30歳魔法使いが新卒の女の子に恋される話

和希

文字の大きさ
29 / 33

記念日

しおりを挟む
(1)

「宮成さん。次は何をすればいいですか?」

 部品図の作図のスピードに俺の検討がついていかない。

「ちょ、ちょっと待ってて」

 そう言って大慌てで次の部品図を準備する。
 部品図を準備するというのは部品を書くだけじゃだめだ。
 その部品にどんなボルトを使ってどんなピンを使うか。
 そんなのを全部まとめて情報として詰め込む必要がある。
 そしてその出来上がった部品図がきちんと反映されているかをチェックしておかないといけない。
 最近のCADでは部分的に伸ばしたりできる機能がある。
 そして尺度的に入らない寸法の為に寸法の上書きという機能もある。
 便利だけど危険な機能。
 図面的には正しい寸法でも表記されている寸法が間違っているということも多々ある。
 また、小数点以下の寸法は公差の理由で必要ないのに表記されている場合がある。
 これは書いた方もチェックしなかった方にも落ち度がある。
 当然相手を責めることが出来る立場じゃないので黙々と修正をする。
 公差があるなら別にいいじゃんと思うかもしれないけど、工場の人は気づかずに精度を上げる場合がある。
 その場合当然コストがかかる。
 たかが図面1枚でいくらでも損失を出すのが設計という仕事。
 そして俺は1工程を全部任されるようになり何人もの新人の仕事を準備しながら自分の仕事を勧めなければならない。
 流量やポンプの選定は見るに見かねた冬莉が手伝ってくれた。
 その冬莉にも申し訳ないことをしている。

「今日も遅くなるの?」
「うん、ちょっと遅くなるかも」
「手伝おうか?」
「あ、いや。寸法チェックと明日の仕事の準備だから」
「わかった。あまり根を詰めすぎないでね」

 こんな感じで毎日残業をして冬莉の料理を無駄に冷ましている。
 最初は冬莉も俺の帰りを待っていてくれたのだが、それは気の毒なので説得して先に寝ていてもらうようにしていた。
 休日にやっと休めると思ったら、スマホが鳴る。

「先輩、資料の図面どこにあるんですか!?」
「それなら引き出しの中にいれてあるよ」

 最近は情報漏洩等の管理も厳しく図面を机の上に放ったままということが出来なくなっていた。
 もちろん鍵をかけてある。

「鍵はどこにあるんですか?」

 言われてしまったと思った。
 作業着のポケットの中に入れっぱなしだ。

「今持っていきます」

 もう一度印刷すればいいじゃんと思うかもしれないけど、A3の図面を何十枚も印刷してたら当然のように上から苦情が来る。
 社内で使う資料なら一度印刷した裏面を使って印刷しろっていうくらいだ。
 プリンターにはよくない使い方だけどそんな使い方をしている。
 両面印刷した図面は鍵のついたゴミ箱に入れて業者に来てもらってまとめてシュレッダーにかけてもらうようになっている。
 某メーカーの仕事を受注してからはその管理はより一層厳しいものになった。
 常に社員証をぶら下げておかないといけない。
 関係者を設計室に入れてはいけない。
 会社のOBが勝手に入ってきて所長に怒鳴られるという事件も起きていた。
 大きな工場だと網膜認証なども導入されてるらしい。
 それでも何度注意しても社外に図面を持ち出す人間もいる。
 図面だけじゃない。
 会社独自の設計基準などの資料も同様に持って出たりする。
 
「……で、今から会社に行くの?」
 
 明らかに冬莉の機嫌が悪い。
 無理もない。
 やっと休みをもらえて、一緒に映画を見に行こうという直前の出来事だったから。

「す、すぐ戻ってくるから」
「そう言ってナリがすぐに帰ってきた試しはない!」
「か、帰ったら次の時間の分とかには間に合うから!」
「分かった。じゃあ、待ってる」

 冬莉を説得するとすぐに会社に向かう。
 鍵を渡して説明して、ついでに注意をくどくどと受けて帰るとやはり昼を過ぎていた。

「冬莉、ごめん!」

 家に帰るとすぐに冬莉に謝る。

「……もういい」
 
 本気で機嫌が悪そうだ。
 これじゃ作戦前に終わってしまうんじゃないか?

