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君へのギフト
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(1)
「じゃあ、今日は皆盛り上がってくれ。乾杯」
俺がそう言うと宴のはじまり。
如月リゾートホテルのホールを借りて年を越す
部屋も用意されてある。
如月翔太の招待という形でただで提供された。
策者もずいぶんと暴挙に出たな。
毎年子供の扱いに困っていたからな。
青少年育成条例に触れるから22時以降の未成年の店の利用はできない。
だが、ホテルなら泊まりに来てるから大丈夫。
そう判断したらしい。
もっとも小さな子供のいる冬夜達は欠席したが。
皆それぞれ役職について忙しいが、よほどのことがない限り集まってくれる。
そしてそれぞれ昔話や近況について話をする。
渡辺班は愛莉さんが妊娠すると募集を止めた。
次々と奥さんが妊娠して活動が困難になったため。
実際子供が大きくなるまで活動は休止していた。
今も古参のメンバー以外は活動していない。
月見里君は姫島で診療所を経営している為参加は難しい。
この歳になると開業する者も増えてきた。
渡辺班の親戚は比較的開業が容易だ。
地元銀行専務取締役の檜山先輩の口添えのお蔭だ。
地元銀行がだめでも江口銀行がある。
地元銀行も江口銀行に対抗するために必死だ。
融資だけじゃない、江口銀行は保険や資産運用などにも分野を広げている。
いわゆるメガバンクという奴だ。
世界各地にも支店を作っている。
もう渡辺班の領域は世界に広がっている。
如月航空も次々と空路を広げている。
路線バスへの進出も図っているらしい。
県知事に掛け合っている最中だ。
赤字路線の穴埋め、年々値上げされている運賃。
つけこむ隙はいくらでもある。
地元には交通機関が極端に少ない。
赤字路線という障壁がある。
民間事業が参入しづらいという部分もある。
道路ですら満足に作れずに変則的なインターなんかもありそれが新しい事故を生み出す。
赤字だから新しい駅や路線を作らない。
路線が無いから利用が出来ない。
結果自動車での移動が増え、渋滞ができる。
排ガス規制が難しい。
車の維持費、高騰するガソリン代を考えたらまだ交通機関を利用した方が安いのだが、利用したくても路線がない。
そこに如月グループが着目した。
線路を新設する必要がないバスなら。
すでに、高速バス、観光バスは運営しているそうだ。
江口、志水、白鳥、如月。この4つのグループが地元経済の基盤となっているのは間違いない。
そしてそんなグループの重鎮が俺に挨拶に来る。
「先輩。今年もお世話になりました」
楠木晴斗がやってきた。
晴斗もすでに地元支社長という役職についている。
俺は何も世話してないけどな。
「晴斗も元気そうで何よりだ。子供は元気か?」
「ええ、今年も滑ってきたっす」
子供達も晴斗の影響を受けてアウトドア派になっているそうだ。
「渡辺先輩、お久しぶりです」
如月伊織が来た。
如月家は今勢いのある企業。
しかし4家とも親戚が特定の地域に密集している。
あそこはそんな高級住宅街というわけでも無いのに不思議だ。
「正志、今日は朝まで騒ぐんだろ?」
「大丈夫なのか?」
「正俊は寝たよ。沙理奈も茉里奈も起きてるつもりらしい」
親として容認していいのか?
「沙理奈も茉里奈もあのくらいの年頃って徹夜で勉強するもんだろ?勉強は良くて遊んだらダメって理屈は通らないだろ」
そういう問題なのだろうか?
まあ、教育方針は美嘉に任せているから犯罪を犯さない限りは容認しているが。
「しかしとーや達も大変だな。あの年でまさか子供が増えるとは思っても見なかっただろ」
美嘉が言う。
冬夜や誠は親戚の不幸事があって取り残された子供を引き取ったらしい。
時間が0時に近づく。
そして0時になるとステージでUSE所属のアーティストのライブが開かれる。
「こんな時間に騒いですまんな」
「大丈夫です、主人は迷惑ならキャンセルさせても構わないと豪語したらしいですから」
伊織さんが言う。
もはや何でもありな世界だな。
「渡辺君、来年はうちのテーマパークを使ってちょうだい。貸し切りにするわよ」
石原恵美さんが言う。
「恵美さんは子供はいいのか?」
恵美さんだって小さい子供いただろ?
