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体育祭 2

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『ーーさて始まりました!皆さんお待ちかねのこの競技、
クラス対抗ラブラブカップルレースの開催でーす!』


ーーおー!待ってましたー!!

ーー○○くん達頑張ってー!


「あぁ、始まった…。」

よくよく考えると本当に恥ずかしい競技だよね、これ。
彼氏に抱かれてるのを皆に見られるんでしょ?
これに嬉々として参加したカップルは凄い精神力の持ち主だわ。


「姫ちゃん頑張ってね!」


「うん、行ってくるね。というか頑張るのは律なんだけど。」


「あぁ、まかせろ。」

律はやる気満々。私達は最終組だ。


『ルールは簡単!彼氏が彼女をどんな形でもいいので抱えて400mを走り切ってもらいます!クラス毎に先生からのご褒美もあるようなので、彼氏さん達は頑張ってくださいねー。また、1位のチームにはインタビューもありますので、自信のあるペアは今から考えててくださーい。』

1レースにペア4組で競う。



『それでは位置について、』

……パンッ!


今、1組目の走者がスタートした。


ーー行けー!走れー!焼肉ーー!!

ーーやっぱり皆、おんぶだねぇ。お姫様抱っこが見たかったのになぁ。

ーーそりゃ無理だろ。抱き上げるだけならまだしも、走るとか腕ちぎれるわ。

ーーえー、そこは頑張りなさいよ男子ー!


そんな周りの人達の声が聞こえてきた。


そりゃそうよ。おんぶでも大変だってのに。
ぅわ、彼女落とした。痛そう…。



「…地面から離れてさえいればいいんだよな?」

「うん。だからおんぶよろしくね!頑張って律!」


そして2組目、3組目と少しずつ自分達の番が迫ってくる。


皆凄いなぁ。やっぱり男の子って力あるよね。

っていうか、この競技の主旨って何なんだろう?
男子は力自慢とか彼女自慢…?女子は?…彼氏自慢?
よく分かんない…。まぁでもこういう競技って見てる側もドキドキするよね。私も観戦側が良かったんだけど。

律って運動神経良さそうだし、ぶっちぎりだったりして!
ご褒美なんだろうー!

そうして遂に、私達の番がやってきた。


「よし、行くよ律!おんぶ…」


「これで行く。」


「え?」

私が律の背中に回ろうとすると、いきなり抱き上げられた。


…姫抱きで。


「……えぇっ⁈ちょっと、何してんの⁈
こんなの絶対無理だよ!!それに恥ずかしいって!」

これじゃ1位なんて狙えないし、見世物じゃん!


「問題無い。」

私の必死の訴え虚しく、律は平然と言ってのけた。



そしてこの状況に気づいた周りもザワついていた。


ーーおいおい、あれ恥かくことにならないか?

ーーいや、流石に無理だろ。腕もげるぞ。

ーーチャレンジャーだな、あいつ。


ちょっと言われてるよ律!ホントに大丈夫なの⁈



『続いて最終組スタート位置へ。』



え、嘘!ホントにこのまま行くの⁈



……パンッ!


気持ちがまとまらないまま、スタートの合図が鳴った。

合図と共に皆が一斉に走り出す。


ーー行けーー!!

ーー○組に負けるなー!!


しかし、


…え?律⁈


『おっとぉ⁈どうしたのか、律・桃原ペアが出遅れました!もうスタートしてますよー?』

「ちょっと律どうしたの⁈」

何で突っ立ってるのよ⁈ルール分かってなかった!?
律を見上げて訴えるけど、微動だにしない。


「もしかして私そんなに重かった⁈ごめんね、今からでも遅くないからおんぶにしよう!?」



ーーどうした?やっぱ無理か?

ーーそりゃあな。腕が既に限界なんじゃね?


だよね!私も無理だと思ってた!



