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テラ宙域編 4章
第12話 座りたいだけなんだ
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窓の外に黄色と白色の巨大な花が見える。
いや、どちらかと言えば鍋の蓋かも知れない。
蓋の裏側には無数のロッドが生えているのが確認できる。
先端は鉤爪のようになっており、2本でワンセットなのであろう、上下お互いに向かいに合っている。
「あれがヒマワリ……」
為次は呟いた。
「あんまりカッコ良くないな」
「だね」
「あそこで、つばい様を治していただけるのですか?」
「らしいね」
前回の戦闘が終わり、一息ついていたところだったが、あと3時間程度でドック艦ヒマワリへ到着するとの知らせを受けた。
エクステンペストの船体中央上部に展望室があるので、そこから見えると教えてもらった。
そんな訳で、三人は満天の星空に浮かぶ、ひときわ奇妙な形をしたヒマワリを眺めているのであった。
「デカイとは思ってたけど……」
「まだまだ大きくなりそうだな」
「お花が成長していくのです」
エクステンペストはヒマワリの正面。
ロッドが生えている方へと近づいているようだ。
次第に輪郭が視界に収まらなくなってきた。
「まさか、あの針みたいだった一本、一本が……」
「その、まさかみたいだぜ」
遠目に見た時は、向日葵に金串を刺しまくったように見えていた。
しかし、最接近している今は予想だにしなかった光景が眼前に広がっている。
一本のロッドが上下に開き、アームのようにエクステンペストを挟み込もうとしていた。
遠くを見ると、数隻ほど同じくロッドに挟まれた船が見える。
為次は凄まじいまでの規模に驚愕する。
「嘘…… でしょ…… ドック艦って、この2本づつがドックになってんの……!?」
エクステンペストに比べてロッドの大きさが違い過ぎる。
どう見てもロッドの方がサイズが大きいのだが、遠くに接舷している船にとっては少し小さく見える。
つまり、向こうの船はエクステンペストの何倍もの大きさであることを意味していた。
ピー ピー ピー
三人が呆気に取られていた所へ借りていた端末に通信が入った。
『着いたぞ』
「着いた」
「アイちゃん艦長が着いたって言ってんだろ」
「知ってる」
「……ったく」
『今から戦車をヒマワリに移す。3番デッキに来てくれ』
「うん。このでっかいのがヒマワリなの?」
『そうだが?』
「ヒマワリってなんの意味なの?」
『意味? ヒマワリは雄猫だが? 鬣の生えた様子に似ているだろう?』
「え? ライオンなの? つか猫は普通に居るんだ……」
『タメツグは何を訳の分からないことを言っているのだ? とにかく3番デッキだ、分かったな』
「はいはい、すぐ行くよ」
通信を終え、レオパルト2の修理と改造をしてもらえるので嬉々として3番デッキに向かう為次。
後の二人も付いて行くのであった。
※ ※ ※ ※ ※
あれからレオパルト2を3番デッキから出すと、ホバートラックみたいなのが待機していたので積み込んだ。
人も戦車に入ったまま、ロッドアームの内部を運搬され、何処かの格納庫らしき場所まで運ばれた。
ヒマワリの作りが左右上下対象の円盤型なので、館内図を見てもイマイチ現在地が把握し辛い。
「着いた?」
「ああ、ここだ」
為次が訊くと艦長は言った。
モゾモゾと降車をする三人。
あまり広くはない格納庫には同じトラックに乗って来た艦長と、別の女性がもう一人居た。
「やあ、君達が噂の要救かい?」
その女性はボサボサの長い髪を掻きながら言った。
服装はシステム担当のミーチェと同じだが、全体的にヨレているし、染みとか沢山付いている。
簡単に言えば汚い。
「お、おう……」
「です」
「臭そう……」
呟く為次は何処かで会ったような気もするが、思い出せない。
もっとも初対面なのは間違い無いはずだが……
「彼女はエーマ博士だ。今はヒマワリでシステム担当をしている。そして、こちらの三人が右からマサヒデ、タメツグ、スイだ」
艦長は順番に指しながら、勝手に自己紹介を終わらせてしまった。
「よろしく、僕は主にハード系のシステム担当なんだ。君達の戦車も改造を任された。もっとも、頼んだのは僕の方だがね」
「ども……(僕っこおばさん)」
「よろしくだぜ(僕って……)」
「はぅ(僕ちゃん様なのです)」
「訳あって彼女に改造を頼んだ。詳しくは本人から聞くといい。私はこれで失礼する。艦の補給とエンジェルの補充手続きと忙しいからな」
「おう、アイちゃん艦長サンキューな」
「ありがとうございましたです」
「んじゃ。アイちゃん、また後で」
「ああ、ではな」
