ドン
「ん? なんだ?」
玄関の方から聞こえてくる音に振り向きながら正秀は言った。
どうやら、誰かが扉を叩いているらしい。
ドン ドン ドン
結構、しつこく叩いている……
玄関に行くのが面倒臭そうに為次は言う。
「誰か来たみたいだねー」
「どなたでしょうか? ちょっと見て来ますね」
様子を見にスイは玄関の方へと向かった。
「はーい、今行きますよぉ」
扉を開けると、そこにはスイと同じような服装をした少女が立っている。
マヨーラだった。
「早く出なさいよっ」
「あ、マヨマヨ様。こんにちはです」
「マヨーラよっ、名前くらい覚えなさい」
「はぁい」
「まったく……」
「ご主人様っ、マヨマヨ様がお見えですよっ」
と、ロビーに向かって叫ぶスイ。
「…………」
それを聞いた為次と正秀は手記をしまい、玄関にやって来た。
「よう、マヨーラどうした?」
「なんだマヨか」
「マヨって……」
「なんか用?」
為次は訊いた。
「別に用って分けじゃないけど、たまたま、近くを通りかかっただけよ」
「たまたまって、この周り何も無いよ」
「う、うるさいわねっ、なんだっていいでしょ!」
「ああ、1人ボッチでつまんないから遊びに来たのか」
「誰が一人ボッチよ、失礼ねまったく」
「まあ、いいじゃないか、とりあえず入れよ」
「そうさせてもらうわ……」
「いらっしゃいませ、マヨマヨ様」
「…………」
マヨーラを招き入れ、4人はロビーへと入って行った。
ロビーに戻ると、皆はソファーに座り遅い昼食の続きを食べるのであった。
「もう、晩御飯を食べてるの?」
「違うぜ、昼飯だ」
「え? ガザフのとこで食べたんじゃなかったの?」
「血まみれになって食えなかった」
為次は言った。
「ええ!? 何それ…… 何があったのよ……」
「まあ、ちょっと色々とな……」
「ガザフの腕を千切ったら血がいっぱい出てきたの」
「ええ!? いったいあんた何してんのよ……」
「お、おい、為次……」
「あまり訊かない方がいいみたいね……」
「すまない…… そうしてくれ」
「んで、マヨは偵察に来たの?」
「は? 何よ偵察って?」
「違うんだ」
「当たり前でしょ。それよりコレを持ってきてあげたわよ」
袋から大きなビンを2本出すとテーブルの上の大剣の上に置いた。
「なんだこれは?」
「お酒よマサヒデ。日本酒って言うの。あなた達、お酒が好きだと思って」
「へー、気が利くな」
「マジで日本酒なの?」
為次は酒瓶の首を掴むと貼ってあるラベルを見ながら訊いた。
「そうよ」
「スイ、コップ持ってきてよ」
「はぁい」
返事をするとグラスを取りに行くスイ。
「ねぇ、マヨ」
「何よ」
「これ読めるの?」
ビンに貼ってあるラベルを指しながら訊くのだ。
そこには漢字で『銘酒 権三郎』と書いてあった。
「えっと…… ちょっと読めないわね。お酒の名前だと思うけど、レシピを考えた人がこんな記号の品名にしたみたいね」
「記号ね……」
そこへ、スイはグラスを4つ持って戻って来た。
「どうぞ、ご主人様」
「ありがとう、スイ」
「じゃあ早速頂くとするか」
「うん」
スイはグラスに日本酒を注ぐ。
その香りは日本酒そのものであった。
正秀はグラスに注がれた日本酒を呑んでみる。
「旨そうだな」
ゴク ゴク ゴク
「おお! これは旨い、最高だぜ!」
「マジで!?」
他の3人も呑んでみる。
