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異世界編 3章

第125話 単磁極環その1

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 為次は膝を付いて巨大な穴の底を覗いていた。
 開ききった床は大きな口を見せつけている。

 「すげぇ……」

 「結構深いぜ」

 正秀も立ったまま穴の淵で下を覗いていた。

 「うん」

 中は真っ白な壁で床も白い。
 中央付近に落ちてしまった汚物が微かに茶色く見えるだけだ。
 壁際には他の場所へ続くと思われる入り口らしき扉も見受けられた。

 「お、あれって宇宙船?」

 為次は翼の殆ど無い飛行機のような物を見つけて言った。

 「なんかそれっぽいな、もしかして格納庫か? 降りてみようぜ」

 「そだね、ここに居ても仕方ないし」

 「でも、スイの投げた箱が下で散らばってるわよ?」

 遠く下に見える茶色い所を指しながらマヨーラは言った。

 「や、これだけ広ければ大丈夫でしょ」

 「そうなのです、ご主人様の言う通りなのです」

 「まあいいけど…… それよりどうやって降りるのよ」

 「レオで降りればいいでしょ」

 「嫌よ! まだ臭いに決まってるでしょ!」

 「エレベーターでもあればいいんだが…… おっ、あったぜ」

 なんと正秀は都合よくエレベーターらしきスイッチを見つけた。
 床には昇降機と書かれた横にボタンがある。

 「ほんとだ。ポチッ」

 「お、おい、為次。大丈夫なのか?」

 為次は唐突になんの躊躇いもなくボタンを押した。

 グォォォォン……

 低い機械音が地の底から聞こえてくる。
 しばらく待つと巨大な四角いプレートが目の前に上がって来た。
 それは手摺も壁も無い、ただ白くて四角いだけの板であった。

 ガコン

 床と平面になると止まった。

 「やったわ、これで降りれるわね」

 嬉々としてプレートに飛び乗るマヨーラ。
 その瞬間、目の前に空中投影された操作パネルが浮かび上がる。

 「きゃっ!? 何これ……」

 思わず触れてしまう。

 ガコン グォォォォン……

 巨大なエレベーターはマヨーラを一人乗せ降りて行く。

 「ちょ、ちょっとぉぉぉ!」

 下を覗くとマヨーラがプレートの上でおろおろしているのが見える。

 「あーあ、マヨが一人で行っちゃった」

 「マヨマヨ様はせっかちなのです」

 「だな。俺達も降りようぜ」

 「うん」

 結局、残された三人はレオパルト2で降りることにした。
 戦車だけ上に残して行くのも不安なので、残りが気になるが仕方がない。

 「じゃあスイ。零れた汁を掃除しといてね」

 「なうぅ!? 私がなのですか!?」

 「だってスイの席でしょ」

 「うにゅにゅにゅ……」

 スイは不満そうに文句を言っていたが、主の命令だし確かに自分の居場所なので仕方がない。
 リバースグラビティを調整しフワフワと降下する間にキレイキレするのであった。

 ※  ※  ※  ※  ※

 「着いた」

 せっかくなので宇宙船らしき物体の近くに降下した。
 エレベーターから意外と離れている。
 三人が降車すると、向こうの方からマヨーラが喚きながら走って来る。

 「遅いわよ! なんで、あたしだけ先に行かせるの!」

 「なんか言ってるよ。マサ」

 「俺にか?」

 猛ダッシュして来たマヨーラは息を切らせている。

 「ぜぇ…… ぜぇ…… こんなとこで…… ぜぇ…… 一人にしないでよ!」

 「悪りぃ、悪りぃ」

 「まったく…… なんなのよ」

 マヨーラが文句を言っている間に為次は宇宙船を確認することにした。
 宇宙船というよりは翼をちょん切られてしまった飛行機みたいだが……
 レオパルト2の倍くらいしか大きさが無く、15メートル程度であろう。

 「タメツグ様、これはなんですか?」

 「小型の宇宙船かなんかかも、ランチっぽいね」

 「お昼ご飯ですか?」

 「違うよ、大型の船とかから移動するのに、交通に使う小型船だよ」

 「はう?」

 「動くのかなぁ?」

 しばらく周りをウロウロしながら見ていると、そこへ正秀もやって来た。
 後ろからはマヨーラも付いて来ている。

 「どうだ、その飛行機は?」

 「お、マサ」

 「もー、マサヒデ。勝手に行かないでよぉ」

 「マヨもか」

 どうやら正秀はマヨーラをなだめたらしい。
 落ち着きを取り戻していた。

 「なんなの、その変なのは」

 「飛行艇かも」

 「ふーん、ヘンテコな形ね」

 「動かせるなら、持って帰りたいけど……」

 「こんなの持って帰って、どうすんだよ」

 「部品取ってレオに付けれないかなって」

 「ああ…… 動かなかったら、ここでバラせばいいだろ」

 「そう簡単に……」

 言おうとしたとこで為次は上を見上げる。
 頭上には広大な宇宙が広がっていた。

 「どうした?」

 「上って閉まらんかなぁ。なんだか不安なんだけど」

 「どっかに操作できるとこでもあるだろ。多分」

 「うん」

 「探してみようぜ…… おっあれじゃないか?」

 見ると壁際にコンソールパネルらしき機械が確認できる。
 今日の正秀は絶好調らしく、なんとも都合よく見つけてくれるのだ。
 とは言っても殺風景な場所だ、何かあれば直ぐ目につく。
 なので皆はぞろぞろと向って行った。

