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惑星アクア編 終章

第9話 最終決戦その1

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 クルクルと同じ所を旋回するバハムート。
 空飛ぶ戦車には、あまり興味が無さそうである。
 シールドを展開しているせいで、搭乗員を認識できないのであろう。
 魔獣に狙われやすい体質のスイが居ても気が付いていない様子であった。

 そんな訳で、チャンスとばかりに射撃センサーは的確に標的を捉えているのであった。

 「もう撃っていいの? ここを押せばいいのよね?」

 マヨーラは目の前に投影されているコントロールパネルに指をプルプルさせながら触ろうとしていた。

 「触れるだけでいい」

 「そうだったわね、行くわよ」

 ユーナのアドバイスの元、撃とうとした時であった。
 モニターに映るバハムートが急に姿を消してしまった。

 「あっ…… ちょっと、どっかに行ったわよ!?」

 「大丈夫、ロックは外れてない。タメツグ」

 「あいあい、降りてっちゃったね。マヨ少し待って」

 「ええ、待つわ」

 追尾カメラの捉える映像を見ると街の方へと急降下してしまったようだ。
 俯角が足らなくなってしまい車体を下へ向ける。

 「あ、居たわ。もう撃っていいのかしら?」

 「ちょ待って、街に当たっちゃう」

 「それもそうね」

 「砲弾の質量と初速が凄いので下の人が吹き飛んでしまうのです」

 「おお、スイ賢くなったねー」

 「えへへー、頭の中につばい様の情報をいっぱい入れてもらったのです」

 スイの言うように、徹甲弾とはいえ高密度超重金属弾頭を励起爆薬で撃ち出すので従来とは威力が桁違いである。
 地面に向けて撃とうとならば質量弾としても使える代物となっているのだ。

 「うーん、通常の砲弾にするか?」

 威力は弱いが従来使用していた砲弾にしようかと為次は迷うが……

 「申し訳ありませんですが、特殊砲弾しか無いのです。作りますか?」

 「あぁ…… そうだったは。まあいいや」

 現在、弾薬庫にはテラの仕様で作った砲弾しか入れてなかった。
 どれもこれもが強力であり、惑星上で使うには適していない。
 例えば翼安定徹甲弾はバンカーバスターを優に超える貫徹力がある上に、弾芯中央部に金属と火薬の両特性を持ったハイブリッド火薬が仕込んであり、ターゲットの装甲を貫通したのちに内部から爆発させる性能を持つ。
 他にも榴弾ならば核爆弾並の威力で爆発してしまうし、より威力高い核砲弾などもある。
 これらは戦闘は火力をモットーに為次が破壊力だけを求めてしまったせいであった。

 仕方ないので、とりあえず上空で様子を見ることにするのだが……

 見ているとバハムートは超低空飛行で屋台街を飛び抜け始めた。
 巨大な翼は左右の建物を薙ぎ払い、大きく開けた口は逃げ惑う人々を飲み込んでゆく。
 歯の噛み合わせが悪いのか? むしゃむしゃと食べている割にはバラバラになった人体をこぼしている。

 「はう!? 街の人達が危ないのです」

 「あらら、酷いことするわね。許せないわ」

 「もっと綺麗に食えんのかよ、キモいなぁ」

 「タメツグ、そんなことはどうでもいい。また上がって来た」

 「お、ホントだ。チャンスかも」

 見た感じ上空から人間の多そうな場所を探し、一度にたくさん捕食しようとの魂胆らしい。

 「もう撃っていいかしら?」

 「そだね、さっさと殺っちゃお」

 「じゃあ押すわよ」

 ポチ

 再びバハムートが大空へと舞い上がったのを確認するとマヨーラはオート射撃ボタンに触れた。

 ダラララララララッ!!

