65 / 183
異世界編 1章
第58話 弁解
しおりを挟む
為次は一人黙々とご飯を食べていた。
なんだか皆の視線が急かすように感じる。
何か喋ろうものなら、また怒られるような気がするからだ。
だもんでよ。
「もぐもぐ、もぐもぐ…… もぐもぐ、もぐもぐ……」
イラ イラ イラ イラ イラ
そんな為次を見ていたマヨーラとスイは、何故かイライラしていた。
「早く食べなさいよ! ほんとイラつくわね」
「えぇ!? もぐもぐ……」
「見てるだけで鬱陶しいわ」
「ひ、ヒドイ…… 愛情を味わって食べてるだけなのに」
「そんなのダメです! スイの愛情の方が美味しいのです!」
「スイちゃん……」
「あー、オイシイナー。もぐもぐ」
「むむー!」
なんだか、スイは為次の態度にカチンときてしまった。
すると、突然キャベツ炒め定食を鷲掴みにするのだ!
「ちょ、スイ何するの!」
「ご主人様が食べやすいように、こうしてあげるのです!」
スイは食べかけのキャベツ炒め定食を全て掴むと、思いっ切り握リ始めた。
ニギ ニギ ニギ ニギ ニギ
「できました! スイの愛情を塗りたくったキャベツ炒めおにぎりなのです!」
そう言いながら、ネチョネチョに握られた、なんだか分からなくなった定食を為次に食べさせようとする。
「スイちゃん……」
「ぐむむむ…… な、何を……」
「ささ、ご主人様。これで早く食べるのです」
「いや…… これはちょっと……」
「あんたが食べないと話が進まないのよ」
「そうだぜ、それに、せっかくスイちゃんが作ってくれたんだぜ」
「くそっ、お前ら……」
「仕方ありませんわ。バインド!」
ターナは何を思ったか為次に手をかざすと、拘束の魔法をかけた。
流石のスレイブも、その突然の行動に戸惑う。
「お、おい、ターナ……」
「うがガガガが、な、なにを……… ターナ……」
そこまで強力に魔法をかけられていないので、なんとか喋れるのだが……
為次は体が痺れて動けなくなってしまった。
「さあスイ、今のうちに食べさせるのよ」
「はいです!」
スレイブはちょっと心配そうだ。
「……ターナ」
動けなくなった為次は無理矢理に口を開けさせられると、ネチョネチョしたおにぎりを押し込まれる。
「おごごごっぉぉ…… ちょ、やめ…… うごぉぉぉぁ」
「も、もう少しです。ご主人様、もう少しで奥まで……」
スイは頑張って口の中に押し込んではいるものの、どうにも咽の奥まで通らない。
次第に為次の顔が紫色になってきちゃった。
本日二度目だ。
「し、死ぬる……」
「ヤバイんじゃないのか?」
スレイブはやめさせろと言わんばかりに、正秀に向って言った。
「そんな気もするぜ」
「それなら、あたしに任せてちょうだい」
マヨーラは嬉しそうに言い放つと、為次の口に杖の頭に付いている丸い部分をあてがった。
「な、何を…… あががが」
「大丈夫よ、控えめにやるから」
「もがもが……」
「ウォーターアロー!」
呪文を唱えると、杖から水の矢が噴き出る。
放たれた水の矢は為次の口に直接撃ち込まれるのだ!
