30歳魔法使いが新卒の女の子に恋される話

和希

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義理とまごころ

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「冬莉、準備出来た?」
「うん。大丈夫……ってナリ、作業着間違ってる!」

冬莉に言われて自分の着ている作業着を見て、自分の間違いに気がついた。
慌てて着替える。
男の着替えなんて早いもんだ。
上着とズボンを脱いで着替えなおす。

「ほらナリ、またネクタイおかしいよ!」

そう言って冬莉にネクタイを直してもらう。

「ごめん、今までネクタイとかしてこなかったから」
「また昨夜ネクタイ結んだまま寝たんでしょ。ダメだよ、痛むのが早まるから」
「次は気を付けるよ」
「じゃあ、早く行こ?」

そう言って家を出るとそれぞれの車に乗り込んで職場に向かう。
俺はまた客先に出向になった。
でも今度は冬莉も文句はあまり言わなかった。
何故なら冬莉も一緒に出向だから。
出向先はナンコツの地元支社。
扱うCADが会社と違う為少々戸惑っている。
設計するのは今までと同じ半導体製造装置や液晶の製造装置。
違う点は両方ともある工程の全部分の流れを扱う点。
当然、一人につき1工程の検討を任せられる。
大体は前バージョンの改良がほとんどだから、元があるのでそれを参考に部品を変えていく。
冬莉は俺より知識が豊富だけど、俺の下について部品図などを書いていく。
俺の上には石井さんがいる。
どうして俺と冬莉が同じ出向先なのに別々の車で行くのかというと、帰る時間が違うから。
冬莉は部品図等、お願いしたことをすぐにこなして定時で上がる。
それに対して俺は冬莉の描いた図面をチェックして修正点とかを調べておかないといけない。
部品図と検討図のどっちが間違っているのかもチェックしないといけない。
検討図はそのまま流用して組立図にするので間違いがあってはいけない。
22時からが本当の残業。
それを地でいく会社だった。
ただ俺達の場合は違う。

「宮成さん。まだ予定に余裕があるからもう上がりましょう」

21時前頃になると社内メッセージで知らせて来る。

「たまには一緒に夕食どうですか?」

なんて誘われることもあるけど……。

「ごめん、冬莉が多分用意してるから」
「ああ、そうっすね。わかりました」

というやりとりがほぼ毎日あるけど行ったことは一度もない。
ナンコツの社員と交友を深める事も大事だけどこればかりは仕方ない。
それにしても石井さんは奥さんいるのに大丈夫なんだろうか。
石井さんの家から会社までは高速を使うと早い。
それで奥さんに高速代を出してと交渉したらしい。
そのほうが家を出る時間に余裕が生まれるから。
しかし「タバコ辞めるなら考えてもいいよ」と言われて何度か禁煙を試みたらしい。
だけど雀荘に行くたびに禁煙は終る。
行った事はないけど雀荘はそういうところらしい。
ギャンブルするところは大体そうなんだそうだ。
パチ屋なんかは今は喫煙室を作られて分煙が徹底されてるんだとか。
パチ屋と言えば給料日に行って半分以上負けてどうやって帰ろうか悩んだ挙句うちに来た。
もちろん冬莉が怒って家に帰るように言ったけど。
散々怒鳴られたそうだ。
で、俺は家に帰って冬莉の作った夕飯を食べていた。

「ねえ、ナリ」
「どうした?」
「ナリは他の人と夕飯食べたりしないでいいの?」

冬莉の耳にも入っていたらしい。

「冬莉の夕飯無駄にしたくないから」
「そんなの先に連絡くれたら作らないよ」

それでも一人で夕飯を食べてる冬莉を想像するとそんな真似できない。
多分ずっと一人だった自分を重ねているのだろう。
そう説明すると冬莉は笑った。

「それは嬉しいけど、ナリはタバコも吸わないし孤立したら大変だよ」

ナンコツの殆どの人間が喫煙家だった。
コミュニケーションも喫煙室で行われる。
冬莉は女性だから休憩室でナンコツの女性社員と話していたらいいけど、俺は休憩時間何をしたらいいか分からず、トイレの個室でスマホを弄っていた。

「じゃあ、ナリに時間をあげる」

冬莉が突然言い出した。

「時間?」
「うん、今度の金曜なんだけどさ、私ナンコツの人と夕食食べてくるからナリもそうしなよ」
「なんかあるの?」
「ナリは鈍いなあ。もう2月だよ」

2月……節分……恵方巻か?

