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惑星アクア編 終章
第4話 最終調整
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今朝は早くから車庫内にて、為次と貞宗がレオパルト2の周りで作業を始めていた。
魔導機関の補助によって、モノポールキャノン及びワームホールの使用を可能とさせる為である。
もっとも為次はその辺の詳しい性能は話していないし、貞宗も深くは聞こうとしなかった。
きっと興味を失ってしまったのであろう……
と、為次は考えていた。
昨日10式戦車を弄っていたのは、僅かに残された日本人としての感情かも知れないとも……
「ほら、そっちを持って引っ張れ」
「はいはい」
エレメンタルストーンの入っているAPUのあった場所から運転席側へとケーブルを引っ張る。
ケーブルは魔導文字によて呪文が書き巡らされた魔力伝達専用品だ。
一応はレオパルト2の改造時に配管をしておいたが、少し狭い感じがする。
車体後部から一番前までケーブルを通すので、途中のターレット部分が微妙に邪魔だった。
砲塔を360度回すには、どうしても避ける必要がある。
「ぬぐぐぐ、これ以上出て来ないよ」
「もっと力を入れろっ」
3本目のケーブルが中々出て来ない。
かなりピチピチなのだ。
「あーもー、潤滑剤は無いッスかぁ」
「ったく、しょうがねぇな。もっと広く作っとけ」
「これでも結構、いっぱい、いっぱい、なんスが」
「相変わらず口答えばかりだな山崎は。仕方ない、取って来るから一旦このケーブル抜いとけ」
「はーい」
中途半端に入ったケーブルを必死に抜こうと頑張る為次。
「ぬぉぉぉ…… ふんぬぅ」
ズポッ ドテン
「ふぎゃ」
「何やってんだ」
尻もちを付きながら抜けたとこで貞宗が戻って来た。
近くの棚から取ってくるだけなので早い。
「抜けた」
「ほら、お前が塗れよ」
と、潤滑剤の入った樽を床に座り込んだ為次の上に置かれてしまった。
「うぐっ、ぅえー」
「えー。じゃない、さっさとしろ」
「はぁーい」
しぶしぶ、ネバネバした透明な液体をケーブルに塗り始める。
ローションみたいで気持ち悪いし、素材が何かも分らないので尚更だ。
そんなことは他所に貞宗は腕を組みながら作業を眺めている。
「なあ、山崎よ」
「なんスか?」
「あの水谷に纏わり付いている娘は何者だ?」
「あー、そういや紹介してなかったけ。ユーナッスよ」
「いや、名前は聞いた」
「そすか…… んー今更何者と言われてもなぁ。興味あるんスか?」
「特には無いが、訊いてみただけだ」
「はぁ。まあ、向こうで助けてもらった宇宙船のクルーっスよ。マサを気に入って付いて来たの」
「ほぅ」
納得したのかどうか分らないような返事をした貞宗は、それ以上何も聞かなかった。
他にも何か話したいことが沢山ある為次。
だが、何も言わずにケーブルを配管に通す。
服までベトベトになっているのを、ただ後悔するだけであった……
※ ※ 貞宗宅のリビング ※ ※
同じ頃、マヨーラとスイは図面を見ながらひたすらに言われた通りの魔法を作っていた。
正秀とユーナを2人っきりにするのをマヨーラが許すはずもなく、同じくリビングで魔法制作の強制見学をさせられている。
「ふぁぁぁーあ…… なぁマヨーラ。少し休憩して何処か遊びに行こうぜ」
「あたしは別に構わないけど…… マサヒデがいいなら……」
「ダメなのです! つばい様を強くするのに大切な作業です!」
「だ、だよな。スイちゃんの言う通りだぜ」
「だったら私と2人で行く」
ユーナに袖を引かれる正秀だが、チラッっとマヨーラを見ると無言で睨まれていた。
「ま、まあ、もう少し見学してようぜ」
「マヨーラのことは気にしなくていい」
「マサヒデ、何処にも行かないわよね」
