30歳魔法使いが新卒の女の子に恋される話

和希

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トラブル

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 今日はナンコツ社員の壮行会が焼肉屋で行われていた。
 彦根の工場に増員が求められていた。
 いつも思うのだけど大阪に本社があるのにどうしてわざわざ地元から増員を求めるのだろう?
 幸い俺も石井さんも増員には選ばれなかった。
 理由は二つある。
 今受け持っている仕事が終わらないし、引継ぎをするほど猶予もない。
 もう一つの問題は2次下請け。
 俺たちのいる会社はナンコツの下請け企業。
 そして彦根の工場からナンコツは仕事を請け負っている。
 つまり下請け。
 その下請けが俺たちのような協力企業と名を語っていてもただの下請けにすぎないから工場側からしたら孫請けになる。
 その形態が法律上でもグレーゾーンだし、そういう立場の人間が入るのを嫌う企業もある。
 今まではごまかしていたけどついにそれを断られていた。
 で、俺と石井さんは災難を免れた。
 冬莉達も参加していた。
 自分の分を焼きながら僕の皿にもとってくれる。
 妙なことを聞いてきたけど。

「食べられると思う?」

 肉を焼いただけなのにどういうことだ?

「片桐家の子供はパパに似て焼かずに生で食べる癖があるから」

 冬莉もその癖があって他人が食べられるかどうか自信がないらしい。
 その話を聞いて少し怖くなったのは内緒だ。

「ほら、先輩も飲んでくださいよ」

 そう言って鳥山さんがビールを勧めてくる。

「どうして片桐先輩と付き合うようになったんですか?」
 
 気づいたらラブホに連れられていたなんて口が裂けても言えない。
 すると代わりに冬莉が答えてくれた。

「鳥山さんと同じじゃないかな。誰にでも優しいの。自分の損得なんて関係なしに」

 冬莉以外の女性にも優しくして勘違いさせるから困った人だと愚痴っていた。
 そういうのって単に男が勘違いしてるだけだと聞いたけどな。

「まってくれ、ってことは鳥山さんは宮成さんが好きなのか!?」

 鳥山さんのことが好きな男性社員の烏丸明彦さんが言っていた。

「違いますよ」

 はっきり言われるとグサッと来ると思うだろうけど、俺は元・魔法使い。
 むしろ冬莉に好かれたことが奇跡なんだ。
 肉を食べながら様子を見ていた。

「じゃあ、俺と付き合ってくれ!俺も鳥山さんのことが……」
「私、彼氏いるから無理です」

 ああ、冬莉が言っていたのはこういうことか。
 たしかに鳥山さんくらい奇麗なら彼氏くらいいるよな。

 ぽかっ

 冬莉に小突かれた。

「ナリは余計な事考えたらだめ」

 少し怒っているようだ。
 そうでなくても最近機嫌が悪い。
 そんなに心配しなくてもそんなにおいしい話が転がっているわけじゃない。

「よかったな、烏丸。これで心置きなく彦根に行けるだろ」

 ベテランの社員の佐山さんがそう言って烏丸さんの背中を叩く。
 上司の人は機嫌よく飲んでいた。
 問題はもう一人の人。
 上機嫌でサラダを網に投下するだけでは飽き足らず据え置きのキムチも焼き始めた。

「始まった」

 ため息をつく佐山さん。
 冬莉の機嫌が悪そうだ。
 冬莉の家では”食べ物を粗末にすることは絶対に許されない”と聞いていたからたぶんそれでだろう。
 それなりに盛り上がってせっかくだから「花火でもしていこうぜ。コンビニに売っているだろ」と海岸で花火を打ち合げることになった。
 珍しく冬莉もついていくと言い出した。
 どうしたんだろう?

「どうせタクシーで帰るから一緒でもいいでしょ?それに……」
「それに?」
「彼女としては誰にでも優しい彼氏を一人にするのは不安しかないの」

 そういう割には笑っている冬莉。
 困った彼氏だと笑顔だった。
 そんな気分よくみんなが店を出た時だった。
 明らかに酔っていたナンコツの社員が見知らぬ男性に声をかけていた。
 たぶんガテン系の男だろう、体格がよかった。

「お前も混ざりたいんだろ?」

 酔っぱらいの戯言だと流してくれたらよかったのにそうはならなかった。
 男は買い物袋を地面に置くと酔った社員の胸倉をつかんでいた。
 
「おちょくってんのかお前?」

 慌てて佐山さんたちが仲裁に入る。
 と、いってもこっちが謝るしかないのだけど当の本人がその気がないから男はますます怒り出す。
 そしてついに男の暴行が始まった。
 思いっきり殴りつけると社員が鼻血を出す。
 そんな様子を見て鳥山さんは泣き出していた。
 なんとか落ち着かせようとする烏丸さん。
 他のみんなは様子を見ている。
 佐山さんだけが必死に土下座して謝っているけど本人は「謝る必要ないよ」と開き直っている。
 警察に通報したほうがいいかな?
 スマホを取り出そうとすると冬莉が止めた。
 
