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ヤキモチ
しおりを挟む「それじゃお疲れ様。乾杯」
社長がそう言って宴が始まった。
今日は会社の新入社員歓迎会兼花見。
どうして花見なのにフグなのだろうか毎年不思議に思っていた。
今年も新入社員が入ったらしい。
俺達が出向している間に無茶をしていた。
壁をぶっ壊して隣の部屋も借りて事務所を拡張していた。
新人が入ってきたから。
入れないと出向に人を割きすぎて事務所の仕事が追い付かないくらいになっているらしい。
だけど新人は一人だけ。
社長が好きそうな新卒の女性。
白川燕。
茶髪で耳にピアスを開けている。
冬莉とは全く正反対の性格。
石井さん達もすぐに気に入って彼女の周りを取り囲んでいる。
宮田さんや渡瀬さんは気にもとめずに冬莉達と盛り上がっていた。
白川さんも愛想を振りまいて社長とかにお酌をしていた。
俺は社長たちの話を聞きながら料理を食べていた。
魔法使いだったからじゃない。
冬莉がいるのに他の女性に媚びを売る必要がなかったから。
それを言えば社長や石井さん達も嫁さんいるんだけど。
社長と白川さんの話を聞いていて分かった事。
白川さんは現在彼氏がいない。
「宮成なんてどうだ?」
そんな事を社長が言った時はさすがに焦った。
もう俺を破局させるつもりか?
「俺、今彼女いるんで」
「本当ですか!?どんな人か写真見せてくださいよ」
すぐに食いつく白川さん。
「写真なんか見なくても分かるよ」
「どうしてですか?」
「目の前にいるから」
そう言って冬莉を指差した。
「……へえ、綺麗な彼女さんですね」
最初の「……」の間が凄く気になったのは俺だけじゃないはず。
彼女はとにかく陽気な性格らしい。
社長のセクハラ染みた質問に悉く回答している。
それが冬莉には不快だったのだろうか。
あまり機嫌がよくないようだった。
冬莉を気にしながら社長たちの会話を聞いていると宮田さんが助け舟を出してくれた。
「宮成君。片桐さんの相手もちゃんとしてあげないと」
そう言って宮田さんの席を譲ってくれた。
「随分楽しそうだね」
やっぱり機嫌が悪いのは間違いなさそうだ。
ここで「そんな事無い」と言ったら場の空気が変わる事くらいは分かる。
「冬莉は楽しくないの?」
「鼻の下伸ばしてるナリを見ていて楽しいわけないじゃない」
え?
慌てて自分の鼻の下を確認していると冬莉は笑いだした。
「ナリは意味わかってる?本当に伸びるわけないでしょ」
「あ、そうなんだ」
「その調子だと嬉しそうにしている自分に気づいてない」
「だって別に僕に関係ある女性じゃないからね」
そんな関係ある女性なんて冬莉くらいだ。
「ナリは空そっくり。少しは女性に優しくしてあげなよ」
優しくすると冬莉が機嫌悪くするだろ?
「まあ、ナリに浮気する度胸があるとは思えないけどね」
なんせ気づいてほしいのに、気づいてくれるまで1年くらいかかったナリなんだから。
思ったほど機嫌が悪くないらしい。
するとそれを聞いていた宮田さん達が興味を示したらしい。
「2人が付き合うようになった経緯を教えて欲しいな」
「そうそう、それに最近さらに仲良くなったんじゃない?何があったの?」
宮田さんと渡瀬さんが聞いていた。
「それはですね……」
嬉しそうに俺の過去をばらす冬莉。
宮田さん達はそれを笑いながら聞いていた。
しかし聞いていたのは宮田さん達だけではなかったらしい。
2次会はダーツバーだった。
ダーツという物をしたことがない俺は、一人でカクテルを飲みながらダーツを楽しんでいる社長たちを見ていた。
すると「隣いいですか?」と白川さんがやってきた。
「白川さんはダーツしないの?」
「ああいうの苦手なんですよね」
「まだ若いんだから今のうちに慣れておいた方がいいよ」
「私の相手は不満ですか?」
私何か宮成さんの気に障ることしましたか?