「お、おう……」
微妙な雰囲気の中で魔法制作は続けられる。
今回のスクロールはヒマワリから持って来た特殊カーボンを使用していた。
以前の鉄板スクロールにサイズを合わせて為次が用意していた物だ。
魔導文字は筆とかペンは使わずに指でなぞることによって記入される。
記入というよりは、刻印といった感じだ。
刻まれるおかげで消えることはないらしい。
カーボンが使えるかは定かではなかったが、試したら大丈夫であった。
鉄板でも構わないが魔法関連の装置に関しては、なるべく破損はさせたくない。
壊れた際には一応ナノマシンが修復してくれるが、それでも魔法が機能するかは分らないのだ。
だから装甲にも使用されている、ミサイルですら破壊不能な特殊カーボンはうってつけだった。
こうして皆の協力の元、レオパルト2の最終強化作業は進められて行った……
※ ※ 貞宗宅の車庫 ※ ※
―― 10時間後
パタンッ
「できた」
皆の見守る中、APUの入っていた車体右後部の蓋を閉めると為次は呟いた。
途中休憩を挟んだりはしたが、実に13時間の改造作業であった。
さすがの貞宗も疲れているようだ。
「やれやれ、やっと終わったか」
「大変だったんだからね。ちゃんとお金払いなさいよ、タメツグが」
どうやらマヨーラのお手伝いは有料だったらしい。
「あ、金取るんだ……」
「当たり前でしょ、安くないわよ」
「はいはい…… マサ」
「おう、いくら必要だ?」
「え? あ、あたしはタメツグに……」
「遠慮しなくていいんだぜ、よかったら半分程やるぜ。マヨーラには色々と世話になったしな」
「半分って…… マサヒデ達ってレッドドラゴンの報酬持ってたわよね?」
「おう、2億だったかな」
「スイに使ったから、1億5千万円残ってるねぇ」
「山崎よ、こちらではゴールドだぞ」
「スイは5千万ゴールドの奴隷なのです」
「そうだねー」
「今思えば借家の修理費に使っても良かったぜ……」
しみじみと借家を思い出した正秀。
「壊し過ぎだってば」
「はははっ、悪りぃ悪りぃ。だけど為次程はぶっ壊してないぜ。商店街に公園までな」
「いや、あれは……」
などと皆が話していると、マヨーラは指を立てながら計算をしている。
「1億5千万の半分って、1億ゴールド……? そんなに貰えないわよっ」
なんだか計算が間違っているが、正秀は気にしていない。
「いいんだぜ」
「んじゃ、世話になった連中に分けとく?」
と、為次は言った。
「だな」
「お前達はゴーレムの報酬もまだあるからな」
貞宗は、そう付け加えた。
「そうでしたね。隊長も要りますか?」
「バカを言うんじゃない、俺を誰だと思ってるんだ。この街は俺が管理している。いわば領主みたいなものだ」
「隊長さん、税金がっぽがっぽだねー」
「山崎よ…… 嫌な言い方をするな……」
「まーまー金はともかく、それより隊長さんにお願いがあるんスが」
「お願い? なんだ?」
いつまでもお金の話をしていても拉致があかないと思った為次は本題に入ることにした。
「バハムートなんだけど見てみたいなーって」
「バハムートをか? いきなりだな」
「そうそう、神を呼ぶ神々しい魔獣。是非一度拝んでみたいかも」
「ほう…… 山崎の割には中々にいい心掛けだな」
「タメツグ様が見たいならスイも見たいのです。きっと素晴らしいのです」
「俺もだぜ。やっぱり強くてカッコいいんでしょうねバハムートって奴は」
「ふふっ、そうかそうか。お前達にもバハムートの素晴らしさが分かるか。ならば仕方がないな」
バハムートを褒め称える三人を前にして、貞宗は嬉しそうに言った。
すると為次は、ここぞとばかりに言う。
「じゃあ、今からでも行きたいなー。わくわくしてきちゃった」
「そう慌てるな山崎。そうだな…… 明日の朝でも一番に行ってみるか」
「マジすか! やったー」
「ありがとうございます! 隊長」
