異世界に吹っ飛ばされたんで帰ろうとしたら戦車で宇宙を放浪するハメになったんですが

おっぱいもみもみ怪人

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異世界編 3章

第123話 到着

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 レオパルト2はモノポールリングへと大接近していた。
 異世界に飛ばされたアノ日から、夜空を見上げれば浮かんでいた謎のリング。
 皆は一様にして言っていた。
 あそこへ行けば何かあると。

 「距離3300」

 辺り一面が白銀の世界で、距離感が全く掴めない。
 正秀は光学測距儀を使いモノポールリングとの距離を測る。

 「まだ、3キロ以上もあるのか」

 為次は言った。

 「3200…… 3100…… おい、速くないか?」

 「なんだこれ!? 目いっぱい吹かしてるってば!」

 「2900…… 2700…… 速くなってるぜ?」

 「くそっ! スイ邪魔だ戻れっ!」

 何故か減速できない状況に為次は思わずスイに当たってしまう。
 怒られたと思ったスイは慌てて砲手席へと移動しようとした。

 「おい! 為次、リバースグラビティだっ!」

 「あっ、う、うん」

 思い出したかのように、リバースグラビティを作動させる。
 その拍子に車内の中にある物が全て、ガラガラと前に落ちてきた。

 「きゃぁぁぁ!」

 移動しようとしていたスイも一緒に落ちて来る。
 咄嗟に受け止める為次。

 「うぐぇ、なんなの!?」

 「いやぁぁぁ、助けてマサヒデ」

 マヨーラも落ちまいと必死に正秀にしがみ付く。
 もっとも、狭い車内だ。
 足を着く場所など幾らでもある。
 それでも、ここぞばかりに抱き付いた。

 「おい為次っ、水平にしろ!」

 「おけおけ」

 スイのお尻を抱えながら、なんとかコンスクを操作する。
 スラスターでリングの面と水平になるよう90度ピッチアップすると、まるで地上に居るかのように重力が働いた。

 「な、なんだ!? 重力があるの?」

 戸惑う為次。

 「みたいだな。距離が測れないぜ」

 「スイ! マヨと一緒に装填手席へ行け!」

 軽くスイのお尻を叩きながら為次は言った。

 「ひゃぁん、はいなのです」

 ゴソゴソと少女達は便所へと移動する。
 とにかく臭いので長居はしたくないのだが、野郎共が慌てふためいているので、今は我慢した。

 「移動した? 倒すから、また前が床になるよ」

 「マヨーラとスイちゃんも体勢をを取るんだ!」

 「ええ」

 「はいです」

 当然だが車体底部では測距儀を使用するのは不可能だ。
 モノポールリングとの距離を測る為にはどうしても車体を垂直にしなければならない。
 そうなると重力があるらしいので車内にある物が倒した方へと引かれしまう。
 乗ってる人間も大変だ。
 しかし、衝突すよりは遥かにマシである。
 仕方なく再び車体を前に傾ける為次。

 「行っくよー」

 「おう」

 傾く車内で、前方を床にして皆は踏ん張る。

 「距離は?」

 「3500、離れてるぜ」

 「りょかーい」

 リバースグラビティを弱め接近速度を調整する。
 重力下では60トンの車体を水素パルスエンジンで受け止めるなど到底できない。
 いくら噴射しても減速できなかったのを理解した。

 「3200…… 3100…… 3000、少し速いぜ」

 「はいはい」

 徐々にレオパルト2はモノポールリングへと近づいて行く。
 到着は目前である。

 ……………
 ………
 …

 「おい、100切ったぜ」

 「あ、はい」

 「60…… 50……」

 「こんなもんかな」

 「おう」

 車体をモノポールリングに対して水平にする。
 重力も車体の下方へと向きを変え車内は平静を取り戻した。
 しかし、為次にとっては一番緊張する場面だ。
 一面が黒と銀の世界の為に目視では高度が分かり辛い。
 降下速度が速ければ衝突してしまい、ただでは済まないだろう。
 例え車体が無事でも、強度の弱い左右に付けられたブースターを破損すれば帰還は困難になってしまう。

 ……ドスン

 車内に衝撃が伝わる。
 履帯が接地したのだろう。

 「「「「…………」」」」

 皆は一様に沈黙したままであった。
 そんな中、初めに口を開いたのは為次である。

 「着いた」

 「おう」

 少しだけ喧嘩をしながら借家に向かったアノ日に見上げた夜空。
 月の隣で美しい輝を放ちながら浮かぶリングを見ていた。
 今、まさにそのリングへと辿たどり着いたのであった。

