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3rdSEASON
空をどこまでも
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(1)
5月の連休の始まり
今年は4連休。
そしてどこに行くのか悩んだらしい。
おじさんはシンガポールを選んだ。
梨々香と壱郎を招待する。
そして地元空港まで父さんが送ってくれた。
父さんと言っても血が繋がってるわけじゃない。
僕の父さんと母さんは互いに別々の恋人を作って、そして蒸発した。
僕にも兄さんがいた。
兄さんだけは母さんが連れて行った。
僕と茜は親戚が引き取り手を探していた。
だが、いなかった。
自分の家庭を守るので精一杯だという。
自分が産んだわけでも無い子供の面倒なんて誰も見るわけがない。
僕達は施設に入れられると思っていた。
それを今の僕のお爺さんが引き取ると言い出した。
僕達は福岡を離れて今の地元に引っ越してきた。
そしてまた押し付け合いが始まった。
どうせそうなるんだと思ってた。
僕も茜も将来に絶望していた。
だけど今の僕の父さん、片桐冬夜は決断した。
すぐに住民票を移してそして親権を本当の母さんから奪った。
あっさりと承諾したらしい。
厄介な荷物が無くなって助かるとでも思ったのだろう。
それから僕達は橘から片桐に姓を変えた。
その事で僕達は多大な恩恵を受けている。
地元では片桐冬夜の名前を出せば大体の望みが叶うという。
父さんの残した功績は父さんの仲間に語り継がれ、父さんを後ろ盾する者が多いという。
どうしてだろう?と思ったけどその理由が分かるのにそう時間はかからなかった。
誰かを助けるのに理由がいるかい?
その言葉を有言実行するのが片桐家だった。
今のお兄さんやお姉さんも同じだった。
もっとも天音は「喜一を殺すのに理由がいるかい?」とフォーリンググレイス、僕達の所属するグループセイクリッドハートの敵……というよりは玩具のリーダーをどうしても墓場に送り込みたいらしい。
墓場に送るなんて面倒な事をしなくても社会から抹殺することはいつでもできるという。
だから困ったことがあればいつでも言えと天音は言う。
今回も僕の面倒を見てくれる母さん片桐愛莉、旧姓遠坂愛莉の両親が旅に連れて行ってくれる。
去年の夏休みはサマースクールを体験してみなさいとカナダに飛ばされた。
年末はハワイで過ごすという今までとは全く違う経験を送っている。
そして今年の連休は中途半端だからカナダにしようと言っている。
ちなみに夏休みはアラスカに行くそうだ。
サーモン釣りとオーロラを観に行くそうだ。
遠坂のお爺さんは旅行が好きで連休になると家にいないらしい。
今の母さん片桐愛莉が中学の頃も両親だけで旅行に行っていたそうだ。
そして愛莉は今の父さん片桐冬夜の2人で生活していた。
母さんは小学生の時から父さんとの結婚を決めていたらしい。
年頃の娘と男だけの2人暮らし。
当たり前が通用しないのが片桐家と遠坂家らしい。
父さんの知り合いはとにかく顔が広い。
さっき話した遠坂のお爺さんも南署の署長をやっている。
政治面は市長や県知事が知り合いだし、経済面でも石原グループと酒井グループ、如月、白鳥グループという巨大企業が父さんを後押しする。
医療関係も「神の手」と名高い西松深雪先生がいる。
父さんは税理士をやっている。
そして父さんの知り合いが仕事を紹介してくれる。
ただの税理士事務所の職員だった父さんは起業し今は片桐税理士事務所の社長をやっている。
税理士を増やしてもそれに比例してクライアントが増えててんてこ舞いらしい。
それでも残業は極力しないようにしている。
家族サービスを怠らない。
母さんの事も溺愛している。
もうすぐ40になろうかというのに父さん達の熱愛ぶりはすさまじい。
そもそも父さんは仕事をする必要が無かった。
大学時代にバスケットボールをやっていた。
日本代表のエースだったそうだ。
そして日本バスケ史上初の五輪メダルを手に入れた。
日本バスケ史上初のメダルは金だった。
世界の頂点を2度見てそして引退した。
今でもカタギリモデルと呼ばれているバスケットシューズは人気が高い。
そして多額の広告料が支払われている。
父さんは高校生までサッカーをやっていたらしい。
もし続けていればW杯のトロフィーを持ち帰っていただろう。
実際日本代表に呼ばれたらしいから。
そんな父さんの才能を僕の弟にあたる冬吾は持って生まれた。
父さんはそんな冬吾の才能を自分の時のように妬みや僻み負の感情で押しつぶされないように育てていくつもりらしい。
「純也君お待たせ」
梨々香が親とやって来た。
梨々香ももう旅慣れをしたみたいだ。
「搭乗手続きまだ始まってないから大丈夫だよ」
父さんが言う。
「なあ、シンガポールって何が美味いんだ?」
天音が聞いてきた。
いわゆるアジアン料理がメインらしいけど、僕も食べたことがないから分からない。
片桐家の子供は食を基準に考える。
質も重要だが、まだ量の方に重きを置いている。
だから天音はフランス料理を酷評した。
「ちまちまとめんどくさいんだよ!」
空も同じだ。
「さすがにカタツムリは食べたくないな」
イタリア料理の方がまだましだという。
まだ無難なイメージあるもんな……。
ちなみにアジアン料理ってすっぱいとか辛いとかそんなイメージしか存在しない。
スパイスやパクチーが強いのだろう。
シンガポールも類に漏れずココナッツミルクや香辛料を基調とした味付けが多い。
肉料理からカニ料理、麺類からご飯まで何でもある。
ご飯と言えばタイ米がある。
タイ米はまずい!
