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2ndSEASON
望む未来に
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(1)
チャイムが鳴ると一斉に皆問題を解いていく。
教室には様々な中学校の制服が混ざり合っている。
今日は私立校の一般入試の日。
一日で全教科終わらせてしまう。
視線を問題用紙からそらさない。
他を見てたらカンニングしていると思われそうだから。
緊張していた。
適度な緊張感。
それが昼休みを挟んで5教科分続いた。
帰り道は大体皆一緒だ。
皆口数が少なかった。
中学校近くになるとみんな解散した。
翼と二人で家に帰る。
今夜はご馳走だった。
前祝らしい。
「やるだけやったんだから今さら悩んでも仕方ないだろ」
父さんがそう言った。
「受けられただけでも良かったとしなさい。母さん達は受けなかったんだから」
母さんがそう言って笑う。
これはあくまでも前哨戦。
今から緊張してたら本番まで持ちませんよ。
母さんの言う通りだと思う。
今日一日だけは勉強の事は忘れよう。
風呂に入るとテレビを見て楽しんだ。
数日後、結果発表があった。
僕達は合格していた。
最初の難関を突破した気分だ。
しかし浮かれている場合じゃない。
問題は次の公立校の入試。
試験の日まで必死に勉強した。
卒業式があって、そして入試前の説明会があって。
そして試験当日になる。
忘れ物はない、受験票も持った。
鞄を持って部屋を出ようとする。
「待て空!」
天音に呼び止められた。
「おまえパジャマで入試受けるつもりか!?」
あ。
「緊張しすぎだぞ!リラックスしろ」
「そうだね」
僕は慌てて着替える。
「空はまだ自分の未来を信じてないんだな?」
天音が言う。
「どう転んだって空が望んだ未来に進めるから。自分を信じろ」
「ありがとう」
「じゃ、とりあえずさっさと着替えろ!遅刻で受験に間に合わなかったなんてトラブルまで神様に想定させるのは可哀そうだぞ」
「そうだね」
僕達は部屋を出ると支度を済ませて朝食を食べて家を出る。
「リラックス。いつも通りやれば大丈夫だから」
母さんが言う。
そして会場である防府高校に行って受験する。
やっぱり1日で終わる。
終わった後ようやく味わう達成感。
やる事はやった。
あとは天に任せるのみ。
そして合格発表の日。
僕達は高校に向かった。
(2)
公立高校入試合格発表当日。
発表は当該の高校で発表される。
父さん達が送ってくれた。
他の皆も先に来ていた。
掲示板にはまだ貼られていない。
受験票を握り締めて発表時刻を待っている。
係の人がやって来た。
掲示板に紙を貼る。
紙には番号が書かれてある。
必死に自分の番号を探す。
不思議と周りの声が聞こえなくなっていた。
入ってしまったようだ。
そしてある番号が輝いて見える。
それは僕の受験番号。
神様は僕に微笑んでくれたようだ。
「やったあ!」
僕は大声を出して叫んでいた。
周りの人が驚いていた。
「空、やったね!」
他の皆も受かっていたようだ。
中には肩を落とす者もいたがそんなの気にしなかった。
僕は夢に向かって一歩進むことを許された。
スマホでSHの皆に知らせる。
あ、水奈にも知らせないと。
「おめでとう!」
すぐに返事が返って来た。
その後少しためらうももう一人にメッセージを送る。
「おめでとう、空も頑張ってるんだね」
すぐに返事が返って来た。
他の高校の皆も合格したようだ。
昼食は外で済ませて帰る。
のんびりしている時間はない。
新しい制服の発注。教科書等の購入。入学説明会等やる事は一杯ある。
帰る前に中学校による。
「お前達なら大丈夫だと思ってたよ」
高槻先生が合格通知書を渡してくれた。
「高校でも頑張れよ」
それが高槻先生との本当のお別れ。
最後の中学への訪問。
夕食はご馳走だった。
「お疲れ様」
父さん達はそう言ってくれた。
「ここが終わりじゃありませんからね。勉強もそうだけどこれからの3年間の生活しっかりテストさせてもらいます」
母さんが言う。
前にも言ってたな。テストに通ったらプレゼントがあるって。
普通に考えて車かな?