「そこで鳥山さんをお願い」

 冬莉はそう言って3人に近づくと無理やり社員から男を引きはがした。
 冬莉って結構力あるんだな。

「そのくらいにしといたら?今のであんたの傷害罪成立だよ?」

 家族に警察官がいる。
 今すぐ男の身柄を引き渡しても構わないと逆に男を恐喝する冬莉。
 当然男は逆上する。

「お前も殴られないとわからないのか!?お前らみたいなデスクワークの人間にはわからないだろうけど、理屈だけで世の中動いてねーんだよ!」
「私の職業は関係ないし、あんたの身分にも興味はない。ただこれ以上ことを荒立てたくないだけ」
「あんまりなめてるとケガするぞ」
「それがあんたにできるとは思えない。こっちから手を出した件はさっきから頭を下げてる。あとはあんたが暴力を振るった件をあやまってもらうだけ」
「なんだと!?」
「理屈通りですませてあげようって言ってるの。おとなしく謝りなさい」

 男は怒り狂って冬莉を殴ろうとする。
 さすがにまずいと思って間に入ろうと急ぐけど、その必要はなかった。
 冬莉は男の拳を交わすと男の足を払って転倒させた。
 起き上がろうとする男の頭を踏みつける。
 職場から直接来たから冬莉は当然作業着だった。
 
「だから言ったでしょ?どうせ地べたを舐める羽目になるんだから自分から謝ったほうがまだ格好がついたでしょ?」

 女性に頭を踏まれるのがうれしい性癖もってるわけじゃないんでしょ?
 無様な醜態見せることになるのだから素直に謝ればいいのに。と、容赦ない冬莉の言葉。

「こんなことしてただで済むと思ってるのか?」
「ただで済ませたほうがいいわよ?女性に倒された挙句警察に駆け込んだところで無駄よ?」

 それどころか冬莉の素性が知れたらもっと悲惨な結末を迎える。
 冬莉がそう言って踏んでいた足を離すと、男は立ち去って行った。
 
「大丈夫ですか?コンビニ行くなら氷も買って冷やした方がいいかも……」
「片桐さんこそ大丈夫なの?あんな奴に目をつけられたら……」
「言いましたよ?この事件が表沙汰になったら謝るのはあっちです」

 冬莉がにこりと笑って言う。

「しかし君……強いね」
「片桐家の人間はこれくらいは普通にしますよ」

 冬莉が相手でまだ幸いだったと冬莉が言う。
 冬莉の双子の兄の冬吾だったらもっと最悪の結末を迎えるそうだ。
 男が化粧をしているというだけで相手を殴り飛ばすらしい。
 まあ、国家予算並みの年棒もらってるサッカー選手だしなあ。
 そのままコンビニに寄って海岸に向かうと、皆花火を楽しんでいた。
 俺はそんな様子を冬莉と見ていた。

「先輩は遊ばないんですか?」

 鳥山さんも元気を取り戻して楽しく遊んでいた。

「ああ、俺はもう年だから」
「……つまんないの」

 そう言ってみんなのもとへ戻る鳥山さん。

「少しは相手してあげたらいいのに」
「だって彼氏いるんだろ?」
「あれ?彼氏いなかったらいいんだ」

 どうもこういう時に選択肢を間違えるらしい。

「冬莉がいっしょだし……」
「私がいなかったらいいの?」

 どうも意地が悪い。

「俺はどうしたらいいわけ?」
「少しは皆とも楽しんだほうがいいよ。それとも私が少しくらいで拗ねると思った?」

 2人っきりで遊んでいたり話していたら気にはなるけど皆が一緒なら雰囲気に任せた方がいいと冬莉が言う。

「それにしてもさっきは冬莉すごかったね」

 あんな大男を一瞬でねじ伏せた。

「だから私だったからまだましな方。天音や翼だったらこんなものじゃすまない」

 海に捨ててくるくらいのことはやると笑いながら言っていた。
 笑いながら言うことなのだろうか?

「でさ、ナリは大丈夫?」
「何もしてないしね」
「そうじゃなくて」

 最近仕事を無理矢理してる感がある。
 別に行程に無理があるわけでもない。
 かといって悪戯に残業時間を増やすような俺じゃない。
 何か企んでるんじゃないのか?
 そこまで見抜かれていたようだ。
 でもさすがにまだ言えない。
 魔法使いには魔法使いなりの要望というのがあるんだ。

「今は言えない」
「て、ことは何か企んでるんだ?」
「時期が来たら話すから」
「ふーん、分かった。……たださ」

 そういうのって別に特別な日じゃなくてもいいんだよ。
 その日が特別な日に変わるんだから。
 どこまで冬莉は見抜いているんだろう。
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