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異世界編 3章
第122話 接近
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―― 水の惑星を飛び立ってから6日目の朝
レオパルト2は未だモノポールリングを追いかけていた。
もっとも宇宙では朝や夜が無いので、地球時間での計算である。
見知らぬ星も正確な自転周期こそ分からないが、1日の長さは地球と差ほど変わらなかった。
初日のトイレ騒動以来、戦車クルーの皆と言えば、死んだ魚のような目をして口数も少なかった。
異臭漂う車内にウンザリ気味の様子である。
「為次」
「…………」
「為次っ」
「…………」
「為次ちゃーん」
「…………」
「うぉい! 為次ってばよっ!」
「マサうるさい」
「なーっ! いつになったら着くんだよぉ」
「さあね」
「……くそぉ」
「…………」
あれから皆はウンコして、ご飯を食べた。
そしてまた、ウンコして食べて……
最初のトイレが終わった時点で、既に臭いは気にならなくなっていた。
それでも、1つだけ良いことがあった。
静止すれば重力が発生するのを思い出したことだ。
いちいち減速によるGを発生させなくとも、ゆっくりとウンコできる。
まあ、どうでもいいことのような気もするが……
為次以外は何もすることが無い。
ただ、食って出すだけの豚のような生活だ。
否、その身と命を持って人間様の舌を楽しませるブタちゃんの方がマシかも知れない。
「ブヒブヒブヒー」
何を狂ったのか、豚の鳴き声をマネしながら車長席へと移動する正秀。
当然そこにはマヨーラが居るのだが。
「どうしたの? マサヒデ。あたしの傍がいいの?」
「マサ?」
「トンカツさんのマネなのです」
トンカツがこちらの世界で豚に似た生物であることは、なんとなく察しが付いた。
それでも一応、どのような生き物か聞いてみる為次。
「トンカツってどんな奴なの?」
「ブヒブヒ鳴きながら鋭い牙で木を食べるです」
「へー、木を食べるんだ」
「そうなのです、賢いので勝手に扉を開けては食べてしまう困った野獣です」
「ドア食べちゃうんだ……」
「はいです」
などと話している内に、正秀は車長席へ行くとハッチに手を伸ばしていた。
「ブヒブヒ」
「ちょっとぉ、マサヒデそこは開けちゃダメよ」
「っ!? 何してんの!」
慌てて振り向く為次だが車長席はよく見えない。
「外に出たいみたいね」
「出るブヒー」
「やめろっ! マヨマサを止めるんだ!」
「え、ええ」
「オープン ザ ブヒー」
「ダメよマサヒデ、席に戻って大人しくしてて」
「やだー、暑いんだぜー、出るブヒー」
「ダメだったら、あたしだって暑いの我慢してるのよ」
「ブヒー」
車内は暑い。
レオパルト2A7にはエアコンが付いているが、それでも暑い。
宇宙空間では空気が無い為に冷却できないのだ。
正確には赤外線放射によって熱は放出されるのだが、溜め込んでしまう熱量の方が多い。
車体の色があまり宜しくないからである。
自衛隊オリーブドブラ色は結構濃い緑色だ。
黒色とまでは行かないものの、太陽から発せられる熱を吸収しやすい。
とは言え、それよりもエンジンの熱量が半端ないのだが……
「んも、臭いと暑さで狂ったか……」
「マサヒデ様はトンカツ様になってしまいました」
「暑いー、暑いー、開けるブー」
「駄目だったら、もう」
「あーもー、もうちょっとだったのに」
この数日間でモノポールリングの軌道が、だいぶ分かってきた。
どうやら静止軌道までは行ってないらしい。
3万5千キロ以上など、それこそウンザリだ。
多分、星から数千キロと言ったとこであろう。
意外と近く、為次は一人安心していた。
それでも、未だ辿り着けない。
初めは目測で突っ込んでいたのだが、どうにも上手く行かなかった。
それは、当たり前のこと過ぎた。
距離も、大きさも、速度も、何もかもが分からない状態で無茶もいいとこである。
そこで次に考えたのが、徐々に高度を上げ同じ軌道に乗ったとこで速度を落として待つ方法である。
これならば、無理に追いかけなくとも一周回って向こうからやって来るはずだ。
問題は速度を落とすと降下してしまうことだった。
その高度の衛星軌道に必要な速度より遅くなれば、惑星の重力より遠心力の方が弱まってしまう。
これを解決する為に、リバースグラビティをバラストとして使用することにした。
特に難しいことではなく、単純に足りない遠心力を反重力魔法で補うだけなのだ。
何度かトライはしてみた。
しかし、これも駄目だった。
待っているつもりなのだが、モノポールリングは明後日の方角へと行ってしまう。
もう何がなんだか分からなかった。
原因が判明したのは昨夜のことであった。
