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異世界編 2章
第67話 愚痴
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目を覚ました正秀は、スイから貰ったヒールポーションを飲みながら現状を把握しようと考えてみた。
そんな正秀にマヨーラは、ここぞとばかりにガッチリち抱きついている。
「うーん(確か為次達はトカゲと戦ってたはずだった。俺は、それを助けようと、砲撃したら…… その後が、思い出せないぜ)」
考えても訳が分からない正秀は、やっぱり考えるのをやめた。
頭だって、まだハッキリしないのだ。
思考がおぼろげになっているせいなのだろうか?
ふと、正秀は昔のことを思い出す。
そもそも、俺は考えるのがあまり得意じゃない。
とは言え、頭が悪い分けではない。
勉強はできる、むしろ成績は優秀だった。
成績優秀、スポーツ万能と自分で言うのもなんだが、意外とハイスペックメンだぜ。
そんな俺は、子供の頃から明るく活発な青年で、仲間内では常にリーダー的な存在だった。
何かをするにしても、俺の意見が優先され、それを疑う仲間は居なかった。
それで完璧に学生時代を過ごしてきたはずだ。
誰もが羨むような青春時代を……
だから、為次が自分の部隊に配属された時も面倒を見てやった。
隊の誰からも見放され…… 否、初めから誰にも相手にされず、なんの役にも立たない為次を。
「はぁ(俺は……)」
正秀は、少し自己嫌悪に陥っていた。
自分は為次のことを、そんな風に見下していたのかと……
マヨーラを抱く腕に、思わず力が入ってしまう……
戦士の力を得た正秀のパワーは凄いのだ。
「いぎぎぎ、い、痛いわ…… マサヒデぇ、いぎゃぁ」
「おっと、悪りぃ、悪りぃ」
「ガハッ、ゲホッ」
それを見た為次が言う。
「頼むから車内で吐かないでよ、ターナの別荘みたくなるのは勘弁だから」
「きぃぃぃー! 誰のせいだと思ってんのよっ!」
「すまなかったな、マヨーラ」
「あっ…… えっと…… マサヒデは悪くないのよ、マサヒデは」
「ぷぷっ」
「笑うなぁ、このバカツグ!」
「はいはい、ぷ」
「こぉんのぉ~」
「それより、どうなったんだ?」
「どうもこうもないけどね」
「何かあったのか?」
「マサの馬鹿さ加減に呆れてたとこだよ」
「俺? の……」
「心配しないで、タメツグの方がバカだから」
「んま、なんでもいいから、ちょっと外に出て見てくればいいよ」
「なんだ? 怒ってるのか?」
「別にぃ……」
「……ん?」
「スイ、ちょっと外に出るか横にずれてやって」
正秀が車外へ出るのに、車長席に居座ってるスイが邪魔なので退いてもらう。
「はいです」
返事をするとスイは車外に出て砲塔に乗った。
「じゃあ俺も…… マヨーラ」
「え? あ、あそうね、あたしも出るわ、残念だけど」
「何が残念なんだ?」
「あ、いやいや、なんでもないわ、こっちの話、こっちの話よ」
そう言いながらマヨーラは慌てて正秀から離れる。
「お? おう……」
そして、正秀と名残惜しそうなマヨーラも車外に出てみる。
そこには、土に半分埋もれたレオパルト2の無残な姿があった。
その光景を見た正秀は、なんとなく為次の機嫌が悪いのも理解できた。
「なんだこりゃ……」
「気にしなくてもいいわよ、マサヒデのおかげでダイコンも倒せたし」
「あいつも、そう言ってくれるといいんだがな、っと」
正秀は砲塔から飛び降りる。
車体の側面を見ると、中ほど4つの転輪の下側にある履帯が外れていた。
「ほんと、あんな奴の言うことなんて、気にする必要ないわよ」
「気にするようなことでも、言ってくれりゃいいんだが」
「何それ?」
「……とりあえず、履帯だけでもハメないとだな」
「あたしも手伝うわ」
「私もつばい様を治すです」
「おう、二人ともありがとな」
ギュギュギュ…… ギュギュギュ……
そんな時、車体後部にあるエンジンから音が聞こえてくる。
どうやら為次がエンジンをかけようとしているらしい。
ギュギュギュ…… ギュギュギュ……
動きそうで動かないエンジンを、正秀は心配そうに見守っていると……