その程度にしか考えてなかった。
「空は自動二輪は取らないのか?バイクくらい入学祝いに買ってやるぞ」
お爺さんが言ってた。
「暑いし寒いからいらない」
それにこけたら痛そうだし。
Tシャツは認められない。
あの乗り物の何が良いのかさっぱりわからない。
何より単車に乗っていたからと言って単車通学は認められない。
「じゃあ、お爺さんからのプレゼントは空が自動車免許を取るまでお預けだな」
お爺さんから車をくれるなら父さん達は何をくれるんだろう?
「それは大学入試を通るまでのお楽しみだよ」
父さんはそう言って笑う。
何を企んでいるのやら。
とりあえず高校入学祝いは小遣いアップだった。
小遣い以外にも「服もそろそろ買いなさい。水奈に恥をかかせてはいけません」とか言ってお金もらってるんだけど。
僕達はほっといたら全部飲食費に消えちゃうから。
夕食が済むと風呂に入ろうとした。
すると母さんが呼び止める。
片づけを終えて風呂に入ると部屋に戻って寛ぐ。
「来月から高校生か~」
新しい3年間が始まる。
その時スマホにメッセージが入った。
「今週末皆でSAPで遊ぼうぜ!」
光太からだ。
特に予定がないので行くことにした。
今のクラスで皆揃う事は同窓会くらいしかないんじゃないか?
そう思ったから。
最後の思い出を。
皆同じ気持ちだったらしい。
全員行くことになった。
(3)
3月下旬。
僕達はSAPに来ていた。
中学生には中学生なりの楽しみ方がある。
それも今日で最後だけど。
高校生になればまた楽しみが増えるのだろうか?
楽しみ方は人さまざまだと思う。
白球に青春を込めるもの。
情熱を燃料にグラウンドを駆け回るもの。
甲子園、インターハイ、コンクール。
色んな青春がある。
部活だけじゃない。
3年間必死に勉強して大学に挑む者もいる。
恋に費やす者もいる。
僕はきっと食べることに全てを賭けるんだろうな。
高校入試という門はくぐり抜けてきた。
これからまた新たな選択肢を選ぶことになる。
悔いのない青春を。
だから今は思いっきり遊ぶ。
ボーリングにカラオケにゲーセン。
丸一日遊んでいた。
そしてファミレスで皆で食事。
僕はひたすら食べてた。
友達と写真を撮ったりして忙しかった。
女子から記念に一枚一緒に写真を撮ってと頼まれていたけど断っていた。
水奈を不安にさせるのが嫌だったから。
「ごめん、今食べてるから」
「お前女子と食い物どっちが大事なんだよ!」
光太に怒られた。
「水奈と食べ物なら水奈を迷わず選ぶよ。でも彼氏持ちの女子と食べ物を選べと言うなら食べ物を選ぶ」
納得してもらえたようだ。
「じゃあ、彼氏いない女子だったらどっちを選ぶの?」
そんな意地悪な質問を問いかけてくる海璃。
「きっと変わらないよ。この世界に水奈以上の女子がいるなら考えるけど」
そう返した。
「亀梨君や、これからSHはどうするつもりなんだい?」
善明が聞いてた。
「当然天下狙うぜ!FGが先に手を伸ばしてるけどそんなの関係ないね」
光太が応える。
「入学早々乱闘なんてやめてくれよ」
学が言う。
高校になったら停学処分がある、出席日数が足りなかったら留年だってあるんだ。ほどほどにしてくれ。
「そんなのFG次第だろ?」
光太が言う。
FGがどこまで勢力を伸ばしてるのかは知らないけど目に着いたら的にかける。
そう宣言している以上簡単にはしかけてこないだろ。
「まあ、面倒事は嫌だけどやられっぱなしは性に合わないですからね」
善明君が言う。
「みんなもFGに負けないくらいSHに人集めてくれよな」
光太が言う。
そして夕食が終ると、皆別れを言う。
「夏休みに会おうね」
誰かがそんな事を言っている。
でもそれぞれの高校で新しい輪を作っていく。
それがどういう事か誰も口にしなかった。
卒業。
それはただ学校を巣立つだけじゃない。
皆新しい社会へと巣立つんだ。
「みんな頑張ってね。今日の事は忘れないよ」
美希が言う。
「SHは永久に不滅だ!」
光太が言う。
そしてそれぞれ家に帰って行った。
自転車をこいで家に帰る。
上り坂は自転車を押して帰る。
漕いで登れないわけじゃない。
単に息を切らせながらお喋りしながら帰るなんて無理だから。
「SHは永久に不滅か……」
1人呟いていた。
父さん達の渡辺班もそう言って今も続いている。
あり得る話だとは思う。
大学に行ったらまた会える。
何十年も経ったら同窓会だってやるだろう。
家に帰ると風呂に入って部屋でゆっくりと過ごす。
残り僅かな春休みを過ごす。
僕達は立ち止まってる暇はない。
もうすでに次の舞台が準備されて待っているのだから。
(4)
その日僕は水奈の家に呼ばれた。
どうしたんだろう?