「分かったから着替えて来て。お昼は私が作るから」
「あ、いや。作業着じゃないし……」

 外で食べてもいいじゃない。

「そう思ったけどやめた。また呼び出される可能性だってあるでしょ?」

 本気で怒っていそうに思えた。

「それなら家でゆっくりしてようよ。ナリの休息日」

 どうせ外でも緊張して疲れるだけなら家でのんびりしようよと冬莉は言う。

「ごめんな。あと少しだから」
「何が?」

 しまった。
 つい口が滑った。
 困っていると冬莉は何か察したのだろうか?

「がんばるのはいいけど、それでナリが体壊したら意味がないんだからね」
 
 そう言って冬莉はラーメンを作り始めた。
 目的の日まであと3か月。
 なんとかなりそうだ。

(2)

 図面は全部チェックした。
 残りの検討項目もすべてクリアした。
 出図も部品表作成もすべてやった。
 先輩に確認もして漏れはない。

「すいません、お先に失礼します」
「今日は定時なんですか?珍しいですね」
「今日はちょっと所用が……」
「まあ、仕事は終わってるからいいですけど……あ、そういうことですか」

 石井さんは察したらしい。
 
「うまくいくといいですね」

 それを一緒に聞いていた冬莉は首を傾げている。
 仕事の後は冬莉と予約してあったレストランに行く。
 冬莉の知り合いのレストラン。
 この日の為に準備していた冬莉へのプレゼントも用意して着替える。
 この時間でもバスがないからタクシーで行く。
 
「なんかナリ怖いよ?」

 冬莉がタクシーの中で聞いてきた。

「何があるの?いい加減教えてくれてもいいじゃない」
「……もう少しだけ待って」
「ナリがそう言うなら……」

 レストランにつくと注文をして料理を待つ。

「私の家ではこう言われてるの。もやもやを抱えたままで食事をするのは料理に失礼だからすっきりさせてからにしなさいって」

 冬莉の家では食事に対しては決まりが多い。
 それだけ食を重要視しているんだろう。
 意を決してテーブルに冬莉へのプレゼントを差し出した。
 その小箱の大きさを見て気づいたんだろう。 
 冬莉は静かに俺の言葉を待っていた。

「ちょっと早いかもしれないけど、これまで十分冬莉の事は見てきたつもり。そのうえであえて言います。俺と結婚してください」
「クリスマスに言うって決めてたの?そんなのは関係ないって私言ったでしょ?」
「そうじゃないよ。今日は冬莉の誕生日だから」

 冬莉へのちょっとした誕生日プレゼントにしてあげたかった。
 ずっと考えていたこと。
 冬莉に何かしてあげたい。
 こんなにも俺に尽くしてくれる冬莉へ感謝を示したい。
 俺の中で最大級のプレゼントのつもりだった。

「……そう言ってクリスマスと誕生日と記念日をまとめてしようって思ってるでしょ?」
「ち、違うよ」
「それに……この日の為に無茶な残業してきたんだね」

 ああ、失敗したのだろうか?
 魔法使いは卒業できたと思ったんだけどな。
 でも様子が変だった。
 冬莉は泣いている。

「ごめんね。素直になれたらいいのに……」
「え?」
「ありがとう。私は今とても幸せです」

 これで分かって欲しいと冬莉は笑っていた。
 て、事は……。

「天音たちが言ってた結婚記念日は入籍した日でも式を挙げた日でもいいって」

 だから冬莉の言ったことは気にしなくていいと冬莉が言う。

「でもお願いがある」
「お願い?」
「うん、これでナリの目的は叶ったのでしょ?だからもう2度と無茶な残業はしないで欲しい」

 式までに過労死なんてされたらいやだ。
 私の最後の恋愛にしてくれるんでしょ?と冬莉が言う。

「うん、今の仕事も今日無事終わったはずだし」
「新しい仕事が入ってもダメ!」
「分かったよ」
「……いつにする?」

 何を?

「本当に先の事を考えていないんだね。私の親に挨拶に行く日とか決めないとダメでしょ」

 冬莉の家は名家ではないけど親戚がすごい。
 結構大変だよと軽くプレッシャーを与えてくれた。
 その後夕食を食べると夜の街に出る。
 冬莉はしっかりと俺の腕に抱き着いていた。

「夫婦になるならこのくらい見られてもいいでしょ?」

 粉雪が舞いネオンが光る中で、冬莉の笑顔が一番きれいに思えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...