 砲塔上部のチェーンガンが火を吹き、弾幕は容赦なくバハムートを打ち叩き始める。

 「あら? 出ないわよ」

 てっきり砲弾が飛び出すと思っていたマヨーラは拍子抜けだった。

 「すぐには出ない」

 「マヨ姉様、少々お待ち下さいなのです」

 「ふーん、まあいいわ」

 命中率を高めに設定したオート射撃はターゲットの行動パターンを学習する必要があった。
 一発しか装填してない砲弾を当てようというのだがら当然ではある。
 その為にチェーンガンを撃って回避行動の癖を読み取っているのだ。

 そんな牽制射撃を見ている為次は疑問に思う。

 「なんか、おかしくない?」

 「あまり効いて無い感じですぅ」
 
 弾丸にもアンチマジックシールドがボックスマガジンごと付与してあるので一応貫通はしている筈であった。
 しかし、ダメージを与えている形跡は伺えなかった。

 「まあいいか……」

 その内にバハムートも苛ついてきたのであろう、弾丸を避けるように飛びながらレオパルト2へと突進して来た。
 直後、予想だにしなかったことが起こる。

 《我に歯向かう愚か者よ、滅するがいい》

 なんと喋ったのだ!

 「なんか言ってるわよ」

 「「うん」」

 「お利巧さんなのです」

 だが、そんなことはどうでもよかった。
 砲弾が命中すれば2度と喋ることなどできないのだから。

 「タメツグ様、解析99パーセント超えましたです」

 「そうだねー」

 ドコーン!!

 向かって来るバハムート目掛けて徹甲弾が撃ち出された。
 凄まじい勢いで飛翔する砲弾は避けようとするターゲットの動作も織り込み済みで外すことなどあり得ない。
 相対速度も相まって一瞬で着弾した。

 「よしゃ、終わった」

 為次は戦闘終了を確信した。

 「当たったわ、さすがあたしね」

 「マヨーラはボタン押しただけ」

 「失礼ね、ユーナじゃ無理よ」

 「そんなことはない」

 「ふふん、そういうことは手が生えてから言いなさい」

 「…………」

 ユーナは悔しそうに自分の手を見た。
 半分ぐらいは生えてきているが、まだまだといった感じだ。

 「バハムートって報酬はいくらかしら」

 などと勝利に浸ったマヨーラが嬉しそうにしている時だった。
 突然、スイは叫ぶ。

 「タメツグ様!! 回避をっ!!」

 「は?」

 「シールドがっ!」

 スイがシールドを気にした瞬間、スクリーンは青白い炎に包まれ車体には衝撃が走る!

 ゴゴゴゴゴォォォッ!!

 「おわぁ!? な、なんだ!?」

 ヴィー ヴィー ヴィー

 車内に警告音が鳴り響く。

 「バハムートは健在です!」

 「うっそぉ?」

 いつもの癖でスクリーンの表示を可視光だけにしていた為次は砲撃煙と着弾煙で敵を認識できていなかった。

 ヴィー ヴィー ヴィー

 「パワーシールド30パーセント削られました」

 「はぁ!? 30パーセントも? なんで…… 何が……」

 「バハムートのブレスです。炎だけではなく爆発も伴っているみたいです」

 「ちきしょー、どこ行った?」

 「後方800です。タメツグ様、次が来ます。ターゲット映像をアクティブにして下さい」

 「え、あ、ああ…… うん」

 慌てて為次は急上昇で距離をとりながら追尾カメラの映像をメインスクリーンと合成させた。
 これで遮蔽物があっても常に敵の位置を視認できるようになる。
 作った本人よりスイの方が使いこなしているのが釈然としないが、今はそれどころではない。

 ヴィー ヴィー ヴィー

 「うるさいわね、この音なんとかしなさいよタメツグ」

 「んも、シールド削られ過ぎなんだけど……」

 マヨーラに言われて警告音を止めた。

 「タメツグ様、シールドがノーマルのままなのです。戦闘モードにしてもよろしいでしょうか?」

 「あっ、そうだった忘れてた…… よろ」

 「はいです。各種シールドフラットに設定するです」

 「あ、待って。一応、対熱と対衝撃をオーバー出力で上げといて」

 「はいです」

 あまりにも油断し過ぎていた。
 砲弾を外す分けもなく、当たればそれでケリが付く筈であったから……

 だが現実は違った。
 バハムートには傷一つ与えることもできず、こちらはシールドを損耗してしまった。

 「どうなってんだ…… やべっ」

 追いかけて来るバハムートを見ると口の前に3枚の魔法陣を展開していた。
 レッドドラゴン戦の恐怖が甦る。
 岩石を溶岩に変えてしまう威力のビームブレス。

 《我に歯向かう愚か者よ、滅するがいい》

 同じことを喋っている……

 ズバァァァァァ!!