そう昔言われた事がある。日本米に比べて安いけど。
関税がなかったら日本の農家は全滅するだろうと言われるほど安い。
しかしまずい。
ぱさぱさしている。チャーハンとかによさそうだけど。
しかしそれは日本米と調理方法が根本的に違うからだとなんかの漫画で熱弁してた。
調理方法さえしっかりしてたら美味いそう主張してた
それなら日本米の代わりにはならねーじゃん。
大半の人はそう思ったらしい。
関税のせいもあって、日本の安い米とそう変わらない値段を買うくらいならと日本米を買うようになった。
今ではカリフォルニアの農家は日本米を育てる研究をしている。
そして広大な土地で日本米が育てらえている。
しかし米に対する関税は異常だ。
キロ当たり400円近い関税がかかっている。
全ては日本の農家を守る為。
不作の時でも準備米が備蓄されている。
しかし外国の米を買うようになり日本の農家が全滅したら大変なことになる。
日本の米の自給率は97%野菜も75%と高い。
一方で畜産物は16%前後油脂類も一桁に留まっている。
安くて美味い米を。
みんな好き勝手言う。
しかし答えはいつも単純だ。
少なくても片桐家は単純に生きている。
どうせならうまいものが食いたい。ブランド米とまではいわなくても。
そんな理由で国産米を買っている。
搭乗手続きの時間が来たようだ。
僕達は手続きをして手荷物検査を受ける為に並んで父さん達に見送られながらゲートをくぐる。
こうして僕達の連休の旅は始まった。
シンガポールに着くとチェックインを済ませて部屋で一休みすると早速観光を始める。
ナイトサファリや屋台村をめぐる。
ホテルに戻るとシャワーをあびてそして寝る。
長時間の空の旅は疲れる。
明日はテーマパーク。
明後日は色んなタウンでのショッピング。
マーライオンなんかも観に行く。
充実した連休を送ることになった。
(2)
「部長、頑張ってる?」
穂乃果が声をかけて来た。
「まあね。般若がいない分気が楽でしょ?穂乃果も」
もちろん気楽な仕事なわけがない。
人の命が関わってる仕事だ。
いつでも適度な緊張を持って仕事している。
ただ般若というお局がいなくなった分対人関係がぎすぎすしなくなっただけ。
4月の初めに私と穂乃果は西松副院長に呼び出された。
そして辞令が下りた。
私は看護部長に。穂乃果は看護師長に。
看護部長は文字通り看護部という看護師の集団のトップだ。
経験と能力がある者に任される。
通常業務が少し減る分、若手看護師の指導や、看護師の採用に関わることになる。
看護師長は担当科の看護師をまとめる存在。
同じ様に若手看護師の指導やチームの取りまとめをする。
会社の課長にあたる役職が看護師長、部長にあたるのが看護部長だ。
どうしてそんな急な昇進を?
私達は副院長の西松啓介先生に聞いた。
鈴木八重通称「般若」と早乙女志穂、通称「菩薩」が辞めることになったらしい。
今まで菩薩が看護部長と看護師長を兼任していたが今回二人が辞めることをきっかけに組織関係を改編することにしたそうだ。
私と穂乃果は般若と菩薩を除けば一番勤続年数が長い。
そして私は色々な部署を駆け回り様々な仕事、オペナースも経験している。
「桐谷先輩の手腕は俺達も評価しているんです」
西松先生が言う。
「今までより大変な仕事を押し付けるけど引き受けてもらえないかな?」
深雪先生が言う。
断る理由がなかった。
そして私達は昇進した。
管理職手当、管理当直手当等もついて給料が上がるように見えた。
しかし、夜勤の回数の減少等により給料が減った。
それだけじゃない、看護師長以上のクラスになると「管理職」とみなされ労働基準法の時間外手当が適用されない。
結果新人の看護師の方が給料が高いという結果も出る。
しかし私達にも時間外労働はある。
研究、研修、会議。
通常業務外の仕事が増えた。
子供が大きくなって学費が増える。
少し不安もあった。
だけど昇進したのは私だけじゃないらしい。
「亜依、聞いてくれ。俺出世したんだぜ!」
話を聞くと中島君も春から昇進したらしい。
そりゃ10数年も仕事してればそれなりの役職に就くか。
私も昇格したことを報告した。
その晩は2人で祝った。
日勤が激務になったとはいえ、当直の回数は減る。
だって私が調整するんだから。
それに会議や研修で夜勤する余裕はない。
だけど子供と接する時間は今までより増える。
とはいえ恋はもう中学生。
もっと遊びたい盛りだと思えば率先して家事や妹の面倒を見てくれる。
だけど病院に5月の連休なんて関係ない。
中には診察は休むところはあるけど、入院患者は生きている。
その面倒を見なければならない。
