異世界に吹っ飛ばされたんで帰ろうとしたら戦車で宇宙を放浪するハメになったんですが

おっぱいもみもみ怪人

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テラ宙域編 4章

第2話 ガラクタ言うなって

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 ようやく減速が終わった。
 実際には僅かな時間であるが……

 尋常ではない加速と減速に車内は大混乱である。
 為次に至っては折れた肋が肺に刺さり、自分の血で溺れそうになっていた。

 そんな阿鼻叫喚な車内から外を見ると、巨大な宇宙船が目の前に浮いていた。
 もっとも後ろ向きなので正秀にしか見えない。

 「すげぇぜ…… なんだこりゃ」

 「スイも見たいのです」

 「ゲボッ、げはぁっ! 息ができん……」

 艦低のハッチが開くと、そこへ少女達が戦車を押し込んで行く。
 中へ入り暫くすると急に重力が加わり、浮いていた人や物が床へと落ちた。

 ドコンッ

 同時に、レオパルト2も格納庫らしき場所の床へと履帯を付けるのであった。

 「つ、つい…… ゲホッ! ゲホッ! た」

 あまりの苦しさに、何も考えず車外へ飛び出す為次。
 艦のハッチは徐々に閉まりつつあったが、まだ少し開いている。
 それでも呼吸はできるようだ。
 だが、片肺がヤバイのでまともに呼吸できる分けも無く、床に這いつくばりもがくしかない。
 スイも主の様子を見ると、慌てて降車し駆け寄った。

 「タメツグ様ぁ! 大丈夫ですか!?」

 そんなスイも何処かにぶつけたのだろう、頭から血を流している。

 「く、苦しい…… ポーションちょ」

 「はいです」

 ポーションセットのビンを1つ取り出しヒールを付与する。

 「ささ、どうぞなのです。よろしければスイが口移しで……」

 「自分で飲めます。ゴクゴク……」

 奪い取るようにヒールポーションを手にすると一気に飲み干した。

 「ぷはー」

 相変わらずのヒールの効果である。
 苦しさと痛みは和らぎ、やっと楽になった。

 「あー、死ぬかと思ったは」

 「降りて大丈夫だったのか? まだ少し開いてたぜ」

 「それどころじゃなかったて…… それにリングの表面でも大丈夫だったでしょ」

 「ああ、そうだったな」

 と、そこへ後ろから女性の声が聞こえる。

 「どうかしたの?」

 皆は一斉に振り向いた。
 声の主は先程レオパルト2にやって来た少女の内の1人だった。
 銀髪の長い髪にレオタード姿の小柄な少女である。
 しかも、聞き覚えある声だ。

 「あ、さっきの……」

 為次はすぐに分かった。
 最後に無線を通して聞こえてきた声だったから……

 「こんにちはなのです」

 「うん。こんにちは。もう夜だけど」

 「じゃあ、こんばんはだぜ」

 「うん。こんばんは」

 「こんにちはでも、こんばんはでも、どうでもいいって! お前だろさっき押した奴はっ!」

 ちょっと怒り気味な為次。
 死にそうになったので仕方がない。

 「押した」

 「死ぬかと思ったわっ!」

 「どうして?」

 「どうしても、こうしても、加速させ過ぎだってばっ!」

 「?」

 少女は只、首をかしげるだけである。

 「潰されそうになったの! 鏡が胸に突き刺さったわっ! スイも頭から血を流しているし……」

 「怪我、してるの?」

 「もう、ポーションを飲んだのでスイは平気なのです」

 「ポー。 ……ション?」

 「ヒールポーションなのです」

 「?」

 理解できていない様子だ。
 かと言って魔法の説明をするよりも、とりあえず助けてもらったお礼を言わなくてはと思う正秀。

 「とにかく助かったぜ、ありがとな…… えーっと……」

 「ユーナ」

 「ユーナちゃんか、サンキューな」

 「ま、まあ…… 文明は残ってるみたいで良かったけど……」

 「そんなことより、為次も礼ぐらい言えよ……」

 「こっちは殺されそうになったんだってば」

 と、そこへまた違う女性の声が聞こえてくる。

 「何を騒いでいる!」

 見ると両側に銃らしき物を持った女性を2人連れた大人の女性がやって来た。
 真ん中の人物は金髪ロングヘアーにハーフコートを纏っている。
 何処かしら気の強そうな雰囲気を漂わせていた。

 「誰だ?」

 正秀は訊いた。

 「私はこの艦の艦長だ。お前達こそ何者なのだ?」

 「俺は正秀。んで、そこで血を吐きながら転がってるのが為次だぜ」

 「スイはスイなのです」

 「そうだねー」

 ようやく回復した為次も、とりあえず立ち上がった。
 口から下が血まみれの様子を見て、艦長は少々引き気味だ。

 「怪我をしているのか?」

 「してました。そこのユーナってのが急に押しやがったから」

 「私、何もしてない」

 「ふむ……」

 「タメツグ様は、もう元気なのです」

 「そうか…… なんならメディカルポッドを用意するが……」

 「いや、お気遣い無く」

 何故か丁寧に答えた為次。
 見た目は血みどろで気持ち悪いが、実際に治っているので問題ない。

 「う、うむ…… では、色々と訊きたいこともある。ここではなんだ、場所を移そうか」

 「おう」

 「はいです」

 「ユーナ、ご苦労だったな。休んでくれていいぞ」

 艦長はこちらを無表情で見ていた少女に言った。

 「分かった」

 「では、君達はこちらに来たまえ。ここで立ち話もなんだしな」

 「おう」

 「はいです」

 艦長に促され移動するこになったが、為次はレオパルト2から離れようとしない。

 「ねーねー、レオはどうするの?」

 「レオ? その戦車の名前か?」

 「そう」

 「誰か残ってた方がいいのか? 為次」

 「心配だしここにおるわ」

 「では、私もタメツグ様と一緒に居るです」

 「なんだよお前ら…… 俺一人かよ」

 「心配するな、そんなガラクタ誰も欲しがらん」

 そのセリフは為次にとって聞き捨てならなかった。
 最強の戦車を目の前にしてガタクタ呼ばわりなど言語道断である!