「うぼぼぼぼぼぼぼぼっぼぁぁぁぁぁ!!」
高圧洗浄機以上の水圧が、おにぎりを胃の中へと押し流して行く。
最早、味わいもクソも無い超早食いであった……
「うがごぉぉぉ……!」
こうして、為次は無事に? 食事を終えることができたのでした。
「やりました! ご主人様がスイの愛情おにぎりを食べてくれたのです」
「良かったな、スイちゃん」
「はいです。マサヒデ様」
「あたしのおかげよ、感謝しなさい」
「はいです。マヨマヨ様」
もっとも、当の為次は……
「……あうう」
お腹は水でポンポンになっていた。
拘束の魔法は解けた様子ではあるが、白目を剥きながら微妙に泡を吹いている。
「ご主人様、また起きなくなったのです」
「ライトニングで起きるんじゃないのか?」
「そうね、マサヒデの言う通りだわ。やってみましょう」
「俺が言うのもなんだが、こいつも散々だな……」
スレイブはそう言ってるが、マヨーラは構わず杖をかざす。
「ライトニ……」
「起きたー! 超起きたー!」
為次は流石にヤバイと思い慌てて目を覚ましたのだ。
「チッ」
「は? 今、舌打ちした?」
「なんのことかしら? 目が覚めて良かったわね。はぁ」
「ぬぅ」
「ご主人様が起きてくれたのです、もう二度と寝ないでくださいね」
「夜は寝るがな」
「まあ、色々あったが、とりあえず腹も膨れたようで良かったな。為次」
「殆ど水だがな」
「とにかく、そろそろ話を進めようぜ」
スレイブは言った。
「だな」
「タメツグをイジるのも飽きたしね」
「だな」
「お前ら……」
こうして、為次を虐めるのも飽きた4人は話を元に戻すことにし、スイは為次のパンパンになったお腹を満足そうに擦っているのでした。
そんな中、一人腑に落ちない為次ではあるが、お腹が苦しいので我慢するのであった。
「さてと、タメツグのせいで無駄な時間を使っちまったが、何から話すんだったけな?」
「ええ!? 俺のせいなの……」
為次を無視して正秀は話の続きをせがむ。
「スレイブと為次が戦ったとこからだぜ。早く聞かせてくれよ」
「ああ、そうだったな」
「それでは、私が続きを話させて頂きますわ」
「おう、頼むぜ。俺にも分かりやすく話してくれよ」
「ふふっ」
それからターナは、数日前に為次を襲った時のことを話してくれた。
スイを使って為次を本気で戦わせようとしたことも……
為次がスレイブの腕を切断したことも……
スレイブが怒りで為次を殺そうとしてしまったことも……
スイが禁忌魔法を発動してしまい魔獣を生み出したことも……
それを為次が一撃で倒してしまったことも……
「と、そんな感じなのですわ」
そう、あの夜の出来事を事細かに話したのであった。
それを皆は驚いた感じで静かに聞いていた。
「へー、そんなことがあったのか」
正秀は言った。
「まったく、ヒドイ目に合いました」
「まあ、為次のことはどうでもいいが、スイちゃんの禁忌魔法ってなんだ?」
「俺は、どうでもいいって……」
「ええ、それは魔獣を産み出す魔法ですわ」
「え!? あの草の化物ってスイが産んだの!?」
為次は自分が燃やした魔獣を朧げに思い出した。
「はうっ!? う、産んでませんよっ! 私はご主人様の卵しか産みません!」
「いやいやいや、意味が分からないから…… 卵って意味分かんないから」
「だって、ご主人様は前に卵を産んで欲しいって言ってましたから」
「え~タメツグ何言ってんの…… 気持ち悪いわね……」
「あらあら、タメツグったら……」
マヨーラとターナにジト目で睨まれた。
「言ってないから! 一言もそんなこと言ってないから!」
「えへへへー、ご主人様ったらぁ」
何故かスイは為次の膝の上に乗ると、嬉しそうに抱き付いた。
「と、とにかく卵はどうでもいいから、なんでスイがそんな魔法を使うのよ」
話をはぐらかす為に為次もちょっと必死だ。
「禁忌魔法のことは私たちもよく分からないのですわ。あの時、どうしてスイがあんな魔法を使えたのかも……」
「スイちゃんは何か心当たりでもないのか?」
正秀は訊いた。
「はぅ~、よく覚えていないのです」
「そうか……」
「んじゃ、それは置いといて、他にも聞きたいけど」
「何かしら? タメツグ」
「ガザフ邸での俺達のこと知ってたの?」
「建物の中でのことは知りませんわ」
「でも、腕をもいだことは知ってたよね?」
「そりゃ上級国民の腕をもぎ取ったなんて、直ぐにでも知れ渡るに決まってるだろ!」
スレイブは当然だろと言わんばかりだ。
「あ…… それもそうか……」
「むしろコッチが聞きたいくらいだぜ、お前はガザフに何をしたんだよ!」
「あ、いや…… まあ、色々とね…… あはは……」
「チッ、ほんと、いけ好かない野郎だぜ」
正秀はスレイブをなだめようとする。
「まあ、落ち着けよ」
「こいつを見ていると、イライラするんだよっ」
と、為次を指した。
「それは、あたしも同じね」
「気持ちは分かるぜ」
マヨーラと正秀も同意らしい。
「くそっ、お前ら……」
「だからって殺そうとしなくてもなぁ」
正秀言った。
「それは、悪かったとは思ってるがな」
「また負けたので悔しかったのですわ、スレイブは」
「お、おい、ターナ」
また、ということは以前にも同じことがあったのかと為次は思う。
「また?」
「前に、サダムネにも挑んで負けてますの」