そして一人一人のシフト希望を見ながら一月ごとのシフトを作っていく。
もちろんそんなの当てにならない。
突然辞める看護師もいるのだから。
そして看護師の補充を西松先生に打診する。
看護師の悩みを聞いて解消してやる。
「私子供が出来てもこんな激務が続くんですか?」
そんな話を聞いたりする。
「大丈夫。私もくぐってきた道のりだから。きっと上手くいく。育児休暇はあるし幼少期の子育ては言ってくれたらシフト調整してあげるから」
般若がいたときに言えなかった不満が出てくる。
それを解消してやるのが私の役目。
「部長、急患です。症状が酷くて私では無理です」
「わかった。担当医には知らせてあるの?」
「すでに処置を施してます」
「OK、すぐ行く」
出世すれば楽になるなんて言うけどそんなことは無い。
楽に見えてもそんなことは決してない。
みんなが円滑に仕事が出来るように調整していく大事な仕事がある。
何よりも「部下の責任は自分の責任」
そう言いきれるものが昇格の道を切り開く事ができる。
私達の世代もがむしゃらに働く世代から部下の育成に励む世代に移ろうとしていた。
(3)
皆でドライブに出かけた。
行先はフラワーパーク。
天音姉さん達は別行動。
一緒に来てるのは空兄さんと水奈姉さんそれに瞳子だった。
誠司は「あそこ退屈だからパス」と一言だった。
フラワーパークにつくと色とりどりの花が咲いている。
その前にまず腹ごしらえとジンギスカンを食べた。
その後にソフトクリームを食べながら花を見て回る。
瞳子は写真を撮って回ってる。
お店で小物を見てる。
一通り見て回ると空兄さんが「最後にもう一個だけ」とソフトクリームを頼んでた。
ダメな理由があるわけない。
父さんも一緒に母さんにお願いしてたから
「本当に困った人ですね」
母さんはそう言って笑ってた。
「冬吾も食べたいなら食べなさい」
父さんが言うので僕も食べた。
瞳子はいらないと遠慮してた。
お腹でも調子悪いのかな?
ソフトクリームを食べると家に帰る。
寄り道をして帰る。
とても景色が綺麗な道路だった。
瞳子は疲れたのかぐっすり眠っている。
水奈姉さんと空兄さんは2人で話をしてる。
敢えて覗かないようにしている。
僕も瞳子を想う気持ちは誰にも知られたくないから。
父さんと話をしていた。
「みんな心を覗けたらいいのにね。そうしたらきっと争いのない世界が出来るよ」
「冬吾、面白い話をしてあげよう。父さんが昔読んだライトノベルの話だ」
それに水奈姉さんたちも興味を示したようだ。
父さんの話は大体いつも興味深いものがある。
それは僕が望んだ誰もが心を分かりあえるようになった国の話。
だけど邪な心も全部覗かれてしまう。
悪い感情もすべて筒抜けになってしまう。
その結果誰一人として家の外からでなくなった。
夫婦ですら顔を合わせなくなった。
皆自分の感情を覗かれるのを恐れた結果だという。
「誰にも言えない秘密があるのが人間。冬吾にだって知られたくない気持ちがあるだろ?」
「じゃあ、父さんはどうしたら争いの無い世界が作れると思う?」
「無理だね。信じる神が違うだけで人は戦争をはじめる。そしてその裏にはそれを生業とする人間だっているんだ」
父さんは否定した。
だけどこうも言った。
こんな晴れ渡る日々に争いの道具が全て消え去る時が着たらいいねと。
傷つけあうのを止めない堕ちて行く世界だけど僕は瞳子に出会えた事だけで恐れる者はないんじゃないか?
「こんな話もあるんだ」
父さんの話は続く。
サッカーは色んな国の人が互いの言葉を理解できないままチームを組んでプレイをする。
時間があれば心を通わせることも出来るだろうけどその頃には違うチームへ移籍するかもしれない。
だけど一流の選手はたったワンプレイで自分の意思を示すのだという。
たった一度のパスで相手にメッセージを伝える。
そこにスペースが空いてる。
後から敵が来てるぞ。
利き足でシュートするだけでいい。
そう言う情報をボールに込めてパスをするのだという。
バスケットボールも同じだ。
ノールックパスやノーモーションパス。
それらはチームメイトと意思の疎通が成り立っている前提で出来る芸当。
パスのミスはどちらの責任でもない。お互いの責任だと父さんは言う。
「人はたった一つのボールで言葉が通じない人に自分の気持ちを伝える事が出来る。それって素晴らしい事じゃないか?」
心を覗くなんて芸当は必要なんかじゃないんだよ。
父さんはそう言った。
「冬吾は何処の国でプレイしたいの?」
母さんが聞いていた。
まだ考えたことがない。
サッカー留学でもさせてくれるのだろうか?