 「ええっ!? 今、ガラクタって言った? ねぇ言ったよね!?」

 「ああ、そうだ。そんな物で宇宙に出るなど、頭がおかしいとしか思えん」

 「はぁぁぁ!? 何言ってんの! これは地上最強の戦車なんだよ!」

 「お、おい…… 為次…… 落ち着けよ」

 「うるさいっ、マサは黙ってて!」

 「第一、仮にも地上最強だとしても、ここは宇宙だぞ? 地上用のビーグルじゃないのか?」

 「うっ……」

 「どうせ重力制御もできないから血まみれなのだろう?」

 「ぬぐぐぐ……」

 「それにだ、そんな鋼板の装甲など、なんの役にも立たんぞ。重いだけだろう。武装も古臭い火薬で金属を撃ち出すだけなど何を考えてるのか、まったく……」

 「うぎゃぁぁぁ! ひ、酷い! 酷すぎるわぁ! 何もそこまで言わなくてもっ」

 「シールドすら無いから既にスキャン済だ! 調べる価値すら無い。我々が拾ってやらなければ、今頃は宇宙のチリだな。はははっ」

 「…………」

 最早、何も言えなかった……
 あまりにも技術力が違いすぎる。
 超科学を持つ者からすれば、彼女の言う通りなのだ。

 頭では分かっているつもりの為次。
 しかし、どうにも悔しい、悔し過ぎるが言い返すこともできない。

 「ようやく静かになったか、では付いて来い」

 「ほら、行くぜ為次」

 「うー」

 「タメツグ様も行くですか、ではスイも」

 結局、レオパルト2はそのままに、為次もトボトボと皆に付いて行くのであった。

 ※  ※  ※  ※  ※

 案内された場所はテーブルと、それを囲うように置かれた半円状のソファーがある部屋であった。
 壁には、よく分からない植物の生い茂る映像が映し出されている。
 見た感じ休憩室か客室といったとこなのであろう。

 先程まで居た銃のような物を持った警備らしき女性も、部屋に入る手前で何処かへ行ってしまった。
 どうやら、危険な存在ではないと判断されているらしい。
 むしろ警戒するに値すらしないと思われているのかも知れない。

 「よし、好きに座りたまへ」

 「おう、じゃ遠慮なくっと」

 「何か飲むかね?」

 皆が座ると艦長は訊いた。

 「そうだな、為次とスイちゃんはどうする?」

 「俺は、お腹空いた。さっきの怪我で回復に使ったかも」

 「だよな」

 「私はタメツグ様と同じでいいです」

 「食事を摂りたいのか?」

 「できれば、そうしてもらえると助かるぜ」

 「分かった、すぐに持ってこさせよう。適当なものでいいな?」

 「おう、いいよな? 為次」

 「もう、なんでもいい」

 「なんだよ、まだ拗ねてんのかよ」

 「別にー」

 艦長は二人の会話を他所に携帯端末を取り出すと、何やら操作をし自分の前に空中投影のスクリーンを出した。
 モノポールリングで弄っていたやつの、携帯版的な感じである。

 「さて、食事の手配はしたので話を聞かせてもらおうか」

 「サンキューな」

 「どもども」

 「ありがとうです」

 「では向こうで何があったのか詳しく話してくれたまへ」

 「あー、ちょっと待って。その前に、この船と乗員はテラのであってる?」

 と、為次は訊いた。

 「ああ、そうだ」

 「なら、良かった」

 「どうかしたのか?」

 「いや実はね、マインドジェネレーターを貰いに来たんすよぉ。他の文明だったらその辺の技術も怪しくなるでしょ」

 「なるほどな…… マインドジェネレーターをか」

 「それが無いと、皆様はバーサーカーになるです」

 「そうだねー」

 「それか、記憶を無くすんだぜ」

 「ふむ……」

 プシュー

 話しの途中、扉が開くと1人の女性が入って来た。

 「失礼します。艦長、お弁当を3つお持ちしました」

 「ああ、すまないな」

 どうやら、先程頼んだ食事を持って来てくれたようだ。
 三人の前に一つづつ並べてくれる。

 「どうぞ」

 「やたー、どもども」

 「サンキュー」

 「ありがとうです」

 「どういたしまして、それでは」

 女性は弁当を置き終わると、そそくさと出て行ってしまった。

 「食べながらでいい、そろそろ聞かせてもらおうか」

 「だね」

 「じゃ、為次よろしくな」

 「まあ、俺か……」

 弁当の蓋を開けると、中には肉らしき物とペースト状の何かが入っていた。
 他には申し訳程度の青物が入っている。

 弁当と一緒に付いてきたスプーンで肉らしき物を突っつくと、簡単にほぐれる。
 あまり美味しそうではないが、皆は口にするのであった……
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