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惑星アクア編 終章
第8話 戦車起動
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抜群の機動性でレオパルト2を目掛けてひた走るスイタンク。
崩れた石垣の山もなんのそのである。
両肩に少女を担ぎ、伸ばした足の上には主を乗せ定員オーバー気味だが問題ない。
だって元々定員なんて無いのだから。
「タメツグ様! しかっりつかまっていて下さいです!」
前方にそそり立つ瓦礫を前にスイは言った。
どうやら飛んで行こうとしているらしい。
「あわわわ、スイちょっと待って。つかまれないってば! 手がっ、手がぁぁぁ!」
「はう?」
スイは主の手を見ると左手が取れかけていた。
デザートイーグルを握った手は骨が飛び出し、手首の辺りで皮一枚を残してプラプラしている。
「ぬあぁ…… 落とさないでほしいかもぉ」
「なぅ…… お手々が取れそうなのです」
「そうだねー」
あの時……
貞宗の足を撃った時に気を使わなかった。
励起爆薬を使用する拳銃弾は発砲に人が耐えられる代物ではない。
銃本体は改造済みなので大丈夫だが為次本人は気を支えとして撃っていたのだ。
だが、貞宗は相手の気を察知することによって攻撃のタイミングを知ることができた。
ならば不意を付くには気を使わずにデザートイーグルを使わなければと為次は判断した。
そこで、別の攻撃によって……
今回は鉄の棒を使ったわけだが、攻撃と防御のタイミングを相手に刷り込ませることにした。
気を使用すればなんらかのアクションを起こすぞと貞宗に教え込んだのだ。
最終的には見事に貞宗の足をもぎ取り、行動不能にさせたのだが……
「タメツグ様ぁ! このまま駆け登るのです」
「お手柔らかに……」
「うおりゃぁぁぁ!!」
90度に近い崖を駆け登る。
反重力スラスターを併用しているので、どんな場所でもへっちゃらだ。
ドドドドドッ!
勢い余って大ジャンプ!!
「うわぁぁぁぁっ!?」
為次だけ放り出されしまった。
「とうっ。到着なのです」
無事に着地したスイ。
そこへ為次が降ってくるのだ。
ドサッ
「ぐぇ」
「タメツグ様、お怪我はありませんか?」
そう言いながら、スイはマヨーラとユーナを地面に降ろし駆け寄る。
「痛たたた…… 怪我だらけだよっ」
「はうー」
「ほら、タメツグ。落としたわよ」
と、マヨーラが汚い物をつまむように落ちた衝撃で取れてしまった左手を持って来てくれた。
散々な目にあった為次だが、着地した目の前にはレオパルト2があった。
あと少しで落ちそうであったが、なんとか無事のようだ。
「タメツグ様、ヒールポーションなのです」
「あ、うん。くっ付くかな……?」
銃が付いたままの左手首を千切れた箇所にあてがってみる。
「くっ付きはしますが……」
スイが言い終わる前にゴクゴクとポーションを飲んでしまう。
直後、突然に激痛が走る。
「うがぎゃぁぁぁぁぁ! アギギギィ」
「とても痛いですよ?」
「痛ぁーい!! 先に言ってよぉぉぉ!!