「冬吾ならどこの国でも成功するよ」
父さんはそう言った。
行ってみたい国を言えば良いのだろうか?」
「イタリア!ナポリタンを食べてみたい!」
すると父さん達は笑った。
「冬吾、イタリアにナポリタンはありませんよ」
母さんがそう言う。
「まあ、でもイタリアが一番食べ物が美味しそうだよね」
空兄さんが言う。
だけどどこの国でもいい。
きっと美味しいものがどこにでもあるはず。
だって、人は食べずには生きていけないのだから。
どうせ食べるなら美味しく食べたい。
誰もがそう思うはず。
僕はいつかきっとこの小さな島国を発つ。
それは何処なのか分からないけど。
この空がどこへでも続くように。
僕の可能性もずっと続くだろう。
(4)
「どうですか?うちの娘は?」
私はボイストレーナーの瀬良さんに聞いてみた。
うちの娘の夢は歌手になりたい。
自分で歌詞を書いてそして適当にメロディをつけて歌う。
娘の歌詞を読んで驚いた。
この子なら。
そう思ってUSEの事務所に連れて来ていた。
「どうもこうもありませんよ。どうして今まで連れてこなかったんですか!?」
瀬良さんも驚いている。
「そんなに凄いの?」
専務の石原恵美さんが聞くと瀬良さんは娘が書いた歌詞を専務に読ませた。
「この歳で書く歌詞じゃないわね」
専務も驚いていた。
専務は考えている。
履歴書を確認する。
「13歳か……問題があるとすれば学業ね。有栖はどう考えてるの?」
「私の時みたいに最初は地下アイドルからやれればいいかなって」
「冗談じゃない!」
東京支社長の中村さんが叫んだ。
「これだけ才能があるんだ。すぐにでもメジャーデビューさせるべきです!」
「でも学業を疎かにするわけには……」
「この業界で生きるなら学業なんて関係ない。才能さえあれば生きていける。有栖だって中退しても良かったんだ」
「しかし……」
「この子なら勝算はあるのね?」
専務が念を押す。
「絶対やっていけます。現に11歳でソロデビューしたシンガーソングライターだっているんですよ」
「……わかったわ。ちょっと望を呼ぶから」
そう言って専務は社長を呼び出した。それともう一組の親子を呼び出す。
子供の名前は増渕将門。娘と同じ中学校の同級生だ。
全員揃うと社長と専務が何か相談している。
専務が何かを言うと社長は「それでいいんじゃない?」と言った。
「じゃあ、決まりね」
専務が言う。
「有栖、まずあなたの娘秋吉麻里はデビューに向けてレッスンしなさい」
「ですが高校は?」
「東京の高校を手配するわ、学費、生活費、それにボディガードを一人つける。全部会社で負担する」
東京にはタレント専用のコースがある高校があるという。そこに入れればいいと専務は言った。
「それともう一つ、増渕さん?貴方の息子さんは作曲家希望でギターが得意だったわね」
「はい」
専務は将門君に娘の書いた歌詞を渡す。
「即興でいいからこの歌詞に曲をつけてみてくれない?」
将門君は歌詞と娘の顔を見て目を閉じる。
しばらくして目を開くと持ってきていたギターを弾きながら歌い始めた。
娘用に作ったのだろう。高音部分の声がかすれていた。
「麻里ちゃん?今の歌えるだけでいいから歌ってみて。将門君は伴奏をお願い」
専務が言うと二人は見事に息を合わせた。
素敵な歌声が事務所内を包みこむ。
「これで決まりね。2人でユニットを結成しなさい」
専務が言った。
将門君のギターの腕も確かだ、ただの裏方にしておくには惜しい。
その事を社長と相談していたそうだ。
「しかしそうなるとがあるわね」
専務は娘の顔を見る。
「麻里さんは彼氏はいないの?いたとして離れても大丈夫?」
娘は答えた。
驚いた。
娘の彼女は将門君らしい。。
同じ志を持った者同士意気投合したという。
「それなら何の問題も無いわね。大丈夫私達はタレントのそういう面もケアする役割を担ってる。ちゃんと一緒にいられる時間を用意してあげる」
専務は言う。
「決まりね。早速さっきの歌詞で作曲始めてちょうだい」
「ユニットって言いましたけどユニット名決めてるんですか?」
中村さんが聞いた。
「フレーズ」
フランス語で苺の意味。甘酸っぱい青春時代を駆け抜ける2人にぴったりの名前だという。
「麻里さんは今の歌詞の題名考えてあるの?」
専務が聞くと娘は答えた。
「新しい日々」
「良いタイトルね。じゃ、それを曲名にするわ、曲が出来たらすぐレコーディングに入るけどいい?」
「はい」
「それじゃ、そういう事で。これから忙しくなるわよ」
IME・石原ミュージックエンタテインメントから出す初の音楽ユニット。
娘にとってタイトル通り新しい日々がはじまるだろう。
新しい日々はいつも想い素晴らしい明日へとつないでくれる。
5月の連休の始まり
今年は4連休。
そしてどこに行くのか悩んだらしい。
おじさんはシンガポールを選んだ。
梨々香と壱郎を招待する。
そして地元空港まで父さんが送ってくれた。
父さんと言っても血が繋がってるわけじゃない。
僕の父さんと母さんは互いに別々の恋人を作って、そして蒸発した。
