30歳魔法使いが新卒の女の子に恋される話

和希

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優しい人

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「鳥山さん、ちょっと来て。この図面ちゃんと確認したの?」

 まただ。
 鳥山さんが石井さんに呼び出されている。
 理由は大体わかる。
 部品図が間違っていたのだろう。
 そんなのは検討図ないし組立図にあてはめたらすぐにわかる。
 ナンコツの新人は先輩に針金を使って三面図というものをしっかり指導してもらう。
 三面図は平面図、正面図、側面図と場合によっては背面図も加わる。
 まあ、鳥山さんが担当しているのは配管の図面だからそこまで必要になることはない。
 配管の図面を検討図から取り出してきてそれに寸法を加えるだけでいい。
 だから気づかない子は意外といる。
 矛盾している部分に気づかないでそのまま寸法を入れてしまうから。
 作図した後にチェックすれば寸法がおかしいことくらい分かりそうなのに……。
 検討したのはナリだからちょくちょくそういうミスをする。
 だから私がこっそりチェックをして、ナリに修正するように教える。
 だけど今回はそうではなかった。
 ナリが仕事を渡した後にフランジの位置が若干上がっていた。
 それはちゃんとナリが修正したのを私がチェックしたから問題ない。
 にもかかわらず寸法がおかしい。
 完全に鳥山さんのミスだった。
 納期も迫って図面登録や部品登録もしない忙しい時期で石井さんも苛々していた。
 くどくどと説教をすると泣けばいいと思う不届きな女性もいる。
 そうなると石井さんもさすがに困ってしまう。
 私が手助けしようとすると、必ずその前にナリが介入する。

「ごめんごめん、鳥山さんに検討図修正したのを教えてなかった」
「それはおかしいでしょ。だって正面図の寸法はあってますよ」
「そのあと冬莉に指摘されて気づいたら側面図修正してなかった」

 嘘だ。
 私が指摘したけどすぐに修正してそのあとに鳥山さんに配管図を依頼している。
 単に鳥山さんを庇っているだけだ。
 無性にイライラする。
 あの優しさがナリの良いところだけど、悪いところでもある。
 このままでは鳥山さんはまた同じことを繰り返す。
 私だって悪役になりたいわけじゃないけどなんか許せない。

「……例えそうだったとしても三面図の整合性くらい確認するように教わらなかったの?」

 私がその場に行ってそういうとナリが困っていた。

「す、すいません」
「まあ、この辺で許してあげなよ。時間ないし早く登録だってしないと……」
「宮成さんの言う通りですね。鳥山さん。もういいから急いで」
「は、はい!」

 鳥山さんは頭を下げて間違っている図面をもって自分の席に戻る。
 石井さんの配慮で私とナリは隣同士の席にしてもらっている。
 だから2画面を使っているナリの画面なんてすぐに見える。

「さっきはありがとうございました」

 確認するまでもなく鳥山さんからだった。

「何のこと?時間無いから修正急いだほうがいいよ」

 みんなピリピリしてるから。とナリが言う。
 私の苛々には気づいてもらえない癖に……うぅ。

 ぽかっ

「ど、どうしたの?」
「仕事中だから帰ってから話す」
「わ、わかった」

 休憩時間は私たち女性陣は2階の休憩ブースで食事をする。
 大体の女性が私の弁当の量を見て驚く。
 男性陣は一回の会議室でテレビを見ながら食べている。
 中には近くの飲食店で食べてくる人もいる。
 ナリも弁当を持っていないとすぐにちゃんぽんを食べに行く困った人。
 弁当を準備してあげてもどこかへ車で移動している。
 どこに行っているのか聞いてみたら素直に答えてくれた。

「初めて冬莉といったあの場所」
「あそこは昼間行っても何もないよ」
「何もないから音楽聞きながらのんびりできるんだよ」

 どうかすると家に帰ってネットをしながら過ごしているらしい。
 一回それで休憩時間を過ぎても戻ってこなかったことがあるから10分前には連絡を入れるようにしている。
 本当に困った人だ。
 もう私と付き合っているのはみんな知っているのだから一緒にお弁当を食べたいという私の気持ちに気づいてくれないのだろうか?