水奈の家に着くと呼び鈴を鳴らす。
水奈が出迎えてくれた。
「とりあえずあがれよ」
水奈がそう言ってリビングに案内してくれた。
リビングには水奈の父さんと母さんがソファに座っていた。
僕と水奈も座ると、水奈の父さんが言った。
「これから話すことは冬夜にはすでに伝えてある」
父さんに?
「単刀直入に言う。水奈の家庭教師を頼まれてくれないか?」
家庭教師?
どういうことだ?
話を聞いてみた。
その疑問に答えたのは水奈の母さんだった。
「口実だよ」
水奈の母さんはそう言ってにやりと笑った。
「口実?」
「ああ、家庭教師なら水奈の部屋に2人っきりになっても問題ないだろ?」
僕と水奈は3年間付き合ってきた。
その中でも一緒にいられたのは2年間。
それは高校大学と進学しても空白の1年間が発生する。
中学校と小学校ならまだいい。そんなに離れてないから。
だけど、中学と高校、高校と大学となれば話は別だ。
場所もそうだけど時間だってなかなか合わなくなる。
この3年間も実は水奈も水奈の母さんも心配していたそうだ。
僕の後ろにはまだ翼がいるんじゃないか?
翼の事を考えているんじゃないか?
一時は不安だったけどすぐにその不安は解けた。
今の僕になら水奈を任せても大丈夫。
でもやっぱり同年代の子に奪われるんじゃないかという不安は水奈には常につきまとう。
その保険として僕を家庭教師として雇う事にした。
「お金は月賦で払う、時間も好きにしていい。わかるか?この意味」
いつでも自由に水奈の部屋に入っていい。
どれだけ水奈の部屋に2人でいてもいい。
週末なら泊りがけで来ても構わない。
「まあ、冬夜の子なら多分妙な真似はしないだろうしな」
水奈の母さんはそう言って笑った。
「空、神奈は俺と結婚してくれたけど本当は冬夜が好きだったんだ」
水奈の父さんが言った。
「親の期待を子供に押し付けるのはよくないと理解してる、その上で水奈の事を頼む」
水奈の父さんがそう言って頭を下げた。
ここまで言われて断れるはずがない。
「わかりました、頑張ります」
「ありがとう!」
水奈の父さんは笑顔だった。
その時気付いた。
水奈の手が僕の手を握っていた。
そんな水奈を見た水奈の母さんは言った。
「愛莉たちには私から電話しておく。今夜は家で晩飯食っていけ」
水奈の部屋で待ってろと言う。
「母さん、そう言う話なら私も料理手伝う」
「水奈は空の相手してろ。一人にしてたら何探るかわかんないぞ?」
「父さんと空を一緒にすんな!」
「み、水奈その一言は傷つくぞ……」
いいから、空だって慣れてないんだから一緒にいてやれと水奈の母さんが言うと水奈は自分の部屋に案内してくれた。
天音の部屋よりは女子っぽい感じだった。
壁に色々かざりつけしたり、本棚には漫画が一杯だっかけど。
ピンクのベッドに白い布団。
机も可愛らしいミント色の物だった。
「あ、あんまりじろじろ見るな!」
水奈も恥ずかしいらしい。
「とりあえず適当に座れよ」
水奈がそう言うと僕はテーブルの前に腰を下ろした。
「な、なんか飲み物いるよな。ちょっと待ってろ」
そう言って水奈がドアを開けると水奈の父さんが座り込んでいた。
「お前何やってんだ……?」
「い、いや。いきなり初日から羽目はずすことは無いと思うが……」
「あっちにいけ!このド変態!」
水奈の家ではこれが日常なんだろうか?
