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テラ宙域編 4章
第13話 人の話は聞きましょう
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ラボは白煙に包まれていた。
何か分からない箱が爆発してしまったから……
「ゲホッ、ゲホッ、何が起こったんだ……」
爆発に耐性の有る正秀は辺りを見回すも、真っ白な世界だ。
顔の前を手のひらでパタパタしてみるが、焼け石に水である。
視界が開けることはない。
しかし、少し待つと煙はすぐに無くなった。
どうやら自動排煙らしい。
「お、居た」
見ると3人は目を回して床で転がっていた。
スイのほっぺをペチペチしてみる。
「おーい、スイちゃん大丈夫か?」
「ケホッ、ケホッ、 ……はう?」
「スイちゃん……」
「ハッ! なにごとですかーっ!? けほっ」
気が付いたようだ。
口から白い粉を吹き出しながら、驚いている。
「テーブルが破裂したんだぜ」
「なんですと! ……タメツグ様、は……」
「横で転がってるぜ、ポーション掛けたら起きるんじゃないのか?」
「ですか」
と、スイはヒールとキュアのハイブリッドポーションを作ってかけてみる。
ドボ ドボ ドボ……
為次とエーマの顔面にポーションをぶっ掛けるスイであった。
……………
………
…
万能ポーションのお陰で、ようやく気が付いた2人。
皆は汚い部屋の散らかった床に座り込み、途方に暮れていた。
もっとも、爆発前よりは綺麗かも知れない。
そこらへんにあったゴミらしき物が吹き飛んでいたから……
「タメツグ君のお陰で、少しはラボも綺麗になったな」
「うっさいわ、ボケー」
エーマは特に気にした様子もなくアッケラカンとしていた。
「しかし、タメツグ君は実にからかい甲斐があるな」
「はぁ!? 俺ってからかわれてたの!?」
「なんだよ。お前、気が付いてなかったのか?」
「タメツグ様、楽しそうだったのですが……」
「…………」
顔を真っ赤にしてプルプルする為次。
自分が弄ばれていたことにようやく気が付く。
恥ずかしのあまり、俯いて何も言えなかった。
「さて、タメツグ君も大人しくなった所で妹のことを話そう」
「お、おう……」
「僕とターナは姉妹だ」
「お、お……」
「姉妹だ」
「お……」
「だ」
どうやらそれだけらしい。
エーマはそれ以上は何も言わずニコニコしていた。
「えっと…… 他には無いのか?」
「アイ艦長から聞いているだろう? 僕の作ったA.A.S.が気に入らなかったらしくアクアへ行ってしまった。その後のことは君達の方が詳しいはずだ」
「んー…… なー為次。何を話したらいいんだ……?」
何を話していいのか分からない正秀は為次に振ろうとするが、ふて腐れている。
「おやおや、タメツグ君はご機嫌斜めの様子だな」
「エーマさん…… 自分でやっといて……」
「なあタメツグ君。あの子…… ターナは優しかっただろう?」
「え?」
その言葉に為次は顔を上げエーマを見つめた。
「優し過ぎるのだ。死ぬのが前提として生産されるエンジェル達をどうにかしたかったらしい……」
「あっそう……」
「彼女らも人間には違い無いからな。しかも、能力の発現が皆無な個体はその場で処分される」
それは趣味で正義感溢れる正秀にとって、聞き捨てならない話しであった。
「えっ!? マサのアレって趣味だったのっ?」
衝撃の事実に驚く為次だが、正秀お構いなしに熱く叫ぶ!
