30歳魔法使いが新卒の女の子に恋される話

和希

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 朝目が醒めると一人でホテルのベッドで寝ていた。
 そうか昨夜のあれは夢だったのか。
 どうして、1人でホテルに泊まったのかは考えないようにした。
 しかし、そんな妄想を一瞬で吹き飛ばす事態になった。

「あ、ナリ起きたんだ。ナリもシャワー浴びてきなよ」

 タオル1枚の姿で冬莉がバスルームから出て来た。
 やっぱり夢じゃなかったんだな……。
 さようなら魔法使い。
 俺は大賢者にはなれなかった。
 1人前になれてホッとしたけどなんか寂しい気分。
 それに一つだけ不安があった。
 落ち込んでる俺を見て冬莉は察したのだろう。
 その姿のままで俺の隣に抱きついてきた。
 
「何か困った事でもあるの?」

 とりあえずそんな姿で抱き着いてこられたら……。
 冬莉の柔らかさと温もりが伝わってきて、昨夜の感触を思い出す。
 すると緊急事態になる。

「男の人って朝から元気なんだね?朝食前にしておく?」

 冬莉はにこりと笑って聞いた。
 そういや某格闘技漫画で部屋がバラではなくティッシュ一杯になるまで夜を明かしたシーンがあったな。
 家にもティッシュの予備を置いておく必要があるのだろうか?

「いや、そうじゃなくて俺冬莉に乱暴な事しなかったかなって」

 何せ初めてだったから無我夢中だった。
 冬莉が時々もらす息遣いと声がさらに俺を夢中にさせていた。
 俺一人だけ楽しんでいたんじゃないかと不安になっていた。
 すると冬莉はにこりと笑う。

「ナリに変な趣味が無くてよかったって安心したくらいだよ」

 だから心配しないで。
 そう言って冬莉は俺とキスをする。

「早くシャワー浴びて来て。朝ごはんの時間終わっちゃう」
「わかった」

 そう言ってシャワーを浴びて服を着ると冬莉と朝食を食べる。
 その後部屋で冬莉の仕度を待つとチェックアウトした。
 せっかくだから街でデートしようと冬莉が言うので冬莉に付き合った。
 当たり前のように冬莉と腕を組んでいた。
 冬莉はなんとも思ってないようだ。
 まあ、あんなことした後だし腕くらいって感じか。
 ランチを食べると車に戻って家に帰る。
 帰りにドラッグストアに寄った。
 ティッシュなんてめったに使わないけど、これから必要になるだろうから。
 ……あれも買っておくか。
 冬莉が隣にいるのに選んでいいのかわからないけど、今さらな気がするから買っておこう。
 なんか色々種類があるな。
 薄い奴から香りの付いたやつまで。

「冬莉はどれがいいの?」

 そう聞いたのが間違いだった。

「そんな事女性に聞くのはナリだけだよ!」

 若干怒っていたみたいだけど顔は笑っていた。
 その後スーパーに寄って夕飯の食材を買う。
 家に帰ると冬莉が食材を整理している間に荷物を整理して、チョコのゲージの戸を開けてやる。
 チョコは元気に飛び出して部屋の中を暴れまわる。
 一番のお気に入りはソファーらしい。
 いつの間にか巣を作っていたようだ。
 部屋は偶に掃除していたけど、それでも毛だらけだし動物の匂いもすごい。
 消臭剤は巻いている。
 そんなわけで、チョコの領域、リビングは使えない。
 部屋でテレビを見ていた。
 いつの間にか両手に飲み物を持った冬莉が隣に座る。
 男というのは一度難関を越えるとそれは難関ではなくなる。
 無意識のうちに冬莉の胸元とかに目がいく。
 冬莉はすぐにわかったらしい。

「せめて暗くなるまで待って」
 
 ダメと言わないのが冬莉だ。
 夕食を食べてシャワーを浴びると同じようにテレビを見ていた。
 あまり興味のない番組。
 それでも冬莉一人取り残してネットゲームに夢中になるなんて真似できない。
 冬莉はテレビが好きなようだ。
 どれでもよかったので冬莉の好きなチャンネルにしていたから当然なんだろう。
 それでも23時頃になると冬莉が静かになる。
 気づいたら冬莉の手が俺の手に重なっていた。
 冬莉を見ると冬莉は俺の顔をじっと見ている。
 ああ、これがサインなんだなって気づくのにそんなに時間はかからなかった。
 ただ、こういう時何て言えばいいのか分からない。

「やらないか?」

 これは絶対NGだと思う。
 こういうシチュエーションはドラマでよくみたことがある。
 昔見たドラマを思い出しながら出た答え。
 冬莉の腰に手をまわして抱き寄せる。
 正解だったみたいだ。
 冬莉も俺に抱きついて、俺の顔を見て静かに目を閉じてキスを強請る。
 同棲を始めてやっとたどり着いた境地だもんな。
 冬莉も随分と我慢していたんだろう。
 
「そろそろベッドに行く?」

 俺が聞くと冬莉はにこりと笑って頷いた。
 事が終ると男はビールを飲んだり、タバコを吸ったりするらしいが、ビールを常備してるわけじゃないしタバコという趣味はない。

「シャワーでも浴びてきたら?」

 一言そう言ってやればいいのだろうか?
 それすら言い出せずに、俺はただ冬莉を抱いていた。

「ナリって優しいんだね」

 え?

「用が済んだら冷たくされると思ってた」

 そんなイケメンみたいな真似できません。
 イケメンがどう対応してるのか知らないけど。

「よかった」

 冬莉が一言そう漏らした。

「何が?」
「私でもナリをその気にさせられるんだってやっと自信がついた」

 冬莉が誘ってきて断って来た俺が異常なだけだと思うんだけど。

「他の男ならって今考えたでしょ?」
「……まあね」
「それじゃ、意味がない。私に必要なのはナリだけなんだから」

 結構難しいんだな。
 
「心配しなくても冬莉以外にその気にはならないよ」
「当たり前だよ。そんなことしたら怒るからね」
「魔法使いを卒業することが出来たのは冬莉だったからだよ」

 きっと他の女性では無理だと思う。

「これでナリも一人前ってわけ?」
「冬莉から見てどう思う?」

 すると冬莉はくすりと笑った。

「もっと私を独占してもいいんだよ?」
「分かった……」
「じゃあ、明日は仕事だしもう寝よう?」
「そうだね」

 俺は目を閉じて眠りにつく。

「ねえ、ナリ?」
「どうしたの?」
「今でも前に言ってくれたこと言ってもらえる?」

 何の話だろう?
 すると冬莉は俺に抱きついて一言言った。

「ナリ、大好きだよ」
「……俺も冬莉が大好きだよ」

 返事は返ってこなかった。
 眠ってしまったらしい。
 俺も眠りについた。
 ようやく俺の初恋は実った。
 あとは道を間違えないようにゆっくりと進むだけ。
 そう思っていた。
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