ドゥルゥン! ドゥドドドドド……
黒煙を吐き出すと同時に、レオパルト2のエンジンが軽快に動きだす。
「はぁー」
エンジンの始動を確認した正秀は安堵の溜息をついた。
「つばい様、起きたのです」
「ああ、そうだな」
「この陸上艇って、やかましい音出さないと動かなの?」
マヨーラは興味なさそうに訊いた。
「ああ、そうだぜ」
「ふーん」
少し安心した正秀は、為次のとこに行ってみようと運転手ハッチの方へと回り込んでみる。
ハッチは開けっ放しだったので、正秀は中を覗いてみると為次と目が合った……
「よう、動いたか、良かったな」
「うん、まあ」
「じゃ、後は履帯をハメれば大丈夫だな」
「……うん」
「……なぁ、俺、トカゲに向かって主砲を撃ったとこまでしか覚えてないんだが、どうしてこうなったんだ?」
「覚えてないんなら、別にいいんじゃない? 気にする必要ないよ」
「覚えてないから、こうして聞いてんだぜ」
「じゃ、マヨとスイに聞いてくればいいじゃない」
「俺は、お前に聞いてんだよっ」
「どーせ、俺の言うことなんて聞かないよ……」
「なんだよ…… その言い方は」
「だから、気にする必要はないって、言ってるだけだよ」
「言いたいことがあるなら、ハッキリ言えよ!」
正秀は思わず怒鳴ってしまった……
「さっき言っただろ! それどころじゃないって! 全然聞いてなかったでしょ!」
為次も叫んでしまった……
「…………」
「あの時だって、俺が必死に砲撃をやめさせようとしてたのに、気にもしなかったでしょ!」
「…………」
「どうしても、こうしても! その結果がこれだよ!」
「為次……」
「分かったなら、マヨとスイを連れてあっち行っててくれないかな? 整備の邪魔なんだけど」
「…………」
「まだ何か?」
「俺も…… 手伝うぜ……」
「もういいから、あっち行けって!!」
為次が叫ぶと正秀は姿を消した……
「うんしょっと」
何故ならスイが正秀を持ち上げて、運転手ハッチから退かしたからだ。
そんで、その辺に置いといた。
「スイちゃん?」
スイは正秀を退かし終わると、今度は運転手ハッチに自分の上半身を突っ込み為次の首根っこを掴んだ。
すると、無理矢理に為次を車内から引き摺り出し始める。
「むぐぐぐ」
「うげげげぇ、ぐぇぇぇ、ぐるじー」
スイはズルズルと為次を引っ張り出すと、一緒に土の上に転がった。
そして、自分の胸に為次の顔面を押し付けながら、頭を撫で始めるのだ。
「いい子、いい子、なのです」
「むぐぅ~」
「スイちゃん……?」
「スイ、あなた何やってるの?」
「こうすると、ご主人様は大人しくなるです。ターナ様がやってました」
「ああ、あの時の」
「なんだそりゃ?」
スイは為次が叫んでいるのを聞きつけると、出会ったあの日……
服屋で為次が暴れていた時のことを思い出していた。
「ターナ様がやっていたので、間違いありません。スイにもできるのです」
「それより、タメツグは何を叫んでたの?」
「むぐぅ~、わ、分かったから、もういいよスイ……」
為次は、なんだか急に恥ずかしくなってしまった。
スイのおっぱいに、顔を埋めてるのもあるし、まるで子供のようにあやされてるから。
だがそれ以上に、勝手にスネて正秀に八つ当たりした自分が何より恥ずかしい。
だから、素直に謝ろうとも思うが、それすら恥ずかしく感じてしまう。
どうしていいのか、分からなかった……
そんな時…… 正秀が声を掛ける。
「なぁ、為次」
「んむー?」
「悪かったな」
「…………」
「俺さ、こう言うの苦手なんだよ」
「苦手って?」
「俺はな、昔に一度だけケンカをしたことがあるんだ」
そう言いうと正秀は話し始める。
その内容は、こうだった……
正秀は、子供の頃から優等生であった。
親からは期待され、仲間からは信頼される。
クラスではいつも人気者で、みんなのまとめ役も当然のことであった。
だが、あれは中学生の頃だった。
とても仲の良い、まさに親友と呼ぶに相応しいだろう人物とケンカをした。
きっかけは、本当に些細なことだ。
ある時、その親友がイジメの対象にされてしまったらしい。
当然、正秀はその親友を助けようとした。
