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早咲きの桜
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(1)
チャイムが鳴る。
みんなが騒めく。
僕も肩の力を抜いていた。
やっと終わった。
やれることはすべてやった。
出せる力は全て出し尽くした。
今日は大学入試の日。
「空、お疲れさま」
美希がそう言って声をかけてくれる。
SHの地元大学受験生組は帰りにファミレスに寄った。
皆で答え合わせをするとかそんなことはしない。
やっと終わったと胸をなでおろすだけ。
後は神頼みだ。
「あとは卒業式の後の結果次第ですね」
善明が言う。
「きっと皆またこうして笑って話せるよ」
美希がそう言って笑う。
「卒業旅行はどのみち行くんだろ?」
学が言っていた。
「そりゃ行かないと、中には県外に言っちゃう人もいるんだし」
翼の言う通りだった。
熊本なら偶に帰ってくるかもしれないけど神奈川まで行く人は滅多に帰ってこれないだろう。
選んだ理由も「戦闘機のパイロットになりたい」って小学校の頃の夢だったそうだけど。
社会人になる者もいる。
沢木兄弟や水島みなみは既にプロとしてチームに合流してる。
「すまないんだが、水奈も同行させてやってくれないか?」
学が聞いていた。
反対する理由はなかった。
学にとっては一度だけのチャンスなんだから。
水奈が大学を卒業する時は学は社会人だ。
遊びに行く余裕なんてないだろう。
食事を終えると僕達は家に帰る。
「お疲れ様。今までよく頑張りました」
母さんがそう出迎えてくれた。
「ありがとう」
「でもこれからも大変ですよ、大学の定期考査、税理士の資格もとるのでしょ?」
確かにそうだ。
まだ苦難は続く。
もちろん大学に合格してからの話だけど。
その日はちょっとしたご馳走だった。
「後は卒業だね」
父さんが言う。
その後も話をしながら食事を済ませると順番に風呂に入って部屋に戻る。
とりあえずは勉強という言葉を忘れて夜遅くまで遊んでいた。
学校はもう真面目に行くやつはほとんどいなかった。
出席日数も今になって足りないって事はまずないだろう。
そして卒業式の日になった。
卒業しても仮卒の期間。
4月になるまでは高校生の身分だ。
問題を起こせば卒業取り消しもある。
もちろん採用取り消しもあり得る。
月末には卒業旅行に行く予定。
その時にみんな笑っていられるといいねと言って3年間通った学校を去る。
あとは合格発表を待つのみ。
夕食を食べて風呂から出ると僕と翼は父さんと母さんに呼ばれた。
リビングのソファに腰掛ける。
お爺さんとお婆さんもダイニングから様子を見ていた。
父さんは2枚の紙切れを僕達に差し出した。
それはクレジットカードの申し込み用紙だった。
「サインは本人の直筆が必要だからサインしなさい」
父さんは言う。
「私達働いてもないんだよ。審査に通るわけない」
翼が言うと、父さんはにこりと笑った。
「口座の所をみてごらん?父さんの口座にしてあるから」
父さんが言うと用紙を手に取ってみる。
確かに父さん名義になってる。
「学生用のカードだから限度額も低い。高速を利用したり服を買ったりするときはそれを利用しなさい。それと……」
母さんが2枚のキャッシュカードを渡す。
「口座には定期的にお金を振り込むから来月からはそれでやり繰りしてみなさい。それが私達からの最後の試験です」
「試験?」
翼が聞き返す。
「どうせ、同棲しようと考えていたのでしょ?でもせっかくの最後の学生生活。バイト三昧というのも寂しいでしょ?」
母さんが言った。
父さん達もそうやって大学生活を送ってきたんだそうだ。
「でも僕達まだ合格決まったわけじゃないよ」
僕が言った。
「前に言ったよね?ちゃんと高校生活を過ごしたらプレゼントをあげるって」
父さんが言う。
僕は父さんの会社を継ぐと決めている。
なら、それに対する投資だという。
「僕達が空達にしてやれることはもうそんなにない。空達なら大丈夫だと愛莉と話し合った結果だ。どうか受け取って欲しい」
「もちろん、これからの4年間もしっかりみてますからね。大学を無事卒業出来たら最後のプレゼントがあるから」
父さんと母さんが言う。
僕達は考えて用紙にサインをした。
そして大学合否発表の時が来た。
美希を呼んで一緒に合否発表を見る。
翼と美希は当然合格していた。
そして僕の番が来た。
受験番号を入力する。
合格の2文字が見えた。
「よかったね、おめでとう」
そう言って美希が抱きつく。
すぐに母さんに知らせる。
「おめでとう」
その日はお祝いだった。
SH組は皆合格しているようだった。
僕達は一人じゃないと誓いあおう。
時代が変わっても僕はわすれない。
僕達は次の舞台へ上がる準備が出来ていた。
(2)
プレハブ校舎なんて今時あるのか?