そしてすでに先頭の走者が半周に至ろうとしていた。

「あぁ…、もうダメ…。」

私が諦め呟いたその時、



「ハンデだ。」


「え?」


何?と言う前に律は突然ギュンッと走り出した。
あまりの勢いに思わず体が強張る。


ぅえぇっ!?何っ!?



「っ律!?」

突然どうしたの⁈もう無理だよ!

『おっとぉ、やっとスタートです!しかし今から間に合うのか!?』



いやいや、これだけの差はどうやっても縮まらないよ!

そう思ったけど、


「ふん、遅いな。」

そう言ったかと思うと、更に勢いを増して前の走者との距離を詰めていく。


その光景に、


ーーおい、嘘だろなんだよあれ!人間技じゃねぇ!

ーー凄ーい!何あの人⁈かっこいいー!

ーーあれカッコいいか⁈怖ぇだろ!



ちょ、何これーー!


「っ律、」


「姫、口閉じてろ。舌噛むぞ。」

いや、何で走りながらそんな流暢に喋れるのよ!息一つ上がって無いし⁈


そんな事を思っていると、


ーーきゃーっ!姫ちゃんを姫抱きー!!
本物のお姫様みたいーー!!素敵ーー!!



なんか聞こえてきた。


ちょっと黙ってて香奈!!


その間にも律は次々と前の走者を追い抜いていく。

そして、ついに先頭までもを追い抜いてしまった。


「うそぉー…。」



パンパンッ!!


『これは驚きました!なんと1位は遅れてスタートした律・桃原ペアです!!』


半周の遅れなど最初から無かったかのように、余裕で堂々の1位となった。


「ふん。このくらいなんて事はない。」

律は息一つ乱れてない。


「律、凄い…。」

本当にぶっちぎりだった!
終わってみればあっという間。



「はぁ、はぁっ、嘘だろ…。」

「人間、じゃねぇ…。」

やっとゴールした他の走者は息も絶え絶えだ。


「ちょっとしっかりしなさいよ!」

「私が重かったみたいじゃない!」


おーい、頑張って走った彼氏にそれは可哀想だよ。



「姫は俺にどんな褒美をくれる?」

律は未だ私を抱き上げたままだ。私を見て律はそう尋ねてきた。

「ご褒美?」


「俺は頑張ったぞ。だからご褒美くれ。カッコよかったか?」


「それはもちろん!びっくりしたけどかっこよかったし、凄かった!」


「そうか。それなら良かった。」


最初はどうなることかと思ったけど、まさかこんな展開、予想もつかなかった!



『それでは、1位の走者に話を伺いたいと思います!』

あ、1位ってインタビューあるんだったね。


『いや~凄かったですね!まずお聞きしたいのですが、何故半周遅れでスタートしたんですか?』

律にマイクが寄せられた。


「ただのハンデだ。他の奴らがトロそうだったからな。まぁそれも無駄だったようだが。」
 

ーーは?ハンデ?

ーーおいおい、まじかよ。


ちょ!そんな事言わなくていいから!
余計な火種を振りまかないで!


『ほほぅ、ハンデですか。それにしても本当に速かったですねぇ。あそこからの追い抜き振りには驚かされました!しかも彼女さんを抱えての事ですからねー。』


「姫は軽いからな、余裕だった。
だがもう少し肉をつけた方が抱き心地はいいんだが…。」


「は⁈何言ってるの律ー!?」


『ふむふむ、なるほど?それではもちろん貴方がたのご関係は?』


「恋人だな。」


『そうですか!ラブラブですねー、羨ましいです!』


「そうだろう。お前ちょっとマイク貸せ。」


「え、ちょっとお兄さん?」


「何してるの⁈」

律は司会者からマイクを奪い取ると、周りの人達へ向けて話し出した。


「俺は姫に惚れている。
名前も容姿ももちろんだが、勝気で明るい性格だって可愛いと思っているし、俺は好きだ。
…お前達の中にはそれが分からん奴もいるようだがな。」


「…律?」

いきなりどうしたの?


