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異世界編 2章
第75話 洋酒
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皆は貞宗の昔話を聞きながら、早めの昼食を食べていた……
しかし、話してばかりでは食事が進まない。
片付けも済ませて、お洗濯をしたいクリスはちょっと困り顔だ。
だから、会話も一段落ついたとこで、クリスは「早く食べてちょうだい」と皆を急かす。
スイに至っては少し食べただけで、殆んどを洗面器に詰め込んでしまったので、お替りを貰って食べている始末である。
そんな食べるのが忙しくなるのを見計らうと、為次は自分達がこちらの世界に来てからのことを適当に話しておいた。
何せ、この異世界では騒ぎばかり起こして、ロクなことをしていないので、色々と話し辛いのだ。
だから、適当に誤魔化せる隙を狙って話しといた。
後々、色々と聞かれるのは面倒臭いので……
もっとも、それで貞宗が納得したのかは定かではないが。
「むしゃむしゃ…… で、お前達はこの後はどうするんだ?」
「もぐもぐ…… マサがレオをぶっ壊したんで、できれば修理や整備したいんすが、無理っスか?」
「すまねぇ、もぐもぐ…… 為次」
「修理は何処までできるか分からんが、バラせるだけの設備はあるから整備は一通りできるぞ、むしゃむしゃ……」
「もっちゅもっちゅ…… つばい様にはヒールポーションを掛けても治らないです」
「そうだねー、もぐもぐ……」
「あなた達…… いい加減、口に物を入れながら喋るのはやめなさい」
クリスに怒られた。
「う、うむ……」
「ごめんなさい」
「すいません」
「ごめんなさいです」
「分かればいいのよ」
話は程々に、正秀と為次は久しぶりの和食を楽しむのであった。
……………
………
…
食事が終わると、マヨーラとスイはお風呂へと行ってしまった。
何せ臭いのだ、ダイコンのネチョネチョをモロ被りなマヨーラは特に臭い。
本来ならば、食事の前に入るべきだが、とにかく飯が最優先の連中なのだ。
だから、風呂よりまずは飯である。
マヨーラにネチョネチョを付けられた為次も臭いが、流石に一緒に入る分けにもいかない。
仕方ないので為次は、まだリビングでだらけていた。
正秀、貞宗と一緒に……
「では、私は後片付けをして、お洗濯して来るわ」
「ああ、ありがとうクリス」
クリスは貞宗の生返事を聞きながら立ち上がると、テーブル布巾を貞宗の前に置いた。
すると、そそくさと食べ終わった食器を持って、奥の部屋へと行ってしまうのであった。
貞宗は目の前に置かれた布巾を手に取ると、面倒臭そうにテーブルを拭き始める。
大きめなテーブルではあるが、貞宗は立ち上がろうともせずに、自分の前だけを適当に繰り返し拭いていた……
「ちゃんと拭かないと、クリスさんに怒られるっスよ?」
「ん? あ、ああ、そうだな」
「水谷、悪いがそっちを拭いてくれ」
そう言いながら、布巾を正秀に渡そうとする貞宗。
正秀は布巾を受け取るが……
「ほらっ」
そのまま為次に渡そうとするのだ。
為次の顔の前で揺らす汚れた布巾がヒラヒラしている。
あからさまに嫌そうな顔をしている為次は受け取ろうとはしない。
「いらないよぉ」
「遠慮しなくていいぜ」
「してないし、マサが拭いてよ」
「俺は今、傷心中だぜ」
「ふぁ? 何を自分で…… 意味分かんない」
「とにかく、ほらっ」
今度は布巾を為次の頭の上に乗せたのだ。
「ちょ、もぉー」
為次は眉間にシワを寄せながら、頭の上にある布巾を手に取ると綺麗に畳み始めた。
そして、そっとテーブル上に置く。
「つか、綺麗でしょ。拭く必要ないよ」
テーブルの上はどう見ても汚い。
食べカスが散らばっており、すき焼きの汁とかが、こびり付いている……
「確かに綺麗と言われれば綺麗だぜ」
「うむ、じゅうぶんだな」
「キレイキレイ」
貞宗の目の前だけは、汚れが拭き取られているが、全体的に汚い。
しかし、野郎3人は何故か満足そうである。
「ふー、ひと仕事終わった後は何か飲みたいね」
「ああ、綺麗にすると気持ちいいしな」
「うむ、そうだな少し待っていろ」
貞宗は立ち上がると、リビングの食器棚に向かう。
しばらくガサゴソと棚を漁ると、ビンとグラスを3つ持ってきた。
そして、ビンとグラスで食べカスを払いながらテーブルの上に置く。
「どうだ、取って置きのウイスキーだぞ」
ビンの中には、鮮やかな琥珀色の液体が入っている。
「おおっ! やたー」
「これは…… ゴクリ」
「では、注いでやろう」