「やりましたのです」
と、三人が調子のいいこと言っている所にマヨーラが要らないことを言うのだ。
「あんた達あんなモノが見たいの? ただのデカい鳥よ」
一瞬その場が凍り付く。
皆は一斉にマヨーラを見た。
「な、な、何言ってんのマヨ。そんなことないって!」
為次は慌ててフォローしようとするが上手く言葉が見つからない。
「ったく、マヨーラの嬢ちゃんはまだ言うか。そんなことじゃいい嫁さんにはなれんぞ」
「はぁ!? マサヒデのお嫁さんとは関係ないでしょ!」
「いや、マサヒデとは一言も行って無いが……」
貞宗とマヨーラの会話を聞いてた為次は安心した。
どうやらバハムートをよろしく思っていないのは今に始まったことではないようだ。
まだ若いマヨーラはあまり思考を汚染されていないらしい。
とはいえ、せっかくアポイントが取れたので、これ以上は変なことを喋らせたくはない。
「と、とにかく明日見に行くってことで…… それより完成したレオのお披露目を…… うんそれがいいい、そうしよう」
話をそらしレオパルト2の自慢をしようとする為次だが……
「あー要らん要らん、それより一杯飲むぞ。今日は山崎に付き合って疲れたからな。おいクリス」
「はいはい、仕方ありませんね。今用意しますからリビングで待っていて下さい」
そう言うとクリスは母屋の中へと行ってしまった。
「よしっ、水谷、山崎、俺達も行くぞっ」
「隊長、今夜は一晩中付き合いますよ!」
「調子のいいこと言って、先に酔いつぶれるなよ?」
「大丈夫ですよ。マヨーラとユーナちゃんも行こうぜ」
「ええ、行きましょ」
「行く」
皆はまだ直していな壁の穴から行ってしまった。
為次を残して……
「あ…… レオのお披露目を…… えー、行っちゃったよ……」
ポツンと立ち尽くす為次。
なんとなくレオパルト2を振り返ると、すぐ後ろにはスイが居た。
優しい笑顔でこちらを見つめている。
「一緒に呑みに行かれないのですか?」
「まあ…… 行くけど」
「つばい様は元気になられましたか?」
「ああ、うん。おかげさまでね」
そう言いながら、そっと車体に触れてみた。
手には冷たい感触が伝わって来る。
装甲そのものはカーボンだが、表面は特殊金属で覆ってある。
やはり戦車は鉄だとの為次の拘りだった。
「ねぇスイ……」
「はい」
「これからもレオに乗るなら覚えといて欲しい」
「覚える……?」
「俺達は手に余る程の強大な力を手に入れてしまった。この力さえあればどんな望みでも叶うかも知れない。でもそれは力によって叶う望みなんだ…… 相手を…… すべてを…… 破壊の限りを尽くしてね」
「…………」
「どう使いたいかは君の自由だ。もうスイを縛るモノは何も無い。天使にも悪魔にも成れる。自由とは本来ルールの中でこそ意味を成す。でもね…… 俺達の手に入れた自由はいわば混沌なんだよ、秩序を持たない自由だ」
「…………」
「自分の選択肢で無数の生命を生かすことも殺すこともできるのを覚えといて欲しい」
「……はい」
スイは小さく頷くと砲塔へと飛び乗り、車内に入ってしまった。
「スイ?」
しばらくするとハッチからヒョッコリ上半身を出す。
その手にはビールとバスケットが握られていた。
「つばい様はいつもお一人で寂しいでしょうから、ここでどうですか?」
そういいながらビール瓶を軽く揺らすスイ。
「いつの間に……」
「えへへー、エクステンペストから持って来たのです」
と、照れ臭そうに言った。
為次も砲塔によじ登りバスケットを受け取る。
中を覗くと何種類かの食べ物が綺麗に並べられ入っていた。
「ははっ、そっか……」
洗面器に入っていない食べ物を見た時、為次は気がついた。
マインドジェネレーターによってナノマシンの抑制から解放されていたのだと。
記憶を増やさない為に短絡的な思考になり、睡眠も多くなる。
特にスイはその傾向が顕著に見られた。