そう言って艦長はトラックに一緒に積んであった小さなホバーカーみたいなのに乗って、何処かへ行ってしまった。
「では、君達はこちらへどうぞ」
「何処に行くの?」
為次が訊くとエーマは近くのドアを指しながら言う。
「そこのラボだ」
「レオはここに置いといていいの?」
「好きなとこに置いといてくれて構わない。そう広くもないしな」
周りには何かよく分からない機械が沢山転がっている。
レオパルト2をトラックから降ろした時に、踏んづけてしまい、幾つかへしゃげていた。
「ま、まあ…… あまり動かさない方がいいかな……」
「だな……」
とりあえず、エーマに連れられてラボへ入るのだった。
※ ※ ※ ※ ※
「適当に座ってくれ」
エーマは1つだけあるデスクに備わっているチェアに座ると言った。
「「「…………」」」
三人は座ろうとするも、何処に座って良いのかと悩んだ。
ラボは様々な機械が転がっており、ゴミとかも散らかし放題だった。
そのくせして、椅子は1個しか無い。
「どうかしたのか?」
立ち尽くす三人を見てエーマは訊いた。
「どうやって座んの……?」
「なんだ、タメツグ君は座り方を知らないのか?」
「ちっげーよっ! 何処に座れっていう」
「ああ、その辺に転がっている座りやすい物に座ればいい」
「ぬぅ……」
床を見る為次。
そこへ、スイが四角い何かを拾って差し出す。
「タメツグ様、これどうぞです」
「あ、うん」
早速、座ろうとするが……
「タメツグ君、それは衝撃を与えると爆発するから気を付けてくれ」
ガタッと慌てて立ち上がった。
「ふざけんな! こんな物騒な物置いとくなよっ」
「君は何を騒いでいるのだ?」
「ぐっ……(このババァ)」
「為次、落ち着けって」
為次が怒りそうになっているのを見て正秀はたしなめようとした。
「お、俺はいつも冷静だが……」
「お前が冷静かはともかく…… と、とにかく。座っても大丈夫なのは、どれなんだエーマさん?」
「どれでも大丈夫だ」
「どれでもじゃねーだろ! さっきコレ爆発するって言ったよね!」
さっきの四角い物を指しながら為次は叫んだ。
「気を付ければ問題無い」
「あるよっ! 大ありだよっ!」
「何を興奮しているのだ? 仕方のない奴だな……」
エーマは立ち上がると、適当な椅子になりそうな物を見繕って並べてくれた。
「ほら、これに座るといい」
「お、おう…… サンキューな」
「ありがとうございますです」
「本当に大丈夫かよ……」
ようやく座れた三人。
為次もちょっと落ち着いた。
「お茶でも飲むかい?」
「ああ、お構いなく」
と、正秀が言うも、エーマは床に落ちているコップを拾うと、ドリンクベンダーらしき物からお茶を淹れてくれる。
だが置く場所が無い、コップを3つ手に持ったまま、床を見てキョロキョロしている。
「エーマさん、手伝うぜ」
「手伝うです」
「いや、大丈夫だ」
そう言ってエーマは突然、さっき爆発すると言った四角い物を足で蹴ると三人の前に押しやった。
ゲシッ ゲシッ
爆発物を目の前で蹴られては堪ったものではない。
なので為次は、また叫ぶ羽目になる。
「うぉーいっ! 何やっとんじゃお前はっ! さっき爆発するって言ったよね!」
「五月蝿いな君は、気を付ければ大丈夫だと言っている」
エーマは気にもせず、お茶の入ったコップをテーブル代わりにした爆発物の上に置いた。
「うぉぃ……」
「さて」
「さて。じゃないよっ!」
「まー、まー、為次。エーマさんも大丈夫だって言ってるから」
先程から声を荒げる為次をたしなめる正秀。
このままでは、座るだけで今回の話が終わってしまうと思ったのだ。
「いや、だってさ……」
「とにかく話を聞こうぜ」
「んもぅ……」
「とりあえず自己紹介がまだだったな。僕は……」
「いや、しただろっ! さっき、したよねっ!」
「為次、今日はやけにツッこむな」
「だって、コイツおかしいって!」
エーマを指しながら喚く為次。
「ははっ、そんなに褒めても何も出ないぞ?」
「褒めてないしっ!」
思わずテーブルモドキにバンッと両手を付いて立ち上がった。
「うぉっ、危ねぇ…… 叩いてしまった」
「タメツグ君、気を付ければ大丈夫と言ったろう? 何度も同じことを言わせないでくれ」
「お前だ! そりゃお前だってばっ!!」
「タメツグ様が楽しそうだと、スイも楽しくなるのです」
「楽しくないよっ! 楽しそうに見えるの!?」
「はう?」
「仕方ねーな、為次は少し黙ってな。俺が話してやるぜ」
「……はぁ、なんか疲れたし、そうして……」
ガックリしながら座る為次。
エーマの相手をさせていると、全然先に進みそうもないので正秀が話すことにした。
初めから、そうしていれば1話を無駄にせずに済んだが仕方が無い。
「ええっと、じゃあ何から……」
「まずは自己紹介と行こうではないか」
ガタッ!