だが、その親友は正秀の申し出を断った……
「俺に構わないでくれ……」と。
もちろん正秀は、それには納得できなかった。
だからイジメている奴を説得しようとした。
しかし、それを知った親友は激怒した。
「要らないことをするな」と。
その後は、お互い激しい罵り合いだった。
最終的には殴り合った……
「それで…… その親友とやらとはどうなったの?」
「それっきりさ、それからは目も合わさず、話もせず卒業を迎えた……」
為次は、スイのおっぱいから顔を離し正秀を見る。
「まあ、どうでもいいけど、なんでそんな話をすんのさ?」
「それ以降、俺は一切ケンカをしなかった。いや…… 人に関わろうとはしなくなったんだ……」
「…………」
「上っ面だけの優等生を演じ続けたのさ」
「へぇ」
「だからさ…… 怒ってるお前にどう対応していいのか分かんないんだよ」
「……その親友はさ、どうして怒ったと思うの?」
「ん? ああ、それなら後になって他の仲間に聞いたんだが、俺を巻き込みたくなかったからだと……」
「本人からは聞いてないの?」
「ああ、聞いてない」
「そう」
「それならそうと、ハッキリ言ってほしかったぜ! それが親友ってもんだろ!」
「うははははは」
唐突に為次は笑いだした。
「何が可笑しいんだよ?」
「だってさ、その親友ってのは勝手にマサが親友と思ってただけで、当の本人は、これぽっちもそんなことは思ってないよ」
「は? どうしてそんなことが分かるんだよ」
「そりゃ、俺と同じように、その親友とやらも見下してたんでしょ? ははは」
「なっ! お、俺はそんなこと……」
正秀は自分の思っていたことが、為次に見透かされていることに戸惑う。
そんなつもりはなかった……
しかし、心の奥底でいつもそう思っていたのも間違いではない。
「ごめんね、マサ」
「え?」
「俺もマサの親友も、言葉にするのが下手なだけだよ……」
「為次?」
「俺が怒ってたのは、ただ単に俺が勝手に拗ねていただけ…… 自分の思いを言葉にできないだけ……」
「…………」
「でもさ、マサの親友はマサと対等な立場で居たかったんじゃないかな?」
「!?」
「むしろマサの方が、自分の気持ちを何一つとして伝えてないのかと…… そんな、ケンカをする以前から、周りの奴ら全てを見下してたでしょ? 親友も含めてね」
「お、俺は…… そんな…… じゃあ、どうすりゃ良かったんだよっ」
「別に、どうもしなくていいよ」
「は?」
「人の感情なんて、その生活や環境で自分の意思とは関係無しに作られていくんだよ。だからさ、今のマサのままでいいよ」
「でも……」
「いいじゃない、おかげで俺の機嫌が直ったんだから、それはそれで正解なんでしょ」
「……そうかな?」
「そう言うことにしとけばいいんだよ、その親友とケンカ別れしたのは失敗。でも、今回は正解」
「ははっ」
「なんすか?」
「よく喋るじゃないか、為次」
「あ…… えっと……」
「そうだな、お前の言う通りかもな。為次の機嫌直そうと思ってたが、何だか立場が逆になっちまったぜ」
「んー」
「悪かったな」
正秀はレオパルト2に近づくと、そっと触れてみる。
手には鉄の冷たい感覚と土のざらついた感触が伝わってきた。
「レオも大切な仲間なんだよな? 為次」
「え、ああ、そうね」
「じゃあ、さっさと治してやるか! この俺様がな!」
「やめてっ、これ以上壊さないでよ……」
「何言ってんだよ、誰も壊さねーよ! この正秀様に任せなっ」
そう言いながら、無理矢理に土に埋もれた戦車を持ち上げようとする。
「あわわわ…… ちょ、マジやめて」
慌てて駆け寄る為次。
そんな、じゃれ合う正秀と為次を見ていたマヨーラは思うのだ。
男ってホントばかねぇ……
と、ほほ笑むのであった……
そんな正秀にマヨーラは、ここぞとばかりにガッチリち抱きついている。
「うーん(確か為次達はトカゲと戦ってたはずだった。俺は、それを助けようと、砲撃したら…… その後が、思い出せないぜ)」
考えても訳が分からない正秀は、やっぱり考えるのをやめた。
頭だって、まだハッキリしないのだ。
思考がおぼろげになっているせいなのだろうか?