なんどもやっている内に、ようやく気がついたのだ。
モノポールリングは円軌道で惑星を回っている。
しかし、レオパルト2は為次の適当な運転によって、毎回楕円軌道となっているのだった。
当然だが、静止状態では待っていない。
時速2万キロ以上で突っ込まれでもしたら、ひとたまりもないから。
そんなこんなで、やっとこさ慎重に軌道へと乗ろうとしていた矢先である。
正秀が駄々を、こね始めた……
「はぁ、しょーがない、一旦冷却タイムにするか」
「そうね、そうしましょ」
「ウッホ、ウッホ」
「ふふっ、マサヒデもご機嫌になったわ」
「そりゃ良かった」
「ウッホ、ウッホなのです」
熱対策は完全に魔法頼みである。
ウォーターアローやアイスストームなど水系魔法の応用だ。
システムは実に単純で、車体前方に水を撒く。
それだけであった。
「冷却開始かも」
「ウホーッ!」
水素パルスエンジンとリバースグラビティを停止させる。
同時に魔法を使用すれば、魔導機関への負荷が大きいからと貞宗に注意をされていた。
ましてや、エレメンタルストーンが使用実績の無いパープルストーンである。
用心に越したことはない。
負荷が増大すれば実際どうなるかは分からないが、既存のエンジンが停止するのだけは避けたい。
酸素の供給源だからだ。
「ウォーターフィールド展開っと」
「ウッホーター!」
「うざい……」
慣性走行をするレオパルト2の直前に水の膜が現れる。
現在の運動エネルギーより若干ベクトルを弱めた状態で発生させた。
静止状態で発生させれば、極音速を遥かに超えた速度で突っ込んでしまう。
逆に同じ運動量ならば延々と目の前に水があるだけで、入水不可だ。
ジャバ ジャバ ジャバ
装甲を通して水の音が車内に響く。
徐々にだが、温度が下がり始めるのであった。
……………
………
…
「ふう、気持ちいいぜ」
「臭いけどね」
ようやく車内温度も下がり、エアコンもその効果を現し始める。
それでも、腐臭は無くならない。
「良かった。正気に戻ったわね、マサヒデ」
「おう」
「トンカツさんは、何処かへ行ってしまいました」
「水でも飲むかな、便所水だぜ」
「トイレではないのです、スイのお部屋です」
「その割には、ずっと為次の部屋に居るじゃないの」
「はうっ、そ、それは……」
「ははっ、スイちゃんは為次と一緒がいいんだよな」
「そ、そうなのです、タメツグ様のお世話をするのです」
「それじゃ、スイちゃんの部屋から水を貰うとするか」
「あ、マサヒデ、あたしも」
「おう」
装填手席へと移動し即用弾薬庫から水筒を取り出す。
実のところ水はわざわざ持って来る必要はなかった。
冷却水同様に魔法で出すことはできるから。
けれども、なんだか気持ち悪い。
何も無い所から突然湧き出る水など、あまり飲みたくはない。
もしも便所の水を放水してますとかだったら最悪だ。
もっとも、為次は宿屋でウォーターアローを直飲みさせられたが……
「ごくごくごく、プハー! マズイ! もう一杯」
美味しそうに水を飲んだ正秀だが、彼の言うようにウンコ臭いのでマズイ。
「ただの水よ…… ごくごく」
「もういい? 行くよ」
「おう、いつでもいいぜ」
「今度はちゃんと着くのかしら?」
「大丈夫だって」
「ホントなの…… でもタメツグじゃねぇ……」
「多分絶対大丈夫」
「どっちだよ……」
「はぁ…… 当てにならないわね」
「とにかく発車」
「発車しまーす、です」
一時の休息も終わり、レオパルト2は再び走り出す。
遠くには迫り来るモノポールリングが見えてきた。
この数日間で概ねの高度は分かってきたので、リバースグラビティ作動させ慎重に高さを合わせる。
「よしゃ、このへんかも」
後は速度と軌道の問題だ。
モノポールリングから目を離さない為に、車体を反転させ正面に捉えた。
衝突しないよう、更に逆進をかけ加速する。
逆に速度を上げすぎると、また離れてしまうので調整が難しい。
同時にリバースグラビティの出力調整で高度維持も必要である。
無謀とも言えるランデブーだ。
それでも、為次は頭に軌道描き感で車体を操る。
「行けそうな気がしてきたかも」
「んん? どれどれ?」
「あたしにも見せて」
二人は仲良く車長席のペリスコープを覗く。
今まで見てきた中で一番大きく見える。
「おお! すげー」
「大きいわね」
「うぉぉぉ、こりゃマジっすわ」
スイも見たいと思うが、真剣な顔の主にそれを言うことはなかった。
邪魔をしまいと、ただ黙って抱き付いているだけであった。
「ちょっとデカ過ぎないか?」
「う、うん」
その大きさに恐怖すら覚える。
恐怖に負け接近速度を抑えようと加速すると離れてしまった。
仕方ないので、また減速する。
その繰り返しであった。
……………
………
…
どれ程の時間が経ったのであろうか?