水奈は飲み物をとってきた。
「て、テレビでも見てるか?」
そう言って水奈がテレビのリモコンを取ろうとする手に僕の手を重ね、水奈の後ろから抱きついた。
「あ、あのバカの真似はしなくていい!」
「……あの時からずっといてくれたのは水奈なんだね」
「空?」
「ちゃんと言っておきたいから。これから始まる生活の為にも」
「……わかった。どうした?」
「ありがとう、そして大好きだよ」
「……私も大好きだ。私の事を好きになってくれてありがとう」
水奈がこっちを振り向くと目を閉じる。
その意味くらい心を読めなくてもわかる。
僕も目を閉じて水奈の唇に唇を重ねる。
すでに水奈の体から緊張はほぐれて身を僕にあずけていた。
その時部屋の外から音が聞こえた。
音に反応して咄嗟に離れる。
「この変態!性懲りもなくまだやってるのか!?」
「み、水奈の初体験くらい見届けてやらないと」
「馬鹿か!おまえはもう水奈の部屋に近づくのは禁止だ!」
そんな声を聞いて僕達は拍子抜けして笑っていた。
「水奈の家じゃ無理だな」
「空の家だって天音達がいるじゃないか?」
「僕の部屋父さんと母さんが使っていた部屋なんだ」
「それがどうかしたのか?」
不思議そうな顔をする水奈の耳元で囁いた。
「お爺さん達が防音工事してくれたらしいんだよね」
その意味を理解した水奈の顔が赤くなる。
もともと僕と翼が中学生になったら一緒の部屋にするつもりだったと母さんから聞いた。
「まあ、機会があれば空の家に泊まりにいくかな」
「そうだね」
「でもあまり待たせないでくれ」
「どうしたんだ?」
「約束だろ?入試に合格したら私をもらってくれるって」
あ、そうだった。
「それに天音達は既に経験済みみたいだし」
「5月の連休とかいいかもね」
「ああ、そうだな」
「2人とも食事出来たぞ」
「……行こうか?」
「……うん」
僕達はドアを開ける。
いくつものドアを開けていくのだろう。
いくつもの春を迎えるのだろう。
あと何回春を越えるのだろう?
何回でも構わない。
その先に必ず望む未来が待っているのだから。
僕達はまた一つ春を越えた。
チャイムが鳴ると一斉に皆問題を解いていく。
教室には様々な中学校の制服が混ざり合っている。
今日は私立校の一般入試の日。
一日で全教科終わらせてしまう。
視線を問題用紙からそらさない。
他を見てたらカンニングしていると思われそうだから。
緊張していた。
適度な緊張感。
それが昼休みを挟んで5教科分続いた。
帰り道は大体皆一緒だ。
皆口数が少なかった。
中学校近くになるとみんな解散した。
翼と二人で家に帰る。
今夜はご馳走だった。
前祝らしい。
「やるだけやったんだから今さら悩んでも仕方ないだろ」
父さんがそう言った。
「受けられただけでも良かったとしなさい。母さん達は受けなかったんだから」
母さんがそう言って笑う。
これはあくまでも前哨戦。
今から緊張してたら本番まで持ちませんよ。
母さんの言う通りだと思う。
今日一日だけは勉強の事は忘れよう。
風呂に入るとテレビを見て楽しんだ。
数日後、結果発表があった。
僕達は合格していた。
最初の難関を突破した気分だ。
しかし浮かれている場合じゃない。
問題は次の公立校の入試。
試験の日まで必死に勉強した。
卒業式があって、そして入試前の説明会があって。
そして試験当日になる。
忘れ物はない、受験票も持った。
鞄を持って部屋を出ようとする。
「待て空!」
天音に呼び止められた。
「おまえパジャマで入試受けるつもりか!?」
あ。
「緊張しすぎだぞ!リラックスしろ」
「そうだね」
僕は慌てて着替える。
「空はまだ自分の未来を信じてないんだな?」
天音が言う。
「どう転んだって空が望んだ未来に進めるから。自分を信じろ」
「ありがとう」