 「何も無いぜ」

 「う、うん……」

 左手に高台らしき場所はあるが、あたり一面は銀色の世界だ。
 地平線の彼方には漆黒の宇宙が見えるだけである。

 「ねぇ、ちょっと」

 「ん? どうしたマヨーラ」

 「もう、そっちへ行っていいかしら? あまりここには居たくないわ」

 悪臭の根源であるトイレには長居はしたくない。
 当然だ。

 「おう、いいぜ」

 「ご主人様ぁ…… スイも」

 「うん、まあいいよ。それより中は身溢れなかった?」

 「ちょっと汁が出て来てるのです」

 「そう……」

 少女二人はゴソゴソと野郎どもの所へと移動する。
 正秀も砲手席へと移動する。

 「あっ……(そっちへ行っちゃうの……)」

 膝の上に乗ろうとしていたマヨーラの当てが外れてしまった。

 「どうした? マヨーラ」

 「べ、べ、別になんでもないわ」

 「ぷぷっ」

 「笑うなバカツグ!」

 「?」

 正秀はただ首を傾げるだけであった。
 スイはといえば、再び主の膝の上で御満悦である。

 「んー、ご主人様ぁ」

 甘えてくるスイの頭を為次は、撫でてあげる。

 「ごめんね、怒鳴っちゃって」

 「悪いのはスイなのです」

 「そんなこないよ」

 「んー」

 「なあ為次、イチャついてるとこ悪いんだが」

 「は、はぁ!? 別にイチャついてないし!」

 「それはどうでもいいんだが、これからどうすんだ?」

 「え、あ…… そうね。とりあえずその辺を探索してみよう、そうしよう」

 「おう」

 彼らの現在位置はリングの下側やや右寄りである。
 もっとも、どちらが上か下かは分からない。
 惑星対して平行に見ればいいかも知れないが、地磁気すら調べていなかったので、北極と南極も分からない。
 だから単に接近時に向いていた方向を上だと思っているだけだ。

 「じゃあ、あっちの方が高台になってるから行ってみるわ」

 為次は約90度ほど左に旋回させた。

 「おう」

 ブロロロ……

 慎重にレオパルト2を走らせる。
 まったくの未知の世界だ、用心するに越したことはない。
 高台となっている坂を登って行く。
 そこまで急角度ではないので問題無く上がれた。

 正秀は射撃サイトから外の様子を伺う。

 「特に何も無いぜ。でも、線が引っ張ってあるな」

 「線っつか、溝? 切れ目かな?」

 溝は大小あれど、どれもが四角になっている。

 「古代文字も書いてあるわね、なんて書いてあるのかしら?」

 マヨーラはパノラマサイトを覗きながら言った。
 文字以外にも矢印みたいなマークや四角とか三角のマークも見受けられる。

 「ほんとだ、えーっと何々」

 為次は古代文字の読めないマヨーラに代わって手近なのを読んでみる。

 「あっちは…… 注意。そっちのが…… 危険さわるな」

 「ふーん、大したことは書いてないのね」

 「注意書きみたいな感じだぜ」

 「もしかしたら、入り口とかも書いてあるかも」

 「おう、探してみようぜ」

 「りょかーい、じゃあ一番おっきい溝に沿って行くわ」

 宇宙でディーゼルエンジンを鳴り響かせながら走る戦車。
 やはり地に足が付いていると安心する。

 大きな四角い溝は中央付近に縦の溝もあり、真ん中のところで少し屈折している。
 見た感じだと、そこから両側に開きそうだ。
 皆は臭い車内で何かないかと注意深く外を見るのであった。

 ……………
 ………
 …

 高台に上がってから、しばらく走った。
 それは溝の周囲を4分の3くらいまで来た時であった。

 「お!? あれは」

 為次は何かを見つけたようだ。

 「何か見つけたのか? 為次」

 「うん、ほら左斜めのとこ」

 「んー、あれか? 緊急…… 開放レバー」

 「そうそう、それ」

 「おお、なんか開きそうな名前だぜ」

 「でしょ、でしょ」

 そこには円で囲われた中に取手の付いたレバーらしきものが埋め込まれている。
 横には円に沿って矢印らしきマークも書かれているので、多分その方向に回すのであろう。

 「よし、開けてみようぜ」

 「うん、そうしよう。それがいい」

 早速、為次と正秀はレバーを動かそうとする。

 が、しかし……

 「なあ、為次」

 為次は正秀の呼びかけには応えなかった。
 何が言いたいのかすぐに分かったからだ。

 「…………」

 「なあ、ってば」

 「…………」

 「どうしたの? タメツグ。急に黙っちゃって」

 「ご主人様ぁ?」

 「…………」

 「為次…… どうやって」

 「うるさい!」

 「うおっ、なんだよ急に怒鳴るなよ」

 「…………」

 ここは深淵の宇宙。
 生物にとっては極めて過酷な世界である。
 ひとたび生身を晒そうならば、その命は一瞬で奪われる。
 正確には唾液が沸騰し鼓膜が破れてからだが、次の瞬間には意識を失うだろう。

 あまりにも無計画過ぎた……

 そもそも戦車で宇宙に行こうなどと考える方がイカれている。
 それでも魔法という未知の力によって、なんとかここまで辿り着いた。

 だが、まったく考えていなかった……

 戦車から外に出るという単純なことを忘れていた。
 もっとも、この世界では宇宙服を作る技術など無い。
 車外活動が必要な時点で終わっていたのだ。

 「おーい、為次」

 「……ぐっ」

 「為次ちゃーん」

 「うがぁぁぁ!」

 「どうしたのタメツグは?」

 「外に出れないから喚いてるんだぜ」

 「ああ…… そうなの……」

 途方に暮れる為次であった……
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