「ほんとだマジ日本酒、旨い」
「苦いですぅ。うぇ……」
「子供にはまだ早いわね」
「スイは子供ではありません」
ちょっとムキになったスイは。グラスにたっぷり注がれた日本酒を一気に飲み乾す。
ゴク ゴク ゴク ゴク ゴク
「あ、ちょ、スイ……」
為次は止めようとするが遅かった。
凄まじい呑みっぷりに、皆は驚いてスイを見るしかない。
「「「…………」」」
「お、美味しいのれす、うぇ……」
「大丈夫なの?」
「さあ? まあいいか」
「いいのかよ」
「それより、マヨは俺達にこれ持って来る為にわざわざ?」
「そうよ、悪い? 今日はたまたま一緒に呑みに行く人が居なかっただけよ」
「へー、いつもは誰と?」
「そ、それは…… ターナやスレイブや……」
「あの2人、今日はお祈りとか言ってたからな」
「なるへそ、他に相手が居ないのか」
「うるさいわねっ、どうだっていいでしょっ!」
「おい、あんまり女の子にそんなこと言うものじゃないぜ。為次」
「そうよ、そうよ、さすがマサヒデね誰かさんとは大違っ ガハァッ!!」
話している途中だった……
突然スイがマヨーラに後ろから抱きついて来た。
「マニョマニョしゃみゃ~、うにゃー」
どうやら酔っているらしい。
スイは他の魔道士と違い、力や身体能力も高い。
力いっぱい抱きつかれたマヨーラの体がミシミシ鳴っている。
しかも、肌の露出した部分を舐め回しているのだ。
「痛だだだぁ、だずげでー」
「まにょー、ぺちゃぺちゃ、まにょ、ペロペロ」」
「ぎぃぁぁぁぁぁ! ほ、骨がぁ!」
「「すげぇ……」」
野郎二人は抱き合い、舐めまくる2人の魔法少女にちょっと興奮ぎみだ。
もっとも、スイが一方的に抱きついているが。
「うっ、げはぁっ、痛がががぁぁぁ、う、うえぇ…… なんどがじでぇ、ほ、ほんどに、でちゃう……」
「なんか、マヨヤバくね?」
「おう、止めた方が、いいんじゃないのか?」
「でも、スイ楽しそうだし」
「確かにな」
「ふざ、け……だごと、うげぇ…… たずげで。あああああ、うげぇぇぇ。も、もうダメ…… ぎゃぁぁぁ!!」
それは、断末魔にも聞こえた……
とうとう、マヨーラはなんだかよく分からないモノを吐き出してしまう。
「うげぇぇぇ、ぶっはー。うげぇぇぇぇぇ!」
「まにょ~」
吐き出された、その嘔吐物はまるで噴水のように噴き出す。
黄土色に赤の混じった謎の液体である。
人々がそれを目の当たりにすれば、ビックリ噴水人間と思うことは間違いなしだ。
凄いぞマヨーラ!
「う…… あ、あ……」
「ZZZzzz…… うぇ……」
白目を剥いてうなだれるマヨーラに、スイは寝ゲロをしながら抱きついている。
「「…………」」
二人は呆然と見ていた。
為次は動かなくなったマヨーラを覗き込んでみる。
「惜しい人を亡くしました。はい」
「し、死んでないわよ…… ガックリ」
そして、ロビーには静寂と異臭とスイのイビキが漂う。
誰しもが思うだろう、こんな所には居たくない。
直ぐにでも立ち去りたい。
と。
だから、行く当てのない為次と正秀は、ただ立ち尽くすのであった……
……………
………
…
その後、為次はコイツらには触りたくないとレオパルト2に引き籠ってしまった。
正秀は仕方なく、寝ているスイを何故か為次のベッドに運んだ。
マヨーラはスイのベッドに運ぼうとしたが、背骨が折れているのか?