「部屋に寝せておくから問題ないわ」
「まあ、年末に考えるよ」
「わかった、大晦日は全室キャンセルさせておくわ」
年末一日くらい客を入れなかったくらいで潰れるような会社ならいつ潰しても問題ない。
恵美さんはそういう。
普通は大事なんだけどな。
まあ、ライブを楽しみながら俺たちは3時過ぎまで騒いで、そして寝た。
さすがにオールをするにはきつい歳になって来た。
歳には勝てないな。
朝みんなで春肥神社に初詣に行くと解散する。
子供たちは家に帰るとさすがに寝た。
俺も雑煮を食って寝る。
子供たちにお年玉を配った後に。
3が日の間に実家にも顔をみせておかないとな。
新年早々忙しい。
毎年そうなんだが。
目を覚ますと夕食の時間になっていた。
御節をつまみながら酒を飲む。
「沙理奈はそろそろ酒の飲み方覚えてもいいだろ?」
俺は全力で止めた。
たまに子供の教育をチェックしておかないと飛んでもないことになる。
ちなみにタバコは美嘉も許さなかった。
「調理師になるなら味覚と嗅覚は必須条件だ。それを狂わせるような真似はするんじゃない」
夕食を食べ終わると風呂に入る。
子供たちは部屋に行く。
「しかし、最初は私に育児なんて出来るのかと思ったけどなんとかなるもんだな」
美嘉がビールを飲みながら言う。
「そうだな、変に性格がねじれてないだけ大したもんだ」
「もっと褒めてくれてもいいんだぜ」
「ああ、よくやってくれてると感謝してるよ、娘たちは店を継がせるのか?」
「2人ともそのつもりらしい、もちろん茉里奈には支店を用意してやるつもりだけど」
「正俊はどうなんだ?」
「正志に似たんだろうな。小学校の先生になるって頑張って勉強してるよ」
「そうか……」
こうして夜に子供達の近況を美嘉から聞く。
3人とも美嘉には何でも話すらしい。
「明日は実家に挨拶に行くから、今日は早めに寝るとしよう」
「ま、しょうがねえな。わかったよ」
そう言って美嘉は残ったビールを飲むと寝室に行く。
渡辺班の子供で多少問題はあれど非行に走ったという子供は聞いたことは無い。
皆親の背中を見て真っ直ぐ育っているんだろう。
ありがたい事だ。
そんな事を考えながら眠りについた。
(2)
今日は水奈達がきていた。
水奈達も崇博と歩美がいるから渡辺班の忘年会に出る事が出来ない。
だったら近所だし一緒に夕食でもと多田家を誘っていた。
「考えようによっちゃ俺達幸せだよな。また夢を見る事が出来る」
水奈の父さんが父さんにからんでる。
大分酔っているようだ。
崇博と歩美はもう夢を見つけてそれに向かって歩き出している。
レーサーになる事。
まずはカートから。
週3のペースで習いに行ってる。
小学校になったらもっとペースが落ちてしまうからと今地元のコースを作ろうしているらしい。
年間1000億近くの費用が掛かることに比べたらたかだか数十億くらいどうってことないと江口グループの出資で作られたらしい。
優勝賞金もない、ただ名誉を手に入れる為の戦い。
もちろん、表彰台に立つことが出来ればスポンサー料が入る。
練習が必要なのはレーサーだけではない。
車体を作らなければならない。その技術の研究もされている。