しかし、今は違う。
目の前で優しく微笑む彼女は、心の自由を手に入れているのを知るのだった……
魔導機関の補助によって、モノポールキャノン及びワームホールの使用を可能とさせる為である。
もっとも為次はその辺の詳しい性能は話していないし、貞宗も深くは聞こうとしなかった。
きっと興味を失ってしまったのであろう……
と、為次は考えていた。
昨日10式戦車を弄っていたのは、僅かに残された日本人としての感情かも知れないとも……
「ほら、そっちを持って引っ張れ」
「はいはい」
エレメンタルストーンの入っているAPUのあった場所から運転席側へとケーブルを引っ張る。
ケーブルは魔導文字によて呪文が書き巡らされた魔力伝達専用品だ。
一応はレオパルト2の改造時に配管をしておいたが、少し狭い感じがする。
車体後部から一番前までケーブルを通すので、途中のターレット部分が微妙に邪魔だった。
砲塔を360度回すには、どうしても避ける必要がある。
「ぬぐぐぐ、これ以上出て来ないよ」
「もっと力を入れろっ」
3本目のケーブルが中々出て来ない。
かなりピチピチなのだ。
「あーもー、潤滑剤は無いッスかぁ」
「ったく、しょうがねぇな。もっと広く作っとけ」
「これでも結構、いっぱい、いっぱい、なんスが」
「相変わらず口答えばかりだな山崎は。仕方ない、取って来るから一旦このケーブル抜いとけ」
「はーい」
中途半端に入ったケーブルを必死に抜こうと頑張る為次。
「ぬぉぉぉ…… ふんぬぅ」
ズポッ ドテン
「ふぎゃ」
「何やってんだ」
尻もちを付きながら抜けたとこで貞宗が戻って来た。
近くの棚から取ってくるだけなので早い。
「抜けた」
「ほら、お前が塗れよ」
と、潤滑剤の入った樽を床に座り込んだ為次の上に置かれてしまった。
「うぐっ、ぅえー」
「えー。じゃない、さっさとしろ」
「はぁーい」
しぶしぶ、ネバネバした透明な液体をケーブルに塗り始める。
ローションみたいで気持ち悪いし、素材が何かも分らないので尚更だ。
そんなことは他所に貞宗は腕を組みながら作業を眺めている。
「なあ、山崎よ」
「なんスか?」
「あの水谷に纏わり付いている娘は何者だ?」
「あー、そういや紹介してなかったけ。ユーナッスよ」
「いや、名前は聞いた」
「そすか…… んー今更何者と言われてもなぁ。興味あるんスか?」
「特には無いが、訊いてみただけだ」
「はぁ。まあ、向こうで助けてもらった宇宙船のクルーっスよ。マサを気に入って付いて来たの」
「ほぅ」
納得したのかどうか分らないような返事をした貞宗は、それ以上何も聞かなかった。
他にも何か話したいことが沢山ある為次。
だが、何も言わずにケーブルを配管に通す。
服までベトベトになっているのを、ただ後悔するだけであった……
※ ※ 貞宗宅のリビング ※ ※
同じ頃、マヨーラとスイは図面を見ながらひたすらに言われた通りの魔法を作っていた。
正秀とユーナを2人っきりにするのをマヨーラが許すはずもなく、同じくリビングで魔法制作の強制見学をさせられている。
「ふぁぁぁーあ…… なぁマヨーラ。少し休憩して何処か遊びに行こうぜ」
「あたしは別に構わないけど…… マサヒデがいいなら……」
「ダメなのです! つばい様を強くするのに大切な作業です!」
「だ、だよな。スイちゃんの言う通りだぜ」
「だったら私と2人で行く」
ユーナに袖を引かれる正秀だが、チラッっとマヨーラを見ると無言で睨まれていた。
「ま、まあ、もう少し見学してようぜ」
「マヨーラのことは気にしなくていい」
「マサヒデ、何処にも行かないわよね」
「お、おう……」
微妙な雰囲気の中で魔法制作は続けられる。
今回のスクロールはヒマワリから持って来た特殊カーボンを使用していた。
以前の鉄板スクロールにサイズを合わせて為次が用意していた物だ。