「……で、片桐さんはどう思う?」
「え?」
「聞いてなかったの?宮成さんの態度だよ」

 聞いていなかった。
 ナリがどうかしたのだろうか?

「誰が見ても宮成さんって鳥山さんに好意あるっぽいじゃん」

 それはない。
 私がいるし。
 それに浮気するなんて甲斐性ナリにあるわけがない。
 あの優しさは天然だ。
 だから私が困っている。

「それは絶対ないですよ」

 そう言ったのは鳥山さんだった。
 どうして?とみんなが聞くと鳥山さんが答えた。

「宮成先輩とは仕事の話以外の事を話したことないんですよ?」

 え?
 部品図作成の依頼とか部品表作成の依頼とかその程度しか話したことはないらしい。
 仕事以外の私生活の話をしようとしても「今仕事忙しいから。集中して」と返ってくるだけらしい。
 ということはむしろ鳥山さんの方が多少ナリに興味があるのか?
 それも違うらしい。

「それに仮にそうだったとしても私彼氏いるし……」
「そっかぁ」

 みんな納得したらしい。
 
「片桐先輩、宮成先輩って女性に興味ないんですか?」

 普通にただのオタクなんですか?と、鳥山さんが聞いてきた。
 人の彼氏に対して失礼な言い方するな……。

「興味がなかったら私と付き合ってるわけないでしょ」
「え!?」

 鳥山さんは素で驚いていた。

「ご、ごめんなさい。私てっきり」
「仕方ないよ。本人も去年までは”魔法使い”って自称して彼女いなかったそうだから」
「そうなんだ。あんなに優しいのに不思議ですね」

 鳥山さんは不思議そうにしていた。
 仕事が終わると家に帰る。
 ナリは残業。
 洗濯はナリのと一緒にしたいから後回し。
 先に夕飯の支度とチョコさんの世話をする。
 チョコさんはソファのなかを次々と開拓していてどこに隠れているかわからない。
 チョコさんの領域はゲージとソファだけじゃない。
 家で一番広い部屋で大きなテレビを用意していたのに辺りを毛だらけにして、テレビを見ようとすれば噛みついてきたり、ゲーム機のコントローラーの線をかじろうとする。
 このリビングの主はチョコさんだった。
 夕飯の支度をすませるとスマホをいじったりテレビをみて時間をつぶす。
 ナリは20時には仕事を終わらせるように努力している。
 その後同僚に食事を誘われたりするそうだけど、まっすぐ家に帰ってくる。
 20時を超える残業をしている事実を天音が知ったらナンコツは翌月には消滅している。

「今から帰るよ」

 予想通りの時間にナリからメッセージが届いた。
 ナンコツから家まで橋を使えば10分程度で着く。
 だから昼休みに家で過ごすなんて無茶な真似をするんだけど。
 料理を温めなおしているとナリが帰ってきた。

「ごめん、今日何かへました?」

 あの事を気にしているのだろう。

「まず着替えて洗濯物を洗濯機に入れて」
「わ、わかった」

 ナリが私の言ったとおりに行動して一緒に食事にする。

「あのさ、優しいのはナリの良いところだけど、時には厳しくしないと後で困るのはナリだよ?」
「どうして?」
「あの子反省しなかったらその時点で成長止まってしまう」

 そんな出来ない子がベテランと呼ばれるようになったら困るのはナリだけじゃない。会社だ。
 時には厳しく注意しないとダメだと伝える。

「そ、そっかぁ。それで怒っていたの?」

 本当に鈍い人だ。

「目の前で他の女性に優しくして気分いい彼女なんていないよ」
「そんなに甘やかしてたかな?」
「少なくとも周りはそう思っていたみたいね」
「どうして?」

 昼休憩の話をナリにしてあげたらナリは頭を抱えていた。

「心配しなくてもナリが浮気なんて考えてないよ」
「そうじゃなくてさ……」

 ナリが話を始めた。
 残業中に話をしていたらしい。
 理由は新人は残業しないから。
 そして鳥山さんに好意を持った男性社員がいるそうだ。

「それは心配しなくていいよ」
「どうして?」
「たぶん鳥山さんが自分で言うからナリは気にしないで」
「そっか」

 気づいているのか気づいていないのか全く分からない面白い人。
 まだまだ穏やかな日々を過ごしていた。
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