僕にも兄さんがいた。
兄さんだけは母さんが連れて行った。
僕と茜は親戚が引き取り手を探していた。
だが、いなかった。
自分の家庭を守るので精一杯だという。
自分が産んだわけでも無い子供の面倒なんて誰も見るわけがない。
僕達は施設に入れられると思っていた。
それを今の僕のお爺さんが引き取ると言い出した。
僕達は福岡を離れて今の地元に引っ越してきた。
そしてまた押し付け合いが始まった。
どうせそうなるんだと思ってた。
僕も茜も将来に絶望していた。
だけど今の僕の父さん、片桐冬夜は決断した。
すぐに住民票を移してそして親権を本当の母さんから奪った。
あっさりと承諾したらしい。
厄介な荷物が無くなって助かるとでも思ったのだろう。
それから僕達は橘から片桐に姓を変えた。
その事で僕達は多大な恩恵を受けている。
地元では片桐冬夜の名前を出せば大体の望みが叶うという。
父さんの残した功績は父さんの仲間に語り継がれ、父さんを後ろ盾する者が多いという。
どうしてだろう?と思ったけどその理由が分かるのにそう時間はかからなかった。
誰かを助けるのに理由がいるかい?
その言葉を有言実行するのが片桐家だった。
今のお兄さんやお姉さんも同じだった。
もっとも天音は「喜一を殺すのに理由がいるかい?」とフォーリンググレイス、僕達の所属するグループセイクリッドハートの敵……というよりは玩具のリーダーをどうしても墓場に送り込みたいらしい。
墓場に送るなんて面倒な事をしなくても社会から抹殺することはいつでもできるという。
だから困ったことがあればいつでも言えと天音は言う。
今回も僕の面倒を見てくれる母さん片桐愛莉、旧姓遠坂愛莉の両親が旅に連れて行ってくれる。
去年の夏休みはサマースクールを体験してみなさいとカナダに飛ばされた。
年末はハワイで過ごすという今までとは全く違う経験を送っている。
そして今年の連休は中途半端だからカナダにしようと言っている。
ちなみに夏休みはアラスカに行くそうだ。
サーモン釣りとオーロラを観に行くそうだ。
遠坂のお爺さんは旅行が好きで連休になると家にいないらしい。
今の母さん片桐愛莉が中学の頃も両親だけで旅行に行っていたそうだ。
そして愛莉は今の父さん片桐冬夜の2人で生活していた。
母さんは小学生の時から父さんとの結婚を決めていたらしい。
年頃の娘と男だけの2人暮らし。
当たり前が通用しないのが片桐家と遠坂家らしい。
父さんの知り合いはとにかく顔が広い。
さっき話した遠坂のお爺さんも南署の署長をやっている。
政治面は市長や県知事が知り合いだし、経済面でも石原グループと酒井グループ、如月、白鳥グループという巨大企業が父さんを後押しする。
医療関係も「神の手」と名高い西松深雪先生がいる。
父さんは税理士をやっている。
そして父さんの知り合いが仕事を紹介してくれる。
ただの税理士事務所の職員だった父さんは起業し今は片桐税理士事務所の社長をやっている。
税理士を増やしてもそれに比例してクライアントが増えててんてこ舞いらしい。
それでも残業は極力しないようにしている。
家族サービスを怠らない。
母さんの事も溺愛している。
もうすぐ40になろうかというのに父さん達の熱愛ぶりはすさまじい。
そもそも父さんは仕事をする必要が無かった。
大学時代にバスケットボールをやっていた。
日本代表のエースだったそうだ。
そして日本バスケ史上初の五輪メダルを手に入れた。
日本バスケ史上初のメダルは金だった。
世界の頂点を2度見てそして引退した。
今でもカタギリモデルと呼ばれているバスケットシューズは人気が高い。
そして多額の広告料が支払われている。
父さんは高校生までサッカーをやっていたらしい。
もし続けていればW杯のトロフィーを持ち帰っていただろう。
実際日本代表に呼ばれたらしいから。
そんな父さんの才能を僕の弟にあたる冬吾は持って生まれた。
父さんはそんな冬吾の才能を自分の時のように妬みや僻み負の感情で押しつぶされないように育てていくつもりらしい。
「純也君お待たせ」
梨々香が親とやって来た。
梨々香ももう旅慣れをしたみたいだ。
「搭乗手続きまだ始まってないから大丈夫だよ」
父さんが言う。
「なあ、シンガポールって何が美味いんだ?」
天音が聞いてきた。
いわゆるアジアン料理がメインらしいけど、僕も食べたことがないから分からない。
片桐家の子供は食を基準に考える。
質も重要だが、まだ量の方に重きを置いている。
だから天音はフランス料理を酷評した。
「ちまちまとめんどくさいんだよ!」
空も同じだ。
「さすがにカタツムリは食べたくないな」
イタリア料理の方がまだましだという。
まだ無難なイメージあるもんな……。
ちなみにアジアン料理ってすっぱいとか辛いとかそんなイメージしか存在しない。
スパイスやパクチーが強いのだろう。
シンガポールも類に漏れずココナッツミルクや香辛料を基調とした味付けが多い。
肉料理からカニ料理、麺類からご飯まで何でもある。
ご飯と言えばタイ米がある。
タイ米はまずい!