空調を利かせていない部屋を私達は掃除していた。
3年生はもう卒業していない。
見張りの先生はいない。
適当に話をしながら掃除をしていた。
「あれ?なんか聞こえない?」
美砂が何かに気付いたようだ。
皆静かに耳を澄ませてみる。
女性の悲鳴のような声が聞こえた。
下の階からだ。
皆下の階に移動する。
私達に気付いたグループが逃げるようにその場を立ち去る。
教室のなかから叫び声が聞こえる。
「落ち着け!何があった!?」
私が言うと、女子は答えた。
窓の点検を頼まれて教室に入って戸締りを確認したら外から鍵をかけられた。
中から開けられるんじゃないのか?
そう聞いてみたけど試したけどダメだったらしい。
あいつらの仕業か。
金髪とピンクと緑があいつらを追いかけようとしたけど私は止めた。
どうせ鍵穴に細工したんだろう?
こういう時はやる事は一つ。
紗理奈と目を合わせて頷き合う。
「ドアから離れてろ!」
私が中にいるやつに言う。
「何するつもり!?」
美穂が言うと私はにやりと笑った。
一度試してみたかったんだよな。
「ドア鍵が壊れてるならやる事は一つしかない!」
紗理奈と私はドアを思いっきり蹴飛ばした。
ドアは思い切り吹き飛びガラスが割れる。
派手な音を立てたので担任の朝倉が駆け付けた。
「お前達なにをしてるんだ!?」
「先生聞いてよ。ドアが開かなくて困ってたから蹴破っちゃった。てへ」
美穂が朝倉に説明した。
凄く分かりやすい説明だ。
教室の中には泣いてる女子がいた。
確か、風岡円香。
円香が朝倉に説明する。
朝倉は見事に壊れたドアを確認する。
鍵穴に折れた鍵が詰まってた。
「まあ、非常事態だから見逃してやるけど、お前達女子だって事を少しは自覚しろ」
「は~い」
美穂が答えるとドアの残骸を片付けて朝倉が「教室に戻るぞ」と言うと皆で教室に戻る。
HRで朝倉から厳重注意があった。
HRが終ると円香はグループの連中に呼び出される。
「お前のせいで帰る時間が遅くなったじゃねーか」
どうせ帰る気なんかなかったくせに。
私と紗理奈と金髪とピンクと緑は割り込む。
「そう言う話なら私達にも言いたい事がある」
私がそう言った。
「お、お前らには関係ないだろ!?」
「あるね。お前らがガキの悪戯みたいな真似するから私達まで怒られる羽目になったじゃねーか!」
「天音の言う通りだな。お前らも壊れた扉みたいにしてやろうか?」
紗理奈が言う。
「いいか?円香はたった今から私の友達だ。今後妙な真似してみやがれ。お前らもガラクタの仲間入りだ」
私が言うと逃げるように去っていった。
「ありがとう」
「礼はいいから連絡先交換しようぜ」
そう言って円香と連絡先を交換してSHに招待した。
円香に彼氏はいるのか?と聞くといると答えた。
まあ、当たり前のように防府高校の生徒らしいが。
そして大地の知り合いなのもお約束。
家に帰ると空は荷物の整理をしている。
美希が手伝いに来ていた。
「こんなに漫画要らない。処分しようよ」
「また読むかもしれないし取っておこうよ」
「ゲームもどうせこんなにしないでしょ?売った方がいいよ」
「売っても大した額にならないよ。それに、またやるかもしれないじゃないか」
楽しそうにやり取りしてる。
2人は大学に合格して同棲が認められた。
今良い物件を探してるらしい。
この近辺で探す……と、思った。
「片桐君の跡取りにそんな無様な家を用意するわけには行かない」
大地の母さんがそう言って祈の母さんに頼んで一軒家を新築してるらしい。
バスの便も比較的あるし大学にも近いところに奇跡的に土地があったそうだ。
ちなみに翼も同じみたいだ。
美希はこの日に備えて家事の練習をしてきたらしい。
自炊する気なんだろう。
翼たちと一緒に過ごすのもあとわずかか。
ちょっと寂しい気持ちになった。
(3)
「正直迷惑なんだよね」
私はトイレに呼び出されるとそう言われた。
相手は私が3日前に入ったグループの仲間……だと思っていた。
この学校に来てもうすぐ1年がたつ。
友達が出来ないことに焦りを感じた私は思い切って「仲間に入れてください」と頼んだ。
「いいよ」
そう言ってくれて嬉しかった。
嬉しくて気づかなかった。
困惑しているリーダーに。
そして今日にいたる。
言いたい事分かるでしょ?最後まで言わせないでよ。
そんな顔をしているメンバー。
私の勘違いだったようだ。
「じゃ、そういう事で。今日から混ざってこないでね」
今まで一人だったんだから平気でしょ?