「嘘…… だろ…… そんなことが許されるのかっ!? いやダメだ! 許されるものかぁ!!」
「仕方のないことさ。でなければ、我々が絶滅の危機に晒されるからな」
「だからって…… それは戦争で人々を星ごと消滅させた報いだろっ!」
「まあ、そう熱くなるな、マサヒデ君」
「だってよぉ……」
「ターナも同じ気持ちだったかも知れないな。A.A.S.の使用には最後まで反対していた」
「おい為次。いつまでもイジけてないで、お前もなんとか言ってくれよ」
「…………」
為次は、なんとなく服屋での出来事を思い出していた。
不甲斐なく泣き喚く自分を、子供のようにあやしてくれた。
「どっか行けよ」と叫んでも見放さずに優しく抱きしめてくれた。
あの優しさは本物だったと思う。
そんなことを考えていると、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
正秀のクソ寒い叫びが、せめてもの救いだった。
「そっか……」
呟いた為次は、ようやく分かった気がした。
どうしてターナが、あれだけ魔獣作りに拘っているのかを……
「助けるって言ったしね……」
「お? 起きたか為次?」
「いや、寝てないし」
「では、タメツグ君も起きた所で僕も聞きたいことがある」
「寝てないってば、さっきから喋ってるでしょ!」
「君達の報告は受けた。なんでも魔獣のシールドを無力化する術を知っているとか」
「聞けよっ。つか唐突過ぎるでしょ! 妹の話はどうなった!?」
またまた興奮しそうな為次をなだめる正秀。
「だから落ち着けってば」
「んも」
「他にもスイ君を魔獣が狙うとも聞いたが……」
「ほえ? そうなのですか?」
と、スイは為次に訊いた。
「そうだよ、そうだけどターナの話しをてたんじゃ……」
「ですか……」
「原因は知っているのかい?」
「さあね、詳しくは知らない。それより俺の話も聞けって」
「ということは、ある程度は知ってるのだな」
「……んー、なんとなくは」
「聞かせてくれるかい?」
「いや…… まあ…… そういや昨日、アイちゃんには後で話すって言ったけど……」
「彼女は艦長だけあって忙しいからな、後ほど報告する約束になっている」
「そっか、それなら…… って妹は? ターナの話はどうすんの? 俺の回想が無駄になるじゃん」
「そんなことは、どうでもいい」
「いやいや、どうでもって……」
「タメツグ君は細かい男だな。そんなことではモテないぞ?」
「んなもん関係ないし……」
「とにかく僕も知りたいことはある。いつまでもグダグダ言ってないで教えてくれないか?」
「……ったく。まあいいか……」
全く話が噛み合わない状況に、為次は妥協するしかなかった。
「うむ。では聞かせてもらおうか」
「あのさ、エーマは魔法って信じる?」
「魔法かい? あのファンタジーとかで、よくある魔法かな?」
「うん。テラにもファンタジーあるんだ……」
「こう見えても僕は一応、科学者なのだがね」
「まっ。エーマが科学者でも浮浪者でもいいけどさ、これから話すことは魔法ありきが大前提なんだよね」
「浮浪者ではないが、別段構わないぞ。魔法など信じないがな」
「見た目は浮浪者だけど……」
「さすがに失礼だろ為次……」
「魔法は存在している。その証拠がスイだよ」
「私ですか?」
スイはキョトンとして為次を見た。
「うん。ヒールポーション作って」
「あ、はいです。ヒールなのです」
言われた通りヒールポーションを作って為次に渡した。
「ではでは、取り出したるはぁー……」
と、デザートイーグルを抜き取る。
ガチャ
スライドを引いた。
「銃か?」
「うい」
ドンッ!