「へー、そうなんだ」
「ああ、そうだそうだ。気功士って奴はほんとムカつくぜ。何が無能力者だ、マサヒデお前もだぜ」
「ん? 俺も?」
「マサもなんかしでかしたの?」
「そうじゃねぇよ、マサヒデも気功士の能力が、ある程度は使えるってことだ」
「ああ、さっき話してた……」
「そうさ、ちょっと教えただけで、アノ必殺技を習得しやがった」
「あの、へっぽこな名前の必殺技か」
「へっぽこじゃないぜ、カッコいいだろ」
「はいはい」
「でも、これで分かりましたわ」
「何が?」
意味が分からない為次に正秀が教えてあげる。
「異世界から来た人間は、加護の能力にかかわらず、気功士の能力が使えるってさ」
「ああ、なるほど」
「試されたのはちょっとしゃくだが、まあ必殺技も覚えれたしいいかな」
「そんな分けでして、お二人には期待していますわ」
「……ああ、期待ね」
為次はターナ達のやろうとしている、魔獣造りを思い浮かべた。
「どうせ、ガザフから色々と聞いてんだろ」
スレイブがそう言ったので、為次はガザフから聞いたことを直接聞いてみようかとも思った。
しかし、今はやめておいた。
ターナは自分達が魔獣を造ることを悪いことだとは思っていない。
それなら、そんなことを聞いたとこで、彼らとの関係を悪くする可能性があるからだ。
もし、言い争うものなら、収集がつかなくなることだって考えられる。
「分かったよ、ターナ達には世話になってるしね」
「やけに素直ねぇ、タメツグのくせに」
「ターナ達が居なければ、あの場で野垂れ死んでたかも知れないからね。マヨもだよ」
「それも、そうだな」
正秀も同じ意見なのを聞くと、ターナは嬉しそうに笑う。
「ふふっ」
「じゃあ、風呂でも入ってから行くかな」
「なんだ? 為次。何処か行くのか?」
「ポンタの街でしょ!」
「ああ、そういやそんな予定だったな」
「んも……」
それから、しばらく他にも話を聞いてみたが、これといった収穫は無かった。
結局のところ、正秀と為次が戦力として使えるのか試したかったのであろう。
そんな中、スレイブが暴走してしまっただけのようだ。
そして、ターナ達の弁解を聞き終わると、ようやく本来の目的であるポンタの街へと向かうこととなった。
回り道ばかりしている彼ではあるが、帰り路への一歩を踏み出そうとしていたのだった……
なんだか皆の視線が急かすように感じる。
何か喋ろうものなら、また怒られるような気がするからだ。
だもんでよ。
「もぐもぐ、もぐもぐ…… もぐもぐ、もぐもぐ……」
イラ イラ イラ イラ イラ
そんな為次を見ていたマヨーラとスイは、何故かイライラしていた。
「早く食べなさいよ! ほんとイラつくわね」
「えぇ!? もぐもぐ……」
「見てるだけで鬱陶しいわ」
「ひ、ヒドイ…… 愛情を味わって食べてるだけなのに」
「そんなのダメです! スイの愛情の方が美味しいのです!」
「スイちゃん……」
「あー、オイシイナー。もぐもぐ」
「むむー!」
なんだか、スイは為次の態度にカチンときてしまった。
すると、突然キャベツ炒め定食を鷲掴みにするのだ!
「ちょ、スイ何するの!」
「ご主人様が食べやすいように、こうしてあげるのです!」
スイは食べかけのキャベツ炒め定食を全て掴むと、思いっ切り握リ始めた。
ニギ ニギ ニギ ニギ ニギ
「できました! スイの愛情を塗りたくったキャベツ炒めおにぎりなのです!」
そう言いながら、ネチョネチョに握られた、なんだか分からなくなった定食を為次に食べさせようとする。
「スイちゃん……」
「ぐむむむ…… な、何を……」
「ささ、ご主人様。これで早く食べるのです」
「いや…… これはちょっと……」
「あんたが食べないと話が進まないのよ」
「そうだぜ、それに、せっかくスイちゃんが作ってくれたんだぜ」
「くそっ、お前ら……」
「仕方ありませんわ。バインド!」
ターナは何を思ったか為次に手をかざすと、拘束の魔法をかけた。
流石のスレイブも、その突然の行動に戸惑う。
「お、おい、ターナ……」
「うがガガガが、な、なにを……… ターナ……」
そこまで強力に魔法をかけられていないので、なんとか喋れるのだが……
為次は体が痺れて動けなくなってしまった。
「さあスイ、今のうちに食べさせるのよ」
「はいです!」
スレイブはちょっと心配そうだ。
「……ターナ」
動けなくなった為次は無理矢理に口を開けさせられると、ネチョネチョしたおにぎりを押し込まれる。
「おごごごっぉぉ…… ちょ、やめ…… うごぉぉぉぁ」
「も、もう少しです。ご主人様、もう少しで奥まで……」
スイは頑張って口の中に押し込んではいるものの、どうにも咽の奥まで通らない。
次第に為次の顔が紫色になってきちゃった。
本日二度目だ。
「し、死ぬる……」
「ヤバイんじゃないのか?」
スレイブはやめさせろと言わんばかりに、正秀に向って言った。
「そんな気もするぜ」
「それなら、あたしに任せてちょうだい」
マヨーラは嬉しそうに言い放つと、為次の口に杖の頭に付いている丸い部分をあてがった。
「な、何を…… あががが」
「大丈夫よ、控えめにやるから」
「もがもが……」
「ウォーターアロー!」
呪文を唱えると、杖から水の矢が噴き出る。
放たれた水の矢は為次の口に直接撃ち込まれるのだ!