見た目には今にも手が届きそうなのに一向に到着する気配が無い。
また速度を落とすと、どんどん接近するのが分かった。
それでも辿り着けない……
「まさか…… 嘘でしょ……」
「なんだこりゃ……」
「全然着かないわね……」
予想を遥かに超えた大きさであった。
直径は優に10キロ以上あるだろう。
それ以上だ。
近くで見ると、多角形のリングの内側に挟まれるように円のリングがあり、その内側だけが反時計回りに回っている。
そして、綺麗な多角形ではあるが、下側の方に角ばった膨らみが確認できる。
「このままだと、くぐっちゃいそうだから膨らんどるとこに向かうわ」
「お、おう」
迫り来るモノポールリング。
今にもぶつかりそうな感覚に襲われるが、それでもまだ距離はあるようだ。
ペリスコープから覗く宇宙が白銀の世界に覆われる。
リングの面すら、あまりにも巨大過ぎた。
これ程までのモノを作る文明といったい……
ここに何があるのだろうか?
押し寄せる不安を払い除け、レオパルト2は進むのであった……
レオパルト2は未だモノポールリングを追いかけていた。
もっとも宇宙では朝や夜が無いので、地球時間での計算である。
見知らぬ星も正確な自転周期こそ分からないが、1日の長さは地球と差ほど変わらなかった。
初日のトイレ騒動以来、戦車クルーの皆と言えば、死んだ魚のような目をして口数も少なかった。
異臭漂う車内にウンザリ気味の様子である。
「為次」
「…………」
「為次っ」
「…………」
「為次ちゃーん」
「…………」
「うぉい! 為次ってばよっ!」
「マサうるさい」
「なーっ! いつになったら着くんだよぉ」
「さあね」
「……くそぉ」
「…………」
あれから皆はウンコして、ご飯を食べた。
そしてまた、ウンコして食べて……
最初のトイレが終わった時点で、既に臭いは気にならなくなっていた。
それでも、1つだけ良いことがあった。
静止すれば重力が発生するのを思い出したことだ。
いちいち減速によるGを発生させなくとも、ゆっくりとウンコできる。
まあ、どうでもいいことのような気もするが……
為次以外は何もすることが無い。
ただ、食って出すだけの豚のような生活だ。
否、その身と命を持って人間様の舌を楽しませるブタちゃんの方がマシかも知れない。
「ブヒブヒブヒー」
何を狂ったのか、豚の鳴き声をマネしながら車長席へと移動する正秀。
当然そこにはマヨーラが居るのだが。
「どうしたの? マサヒデ。あたしの傍がいいの?」
「マサ?」
「トンカツさんのマネなのです」
トンカツがこちらの世界で豚に似た生物であることは、なんとなく察しが付いた。
それでも一応、どのような生き物か聞いてみる為次。
「トンカツってどんな奴なの?」
「ブヒブヒ鳴きながら鋭い牙で木を食べるです」
「へー、木を食べるんだ」
「そうなのです、賢いので勝手に扉を開けては食べてしまう困った野獣です」
「ドア食べちゃうんだ……」
「はいです」
などと話している内に、正秀は車長席へ行くとハッチに手を伸ばしていた。
「ブヒブヒ」
「ちょっとぉ、マサヒデそこは開けちゃダメよ」
「っ!? 何してんの!」
慌てて振り向く為次だが車長席はよく見えない。
「外に出たいみたいね」
「出るブヒー」
「やめろっ! マヨマサを止めるんだ!」
「え、ええ」
「オープン ザ ブヒー」
「ダメよマサヒデ、席に戻って大人しくしてて」
「やだー、暑いんだぜー、出るブヒー」
「ダメだったら、あたしだって暑いの我慢してるのよ」
「ブヒー」
車内は暑い。
レオパルト2A7にはエアコンが付いているが、それでも暑い。
宇宙空間では空気が無い為に冷却できないのだ。
正確には赤外線放射によって熱は放出されるのだが、溜め込んでしまう熱量の方が多い。
車体の色があまり宜しくないからである。