あぎゃぁー!!」
「バカねぇ、やっぱりタメツグだわ……」
再生された剥き出しの神経が繋がる度に地獄のような痛みが襲う。
できることといえば痛みを我慢して、のた打ち回るだけだ。
「少しの辛抱なのです」
「……あがががっ」
砂まみれになりながら転がる為次であった。
……………
………
…
しばらくすると、さすがのヒールポーションである。
数分としない内に痛みは和らぎ、手の感覚が戻ってきた。
「あー痛かった、やっとデザがとれたは」
「良かったのです」
「ユーナの手足も拾ってからポーション飲ませようか」
「タメツグあんたね……」
「今飲みたい……」
と、言っているユーナを為次は拾うとレオパルト2へと向かう。
ついでに下の街中を眺めると、色々な人が暴れているのが伺える。
マインドジェネレーターは未だ解除コードを送り込めていないようだ。
「とりあえず乗車して(ちょっと急ぐか)」
「はいです」
「そうね」
なんだかんだと、皆はようやく車内へと戻って来れた。
やはり運転席は落ち着くなと為次は思う。
基本的に狭い場所が好きなのだ。
「さてと、んじゃバハムートをやっつけに行くかぁ」
「その前に万能薬」
膝の上に置いといたユーナは不満そうに言った。
「拾ってからが早く治るみたいだけど」
「痛いのはいや」
「しょうがないなー、スイ」
「はいです」
スイは返事をするとヒールポーションをマヨーラに渡し、マヨーラは為次に渡す。
「はい、じゃ飲んで」
そう言いながらビンをユーナの口元へ持って行くが飲んでくれない。
イヤイヤと首を横に振るだけだ。
「はよ飲んで」
「ん」
と、唇を為次の方へと差し出す。
「え?」
「口移し」
「え?」
「んっ」
「……えぇ?」
意味が分からなかった。
嫌いな人から口移しとか有り得ないと戸惑う為次。
「早く」
「でも…… 俺のこと嫌いでしょ?」
「強い人は好き」
「は? 強くないけど」
「サダムネの攻撃はあんな棒きれで受けれるものじゃない。それに全力じゃなかった」
「…………」
「それからマサヒデから聞いた」
「何を?」
「初めて出会った日の魔獣討伐。あれは私達を助けようと悪口を言った。エンジェル隊の戦闘を止めさせて、信用されていなかったタメツグ達が出撃する為だって」
「……マサめ、要らんことを」
「早く」
可愛い少女が目を閉じて唇を出す様はなんとも言えないものがある。
為次の脳裏にはターナのおっぱいで泣いたことや、精霊界でミミィが同じ布団に入って来たことなどが甦る。
同時に恥ずかしさが込み上げてきた。
辺りをキョロキョロと見回すが、様々な装置が所狭しと並ぶだけだ。
幸い運転席は何処からも見えない。
これは人助けだ、決してやましいことでは…… では……
などと、自分に言い聞かせる。
「よ、よし。で、では……」
決心した為次はポーションを口に含み、そっとお互いの唇を合わせる。
柔らかな感触の後にヌメリとした感覚が……
「ん、んんっ……」
「ふごっ!?(なぜ舌を入れてくる……)」
ユーナは舐め回すようにポーションを飲んでいる。
為次はといえば四肢を失った少女と、なんてことをしてるのだと急に罪悪感に襲われる。
しかし、相手は望んでいるのであろう。
飲むのはすぐに終わったが離れようとはしない。
「ユーナ」
と、引き離した。
「んん、タメツグ……」
「もう飲み終わったでしょ」
「もっと…… もっと早く素直になれば良かった。ごめんなさい……」
頬を赤く染め目を逸らしながら恥ずかしそうにユーナは言った。
気持ちは嬉しかった。
だが今後のことを考えれば素直に喜べる分けもない。
「ユーナ…… ごめん、これが終わったら俺達は…… それにスイも居るし」
「うん。分かってる」
「マヨに操作方法教えてあげて」
「うん」
ユーナを持ち上げると、ごそごそと砲手席へ行きマヨーラに渡す。
「飲むのに、ずいぶんと時間が掛かったわね」
「遅いのです、怪しいのです」
「ギクッ。え、あ、ああ…… っと、それよりマヨ。ユーナに操作教えてもらって」
「教える」
「そうね、前とすっかり様変わりしたから何がなんだか分からないわ」
「じゃ、よろ」
スイがジト目で睨んでいるので、早々に退散する為次。
運転席に戻ると早速エンジンを始動させ空間走行モードへとチェンジさせた。
「スイ、徹甲弾でいいよ」
「はーいです。エンチャントアンチマジックシールドでーす」
魔法を付与して装填が完了したので続けて報告をする。
「装填です」
「うい。マヨ、バハムートに向かうからロックと砲撃を聞いといて」
「仕方ないわね」
「よしゃ、さっさと退治してまうか」
車体を浮上させると、不慣れなマヨーラに代わって索敵をする。