 ※  ※  ※  ※  ※

 「操作端末」

 機械の前に立つと、表示されている文字を為次は読んでみた。

 「やっぱりこれだろ? 為次」

 「そだね。それにしても、この機械や宇宙船がこの向きってことは、もしかしてリングの上側ってこっちかな」

 「多分な」

 今までは、リングの膨らんでいる部分。
 つまり現在自分達の居る部分が上か下かと思っていた。
 しかし、内部の設置具合を見るにリングを寝かせて、さっき降りて来た開口部側が上に思える。

 「どっちが上とか下はどうでもいいわよ。早く他の部屋に行きましょ」

 「そう焦るなよ、マヨーラ」

 「あ、焦ってないわ…… ただ……」

 「ただ、どうしたんだ?」

 「な、な、なんでもないわよ!」

 なんでもないと言うマヨーラだが、あからさまにモジモジしている。
 お股を押さえて内股でいるのを見れば、トイレに行きたいのは一目瞭然であった。

 「んー? おしっこでもしたいのか?」

 「しょうがないなー、あっちでしてきてよ」

 「ぎゃぁぁぁ! そ、そんな分け…… ひっ! あああ……」

 「……ちょっと我慢してて」

 為次はコンソールパネルに触れて端末を起動させる。
 食物プラントと似た感じで、空中投影の操作スクリーンが目の前に表示された。

 「どうだ? 使い方は分かるのか?」

 「まあ、だいたいは。メニューに書いてる通りだろうから大丈夫でしょ」

 早速、色々と弄りながら内容を確認する。
 特には難しくはなかった。
 カテゴリ別に分かりやすく操作内容が書いてるので、直ぐに理解することができた。

 「よっしゃ、これかも」

 ピコピコと為次が空中スクリーンに触れると天井が閉まり始めた。

 ゴ ゴ ゴ…… ガコン

 「閉まった」

 「だな」

 「い、いつまで待てば…… いいの。うぅ……」

 「マヨヤバそうだねー」

 「だな」

 マヨーラは涙目になりながら股間を押さえていた。
 再び為次は端末を操作する。

 ピコ ピコ ピコ

 すると、現在使用中のスクリーンの横にもう1つ別のスクリーンが投影された。
 それに触れながら、シュッとマヨーラの方へと移動させる。

 「マヨ。それが館内図っぽいので、青い点が現在地。赤いとこがトイレだよ」

 どうやら館内図の表示されたスクリーンらしい。

 「ふあぁっぁぁぁ!」

 変な叫び声を上げ、一目散に駆け出すマヨーラ。
 館内図も一緒に付いて行く。
 常に使用者の元で表示されるらしく、とても便利だ。
 トイレが有る方への扉の前に立つと自動的に左右に開く。

 プシュー

 「ちょっと待ってなさいよ~ あんた達ぃ。ひゃぁぁぁ……」

 喚きながら行ってしまった。

 「行っちゃったね」

 「だな」

 「マヨマヨ様はどうされたのでしょうか?」

 「おしっこだよ」

 「だな」

 「はう……」

 マヨーラは一人でトイレに行ってしまったから、しばらく待つことにした。
 勝手に何処か行ってしまうと、後々うるさそうだから。
 その間に為次は、もう少し端末を弄ってみることにするのだった。

 ……………
 ………
 …

 「たっだいまー。戻ったわよ」

 「おう」

 マヨーラはスッキリした顔で、ご機嫌に戻って来た。

 「うむ、みんな揃ったか」

 為次は言った。

 「それで、これからどうするんだ? 為次」

 「うむ、調べた結果コントロールルームがあるみたいなので、そこへ行きます」

 「そこは、お食事もできるのですか? タメツグ様」

 「……飯は無理だけど、リング全体を管理してる中央制御室みたいだねー」

 「はう……」

 「でも、途中に食物プラントってか、食堂があるっぽいので寄って行こうか」

 「はいです」

 「飯があるのか?」

 意外そうに正秀は訊いた。

 「飯は無いけど、小型の食料生成機あるみたい。もっとも千年以上前のだろうから……」

 「腐ってるだろ!」

 「いや一度、原子転換するみたいだから大丈夫かも」

 「ほんとかよ……」

 「まあ、とりあえず行ってみよう。そうしよう」

 「そうね、お腹も空いたわ」

 「マヨは食って出してばっかだね」

 「ぎゃぁぁぁ! な、な、何言ってんのよ! バカツグ!!」

 チラリと正秀を見ると、マヨーラは俯きながら顔を赤くするのだった。

 そんなこんなで、御一行様は食堂へ向かうことになった。
 空中投影されているスクリーンは、何処まで付いて来るのか分からない。
 だけど、せっかくなのでこのまま持って行くことにした。

 「あっちだね」

 為次は先程マヨーラが入って行った扉を指す。
 さっきマヨーラが行ったばかりなので、それなりに安全ではあろうと思える。
 なので皆は平気でぞろぞろと進んで行くのだ。
 
 ようやくモノポールリング内の探索が始まるのであった……
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