ウイスキーの蓋を開けると、周囲にほのかな甘さを感じる香りが漂うのだ。
トクトクと心地良い音を立てながらグラスに溜まって行くウイスキーは、日の光を浴びたトウモロコシ畑の如く、黄金色の輝きを見せていた。
最早3人は我慢できたものじゃない。
一刻も早く喉に通して、味と香りと喉越しを楽しみたいのだ。
「は、はよ」
「そう、急かすな。山崎」
「しかし隊長、為次じゃありませんが、これはもう我慢不可能です!」
「分かった、分かった。では、久しぶりの再開を祝して乾杯といこうじゃないか」
「はいっ」
「はーい」
3人はそれぞれのグラスを手に取り、立ち上がる。
「それでは、俺達の再開を祝して…… 乾杯!」
「「かんぱーい!」」
ガチガチとグラスのぶつかる音がリビングに響く。
その音は、FM音源はもちろん、波形メモリ音源で作ったグラスの響く音よりも聞くに耐えない。
現実とはそんなものだが、今の彼らにとってはどうでも良いことだ。
待ってましたとばかりにグラスを煽る。
「ゴクゴク」
「ごきゅごきゅ」
「んぐん」
グラスに注がれた、アルコール43度のウイスキーはストレートで一気に呑み干される。
次の瞬間、軽やかな風が吹き抜ける心地良い感覚が全身を駆け抜ける。
「うめーっ!」
正秀は先程まで落ち込んでいたことなど忘れウイスキーを堪能した。
「かーっ、こいつはたまらんな!」
「な、な、な、まさかこれはっ!?」
「ふふっ、気が付いたか? 山崎よ」
「このフルーティに甘く、軽やかな味わい…… 間違い無い! これは『知多』だ!」
「流石だ! よく分かったな! 山崎」
「これが『知多』、あの180mmビンで1000円以上する……」
「そうだぞ水谷。ここまで完璧に再現するのに10年以上かかったからな。名付けて、パーフェクトグレーンだ!」
「うぉぉぉ、最高なネーミングっスね!」
「やったぜ!」
「隊長さん、お替りっ!」
為次はグラスを突き出す。
「まあ、待て、とりあえず座ろう」
3人はパーフェクトグレーンのあまりの美味さに、立ったまま興奮気味なのだ。
貞宗に指摘されるまで、座ることすら忘れてた。
正秀と為次は顔を見合わせると、少し落ち着きを取り戻たようで、ゆっくりとソファーに座った。
「ふう…… 危うく自分を見失うとこだったぜ」
「これはヤバイね」
「そうだろう…… と、どっこいしょ」
貞宗もおっさん臭いセリフを吐きながら、ソファーに座った。
「だけど、おつまみも欲しいよね」
「ああ、確かにな」
「クリスは何処に行ったんだ? 何か作って欲しいのだが」
「洗濯とか言ってなかったっスか?」
「まったく、肝心な時に居ないとは」
「洗濯なんて、何時でもできますしね」
「うむ、洗濯など後回にしろと言いたい」
「隊長の奥さんも薄情な人ですね」
「ほんとだ、役に立たない奴だな」
「なんか、無いっスかね……」
ツッコミ役が居ないせいで、言いたい放題だ。
そんな酒の肴を探す彼らの目に、汚れたテーブルの隅に置かれた洗面器が目にとまる。
中には、スイが詰め込んだ先程の料理がムッチムチに入っている……
為次は洗面器を手元に繰り寄せる。
「見た目はアレだけど、これもクリスさんの作った飯だし」
「確かにそうだな、どれどれ……」
正秀は洗面器の中の、すき焼きらしき部分を手で握り取り食べてみる。
「もぐもぐ……」
「どう?」
「食えるか?」
「うん、美味しいぜ」
「じゃあ俺も」
「うむ、俺も食うかな」
野郎どもは、グチョグチョの料理を手掴みで食べ始める。
そして、再び注がれたパーフェクトグレーンを煽るのだ。
「これは、止まりませんね」
「10リットルは飲めるっス」
「そうだろう、そうだろう」
肴が欲しければ、キッチンへ行けば何かしらあるし、そもそもレオパルト2には積み込めないほどの食料が、たんまりとあるのだが……
だが、取りに行くのが面倒臭いので誰も取りに行こうとはしない。
美味たるウイスキーを堪能するのが最優先なのである。
だから、誰もそのことは口にせず、暗黙の了解の如く洗面器飯を肴に盛り上がろうとしていた。
「ウィーッス…… それで、先程の話の続きなんだが……」
「なんでしたっけぇ? ふぅ~」
「今後についてだ、今後」
「ああ~、金剛」
ボケる為次。
「金剛ですか? 戦艦ですか?」
「違うそうじゃない。これからについてだ。水谷達の金剛だ」
「ああ、今後か金剛ですね」
「うぃ~、金剛ぉ~」
野郎どもは酔いも回ってきた様子で、楽しそうに会話を始める。
「うむ、金剛はもういい」
「ジョーダンっスよ、ジョーダン」
「知ってるぜ」
「レオの修理でしょぉ」
「うむぅ、それのことも含めてだが……」
貞宗が何か言おうとした時であった……
グチャ!