バハムートはすぐに見つかり、サイクス上空で旋回を続けていた。
「何やってんだろ」
「同じとこをクルクルしてるわね。きっと、あんな狭い所に居たから羽を伸ばしてるのよ、鳥だけに。ふふっ」
マヨーラのつまらない冗談をよそに、距離を縮める。
そしてターゲットスキャンをしながら、ある程度の行動パターンや運動性能をコンピュータに認識させるのだ。
と……
「タメツグ様」
そこへ、不意にスイが話し掛けてきた。
「何?」
「あの…… 申し訳ありませんでした……」
「え、ああ」
何が言いたいのかはすぐに分かった。
仲間の死体を前に、取り乱してしまったことであろうと。
バハムートと高度を合わせ、一定の距離を保つ。
「どうしてか、あの時は自分が抑えられなくて…… 私がもっと……」
「謝らなくていいよ。俺がスイのことをちゃんと考えて無かったのが悪いかも…… だけどターナだけを責めるのはやめてあげて」
「はい……」
「もちろんターナのやったこと許されることじゃない。スイが怒るのも無理はないよ」
「…………」
「でもね、ターナだって自分の星を…… ここに居るユーナも含めてエンジェル達を守ろうとしたんだ。だからと言ってアクアを魔獣プラントにしようとしたのは良くなかったけどね。元々はグリース研の連中が発端だし」
「ふふっ、タメツグは優しい」
聞いていたユーナは嬉しそうに笑いながら言った。
「はい、出会った時から私はずっとタメツグ様の優しさに甘えていました……」
「別に優しくはないけど…… とにかく今はみんなの、スイの仲間の敵討ちと行きますか。倒すのは目の前に居るデカイ鳥だってね」
「はいっ」
「その後でどうしても許せないってなら代わりにケリを付けてあげるよ。やるのは数え切れない人間を殺してきた俺でじゅうぶんでしょ、スイは手を汚す必要は無い」
「タメツグ様……」
スイは涙組んだ瞳をそっと人差し指で拭う。
ご飯の食べ方を教えてもらい、レオパルト2の使い方を教わった。
自分の居場所を、家を与えてもらった。
出会った頃のことが懐かしく思える。
そして、そっと呟くのだ。
「みんな、ごめんね……」
と。
「行きましょうタメツグ様っ! スイの砲弾でバハムートをやっつけるのですっ」
「りょかーい」
「あたしも、だいたい使い方は分かったわ」
「教えた」
「んじゃま、最終決戦と行きますか」
レオパルト2の砲身がバハムートを捉える。
同時にチェーンガンも牽制射撃モードに移行するのだ。
テラの技術によって生まれ変わった戦車にとって生物など敵ですらない。
強力なバリアがあろうとも、打ち砕く術は持っている。
「うーん、なんか忘れてる気が…… ま、いっか」
誰か忘れている気もするが、勝利を確信する為次であった……
※ ※ ※ ※ ※
その頃、忘れられていた正秀は……
「はりゃぁぁぁ!」
「うおりゃぁ!」
カキン ガキンッ
「中々やるじゃないかスレイブ」
「はっ、マサヒデも少しは上達したみたいだな」
カキン キン キン
まだ、楽しくチャンバラをしていた。
崩れた石垣の山もなんのそのである。
両肩に少女を担ぎ、伸ばした足の上には主を乗せ定員オーバー気味だが問題ない。
だって元々定員なんて無いのだから。
「タメツグ様! しかっりつかまっていて下さいです!」
前方にそそり立つ瓦礫を前にスイは言った。
どうやら飛んで行こうとしているらしい。
「あわわわ、スイちょっと待って。つかまれないってば! 手がっ、手がぁぁぁ!」
「はう?」
スイは主の手を見ると左手が取れかけていた。
デザートイーグルを握った手は骨が飛び出し、手首の辺りで皮一枚を残してプラプラしている。
「ぬあぁ…… 落とさないでほしいかもぉ」
「なぅ…… お手々が取れそうなのです」
「そうだねー」
あの時……
貞宗の足を撃った時に気を使わなかった。
励起爆薬を使用する拳銃弾は発砲に人が耐えられる代物ではない。
銃本体は改造済みなので大丈夫だが為次本人は気を支えとして撃っていたのだ。
だが、貞宗は相手の気を察知することによって攻撃のタイミングを知ることができた。
ならば不意を付くには気を使わずにデザートイーグルを使わなければと為次は判断した。
そこで、別の攻撃によって……
今回は鉄の棒を使ったわけだが、攻撃と防御のタイミングを相手に刷り込ませることにした。
気を使用すればなんらかのアクションを起こすぞと貞宗に教え込んだのだ。
最終的には見事に貞宗の足をもぎ取り、行動不能にさせたのだが……
「タメツグ様ぁ! このまま駆け登るのです」
「お手柔らかに……」
「うおりゃぁぁぁ!!」
90度に近い崖を駆け登る。
反重力スラスターを併用しているので、どんな場所でもへっちゃらだ。
ドドドドドッ!
勢い余って大ジャンプ!!
