異世界に吹っ飛ばされたんで帰ろうとしたら戦車で宇宙を放浪するハメになったんですが

おっぱいもみもみ怪人

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異世界編 3章

第121話 便所

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 惑星の影に入ると、きらめく星々が宇宙を覆い尽くす。
 渦巻き銀河の中心から離れた地球では、見ることのできない光景だ。
 言うなれば、辺り一面が天の川なのである。
 それはもう、川ですらないのだが……

 「マサぁ、見つかった?」

 「いや」

 「何処に行ってしまったのでしょうかぁ」

 衛星軌道に乗ってからモノポールリング探しが始まった。
 地上からでもアレだけ大きく見えたので直ぐに発見できると思っていたが、まだ見つからない。
 もっとも、まともに探しているのは正秀だけだが……
 スイも一応は探しているのだが、如何いかんせん砲手席のペリスコープでは周囲があまり見渡せない。
 マヨーラに至っては、嬉しそうに正秀を見ているだけである。

 「しょうがないなー、俺も探してみるかぁ」

 「レオの調子はどうだ?」

 「うん、問題は無さそうね」

 為次は車両のチェックで探している暇が無かった。
 だけども、それも今し方終わったようでペリスコープを覗き始めた。

 「うーん、軌道が低すぎるか」

 「地球が邪魔なんだぜ」

 「地球じゃないけどね」

 「分かってるけど、地球でいいだろっ」

 「はいはい」

 低軌道での速度は速い。
 基本的に星から離れる程、遅くなる。
 青い星の彼方より太陽が昇り始めると、夜明けは見るみる内にやって来た。

 「おっ、太陽だぜ」

 「眩しいのです」

 「マサヒデの姿も眩しいわ」

 太陽と共に銀色に輝くリングも、その姿を現し始めた。
 どの位の距離に有るのだろうか?
 宇宙では距離感すらも無くなる。

 「おっ、見えてきたぜ」

 「だね」

 「私も見たいのです」

 「ああ、そっからじゃ見辛いよな。スイちゃん砲手席に行くかい?」

 「ごしゅ…… タメツグ様と一緒に見るです」

 「おう、待ってな回してやるぜ」

 「や、回さなくてもいいよ」

 「遠慮するなよ」

 「してないし、来られても狭いし」

 「タメツグ様、今参りますよ」

 「いやいや、来なくていいよ」

 為次の拒否を無視して砲塔を旋回させる正秀。
 即用弾薬庫への給弾位置、約右90度から更に少し回す。

 ウィィィィィン

 すると、砲手席の脇にある砲塔バスケットの大きな隙間が運転手席の後ろへと位置した。
 そこからスイは嬉々としてあるじの元へフワフワと泳いで行くのだ。

 「お待たせしましたっ」

 ゴチン!

 「あいにゃっ!?」

 「うわぁ」

 勢い余って、消化器にぶつかってしまった。

 「んも、壊さないでよっ」

 「壊してないのです!」

 「自動消火装置なんて修理できないのに、もぉー大丈夫かなー」

 自分の心配よりも消火器を心配するあるじに、ちょっと不満そうな顔をする。
 それでも、そばへと行きたいので慣れない無重力の中でも頑張って狭い車内を移動する。

 なんとか辿り着き為次に抱き付いた。

 「ちょ、狭い」

 「狭い方がいいのです」

 「んも」

 文句を言いながらも、密着するおっぱいの感触にご満悦である。

 「まあいいや…… それより見てよ、あれがリングだよ」

 「んー?」

 スイは体を捻り、ペリスコープを覗くとモノポールリングが見える。
 地上から見るよりも更に輝き、その美しさを増していた。

 「綺麗なのです」

 「そうだねー」

 「あそこへ行くのですね」

 「そうだよ」

 自分の前で浮かぶスイを抱き寄せると、コンスクを手に取る。

 「よし! じゃあ近づいてみるかな」

 「はいです」

 「今度は、そこら辺にぶつけないようにしてねー」

 「こっちはオッケーだぜ」

 「おけって、砲塔前にしないと」

 「おっと、そうだったな」

 また加速で後ろへと体が押し付けられるので、砲塔の向きを前方に戻す。
 横に向けたままだと、また変な所に押し付けられて怪我をするかも知れない。

 「じゃ行くよー」

 「おう」

 パパン パン パン

 小刻みにスラスターを吹かし車体をリングへと向ける。

 「発車」

 ドドドドドーッ!