そう昔言われた事がある。日本米に比べて安いけど。
関税がなかったら日本の農家は全滅するだろうと言われるほど安い。
しかしまずい。
ぱさぱさしている。チャーハンとかによさそうだけど。
しかしそれは日本米と調理方法が根本的に違うからだとなんかの漫画で熱弁してた。
調理方法さえしっかりしてたら美味いそう主張してた
それなら日本米の代わりにはならねーじゃん。
大半の人はそう思ったらしい。
関税のせいもあって、日本の安い米とそう変わらない値段を買うくらいならと日本米を買うようになった。
今ではカリフォルニアの農家は日本米を育てる研究をしている。
そして広大な土地で日本米が育てらえている。
しかし米に対する関税は異常だ。
キロ当たり400円近い関税がかかっている。
全ては日本の農家を守る為。
不作の時でも準備米が備蓄されている。
しかし外国の米を買うようになり日本の農家が全滅したら大変なことになる。
日本の米の自給率は97%野菜も75%と高い。
一方で畜産物は16%前後油脂類も一桁に留まっている。
安くて美味い米を。
みんな好き勝手言う。
しかし答えはいつも単純だ。
少なくても片桐家は単純に生きている。
どうせならうまいものが食いたい。ブランド米とまではいわなくても。
そんな理由で国産米を買っている。
搭乗手続きの時間が来たようだ。
僕達は手続きをして手荷物検査を受ける為に並んで父さん達に見送られながらゲートをくぐる。
こうして僕達の連休の旅は始まった。
シンガポールに着くとチェックインを済ませて部屋で一休みすると早速観光を始める。
ナイトサファリや屋台村をめぐる。
ホテルに戻るとシャワーをあびてそして寝る。
長時間の空の旅は疲れる。
明日はテーマパーク。
明後日は色んなタウンでのショッピング。
マーライオンなんかも観に行く。
充実した連休を送ることになった。
(2)
「部長、頑張ってる?」
穂乃果が声をかけて来た。
「まあね。般若がいない分気が楽でしょ?穂乃果も」
もちろん気楽な仕事なわけがない。
人の命が関わってる仕事だ。
いつでも適度な緊張を持って仕事している。
ただ般若というお局がいなくなった分対人関係がぎすぎすしなくなっただけ。
4月の初めに私と穂乃果は西松副院長に呼び出された。
そして辞令が下りた。
私は看護部長に。穂乃果は看護師長に。
看護部長は文字通り看護部という看護師の集団のトップだ。
経験と能力がある者に任される。
通常業務が少し減る分、若手看護師の指導や、看護師の採用に関わることになる。
看護師長は担当科の看護師をまとめる存在。
同じ様に若手看護師の指導やチームの取りまとめをする。
会社の課長にあたる役職が看護師長、部長にあたるのが看護部長だ。
どうしてそんな急な昇進を?
私達は副院長の西松啓介先生に聞いた。
鈴木八重通称「般若」と早乙女志穂、通称「菩薩」が辞めることになったらしい。
今まで菩薩が看護部長と看護師長を兼任していたが今回二人が辞めることをきっかけに組織関係を改編することにしたそうだ。
私と穂乃果は般若と菩薩を除けば一番勤続年数が長い。
そして私は色々な部署を駆け回り様々な仕事、オペナースも経験している。
「桐谷先輩の手腕は俺達も評価しているんです」
西松先生が言う。
「今までより大変な仕事を押し付けるけど引き受けてもらえないかな?」
深雪先生が言う。
断る理由がなかった。
そして私達は昇進した。
管理職手当、管理当直手当等もついて給料が上がるように見えた。
しかし、夜勤の回数の減少等により給料が減った。
それだけじゃない、看護師長以上のクラスになると「管理職」とみなされ労働基準法の時間外手当が適用されない。
結果新人の看護師の方が給料が高いという結果も出る。
しかし私達にも時間外労働はある。
研究、研修、会議。
通常業務外の仕事が増えた。
子供が大きくなって学費が増える。
少し不安もあった。
だけど昇進したのは私だけじゃないらしい。
「亜依、聞いてくれ。俺出世したんだぜ!」
話を聞くと中島君も春から昇進したらしい。
そりゃ10数年も仕事してればそれなりの役職に就くか。
私も昇格したことを報告した。
その晩は2人で祝った。
日勤が激務になったとはいえ、当直の回数は減る。
だって私が調整するんだから。
それに会議や研修で夜勤する余裕はない。
だけど子供と接する時間は今までより増える。
とはいえ恋はもう中学生。
もっと遊びたい盛りだと思えば率先して家事や妹の面倒を見てくれる。
だけど病院に5月の連休なんて関係ない。
中には診察は休むところはあるけど、入院患者は生きている。
その面倒を見なければならない。