「うわぁぁぁぁっ!?」
為次だけ放り出されしまった。
「とうっ。到着なのです」
無事に着地したスイ。
そこへ為次が降ってくるのだ。
ドサッ
「ぐぇ」
「タメツグ様、お怪我はありませんか?」
そう言いながら、スイはマヨーラとユーナを地面に降ろし駆け寄る。
「痛たたた…… 怪我だらけだよっ」
「はうー」
「ほら、タメツグ。落としたわよ」
と、マヨーラが汚い物をつまむように落ちた衝撃で取れてしまった左手を持って来てくれた。
散々な目にあった為次だが、着地した目の前にはレオパルト2があった。
あと少しで落ちそうであったが、なんとか無事のようだ。
「タメツグ様、ヒールポーションなのです」
「あ、うん。くっ付くかな……?」
銃が付いたままの左手首を千切れた箇所にあてがってみる。
「くっ付きはしますが……」
スイが言い終わる前にゴクゴクとポーションを飲んでしまう。
直後、突然に激痛が走る。
「うがぎゃぁぁぁぁぁ! アギギギィ」
「とても痛いですよ?」
「痛ぁーい!! 先に言ってよぉぉぉ!!
あぎゃぁー!!」
「バカねぇ、やっぱりタメツグだわ……」
再生された剥き出しの神経が繋がる度に地獄のような痛みが襲う。
できることといえば痛みを我慢して、のた打ち回るだけだ。
「少しの辛抱なのです」
「……あがががっ」
砂まみれになりながら転がる為次であった。
……………
………
…
しばらくすると、さすがのヒールポーションである。
数分としない内に痛みは和らぎ、手の感覚が戻ってきた。
「あー痛かった、やっとデザがとれたは」
「良かったのです」
「ユーナの手足も拾ってからポーション飲ませようか」
「タメツグあんたね……」
「今飲みたい……」
と、言っているユーナを為次は拾うとレオパルト2へと向かう。
ついでに下の街中を眺めると、色々な人が暴れているのが伺える。
マインドジェネレーターは未だ解除コードを送り込めていないようだ。
「とりあえず乗車して(ちょっと急ぐか)」
「はいです」
「そうね」
なんだかんだと、皆はようやく車内へと戻って来れた。
やはり運転席は落ち着くなと為次は思う。
基本的に狭い場所が好きなのだ。
「さてと、んじゃバハムートをやっつけに行くかぁ」
「その前に万能薬」
膝の上に置いといたユーナは不満そうに言った。
「拾ってからが早く治るみたいだけど」
「痛いのはいや」
「しょうがないなー、スイ」
「はいです」
スイは返事をするとヒールポーションをマヨーラに渡し、マヨーラは為次に渡す。
「はい、じゃ飲んで」
そう言いながらビンをユーナの口元へ持って行くが飲んでくれない。
イヤイヤと首を横に振るだけだ。
「はよ飲んで」
「ん」
と、唇を為次の方へと差し出す。
「え?」
「口移し」
「え?」
「んっ」
「……えぇ?」
意味が分からなかった。
嫌いな人から口移しとか有り得ないと戸惑う為次。
「早く」
「でも…… 俺のこと嫌いでしょ?」
「強い人は好き」
「は? 強くないけど」
「サダムネの攻撃はあんな棒きれで受けれるものじゃない。それに全力じゃなかった」
「…………」
「それからマサヒデから聞いた」
「何を?」
「初めて出会った日の魔獣討伐。あれは私達を助けようと悪口を言った。エンジェル隊の戦闘を止めさせて、信用されていなかったタメツグ達が出撃する為だって」
「……マサめ、要らんことを」
「早く」
可愛い少女が目を閉じて唇を出す様はなんとも言えないものがある。
為次の脳裏にはターナのおっぱいで泣いたことや、精霊界でミミィが同じ布団に入って来たことなどが甦る。
同時に恥ずかしさが込み上げてきた。
辺りをキョロキョロと見回すが、様々な装置が所狭しと並ぶだけだ。
幸い運転席は何処からも見えない。
これは人助けだ、決してやましいことでは…… では……
などと、自分に言い聞かせる。
「よ、よし。で、では……」
決心した為次はポーションを口に含み、そっとお互いの唇を合わせる。
柔らかな感触の後にヌメリとした感覚が……
「ん、んんっ……」
「ふごっ!?(なぜ舌を入れてくる……)」
ユーナは舐め回すようにポーションを飲んでいる。
為次はといえば四肢を失った少女と、なんてことをしてるのだと急に罪悪感に襲われる。
しかし、相手は望んでいるのであろう。
飲むのはすぐに終わったが離れようとはしない。
「ユーナ」
と、引き離した。
「んん、タメツグ……」
「もう飲み終わったでしょ」
