姉妹チート

和希

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世代交代

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「麻耶さん、天音ですよ」
「愛莉ちゃんに似て綺麗ね」

 愛莉と母さんがそんなひそひそ話をしている。
 僕は天音と一緒にバージンロードを歩いていた。
 その先にいる大地に天音を預ける。
 大地は若干緊張していた。
 僕の役目はこれで終わりなんだ。
 この日をどれだけ待ち望んでいたか。
 少し寂しいけど晴れやかな気分。
 愛莉パパも今の僕と同じ気分だったのだろうか?
 帰ったら話を聞いてみようと思った。
 式が終ると隣の会場で披露宴が催された。
 今日ばかりは流石に天音も大人しい。
 歓談の時間になると石原夫妻がやってきた。

「ありがとうね。絶対に天音ちゃんは幸せにしてあげるから、後は美希と空ね」

 恵美さんがそう言っている。

「こちらこそありがとう。天音はまだ至らないところが多いけどよろしくね」

 愛莉がそう返していた。
 歓談の時間が終ると、天音と大地から僕達へのお礼の言葉を聞いていた。
 愛莉は目頭をハンカチで押さえ泣いている。
 披露宴が終ると僕と愛莉は子供達を連れて家に帰った。
 その日は愛莉の両親を呼んでお祝いをしていた。
 主賓は2次会に行っているけど。

「冬夜君、お疲れ様」

 そう言って愛莉パパが僕にビールを注いでくれる。

「どんな気分だい?娘を嫁に送り出すというのは」

 愛莉パパが聞いて来るので、まだ実感がわかないと答えた。

「きっと満たされている証拠だよ。……だが冬夜君はまだまだ頑張らないとな」

 翼や茜、冬莉に莉子がまだいる。
 また同じ気分を味わうのだろうな。

「麻耶さん、孫の花嫁姿はどうでしたか?」

 愛莉が母さんに聞いていた。

「夢みたいだわ……出来ればひ孫も見てみたいわね」

 そんな風に母さんが答えていた。

「きっと見れますよ。頑張りましょう」

 愛莉が母さんを励ましている。

「そうね……」

 それが叶わぬ夢だと半分諦めているのだろう。
 少し寂しそうに言っていた。
 宴が終って愛莉の両親が帰ると僕達も片付けて風呂に入ってテレビを見る。
 時間になると寝室に入ってベッドに入る。

「ねえ、冬夜さん」
「どうしたの愛莉?」
「本当のところは寂しかったりするんですか?」
「実を言うとそういう気分は天音が同棲を始めた時に済ませていたんだ」

 天音が大地と同棲する。
 その時からいつかは結婚するのだろう。
 そんな覚悟を決めていたと愛莉に話した。

「パパさんは泣いていたけど冬夜さんは涙すら見せなかったので、そういう気分じゃないのかな?って気になったので」
「愛莉パパの言葉を思い出したよ」
「パパさんの?」

 愛莉が聞き返すと僕は頷いた。
 愛莉パパの言葉。

「だから娘は貴重なんだ」

 娘が選んだ相手に胸を張って預けられるように大事に育てる。
 天音の場合はまだ不安はあったけど、10年前に比べたら随分ましになっただろう。
 天音自身の意識も変わったのかもしれない。

「順当にいけば次は茜ですね」
「そうだね」

 もう相手も見つけているようだ。
 親に見放されてひねくれてしまうんじゃないかと心配だったけど大丈夫なようだ。
 純也も一緒に真っ直ぐに育ってくれた。
 純也は愛莉パパを見て警察官になることを選んだらしい。
 きっと立派な警察官になるだろう。
 その下にも莉子や冬眞がいる。
 2人は交際をしているけど血が繋がっているわけじゃないから大丈夫だろう。
 皆いい子に育ってくれる。
 それも全部愛莉のお蔭だ。