毎年変わるレギュレーションも研究しなければならない。
タイヤ交換等のピット作業も練度が要求される。
崇博や歩美たちを筆頭にチームが一丸となって世界の頂点に挑む。
カートの時から江口グループの支援は始まっていた。
専用のレーシングカートを用意して訓練する。
崇博たちは素質はあるようだ。
コーチの近藤さんのアドバイスを受けめきめきと上達していく。
狙いは2年後の地方選手権。
練習量は他の子供よりも圧倒的に多い、それに崇博たちの素質を考えたら確実に優勝できるだろう。
2年後と言えば冬吾もいよいよサッカークラブに入る年。
その話を水奈の父さんと父さんが話をしていた。
ただ練習を始めるだけ。
まずは基礎体力を。
そんな話をしている。
年越しそばを食べる。
食べ終わる頃学達が来た。
水奈や天音が出る。
僕と翼も出かける準備をする。
「気を付けて行っておいで」
父さんがそう言うと「行ってきます」と言って家を出る。
僕達は歩いて西寒田へと向かう。
「でも、私達も一緒でよかったの?」
翼が学に聞いていた。
「水奈が一緒が良いって言いだしたからな」
今更隠す仲でもないからと学は言った。
学と水奈の関係は良好のようだ。
それを示すかのように2人は今も手をつないで歩いている。
「冬休みが明けたらいよいよ入試シーズンだな」
やっぱり話題はそこに行くか。
「浪人させてみるのも面白いかもしれない」そんな考えを持っていたら危ないけど、「浪人生の生活を調べるのが面倒くさい」という意見を持っている限り大丈夫だろう。
「学も防府だっけ?」
「ああ、南高校でもよかったんだが」
やっぱり近い方がいいらしい。
クラスの連中がは殆どが防府を狙っているらしい。
光太と麗華は大区工業を選んだ。
光太は将来やりたい事をを見据えて、麗華はどこでもいいから光太と一緒でいいやと選んだそうだ。
大区はスポーツでも有名な高校。
バレー部の沢木兄弟は大区に進学するそうだ。
テニスに嵌った山崎姉妹は福徳高校に進学する。
それぞれの道を行くクラスメートたち。
最後まで一緒にいる事が出来るのはどれだけいるんだろう?
最後は就職というカードを選ぶ時皆バラバラになる。
それでもSHという絆は守られているだろう。
父さん達のように。
神社につくと既に長蛇の列ができ上っている。
「あ、翼たちも来てたんだ」
麗華や光太たちと出会う。
まあ、うちの中学生なら皆ここにくるよな。
話ながら列は進んでいく。
そしてお参りを済ませると僕達は出店に向かう。
食べるだけ食べると帰る。
「じゃあ、俺水奈を送って帰るから」
途中で学達と別れた。
僕達も帰ると部屋に戻って着替える。
「うん、おやすみ」
「おやすみなさい」
今頃騒いでるであろう美希にメッセージを送って僕は眠った。
(3)
1月3日。
僕達は高塚に向かっていた。
僕と翼は原稿用紙一杯に防府高校合格と書き綴った原稿用紙を持っている。
それを持って行くと祈願が叶うらしい。
ただの神頼みだ。
最後の悪あがきともいう。
その時間に過去問でも解いた方がいいんじゃないか?というものもいる。
だけど、過去問を少し解いたくらいで受験の結果がかわるなら、皆必死に24時間過去問を解いているだろう?