「このっ……!」
為次は再び立ち上がり叫ぼうとするが、正秀に抑制されてしまう。
「まあ、待て。為次」
「んー…… くそっ」
「それじゃあエーマさん、為次のことは気にせず自己紹介してくれるかい」
「ああ、まずは何から話そうか…… そうだなぁ…… これはどうでもいいことなんだが……」
「うわー、マジでどうでもいいわー」
エーマが話す前から為次はジト目で睨みながら言った。
それでも気にする様子もなく話を続ける。
「実はな、ターナは僕の妹なんだ。それで、君達の話を聞こうと思って戦車の改造を申し出たのさ」
「はぁ…… そんなんどうでも…… えっ!? ……妹? 誰が?」
「本当にタメツグ君は同じことを聞くのが好きだな。ターナと言ってるだろう」
ガタッ!
又々、立ち上がりテーブルモドキに両手を付く為次。
「そんな大事なことは先に言えっっっ!!」
「話そうとしているのだが、さっきから君が五月蠅くてな……」
「くっ…… と、とにかく詳しく聞かせて……」
「あー…… 残念だが文字数が足らないようだ、また次回だな」
「僕ちゃん様は何を言ってるのでしょうか?」
「気にしないでくれ、スイちゃん」
「はぃ……」
「うむ。女たる者、細かいことを気にしては駄目だ。見るがいい、タメツグ君の女々しさを。ハハハッ」
「うっきぃぃぃぃぃっ!!」
とうとう為次はキレてしまった。
バンッ バンッ バンッ
悔しさのあまり、テーブルモドキを叩き付ける。
ボンッ!
爆発した……
いや、どちらかと言えば鍋の蓋かも知れない。
蓋の裏側には無数のロッドが生えているのが確認できる。
先端は鉤爪のようになっており、2本でワンセットなのであろう、上下お互いに向かいに合っている。
「あれがヒマワリ……」
為次は呟いた。
「あんまりカッコ良くないな」
「だね」
「あそこで、つばい様を治していただけるのですか?」
「らしいね」
前回の戦闘が終わり、一息ついていたところだったが、あと3時間程度でドック艦ヒマワリへ到着するとの知らせを受けた。
エクステンペストの船体中央上部に展望室があるので、そこから見えると教えてもらった。
そんな訳で、三人は満天の星空に浮かぶ、ひときわ奇妙な形をしたヒマワリを眺めているのであった。
「デカイとは思ってたけど……」
「まだまだ大きくなりそうだな」
「お花が成長していくのです」
エクステンペストはヒマワリの正面。
ロッドが生えている方へと近づいているようだ。
次第に輪郭が視界に収まらなくなってきた。
「まさか、あの針みたいだった一本、一本が……」
「その、まさかみたいだぜ」
遠目に見た時は、向日葵に金串を刺しまくったように見えていた。
しかし、最接近している今は予想だにしなかった光景が眼前に広がっている。
一本のロッドが上下に開き、アームのようにエクステンペストを挟み込もうとしていた。
遠くを見ると、数隻ほど同じくロッドに挟まれた船が見える。
為次は凄まじいまでの規模に驚愕する。
「嘘…… でしょ…… ドック艦って、この2本づつがドックになってんの……!?」
エクステンペストに比べてロッドの大きさが違い過ぎる。
どう見てもロッドの方がサイズが大きいのだが、遠くに接舷している船にとっては少し小さく見える。
つまり、向こうの船はエクステンペストの何倍もの大きさであることを意味していた。
ピー ピー ピー
三人が呆気に取られていた所へ借りていた端末に通信が入った。
『着いたぞ』
「着いた」
「アイちゃん艦長が着いたって言ってんだろ」
「知ってる」
「……ったく」
『今から戦車をヒマワリに移す。3番デッキに来てくれ』
「うん。このでっかいのがヒマワリなの?」
『そうだが?』
「ヒマワリってなんの意味なの?」
『意味? ヒマワリは雄猫だが? 鬣の生えた様子に似ているだろう?』
「え? ライオンなの? つか猫は普通に居るんだ……」
『タメツグは何を訳の分からないことを言っているのだ? とにかく3番デッキだ、分かったな』
「はいはい、すぐ行くよ」
通信を終え、レオパルト2の修理と改造をしてもらえるので嬉々として3番デッキに向かう為次。