そう言って立ち去るメンバーたち。
そして私はまた1人になった。
その日の昼休み1人で食べていると気を利かせたつもりなのだろう、女子が「鈴木さんどうして1人で食べてるの?」と聞いてきた。
冷静に考えたら勝手な言い分だ。
自分たちのグループには入れたくない、でも1人で食べて寂しそうなのは見るに堪えないから他の人と食べなよ。
当然元居たグループは「こっちくんな」と言いたげにしている。
私は目障りな存在なんだな。
情けなくなってきた。
屋上で1人で食べよう。
そう思って弁当を持って教室を出ようとすると、トイレから戻って来たらしい片桐天音に捕まった。
「恵、弁当持ってどこ行くんだ?」
天音が聞いてきた。
私は何も答えなかった。
どうせ天音達も一緒だ。
そう思ってた。
「天気良いから屋上で食べようと思って」
「1人でか?お前あいつらのグループに入ったんじゃなかったのか?」
追い出されたんです。
天音は勘が鋭いらしい。
元居たグループと私の様子を見て全てを察したようだ。
「じゃあ、そういうことで」
そう言って教室を出ようとするも天音は私の腕を放さない。
「偶には外で食うってのも悪くねーな。皆どうだ?」
「もう寒いってこともねーだろうしいいんじゃね?」
天音と紗理奈が言っている。
「じゃ、ちょっと待ってろ恵。私達も弁当取ってくるから」
そう言うと天音たちは席に戻って弁当をもって私と屋上に行く。
「あいつらと何かあったのか?」
天音が弁当を食べながら聞いてきた。
隠す事でもないような気がしたから事情を説明した。
「なるほどな~」
天音は納得したようだ。
「じゃ、私達のグループに入れよ」
天音は私を勧誘している。
正直戸惑った。
また同じことを繰り返すんじゃないのか?
「今恵が思ってるようなこと絶対ないから」
美穂が断言する。
「あいつら見ろよ」
天音が言う。
袖と真菜と千葉恵がいた。
「あんな派手な髪してさ、馬鹿じゃねーの?って思わね?」
それって本人の前で堂々と言っていい事なの?
良い事だったようだ。
「このくらい普通だろ?」
3人はそう言って笑ってる。
「人間色々な奴がいるんだ。そいつが大麻吸ったり犯罪をするような奴じゃない限り関係ねーよ」
天音が言う。
「まあ、とりあえず私らのグループに入っとけ。嫌なら辞めたらいいんだからさ」
紗理奈が言うとスマホを取り出す。
この人たちなら信じてもいいか。
私はスマホを出して連絡先を交換した。
そして天音達のグループSHに入った。
「で、悩み事あるか?彼氏が欲しいなら紹介してやるし、殺したい奴がいるならすぐに埋めてやるぞ」
物騒な事を平然と言う天音。
「彼氏はいるからいいよ」
「まじか!?まさか防府だったりしないよな?」
どうして知ってるんだろう?