「っ!?」
エーマは一瞬、何が起こったのか分からなかった。
太ももに走る激痛で、ようやく撃たれたことに気が付いた。
「ひぎゃぁぁぁぁぁっ!! あ、足がっ!」
太ももの肉が抉れ骨が見えている。
辺り一面には鮮血が飛び散り、床を真っ赤に染めていた。
「為次、なにやってんだよっ!」
「まあまあ」
と、泣き叫ぶエーマの口にヒールポーションの瓶を押し込んで鼻をつまんだ。
「うおぇっ、ごくっ…… ふぇ…… ごくごく……!?」
意味の分からないエーマは、えづきながらも飲んだ。
すると嘘のように一瞬で痛みが消える、不思議な感覚を覚える。
「どう? どう? ねぇ、今どんな気分?」
ニヤニヤしながら為次は訊いた。
「はぁ、はぁ…… げふっ。な、何をするんだっ!」
「うひひ……」
為次は胸糞の悪い笑みを浮かべながら悪びれた様子も無い。
「いくらレトロな武器でも攻撃を受ければ……」
文句を言おうとしたエーマであったが、痛みは既に無くなっていた。
しかも、さっき見た肉の欠損した隙間から見える骨は、もう見えなかった。
「攻撃を受ければ何かなー?」
「なんだこれは……」
見るみる内に怪我を負った箇所が修復してゆく……
信じられない光景であった。
「それが魔法だよ」
為次に言わせれば、学者とは実に頭の固い人種らしい。
自分の信じる考えに対して違うことを教えられても、例えそれが事実であろうとも、おいそれとは信じない。
教えようにも、1から順序立てて事細かに教える必要があるのだ。
はっきり言って教える方は面倒臭いし、教える相手の人間性も面倒臭いのだ。
しかし、簡単に教える手段はある。
それは痛みを与えることである。
人間は痛みを受けた瞬間に脳が麻痺状態となる。
何も考えられなくなるのだ。
これは、つまりどんなに強固な考えを持っていても、その時だけはクリアな状態となる。
その隙に教えればいいし、身を以て体験させれば尚も効果的だ。
子供が悪いことをしたら、ぶっ叩くのと同じようなもである。
などと、頭のおかしい持論によって拳銃をぶっ放したのだ。
「これが…… 魔法……」
「万能治療薬のことは聞いてるかな?」
「ああ…… 聞いている」
「ただの水にスイが魔法をかけるとできるの」
「です」
「スイ君が…… 他にも何かできるのか?」
「色々できますです」
「スイは偉いなー」
「えへへー」
為次に褒められてスイは嬉しそうだ。
「ならば試させてもらってもいいかい?」
スイは黙って為次を見ると、何も言わずに頷いていた。
「ではでは、何が宜しいのでしょうか?」
「何と言われてもな……」
「ヘイストとかでいいんじゃないのか?」
正秀は言った。
「はいです」
早速、ヘイストポーションを作るとエーマに渡した。
「これが…… 成分分析をさせてもらうぞ」
「はい。どうぞなのです」
エーマは近くの装置に行くと、ポーションを垂らして何やら操作している。
どうやら魔法に興味津々のようだ。
為次のバカな行為は意外にも効果的であった様子だ。
「多少の不純物はあるが、只の水だな」
「まあそうね」
ポーションを飲んでみるエーマ。
「ごくごく……」
「どうだ?」
正秀は訊いた。
「何も変化は……!?」
あからさまに自分の意図した動きより早くなっているのが感じ取れた。
「速いだろ?」
「これは凄い!」
そう言うと、狭い部屋を駆け回る。
「はははははっ」
なんだか楽しそうである。
が……
「おっと」
どてーんっ!
