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異世界編 2章

第77話 襲来

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 あれからどれ程の時間が経ったのだろうか……

 それは、とても長い時間に思えたであろう。
 野郎3人がクリスから開放されたのは、1時間以上もの時が過ぎてからであった。
 こっぴどく叱られて、開放された頃には、すっかり酔も覚めてしまっていたのだった。

 結局、リビングの掃除は女性達の仕事となった。
 男達に任せると、何をしでかすのか分かったものではない。
 掃除に夕食の準備に後片付け、女性達は慌ただしい午後を過ごした。
 反面、男達は特にやることも無く、風呂に入ってゴロゴロしながら飯を食うだけで、邪魔者以外の何者でもなかったのでした。

 ※  ※  ※  ※  ※

 そして、その日の夜……

 正秀と為次は、中庭で夜空を見上げていた。

 「夜も明るいし星空も綺麗だけど、ここは狭っ苦しいね」

 「ああ、こうも建物に囲まれてちゃぁな」

 ここポンタの街は区画整理されており、道が碁盤の目状になっている。
 その道に囲われたマス目の場所に様々な建物が並んでいるのだ。
 そして建物もマス目を縁取るように建てられおり、空いた中心部が共同の中庭になっている。
 これはモンスターに襲撃された際に、街の外壁が突破されても、中庭を避難所とする為にと、貞宗が自分で考案した建築方法だと教えてくれた。
 その為に、建物の裏側の窓や扉のすべてには、鉄格子が設けられている。

 「しかし、隊長もよく考えたものだぜ」

 「うん、建物と道だけで、殺風景な街だって思ってたら、こんな場所があるとはねぇ」

 「隊長は本気で、この世界で生きて行くつもりなんだな」

 「俺は帰るけど」

 「俺もだぜ…… たとえ300年が過ぎ去っていてもな」

 「でも……」

 為次は答えることできなかった。
 本当は帰る宛など、まったく無いことを。

 夜空に浮かぶ、銀色のリングをくぐった所で、何処へ通じているかなど知る由もない。
 実際は何処にも繋がっていないことも当然、考えられる。
 しかも、再び次元を移動しようものならば、更にどれだけの月日が経ってしまうのか。
 最悪なとこ、地球が生命の住めない星になっていたとしても、星の形が残っているだけでマシかも知れない可能性まである。

 「でも、なんだよ?」

 「あ、いや…… アレだわ、帰ったら墓参りが忙しいなって」

 「墓参り? ははっ、それもそうだな、指輪も供えないとだぜ」

 「う、うん」

 「なぁ、為次」

 「ん?」

 「俺も覚悟を決めたぜ」

 「は? なんの?」

 「この指輪を必ず渡しに行く」

 正秀はポケットの中から指輪の入った箱を取り出し、蓋を開いて指輪を為次に見せた。

 「え…… でも……」

 「ははっ、心配するな。俺だって分かってるぜ。昼間にクリスさんに怒られた後、俺も色々と考えてみたんだよ、暇だったしな」

 「そう……」

 「隊長や87式の隊員達は、帰れないと知ってからどんな思いだったのだろう? ってな」

 「どうなんだろね?」

 「さあな、やっぱ分かんなかったぜ。人の思いなんて人それぞれだ。俺は俺の思いで生きて行く、それだけだ」

 「……へぇ」

 「だから当初の予定通りに、お前を信じることにした」

 「は?」

 「帰してくれるんだよな? 日本へ」

 「…………」

 「俺は、お前に責任を押し付ける! 為次が諦めた時が俺も諦める時だ!」

 「え…… ちょ、意味わかんない」

 「気にするな。たとえ、どれだけの時間がかかろうが構わないぜ」

 「マサ……」

 「一緒に帰ろうぜ! 安全運転でな」

 「はぁ…… しょうがないなー。分かったよ、やるだけのことはやってみますか」

 「おうっ」

 そうして、二人は再び帰ることを誓い合う。
 そんな時だった、遠くから鐘の鳴る音が聞こえる。

 カン カン カン カン カン

 「ん? なんの音だ?」

 「鐘?」

 鐘の音は、最初の音に釣られるかのように、他の場所からも鳴り響いてきた。
 瞬く間に、街全体から鐘のが響き渡る。

 「うるさいですな」

 「やかましいぜ」

 鐘の音が鳴ると、他の建物から人々がぞろぞろと中庭へと出て来た。
 皆は一様に、何かしらの武器を携えている。
 二人は何事かと、辺りをキョロキョロするが、なんだかよく分からない。
 正秀は建物から出て来た1人の女性を捕まえると、何かあったのか問いかけてみる。