「連絡とかどう?週末デートしてくれたりする?」
鈴香が聞いてくる。
鈴香は相手が誘ってくれなくて困ってるらしい。
私は定期的に会ってる。
その後もみんなでわいわいやっていた。
私が欲しかったものがここにあった。
気が付いたら涙で景色が滲んでいた。
「泣くのははえーぞ!今日の放課後歓迎会してやるよ!」
紗理奈がそう言って私の肩を叩く。
早咲きの桜が舞う屋上だった。
チャイムが鳴る。
みんなが騒めく。
僕も肩の力を抜いていた。
やっと終わった。
やれることはすべてやった。
出せる力は全て出し尽くした。
今日は大学入試の日。
「空、お疲れさま」
美希がそう言って声をかけてくれる。
SHの地元大学受験生組は帰りにファミレスに寄った。
皆で答え合わせをするとかそんなことはしない。
やっと終わったと胸をなでおろすだけ。
後は神頼みだ。
「あとは卒業式の後の結果次第ですね」
善明が言う。
「きっと皆またこうして笑って話せるよ」
美希がそう言って笑う。
「卒業旅行はどのみち行くんだろ?」
学が言っていた。
「そりゃ行かないと、中には県外に言っちゃう人もいるんだし」
翼の言う通りだった。
熊本なら偶に帰ってくるかもしれないけど神奈川まで行く人は滅多に帰ってこれないだろう。
選んだ理由も「戦闘機のパイロットになりたい」って小学校の頃の夢だったそうだけど。
社会人になる者もいる。
沢木兄弟や水島みなみは既にプロとしてチームに合流してる。
「すまないんだが、水奈も同行させてやってくれないか?」
学が聞いていた。
反対する理由はなかった。
学にとっては一度だけのチャンスなんだから。
水奈が大学を卒業する時は学は社会人だ。
遊びに行く余裕なんてないだろう。
食事を終えると僕達は家に帰る。
「お疲れ様。今までよく頑張りました」
母さんがそう出迎えてくれた。
「ありがとう」
「でもこれからも大変ですよ、大学の定期考査、税理士の資格もとるのでしょ?」
確かにそうだ。
まだ苦難は続く。
もちろん大学に合格してからの話だけど。
その日はちょっとしたご馳走だった。
「後は卒業だね」
父さんが言う。
その後も話をしながら食事を済ませると順番に風呂に入って部屋に戻る。
とりあえずは勉強という言葉を忘れて夜遅くまで遊んでいた。
学校はもう真面目に行くやつはほとんどいなかった。
出席日数も今になって足りないって事はまずないだろう。
そして卒業式の日になった。
卒業しても仮卒の期間。
4月になるまでは高校生の身分だ。
問題を起こせば卒業取り消しもある。
もちろん採用取り消しもあり得る。
月末には卒業旅行に行く予定。
その時にみんな笑っていられるといいねと言って3年間通った学校を去る。
あとは合格発表を待つのみ。
夕食を食べて風呂から出ると僕と翼は父さんと母さんに呼ばれた。
リビングのソファに腰掛ける。
お爺さんとお婆さんもダイニングから様子を見ていた。
父さんは2枚の紙切れを僕達に差し出した。
それはクレジットカードの申し込み用紙だった。
「サインは本人の直筆が必要だからサインしなさい」
父さんは言う。
「私達働いてもないんだよ。審査に通るわけない」
翼が言うと、父さんはにこりと笑った。
「口座の所をみてごらん?父さんの口座にしてあるから」
父さんが言うと用紙を手に取ってみる。
確かに父さん名義になってる。
「学生用のカードだから限度額も低い。高速を利用したり服を買ったりするときはそれを利用しなさい。それと……」
母さんが2枚のキャッシュカードを渡す。
「口座には定期的にお金を振り込むから来月からはそれでやり繰りしてみなさい。それが私達からの最後の試験です」
「試験?」
翼が聞き返す。
「どうせ、同棲しようと考えていたのでしょ?でもせっかくの最後の学生生活。バイト三昧というのも寂しいでしょ?」
母さんが言った。
父さん達もそうやって大学生活を送ってきたんだそうだ。
「でも僕達まだ合格決まったわけじゃないよ」
僕が言った。
「前に言ったよね?ちゃんと高校生活を過ごしたらプレゼントをあげるって」
父さんが言う。
僕は父さんの会社を継ぐと決めている。
なら、それに対する投資だという。
「僕達が空達にしてやれることはもうそんなにない。空達なら大丈夫だと愛莉と話し合った結果だ。どうか受け取って欲しい」
「もちろん、これからの4年間もしっかりみてますからね。大学を無事卒業出来たら最後のプレゼントがあるから」
父さんと母さんが言う。
僕達は考えて用紙にサインをした。
そして大学合否発表の時が来た。
美希を呼んで一緒に合否発表を見る。
翼と美希は当然合格していた。
そして僕の番が来た。
受験番号を入力する。
合格の2文字が見えた。
「よかったね、おめでとう」
そう言って美希が抱きつく。
すぐに母さんに知らせる。
「おめでとう」
その日はお祝いだった。
SH組は皆合格しているようだった。
僕達は一人じゃないと誓いあおう。
時代が変わっても僕はわすれない。
僕達は次の舞台へ上がる準備が出来ていた。
(2)
プレハブ校舎なんて今時あるのか?