床に転がっていた何かに躓いて転んでしまった。
「うぎゃーっ!」
「お、おい。大丈夫か? エーマさん」
「うひゃ、ドジっ子おばさん」
「はううう」
頭から血を流し顔面血だらけのエーマだが、どことなく嬉しそうだ。
ゆっくり立ち上がると、こちらへ戻って来た。
「素晴らしい! 素晴らしいぞこれはっ!」
未知の能力に興奮気味らしい。
叫びながら唾を飛ばしていた。
「ちょ、汚ねぇ」
「エーマさん、落ち着いてくれ」
「それどころではないぞ。スイ君、もっと見せてくれないか?」
「は、はぃ…… ですぅ」
こうして、しばらくの間エーマは魔法について実践を交え色々と聞くのであった。
そんな彼女を見て正秀は思う。
いい加減、血だらけの顔を拭いてくれよ。
と……
何か分からない箱が爆発してしまったから……
「ゲホッ、ゲホッ、何が起こったんだ……」
爆発に耐性の有る正秀は辺りを見回すも、真っ白な世界だ。
顔の前を手のひらでパタパタしてみるが、焼け石に水である。
視界が開けることはない。
しかし、少し待つと煙はすぐに無くなった。
どうやら自動排煙らしい。
「お、居た」
見ると3人は目を回して床で転がっていた。
スイのほっぺをペチペチしてみる。
「おーい、スイちゃん大丈夫か?」
「ケホッ、ケホッ、 ……はう?」
「スイちゃん……」
「ハッ! なにごとですかーっ!? けほっ」
気が付いたようだ。
口から白い粉を吹き出しながら、驚いている。
「テーブルが破裂したんだぜ」
「なんですと! ……タメツグ様、は……」
「横で転がってるぜ、ポーション掛けたら起きるんじゃないのか?」
「ですか」
と、スイはヒールとキュアのハイブリッドポーションを作ってかけてみる。
ドボ ドボ ドボ……
為次とエーマの顔面にポーションをぶっ掛けるスイであった。
……………
………
…
万能ポーションのお陰で、ようやく気が付いた2人。
皆は汚い部屋の散らかった床に座り込み、途方に暮れていた。
もっとも、爆発前よりは綺麗かも知れない。
そこらへんにあったゴミらしき物が吹き飛んでいたから……
「タメツグ君のお陰で、少しはラボも綺麗になったな」
「うっさいわ、ボケー」
エーマは特に気にした様子もなくアッケラカンとしていた。
「しかし、タメツグ君は実にからかい甲斐があるな」
「はぁ!? 俺ってからかわれてたの!?」
「なんだよ。お前、気が付いてなかったのか?」
「タメツグ様、楽しそうだったのですが……」
「…………」
顔を真っ赤にしてプルプルする為次。
自分が弄ばれていたことにようやく気が付く。
恥ずかしのあまり、俯いて何も言えなかった。
「さて、タメツグ君も大人しくなった所で妹のことを話そう」
「お、おう……」
「僕とターナは姉妹だ」
「お、お……」
「姉妹だ」
「お……」
「だ」
どうやらそれだけらしい。
エーマはそれ以上は何も言わずニコニコしていた。
「えっと…… 他には無いのか?」
「アイ艦長から聞いているだろう? 僕の作ったA.A.S.が気に入らなかったらしくアクアへ行ってしまった。その後のことは君達の方が詳しいはずだ」
「んー…… なー為次。何を話したらいいんだ……?」
何を話していいのか分からない正秀は為次に振ろうとするが、ふて腐れている。
「おやおや、タメツグ君はご機嫌斜めの様子だな」
「エーマさん…… 自分でやっといて……」
「なあタメツグ君。あの子…… ターナは優しかっただろう?」
「え?」
その言葉に為次は顔を上げエーマを見つめた。
「優し過ぎるのだ。死ぬのが前提として生産されるエンジェル達をどうにかしたかったらしい……」
「あっそう……」
「彼女らも人間には違い無いからな。しかも、能力の発現が皆無な個体はその場で処分される」
それは趣味で正義感溢れる正秀にとって、聞き捨てならない話しであった。
「えっ!? マサのアレって趣味だったのっ?」
衝撃の事実に驚く為次だが、正秀お構いなしに熱く叫ぶ!