普段から勉強しておけば問題ない。
母さんは言う。
ただゲン担ぎくらいしてもいいでしょ。
こういう時だけ日本人は神様を頼るらしい。
神様も大変だな。
だが同じ考えの人は沢山いる。
少なくとも駐車場が満車で入れなくなるくらい。
結局は実力勝負なんだろうな。
駐車してお参りして出店で食べ物買って食べる。
帰りに日田によって日田焼きそばを食べる。
家に帰ると翼と勉強する。
今年だけは特別だ。
翼と時間を計って過去問を解いていく。
そして互いに採点する。
翼は採点するだけ無駄だった。
翼の回答は模範解答よりも正確に解答するのだから。
僕は国語が若干苦手だった。
数式や法則は覚えていればいい。
だが、国語の作文問題は解答例も曖昧でこれが正解というのがない。
翼にコツを習う。
「まあ、空の実力なら国語で少々ポカやったくらいで慌てる点数じゃないよ」
僕達の点数は防府のボーダーラインなんて余裕でクリアしているのだから。
「ご飯できましたよ」
母さんが呼んでいる。
僕達は勉強を一時中断する。
そしてご飯を食べて風呂に入って再び勉強する。
23時ごろ母さんが夜食を作ってきてくれる。
キムチ雑炊だ。
それを食べると、勉強を再開する。
約束された未来とはいえ、やはり最後の悪あがきはしたくなる。
だって相手は皆そんな悪あがきをずっと続けて来た相手なんだ。
光太ですら勉強をしてるらしい。
そして眠くなって頭がぼーっとしてくると翼がシャーペンを置く。
「これ以上はやっても無駄。頭に入らない。寝よう?」
翼がそう言うと僕と翼は「間違っても徹夜で勉強なんてしちゃだめだからね」と言って自分の部屋に戻っていった。
「大丈夫、頑張ったんだから神は見捨てない」
美希からメッセージが届いていた。
僕は神なんて信じない。
だって頑張ったら救われるなんて皆頑張ってるんだから皆救われるべきだ。
だけど現実はそんな優しものじゃない。
残酷な結果が待っているものだっている。
だからすべり止めを受ける。
ただ、運命というものは信じてる。
それは例え高校受験が失敗したとしてもそれも運命でその先に僕達への贈り物が待っている。
それは受け取った後に気付くものだと思う。
だから己の運命を悲観してはいけない
もし神がいるのだとしたらそれは残酷な運命と戦う者にだけ微笑むのだから。
どんな使命を背負ってるのかなんて解らなくていい。ただ前を向いていればいい。
強くなれる僕への贈り物。
選ばれし者がここに集う。
また高校で新しい出会いが待っているのだろう。
中学校での最後の試練が幕をあげようとしていた。
「じゃあ、今日は皆盛り上がってくれ。乾杯」
俺がそう言うと宴のはじまり。
如月リゾートホテルのホールを借りて年を越す
部屋も用意されてある。
如月翔太の招待という形でただで提供された。
策者もずいぶんと暴挙に出たな。
毎年子供の扱いに困っていたからな。
青少年育成条例に触れるから22時以降の未成年の店の利用はできない。
だが、ホテルなら泊まりに来てるから大丈夫。
そう判断したらしい。
もっとも小さな子供のいる冬夜達は欠席したが。
皆それぞれ役職について忙しいが、よほどのことがない限り集まってくれる。
そしてそれぞれ昔話や近況について話をする。
渡辺班は愛莉さんが妊娠すると募集を止めた。
次々と奥さんが妊娠して活動が困難になったため。
実際子供が大きくなるまで活動は休止していた。
今も古参のメンバー以外は活動していない。
月見里君は姫島で診療所を経営している為参加は難しい。
この歳になると開業する者も増えてきた。
渡辺班の親戚は比較的開業が容易だ。
地元銀行専務取締役の檜山先輩の口添えのお蔭だ。
地元銀行がだめでも江口銀行がある。
地元銀行も江口銀行に対抗するために必死だ。
融資だけじゃない、江口銀行は保険や資産運用などにも分野を広げている。
いわゆるメガバンクという奴だ。
世界各地にも支店を作っている。
もう渡辺班の領域は世界に広がっている。