 「どうかしたのか?」

 「モンスターの襲撃よ、知らないの?」

 「襲撃だと!?」

 「ええ、自警団と冒険者の方々が防衛して下さるけど、私達も自分の身を守れるようにするのよ」

 「分かったぜ、ありがとな」

 「どういたしまして」

 正秀は事の成り行きを理解すると、為次へ今しがた聞いたことを伝えた。

 「へー、じゃあここに居れば安全だね」

 「馬鹿野郎、俺達も隊長のとこへ行くぜ」

 「え? 俺も?」

 「当たり前だぜ」

 正秀は為次の腕を掴むと、引っ張りながら貞宗宅へと入って行くのだった。

 ※  ※  ※  ※  ※

 家に入ると、スイとマヨーラが何かおしゃべりをしている。

 「あんたも見る目が無いわねぇ、あんなバカのドコがいいのよっ」

 「全部がいいのです。全部素敵なのです。それにカッコイイです」

 「確かに見た目はそこまで悪くないけど、やっぱりカッコ良くて優しいのはマサヒデね!」

 と、そこへ正秀が為次を引っ張ってやって来た。

 「ん? 俺がどうかしたのか?」

 「え? ギャァ―――!! マ、マサヒデ」

 「何やってんの? マヨスイ」

 「どっちが凄いのか比べ…… むぐむぐ……」

 マヨーラは慌てて、スイの口を塞ぐのだ。

 「な、なんでもないわよ!」

 「むぐむぐ、もがもが」

 「スイ、黙りなさい」

 「もぐー」

 「と、それより、隊長…… 貞宗さんはどうしたんだ?」

 正秀は部屋を見渡すが、貞宗とクリスの姿が見見当たらない。

 「ああ、それなら緊急事態だー、ってクリスさんと一緒に飛び出して行ったわ」

 「なるほど、モンスターの討伐に向かったのか」

 正秀は言った。

 「そうそう、後でマサヒデとタメツグも連れて手伝いに来てくれって」

 「よし、分かった。それなら俺達も向かおうぜ」

 「そうね、そうしましょ」

 「俺は行っても何もできないんだけど」

 「為次…… スレイブと戦って勝ったんじゃなかったのか?」

 「うーん、だってダイコンの時も何もできなかったしぃ」

 「あんた、気功士の能力は本当に使えないの?」

 「使えなかったじゃない、マヨも見てたでしょ。デザ撃つくらいしかできんよ」

 「ほんと約立たずねぇ」

 「仕方ない、そんじゃ俺達だけで行くか。マヨーラ、スイちゃん」

 「ええ、行きましょ。役立たずは置いといて」

 「私はご主人様と一緒がいいです」

 「そうか、それじゃ為次のことは頼んだぜ。スイちゃん」

 「はいです、ご主人様はスイが守るのです」

 「じゃ、為次、スイちゃんまた後でな」

 さっそく行こうとするのだが、為次に呼び止められる。

 「あ、ちょっと待って」

 「どうした?」

 「こっち来て」

 と、手招きをしながら倉庫へと入って行く。
 何かと思い、三人も為次について行った。

 ※  ※  ※  ※  ※

 倉庫へ行くと、為次はレオパルト2の車内に入って何かゴソゴソし始めた。

 「何やってるんだ?」

 「早くしなさいよ」

 「ちょっと待ってー」

 しばらくすると、為次は手に無線機を持って出て来た。

 「はい、これ」

 そう言いながら無線機を正秀に渡した。

 「無線機か、どうするんだ?」

 「どうって、ヤバそうならそれで連絡して。迎えに行くから」

 「お、そうか、サンキューな為次」

 「何それ?」

 「無線機だぜマヨーラ。これで離れていても連絡が取れる」

 「へー、鏡みたいなものね」

 「鏡?」

 「ええそうよ、鏡と使い魔で遠くの人ともお話ができるの」

 「そりゃ凄い」

 為次はちょっと感心した。

 「その鏡は今使えるのか?」

 「マサヒデ達は、使い魔を持ってないでしょ」

 「持ってないぜ」

 「マヨは持ってるんだ?」

 「今は、ターナの所に居るわ。連絡を取るのにね」

 「なるへそ」

 「じゃ、今回はこの無線機でいいな」

 正秀は戦車の砲塔に飛び乗ると、置いてあった大剣を手にする。

 「よし! 言って来るぜ」

 「行ってらっしゃーい」

 「行ってらっしゃいです」

 「おう」

 「行ってくるわね」

 そうして、正秀とマヨーラは倉庫を出るとどっかに走って行く。
 鐘の音は何時の間にか鳴りやんでいた。
 代わりに、遠くで人々の叫ぶ声と獣の吠える声が聞こえて来るのであった。

 ※  ※  ※  ※  ※

 その頃……

 王宮飛行艇は、ポンタの街から少し離れた森の上空で浮いていた。

 甲板の上ではターナ、スレイブ、ニクミの3人がポンタの街の様子を伺っていた。
 街の入口付近では、人々と魔獣の群れが入り乱れているのが遠目に見える。

 「どうかしらね、ちょっと早かったかしら……」

 「大丈夫だとは思うよ。母さん」

 「スレイブちゃんの言う通りよ。あの街の人達なら雑魚は大丈夫よ」

 「そうですわね」

 「本命には魔法も仕込んであるわ。危なくなったら倒す前に爆破しましょ」

 「それでも、異世界人達の活躍を見てみたいのですがね」

 スレイブは皮肉そうに言った。

 「タメツグちゃんは、出て来るのかしらぁ?」

 「あいつはどうでしょう? マサヒデは来ると思いますが」

 「そうねぇ……」

 ターナは2人の会話を聞きながら、後ろを振り返る。
 そこには、ガラスのような物で出来た容器が鎖で縛られて置いてある。
 それは、神殿の増殖プラントに置いてあった培養ポッドであった。
 容器の中で眠る謎の生物を見ながらターナは微笑む。

 「これで成長も更に早まるわ」

 そのターナの言葉にスレイブとニクミも振り返る。

 「うん、もう直ぐだよ母さん……」

 「そうね。うふふ」

 ターナは両腕を謎の生物に掲げながら叫ぶ。

 「さあ! すべての魂を喰らいつくすのよ! 神々を迎え入れるのは、もう直ぐよ!」

 月の光に神々こうごうしく照らされるターナを、ニクミは複雑な気持ちで見ながら思う。

 もし、あれが本当なら……
 ターナに同じ過ちを犯させる分けには行かないわ。
 タメツグちゃん、お願い……

 と……
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