「もっと…… もっと早く素直になれば良かった。ごめんなさい……」
頬を赤く染め目を逸らしながら恥ずかしそうにユーナは言った。
気持ちは嬉しかった。
だが今後のことを考えれば素直に喜べる分けもない。
「ユーナ…… ごめん、これが終わったら俺達は…… それにスイも居るし」
「うん。分かってる」
「マヨに操作方法教えてあげて」
「うん」
ユーナを持ち上げると、ごそごそと砲手席へ行きマヨーラに渡す。
「飲むのに、ずいぶんと時間が掛かったわね」
「遅いのです、怪しいのです」
「ギクッ。え、あ、ああ…… っと、それよりマヨ。ユーナに操作教えてもらって」
「教える」
「そうね、前とすっかり様変わりしたから何がなんだか分からないわ」
「じゃ、よろ」
スイがジト目で睨んでいるので、早々に退散する為次。
運転席に戻ると早速エンジンを始動させ空間走行モードへとチェンジさせた。
「スイ、徹甲弾でいいよ」
「はーいです。エンチャントアンチマジックシールドでーす」
魔法を付与して装填が完了したので続けて報告をする。
「装填です」
「うい。マヨ、バハムートに向かうからロックと砲撃を聞いといて」
「仕方ないわね」
「よしゃ、さっさと退治してまうか」
車体を浮上させると、不慣れなマヨーラに代わって索敵をする。
バハムートはすぐに見つかり、サイクス上空で旋回を続けていた。
「何やってんだろ」
「同じとこをクルクルしてるわね。きっと、あんな狭い所に居たから羽を伸ばしてるのよ、鳥だけに。ふふっ」
マヨーラのつまらない冗談をよそに、距離を縮める。
そしてターゲットスキャンをしながら、ある程度の行動パターンや運動性能をコンピュータに認識させるのだ。
と……
「タメツグ様」
そこへ、不意にスイが話し掛けてきた。
「何?」
「あの…… 申し訳ありませんでした……」
「え、ああ」
何が言いたいのかはすぐに分かった。
仲間の死体を前に、取り乱してしまったことであろうと。
バハムートと高度を合わせ、一定の距離を保つ。
「どうしてか、あの時は自分が抑えられなくて…… 私がもっと……」
「謝らなくていいよ。俺がスイのことをちゃんと考えて無かったのが悪いかも…… だけどターナだけを責めるのはやめてあげて」
「はい……」
「もちろんターナのやったこと許されることじゃない。スイが怒るのも無理はないよ」
「…………」
「でもね、ターナだって自分の星を…… ここに居るユーナも含めてエンジェル達を守ろうとしたんだ。だからと言ってアクアを魔獣プラントにしようとしたのは良くなかったけどね。元々はグリース研の連中が発端だし」
「ふふっ、タメツグは優しい」
聞いていたユーナは嬉しそうに笑いながら言った。
「はい、出会った時から私はずっとタメツグ様の優しさに甘えていました……」
「別に優しくはないけど…… とにかく今はみんなの、スイの仲間の敵討ちと行きますか。倒すのは目の前に居るデカイ鳥だってね」
「はいっ」
「その後でどうしても許せないってなら代わりにケリを付けてあげるよ。やるのは数え切れない人間を殺してきた俺でじゅうぶんでしょ、スイは手を汚す必要は無い」
「タメツグ様……」
スイは涙組んだ瞳をそっと人差し指で拭う。
ご飯の食べ方を教えてもらい、レオパルト2の使い方を教わった。
自分の居場所を、家を与えてもらった。
出会った頃のことが懐かしく思える。
そして、そっと呟くのだ。
「みんな、ごめんね……」
と。
「行きましょうタメツグ様っ! スイの砲弾でバハムートをやっつけるのですっ」
「りょかーい」
「あたしも、だいたい使い方は分かったわ」
「教えた」
「んじゃま、最終決戦と行きますか」
レオパルト2の砲身がバハムートを捉える。
同時にチェーンガンも牽制射撃モードに移行するのだ。
テラの技術によって生まれ変わった戦車にとって生物など敵ですらない。
強力なバリアがあろうとも、打ち砕く術は持っている。
「うーん、なんか忘れてる気が…… ま、いっか」
誰か忘れている気もするが、勝利を確信する為次であった……
※ ※ ※ ※ ※
その頃、忘れられていた正秀は……
「はりゃぁぁぁ!」
「うおりゃぁ!」
カキン ガキンッ
「中々やるじゃないかスレイブ」
「はっ、マサヒデも少しは上達したみたいだな」
カキン キン キン
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