如月航空も次々と空路を広げている。
路線バスへの進出も図っているらしい。
県知事に掛け合っている最中だ。
赤字路線の穴埋め、年々値上げされている運賃。
つけこむ隙はいくらでもある。
地元には交通機関が極端に少ない。
赤字路線という障壁がある。
民間事業が参入しづらいという部分もある。
道路ですら満足に作れずに変則的なインターなんかもありそれが新しい事故を生み出す。
赤字だから新しい駅や路線を作らない。
路線が無いから利用が出来ない。
結果自動車での移動が増え、渋滞ができる。
排ガス規制が難しい。
車の維持費、高騰するガソリン代を考えたらまだ交通機関を利用した方が安いのだが、利用したくても路線がない。
そこに如月グループが着目した。
線路を新設する必要がないバスなら。
すでに、高速バス、観光バスは運営しているそうだ。
江口、志水、白鳥、如月。この4つのグループが地元経済の基盤となっているのは間違いない。
そしてそんなグループの重鎮が俺に挨拶に来る。
「先輩。今年もお世話になりました」
楠木晴斗がやってきた。
晴斗もすでに地元支社長という役職についている。
俺は何も世話してないけどな。
「晴斗も元気そうで何よりだ。子供は元気か?」
「ええ、今年も滑ってきたっす」
子供達も晴斗の影響を受けてアウトドア派になっているそうだ。
「渡辺先輩、お久しぶりです」
如月伊織が来た。
如月家は今勢いのある企業。
しかし4家とも親戚が特定の地域に密集している。
あそこはそんな高級住宅街というわけでも無いのに不思議だ。
「正志、今日は朝まで騒ぐんだろ?」
「大丈夫なのか?」
「正俊は寝たよ。沙理奈も茉里奈も起きてるつもりらしい」
親として容認していいのか?
「沙理奈も茉里奈もあのくらいの年頃って徹夜で勉強するもんだろ?勉強は良くて遊んだらダメって理屈は通らないだろ」
そういう問題なのだろうか?
まあ、教育方針は美嘉に任せているから犯罪を犯さない限りは容認しているが。
「しかしとーや達も大変だな。あの年でまさか子供が増えるとは思っても見なかっただろ」
美嘉が言う。
冬夜や誠は親戚の不幸事があって取り残された子供を引き取ったらしい。
時間が0時に近づく。
そして0時になるとステージでUSE所属のアーティストのライブが開かれる。
「こんな時間に騒いですまんな」
「大丈夫です、主人は迷惑ならキャンセルさせても構わないと豪語したらしいですから」
伊織さんが言う。
もはや何でもありな世界だな。
「渡辺君、来年はうちのテーマパークを使ってちょうだい。貸し切りにするわよ」
石原恵美さんが言う。
「恵美さんは子供はいいのか?」
恵美さんだって小さい子供いただろ?
「部屋に寝せておくから問題ないわ」
「まあ、年末に考えるよ」
「わかった、大晦日は全室キャンセルさせておくわ」
年末一日くらい客を入れなかったくらいで潰れるような会社ならいつ潰しても問題ない。
恵美さんはそういう。
普通は大事なんだけどな。
まあ、ライブを楽しみながら俺たちは3時過ぎまで騒いで、そして寝た。
さすがにオールをするにはきつい歳になって来た。
歳には勝てないな。
朝みんなで春肥神社に初詣に行くと解散する。
子供たちは家に帰るとさすがに寝た。
俺も雑煮を食って寝る。
子供たちにお年玉を配った後に。
3が日の間に実家にも顔をみせておかないとな。
新年早々忙しい。
毎年そうなんだが。
目を覚ますと夕食の時間になっていた。
御節をつまみながら酒を飲む。
「沙理奈はそろそろ酒の飲み方覚えてもいいだろ?」
俺は全力で止めた。
たまに子供の教育をチェックしておかないと飛んでもないことになる。
ちなみにタバコは美嘉も許さなかった。
「調理師になるなら味覚と嗅覚は必須条件だ。それを狂わせるような真似はするんじゃない」
夕食を食べ終わると風呂に入る。
子供たちは部屋に行く。
「しかし、最初は私に育児なんて出来るのかと思ったけどなんとかなるもんだな」
美嘉がビールを飲みながら言う。
