姉妹チート:RE

和希

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2ndSEASON

灰のような雪

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(1)

家に帰ると父さん達が今日の体育大会の動画を見ていた。
父さんと母さんが見ながら話をしている。

「ただいま」

私は家族に声をかける。

「おかえり。遅かったな」
「水奈待ちなさい!」

父さんが私を呼び止める。
どうしたんだ?

「父さん達の年にはブルマは廃止されていたんだが男子のようにショートパンツが採用されていてな。まあ、それはそれでショックだったんだがある日ある発見をしたんだ」

は?

「水奈みたいに脚の細い子だとショートパンツの隙間からパンツが見えてな。一時男子の間で盛り上がっていたんだ」

こいつは飲んでるけど顔は真面目だ。
飲んでるから母さんの鋭い視線に気が付いてない。

「水奈の体操着はクォーターパンツだろ?丈が長いとは言えそういう視線を気にしないのかと……いてぇ!」

母さんのかかと落としが父さんの頭上に落下した。

「自分の娘になんて質問してるんだお前は!?」
「自分の娘だからこそだろ!気にしてるなら親が学校に苦情を言ってやるのが筋だろ!」
「クォーターパンツなまず見えねーよ!ていうかお前は体育の授業中そんなところばかり見てたのか!?」
「そ、それだけじゃないって!」
「じゃあ、何見てたんだよ!?」
「そうだな、あの子意外と胸デカいなとか、今日の下着の色何色だとかパンツラインが見えてるとか!」
「お前の頭はそれしかないのか!?」
「冬夜から聞いた時は失望したぜ。あれ実はタンクトップやキャミソールなんだって聞かされた時には……でもな」
「まだ続きがあるのか?」
「ああ、ある日友達が発見したんだ。そいつはずっと見ていた。するとキャミソールの下にうっすらと見えるブラの形が……」
「トーヤも巻き込んでたのか!?」
「違う!あいつは助言してくれただけだ。愛莉さんは突然上着めくったらしいぞ」

父さんの話はたまに聞いていてあほらしくなる。

「父さん、それは多分その人の思い込みだ」

私が助言してやった。

「どういうことだ?」
「父さんは私と同じ中学の出身なんだろ?」
「そうだが」
「校則が変わってなければ下着の色が決めらえていたはず。キャミソールやタンクトップの色もだ。目立たない色なのにブラのラインが見えるなんてただの思い込みだ」
「そ、そうだったのか」
「確かに校則で決められていたな。母さんは無視してたけど」
「じゃ、私着替えてくる」

そう言って部屋に戻る。
着替えていると誰かが部屋をノックする。
この期に及んでこの目で確かめたいなんて馬鹿な事言いだすんじゃないだろうな。

「水奈。母さん一人だ。部屋に入ってもいいか?」

珍しいな。

「いいけど」

私がそう言うと母さんが部屋に入って来た。

「どうしたの?」
「いや、さっき水奈が運動着で徒競走をしているのを見たときに気になったんだけどな……水奈はこの前友達と下着買いに行くから小遣い欲しいって言ってたよな?」

それがどうかしたのだろうか?

「その分来月分から差し引くっていうなら私は構わないけど」
「ああ、そういうわけじゃない。成長時期だしな、そのくらいは負担してやるよただな……」
「ただ?」
「水奈……カップ上がっただろ?」

なるほど、母さんはそれが気になっていたのか。

「ああ、上がったぜBカップになった」
「や、やっぱり……」

母さんにはショックだったらしい。
自分の娘にすら負けてしまう自分が悔しいんだろう。
ちょっと悪戯してやりたくなった。

「ちなみにまだ育ちざかりみたいだぜもうきつくなってきたし」
「まだ大きくなるのか!?」
「天音には勝ってるみたいだ」
「そうか、愛莉の娘に勝ったか!……しかし」

何か葛藤しているらしい母さんを放って私服に着替える。

「そんなにへこむなよ。そんな母さんでも父さんって言う立派な人をものに出来たんだから」
「それって慰めてるつもりか?」
「……なってないかな」

私が言うと2人で笑ってた。

「着替えたなら降りてこい。今日は寿司の出前とっておいた」

近所にできた回らない寿司屋の寿司。
味の割には値段が安い。
市場に出向いて仕入れたネタでその日のメニューが決まるらしい。
夕食を食べると風呂に入ってベッドに横になる。
一仕事やり遂げた達成感が出てくる。
それは自らの労いとなって労わりに変わりそして眠りにつく。
0時ちょうどに「おやすみ」と空からメッセージが入っていたことに気付いたのは翌朝になってからだった。