為次は洗面器の中に手を突っ込むと、酔いのせいだろうか?
ひっくり返してしまった。
洗面器の中身がテーブルの上にばら撒かれ、汁が滴る……
「あ! 何やってんだよ為次」
「うぃー、めんごめんご」
為次はテーブルの上に散らばった、なんだかよく分からなくなった料理だった物を握ると食べてしまった。
「もぎゅもぎゅ…… うん、大丈夫」
「どれどれ」
貞宗も食べてみる。
洗面器だろうがテーブルの上だろうが味は変わらない。
「うむ、上手いな、食べやすくなったしいい感じだ」
「でかしたな為次!」
「てへへぇ~」
最早、何がなんだか分からない状態だが、酔ってる彼らにとってはどうでも良いことなのだ。
そして、そのままの勢いで、これからの行動についての相談を始めるのであった……
※ ※ ※ ※ ※
一方、クリスは溜った洗濯物を鼻歌を歌いながら洗っていた。
「ふふ~ん♪ やっぱり、綺麗にすると気持ちいいわね。うふふ」
リビングの惨状を知らずに……
しかし、話してばかりでは食事が進まない。
片付けも済ませて、お洗濯をしたいクリスはちょっと困り顔だ。
だから、会話も一段落ついたとこで、クリスは「早く食べてちょうだい」と皆を急かす。
スイに至っては少し食べただけで、殆んどを洗面器に詰め込んでしまったので、お替りを貰って食べている始末である。
そんな食べるのが忙しくなるのを見計らうと、為次は自分達がこちらの世界に来てからのことを適当に話しておいた。
何せ、この異世界では騒ぎばかり起こして、ロクなことをしていないので、色々と話し辛いのだ。
だから、適当に誤魔化せる隙を狙って話しといた。
後々、色々と聞かれるのは面倒臭いので……
もっとも、それで貞宗が納得したのかは定かではないが。
「むしゃむしゃ…… で、お前達はこの後はどうするんだ?」
「もぐもぐ…… マサがレオをぶっ壊したんで、できれば修理や整備したいんすが、無理っスか?」
「すまねぇ、もぐもぐ…… 為次」
「修理は何処までできるか分からんが、バラせるだけの設備はあるから整備は一通りできるぞ、むしゃむしゃ……」
「もっちゅもっちゅ…… つばい様にはヒールポーションを掛けても治らないです」
「そうだねー、もぐもぐ……」
「あなた達…… いい加減、口に物を入れながら喋るのはやめなさい」
クリスに怒られた。
「う、うむ……」
「ごめんなさい」
「すいません」
「ごめんなさいです」
「分かればいいのよ」
話は程々に、正秀と為次は久しぶりの和食を楽しむのであった。
……………
………
…
食事が終わると、マヨーラとスイはお風呂へと行ってしまった。
何せ臭いのだ、ダイコンのネチョネチョをモロ被りなマヨーラは特に臭い。
本来ならば、食事の前に入るべきだが、とにかく飯が最優先の連中なのだ。
だから、風呂よりまずは飯である。
マヨーラにネチョネチョを付けられた為次も臭いが、流石に一緒に入る分けにもいかない。
仕方ないので為次は、まだリビングでだらけていた。
正秀、貞宗と一緒に……
「では、私は後片付けをして、お洗濯して来るわ」
「ああ、ありがとうクリス」
クリスは貞宗の生返事を聞きながら立ち上がると、テーブル布巾を貞宗の前に置いた。
すると、そそくさと食べ終わった食器を持って、奥の部屋へと行ってしまうのであった。
貞宗は目の前に置かれた布巾を手に取ると、面倒臭そうにテーブルを拭き始める。
大きめなテーブルではあるが、貞宗は立ち上がろうともせずに、自分の前だけを適当に繰り返し拭いていた……
「ちゃんと拭かないと、クリスさんに怒られるっスよ?」
「ん? あ、ああ、そうだな」
「水谷、悪いがそっちを拭いてくれ」
そう言いながら、布巾を正秀に渡そうとする貞宗。