「そうだな、変に性格がねじれてないだけ大したもんだ」
「もっと褒めてくれてもいいんだぜ」
「ああ、よくやってくれてると感謝してるよ、娘たちは店を継がせるのか?」
「2人ともそのつもりらしい、もちろん茉里奈には支店を用意してやるつもりだけど」
「正俊はどうなんだ?」
「正志に似たんだろうな。小学校の先生になるって頑張って勉強してるよ」
「そうか……」
こうして夜に子供達の近況を美嘉から聞く。
3人とも美嘉には何でも話すらしい。
「明日は実家に挨拶に行くから、今日は早めに寝るとしよう」
「ま、しょうがねえな。わかったよ」
そう言って美嘉は残ったビールを飲むと寝室に行く。
渡辺班の子供で多少問題はあれど非行に走ったという子供は聞いたことは無い。
皆親の背中を見て真っ直ぐ育っているんだろう。
ありがたい事だ。
そんな事を考えながら眠りについた。
(2)
今日は水奈達がきていた。
水奈達も崇博と歩美がいるから渡辺班の忘年会に出る事が出来ない。
だったら近所だし一緒に夕食でもと多田家を誘っていた。
「考えようによっちゃ俺達幸せだよな。また夢を見る事が出来る」
水奈の父さんが父さんにからんでる。
大分酔っているようだ。
崇博と歩美はもう夢を見つけてそれに向かって歩き出している。
レーサーになる事。
まずはカートから。
週3のペースで習いに行ってる。
小学校になったらもっとペースが落ちてしまうからと今地元のコースを作ろうしているらしい。
年間1000億近くの費用が掛かることに比べたらたかだか数十億くらいどうってことないと江口グループの出資で作られたらしい。
優勝賞金もない、ただ名誉を手に入れる為の戦い。
もちろん、表彰台に立つことが出来ればスポンサー料が入る。
練習が必要なのはレーサーだけではない。
車体を作らなければならない。その技術の研究もされている。
毎年変わるレギュレーションも研究しなければならない。
タイヤ交換等のピット作業も練度が要求される。
崇博や歩美たちを筆頭にチームが一丸となって世界の頂点に挑む。
カートの時から江口グループの支援は始まっていた。
専用のレーシングカートを用意して訓練する。
崇博たちは素質はあるようだ。
コーチの近藤さんのアドバイスを受けめきめきと上達していく。
狙いは2年後の地方選手権。
練習量は他の子供よりも圧倒的に多い、それに崇博たちの素質を考えたら確実に優勝できるだろう。
2年後と言えば冬吾もいよいよサッカークラブに入る年。
その話を水奈の父さんと父さんが話をしていた。
ただ練習を始めるだけ。
まずは基礎体力を。
そんな話をしている。
年越しそばを食べる。
食べ終わる頃学達が来た。
水奈や天音が出る。
僕と翼も出かける準備をする。
「気を付けて行っておいで」
父さんがそう言うと「行ってきます」と言って家を出る。
僕達は歩いて西寒田へと向かう。
「でも、私達も一緒でよかったの?」
翼が学に聞いていた。
「水奈が一緒が良いって言いだしたからな」
今更隠す仲でもないからと学は言った。
学と水奈の関係は良好のようだ。
それを示すかのように2人は今も手をつないで歩いている。
「冬休みが明けたらいよいよ入試シーズンだな」
やっぱり話題はそこに行くか。
「浪人させてみるのも面白いかもしれない」そんな考えを持っていたら危ないけど、「浪人生の生活を調べるのが面倒くさい」という意見を持っている限り大丈夫だろう。
「学も防府だっけ?」
「ああ、南高校でもよかったんだが」
やっぱり近い方がいいらしい。
クラスの連中がは殆どが防府を狙っているらしい。
光太と麗華は大区工業を選んだ。
光太は将来やりたい事をを見据えて、麗華はどこでもいいから光太と一緒でいいやと選んだそうだ。
大区はスポーツでも有名な高校。
バレー部の沢木兄弟は大区に進学するそうだ。
テニスに嵌った山崎姉妹は福徳高校に進学する。
それぞれの道を行くクラスメートたち。
最後まで一緒にいる事が出来るのはどれだけいるんだろう?