(1)

皆が校庭に集まってくる。
大きなカバンを手にして。
クラスごとに並ぶ。
学級委員が点呼していく。
点呼が終ると学級委員が担任に報告しそして学年主任に報告される。
皆揃ったことが確認されると説明と諸注意が伝えられる。
今日から一泊二日の修学旅行。
行き先は長崎。
一日目は原爆ドームをはじめとして色々な観光地を巡る。
二日目はテーマパークで自由行動。
班ごとに分かれて行動する。
県外に出るのが初めでだという子もたくさんいた。
何より沢山の友達と一泊するというのは皆初めてだろう。
私達の班は私片桐茜と純也、石原梨々香、佐原壱郎、小泉秀史、大原紫の6人。
バスの席も自然と班で固まって座っている。
私の隣には壱郎が座っていた。
その壱郎も今日は浮かれている。
観光バスには何度か乗ったことがある。
毎年秋にある社会見学で乗った。
そして今回もバスガイドがいる。

「今日と明日の二日間。皆さんの案内を務めさせていただく……」

声は可愛い。
見た目も悪くない。
悔しいけどやはり大人の女性には敵わない。
そんな事は分かってた。
だけど……。

「やばくね?今年のバスガイド絶対あたりだぜ」
「そうだな!」

前の席に座る志水拓海と話す壱郎。

「今回の旅行の目的は決まりだな!」
「ああ、あの人と仲良くなる」

彼女の隣で平然とそんな話をする二人。
さすがに不愉快だ。
不愉快に思ったのは拓海の彼女の小泉夏希も同じだったらしい。

「そんなに素敵な人なら私なんか放っておいて一人で玉砕してきたら?でも骨は拾ってあげないからね」
「そ、そんなに怒るなよ夏希。こういう旅行には付き物だろ?」

そんな話は聞いたことがない。

「壱郎もそうなの?」

私は壱郎に聞いていた。

「え?」
「壱郎も玉砕にしたいならして来たらいいんじゃない?心配しないで誰も拾ってくれないだろうから骨は拾ってあげる」
「茜はヤキモチやいてるの?」
「ええ、そうよ」
「僕だって馬鹿じゃないよ。僕みたいな子供がまともに取り合ってくれるはずがない。それにあと10年もすれば繭もバスガイドより素敵な人になってるよ。そのころにはあのバスガイドもただのばばあだ」

壱郎は何も考えていない。
だから私の機嫌を取ろうと必死に優しい言葉をかけてくれる。
そして言っている意味をよく考えていない。

「それって私もいつかはただのばばあになるって言ってる?」

私がそういうと壱郎は頭を抱える。
そんな壱郎を笑って見てた。
バスは高速に乗る。
暫くの間はその景色に見とれている。
壱郎はスマホで遊び始めていたけど。
そうじゃないでしょ。
ちゃんと彼女の相手をしてください。

「景色、綺麗だよ」
「あ、本当だすげぇ」

壱郎がそう言ってスマホで写真を撮ろうとするとトンネルに入る。
狭間インター~別府インターの間はひたすらトンネルが続く。
ヘッドライトがオートじゃなかった時つけっぱなしで走る人が多かったそうだ。
楽しいのは別府のSAまで。
それを抜けるとひたすら高原地帯が続く。
悪く言うと何の変哲もないただの山だ。
それを抜けると高原ですらないただの田舎の風景が待っている。
壱郎はゲームをするのも飽きて眠っている。
私の肩にもたれかけて。
本当にしょうがない人だなぁ。
そのままそっと寝せておいてやることにした。

「茜ちゃん、そっちはどう?」

前の席にいる夏希からメッセージが来た。
立って後ろを振り向かないのは高速道路ではシートベルトの着用が義務付けられている為。

「壱郎なら寝たよ」
「拓海も寝ちゃった。彼女を放って寝るなんて男子って酷いよね」
「仕方ありません。この歳で恋人がいることが奇跡なのだから」

それもその彼氏と一緒のクラスで一緒の班で隣の席に座ってる。
それが全て運命の一言でかたづけられてしまうのだから。

「そうだよね。私達は幸運だよね」

そんなやりとりをしていると山間部を抜けて平野に出る。
その景色を見た私は壱郎を起こす。

「壱郎。見て」
「……凄い広いな!」

どこまでも続く平野。向こうにはビルが見える。

「ここならトンネル無いよな?」

壱郎はそう言って写真を撮る。

「茜は長崎着いたらどこが楽しみなの?」
「色々あるけど……」
「俺は正直そんなに期待してないんだよね。テーマパークも花と建物ばっかでつまんないって感じだし」

直球な感想をぶつけてくる。

「誰かが言ってた『野郎同士で長崎なんて言っても空しくなるだけだ』って……」

私は野郎に数えられているのだろうか?

「でもさ、こうも言ってたんだ『彼女とくると世界ががらりと変わる』って、笑えなくね」

笑うところなのか?

「何が楽しいのかさっぱり分からないんだけど」
「だってそうじゃん!彼女とくると世界が変わるってどこだって一緒だろ!って」

壱郎は嘘をつかない。
思ったことを受け手の事など何も考えずにずばずば言ってくる。
だからこういう嬉しい話は素直に喜べる。
バスは鳥栖JCTを抜けて長崎道に入る。
もうしばらくしたら長崎だ。

(2)

長崎に着くとまず昼ご飯を食べた。
普通の食事だ。
長崎らしい特色などどこにもない。
それでも友達と一緒に食べると美味しかった。
壱郎と一緒に食べると楽しかった。
昼食が終ると長崎観光がはじまる。
長崎・広島と言えばだれもが思いつくのが原爆だ。
原爆資料館に向かう。
戦争の悲惨な姿を見せつけられる。

「だから戦争は起こしちゃいけないんだよ」

大人は皆口をそろえて言う。
その悲惨な状態を作り出した当事国が核軍縮条約から撤退したというのに。
今もなお彼等がもたらした対人地雷の犠牲者が毎年出ているというのに。
「テロは許さない」をうたい文句に大量虐殺をしている。
テロ国家という言葉があるそうだが、どうしてあの国にはその言葉が用いられないのだろう?
だけどそんな難しい事を考える子なんてそんなにいない。
大抵の人が壱郎のように

「ぐろい、これ以上無理」

と、目を背ける。
紫は泣き出す。
子供にこんなものを見せつけて大人は何がしたいのだろう?
昔被爆者の惨状を描いた漫画が売れた。
劇場アニメにもなった。
それを見た少年はこう思ったそうだ。

「アメリカに原爆100個くらい落としてやる」

やられたらやり返す。
基本的原則に則って発言しただけだ。
手を出したらただじゃおかない。
そういう心理的恐怖を植え付けるのが現代社会を生き抜いていくうえで必要な事。
日本人は我慢している。
何度も賠償金を払って和平を結んでそれでもなお賠償金を払って。
お国の為にと死んで行った戦没者を悼むことすら許されない。
国旗を燃やされ首相の写真を燃やされそれでも日本は悪い事をしたと謝り続ける。
未だ解決してない拉致被害者の問題を棚に上げて。
韓国兵がベトナム人女性に犯した過ちに目をつぶって慰安婦の問題を何度も蒸し返す。
A級戦犯とは平和に対する罪。
宣戦を布告した国が償うべき罪。
個人名をあげられることは不当だと言われている。
近年韓国に対する好感度が過去最悪のものとなった。
当然だ。
戦争も知らない世代に謝罪しろの一点張り。
まともに考えたら不快に感じるだろう。
それでもまだK-POPが好きだと言う人もいるけど。
音楽に罪はない。
だからその考えを否定するつもりは無い。
だが、その音楽すら反日感情に利用するというなら話は別だ。
国を挙げて日本に対抗する。
スポーツも音楽も娯楽も教育も何もかもが反日感情を煽り立てる。
結果日本人は反感を持つ。
それでも日本人は未だ平和的解決を望んでいる。
しかしそれがいつまでもつかなんて保証はない。

「茜。もういこうぜ。つまんねーし」
「うん」

その後は長崎の天主堂や貿易商人の旧家などを見て回った。
九州でも有数のデートスポット。
嫌なことなど全て忘れて天との時間を楽しんだ。
お土産屋さんでキーホルダーを買ったり。
大人のカップルの真似をして腕を組んで歩いてみたり。
私達の班は皆カップルだった。
だから誰に遠慮することもなくいちゃついていた。
いちゃつけていたのだろうか?
壱郎は照れくさそうにしてたけど、ちょっとは喜んでくれてたのかな?
そんな甘い時間はすぐに経つもので日が暮れるとホテルに着く。
部屋に入ると皆で騒ぐ。
持ち寄ったお菓子を食べて女子トークを繰り広げる。
そして夕食の時間になるとご飯を食べてお風呂に入り夜更かししてスマホで彼と連絡を取りながら話を続ける。

「明日さ、自由行動の時間みんな別行動しない?」

梨々香が言った。

「それはまずいんじゃない?」

先生に見つかったら怒られるよ。

「はぐれちゃったんですって言っといてメッセージで連絡すれば問題ないって」
「梨々香がそう言うなら私はそっちのほうがいいかな」

紫が言う。

「まあ、集団でぞろぞろ歩いてるのもめんどくさいね。皆行きたいところあるだろうし」

夏希も言う。

「じゃ、そういう事で!おやすみー」

そう言って梨々香が布団に入る。
もう0時か。
私も自分の布団に入って寝ることにした。

(3)

俺達は滑稽な光景を目の当たりにしていた。
岩場を利用して壁をよじ登り女湯を覗こうとする大量の男子達。
女子の悲鳴と、お湯をかけられ桶をぶつけられ次々と倒れていく兵どもが夢のあと。

「お前も妹が居なかったらああなってたのか?」

志水拓海が言う。

「そうかもな……」

小泉秀史が答えた。

「じゃあなんで純也は行かないんだ?茜とは別の家だよな?」

拓海が俺に聞く。
それを言ったら拓海もだろ?
まあ、こいつらになら話しても問題ないか。

「秀史と一緒で慣れたんだ」
「どうして慣れるんだ?」

ちなみに妹という生き物は家族に対して恥じらいというものが全くない。
風呂上りに下着一枚で家の中を歩くなんてよく聞く話だ。
まあ、最近恥じらいを覚えたのか一緒の部屋にいる事を拒んだけど。

「そこまで話すとなるとここじゃ色々不味いから夜部屋で話さないか?」
「面白そうな話だな。いいぜ」

ちなみに兵の残骸はあとで廊下に正座させられこっぴどく叱られたらしい。
自業自得だけど。
部屋に戻るとみんなが集まって来た。
僕の話を聞くために。

「じゃ、早速話を聞こうか」
「いいけど一つだけ約束してくれ」
「約束?」
「僕の話を聞いても絶対に声をあげるな」

先生が来て面倒になる。

「わかった」

拓海が言うと俺は話を始めた。

「俺が石原梨々香と付き合ってるのは知ってるよな?」
「ああ、嫌でも気づくだろ」

そして付き合いだしてから繭はたまに家に遊びに来る。

「あらいらっしゃ~い」
「お邪魔しま~す」

りえちゃんはそういう母親だ。
おじさんは……。

「……う、うむ」

りえちゃんに主導権を握られていた。

「風呂が狭いとかなら心配無用です、そういう密着した時間もすごしたいし」
「パパさん、うちの片桐さん宅みたいにリフォームしようかしら~」

で、一緒に風呂に入った。
色々体の違いとか見て騒いでた。
話はそれだけじゃ終わらない。
一緒の部屋で寝ることになった。
当然のように同じベッドにもぐりこんでくる梨々香。
そしてとんでもないことを口にする。

「昔のテレビドラマでよく見るシーン知らない?」
「どんなシーン?」
「若い男と女が裸で抱き合って寝るの」
「そ、それがどうかしたの?」

嫌な予感しかしなかった。

「どんな気持ちか確かめてみたくない?」
「い、いや。流石にそれはまずいよ」
「私に魅力ない?」
「そ、そんなことはないけど」
「じゃあ、決まりですね」

梨々香はそう言ってベッドから出ると何の躊躇いもなく服を脱ぎ始める。
それを呆然と見てる俺。
その視線にきづいた梨々香が俺を見る。

「すいません、ちょっとテンションが上がって気づきませんでした」

恥じらいというものに気付いてくれたのだろうか?
だが決してそんな生易しい世界じゃなかった。

「やっぱり純也が脱がしたかったよね」

いやいやいやいや。

「見られるの恥ずかしいなら反対向いてるから」
「純也は脱がないの?」
「え?」
「裸同士で抱きあうのに純也だけ服着てるのっておかしくない?……あっ!」
「どうした?」
「純也は私に脱がして欲しいんだね。わかったちょっと待ってくださいね」

どう転んでも行き先は同じらしい。

「じ、自分で脱ぐから!」
「そう?じゃあ早く!」

そして二人とも裸になってベッドに入る。
明日の朝母さん見たらどう思うだろう?
部屋に入ってきたらすぐに気づくだろうな。
脱ぎ散らかされてる僕と繭の寝間着と下着に。
ベッドに入ると少し時間をおいて梨々香が抱きついてくる。

「どんな気分?」
「頭が真っ白」
「緊張してる?」

そりゃするだろ!

「大丈夫、私は平気だよ」

梨々香って僕と同い年だよな?

「ねえ、純也。私は今すごく幸せな気分。この気持ちを分けてあげたいくらい」
「それはよかった」
「このまま眠ってもいいかな?」
「大丈夫……だと思う」
「じゃあ、お休みなさい」

ちなみに僕はあまり眠れなかった。
朝、母さんが部屋に入ってくるかもしれないという恐怖。
梨々香と裸で密着して寝てるというあり得ない現実。
心臓はドキドキしていた。
翌朝梨々香は早めに起きて服を着ていた。
僕も服を着る。
そして食堂にいる母さんに挨拶する。

「昨夜何もなかった~?」

バレてる?

「まだ、何もしてないです」

にこりと笑って答える梨々香。
それから頻繁に梨々香は家に泊まりに来るようになった。
やがて僕も思春期を迎えた頃それは突然起こった。
初めてのそれは絶望感と失望感だった。
頭がパニックになっている僕を笑いながらその後始末をしている梨々香。

「お気になさらないで。男子の事もじっくり母さんから聞いてるから。実際に見たのは初めてだけど」

そして今日にいたる。

「じゃあお前もう梨々香と経験済みかよ!」

壱郎が大声を上げる。

「まだに決まってるだろ!それに声がデカい!」
「何している、就寝時間とっくに過ぎてるぞ!」

先生が部屋の戸を開ける。
慌てて自分の布団に戻り寝たふりをする。
先生は戸を閉めて巡回に戻った。

「だから、大声出すなって言っただろ」
「悪い」
「でも純也にさえその気があればいつでもやれるってことだよな?」

拓海が言う。
しかし、まだ小学生だぞ。
いくらなんでも早すぎる。
それに……。

「万が一の事故があったらごめんじゃすまないだろ?」
「ゴムつけときゃ問題ないだろ」
「使い方わかんねーよ」
「そのくらいネット使って調べろよ。何のためのスマホだよ」
「そのネットに書いてあったんだよ」

早い段階での性行為は感染症や子宮なんかを傷つけるからお勧めできない。って。

「純也って妙に真面目なんだな」
「わざわざ高いリスクを背負ってまでする行為でも無いだろ?」

付き合っていればいつかその時が来るんだから。

「まあ、みんな危険を冒してまで見たいもんじゃないってことだな」

良い事なのか悪い事なのか女子の体には慣れてる。
拓海がそうまとめた。

「じゃ、早いとこ寝ようぜ。明日寝不足じゃ折角のデートが台無しだって彼女に怒られてしまう」

秀史が言うとみんな眠りについた。
僕はまだ皆に教えてないことがあった。
それは初めて経験した日の事。

「ごめん」
「殿方の事は母様の事からちゃんと学んでるから気にしないで、目の当たりにしたのは初めてだけど。その代わりお願いがあるの」
「なに?」
「女子にとって初めての行為はとても痛いと聞いてます。それは仕方ないと。だから……」
「だから?」
「もし私が痛みで叫んでも謝ったりなんかしないで、大切な瞬間だから悲しい気持ちになりたくない」
「僕が初めての相手って保証はないよ」
「純也って意外と意地悪なんだね。心なんか読めなくても私の気持ちに気付いてるでしょ?」