うーん、前に職業訓練で同じような印象与えて泣かせた女性がいるから少しは相手しておいた方がいいかもしれない。
そう思って話をすることにした。
「何を話せばいいの?」
「先輩は色んなCAD使えるんですよね?」
まあ、色んな職場で色んなCADつかってるからね。
同じCADを使ってる職場なんてほとんどなかった。
それに一応職業訓練でCADの技術者の検定は1級を持っている。
「すごいじゃないですか。私は全然ダメなんですよね」
エクセルやワードが使えるから事務みたいな仕事を引き受けているらしい。
もちろん設計会社に来てそれだけで満足するはずがない。
自分も色んな設計をしたい。
それが後輩の悩みだった。
それならアドバイスできる。
「CADってさ……所詮定規やシャーペン、製図板の代わりみたいなもんなんだよね」
「え?」
色んなCADを使えたからそれがどうした?ってのがこの世界の常識。
単なる製図の道具であるCADを使って何が出来るかが大事。
それはCADの使い方だけを覚えて満足していてもしょうがない。
部品表やそう配管のサイズや部品をまとめている仕事なんだろ?
それがどういう物かどうかを今のうちに質問しておいた方が良い。
暇な時間に会社に置いてある資料に目を通しておいた方が良い。
分からない事があったら都度聞いておく事。
お酒が入ってる事もあって気分よく喋っておいた。
「あとは先輩が書いている図面を見て三面図を見る練習もしておいた方が良いよ」
振り返ると冬莉が立っていた。
冬莉は俺を睨んでから言う。
「未だに正面と側面の図面がちぐはぐな人もいるから」
これは本を読んでいてもどうしようもない。
図面を見る力が描く力になると冬莉が白川さんに説明していた。
そしてその後に冬莉が言う。
「ごめん、ちょっと用事があるからナリと一緒に帰りたいんだけどいいかな?」
社長には話を通してあるらしい。
「そうですか……。もう少しお話聞きたかったなぁ」
白川さんはそう言ってにこりと笑って別のテーブルに行った。
「冬莉。用事って何?」
俺は何も聞いてないけど。
「いいから黙ってついてきて」
冬莉がそう言って俺を連れて店を出る。
タクシーを捕まえるのかと思ったけどそうでもない。
別のバーに向かっていた。
飲み物を注文する時以外はずっと黙っていた。
まさか俺はまたやらかしたのだろうか?
こういう時は何も言い訳せずに謝った方がいいって冬莉の父さんが言ってたっけ?
「ごめん、冬莉!ちょっと調子に乗りすぎた」
「そうだね。謝って欲しい事が今出来た」
へ?
「何もしてないのにすぐ謝る癖止めてって言ったはずだよ」
「それは……」
白川さんと仲良くしてたことに腹を立てたんじゃないの?
「後輩にアドバイスしてたくらいでヤキモチなんて焼かないよ」
それにそれだけでしょ?と冬莉が言う。
「白川さんとナリの話聞いていて笑いそうになるのをこらえてた」
「なんで?」
「ほら、やっぱり気づいてない」
「何の事?」
「本当にナリは鈍いんだね」
白川さんは俺の腕を掴んで自分の胸に押し当てていたらしい。
それってやっぱり謝らないといけないんじゃないか?
そうじゃないらしい。
「ナリが普通の男なら怒ったかもしれない。でも思い出しててさ」
「何を?」
「私がナリを必死に誘っても気づいてくれなかったこと」
ホテルにまで泊まったのに何もしてくれなかった。
「正攻法でやっていたってナリはきっと一生気づかないよってアドバイスしてあげたかったくらい」
そんなものなのだろうか?
冬莉に聞いてみると笑っている。
「現に露骨に白川さん迫ってたのに全く気付いてなかったじゃない」
そんな俺だから浮気は絶対にありえないと信用していると冬莉が笑っていた。
そんなにもてるなら冬莉とだってもっと早く関係を持っていたはずなんだけど。
だけど冬莉は「ナリは今のままでいい」と言う。
「私の事が好き。それだけ考えてくれていれば文句言わないよ」
ただ気を付けてね。
俺は気づいてないけど些細な俺の行動が相手を勘違いさせているから。
そのくせ最後まで気づかないで勝手に諦めるから手に負えない。
どう考えても貶められてる様な気がするんだけど……。
「私も気を付けてるんだよ。ナリを不安にさせたくないし」
「それは無いから大丈夫だよ」
「……それは単に私を侮ってない?」
俺はどう考えてもこの手の正解はだせそうにない。
「考えなくてもいいよ。今のままでいてくれたら私が教えてあげるから」
そろそろ帰ろう?
明日は休みなんだから。
「そうだな……」
まあ、普段は職場が違うし問題ないだろう。
しかし当たり前の事を俺は予測していなかった。
気づくはずもない。
だって俺は今年あることを決めていたから。
今まで彼女がいなかったのだからそこまで思わせるのだろうな。
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