「嘘…… だろ…… そんなことが許されるのかっ!? いやダメだ! 許されるものかぁ!!」
「仕方のないことさ。でなければ、我々が絶滅の危機に晒されるからな」
「だからって…… それは戦争で人々を星ごと消滅させた報いだろっ!」
「まあ、そう熱くなるな、マサヒデ君」
「だってよぉ……」
「ターナも同じ気持ちだったかも知れないな。A.A.S.の使用には最後まで反対していた」
「おい為次。いつまでもイジけてないで、お前もなんとか言ってくれよ」
「…………」
為次は、なんとなく服屋での出来事を思い出していた。
不甲斐なく泣き喚く自分を、子供のようにあやしてくれた。
「どっか行けよ」と叫んでも見放さずに優しく抱きしめてくれた。
あの優しさは本物だったと思う。
そんなことを考えていると、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
正秀のクソ寒い叫びが、せめてもの救いだった。
「そっか……」
呟いた為次は、ようやく分かった気がした。
どうしてターナが、あれだけ魔獣作りに拘っているのかを……
「助けるって言ったしね……」
「お? 起きたか為次?」
「いや、寝てないし」
「では、タメツグ君も起きた所で僕も聞きたいことがある」
「寝てないってば、さっきから喋ってるでしょ!」
「君達の報告は受けた。なんでも魔獣のシールドを無力化する術を知っているとか」
「聞けよっ。つか唐突過ぎるでしょ! 妹の話はどうなった!?」
またまた興奮しそうな為次をなだめる正秀。
「だから落ち着けってば」
「んも」
「他にもスイ君を魔獣が狙うとも聞いたが……」
「ほえ? そうなのですか?」
と、スイは為次に訊いた。
「そうだよ、そうだけどターナの話しをてたんじゃ……」
「ですか……」
「原因は知っているのかい?」
「さあね、詳しくは知らない。それより俺の話も聞けって」
「ということは、ある程度は知ってるのだな」
「……んー、なんとなくは」
「聞かせてくれるかい?」
「いや…… まあ…… そういや昨日、アイちゃんには後で話すって言ったけど……」
「彼女は艦長だけあって忙しいからな、後ほど報告する約束になっている」
「そっか、それなら…… って妹は? ターナの話はどうすんの? 俺の回想が無駄になるじゃん」
「そんなことは、どうでもいい」
「いやいや、どうでもって……」
「タメツグ君は細かい男だな。そんなことではモテないぞ?」
「んなもん関係ないし……」
「とにかく僕も知りたいことはある。いつまでもグダグダ言ってないで教えてくれないか?」
「……ったく。まあいいか……」
全く話が噛み合わない状況に、為次は妥協するしかなかった。
「うむ。では聞かせてもらおうか」
「あのさ、エーマは魔法って信じる?」
「魔法かい? あのファンタジーとかで、よくある魔法かな?」
「うん。テラにもファンタジーあるんだ……」
「こう見えても僕は一応、科学者なのだがね」
「まっ。エーマが科学者でも浮浪者でもいいけどさ、これから話すことは魔法ありきが大前提なんだよね」
「浮浪者ではないが、別段構わないぞ。魔法など信じないがな」
「見た目は浮浪者だけど……」
「さすがに失礼だろ為次……」
「魔法は存在している。その証拠がスイだよ」
「私ですか?」
スイはキョトンとして為次を見た。
「うん。ヒールポーション作って」
「あ、はいです。ヒールなのです」
言われた通りヒールポーションを作って為次に渡した。
「ではでは、取り出したるはぁー……」
と、デザートイーグルを抜き取る。
ガチャ
スライドを引いた。
「銃か?」
「うい」
ドンッ!