自衛隊オリーブドブラ色は結構濃い緑色だ。
黒色とまでは行かないものの、太陽から発せられる熱を吸収しやすい。
とは言え、それよりもエンジンの熱量が半端ないのだが……
「んも、臭いと暑さで狂ったか……」
「マサヒデ様はトンカツ様になってしまいました」
「暑いー、暑いー、開けるブー」
「駄目だったら、もう」
「あーもー、もうちょっとだったのに」
この数日間でモノポールリングの軌道が、だいぶ分かってきた。
どうやら静止軌道までは行ってないらしい。
3万5千キロ以上など、それこそウンザリだ。
多分、星から数千キロと言ったとこであろう。
意外と近く、為次は一人安心していた。
それでも、未だ辿り着けない。
初めは目測で突っ込んでいたのだが、どうにも上手く行かなかった。
それは、当たり前のこと過ぎた。
距離も、大きさも、速度も、何もかもが分からない状態で無茶もいいとこである。
そこで次に考えたのが、徐々に高度を上げ同じ軌道に乗ったとこで速度を落として待つ方法である。
これならば、無理に追いかけなくとも一周回って向こうからやって来るはずだ。
問題は速度を落とすと降下してしまうことだった。
その高度の衛星軌道に必要な速度より遅くなれば、惑星の重力より遠心力の方が弱まってしまう。
これを解決する為に、リバースグラビティをバラストとして使用することにした。
特に難しいことではなく、単純に足りない遠心力を反重力魔法で補うだけなのだ。
何度かトライはしてみた。
しかし、これも駄目だった。
待っているつもりなのだが、モノポールリングは明後日の方角へと行ってしまう。
もう何がなんだか分からなかった。
原因が判明したのは昨夜のことであった。
なんどもやっている内に、ようやく気がついたのだ。
モノポールリングは円軌道で惑星を回っている。
しかし、レオパルト2は為次の適当な運転によって、毎回楕円軌道となっているのだった。
当然だが、静止状態では待っていない。
時速2万キロ以上で突っ込まれでもしたら、ひとたまりもないから。
そんなこんなで、やっとこさ慎重に軌道へと乗ろうとしていた矢先である。
正秀が駄々を、こね始めた……
「はぁ、しょーがない、一旦冷却タイムにするか」
「そうね、そうしましょ」
「ウッホ、ウッホ」
「ふふっ、マサヒデもご機嫌になったわ」
「そりゃ良かった」
「ウッホ、ウッホなのです」
熱対策は完全に魔法頼みである。
ウォーターアローやアイスストームなど水系魔法の応用だ。
システムは実に単純で、車体前方に水を撒く。
それだけであった。
「冷却開始かも」
「ウホーッ!」
水素パルスエンジンとリバースグラビティを停止させる。
同時に魔法を使用すれば、魔導機関への負荷が大きいからと貞宗に注意をされていた。
ましてや、エレメンタルストーンが使用実績の無いパープルストーンである。
用心に越したことはない。
負荷が増大すれば実際どうなるかは分からないが、既存のエンジンが停止するのだけは避けたい。
酸素の供給源だからだ。
「ウォーターフィールド展開っと」
「ウッホーター!」
「うざい……」
慣性走行をするレオパルト2の直前に水の膜が現れる。
現在の運動エネルギーより若干ベクトルを弱めた状態で発生させた。
静止状態で発生させれば、極音速を遥かに超えた速度で突っ込んでしまう。
逆に同じ運動量ならば延々と目の前に水があるだけで、入水不可だ。
ジャバ ジャバ ジャバ
装甲を通して水の音が車内に響く。
徐々にだが、温度が下がり始めるのであった。
……………
………
…
「ふう、気持ちいいぜ」
「臭いけどね」
ようやく車内温度も下がり、エアコンもその効果を現し始める。
それでも、腐臭は無くならない。
「良かった。正気に戻ったわね、マサヒデ」
「おう」