後の二人も付いて行くのであった。
※ ※ ※ ※ ※
あれからレオパルト2を3番デッキから出すと、ホバートラックみたいなのが待機していたので積み込んだ。
人も戦車に入ったまま、ロッドアームの内部を運搬され、何処かの格納庫らしき場所まで運ばれた。
ヒマワリの作りが左右上下対象の円盤型なので、館内図を見てもイマイチ現在地が把握し辛い。
「着いた?」
「ああ、ここだ」
為次が訊くと艦長は言った。
モゾモゾと降車をする三人。
あまり広くはない格納庫には同じトラックに乗って来た艦長と、別の女性がもう一人居た。
「やあ、君達が噂の要救かい?」
その女性はボサボサの長い髪を掻きながら言った。
服装はシステム担当のミーチェと同じだが、全体的にヨレているし、染みとか沢山付いている。
簡単に言えば汚い。
「お、おう……」
「です」
「臭そう……」
呟く為次は何処かで会ったような気もするが、思い出せない。
もっとも初対面なのは間違い無いはずだが……
「彼女はエーマ博士だ。今はヒマワリでシステム担当をしている。そして、こちらの三人が右からマサヒデ、タメツグ、スイだ」
艦長は順番に指しながら、勝手に自己紹介を終わらせてしまった。
「よろしく、僕は主にハード系のシステム担当なんだ。君達の戦車も改造を任された。もっとも、頼んだのは僕の方だがね」
「ども……(僕っこおばさん)」
「よろしくだぜ(僕って……)」
「はぅ(僕ちゃん様なのです)」
「訳あって彼女に改造を頼んだ。詳しくは本人から聞くといい。私はこれで失礼する。艦の補給とエンジェルの補充手続きと忙しいからな」
「おう、アイちゃん艦長サンキューな」
「ありがとうございましたです」
「んじゃ。アイちゃん、また後で」
「ああ、ではな」
そう言って艦長はトラックに一緒に積んであった小さなホバーカーみたいなのに乗って、何処かへ行ってしまった。
「では、君達はこちらへどうぞ」
「何処に行くの?」
為次が訊くとエーマは近くのドアを指しながら言う。
「そこのラボだ」
「レオはここに置いといていいの?」
「好きなとこに置いといてくれて構わない。そう広くもないしな」
周りには何かよく分からない機械が沢山転がっている。
レオパルト2をトラックから降ろした時に、踏んづけてしまい、幾つかへしゃげていた。
「ま、まあ…… あまり動かさない方がいいかな……」
「だな……」
とりあえず、エーマに連れられてラボへ入るのだった。
※ ※ ※ ※ ※
「適当に座ってくれ」
エーマは1つだけあるデスクに備わっているチェアに座ると言った。
「「「…………」」」
三人は座ろうとするも、何処に座って良いのかと悩んだ。
ラボは様々な機械が転がっており、ゴミとかも散らかし放題だった。
そのくせして、椅子は1個しか無い。
「どうかしたのか?」
立ち尽くす三人を見てエーマは訊いた。
「どうやって座んの……?」
「なんだ、タメツグ君は座り方を知らないのか?」
「ちっげーよっ! 何処に座れっていう」
「ああ、その辺に転がっている座りやすい物に座ればいい」
「ぬぅ……」
床を見る為次。
そこへ、スイが四角い何かを拾って差し出す。
「タメツグ様、これどうぞです」
「あ、うん」
早速、座ろうとするが……
「タメツグ君、それは衝撃を与えると爆発するから気を付けてくれ」
ガタッと慌てて立ち上がった。
「ふざけんな! こんな物騒な物置いとくなよっ」
「君は何を騒いでいるのだ?」
「ぐっ……(このババァ)」
「為次、落ち着けって」
為次が怒りそうになっているのを見て正秀はたしなめようとした。
「お、俺はいつも冷静だが……」
「お前が冷静かはともかく…… と、とにかく。座っても大丈夫なのは、どれなんだエーマさん?」
「どれでも大丈夫だ」
「どれでもじゃねーだろ! さっきコレ爆発するって言ったよね!」
さっきの四角い物を指しながら為次は叫んだ。
「気を付ければ問題無い」
「あるよっ! 大ありだよっ!」
「何を興奮しているのだ? 仕方のない奴だな……」
エーマは立ち上がると、適当な椅子になりそうな物を見繕って並べてくれた。