ふと、正秀は昔のことを思い出す。
そもそも、俺は考えるのがあまり得意じゃない。
とは言え、頭が悪い分けではない。
勉強はできる、むしろ成績は優秀だった。
成績優秀、スポーツ万能と自分で言うのもなんだが、意外とハイスペックメンだぜ。
そんな俺は、子供の頃から明るく活発な青年で、仲間内では常にリーダー的な存在だった。
何かをするにしても、俺の意見が優先され、それを疑う仲間は居なかった。
それで完璧に学生時代を過ごしてきたはずだ。
誰もが羨むような青春時代を……
だから、為次が自分の部隊に配属された時も面倒を見てやった。
隊の誰からも見放され…… 否、初めから誰にも相手にされず、なんの役にも立たない為次を。
「はぁ(俺は……)」
正秀は、少し自己嫌悪に陥っていた。
自分は為次のことを、そんな風に見下していたのかと……
マヨーラを抱く腕に、思わず力が入ってしまう……
戦士の力を得た正秀のパワーは凄いのだ。
「いぎぎぎ、い、痛いわ…… マサヒデぇ、いぎゃぁ」
「おっと、悪りぃ、悪りぃ」
「ガハッ、ゲホッ」
それを見た為次が言う。
「頼むから車内で吐かないでよ、ターナの別荘みたくなるのは勘弁だから」
「きぃぃぃー! 誰のせいだと思ってんのよっ!」
「すまなかったな、マヨーラ」
「あっ…… えっと…… マサヒデは悪くないのよ、マサヒデは」
「ぷぷっ」
「笑うなぁ、このバカツグ!」
「はいはい、ぷ」
「こぉんのぉ~」
「それより、どうなったんだ?」
「どうもこうもないけどね」
「何かあったのか?」
「マサの馬鹿さ加減に呆れてたとこだよ」
「俺? の……」
「心配しないで、タメツグの方がバカだから」
「んま、なんでもいいから、ちょっと外に出て見てくればいいよ」
「なんだ? 怒ってるのか?」
「別にぃ……」
「……ん?」
「スイ、ちょっと外に出るか横にずれてやって」
正秀が車外へ出るのに、車長席に居座ってるスイが邪魔なので退いてもらう。
「はいです」
返事をするとスイは車外に出て砲塔に乗った。
「じゃあ俺も…… マヨーラ」
「え? あ、あそうね、あたしも出るわ、残念だけど」
「何が残念なんだ?」
「あ、いやいや、なんでもないわ、こっちの話、こっちの話よ」
そう言いながらマヨーラは慌てて正秀から離れる。
「お? おう……」
そして、正秀と名残惜しそうなマヨーラも車外に出てみる。
そこには、土に半分埋もれたレオパルト2の無残な姿があった。
その光景を見た正秀は、なんとなく為次の機嫌が悪いのも理解できた。
「なんだこりゃ……」
「気にしなくてもいいわよ、マサヒデのおかげでダイコンも倒せたし」
「あいつも、そう言ってくれるといいんだがな、っと」
正秀は砲塔から飛び降りる。
車体の側面を見ると、中ほど4つの転輪の下側にある履帯が外れていた。
「ほんと、あんな奴の言うことなんて、気にする必要ないわよ」
「気にするようなことでも、言ってくれりゃいいんだが」
「何それ?」
「……とりあえず、履帯だけでもハメないとだな」
「あたしも手伝うわ」
「私もつばい様を治すです」
「おう、二人ともありがとな」
ギュギュギュ…… ギュギュギュ……
そんな時、車体後部にあるエンジンから音が聞こえてくる。
どうやら為次がエンジンをかけようとしているらしい。
ギュギュギュ…… ギュギュギュ……
動きそうで動かないエンジンを、正秀は心配そうに見守っていると……
ドゥルゥン! ドゥドドドドド……
黒煙を吐き出すと同時に、レオパルト2のエンジンが軽快に動きだす。
「はぁー」
エンジンの始動を確認した正秀は安堵の溜息をついた。
「つばい様、起きたのです」
「ああ、そうだな」
「この陸上艇って、やかましい音出さないと動かなの?」
マヨーラは興味なさそうに訊いた。
「ああ、そうだぜ」
「ふーん」
少し安心した正秀は、為次のとこに行ってみようと運転手ハッチの方へと回り込んでみる。