「うぼぼぼぼぼぼぼぼっぼぁぁぁぁぁ!!」
高圧洗浄機以上の水圧が、おにぎりを胃の中へと押し流して行く。
最早、味わいもクソも無い超早食いであった……
「うがごぉぉぉ……!」
こうして、為次は無事に? 食事を終えることができたのでした。
「やりました! ご主人様がスイの愛情おにぎりを食べてくれたのです」
「良かったな、スイちゃん」
「はいです。マサヒデ様」
「あたしのおかげよ、感謝しなさい」
「はいです。マヨマヨ様」
もっとも、当の為次は……
「……あうう」
お腹は水でポンポンになっていた。
拘束の魔法は解けた様子ではあるが、白目を剥きながら微妙に泡を吹いている。
「ご主人様、また起きなくなったのです」
「ライトニングで起きるんじゃないのか?」
「そうね、マサヒデの言う通りだわ。やってみましょう」
「俺が言うのもなんだが、こいつも散々だな……」
スレイブはそう言ってるが、マヨーラは構わず杖をかざす。
「ライトニ……」
「起きたー! 超起きたー!」
為次は流石にヤバイと思い慌てて目を覚ましたのだ。
「チッ」
「は? 今、舌打ちした?」
「なんのことかしら? 目が覚めて良かったわね。はぁ」
「ぬぅ」
「ご主人様が起きてくれたのです、もう二度と寝ないでくださいね」
「夜は寝るがな」
「まあ、色々あったが、とりあえず腹も膨れたようで良かったな。為次」
「殆ど水だがな」
「とにかく、そろそろ話を進めようぜ」
スレイブは言った。
「だな」
「タメツグをイジるのも飽きたしね」
「だな」
「お前ら……」
こうして、為次を虐めるのも飽きた4人は話を元に戻すことにし、スイは為次のパンパンになったお腹を満足そうに擦っているのでした。
そんな中、一人腑に落ちない為次ではあるが、お腹が苦しいので我慢するのであった。
「さてと、タメツグのせいで無駄な時間を使っちまったが、何から話すんだったけな?」
「ええ!? 俺のせいなの……」
為次を無視して正秀は話の続きをせがむ。
「スレイブと為次が戦ったとこからだぜ。早く聞かせてくれよ」
「ああ、そうだったな」
「それでは、私が続きを話させて頂きますわ」
「おう、頼むぜ。俺にも分かりやすく話してくれよ」
「ふふっ」
それからターナは、数日前に為次を襲った時のことを話してくれた。
スイを使って為次を本気で戦わせようとしたことも……
為次がスレイブの腕を切断したことも……
スレイブが怒りで為次を殺そうとしてしまったことも……
スイが禁忌魔法を発動してしまい魔獣を生み出したことも……
それを為次が一撃で倒してしまったことも……
「と、そんな感じなのですわ」
そう、あの夜の出来事を事細かに話したのであった。
それを皆は驚いた感じで静かに聞いていた。
「へー、そんなことがあったのか」
正秀は言った。
「まったく、ヒドイ目に合いました」
「まあ、為次のことはどうでもいいが、スイちゃんの禁忌魔法ってなんだ?」
「俺は、どうでもいいって……」
「ええ、それは魔獣を産み出す魔法ですわ」
「え!? あの草の化物ってスイが産んだの!?」
為次は自分が燃やした魔獣を朧げに思い出した。
「はうっ!? う、産んでませんよっ! 私はご主人様の卵しか産みません!」
「いやいやいや、意味が分からないから…… 卵って意味分かんないから」
「だって、ご主人様は前に卵を産んで欲しいって言ってましたから」
「え~タメツグ何言ってんの…… 気持ち悪いわね……」
「あらあら、タメツグったら……」
マヨーラとターナにジト目で睨まれた。
「言ってないから! 一言もそんなこと言ってないから!」
「えへへへー、ご主人様ったらぁ」
何故かスイは為次の膝の上に乗ると、嬉しそうに抱き付いた。
「と、とにかく卵はどうでもいいから、なんでスイがそんな魔法を使うのよ」
話をはぐらかす為に為次もちょっと必死だ。