最後は就職というカードを選ぶ時皆バラバラになる。
それでもSHという絆は守られているだろう。
父さん達のように。
神社につくと既に長蛇の列ができ上っている。
「あ、翼たちも来てたんだ」
麗華や光太たちと出会う。
まあ、うちの中学生なら皆ここにくるよな。
話ながら列は進んでいく。
そしてお参りを済ませると僕達は出店に向かう。
食べるだけ食べると帰る。
「じゃあ、俺水奈を送って帰るから」
途中で学達と別れた。
僕達も帰ると部屋に戻って着替える。
「うん、おやすみ」
「おやすみなさい」
今頃騒いでるであろう美希にメッセージを送って僕は眠った。
(3)
1月3日。
僕達は高塚に向かっていた。
僕と翼は原稿用紙一杯に防府高校合格と書き綴った原稿用紙を持っている。
それを持って行くと祈願が叶うらしい。
ただの神頼みだ。
最後の悪あがきともいう。
その時間に過去問でも解いた方がいいんじゃないか?というものもいる。
だけど、過去問を少し解いたくらいで受験の結果がかわるなら、皆必死に24時間過去問を解いているだろう?
普段から勉強しておけば問題ない。
母さんは言う。
ただゲン担ぎくらいしてもいいでしょ。
こういう時だけ日本人は神様を頼るらしい。
神様も大変だな。
だが同じ考えの人は沢山いる。
少なくとも駐車場が満車で入れなくなるくらい。
結局は実力勝負なんだろうな。
駐車してお参りして出店で食べ物買って食べる。
帰りに日田によって日田焼きそばを食べる。
家に帰ると翼と勉強する。
今年だけは特別だ。
翼と時間を計って過去問を解いていく。
そして互いに採点する。
翼は採点するだけ無駄だった。
翼の回答は模範解答よりも正確に解答するのだから。
僕は国語が若干苦手だった。
数式や法則は覚えていればいい。
だが、国語の作文問題は解答例も曖昧でこれが正解というのがない。
翼にコツを習う。
「まあ、空の実力なら国語で少々ポカやったくらいで慌てる点数じゃないよ」
僕達の点数は防府のボーダーラインなんて余裕でクリアしているのだから。
「ご飯できましたよ」
母さんが呼んでいる。
僕達は勉強を一時中断する。
そしてご飯を食べて風呂に入って再び勉強する。
23時ごろ母さんが夜食を作ってきてくれる。
キムチ雑炊だ。
それを食べると、勉強を再開する。
約束された未来とはいえ、やはり最後の悪あがきはしたくなる。
だって相手は皆そんな悪あがきをずっと続けて来た相手なんだ。
光太ですら勉強をしてるらしい。
そして眠くなって頭がぼーっとしてくると翼がシャーペンを置く。
「これ以上はやっても無駄。頭に入らない。寝よう?」
翼がそう言うと僕と翼は「間違っても徹夜で勉強なんてしちゃだめだからね」と言って自分の部屋に戻っていった。
「大丈夫、頑張ったんだから神は見捨てない」
美希からメッセージが届いていた。
僕は神なんて信じない。
だって頑張ったら救われるなんて皆頑張ってるんだから皆救われるべきだ。
だけど現実はそんな優しものじゃない。
残酷な結果が待っているものだっている。
だからすべり止めを受ける。
ただ、運命というものは信じてる。
それは例え高校受験が失敗したとしてもそれも運命でその先に僕達への贈り物が待っている。
それは受け取った後に気付くものだと思う。
だから己の運命を悲観してはいけない
もし神がいるのだとしたらそれは残酷な運命と戦う者にだけ微笑むのだから。
どんな使命を背負ってるのかなんて解らなくていい。ただ前を向いていればいい。
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