「じゃ、とりあえずさっさと着替えろ!遅刻で受験に間に合わなかったなんてトラブルまで神様に想定させるのは可哀そうだぞ」
「そうだね」
僕達は部屋を出ると支度を済ませて朝食を食べて家を出る。
「リラックス。いつも通りやれば大丈夫だから」
母さんが言う。
そして会場である防府高校に行って受験する。
やっぱり1日で終わる。
終わった後ようやく味わう達成感。
やる事はやった。
あとは天に任せるのみ。
そして合格発表の日。
僕達は高校に向かった。
(2)
公立高校入試合格発表当日。
発表は当該の高校で発表される。
父さん達が送ってくれた。
他の皆も先に来ていた。
掲示板にはまだ貼られていない。
受験票を握り締めて発表時刻を待っている。
係の人がやって来た。
掲示板に紙を貼る。
紙には番号が書かれてある。
必死に自分の番号を探す。
不思議と周りの声が聞こえなくなっていた。
入ってしまったようだ。
そしてある番号が輝いて見える。
それは僕の受験番号。
神様は僕に微笑んでくれたようだ。
「やったあ!」
僕は大声を出して叫んでいた。
周りの人が驚いていた。
「空、やったね!」
他の皆も受かっていたようだ。
中には肩を落とす者もいたがそんなの気にしなかった。
僕は夢に向かって一歩進むことを許された。
スマホでSHの皆に知らせる。
あ、水奈にも知らせないと。
「おめでとう!」
すぐに返事が返って来た。
その後少しためらうももう一人にメッセージを送る。
「おめでとう、空も頑張ってるんだね」
すぐに返事が返って来た。
他の高校の皆も合格したようだ。
昼食は外で済ませて帰る。
のんびりしている時間はない。
新しい制服の発注。教科書等の購入。入学説明会等やる事は一杯ある。
帰る前に中学校による。
「お前達なら大丈夫だと思ってたよ」
高槻先生が合格通知書を渡してくれた。
「高校でも頑張れよ」
それが高槻先生との本当のお別れ。
最後の中学への訪問。
夕食はご馳走だった。
「お疲れ様」
父さん達はそう言ってくれた。
「ここが終わりじゃありませんからね。勉強もそうだけどこれからの3年間の生活しっかりテストさせてもらいます」
母さんが言う。
前にも言ってたな。テストに通ったらプレゼントがあるって。
普通に考えて車かな?
その程度にしか考えてなかった。
「空は自動二輪は取らないのか?バイクくらい入学祝いに買ってやるぞ」
お爺さんが言ってた。
「暑いし寒いからいらない」
それにこけたら痛そうだし。
Tシャツは認められない。
あの乗り物の何が良いのかさっぱりわからない。
何より単車に乗っていたからと言って単車通学は認められない。
「じゃあ、お爺さんからのプレゼントは空が自動車免許を取るまでお預けだな」
お爺さんから車をくれるなら父さん達は何をくれるんだろう?
「それは大学入試を通るまでのお楽しみだよ」
父さんはそう言って笑う。
何を企んでいるのやら。
とりあえず高校入学祝いは小遣いアップだった。
小遣い以外にも「服もそろそろ買いなさい。水奈に恥をかかせてはいけません」とか言ってお金もらってるんだけど。
僕達はほっといたら全部飲食費に消えちゃうから。
夕食が済むと風呂に入ろうとした。
すると母さんが呼び止める。
片づけを終えて風呂に入ると部屋に戻って寛ぐ。
「来月から高校生か~」
新しい3年間が始まる。
その時スマホにメッセージが入った。
「今週末皆でSAPで遊ぼうぜ!」
光太からだ。
特に予定がないので行くことにした。
今のクラスで皆揃う事は同窓会くらいしかないんじゃないか?
そう思ったから。
最後の思い出を。
皆同じ気持ちだったらしい。
全員行くことになった。
(3)
3月下旬。
僕達はSAPに来ていた。
中学生には中学生なりの楽しみ方がある。
それも今日で最後だけど。
高校生になればまた楽しみが増えるのだろうか?