粗相をしていたので、あまり汚れていない部分のソファーに横にして置いといたのだ。
取り敢えずの処理が終わったつもりの正秀。
ロビーの汚染は、そのままに為次の元へと向かった。
「おい、為次」
「んあ?」
運転手ハッチから顔を半分覗かせた為次は、適当な返事をする。
「今日はキャンプだぜ」
「そうだね、それがいい」
異世界に来てから6日目……
二人は久しぶりのキャンプで夜を過ごすのだ。
借家の庭で……
そこから見える別荘は2階の窓がぶっ壊れたままであった。
そんな嫌な風景を見ながら為次は言う。
「ゲロ吐いてないのスレイブだけだね」
正秀は思う。
そんなことは、どうでもいい。
……と。
皆は、取り敢えずご飯を食べるのです。
内容は、この世界での出来事らしきことが書いてあった。
だけど今すぐどうこしようと言う分けでもない。
なので、ご飯を食べながら相談することにしたのだ。
スイはさっきの続きがしたいのか、ひたすら為次に擦り寄っている。
ちょっと鬱陶しい感じもするが、機嫌も良くなったようだ。
何より可愛いので為次的にはOKであった。
「どう思う? この手記」
正秀はバサリと手記を大剣の上に投げながら言った。
「うーん、ガザフも嘘を言っているとは思えないしねぇ。このお手紙も本当かも知れないけど、妄想って可能性もあるかも」
「確かにな」
「とは言え、ターナがマザーナノマシンの保有者ってのが事実なら、今日俺達が受けた加護の儀式も納得できるし」
それを聞いた正秀は、生命の儀式の際に、ターナだけ1つ離れたカプセルに入っていたのを思い出した。
「そうだな、あのポッドの配置からしても辻褄が合うな」
「それにマインドジェネレーターってやつ。ナノマシンで不老不死になれる副作用が糖質患者ってなら、これだけの技術を持ってた文明だし、当然その対策でもおかしくないよね」
「ああ、おかしくは無いが、糖質言うな。だけど、俺達は実際にバーサーカーを見た分けじゃない」
「スイは見たこと、ありますよぉ」
「そうなのか? どこで見たんだスイちゃん?」
「闘技場です、たまに闘わさせられましたぁ」
「そ、そうか…… 大変だったなスイちゃん」
「ガオーって、狂ったように襲って来るので大変でしたです」
「そりゃ、ほんと大変だな」
「ですぅ」
「まあ、それに関しても王宮に行ってみれば分かるでしょ」
為次は言った。
「簡単に入れるかはともかく、やろうと思えば確認はできるな」
「うん。後は、雪山の残骸かなー」
「手記を書いたガザフが、次元を裂く装置とやらを拾って来たとこか」
「その装置も気になるし、行ってみれば他にも何か見つかるかもね」
「なるほどな。じゃあこれからの予定は、王宮に行くか、雪山に行くかのどっちか? か?」
「うーん。それか、ターナに魔獣作りのことを直接聞くか、ガザフに拾った装置見せてもらうとか」
「流石にターナに直接聞くのはどうかと思うが、装置は見てみたいな。もしかしたら帰れるかもしれないぜ」
「確かに、帰れればいいけど」
「望みは薄いな」
「うん」
「しかし、ターナが博士ってのも驚きだな」
「しかも、子供まで作ってたとか……」
「ご主人様も子供が欲しいのでしたら、私がんばりますよっ」
「頑張らなくて、いいよ…… スイ」
「息吹の加護を受けれたら、ポンポン産みたいですぅ」
「い、いや…… ぽんぽんはいいから……」
「えー」
「えー。じゃなくて、卵かなんかと勘違いしてるんじゃぁ……」
「ご主人様のなら卵でもいいですよ、頑張って産卵しますー」
「しなくていいから……」
「スイちゃん……」
「んー」
構ってもらえないスイは、為次に抱きついて来た。
「もー、スイは…… しょうがないなー」
そう言いながらも、為次はスイを抱き寄せると頭を撫でてやるのだ。
「えへへへぇー」
スイは、すっかりご機嫌だ。
すると、ガザフの手記を一枚手にする。
それは1行しか書いてない3枚目の手記であった。
「ご主人様、これを頂いてもよろしいですか?」
「え? それが欲しいの? 別にいいけど」
「ありがとうございますぅ」
「変なもの欲しがるんだな、スイちゃん」
「あー、うん。そうね」
適当な返事をする為次は、よしよしとスイを撫で回すのであった。
「お前ら仲直りしたのはいいけど、そう言うのは夜にした方が……」