ハッチは開けっ放しだったので、正秀は中を覗いてみると為次と目が合った……
「よう、動いたか、良かったな」
「うん、まあ」
「じゃ、後は履帯をハメれば大丈夫だな」
「……うん」
「……なぁ、俺、トカゲに向かって主砲を撃ったとこまでしか覚えてないんだが、どうしてこうなったんだ?」
「覚えてないんなら、別にいいんじゃない? 気にする必要ないよ」
「覚えてないから、こうして聞いてんだぜ」
「じゃ、マヨとスイに聞いてくればいいじゃない」
「俺は、お前に聞いてんだよっ」
「どーせ、俺の言うことなんて聞かないよ……」
「なんだよ…… その言い方は」
「だから、気にする必要はないって、言ってるだけだよ」
「言いたいことがあるなら、ハッキリ言えよ!」
正秀は思わず怒鳴ってしまった……
「さっき言っただろ! それどころじゃないって! 全然聞いてなかったでしょ!」
為次も叫んでしまった……
「…………」
「あの時だって、俺が必死に砲撃をやめさせようとしてたのに、気にもしなかったでしょ!」
「…………」
「どうしても、こうしても! その結果がこれだよ!」
「為次……」
「分かったなら、マヨとスイを連れてあっち行っててくれないかな? 整備の邪魔なんだけど」
「…………」
「まだ何か?」
「俺も…… 手伝うぜ……」
「もういいから、あっち行けって!!」
為次が叫ぶと正秀は姿を消した……
「うんしょっと」
何故ならスイが正秀を持ち上げて、運転手ハッチから退かしたからだ。
そんで、その辺に置いといた。
「スイちゃん?」
スイは正秀を退かし終わると、今度は運転手ハッチに自分の上半身を突っ込み為次の首根っこを掴んだ。
すると、無理矢理に為次を車内から引き摺り出し始める。
「むぐぐぐ」
「うげげげぇ、ぐぇぇぇ、ぐるじー」
スイはズルズルと為次を引っ張り出すと、一緒に土の上に転がった。
そして、自分の胸に為次の顔面を押し付けながら、頭を撫で始めるのだ。
「いい子、いい子、なのです」
「むぐぅ~」
「スイちゃん……?」
「スイ、あなた何やってるの?」
「こうすると、ご主人様は大人しくなるです。ターナ様がやってました」
「ああ、あの時の」
「なんだそりゃ?」
スイは為次が叫んでいるのを聞きつけると、出会ったあの日……
服屋で為次が暴れていた時のことを思い出していた。
「ターナ様がやっていたので、間違いありません。スイにもできるのです」
「それより、タメツグは何を叫んでたの?」
「むぐぅ~、わ、分かったから、もういいよスイ……」
為次は、なんだか急に恥ずかしくなってしまった。
スイのおっぱいに、顔を埋めてるのもあるし、まるで子供のようにあやされてるから。
だがそれ以上に、勝手にスネて正秀に八つ当たりした自分が何より恥ずかしい。
だから、素直に謝ろうとも思うが、それすら恥ずかしく感じてしまう。
どうしていいのか、分からなかった……
そんな時…… 正秀が声を掛ける。
「なぁ、為次」
「んむー?」
「悪かったな」
「…………」
「俺さ、こう言うの苦手なんだよ」
「苦手って?」
「俺はな、昔に一度だけケンカをしたことがあるんだ」
そう言いうと正秀は話し始める。
その内容は、こうだった……
正秀は、子供の頃から優等生であった。
親からは期待され、仲間からは信頼される。
クラスではいつも人気者で、みんなのまとめ役も当然のことであった。
だが、あれは中学生の頃だった。
とても仲の良い、まさに親友と呼ぶに相応しいだろう人物とケンカをした。
きっかけは、本当に些細なことだ。
ある時、その親友がイジメの対象にされてしまったらしい。
当然、正秀はその親友を助けようとした。
だが、その親友は正秀の申し出を断った……
「俺に構わないでくれ……」と。
もちろん正秀は、それには納得できなかった。
だからイジメている奴を説得しようとした。
しかし、それを知った親友は激怒した。