魔導文字は筆とかペンは使わずに指でなぞることによって記入される。
記入というよりは、刻印といった感じだ。
刻まれるおかげで消えることはないらしい。
カーボンが使えるかは定かではなかったが、試したら大丈夫であった。
鉄板でも構わないが魔法関連の装置に関しては、なるべく破損はさせたくない。
壊れた際には一応ナノマシンが修復してくれるが、それでも魔法が機能するかは分らないのだ。
だから装甲にも使用されている、ミサイルですら破壊不能な特殊カーボンはうってつけだった。
こうして皆の協力の元、レオパルト2の最終強化作業は進められて行った……
※ ※ 貞宗宅の車庫 ※ ※
―― 10時間後
パタンッ
「できた」
皆の見守る中、APUの入っていた車体右後部の蓋を閉めると為次は呟いた。
途中休憩を挟んだりはしたが、実に13時間の改造作業であった。
さすがの貞宗も疲れているようだ。
「やれやれ、やっと終わったか」
「大変だったんだからね。ちゃんとお金払いなさいよ、タメツグが」
どうやらマヨーラのお手伝いは有料だったらしい。
「あ、金取るんだ……」
「当たり前でしょ、安くないわよ」
「はいはい…… マサ」
「おう、いくら必要だ?」
「え? あ、あたしはタメツグに……」
「遠慮しなくていいんだぜ、よかったら半分程やるぜ。マヨーラには色々と世話になったしな」
「半分って…… マサヒデ達ってレッドドラゴンの報酬持ってたわよね?」
「おう、2億だったかな」
「スイに使ったから、1億5千万円残ってるねぇ」
「山崎よ、こちらではゴールドだぞ」
「スイは5千万ゴールドの奴隷なのです」
「そうだねー」
「今思えば借家の修理費に使っても良かったぜ……」
しみじみと借家を思い出した正秀。
「壊し過ぎだってば」
「はははっ、悪りぃ悪りぃ。だけど為次程はぶっ壊してないぜ。商店街に公園までな」
「いや、あれは……」
などと皆が話していると、マヨーラは指を立てながら計算をしている。
「1億5千万の半分って、1億ゴールド……? そんなに貰えないわよっ」
なんだか計算が間違っているが、正秀は気にしていない。
「いいんだぜ」
「んじゃ、世話になった連中に分けとく?」
と、為次は言った。
「だな」
「お前達はゴーレムの報酬もまだあるからな」
貞宗は、そう付け加えた。
「そうでしたね。隊長も要りますか?」
「バカを言うんじゃない、俺を誰だと思ってるんだ。この街は俺が管理している。いわば領主みたいなものだ」
「隊長さん、税金がっぽがっぽだねー」
「山崎よ…… 嫌な言い方をするな……」
「まーまー金はともかく、それより隊長さんにお願いがあるんスが」
「お願い? なんだ?」
いつまでもお金の話をしていても拉致があかないと思った為次は本題に入ることにした。
「バハムートなんだけど見てみたいなーって」
「バハムートをか? いきなりだな」
「そうそう、神を呼ぶ神々しい魔獣。是非一度拝んでみたいかも」
「ほう…… 山崎の割には中々にいい心掛けだな」
「タメツグ様が見たいならスイも見たいのです。きっと素晴らしいのです」
「俺もだぜ。やっぱり強くてカッコいいんでしょうねバハムートって奴は」
「ふふっ、そうかそうか。お前達にもバハムートの素晴らしさが分かるか。ならば仕方がないな」
バハムートを褒め称える三人を前にして、貞宗は嬉しそうに言った。
すると為次は、ここぞとばかりに言う。
「じゃあ、今からでも行きたいなー。わくわくしてきちゃった」
「そう慌てるな山崎。そうだな…… 明日の朝でも一番に行ってみるか」
「マジすか! やったー」
「ありがとうございます! 隊長」
「やりましたのです」
と、三人が調子のいいこと言っている所にマヨーラが要らないことを言うのだ。
「あんた達あんなモノが見たいの? ただのデカい鳥よ」
一瞬その場が凍り付く。
皆は一斉にマヨーラを見た。