 青白い一筋の炎がレオパルト2を襲う。
 咄嗟に回避行動をする為次。

 「くそぉ!!」

 車体のすぐ横を通過し寸前の所で避けることができた。

 「危ねぇ……」

 「シールド3パーセント低下です」

 「こっちもマジックシールドを」

 「はいです。魔道機関始動、マジックシールド詠唱開始します」

 と、そこへエクステンペストからの通信が入る。

 『タメツグさん、まもなくエンジェル隊が到着します』

 「今こっちに来られても困るかも」

 見ると上空からシャトルが降下してくる。

 『待機でよろしいでしょうか?」

 「せっかく来たなら、街の連中の救護でもいいかも」

 『了解しました』

 エンジェル隊にバハムートの相手ができるとも思えない。
 かと言って邪険にするのもどうかと思った為次は、とりあえず救護の名目で距離を取らせることにした。

 『それともう1つ報告があります。マインドジェネレーターが正常に作動を始めたとのことです』

 「ん、りょかーい」

 嬉しい報告ではあるが、それよりも戦車砲が効かない理由が思い付かない。
 追いかけて来るバハムートを横目に為次は悩んだ。
 けれども、どうしていいのか分からない。

 「まいったな」

 「あら、お母さんからだわ」

 そこへ今度はターナからの連絡が入ったようだ。
 通信魔法の媒体である手鏡と変な芋虫をマヨーラは取り出しニコニコしている。

 「何? その気持ち悪い虫」

 と、ユーナは訊いた。

 「失礼ね、使い魔よ。ユーナは静かにしてなさい。あたしはお母さんと話すから」

 「うん」

 鏡に映るターナは神妙な顔つきをしている。

 『マヨーラ聞こえる?』

 「もちろんよ、どうかしたの?」

 『私はとんでもないことをしてしまったわ…… あなたにも…… スイにも謝らないといけないわね』

 「…………?」

 『でもそれは後ね、今はバハムートをなんとかしないと』

 「そうね」

 『タメツグに代わってもらえるかしら?』

 「タメツグに? 別に構わないけど」

 そう言いながらマヨーラは鏡と芋虫をユーナの中途半端に生えた手に渡し為次に渡す。
 芋虫が気持ち悪くて嫌そうではあるが、それどころではないので我慢して受け取った。

 「ターナ…… 記憶戻った?」

 『ええ』

 「で、なんの用? 虫がキモイから、できれば手短に」

 『よく聞いて、バハムートはマジックシールドを3重に展開するわ。砲弾1発ではどうしようもないの。だから大質量で押しつぶすしかないわ』

 「マジで…… それでか……」

 『お願いタメツグ、どうにか…… あの悪魔を……』

 「うい。まあタネが分かれば対策もあるかも」

 『それだけよ、頼んだわ』

 「あ、待って」

 『何?』

 「あいつ喋るんだけど」

 『それは気にしなくてもいいわ。攻撃する時にあのセリフを言うだけだから』

 「なんだそりゃ?」

 『カッコイイと思って設定しておいたの、我に…… しか喋らないわ』

 「う、うん…… じゃあ、また後で」

 『ええ』

 ターナとの通信が終わると、急いで芋虫を返した。
 持っていると手の中でモゾモゾ動いて一段と気持ち悪かったので。

 「お母さんと何を話したの?」

 「バハムートはマジックシールドを3枚同時に張るんだってさ」

 「マジックシールドを!? 普通、同じ魔法は反発し合って同時には使えない筈だけど…… とんでもない奴ね」

 「いやホントにねぇ……」

 戦車砲ではマジックシールドを1枚しか貫通できない。
 スラスキアスを使って押し潰す手段もあるにはあるが、マインドジェネレーター搭載しているので使いたくはない。

 どうしようかと考える為次は思い出した。

 そういやマサは何してんだ? マサにやらせてみるか……

 と……
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