正秀は布巾を受け取るが……
「ほらっ」
そのまま為次に渡そうとするのだ。
為次の顔の前で揺らす汚れた布巾がヒラヒラしている。
あからさまに嫌そうな顔をしている為次は受け取ろうとはしない。
「いらないよぉ」
「遠慮しなくていいぜ」
「してないし、マサが拭いてよ」
「俺は今、傷心中だぜ」
「ふぁ? 何を自分で…… 意味分かんない」
「とにかく、ほらっ」
今度は布巾を為次の頭の上に乗せたのだ。
「ちょ、もぉー」
為次は眉間にシワを寄せながら、頭の上にある布巾を手に取ると綺麗に畳み始めた。
そして、そっとテーブル上に置く。
「つか、綺麗でしょ。拭く必要ないよ」
テーブルの上はどう見ても汚い。
食べカスが散らばっており、すき焼きの汁とかが、こびり付いている……
「確かに綺麗と言われれば綺麗だぜ」
「うむ、じゅうぶんだな」
「キレイキレイ」
貞宗の目の前だけは、汚れが拭き取られているが、全体的に汚い。
しかし、野郎3人は何故か満足そうである。
「ふー、ひと仕事終わった後は何か飲みたいね」
「ああ、綺麗にすると気持ちいいしな」
「うむ、そうだな少し待っていろ」
貞宗は立ち上がると、リビングの食器棚に向かう。
しばらくガサゴソと棚を漁ると、ビンとグラスを3つ持ってきた。
そして、ビンとグラスで食べカスを払いながらテーブルの上に置く。
「どうだ、取って置きのウイスキーだぞ」
ビンの中には、鮮やかな琥珀色の液体が入っている。
「おおっ! やたー」
「これは…… ゴクリ」
「では、注いでやろう」
ウイスキーの蓋を開けると、周囲にほのかな甘さを感じる香りが漂うのだ。
トクトクと心地良い音を立てながらグラスに溜まって行くウイスキーは、日の光を浴びたトウモロコシ畑の如く、黄金色の輝きを見せていた。
最早3人は我慢できたものじゃない。
一刻も早く喉に通して、味と香りと喉越しを楽しみたいのだ。
「は、はよ」
「そう、急かすな。山崎」
「しかし隊長、為次じゃありませんが、これはもう我慢不可能です!」
「分かった、分かった。では、久しぶりの再開を祝して乾杯といこうじゃないか」
「はいっ」
「はーい」
3人はそれぞれのグラスを手に取り、立ち上がる。
「それでは、俺達の再開を祝して…… 乾杯!」
「「かんぱーい!」」
ガチガチとグラスのぶつかる音がリビングに響く。
その音は、FM音源はもちろん、波形メモリ音源で作ったグラスの響く音よりも聞くに耐えない。
現実とはそんなものだが、今の彼らにとってはどうでも良いことだ。
待ってましたとばかりにグラスを煽る。
「ゴクゴク」
「ごきゅごきゅ」
「んぐん」
グラスに注がれた、アルコール43度のウイスキーはストレートで一気に呑み干される。
次の瞬間、軽やかな風が吹き抜ける心地良い感覚が全身を駆け抜ける。
「うめーっ!」
正秀は先程まで落ち込んでいたことなど忘れウイスキーを堪能した。
「かーっ、こいつはたまらんな!」
「な、な、な、まさかこれはっ!?」
「ふふっ、気が付いたか? 山崎よ」
「このフルーティに甘く、軽やかな味わい…… 間違い無い! これは『知多』だ!」
「流石だ! よく分かったな! 山崎」
「これが『知多』、あの180mmビンで1000円以上する……」
「そうだぞ水谷。ここまで完璧に再現するのに10年以上かかったからな。名付けて、パーフェクトグレーンだ!」
「うぉぉぉ、最高なネーミングっスね!」
「やったぜ!」
「隊長さん、お替りっ!」
為次はグラスを突き出す。
「まあ、待て、とりあえず座ろう」
3人はパーフェクトグレーンのあまりの美味さに、立ったまま興奮気味なのだ。
貞宗に指摘されるまで、座ることすら忘れてた。