 後方から激しい連続爆発の音が聞こえると同時に、体がシートへと押さえつけられる。
 レオパルト2はグングンと加速し、地上ならば音速を遥かに超えるであろう。
 もっとも、スペースシャトルの周回軌道で時速約2万8千キロである。
 低軌道に居た時点で、それ以上の速度は出ていたが……

 宇宙では地上で考えるような速度は、あまり意味をなさない。
 地球の公転速度で約時速10万8千キロ、太陽系の移動速度が約時速86万4千キロなのだ。
 更には天の川銀河の移動速度まで考慮すれば……

 人間は寝ていても尋常では無い速度で移動している。
 だから、基本的に相対速度で考える必要がある。

 「きゃぁぁぁ! マサヒデー」

 マヨーラは嬉しそうに悲鳴を上げながら抱き付いている。
 しかし、それも束の間。
 ある程度スピードに乗っただろうと判断した為次は出力を弱めた。
 後は慣性走行・・で近づく。

 「キャー、キャー」

 「マヨーラ……」

 加速は終わったが、まだご機嫌に騒ぎながら抱き付いていた。

 「もう終わったぜ」

 「キャー…… ャー……」

 「お、おう……」

 「…………」

 暫し、沈黙が流れるのであった……

 ……………
 ………
 …

 そんな、沈黙を破ったのは為次だった。

 「ありゃりゃ」

 「ど、どうした?」

 「リングが何処かに行ってしまいましたです」

 「そうだねー」

 外を見ると確かに正面に見えていたリングが無い。
 周囲を見渡すと、左手を通過して行くのが見える。
 どうやら高度が全然違ったらしい。

 「うーん、仕切り直しだな、こりゃ」

 「仕方ないぜ」

 「うん」

 「ねぇ、ちょっと……」

 「どうした? マヨーラ」

 と、正秀が訊くも、マヨーラは為次に訊く。

 「タメツグ、いつ着くのよ……?」

 さっきまでご機嫌だったが、何やら神妙な顔付きになり正秀の上でゾモゾしている。

 「さあ?」

 「さあ、って…… ふざけないで!」

 「え? どうかしたの? お腹でも空いた? マヨ」

 「違うわよっ! ……ひっ」

 「マヨーラ? 大丈夫か?」

 マヨーラは正秀の心配も他所に何も答えない。
 それよりも、顔を真っ赤にしながら股間を押さえ始めた。
 なんだか涙目になりながらプルプルしてるし。

 「なんだ、おしっこか?」

 「ぎゃぁぁぁぁ! ち、違っ、違……」

 どうやら正解らしい。
 とうとう泣き出してしまった。

 「うっ、うえぇ、うぅぅぅ…… まだなの……」

 正秀の顔の前に、水玉となった涙が浮かぶ。
 流石に、お股を押さえて涙を流すマヨーラを見れば、トイレへ行きたいのを察することができた。

 「我慢できないのか?」

 「うぇぇぇぇん、もう無理よぉー」

 「スイの席におトイレがあるのです」

 「嫌よ! あんなの只の箱じゃない、うわぁぁぁん」

 「箱があっても無重力じゃ使えないんじゃないのか?」

 「あっ、確かに……」

 「うぎゃぁぁぁぁん! もう駄目ーっ! 外に出るわぁぁぁ!」

 泣き叫びハッチに手を掛けるマヨーラを正秀は必死に抑える。
 ジタバタと暴れるので、たまに引っ掻かれてしまう。

 「痛ててて、マヨーラ落ち着けって」

 「無理ムリむり! うわぁぁぁん、もう外に出してよォ!」

 「それこそ無理だって! 死んでしまうぜ」

 「こんなとこで漏らすくらいなら、死んだ方がマシよっ!」

 「なあ、為次なんとかならないか?」

 「んー…… 仕方が無い、一旦重力を作ろう」

 「そんなことできるのか?」

 「減速するだけだよ」

 「そうか、よしマヨーラ隣に移動するんだぜ」

 「だってぇ! あんな箱」

 「本気で車内で漏らすのか?」

 「うぎゃァァァァァ!」

 このまま我慢するのは不可能なことを自分が一番理解している。
 だからマヨーラは泣き叫びながらもスイの居る装填手席へと移動した。
 正秀も隣の席はマズかろうと、砲手席に戻るのだった。