「ほら、これに座るといい」
「お、おう…… サンキューな」
「ありがとうございますです」
「本当に大丈夫かよ……」
ようやく座れた三人。
為次もちょっと落ち着いた。
「お茶でも飲むかい?」
「ああ、お構いなく」
と、正秀が言うも、エーマは床に落ちているコップを拾うと、ドリンクベンダーらしき物からお茶を淹れてくれる。
だが置く場所が無い、コップを3つ手に持ったまま、床を見てキョロキョロしている。
「エーマさん、手伝うぜ」
「手伝うです」
「いや、大丈夫だ」
そう言ってエーマは突然、さっき爆発すると言った四角い物を足で蹴ると三人の前に押しやった。
ゲシッ ゲシッ
爆発物を目の前で蹴られては堪ったものではない。
なので為次は、また叫ぶ羽目になる。
「うぉーいっ! 何やっとんじゃお前はっ! さっき爆発するって言ったよね!」
「五月蝿いな君は、気を付ければ大丈夫だと言っている」
エーマは気にもせず、お茶の入ったコップをテーブル代わりにした爆発物の上に置いた。
「うぉぃ……」
「さて」
「さて。じゃないよっ!」
「まー、まー、為次。エーマさんも大丈夫だって言ってるから」
先程から声を荒げる為次をたしなめる正秀。
このままでは、座るだけで今回の話が終わってしまうと思ったのだ。
「いや、だってさ……」
「とにかく話を聞こうぜ」
「んもぅ……」
「とりあえず自己紹介がまだだったな。僕は……」
「いや、しただろっ! さっき、したよねっ!」
「為次、今日はやけにツッこむな」
「だって、コイツおかしいって!」
エーマを指しながら喚く為次。
「ははっ、そんなに褒めても何も出ないぞ?」
「褒めてないしっ!」
思わずテーブルモドキにバンッと両手を付いて立ち上がった。
「うぉっ、危ねぇ…… 叩いてしまった」
「タメツグ君、気を付ければ大丈夫と言ったろう? 何度も同じことを言わせないでくれ」
「お前だ! そりゃお前だってばっ!!」
「タメツグ様が楽しそうだと、スイも楽しくなるのです」
「楽しくないよっ! 楽しそうに見えるの!?」
「はう?」
「仕方ねーな、為次は少し黙ってな。俺が話してやるぜ」
「……はぁ、なんか疲れたし、そうして……」
ガックリしながら座る為次。
エーマの相手をさせていると、全然先に進みそうもないので正秀が話すことにした。
初めから、そうしていれば1話を無駄にせずに済んだが仕方が無い。
「ええっと、じゃあ何から……」
「まずは自己紹介と行こうではないか」
ガタッ!
「このっ……!」
為次は再び立ち上がり叫ぼうとするが、正秀に抑制されてしまう。
「まあ、待て。為次」
「んー…… くそっ」
「それじゃあエーマさん、為次のことは気にせず自己紹介してくれるかい」
「ああ、まずは何から話そうか…… そうだなぁ…… これはどうでもいいことなんだが……」
「うわー、マジでどうでもいいわー」
エーマが話す前から為次はジト目で睨みながら言った。
それでも気にする様子もなく話を続ける。
「実はな、ターナは僕の妹なんだ。それで、君達の話を聞こうと思って戦車の改造を申し出たのさ」
「はぁ…… そんなんどうでも…… えっ!? ……妹? 誰が?」
「本当にタメツグ君は同じことを聞くのが好きだな。ターナと言ってるだろう」
ガタッ!
又々、立ち上がりテーブルモドキに両手を付く為次。
「そんな大事なことは先に言えっっっ!!」
「話そうとしているのだが、さっきから君が五月蠅くてな……」
「くっ…… と、とにかく詳しく聞かせて……」
「あー…… 残念だが文字数が足らないようだ、また次回だな」
「僕ちゃん様は何を言ってるのでしょうか?」
「気にしないでくれ、スイちゃん」
「はぃ……」
「うむ。女たる者、細かいことを気にしては駄目だ。見るがいい、タメツグ君の女々しさを。ハハハッ」
「うっきぃぃぃぃぃっ!!」
とうとう為次はキレてしまった。
バンッ バンッ バンッ
悔しさのあまり、テーブルモドキを叩き付ける。
ボンッ!
爆発した……
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