正秀と為次は顔を見合わせると、少し落ち着きを取り戻たようで、ゆっくりとソファーに座った。
「ふう…… 危うく自分を見失うとこだったぜ」
「これはヤバイね」
「そうだろう…… と、どっこいしょ」
貞宗もおっさん臭いセリフを吐きながら、ソファーに座った。
「だけど、おつまみも欲しいよね」
「ああ、確かにな」
「クリスは何処に行ったんだ? 何か作って欲しいのだが」
「洗濯とか言ってなかったっスか?」
「まったく、肝心な時に居ないとは」
「洗濯なんて、何時でもできますしね」
「うむ、洗濯など後回にしろと言いたい」
「隊長の奥さんも薄情な人ですね」
「ほんとだ、役に立たない奴だな」
「なんか、無いっスかね……」
ツッコミ役が居ないせいで、言いたい放題だ。
そんな酒の肴を探す彼らの目に、汚れたテーブルの隅に置かれた洗面器が目にとまる。
中には、スイが詰め込んだ先程の料理がムッチムチに入っている……
為次は洗面器を手元に繰り寄せる。
「見た目はアレだけど、これもクリスさんの作った飯だし」
「確かにそうだな、どれどれ……」
正秀は洗面器の中の、すき焼きらしき部分を手で握り取り食べてみる。
「もぐもぐ……」
「どう?」
「食えるか?」
「うん、美味しいぜ」
「じゃあ俺も」
「うむ、俺も食うかな」
野郎どもは、グチョグチョの料理を手掴みで食べ始める。
そして、再び注がれたパーフェクトグレーンを煽るのだ。
「これは、止まりませんね」
「10リットルは飲めるっス」
「そうだろう、そうだろう」
肴が欲しければ、キッチンへ行けば何かしらあるし、そもそもレオパルト2には積み込めないほどの食料が、たんまりとあるのだが……
だが、取りに行くのが面倒臭いので誰も取りに行こうとはしない。
美味たるウイスキーを堪能するのが最優先なのである。
だから、誰もそのことは口にせず、暗黙の了解の如く洗面器飯を肴に盛り上がろうとしていた。
「ウィーッス…… それで、先程の話の続きなんだが……」
「なんでしたっけぇ? ふぅ~」
「今後についてだ、今後」
「ああ~、金剛」
ボケる為次。
「金剛ですか? 戦艦ですか?」
「違うそうじゃない。これからについてだ。水谷達の金剛だ」
「ああ、今後か金剛ですね」
「うぃ~、金剛ぉ~」
野郎どもは酔いも回ってきた様子で、楽しそうに会話を始める。
「うむ、金剛はもういい」
「ジョーダンっスよ、ジョーダン」
「知ってるぜ」
「レオの修理でしょぉ」
「うむぅ、それのことも含めてだが……」
貞宗が何か言おうとした時であった……
グチャ!
為次は洗面器の中に手を突っ込むと、酔いのせいだろうか?
ひっくり返してしまった。
洗面器の中身がテーブルの上にばら撒かれ、汁が滴る……
「あ! 何やってんだよ為次」
「うぃー、めんごめんご」
為次はテーブルの上に散らばった、なんだかよく分からなくなった料理だった物を握ると食べてしまった。
「もぎゅもぎゅ…… うん、大丈夫」
「どれどれ」
貞宗も食べてみる。
洗面器だろうがテーブルの上だろうが味は変わらない。
「うむ、上手いな、食べやすくなったしいい感じだ」
「でかしたな為次!」
「てへへぇ~」
最早、何がなんだか分からない状態だが、酔ってる彼らにとってはどうでも良いことなのだ。
そして、そのままの勢いで、これからの行動についての相談を始めるのであった……
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一方、クリスは溜った洗濯物を鼻歌を歌いながら洗っていた。
「ふふ~ん♪ やっぱり、綺麗にすると気持ちいいわね。うふふ」
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