「恵方巻を皆で食べるの?」
「それ本気で言ってるの?」

違うのか?

「ナンコツでは男性社員に義理チョコ配るらしいの。それを選ぶついでに夕食もすませてこようと思って」

なるほどね。

「大変なんじゃないの?」

地元支社の社員は40人程度。
うち女性はナリをいれて10人いるかどうか。
かなりの負担になるんじゃないのか?

「そんなに高い物買うわけじゃないらしいし……それに……」

それに?

「来月の見返りがすごいらしいから」

3倍どころじゃないらしい。
男女とも一人当たり1000円程度出したとしてもその金額の違いが分かる。
しかしそれよりも気になることがあった。
例年だと義理チョコを会社でもらう程度だったのだが。
あ、あと弟の嫁さんからもらっていたな。
だけど今年は冬莉がいる。
まさか冬莉から貰えないって事は無いと思うけど……。

「どうしたの?」
「いや、なんでもない。分かった。何か食べて来るよ」
「変な店行ったら怒るからね?」
「車あるんだしそういうところには行けないだろ」
「そこは『私がいるんだし』って言って欲しかった」

変な事で拗ねる冬莉。
そんな冬莉も頭を撫でてやると上機嫌になる。
会社での冬莉からは想像もつかない姿だ。

そして冬莉が指定していた日。
皆は珍しく家で食べると言った。
仕方ないので近くのラーメン屋で食べる。
もうすぐこの会社で1年か。
色々あったなあと思い返す。
一番大きな出来事はやはり冬莉か。
冬莉のお返しも考えてやらないとな。
まあ、冬莉から貰えたらの話だけど。
貰えなくても渡した方がいいのだろうか?
ラーメンを食べ、店を出ると家に帰る。
冬莉は先に帰っていたようだ。

「あれ?ナリ早いね。どこ行ってたの?」
「皆家で食べるっていうから、ラーメン食べてた」
「そうなんだ。……ねえ、お願いしてもいいかな?」
「どうしたの?」

すると、冬莉は二つの巾着を見せた。

「ナリの友達もどうせ義理ももらえないんでしょ?だからプレゼントしようかなって」

これから高橋の家に連れて行ってほしいと言う。

「わかった」
「ありがとう」

すぐに高橋に電話してこれから家に行くと言って、冬莉を乗せて高橋の家に向かう。
高橋達の方が先なのか?
ちょっとムッとしたのかもしれない。
その様子をすぐに冬莉は悟ったみたいだ。
クスクス笑いだす。

「ダメだよナリ。私を少しは信用してよ。ナリの分もちゃんと考えてあるから」
「べ、別に疑ってなんか……」
「眉間にしわが寄ってたよ?」

まあ、そう言ってるから俺の分もあるんだろう。
そして当日会社に行くと義理チョコを貰う。
家に帰ったら冬莉から貰えるんだろうか?
その日も残業で俺だけ遅くなる。
家に帰ると冬莉が迎えてくれた。

「はい、これ」

冬莉がくれたのは手作りの生チョコと、手編みのマフラー。
……って手編み!?

「いつ、これ作ったの?」
「やっぱり気づいてなかったんだ。ナリが寝た後こっそり少しずつ作ってたんだよ。どう?」
「あ、ありがとう」
「いいの、その代わりお願いがあります」

お願い?

「どうしたの?」
「お返しの品は私が決めてもいい?」
「へ?」

まあ、手作りの3倍返しなんて想像つかなかったから提示してくれるならそれに越したことはない。

「で、何が欲しいの?」

宝石とか要求してくるのだろうか?

「当日私が府内町のイタリアンの店を予約しておくからそこで夕食して欲しい」

そんな事でいいのか?

「それだけ?」
「あとは当日になってのお楽しみ」

そう言って冬莉はにやりと笑う。
何か企んでいる様だ。
何をする気だろう?
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