空調を利かせていない部屋を私達は掃除していた。
3年生はもう卒業していない。
見張りの先生はいない。
適当に話をしながら掃除をしていた。
「あれ?なんか聞こえない?」
美砂が何かに気付いたようだ。
皆静かに耳を澄ませてみる。
女性の悲鳴のような声が聞こえた。
下の階からだ。
皆下の階に移動する。
私達に気付いたグループが逃げるようにその場を立ち去る。
教室のなかから叫び声が聞こえる。
「落ち着け!何があった!?」
私が言うと、女子は答えた。
窓の点検を頼まれて教室に入って戸締りを確認したら外から鍵をかけられた。
中から開けられるんじゃないのか?
そう聞いてみたけど試したけどダメだったらしい。
あいつらの仕業か。
金髪とピンクと緑があいつらを追いかけようとしたけど私は止めた。
どうせ鍵穴に細工したんだろう?
こういう時はやる事は一つ。
紗理奈と目を合わせて頷き合う。
「ドアから離れてろ!」
私が中にいるやつに言う。
「何するつもり!?」
美穂が言うと私はにやりと笑った。
一度試してみたかったんだよな。
「ドア鍵が壊れてるならやる事は一つしかない!」
紗理奈と私はドアを思いっきり蹴飛ばした。
ドアは思い切り吹き飛びガラスが割れる。
派手な音を立てたので担任の朝倉が駆け付けた。
「お前達なにをしてるんだ!?」
「先生聞いてよ。ドアが開かなくて困ってたから蹴破っちゃった。てへ」
美穂が朝倉に説明した。
凄く分かりやすい説明だ。
教室の中には泣いてる女子がいた。
確か、風岡円香。
円香が朝倉に説明する。
朝倉は見事に壊れたドアを確認する。
鍵穴に折れた鍵が詰まってた。
「まあ、非常事態だから見逃してやるけど、お前達女子だって事を少しは自覚しろ」
「は~い」
美穂が答えるとドアの残骸を片付けて朝倉が「教室に戻るぞ」と言うと皆で教室に戻る。
HRで朝倉から厳重注意があった。
HRが終ると円香はグループの連中に呼び出される。
「お前のせいで帰る時間が遅くなったじゃねーか」
どうせ帰る気なんかなかったくせに。
私と紗理奈と金髪とピンクと緑は割り込む。
「そう言う話なら私達にも言いたい事がある」
私がそう言った。
「お、お前らには関係ないだろ!?」
「あるね。お前らがガキの悪戯みたいな真似するから私達まで怒られる羽目になったじゃねーか!」
「天音の言う通りだな。お前らも壊れた扉みたいにしてやろうか?」
紗理奈が言う。
「いいか?円香はたった今から私の友達だ。今後妙な真似してみやがれ。お前らもガラクタの仲間入りだ」
私が言うと逃げるように去っていった。
「ありがとう」
「礼はいいから連絡先交換しようぜ」
そう言って円香と連絡先を交換してSHに招待した。
円香に彼氏はいるのか?と聞くといると答えた。
まあ、当たり前のように防府高校の生徒らしいが。
そして大地の知り合いなのもお約束。
家に帰ると空は荷物の整理をしている。
美希が手伝いに来ていた。
「こんなに漫画要らない。処分しようよ」
「また読むかもしれないし取っておこうよ」
「ゲームもどうせこんなにしないでしょ?売った方がいいよ」
「売っても大した額にならないよ。それに、またやるかもしれないじゃないか」
楽しそうにやり取りしてる。
2人は大学に合格して同棲が認められた。
今良い物件を探してるらしい。
この近辺で探す……と、思った。
「片桐君の跡取りにそんな無様な家を用意するわけには行かない」
大地の母さんがそう言って祈の母さんに頼んで一軒家を新築してるらしい。
バスの便も比較的あるし大学にも近いところに奇跡的に土地があったそうだ。
ちなみに翼も同じみたいだ。
美希はこの日に備えて家事の練習をしてきたらしい。
自炊する気なんだろう。
翼たちと一緒に過ごすのもあとわずかか。
ちょっと寂しい気持ちになった。
(3)
「正直迷惑なんだよね」
私はトイレに呼び出されるとそう言われた。
相手は私が3日前に入ったグループの仲間……だと思っていた。
この学校に来てもうすぐ1年がたつ。
友達が出来ないことに焦りを感じた私は思い切って「仲間に入れてください」と頼んだ。
「いいよ」
そう言ってくれて嬉しかった。
嬉しくて気づかなかった。
困惑しているリーダーに。
そして今日にいたる。
言いたい事分かるでしょ?最後まで言わせないでよ。
そんな顔をしているメンバー。
私の勘違いだったようだ。
「じゃ、そういう事で。今日から混ざってこないでね」
今まで一人だったんだから平気でしょ?