「禁忌魔法のことは私たちもよく分からないのですわ。あの時、どうしてスイがあんな魔法を使えたのかも……」
「スイちゃんは何か心当たりでもないのか?」
正秀は訊いた。
「はぅ~、よく覚えていないのです」
「そうか……」
「んじゃ、それは置いといて、他にも聞きたいけど」
「何かしら? タメツグ」
「ガザフ邸での俺達のこと知ってたの?」
「建物の中でのことは知りませんわ」
「でも、腕をもいだことは知ってたよね?」
「そりゃ上級国民の腕をもぎ取ったなんて、直ぐにでも知れ渡るに決まってるだろ!」
スレイブは当然だろと言わんばかりだ。
「あ…… それもそうか……」
「むしろコッチが聞きたいくらいだぜ、お前はガザフに何をしたんだよ!」
「あ、いや…… まあ、色々とね…… あはは……」
「チッ、ほんと、いけ好かない野郎だぜ」
正秀はスレイブをなだめようとする。
「まあ、落ち着けよ」
「こいつを見ていると、イライラするんだよっ」
と、為次を指した。
「それは、あたしも同じね」
「気持ちは分かるぜ」
マヨーラと正秀も同意らしい。
「くそっ、お前ら……」
「だからって殺そうとしなくてもなぁ」
正秀言った。
「それは、悪かったとは思ってるがな」
「また負けたので悔しかったのですわ、スレイブは」
「お、おい、ターナ」
また、ということは以前にも同じことがあったのかと為次は思う。
「また?」
「前に、サダムネにも挑んで負けてますの」
「へー、そうなんだ」
「ああ、そうだそうだ。気功士って奴はほんとムカつくぜ。何が無能力者だ、マサヒデお前もだぜ」
「ん? 俺も?」
「マサもなんかしでかしたの?」
「そうじゃねぇよ、マサヒデも気功士の能力が、ある程度は使えるってことだ」
「ああ、さっき話してた……」
「そうさ、ちょっと教えただけで、アノ必殺技を習得しやがった」
「あの、へっぽこな名前の必殺技か」
「へっぽこじゃないぜ、カッコいいだろ」
「はいはい」
「でも、これで分かりましたわ」
「何が?」
意味が分からない為次に正秀が教えてあげる。
「異世界から来た人間は、加護の能力にかかわらず、気功士の能力が使えるってさ」
「ああ、なるほど」
「試されたのはちょっとしゃくだが、まあ必殺技も覚えれたしいいかな」
「そんな分けでして、お二人には期待していますわ」
「……ああ、期待ね」
為次はターナ達のやろうとしている、魔獣造りを思い浮かべた。
「どうせ、ガザフから色々と聞いてんだろ」
スレイブがそう言ったので、為次はガザフから聞いたことを直接聞いてみようかとも思った。
しかし、今はやめておいた。
ターナは自分達が魔獣を造ることを悪いことだとは思っていない。
それなら、そんなことを聞いたとこで、彼らとの関係を悪くする可能性があるからだ。
もし、言い争うものなら、収集がつかなくなることだって考えられる。
「分かったよ、ターナ達には世話になってるしね」
「やけに素直ねぇ、タメツグのくせに」
「ターナ達が居なければ、あの場で野垂れ死んでたかも知れないからね。マヨもだよ」
「それも、そうだな」
正秀も同じ意見なのを聞くと、ターナは嬉しそうに笑う。
「ふふっ」
「じゃあ、風呂でも入ってから行くかな」
「なんだ? 為次。何処か行くのか?」
「ポンタの街でしょ!」
「ああ、そういやそんな予定だったな」
「んも……」
それから、しばらく他にも話を聞いてみたが、これといった収穫は無かった。
結局のところ、正秀と為次が戦力として使えるのか試したかったのであろう。
そんな中、スレイブが暴走してしまっただけのようだ。
そして、ターナ達の弁解を聞き終わると、ようやく本来の目的であるポンタの街へと向かうこととなった。
回り道ばかりしている彼ではあるが、帰り路への一歩を踏み出そうとしていたのだった……
3
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる