姉妹チート:RE

和希

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2ndSEASON

飛び出すから振り向くな

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(1)

僕達は雲の上にいる。
目的地は北海道。
北海道では桜の見頃らしい。
一緒にいるのは茜とりえちゃんとおじさんと梨々香と壱郎。
5月の連休の遊びだ。
小学校6年生で北海道と驚く人もいるかもしれないけど小学5年生でハリウッドに連れて行かされた僕にしてみたら今年は国内か程度の話だ。
おじさんは寝ている。
りえちゃんは機内放送を聞きながら本を読んでいる。
茜は梨々香と話をしている。
茜も普通にしてたらただの小学生。
趣味:インターネット。
テンプレの様な趣味だ。
誰もこの歳で様々なプログラム言語を操るとは思わないだろう。
飛行機が着陸態勢に入る。
着陸する。
北海道の大地に初めて足を踏み入れた瞬間だった。
おじさんは近くのレンタカー屋でレンタカーを手配する。
車の中でも茜と梨々香は話が盛り上がっていた。
よくそんなに話題があるな。
女子という生き物に感心する。
今夜は函館で泊まることにした。
桜にスイーツに食事。
色々なものを写真に収めてはブログにアップしていく。
そして夜景も。
まだ小学6年生。
夜景なんか見てても暇なだけだ。
だけど決してそんな素振りを見せてはいけない。
父さんから聞かされた言葉。
父さんも愛莉と北海道に来た時苦労したんだろうな。
夜景を見終わるとご当地グルメを堪能してホテルで寝る。
部屋割りは察しの通りだ。
僕と梨々香が同室だった。
部屋もご丁寧にダブルでとってある。
小学6年生に何を期待しているんだ。
何か起こるのを防ぐのが親の仕事じゃないのか?
僕の価値観がおかしいのだろうか?
梨々香に先にシャワーを浴びてもらって僕は後で入る。
シャワールームから出ると梨々香がベッドに腰掛けてテレビを見ていた。
梨々香は元気なさそうだ。
こういう時は明るく接してやった方がいいのだろうか?

「梨々香。どうしたの?」
「あ、純也君……」

梨々香はこっちをみた。
明らかに沈んでる。
僕何かやらかしたかな?

「なんか元気ないね」

そう言って梨々香の隣に腰掛ける。

「純也君だから言うね、他の人には内緒だよ」
「わかった」
「私……まだこないの」

へ?

「来ないって何が?」
「生理。クラスで私一人だけ来てないの」

そんな話を僕に振られてぼくはどうしたらいいんだ。
だけど心が読めなくても本気で悩んでるのは分かる。
悩んでる理由はわからないけど。

「どうしてそんなに焦ってるの?」
「だって私一人だけだよ。来てないの」
「個人差があるって聞いたことがあるけど」

中2になっても来ない女子もいるらしいし気にしなくていいよ。
そう梨々香に言い聞かせる。
小6の僕の回答じゃないと思うけど。

「純也君は平気?」
「なにが?」
「私を嫌いになったりしない?」

どうしてそうなるのかさっぱり分からない。
だから聞いてみた。

「私だけ女性じゃないって思われてるとおもったから」
「ありえないから」
「え?」
「僕だってただ梨々香を見ていたわけじゃない」

梨々香の体の変化くらい分かる。
少しずつ体が丸みを帯びてきて出るところが出て引っ込むところは引っ込んでる。
だから大丈夫。
梨々香はれっきとした女子だよ。

「そっか。純也君に相談してよかった。悩んでたことが馬鹿みたいに思えてきた」

梨々香の迷いは晴れたようだ。

「明日も早いって言ってたしそろそろ寝ようか」
「そうだね」

梨々香と布団に入って寝る。

「明日は札幌観光。明後日は稚内。楽しみだね」
「そうだね」

僕は正直どうでもよかった。
正直観光に興味はない。
ただこの旅で知った事。
体感したこと。
僕は一人の異性と付き合っているんだって事。
もう走り出す準備は出来ている。後戻りはできない。
走り出す準備は出来た。僕に幸運をください。
スタート準備は出来た、もう決して振り返らない。
さあ、行こう!

翌日朝ごはんを食べると北へ向かう。
吹き飛んでいく風景、転がるように前へ。
苦し紛れでも目的はもう忘れない。
あてにならない地図なんか焼いてしまえ。
うずもれた真実はこの手でつかみ取ろう。
夢中で誰よりも早く駆け抜けてきた。
五月蠅いくらいに張り裂けそうな鼓動の高鳴り。
未来で待っている君の呼び声が響いてくる。
ここで立ち止まっている時間はないからさあ、行こう!
数えきれない傷をいくら抱え込もうとも、ちょっとやそっとじゃ僕の心は折れることは無い。
この丘を越えたら君が待っている。
もしも君に出逢えたなら何から話そう?
そんな事ばかり思うよ。
この空の下を心は走る。
空回りする気持ちが叫びだすのを抑えきれない。
君に届くまであと少し。
熱く日差しが照らすこの道をひたすら行こう!
自分を信じて。

(2)

「茜ちゃん、タブレットももってたんだ」
「うん、買ってもらった」

私は今日撮った写真をブログに乗せている。
閲覧者もそこそこいる。人気ブロガーってやつだろうか?

「でもスマホで済むんじゃない?」
「持ち運びはスマホの方が便利だけどタブレットの方が見やすいから。ほら見て」

私は壱郎にタブレットを渡す。
まずその軽量さに驚く。
そして画面の鮮明さに驚く。

「使い方も簡単だよ」

私はタブレットの使い方を教える。
壱郎は呑み込みが早い。
すぐに適応してみせた。

「確かにこれ便利だね!ゲームもできるし、画面もでかいから」
「でしょ!」

壱郎は喜んでいるように見えた。
でもそれはタブレットのせい?
私と話ができたから?
私は何のために壱郎を連れて北海道に来たの?

「でも茜やっぱりすごいな。何でも吸収してしまう」
「……そんなことないよ」
「姉ちゃんの天音もすごかったもんな、やパリ血筋ってあるんだな」
「そんなことない!」

私は叫んでいた。
気が付いたら泣いていた。
私はいつも通りだった。
折角一緒に旅行に来たのに私はなにをしているんだ。
情けなくてどうしようもなくて涙が止まらなかった。
そんな私の異変に気付いた一郎は私を掴む。

「どうしたんだ茜。俺何かへまった?こういう雰囲気にいまいちまだ対応できなくて」
「それは私も一緒だよ。謝るのは私の方。私が悪いの」
「へ?」
「ごめん、ちょっと洗面所行ってくる」

私は洗面所にいって顔を洗う。
自分の顔を見る。
こんな顔で旅をしたらだめだ。
もっとへまをやってしまう。
やってしまったことはしょうがない。
次からしなければいいだけどのこと。
後戻りはできない。
私に幸運を下さい。
もう振り返らないから。
よし、行こう!
部屋に戻ると壱郎はテレビを見ていた。
壱郎は私に気が付くと「大丈夫?」と声をかけてくれた。

「大丈夫」

そう言って壱郎の隣に座る。

「さっきはどうしたんだ?突然泣き出して」

壱郎が聞くから私は自分の気持ちを語った。
すると一郎は笑い出した。

「なんだ、そんな事か!」
「そんな事かって……大事な事だよ」
「茜、茜は大きな間違いをしてる」
「え?」
「俺達まだ小6だぜ。旅行先のホテルのダブルの部屋に2人っきりでいる恋人。でもまだ小6だ。この雰囲気に馴染めるはずがないよ。普段通りの茜で良いんだ」

壱郎がそう答えた。
確かに私達はまだ小6。特別何が出来るってわけじゃない。
自由だって事は何でもできるわけじゃない。
心の壁、肉体的な壁色々な見えない壁にぶつかって彷徨ってる。
出口なんでどこにあるかわからない。
じゃあ、どうすればいい?

「地図なんてあてにならないから焼いてしまえば良い。2人でうずもれた信実だけをほりだしていけばいいんだ」

今は夢中で駆け抜けよう。
立ち止まっている時間は無いから。

「難しい事言っても分かんないけど、例えば俺が茜の状況だったら多分携帯ゲーム機弄ってたと思う」
「そっか」
「そしたらきっと茜が俺に近づいて来て言うんだ『何やってるの?』って」

立場が入れ替わるだけ。そしてその距離にいられることが恋人であることの証。
理解は出来た。
でもちょっとだけ意地悪してみたくなった。

「壱郎は私の事をまだ小学生って言ったね?」
「そうだけど」
「でも私先月から生理始まったんだよ」

体は大人だよ。

「それがどうかしたの?」

壱郎は私に聞いた。
私は壱郎に抱き着く。
鈍いなあ。
これで分かるでしょ?
分かってくれたようだ。
理解したうえで拒絶した。

「お、俺まだ小学生だぜ!まだ早いよ」

壱郎は慌てている。
しょうがないなあ。

「じゃあさ、せっかくなんだし抱き合って寝よう?」

それくらいならしても文句言われないでしょ?

「まあ、それくらいなら……」

壱郎はテレビを消してそしてベッドに入る。
私もその後にベッドに入る。
お互い抱き合って……気が付いたら寝てた。
翌朝朝食を食べようとりえちゃん達がドアをノックする。
私達はドアの鍵を開けた。

「あらら~」
「む、むむ……」

りえちゃんとおじさんは驚いている。
それを見て私達の状態に気付いた。
浴衣は開けていた。そして下着をしていない。
お互いの体の違いを確かめたくて脱ぎ合ったことを忘れていた。
純也以外の男子の体なんて初めてだったから。

「まだそういうのはおばさんは早いと思うわよ~」
「う、うむ」

りえちゃんとおじさんが言う。
壱郎の顔は青ざめていた。
そして土下座していた。

「ごめんなさい!でも何もしてません!本当です」
「壱郎が謝る事じゃないよ。誘ったのは私だし」
「……そうか、なにもしてないのか」

おじさんは胸をなでおろしていた。
お父さんから私を預かっている立場としては動揺したのだろう。
でもりえちゃんは違った。

「何もしてないっていうのもよくないわね~。せめてキスくらいしてあげなさいな~」

パパが言ってた。

「片桐家では女性が絶対だ」と。

「……梨衣。やっぱり部屋割り変えた方がいいんじゃないのか?」
「純也達だって平気だったんだから大丈夫よ~子供達には子供たちなりのルールがあってそれを破るような真似はしないから~」

おじさんがいうとりえちゃんがそう言って笑う。

「……取りあえず二人共着替えたら出ておいで、朝食にしよう」

おじさんがそう言ってドアを閉める。
私達はすぐに着替えて部屋を出る。
朝食を食べるとすぐにチェックアウトして札幌へ向かう。
地元より遅咲きの桜が私達を歓迎してくれた。

(3)

「ねえ、父さん」
「どうした?誠司」

それはほんの些細な疑問だった。
暇な連休に考え事していて突然思ったこと。

「父さんはサッカーが上手くてカッコよくてモテるんだよね?」
「まあ、若い時はそうだったな。今でもそうか?」
「じゃあ、なんで母さんと姉さんには嫌われてるの?」

それぼ僕の些細な疑問。
いつだって二人に冷遇されてる父さんが不思議でしょうがなかった。
父さんのファンならいくらでもいる。
その人達と一緒になればよかったのに。
まあ、母さんと一緒になってくれたから僕がいるんだけど。
自慢じゃないけど僕もモテる方だと思う。
父さんに似たんだろう。
サッカーが上手いのも父さんの血だろう。
それでも冬吾には勝てない。
何をやっても冬吾に負ける。
恋愛は別物だ。
恋愛に勝ち負けはない。
誰が誰を好きになろうとそれは個人の自由なのだから。
だから不思議だった。
どうしてこんなに嫌われてる母さんと結婚したんだろう?
父さんは少し考えていた。
いつもの明るい表情ではなく真剣な表情だ。
そして父さんは静かに語り始めた。

「誠司、男には女には絶対に理解してもらえないロマンってものがあるんだ」
「ロマン?」
「そうだ、娘にはもちろん妻にも分かってもらえない夢に生きる者が男っていうものなんだ」

父さんは真面目に話している。
ちなみに今日はまだ飲んでいない。
でも意味がさっぱり分からない。

「誠司にも分かる時が来るよ。娘目が清楚なセーラ服に紺色のソックスを穿いてる姿がどれだけ眩しいか……いてぇ!」

ごつん。

母さんがお玉で父さんの頭を叩いた。

「この馬鹿!誠司に妙な事を吹き込むなって言っただろうが!」
「お、男同士にしか分からない話ってあるだろ?」
「お前の『男同士の話題』は絶対ろくでもないことだから却下だ!」

父さんが僕には理解できない話を始めると必ずこうなる。
そのときお姉さんが帰って来たみたいだ。

「水奈ちょうどいい所に帰って来た」

母さんが部屋に戻ろうとする姉さんを呼び止める。

「どうしたんだ?」
「ちょっと誠司を連れて散歩にでも行っててくれないか。この馬鹿と話がしたい」
「また何かやったのか?」
「まあな」
「しょうがないな。誠司、行くぞ」

そう言って僕はお姉ちゃんに連れられて近くの公園に行った。
お姉ちゃんは自販機でジュースを買ってくれた。
それを飲みながらブランコに腰掛ける。

「……で、父さん何をやらかしたんだ?」

お姉ちゃんが聞いた。
僕は姉さんに何があったかを話した。

「あいつらしいな」

話を聞いた姉さんはそう言った。

「姉さんはどうして父さんが嫌いなの?」

僕はお姉ちゃんにも聞いてみた。

「今は嫌いじゃないよ」
「でも偶に父さんの事怒鳴りつけてたよ?」
「父さんは誠司に男のロマンって言ったんだよな」
「うん」

何のことかわからないけど。

「男同士でしか分かりあえないように女にも譲れないものってのがあるんだよ」

やっぱり意味が分からない。

「……誠司は父さんの事好きか?」
「うん」
「どこが好きなんだ?」
「優しくて強くてかっこよくてサッカーがうまい所……姉さんもそうじゃないの?」
「そうだな、多分世の中の父さんのファンはそう思ってるだろうな」
「姉さん達は違うの?」
「そりゃ、違うさ。世の中のファンよりもずっと近い所で父さんを見てきたんだから。良い所も悪い所も含めてな」
「悪い所あるの?」
「人間誰だって欠点があるだろ?誠司だって落ち着きがないところがあったり」
「だから嫌いなの?」
「言ったろ?今は嫌いじゃないって」
「どうしてそうなったの?」

嫌いじゃなくなった理由が知りたい。
興味があった。
姉さんは笑いながら言った。

「見てしまったからかな。あいつの本当の優しさを」

バレンタインデーの日に父さんに意地悪してカレールーを渡した時それを喜んで食べてたらしい。

「私から見たら父さんはどうしようもないド変態で娘を病的に愛している。本人が迷惑してると気づいてるのか気づいてないのかはわからないけど」

姉さんから見たらそう映るのだろうか?

「だけど、愛し方を間違えてるけど父さんなりに私達を愛してるよ。その事には感謝しないとな」

世の中には愛されずに生まれて育って。育つならまだいい、赤子のままトイレに捨てられるという悲惨な僅かな生涯を終える子だっている。
愛されてる事が当たり前だと思ったら大間違い、それは奇跡の積み重ねなんだってお姉ちゃんは話してくれた。
父さんと母さんが巡り逢った奇跡、二人が結ばれた運命、その二人の下にこの身を託され授かりし生命。
どんなドラマが二人に会ったのかは分からないけど運命という名の奇跡の積み重ね。
そして僕は夜明けの鐘を鳴らす。
朝と夜の狭間を生きていく。
だから二人に感謝しなくちゃいけない。

「もうそろそろいい時間かな?」

お姉ちゃんは時計を見る。

「話も済んだし帰ろうか?」
「うん」

帰り道姉さんに聞かれた。

「どうしてそんな事考えたんだ?」
「他人のお父さんの事悪く言うのはよくないけど冬吾の父さんって見た目普通なのにどうして父さんは負けたんだろう?って」

それを知れば僕が冬吾に勝つヒントが見つかるかもしれない。

「それはまたとんだ強敵を相手にしてるな」

姉さんは笑ってた。

「言っとくが片桐家は強敵だぞ。母さんも負けたって言ってた」
「そうなんだ……」
「応援はするけど正々堂々と勝負するんだぞ。ただ足を引っ張り合うのは勝負でもなんでもないんだからな」
「うん」

家に帰ると母さん達の話も終わっていたようだ。
食事をすると部屋に戻り眠りにつく。
冬吾にいつか勝ちたい。
その願いは風に乗って夜明けの鐘を鳴らす。
幾つもの波を越えて明日へ立ち向かう僕を守ってくれる。
澄み渡る未来が来たなら草花も兵器に宿るだろう。
どれだけ祈れば天に届くだろう?
今朝焼けが海原と僕を映す。
振り向かないで羽ばたこう。この想いを運んであの空を飛んでいく。
願いは誰にも撃ち落とせない。

(4)

誠司は水奈と出かけて行った。
それを見送った神奈が俺を睨みつける。

「愛莉も言ってたしな。まずはお前の言い分を聞いてやる」

神奈がそう言うと俺は言った。

「なあ、誠司に欠けている物って何だと思う?」
「は?前に言ったろ。誠司は真っすぐに育っているって」
「それなんだよ」
「ちゃんと説明しろ」

俺は説明を始めた。
誠司に欠けているもの、この物語に欠けているもの。
それは面白みだ。
どの家の子もそうだが皆特に欠点らしい欠点がない。
精々勉強の優劣くらいだ。
そこに物語はうまれるのか?
もっとなにかアクセントが欲しいんじゃないのか?

「それと、誠司に妙な事を教え込むのとどう関係があるんだ?」
「だから、誠司にもっと人生の楽しみ方を教えてやろうと……」
「物語とやらの為に誠司を妙な世界に引きずり込もうとしてたのか!?」
「そういうキャラが一人くらいいても悪くないだろ?」
「あいつはまだ幼稚園児だぞ」
「ま、まあそうだな」

幼稚園児でロリコンはさすがにヤバいな。

「しょうがない奴だな……」

神奈はため息を吐く。

「……どうして誠司って名前にしたか教えようか?」
「ああ」

そう言えば聞いてなかったな。

「誠の子供だからだよ」
「え?」
「誠のような男になって欲しい。そう思って命名した」

でもさっき妙な癖をつけるなって。

「誠は自分の事を分かっていないんだな」

神奈がそう言って語る。
第一印象はイケメンのサッカー選手。引退した後もタレントとして道を歩めたんじゃないかというほどの。
だが多くの人は知らない。俺の酒癖の悪さ、女癖の悪さ、娘に対する妄執。
多くの人は知らない、怪我で挫折してサッカーの道を閉ざそうとした事、妊娠詐欺の被害にあって親から勘当されかけたこと。

「お前には良い所も悪い所もある。それを知っているのは私や水奈だけだ」
「誠司には良い所だけ受け継がせればいいってことか?」
「そうじゃねーよ。それだけだと誠の一部分しか見てない味のない子供になってしまう」

言ってる意味がさっぱり分からない。

「誠だって挫折するときがあるんだ。でもそれを乗り越える強さがあった。誰かが言ってた『大きな壁は乗り越える力がある物にだけ与えられる』って」
「それは神奈がいたから……」
「誠司にだってもう彼女がいるよ。恵美の妹の娘さんらしい」

世間て狭いもんだな。

「誠は私がいたから乗り越えられたと言っていたが、私だって誠に守ってもらってた。どんなに普段がだめなやつでもいざという時は頼りにしてる」

そんな男になってほしいんだと神奈は言う。
なるほどな……。

「誠は片付けも出来ない困った奴だ。それでも頼りにしてる。今だってちゃんと一家の大黒柱の役割こなしてるじゃねーか」

普段は今のままでいい、だが時が来たらその誠の本質を子供達にみせてやれ。
力まずともいい。今までやってこれたんだから普段通りでいいんだ。
神奈の言いたい事が少しだけ分かった。

「じゃ、私夕食の仕上げがあるから誠は適当にテレビでも見てごろ寝してろ」

神奈はそう言って夕飯の支度に戻る。
ニュースでも見ながらソファに寝転がっていると夕食の匂いが漂ってくる。
水奈と誠司も帰って来たようだ。
夕飯を食べて風呂に入ると誠司を寝かしつける。

「誠司、お前もう彼女いるんだってな?」
「うん」
「一つだけアドバイスさせてくれないか?」
「わかった」
「絶対に彼女に逆らうな。喧嘩をしたって負けるのは自分なんだ」
「う、うん」
「そのかわり彼女が雨に濡れていたら黙って傘をさしてやれ」

寒さで凍えないように温めてやれ。

「それが出来たらお前も一人前の男だ」
「うん。ありがとう」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」

誠司はそう言って目を閉じる。
寝室を出ると神奈が待っていた。
話を聞いていたようだ。

「お前も立派な事言えるじゃねーか」
「まあな」
「……今日はなんか飲みたい気分だ。誠も付き合え」
「わかった」

しかし、恵美さんの妹の娘か。
水奈も冬夜の息子と付き合ってるし、上手くいったとしたら俺と冬夜は親戚になるのか。
まだ考えるのは早いか。
きっともっとはるか遠い未来の物語。

(5)

今日は遠くにドライブに連れて行ってくれた。
水奈姉さんと空兄さんはおでかけ。
車には父さんと母さんと僕と冬莉と瞳子と隼人が乗ってる。
行き先は水族館と猿山。
最近は猿が広場に降りてこなくて困ってるらしい。
人は沢山いた。
混雑する中僕達はゆっくりと水族館と猿山を楽しむ。
水族館の中にあるレストランで昼食を挟んで猿山に行く。
行きにはしゃいでいたからか冬莉は帰りは静かに寝ていた。
瞳子は起きてる。
緊張してるのだろうか?
口数も少なかった。
父さん達も気づいたらしい。

「気分でも悪いの?」

母さんが聞いた。

「そんなことないです、おじさんの運転って凄く丁寧ですね。車酔いする気がしない」
「ありがとう、瞳子ちゃんのお父さんは上手じゃないの?」
「うーん、母さんは何も言わないから分からないけど私達はちょっとでもでこぼこした道があるとすぐに車が跳ねるし。マンホールがあるとそれを避けて走ろうとするし」

車体をこするからと立ち寄れる店も限定されるらしい。なんでそんなに車高を低くしたんだろ?
不思議だった。
地元だから雪は積もらないけどコンビニやファミレスに入るのも気を使うそうだ。
父さんは「運動性能が上がるんだよ」と説明してくれたけど全然意味が分からなかった。

「でも下手でもないんですよね。この道だったらスピード180㎞/hは出すし」

怖いけどと瞳子は言う。
なんでも「俺は30になってもRに乗り続けるようなかっこいい大人になるのが夢だったんだ」らしい。
踏切に引っかかって動けなくなるのがカッコいいのかどうかはわからないけど。
これも誠司のお父さんが言ってた「男のロマン」ってやつなんだろうか?

「どうしておじさんはスピード出さないんですか?」
「他人様の大事なお嬢さんを乗せてるのに危ない運転は出来ないよ。それにそういう車じゃないし」
「それなんだけどさ、どうして父さんはこの車を選んだの?」

別に羽がついてるわけでもない。ただのミニバン。
理由は単純だった。

「皆乗せようと思ったら車種なんて限られてくるよ」

父さんは言った。

「そうだな……もしこれから先も二人の関係が続いて冬吾が助手席に瞳子ちゃんを乗せる時が来たら分かるよ」

結婚するまでは好きな車に乗りなさい。家庭をもったらそうも言ってられなくなるから。
瞳子の家は僕の家の2件隣。
家に着くと冬莉を起こして瞳子達を家に送る。

「今日はどうもすいません」
「いえ、うちの方こそ。冬吾が退屈そうだったから」

両親が挨拶してる。

「また遊ぼうね」
「うん」

僕が言うと瞳子ちゃんは返事をしてくれた。
それから家に帰ると空兄さんたちが帰ってきてる。
天音姉さんと茜姉さんも帰って来たようだ。

「今日はちょっと遅れたから出前とるわね。皆何が良い?」

母さんが言うと皆口をそろえて言う。

「チャーシュー麺大盛り餃子とチャーハン!」

ご飯を食べると風呂に入って寝る。
また明日から平穏な一日が始まる。

(6)

「連休最後の日くらい皆で遊ばね?」

そう言ったのは光太。
近所にオープンした複合アミューズメント施設SAPに遊びに来てた。
ここにいるだけで1日を楽しめる大型施設。
ボーリングしてダーツしてビリヤードしてカラオケして食べて。
カラオケで善明君と話をしていた。

「連休はどうだった?」
「想像してください、真実はその遥か斜め上をいってます」

意味が分からなかったけど、善幸の表情を見ていたら何となく察してしまった。

「……大変だったんだね」
「分かってもらえるだけでも嬉しいです」
「どうしたんだ!?しけた顔して!もっと盛り上がって中学最後の思い出作っておこうぜ!」

光太がいう。

「中学最後ってまだ気が早いんじゃないのか?」

僕が聞いていた。

「空は分かってないな、これから受験勉強でそれどころじゃなくなるだろ?」

分かってないのは光太の方だよ。
なんだかんだ言って夏休み、紅葉狩り、クリスマスと例年通りにやってくるんだ。
普段からまじめに勉強してたら休みの日くらい休んでたって問題はない。
片桐家の家訓だ。
でも高校になったら別々の道をたどるのか。
そうでもないらしい。
大半の人が防府高校を選んでいた。
水島さんは女子サッカー部のある高校に行くと思ってたけど……。

「どうせ学校でサッカーする気ないし実家にいた方が便利だから」

そして近いからと防府を選んだそうだ。
あとはテニスやバレーボール等で学校を選んだ子もいる。
でもそんなの関係ない。
どうせまた皆でこうして集まって騒ぐんだ。
それでもどの瞬間もなかなか味わえない。
だからこそ走り続ける。
夜明けの鐘が鳴っても走り続ける。
今は歌えるだけ歌おう、見るものすべてを歌おう。
一通り遊び終えると皆店の入り口で解散する。
僕も家に帰る。
僕の自転車ステップなんてついてないし。
生徒総会があって、体育大会があって部活生は市総体があってテスト漬けの毎日が始まる。
テストの結果なんて興味ない。
部活生は最後の公式戦。
どうせなら勝ちたいだろう。
そして勝つだろう。
バレー部は3連覇しちゃうんだろうな。
バレー部の3兄弟はもう進路がほぼ確定してるらしい。
家に帰る。
父さん達はまだ帰ってない。
1人で待ってると茜と天音が帰って来た。

「あ~疲れた」
「どうしたの?天音」

天音に聞いていた。

「授業が休みだと思ったら別荘でみっちり勉強だよ。授業聞いてりゃ大体わかるってのに何度も同じ事聞かされるんだぜ」

そう言って天音はため息をつく。
茜の方は満足してるようだ。

「北海道はどうだった?」

僕が茜に聞くと茜は僕にタブレットで写真を見せてくれた。
美味そうに取れてる料理の数々。

「ブログに投稿したから見て」

茜がそう言うと玄関の扉が開く。

「あ、翼たち帰ってきてたのね」

母さんが言った。

「今日はちょっと遅れたから出前とるわね。皆何が良い?」

母さんが言うと皆口をそろえて言う。

「チャーシュー麺大盛り餃子とチャーハン!」
「よく食べるわね」

母さんはそう言って母さんの分と皆の分を頼む。
夕食を食べると部屋に戻って寛ぐ。
そして定刻になるとベッドに入って明りを消す。
幸せな香りに包まれながら夜明けの鐘が鳴るのを待っていた。
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