「ちょ、ちょ、何言ってんのマサっ」
「何って、スイちゃん子供が欲しいって言ってるだろ?」
「んー、ご主人様ぁ」
「はぁっ!? な、な、な、何を……」
「なーに照れてんだよ」
「違っ、こ、これは、その、アレだ」
「まあ、アレでもコレでもいいけどよ。それよか、どうすんだ?」
「は? どうって?」
「子供の名前とか国籍だよっ」
「はぁっ!? 意味わかんないっ! いや、マジで何言ってんの!」
「うひゃひゃ、お前こそマジになるなよ。ジョーダンに決まってるだろ。はははっ」
「なっ、うぐぅ……」
「スイは本気でも問題ありませんよぉ」
「あるよっ、大ありだよ」
「うあっはっは。ほんと為次からかうと面白れーな」
「ぐぬぬぬ」
そんな下らない相談をしていた時であった。
ドン ドン ドン
「ん? なんだ?」
玄関の方から聞こえてくる音に振り向きながら正秀は言った。
どうやら、誰かが扉を叩いているらしい。
ドン ドン ドン
結構、しつこく叩いている……
玄関に行くのが面倒臭そうに為次は言う。
「誰か来たみたいだねー」
「どなたでしょうか? ちょっと見て来ますね」
様子を見にスイは玄関の方へと向かった。
「はーい、今行きますよぉ」
扉を開けると、そこにはスイと同じような服装をした少女が立っている。
マヨーラだった。
「早く出なさいよっ」
「あ、マヨマヨ様。こんにちはです」
「マヨーラよっ、名前くらい覚えなさい」
「はぁい」
「まったく……」
「ご主人様っ、マヨマヨ様がお見えですよっ」
と、ロビーに向かって叫ぶスイ。
「…………」
それを聞いた為次と正秀は手記をしまい、玄関にやって来た。
「よう、マヨーラどうした?」
「なんだマヨか」
「マヨって……」
「なんか用?」
為次は訊いた。
「別に用って分けじゃないけど、たまたま、近くを通りかかっただけよ」
「たまたまって、この周り何も無いよ」
「う、うるさいわねっ、なんだっていいでしょ!」
「ああ、1人ボッチでつまんないから遊びに来たのか」
「誰が一人ボッチよ、失礼ねまったく」
「まあ、いいじゃないか、とりあえず入れよ」
「そうさせてもらうわ……」
「いらっしゃいませ、マヨマヨ様」
「…………」
マヨーラを招き入れ、4人はロビーへと入って行った。
ロビーに戻ると、皆はソファーに座り遅い昼食の続きを食べるのであった。
「もう、晩御飯を食べてるの?」
「違うぜ、昼飯だ」
「え? ガザフのとこで食べたんじゃなかったの?」
「血まみれになって食えなかった」
為次は言った。
「ええ!? 何それ…… 何があったのよ……」
「まあ、ちょっと色々とな……」
「ガザフの腕を千切ったら血がいっぱい出てきたの」
「ええ!? いったいあんた何してんのよ……」
「お、おい、為次……」
「あまり訊かない方がいいみたいね……」
「すまない…… そうしてくれ」
「んで、マヨは偵察に来たの?」
「は? 何よ偵察って?」
「違うんだ」
「当たり前でしょ。それよりコレを持ってきてあげたわよ」
袋から大きなビンを2本出すとテーブルの上の大剣の上に置いた。
「なんだこれは?」
「お酒よマサヒデ。日本酒って言うの。あなた達、お酒が好きだと思って」
「へー、気が利くな」
「マジで日本酒なの?」
為次は酒瓶の首を掴むと貼ってあるラベルを見ながら訊いた。
「そうよ」
「スイ、コップ持ってきてよ」
「はぁい」
返事をするとグラスを取りに行くスイ。
「ねぇ、マヨ」
「何よ」
「これ読めるの?」
ビンに貼ってあるラベルを指しながら訊くのだ。
そこには漢字で『銘酒 権三郎』と書いてあった。
「えっと…… ちょっと読めないわね。お酒の名前だと思うけど、レシピを考えた人がこんな記号の品名にしたみたいね」
「記号ね……」
そこへ、スイはグラスを4つ持って戻って来た。
「どうぞ、ご主人様」
「ありがとう、スイ」
「じゃあ早速頂くとするか」
「うん」
スイはグラスに日本酒を注ぐ。
その香りは日本酒そのものであった。
正秀はグラスに注がれた日本酒を呑んでみる。
「旨そうだな」
ゴク ゴク ゴク
「おお! これは旨い、最高だぜ!」
「マジで!?」
他の3人も呑んでみる。
「ほんとだマジ日本酒、旨い」
「苦いですぅ。うぇ……」
「子供にはまだ早いわね」
「スイは子供ではありません」