楽しみ方は人さまざまだと思う。
白球に青春を込めるもの。
情熱を燃料にグラウンドを駆け回るもの。
甲子園、インターハイ、コンクール。
色んな青春がある。
部活だけじゃない。
3年間必死に勉強して大学に挑む者もいる。
恋に費やす者もいる。
僕はきっと食べることに全てを賭けるんだろうな。
高校入試という門はくぐり抜けてきた。
これからまた新たな選択肢を選ぶことになる。
悔いのない青春を。
だから今は思いっきり遊ぶ。
ボーリングにカラオケにゲーセン。
丸一日遊んでいた。
そしてファミレスで皆で食事。
僕はひたすら食べてた。
友達と写真を撮ったりして忙しかった。
女子から記念に一枚一緒に写真を撮ってと頼まれていたけど断っていた。
水奈を不安にさせるのが嫌だったから。
「ごめん、今食べてるから」
「お前女子と食い物どっちが大事なんだよ!」
光太に怒られた。
「水奈と食べ物なら水奈を迷わず選ぶよ。でも彼氏持ちの女子と食べ物を選べと言うなら食べ物を選ぶ」
納得してもらえたようだ。
「じゃあ、彼氏いない女子だったらどっちを選ぶの?」
そんな意地悪な質問を問いかけてくる海璃。
「きっと変わらないよ。この世界に水奈以上の女子がいるなら考えるけど」
そう返した。
「亀梨君や、これからSHはどうするつもりなんだい?」
善明が聞いてた。
「当然天下狙うぜ!FGが先に手を伸ばしてるけどそんなの関係ないね」
光太が応える。
「入学早々乱闘なんてやめてくれよ」
学が言う。
高校になったら停学処分がある、出席日数が足りなかったら留年だってあるんだ。ほどほどにしてくれ。
「そんなのFG次第だろ?」
光太が言う。
FGがどこまで勢力を伸ばしてるのかは知らないけど目に着いたら的にかける。
そう宣言している以上簡単にはしかけてこないだろ。
「まあ、面倒事は嫌だけどやられっぱなしは性に合わないですからね」
善明君が言う。
「みんなもFGに負けないくらいSHに人集めてくれよな」
光太が言う。
そして夕食が終ると、皆別れを言う。
「夏休みに会おうね」
誰かがそんな事を言っている。
でもそれぞれの高校で新しい輪を作っていく。
それがどういう事か誰も口にしなかった。
卒業。
それはただ学校を巣立つだけじゃない。
皆新しい社会へと巣立つんだ。
「みんな頑張ってね。今日の事は忘れないよ」
美希が言う。
「SHは永久に不滅だ!」
光太が言う。
そしてそれぞれ家に帰って行った。
自転車をこいで家に帰る。
上り坂は自転車を押して帰る。
漕いで登れないわけじゃない。
単に息を切らせながらお喋りしながら帰るなんて無理だから。
「SHは永久に不滅か……」
1人呟いていた。
父さん達の渡辺班もそう言って今も続いている。
あり得る話だとは思う。
大学に行ったらまた会える。
何十年も経ったら同窓会だってやるだろう。
家に帰ると風呂に入って部屋でゆっくりと過ごす。
残り僅かな春休みを過ごす。
僕達は立ち止まってる暇はない。
もうすでに次の舞台が準備されて待っているのだから。
(4)
その日僕は水奈の家に呼ばれた。
どうしたんだろう?
水奈の家に着くと呼び鈴を鳴らす。
水奈が出迎えてくれた。
「とりあえずあがれよ」
水奈がそう言ってリビングに案内してくれた。
リビングには水奈の父さんと母さんがソファに座っていた。
僕と水奈も座ると、水奈の父さんが言った。
「これから話すことは冬夜にはすでに伝えてある」
父さんに?
「単刀直入に言う。水奈の家庭教師を頼まれてくれないか?」
家庭教師?
どういうことだ?
話を聞いてみた。
その疑問に答えたのは水奈の母さんだった。
「口実だよ」
水奈の母さんはそう言ってにやりと笑った。
「口実?」
「ああ、家庭教師なら水奈の部屋に2人っきりになっても問題ないだろ?」
僕と水奈は3年間付き合ってきた。
その中でも一緒にいられたのは2年間。
それは高校大学と進学しても空白の1年間が発生する。
中学校と小学校ならまだいい。そんなに離れてないから。
だけど、中学と高校、高校と大学となれば話は別だ。
場所もそうだけど時間だってなかなか合わなくなる。
この3年間も実は水奈も水奈の母さんも心配していたそうだ。
僕の後ろにはまだ翼がいるんじゃないか?
翼の事を考えているんじゃないか?