そう言って立ち去るメンバーたち。
そして私はまた1人になった。
その日の昼休み1人で食べていると気を利かせたつもりなのだろう、女子が「鈴木さんどうして1人で食べてるの?」と聞いてきた。
冷静に考えたら勝手な言い分だ。
自分たちのグループには入れたくない、でも1人で食べて寂しそうなのは見るに堪えないから他の人と食べなよ。
当然元居たグループは「こっちくんな」と言いたげにしている。
私は目障りな存在なんだな。
情けなくなってきた。
屋上で1人で食べよう。
そう思って弁当を持って教室を出ようとすると、トイレから戻って来たらしい片桐天音に捕まった。
「恵、弁当持ってどこ行くんだ?」
天音が聞いてきた。
私は何も答えなかった。
どうせ天音達も一緒だ。
そう思ってた。
「天気良いから屋上で食べようと思って」
「1人でか?お前あいつらのグループに入ったんじゃなかったのか?」
追い出されたんです。
天音は勘が鋭いらしい。
元居たグループと私の様子を見て全てを察したようだ。
「じゃあ、そういうことで」
そう言って教室を出ようとするも天音は私の腕を放さない。
「偶には外で食うってのも悪くねーな。皆どうだ?」
「もう寒いってこともねーだろうしいいんじゃね?」
天音と紗理奈が言っている。
「じゃ、ちょっと待ってろ恵。私達も弁当取ってくるから」
そう言うと天音たちは席に戻って弁当をもって私と屋上に行く。
「あいつらと何かあったのか?」
天音が弁当を食べながら聞いてきた。
隠す事でもないような気がしたから事情を説明した。
「なるほどな~」
天音は納得したようだ。
「じゃ、私達のグループに入れよ」
天音は私を勧誘している。
正直戸惑った。
また同じことを繰り返すんじゃないのか?
「今恵が思ってるようなこと絶対ないから」
美穂が断言する。
「あいつら見ろよ」
天音が言う。
袖と真菜と千葉恵がいた。
「あんな派手な髪してさ、馬鹿じゃねーの?って思わね?」
それって本人の前で堂々と言っていい事なの?
良い事だったようだ。
「このくらい普通だろ?」
3人はそう言って笑ってる。
「人間色々な奴がいるんだ。そいつが大麻吸ったり犯罪をするような奴じゃない限り関係ねーよ」
天音が言う。
「まあ、とりあえず私らのグループに入っとけ。嫌なら辞めたらいいんだからさ」
紗理奈が言うとスマホを取り出す。
この人たちなら信じてもいいか。
私はスマホを出して連絡先を交換した。
そして天音達のグループSHに入った。
「で、悩み事あるか?彼氏が欲しいなら紹介してやるし、殺したい奴がいるならすぐに埋めてやるぞ」
物騒な事を平然と言う天音。
「彼氏はいるからいいよ」
「まじか!?まさか防府だったりしないよな?」
どうして知ってるんだろう?
「連絡とかどう?週末デートしてくれたりする?」
鈴香が聞いてくる。
鈴香は相手が誘ってくれなくて困ってるらしい。
私は定期的に会ってる。
その後もみんなでわいわいやっていた。
私が欲しかったものがここにあった。
気が付いたら涙で景色が滲んでいた。
「泣くのははえーぞ!今日の放課後歓迎会してやるよ!」
紗理奈がそう言って私の肩を叩く。
早咲きの桜が舞う屋上だった。
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王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
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