ちょっとムキになったスイは。グラスにたっぷり注がれた日本酒を一気に飲み乾す。
ゴク ゴク ゴク ゴク ゴク
「あ、ちょ、スイ……」
為次は止めようとするが遅かった。
凄まじい呑みっぷりに、皆は驚いてスイを見るしかない。
「「「…………」」」
「お、美味しいのれす、うぇ……」
「大丈夫なの?」
「さあ? まあいいか」
「いいのかよ」
「それより、マヨは俺達にこれ持って来る為にわざわざ?」
「そうよ、悪い? 今日はたまたま一緒に呑みに行く人が居なかっただけよ」
「へー、いつもは誰と?」
「そ、それは…… ターナやスレイブや……」
「あの2人、今日はお祈りとか言ってたからな」
「なるへそ、他に相手が居ないのか」
「うるさいわねっ、どうだっていいでしょっ!」
「おい、あんまり女の子にそんなこと言うものじゃないぜ。為次」
「そうよ、そうよ、さすがマサヒデね誰かさんとは大違っ ガハァッ!!」
話している途中だった……
突然スイがマヨーラに後ろから抱きついて来た。
「マニョマニョしゃみゃ~、うにゃー」
どうやら酔っているらしい。
スイは他の魔道士と違い、力や身体能力も高い。
力いっぱい抱きつかれたマヨーラの体がミシミシ鳴っている。
しかも、肌の露出した部分を舐め回しているのだ。
「痛だだだぁ、だずげでー」
「まにょー、ぺちゃぺちゃ、まにょ、ペロペロ」」
「ぎぃぁぁぁぁぁ! ほ、骨がぁ!」
「「すげぇ……」」
野郎二人は抱き合い、舐めまくる2人の魔法少女にちょっと興奮ぎみだ。
もっとも、スイが一方的に抱きついているが。
「うっ、げはぁっ、痛がががぁぁぁ、う、うえぇ…… なんどがじでぇ、ほ、ほんどに、でちゃう……」
「なんか、マヨヤバくね?」
「おう、止めた方が、いいんじゃないのか?」
「でも、スイ楽しそうだし」
「確かにな」
「ふざ、け……だごと、うげぇ…… たずげで。あああああ、うげぇぇぇ。も、もうダメ…… ぎゃぁぁぁ!!」
それは、断末魔にも聞こえた……
とうとう、マヨーラはなんだかよく分からないモノを吐き出してしまう。
「うげぇぇぇ、ぶっはー。うげぇぇぇぇぇ!」
「まにょ~」
吐き出された、その嘔吐物はまるで噴水のように噴き出す。
黄土色に赤の混じった謎の液体である。
人々がそれを目の当たりにすれば、ビックリ噴水人間と思うことは間違いなしだ。
凄いぞマヨーラ!
「う…… あ、あ……」
「ZZZzzz…… うぇ……」
白目を剥いてうなだれるマヨーラに、スイは寝ゲロをしながら抱きついている。
「「…………」」
二人は呆然と見ていた。
為次は動かなくなったマヨーラを覗き込んでみる。
「惜しい人を亡くしました。はい」
「し、死んでないわよ…… ガックリ」
そして、ロビーには静寂と異臭とスイのイビキが漂う。
誰しもが思うだろう、こんな所には居たくない。
直ぐにでも立ち去りたい。
と。
だから、行く当てのない為次と正秀は、ただ立ち尽くすのであった……
……………
………
…
その後、為次はコイツらには触りたくないとレオパルト2に引き籠ってしまった。
正秀は仕方なく、寝ているスイを何故か為次のベッドに運んだ。
マヨーラはスイのベッドに運ぼうとしたが、背骨が折れているのか?
粗相をしていたので、あまり汚れていない部分のソファーに横にして置いといたのだ。
取り敢えずの処理が終わったつもりの正秀。
ロビーの汚染は、そのままに為次の元へと向かった。
「おい、為次」
「んあ?」
運転手ハッチから顔を半分覗かせた為次は、適当な返事をする。
「今日はキャンプだぜ」
「そうだね、それがいい」
異世界に来てから6日目……
二人は久しぶりのキャンプで夜を過ごすのだ。
借家の庭で……
そこから見える別荘は2階の窓がぶっ壊れたままであった。
そんな嫌な風景を見ながら為次は言う。
「ゲロ吐いてないのスレイブだけだね」
正秀は思う。
そんなことは、どうでもいい。
……と。
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そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
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