「な、な、何言ってんのマヨ。そんなことないって!」
為次は慌ててフォローしようとするが上手く言葉が見つからない。
「ったく、マヨーラの嬢ちゃんはまだ言うか。そんなことじゃいい嫁さんにはなれんぞ」
「はぁ!? マサヒデのお嫁さんとは関係ないでしょ!」
「いや、マサヒデとは一言も行って無いが……」
貞宗とマヨーラの会話を聞いてた為次は安心した。
どうやらバハムートをよろしく思っていないのは今に始まったことではないようだ。
まだ若いマヨーラはあまり思考を汚染されていないらしい。
とはいえ、せっかくアポイントが取れたので、これ以上は変なことを喋らせたくはない。
「と、とにかく明日見に行くってことで…… それより完成したレオのお披露目を…… うんそれがいいい、そうしよう」
話をそらしレオパルト2の自慢をしようとする為次だが……
「あー要らん要らん、それより一杯飲むぞ。今日は山崎に付き合って疲れたからな。おいクリス」
「はいはい、仕方ありませんね。今用意しますからリビングで待っていて下さい」
そう言うとクリスは母屋の中へと行ってしまった。
「よしっ、水谷、山崎、俺達も行くぞっ」
「隊長、今夜は一晩中付き合いますよ!」
「調子のいいこと言って、先に酔いつぶれるなよ?」
「大丈夫ですよ。マヨーラとユーナちゃんも行こうぜ」
「ええ、行きましょ」
「行く」
皆はまだ直していな壁の穴から行ってしまった。
為次を残して……
「あ…… レオのお披露目を…… えー、行っちゃったよ……」
ポツンと立ち尽くす為次。
なんとなくレオパルト2を振り返ると、すぐ後ろにはスイが居た。
優しい笑顔でこちらを見つめている。
「一緒に呑みに行かれないのですか?」
「まあ…… 行くけど」
「つばい様は元気になられましたか?」
「ああ、うん。おかげさまでね」
そう言いながら、そっと車体に触れてみた。
手には冷たい感触が伝わって来る。
装甲そのものはカーボンだが、表面は特殊金属で覆ってある。
やはり戦車は鉄だとの為次の拘りだった。
「ねぇスイ……」
「はい」
「これからもレオに乗るなら覚えといて欲しい」
「覚える……?」
「俺達は手に余る程の強大な力を手に入れてしまった。この力さえあればどんな望みでも叶うかも知れない。でもそれは力によって叶う望みなんだ…… 相手を…… すべてを…… 破壊の限りを尽くしてね」
「…………」
「どう使いたいかは君の自由だ。もうスイを縛るモノは何も無い。天使にも悪魔にも成れる。自由とは本来ルールの中でこそ意味を成す。でもね…… 俺達の手に入れた自由はいわば混沌なんだよ、秩序を持たない自由だ」
「…………」
「自分の選択肢で無数の生命を生かすことも殺すこともできるのを覚えといて欲しい」
「……はい」
スイは小さく頷くと砲塔へと飛び乗り、車内に入ってしまった。
「スイ?」
しばらくするとハッチからヒョッコリ上半身を出す。
その手にはビールとバスケットが握られていた。
「つばい様はいつもお一人で寂しいでしょうから、ここでどうですか?」
そういいながらビール瓶を軽く揺らすスイ。
「いつの間に……」
「えへへー、エクステンペストから持って来たのです」
と、照れ臭そうに言った。
為次も砲塔によじ登りバスケットを受け取る。
中を覗くと何種類かの食べ物が綺麗に並べられ入っていた。
「ははっ、そっか……」
洗面器に入っていない食べ物を見た時、為次は気がついた。
マインドジェネレーターによってナノマシンの抑制から解放されていたのだと。
記憶を増やさない為に短絡的な思考になり、睡眠も多くなる。
特にスイはその傾向が顕著に見られた。
しかし、今は違う。
目の前で優しく微笑む彼女は、心の自由を手に入れているのを知るのだった……
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