そして一人一人のシフト希望を見ながら一月ごとのシフトを作っていく。
もちろんそんなの当てにならない。
突然辞める看護師もいるのだから。
そして看護師の補充を西松先生に打診する。
看護師の悩みを聞いて解消してやる。
「私子供が出来てもこんな激務が続くんですか?」
そんな話を聞いたりする。
「大丈夫。私もくぐってきた道のりだから。きっと上手くいく。育児休暇はあるし幼少期の子育ては言ってくれたらシフト調整してあげるから」
般若がいたときに言えなかった不満が出てくる。
それを解消してやるのが私の役目。
「部長、急患です。症状が酷くて私では無理です」
「わかった。担当医には知らせてあるの?」
「すでに処置を施してます」
「OK、すぐ行く」
出世すれば楽になるなんて言うけどそんなことは無い。
楽に見えてもそんなことは決してない。
みんなが円滑に仕事が出来るように調整していく大事な仕事がある。
何よりも「部下の責任は自分の責任」
そう言いきれるものが昇格の道を切り開く事ができる。
私達の世代もがむしゃらに働く世代から部下の育成に励む世代に移ろうとしていた。
(3)
皆でドライブに出かけた。
行先はフラワーパーク。
天音姉さん達は別行動。
一緒に来てるのは空兄さんと水奈姉さんそれに瞳子だった。
誠司は「あそこ退屈だからパス」と一言だった。
フラワーパークにつくと色とりどりの花が咲いている。
その前にまず腹ごしらえとジンギスカンを食べた。
その後にソフトクリームを食べながら花を見て回る。
瞳子は写真を撮って回ってる。
お店で小物を見てる。
一通り見て回ると空兄さんが「最後にもう一個だけ」とソフトクリームを頼んでた。
ダメな理由があるわけない。
父さんも一緒に母さんにお願いしてたから
「本当に困った人ですね」
母さんはそう言って笑ってた。
「冬吾も食べたいなら食べなさい」
父さんが言うので僕も食べた。
瞳子はいらないと遠慮してた。
お腹でも調子悪いのかな?
ソフトクリームを食べると家に帰る。
寄り道をして帰る。
とても景色が綺麗な道路だった。
瞳子は疲れたのかぐっすり眠っている。
水奈姉さんと空兄さんは2人で話をしてる。
敢えて覗かないようにしている。
僕も瞳子を想う気持ちは誰にも知られたくないから。
父さんと話をしていた。
「みんな心を覗けたらいいのにね。そうしたらきっと争いのない世界が出来るよ」
「冬吾、面白い話をしてあげよう。父さんが昔読んだライトノベルの話だ」
それに水奈姉さんたちも興味を示したようだ。
父さんの話は大体いつも興味深いものがある。
それは僕が望んだ誰もが心を分かりあえるようになった国の話。
だけど邪な心も全部覗かれてしまう。
悪い感情もすべて筒抜けになってしまう。
その結果誰一人として家の外からでなくなった。
夫婦ですら顔を合わせなくなった。
皆自分の感情を覗かれるのを恐れた結果だという。
「誰にも言えない秘密があるのが人間。冬吾にだって知られたくない気持ちがあるだろ?」
「じゃあ、父さんはどうしたら争いの無い世界が作れると思う?」
「無理だね。信じる神が違うだけで人は戦争をはじめる。そしてその裏にはそれを生業とする人間だっているんだ」
父さんは否定した。
だけどこうも言った。
こんな晴れ渡る日々に争いの道具が全て消え去る時が着たらいいねと。
傷つけあうのを止めない堕ちて行く世界だけど僕は瞳子に出会えた事だけで恐れる者はないんじゃないか?
「こんな話もあるんだ」
父さんの話は続く。
サッカーは色んな国の人が互いの言葉を理解できないままチームを組んでプレイをする。
時間があれば心を通わせることも出来るだろうけどその頃には違うチームへ移籍するかもしれない。
だけど一流の選手はたったワンプレイで自分の意思を示すのだという。
たった一度のパスで相手にメッセージを伝える。
そこにスペースが空いてる。
後から敵が来てるぞ。
利き足でシュートするだけでいい。
そう言う情報をボールに込めてパスをするのだという。
バスケットボールも同じだ。
ノールックパスやノーモーションパス。
それらはチームメイトと意思の疎通が成り立っている前提で出来る芸当。
パスのミスはどちらの責任でもない。お互いの責任だと父さんは言う。
「人はたった一つのボールで言葉が通じない人に自分の気持ちを伝える事が出来る。それって素晴らしい事じゃないか?」
心を覗くなんて芸当は必要なんかじゃないんだよ。
父さんはそう言った。
「冬吾は何処の国でプレイしたいの?」
母さんが聞いていた。
まだ考えたことがない。
サッカー留学でもさせてくれるのだろうか?