梨々香の初めての相手は僕に確定らしい。

「純也にとっても初めての相手が私であるといいね」

梨々香はそう言って僕の胸に縋りついて眠った。
きっと今でもあの約束は生きているのだろう。
あの晩の言葉。温もり。梨々香の優しさ。
何度でも探し出すよ。
君の目その手のぬくもりを。

(4)

「わあ~綺麗ね~」

茜は皆とはしゃいでる。
今日は修学旅行二日目。
長崎のテーマパークに来ている。
茜は友達を作るのが上手い。
クラスのSHと呼ばれる連中は大体彼女の友達だ。

「壱郎もせっかくだから楽しもうよ」

茜は俺の腕を掴む。

「どうしたの?壱郎、朝食でお腹の調子が悪いとか?」

茜が聞いてきた。

「違うよ、茜がテンション高いだけだよ」
「だってここカップルがいちゃつくテーマパークだって聞いたよ。だったら遠慮することないよ」
「どこから聞いたんだ?そんな情報」
「ネットに書いてたし……それに」

茜は周りを見るように言う。
周りにはいちゃついてるカップルが沢山いた。
ここに一人でくるのが気の毒に思えるくらいだ。
観光地ってのはどこも同じなんだろうか?
昨日の長崎市街を歩いた時もそうだったけど。
茜もまた俺という彼氏と一緒に来れて嬉しいんだ。
こういう時の楽しみ方は女子のテンションに合わせた方がいいらしい。
彼女の機嫌を損ねるのは得策じゃない。
少なくとも俺はそう判断した。

「よし、茜。次はどこいく?」
「壱郎もその気になったんだね。皆があっち行こうって言ってる」
「分かった」

こういうテーマパークだけでなくデート時における女子の体力は無尽蔵に湧いてくる。
集合時間になる頃には俺はもうくたくただった。

「壱郎ごめん。楽しくなかった?」

そんな顔されて「疲れた」なんて言えるわけがない。

「楽しかったよ」

最後の気力を振り絞って精一杯笑顔を作った。

「よかった~」

恋人の笑顔は元気を分けてくれるというのは本当らしい。
皆が揃ったのを教師が確認するとバスに乗り込む。
あとは地元に帰るだけ。
だけどバスの中で寝ようなんてことは考えなかった。
辺りはすっかり暗くなっていて、いつの間にか別府にまで戻ってきていたようだ。
別府の夜景は綺麗だった。

「これが最後の思い出なんて言ったら怒るからね」
「わかってる。これが始まりなんだな」
「そうそう、私達にとってはまだ始まったばかりなんだから」

茜と二人で景色を見ていた。
儚くも永久の愛。

愛が愛を「重過ぎる」って理解を拒み憎しみに変わっていく前に……。
何もかもそうだろ?
バツの悪い事情にはいつも蓋して食わせ物の現実。
歪んだジレンマの時代で約束したはずの俺達さえ気づかず通り過ぎてく。
壊しあって分かりあってきた事さえ置き去りにする。それが成れの果てなのだろうか?
それを認めないで立ち向かっても落ちていく時のイメージから逃げ出せずにいる。
それでも何度でも探し出そう。君の目、その手の温もりを。
俺が居なくたって変わりはしない街は俺の救いなんて求めていない。
まともな奴に成りすまして誰もが崩れそうな結晶の中で何度も嘘を重ねるから……。
愛はいつも私を傷つけるだけって君は呟いて信じる事が怖くて泣いている。
弱さを知るから強くなる。弱さを恐れず信じる事で、憎しみに変わる前の本当の愛を君は知っている。
俺が欲しいものは心がない作られた世界じゃない。
理由の欠片もない日々。
心を癒す嘘がありだとしても心を奪う事が嘘だろう。
愛に近づこうとも噛みつかれるだけって俺は呟いて、信じる事を止めて生きてた。
絶望を食らっても呆れるほどの想いで儚い愛にしがみついていけばいい。
欲しがってたものは心がない作られたものじゃない。
失った偽りの愛。
その意味を探しだせた。
少しだけマシになってこの街に戻ってこれた。
俺の映し疲れた瞳には笑っている茜が宿ってる。
それが永久のものであって欲しい。
愛はいつも俺を傷つけるだけって信じる事を止めて生きるのはもう辞めだ。
弱さを知ったから強くなれる、恐れず信じる事で憎しみに変わる前の本当の愛を俺にも理解できるだろう。
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