一時は不安だったけどすぐにその不安は解けた。
今の僕になら水奈を任せても大丈夫。
でもやっぱり同年代の子に奪われるんじゃないかという不安は水奈には常につきまとう。
その保険として僕を家庭教師として雇う事にした。
「お金は月賦で払う、時間も好きにしていい。わかるか?この意味」
いつでも自由に水奈の部屋に入っていい。
どれだけ水奈の部屋に2人でいてもいい。
週末なら泊りがけで来ても構わない。
「まあ、冬夜の子なら多分妙な真似はしないだろうしな」
水奈の母さんはそう言って笑った。
「空、神奈は俺と結婚してくれたけど本当は冬夜が好きだったんだ」
水奈の父さんが言った。
「親の期待を子供に押し付けるのはよくないと理解してる、その上で水奈の事を頼む」
水奈の父さんがそう言って頭を下げた。
ここまで言われて断れるはずがない。
「わかりました、頑張ります」
「ありがとう!」
水奈の父さんは笑顔だった。
その時気付いた。
水奈の手が僕の手を握っていた。
そんな水奈を見た水奈の母さんは言った。
「愛莉たちには私から電話しておく。今夜は家で晩飯食っていけ」
水奈の部屋で待ってろと言う。
「母さん、そう言う話なら私も料理手伝う」
「水奈は空の相手してろ。一人にしてたら何探るかわかんないぞ?」
「父さんと空を一緒にすんな!」
「み、水奈その一言は傷つくぞ……」
いいから、空だって慣れてないんだから一緒にいてやれと水奈の母さんが言うと水奈は自分の部屋に案内してくれた。
天音の部屋よりは女子っぽい感じだった。
壁に色々かざりつけしたり、本棚には漫画が一杯だっかけど。
ピンクのベッドに白い布団。
机も可愛らしいミント色の物だった。
「あ、あんまりじろじろ見るな!」
水奈も恥ずかしいらしい。
「とりあえず適当に座れよ」
水奈がそう言うと僕はテーブルの前に腰を下ろした。
「な、なんか飲み物いるよな。ちょっと待ってろ」
そう言って水奈がドアを開けると水奈の父さんが座り込んでいた。
「お前何やってんだ……?」
「い、いや。いきなり初日から羽目はずすことは無いと思うが……」
「あっちにいけ!このド変態!」
水奈の家ではこれが日常なんだろうか?
水奈は飲み物をとってきた。
「て、テレビでも見てるか?」
そう言って水奈がテレビのリモコンを取ろうとする手に僕の手を重ね、水奈の後ろから抱きついた。
「あ、あのバカの真似はしなくていい!」
「……あの時からずっといてくれたのは水奈なんだね」
「空?」
「ちゃんと言っておきたいから。これから始まる生活の為にも」
「……わかった。どうした?」
「ありがとう、そして大好きだよ」
「……私も大好きだ。私の事を好きになってくれてありがとう」
水奈がこっちを振り向くと目を閉じる。
その意味くらい心を読めなくてもわかる。
僕も目を閉じて水奈の唇に唇を重ねる。
すでに水奈の体から緊張はほぐれて身を僕にあずけていた。
その時部屋の外から音が聞こえた。
音に反応して咄嗟に離れる。
「この変態!性懲りもなくまだやってるのか!?」
「み、水奈の初体験くらい見届けてやらないと」
「馬鹿か!おまえはもう水奈の部屋に近づくのは禁止だ!」
そんな声を聞いて僕達は拍子抜けして笑っていた。
「水奈の家じゃ無理だな」
「空の家だって天音達がいるじゃないか?」
「僕の部屋父さんと母さんが使っていた部屋なんだ」
「それがどうかしたのか?」
不思議そうな顔をする水奈の耳元で囁いた。
「お爺さん達が防音工事してくれたらしいんだよね」
その意味を理解した水奈の顔が赤くなる。
もともと僕と翼が中学生になったら一緒の部屋にするつもりだったと母さんから聞いた。
「まあ、機会があれば空の家に泊まりにいくかな」
「そうだね」
「でもあまり待たせないでくれ」
「どうしたんだ?」
「約束だろ?入試に合格したら私をもらってくれるって」
あ、そうだった。
「それに天音達は既に経験済みみたいだし」
「5月の連休とかいいかもね」
「ああ、そうだな」
「2人とも食事出来たぞ」
「……行こうか?」
「……うん」
僕達はドアを開ける。
いくつものドアを開けていくのだろう。
いくつもの春を迎えるのだろう。
あと何回春を越えるのだろう?
何回でも構わない。
その先に必ず望む未来が待っているのだから。
僕達はまた一つ春を越えた。
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