 「マヨ、箱を床に押さえ付けてまたがったら教えてね」

 「うっさい! 早くなさいよっ!」

 「スイはタメツグ様を見張ってるのです」

 「覗かないってば」

 「ちゃんと見張ってるのよスイ」

 「はいです」

 「ほんとにもういい? こぼさないでね」

 「うぎゃぁぁぁぁぁっ!」

 「紙は箱と一緒に置いてあるはずだけど」

 「あああ、もうっ! 分かってるわよっ!」

 正秀は車長席へ身を乗り出し、そっとマヨーラを見る。
 どうやら大人しく、しゃがんでいる様子だ。

 「為次、いいみたいだぜ」

 と、為次に囁く。

 「おけ」

 「ちょっと待ちなさい! タメツグ、あんたの上着を貸してちょうだい」

 「へ?」

 「上着よ! その汚い上着をこっちへ寄こすのよっ!」

 「なんで?」

 「なんでもいいから、早くっ!」

 「えー……」

 「とにかく、貸してやったらどうだ?」

 「んも、しょうがないなー」

 上着を脱ぐと、正秀に渡す。
 それからマヨーラに渡した。

 「ほら」

 「あ、ありがと」

 受け取ったパーカーをしゃがみ込む自分の横に、カーテンのように掛けた。
 どうやら仕切りのつもりらしい。

 「いいわよ」

 「ちょっと、もしかして俺のパーカー便所の壁にした?」

 「いいって言ってるでしょ!」

 「いやいや……」

 「早くしなさいっ! 漏らすわよ、漏らしてもいいのね!?」

 「おい、為次」

 「くそっ」

 渋々、メインスラスターの出力を上げ、徐々に加速する。
 先程の加速と合わせて、かなりの速度となった。
 そこで姿勢制御をし、ピッチを90度上げると同時に下部スラスターを噴射するのだ。

 「んじゃ、行くよー、長くはもたないからねー」

 「…………」

 マヨーラは何も答えずに便所箱を股で挟んで押さえていた。

 ドドドドドーッ!

 今までフワフワと車内を漂っていた、食料も体も下へと押し付けられる。
 あたかも重力が発生したかのように感じる。

 「よし、今だぜ! 思いっ切り出しな。すっきりするぜマヨーラ」

 「もう嫌ぁぁぁぁぁッ!」

 じょぼじょぼじょぼ……

 じょぼ じょぼ

 「「「…………」」」

 ぶりっ ぶりぶり……

 「うお……(大きい方もか)」

 「ちょ……(うんちかよ)」

 「はぅ……(うんこちゃんです)」

 加速度を得ると、再び車内は無重力となる。
 こうばしいかおりと共に……

 「終わったわ……」

 「お、おう……」

 「じゃあ次は俺ね」

 「むむっ!? タメツグ様!」

 「こっちに来たら殺すわよ、タメツグ」

 「え? だって俺もおしっこ」

 「駄目なのです! 絶対にタメツグ様は箱の中身を確認する気なのです!」

 「うぎゃぁぁぁぁぁ! バカ! 変態! タメツグ!」

 「おい為次、お前そんな趣味だったのか?」

 「ち、ちが…… う、かも」

 「むむー! 次はスイです! 私がするのです、タメツグ様はその次なのです!」

 「なんで……」

 「スイちゃん…… あ、俺もしたくなってきた」

 「ううっ、もう帰りたい……」

 無限に広がる大宇宙。
 そこは謎と神秘が溢れる夢の世界。
 誰しもが夜空に瞬く星々を見上げ、美しい世界に憧れたこともあるだろう。

 しかし、現実は……

 うんこ臭かった。
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