「冬吾ならどこの国でも成功するよ」
父さんはそう言った。
行ってみたい国を言えば良いのだろうか?」
「イタリア!ナポリタンを食べてみたい!」
すると父さん達は笑った。
「冬吾、イタリアにナポリタンはありませんよ」
母さんがそう言う。
「まあ、でもイタリアが一番食べ物が美味しそうだよね」
空兄さんが言う。
だけどどこの国でもいい。
きっと美味しいものがどこにでもあるはず。
だって、人は食べずには生きていけないのだから。
どうせ食べるなら美味しく食べたい。
誰もがそう思うはず。
僕はいつかきっとこの小さな島国を発つ。
それは何処なのか分からないけど。
この空がどこへでも続くように。
僕の可能性もずっと続くだろう。
(4)
「どうですか?うちの娘は?」
私はボイストレーナーの瀬良さんに聞いてみた。
うちの娘の夢は歌手になりたい。
自分で歌詞を書いてそして適当にメロディをつけて歌う。
娘の歌詞を読んで驚いた。
この子なら。
そう思ってUSEの事務所に連れて来ていた。
「どうもこうもありませんよ。どうして今まで連れてこなかったんですか!?」
瀬良さんも驚いている。
「そんなに凄いの?」
専務の石原恵美さんが聞くと瀬良さんは娘が書いた歌詞を専務に読ませた。
「この歳で書く歌詞じゃないわね」
専務も驚いていた。
専務は考えている。
履歴書を確認する。
「13歳か……問題があるとすれば学業ね。有栖はどう考えてるの?」
「私の時みたいに最初は地下アイドルからやれればいいかなって」
「冗談じゃない!」
東京支社長の中村さんが叫んだ。
「これだけ才能があるんだ。すぐにでもメジャーデビューさせるべきです!」
「でも学業を疎かにするわけには……」
「この業界で生きるなら学業なんて関係ない。才能さえあれば生きていける。有栖だって中退しても良かったんだ」
「しかし……」
「この子なら勝算はあるのね?」
専務が念を押す。
「絶対やっていけます。現に11歳でソロデビューしたシンガーソングライターだっているんですよ」
「……わかったわ。ちょっと望を呼ぶから」
そう言って専務は社長を呼び出した。それともう一組の親子を呼び出す。
子供の名前は増渕将門。娘と同じ中学校の同級生だ。
全員揃うと社長と専務が何か相談している。
専務が何かを言うと社長は「それでいいんじゃない?」と言った。
「じゃあ、決まりね」
専務が言う。
「有栖、まずあなたの娘秋吉麻里はデビューに向けてレッスンしなさい」
「ですが高校は?」
「東京の高校を手配するわ、学費、生活費、それにボディガードを一人つける。全部会社で負担する」
東京にはタレント専用のコースがある高校があるという。そこに入れればいいと専務は言った。
「それともう一つ、増渕さん?貴方の息子さんは作曲家希望でギターが得意だったわね」
「はい」
専務は将門君に娘の書いた歌詞を渡す。
「即興でいいからこの歌詞に曲をつけてみてくれない?」
将門君は歌詞と娘の顔を見て目を閉じる。
しばらくして目を開くと持ってきていたギターを弾きながら歌い始めた。
娘用に作ったのだろう。高音部分の声がかすれていた。
「麻里ちゃん?今の歌えるだけでいいから歌ってみて。将門君は伴奏をお願い」
専務が言うと二人は見事に息を合わせた。
素敵な歌声が事務所内を包みこむ。
「これで決まりね。2人でユニットを結成しなさい」
専務が言った。
将門君のギターの腕も確かだ、ただの裏方にしておくには惜しい。
その事を社長と相談していたそうだ。
「しかしそうなるとがあるわね」
専務は娘の顔を見る。
「麻里さんは彼氏はいないの?いたとして離れても大丈夫?」
娘は答えた。
驚いた。
娘の彼女は将門君らしい。。
同じ志を持った者同士意気投合したという。
「それなら何の問題も無いわね。大丈夫私達はタレントのそういう面もケアする役割を担ってる。ちゃんと一緒にいられる時間を用意してあげる」
専務は言う。
「決まりね。早速さっきの歌詞で作曲始めてちょうだい」
「ユニットって言いましたけどユニット名決めてるんですか?」
中村さんが聞いた。
「フレーズ」
フランス語で苺の意味。甘酸っぱい青春時代を駆け抜ける2人にぴったりの名前だという。
「麻里さんは今の歌詞の題名考えてあるの?」
専務が聞くと娘は答えた。
「新しい日々」
「良いタイトルね。じゃ、それを曲名にするわ、曲が出来たらすぐレコーディングに入るけどいい?」
「はい」
「それじゃ、そういう事で。これから忙しくなるわよ」
IME・石原ミュージックエンタテインメントから出す初の音楽ユニット。
娘にとってタイトル通り新しい日々がはじまるだろう。
新しい日々はいつも想い素晴らしい明日へとつないでくれる。
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