「まぁそれはいいが、俺の言いたい事は1つ。
…今後、二度と俺の女に下らない言葉を掛けるな。もし再び姫が傷つくような事があれば、その時は俺が直々に制裁を加えてやる。
…誰に言っているか分かるよな?」


「…!」

律、私のために…?


ーーな、何だよあれ。あいつ誰に怒ってんの?

ーーでもあんな風に彼氏に言ってもらえるなんて羨ましいー!



『おー!分かり兼ねる部分もありますが、彼女さんへのゾッコン振りが伺えますね!それでは彼女さんからも一言どうぞ!』


「え⁈えっと…
…私は、律と一緒にいられる時間がとても大切で、幸せです。」


…って、何この羞恥プレイ!顔が熱い!!燃えてる!


『ありがとうございましたーー!!』


それから、律はいつになっても下ろしてくれなくて、そのままクラスの待機テントまで来てしまった。


「姫ちゃん、素敵だったよ!いいなぁ、こんな彼氏が側にいてくれるなんて!」


「…桃原の彼氏半端ねぇな。スゲェよ。」

男子達はそれ以上何も言えない様子だ。


「ふん。さっきの言葉で分かった者もいるだろうが…。お前ら、他人を妬んだり揶揄う暇があるのなら自分をしっかり見てからにしろ。どれだけ低劣なことをしているか分かる筈だ。
今後、俺の女を悲しませるような事があった時はそいつらを骨の髄まで燃やし尽くしてやるからな。」


「も、燃やすって…。」

誰かが呟いた。


「これが冗談では無い事を覚えておけ。俺は火の扱いは得意だからな。人間おまえら法律ルールには縛られない。」


「「……。」」

今まで何度となく私を揶揄って嘲笑ってきた男子達が何も言わない。何も言えないんだ。


「律…」

こんな事考えてたなんて、嬉しい。


「桃の彼氏って言うこともやる事もカッコいいな。流石大人の男って感じ。あぁーこんな彼氏欲しいー!」

「私も年上の彼氏に憧れちゃうよぉ。守ってもらいたいよねぇ。」

クラスの女子達が騒ぐ。


「そ、そう言われるとなんか照れちゃうな…。」

確かに律は私の自慢だし、律のカッコよさは誰にも負けて無いと思う。




「っなんだよ、俺なんてずっと前からだってのに…。
つかやっぱあいつが彼氏かよ。くそ…っ、」


柳瀬…?

突っかかって来ない事に珍しく思っていたら律に声をかけられた。


「姫、今日はもうこれで終わりか?」


「え?あ、うん。私の種目はこれで全部終わったよ。」


「そうか、ならここで一緒に観ているか。」

そう言うと、律は適当な椅子に座り、その上に私が跨る形になった。


「…⁈っこれは恥ずかしいって!」

なんでわざわざこの体勢⁈皆見てるじゃん!


「?今更だろ?」


「人前!!」


「我慢しろ。」


「えぇっ、そんな!」

それから何を言っても聞いてくれなくて、離してもくれなかった。
私は体育祭が終わるまでこの羞恥に耐えないといけないのだった。



ーー照れてる桃原って意外と可愛いのな。目潤んでるぞ。

ーー桃原は何やってても可愛かったよ。クソ、もっと早く素直になってれば…

ーー残念だな、柳瀬。


ーー…いや、俺は諦めない。諦めてたまるか!


そんな会話がされてることなんて露知らず。
こうしてドキドキの体育祭は幕を閉じた。



❇︎❇︎❇︎





今日は社にお泊りだ。寮には事前に申請したし問題無い!

私達は社までの帰り道、手を繋いで歩いていた。周りには誰もいない。


「で、褒美はなんだ?」


「え。」


「俺は頑張ったぞ?」


「んー、…じゃあ目を瞑って?」


「キスか。」


「言うな!!」


2人の初めてのキスはムードも何も無いものだった。
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