「要らないことをするな」と。
その後は、お互い激しい罵り合いだった。
最終的には殴り合った……
「それで…… その親友とやらとはどうなったの?」
「それっきりさ、それからは目も合わさず、話もせず卒業を迎えた……」
為次は、スイのおっぱいから顔を離し正秀を見る。
「まあ、どうでもいいけど、なんでそんな話をすんのさ?」
「それ以降、俺は一切ケンカをしなかった。いや…… 人に関わろうとはしなくなったんだ……」
「…………」
「上っ面だけの優等生を演じ続けたのさ」
「へぇ」
「だからさ…… 怒ってるお前にどう対応していいのか分かんないんだよ」
「……その親友はさ、どうして怒ったと思うの?」
「ん? ああ、それなら後になって他の仲間に聞いたんだが、俺を巻き込みたくなかったからだと……」
「本人からは聞いてないの?」
「ああ、聞いてない」
「そう」
「それならそうと、ハッキリ言ってほしかったぜ! それが親友ってもんだろ!」
「うははははは」
唐突に為次は笑いだした。
「何が可笑しいんだよ?」
「だってさ、その親友ってのは勝手にマサが親友と思ってただけで、当の本人は、これぽっちもそんなことは思ってないよ」
「は? どうしてそんなことが分かるんだよ」
「そりゃ、俺と同じように、その親友とやらも見下してたんでしょ? ははは」
「なっ! お、俺はそんなこと……」
正秀は自分の思っていたことが、為次に見透かされていることに戸惑う。
そんなつもりはなかった……
しかし、心の奥底でいつもそう思っていたのも間違いではない。
「ごめんね、マサ」
「え?」
「俺もマサの親友も、言葉にするのが下手なだけだよ……」
「為次?」
「俺が怒ってたのは、ただ単に俺が勝手に拗ねていただけ…… 自分の思いを言葉にできないだけ……」
「…………」
「でもさ、マサの親友はマサと対等な立場で居たかったんじゃないかな?」
「!?」
「むしろマサの方が、自分の気持ちを何一つとして伝えてないのかと…… そんな、ケンカをする以前から、周りの奴ら全てを見下してたでしょ? 親友も含めてね」
「お、俺は…… そんな…… じゃあ、どうすりゃ良かったんだよっ」
「別に、どうもしなくていいよ」
「は?」
「人の感情なんて、その生活や環境で自分の意思とは関係無しに作られていくんだよ。だからさ、今のマサのままでいいよ」
「でも……」
「いいじゃない、おかげで俺の機嫌が直ったんだから、それはそれで正解なんでしょ」
「……そうかな?」
「そう言うことにしとけばいいんだよ、その親友とケンカ別れしたのは失敗。でも、今回は正解」
「ははっ」
「なんすか?」
「よく喋るじゃないか、為次」
「あ…… えっと……」
「そうだな、お前の言う通りかもな。為次の機嫌直そうと思ってたが、何だか立場が逆になっちまったぜ」
「んー」
「悪かったな」
正秀はレオパルト2に近づくと、そっと触れてみる。
手には鉄の冷たい感覚と土のざらついた感触が伝わってきた。
「レオも大切な仲間なんだよな? 為次」
「え、ああ、そうね」
「じゃあ、さっさと治してやるか! この俺様がな!」
「やめてっ、これ以上壊さないでよ……」
「何言ってんだよ、誰も壊さねーよ! この正秀様に任せなっ」
そう言いながら、無理矢理に土に埋もれた戦車を持ち上げようとする。
「あわわわ…… ちょ、マジやめて」
慌てて駆け寄る為次。
そんな、じゃれ合う正秀と為次を見ていたマヨーラは思うのだ。
男ってホントばかねぇ……
と、ほほ笑むのであった……
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猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
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