「トンカツさんは、何処かへ行ってしまいました」
「水でも飲むかな、便所水だぜ」
「トイレではないのです、スイのお部屋です」
「その割には、ずっと為次の部屋に居るじゃないの」
「はうっ、そ、それは……」
「ははっ、スイちゃんは為次と一緒がいいんだよな」
「そ、そうなのです、タメツグ様のお世話をするのです」
「それじゃ、スイちゃんの部屋から水を貰うとするか」
「あ、マサヒデ、あたしも」
「おう」
装填手席へと移動し即用弾薬庫から水筒を取り出す。
実のところ水はわざわざ持って来る必要はなかった。
冷却水同様に魔法で出すことはできるから。
けれども、なんだか気持ち悪い。
何も無い所から突然湧き出る水など、あまり飲みたくはない。
もしも便所の水を放水してますとかだったら最悪だ。
もっとも、為次は宿屋でウォーターアローを直飲みさせられたが……
「ごくごくごく、プハー! マズイ! もう一杯」
美味しそうに水を飲んだ正秀だが、彼の言うようにウンコ臭いのでマズイ。
「ただの水よ…… ごくごく」
「もういい? 行くよ」
「おう、いつでもいいぜ」
「今度はちゃんと着くのかしら?」
「大丈夫だって」
「ホントなの…… でもタメツグじゃねぇ……」
「多分絶対大丈夫」
「どっちだよ……」
「はぁ…… 当てにならないわね」
「とにかく発車」
「発車しまーす、です」
一時の休息も終わり、レオパルト2は再び走り出す。
遠くには迫り来るモノポールリングが見えてきた。
この数日間で概ねの高度は分かってきたので、リバースグラビティ作動させ慎重に高さを合わせる。
「よしゃ、このへんかも」
後は速度と軌道の問題だ。
モノポールリングから目を離さない為に、車体を反転させ正面に捉えた。
衝突しないよう、更に逆進をかけ加速する。
逆に速度を上げすぎると、また離れてしまうので調整が難しい。
同時にリバースグラビティの出力調整で高度維持も必要である。
無謀とも言えるランデブーだ。
それでも、為次は頭に軌道描き感で車体を操る。
「行けそうな気がしてきたかも」
「んん? どれどれ?」
「あたしにも見せて」
二人は仲良く車長席のペリスコープを覗く。
今まで見てきた中で一番大きく見える。
「おお! すげー」
「大きいわね」
「うぉぉぉ、こりゃマジっすわ」
スイも見たいと思うが、真剣な顔の主にそれを言うことはなかった。
邪魔をしまいと、ただ黙って抱き付いているだけであった。
「ちょっとデカ過ぎないか?」
「う、うん」
その大きさに恐怖すら覚える。
恐怖に負け接近速度を抑えようと加速すると離れてしまった。
仕方ないので、また減速する。
その繰り返しであった。
……………
………
…
どれ程の時間が経ったのであろうか?
見た目には今にも手が届きそうなのに一向に到着する気配が無い。
また速度を落とすと、どんどん接近するのが分かった。
それでも辿り着けない……
「まさか…… 嘘でしょ……」
「なんだこりゃ……」
「全然着かないわね……」
予想を遥かに超えた大きさであった。
直径は優に10キロ以上あるだろう。
それ以上だ。
近くで見ると、多角形のリングの内側に挟まれるように円のリングがあり、その内側だけが反時計回りに回っている。
そして、綺麗な多角形ではあるが、下側の方に角ばった膨らみが確認できる。
「このままだと、くぐっちゃいそうだから膨らんどるとこに向かうわ」
「お、おう」
迫り来るモノポールリング。
今にもぶつかりそうな感覚に襲われるが、それでもまだ距離はあるようだ。
ペリスコープから覗く宇宙が白銀の世界に覆われる。
リングの面すら、あまりにも巨大過ぎた。
これ程までのモノを作る文明といったい……
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