「っ!?」
エーマは一瞬、何が起こったのか分からなかった。
太ももに走る激痛で、ようやく撃たれたことに気が付いた。
「ひぎゃぁぁぁぁぁっ!! あ、足がっ!」
太ももの肉が抉れ骨が見えている。
辺り一面には鮮血が飛び散り、床を真っ赤に染めていた。
「為次、なにやってんだよっ!」
「まあまあ」
と、泣き叫ぶエーマの口にヒールポーションの瓶を押し込んで鼻をつまんだ。
「うおぇっ、ごくっ…… ふぇ…… ごくごく……!?」
意味の分からないエーマは、えづきながらも飲んだ。
すると嘘のように一瞬で痛みが消える、不思議な感覚を覚える。
「どう? どう? ねぇ、今どんな気分?」
ニヤニヤしながら為次は訊いた。
「はぁ、はぁ…… げふっ。な、何をするんだっ!」
「うひひ……」
為次は胸糞の悪い笑みを浮かべながら悪びれた様子も無い。
「いくらレトロな武器でも攻撃を受ければ……」
文句を言おうとしたエーマであったが、痛みは既に無くなっていた。
しかも、さっき見た肉の欠損した隙間から見える骨は、もう見えなかった。
「攻撃を受ければ何かなー?」
「なんだこれは……」
見るみる内に怪我を負った箇所が修復してゆく……
信じられない光景であった。
「それが魔法だよ」
為次に言わせれば、学者とは実に頭の固い人種らしい。
自分の信じる考えに対して違うことを教えられても、例えそれが事実であろうとも、おいそれとは信じない。
教えようにも、1から順序立てて事細かに教える必要があるのだ。
はっきり言って教える方は面倒臭いし、教える相手の人間性も面倒臭いのだ。
しかし、簡単に教える手段はある。
それは痛みを与えることである。
人間は痛みを受けた瞬間に脳が麻痺状態となる。
何も考えられなくなるのだ。
これは、つまりどんなに強固な考えを持っていても、その時だけはクリアな状態となる。
その隙に教えればいいし、身を以て体験させれば尚も効果的だ。
子供が悪いことをしたら、ぶっ叩くのと同じようなもである。
などと、頭のおかしい持論によって拳銃をぶっ放したのだ。
「これが…… 魔法……」
「万能治療薬のことは聞いてるかな?」
「ああ…… 聞いている」
「ただの水にスイが魔法をかけるとできるの」
「です」
「スイ君が…… 他にも何かできるのか?」
「色々できますです」
「スイは偉いなー」
「えへへー」
為次に褒められてスイは嬉しそうだ。
「ならば試させてもらってもいいかい?」
スイは黙って為次を見ると、何も言わずに頷いていた。
「ではでは、何が宜しいのでしょうか?」
「何と言われてもな……」
「ヘイストとかでいいんじゃないのか?」
正秀は言った。
「はいです」
早速、ヘイストポーションを作るとエーマに渡した。
「これが…… 成分分析をさせてもらうぞ」
「はい。どうぞなのです」
エーマは近くの装置に行くと、ポーションを垂らして何やら操作している。
どうやら魔法に興味津々のようだ。
為次のバカな行為は意外にも効果的であった様子だ。
「多少の不純物はあるが、只の水だな」
「まあそうね」
ポーションを飲んでみるエーマ。
「ごくごく……」
「どうだ?」
正秀は訊いた。
「何も変化は……!?」
あからさまに自分の意図した動きより早くなっているのが感じ取れた。
「速いだろ?」
「これは凄い!」
そう言うと、狭い部屋を駆け回る。
「はははははっ」
なんだか楽しそうである。
が……
「おっと」
どてーんっ!
床に転がっていた何かに躓いて転んでしまった。
「うぎゃーっ!」
「お、おい。大丈夫か? エーマさん」
「うひゃ、ドジっ子おばさん」
「はううう」
頭から血を流し顔面血だらけのエーマだが、どことなく嬉しそうだ。
ゆっくり立ち上がると、こちらへ戻って来た。
「素晴らしい! 素晴らしいぞこれはっ!」
未知の能力に興奮気味らしい。
叫びながら唾を飛ばしていた。
「ちょ、汚ねぇ」
「エーマさん、落ち着いてくれ」
「それどころではないぞ。スイ君、もっと見せてくれないか?」
「は、はぃ…… ですぅ」
こうして、しばらくの間エーマは魔法について実践を交え色々と聞くのであった。
そんな彼女を見て正秀は思う。
いい加減、血だらけの顔を拭いてくれよ。
と……
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