「ありがとうね、愛莉」
「……冬夜さんが支えてくれるから私は頑張れるんですよ」
「じゃあ、そろそろ寝ようか」
「そうですね」

 その時スマホが着信音を発した。
 誠からみたいだ。

「どうした?」
「悪いな、お楽しみの所だったかもしれないけど……いてぇ!」
「くだらない事言ってないでさっさと用件を言え!」

 後からカンナの声がする。
 しかし誠はどうしていつも痛い事をわざわざ伝えてくるのだろう。

「実は茜の事なんだけどな……ちょっとヤバいかもしれない」
「ヤバいってどういう事?」

 すると誠は具体的に説明をした。
 ……まだあれが残っていたのか。

「どうする冬夜。手を引かせた方がいいか?」
「……素直に手を引くような子じゃないよ」
「じゃあ、どうする?」
「子供達に任せてみてもいいんじゃないか?」

 子供達もSHという巨大なグループを作り出した。
 きっと若かりし頃の僕達のようにどんな巨大な悪にも果敢に立ち向かう事だろう。

「お前がそう言うなら俺は口を出さないけど……いいのか?」
「そうだね。好きにさせるのがいいかもしれない。ただ誠、一つだけお願いがある」
「なんだ?」
「絶対に茜に情報を与えたらいけない。子供たちが自分で答に辿り着くまで見守ってやって欲しい」

 僕達の役割は終わりだ。
 だから子供達が自分の手で答えを探すべきだ。

「わかった。ヤバいと思ったらまた冬夜に知らせるよ」
「ああ、頼む」

 電話が終ると愛莉が何事かと聞いてきた。
 愛莉に誠から聞いた話を伝える。

「親の立場としては止めるべきでないですか?」

 愛莉は心配らしい。

「僕達はそれで止めたかい?」
「……それもそうですね」
「じゃ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」

 愛莉はそう言って僕に抱きついて眠った。
 そんな愛莉の寝顔を見ながら考えていた。
 あれがまだ存在していたのか。
 しかしその中身までどうなっているのかは誠でも分からないらしい。
 まさかそんな仕組みになっていたとは知らなかった。
 そんな仕組みの物を作れるのか?
 もっと別の意図があるような気がしてならなかった。
 だけど僕達の時代は終わった。
 子供達に任せよう。
 子供達が力を求めるなら僕達はそっと手を貸してやればいい。
 そんな事を考えながら僕も眠りについた。

(2)

「お前ら今日は朝まで強制連行だからな!」
「天音、疲れてないの?無理しない方が」
「帰ってから寝るからいい!」

 私と大地のやり取りを見ていた水奈が気を使ったらしい。

「天音本当に大丈夫なのか?」

 水奈が式をあげた時はへとへとだったから心配したのだろう。
 実際私もかなり疲れていた。
 きっとこのまま2人で家に帰っても、私はくたびれて寝てしまうだろう。
 大地との思い出の初夜を過ごすことは無理だ。
 それなら皆とパーッと騒いで過ごす。
 そう決めた。
 大地には悪いと思ったけどそう伝えてあった。

「今日は天音の好きにさせてやってくれないかな」

 大地も皆にそう言っていた。

「本当にいいのか?大地と2人で夜を過ごすのが普通じゃないのか?」

 遊も気づかってくれている。

「んなもんいつだっていいだろ?どうせ子作りはするんだから」

 記念日の夜だから皆と騒ぎたい。
 思い出の夜にしてくれ。

「まあ、天音が言うなら遠慮しないからな。朝まで帰さないぞ」

 祈がそう言って笑う。

「天音がこう言ってるんだから、私達が帰る理由はないよな?学」
「……ほどほどにしとけよ」

 水奈も学の許可が下りたらしい。
 そうして私達はカラオケで夜通し騒いだ。
 私は今しかない幸せを噛みしめる事にした。
 夜が明ける頃、私達はカラオケ店を出る。
 私と大地は歩いて帰る。
 それからシャワーを浴びて大地を待っていた。

「あれ?先に寝たと思っていたのにどうしたの?」

 大地が私を見るとそう言った。

「至らないところだらけだけど、これからよろしくお願いします」

 そう言って私は頭を下げた。
 それを見た大地も慌てて床に座ると、私の手を掴んだ。

「そう言うのは無しにしよう?2人で協力して幸せになろうよ」
「そうだな……。ところで一つ聞きたいんだけど?」
「どうしたの?」

 大地が聞くと私はにこりと笑って言った。

「今はまだだけど、いずれ私も身籠るんだよな?」
「ああ、大丈夫。天音が望むなら立ち合いもちゃんとするよ」

 嫌だと言っても大地のお母さんが許さないだろう。
 しかし私の質問はそうじゃない。

「その後が問題なんだ。私は母親としてどう振舞えば良い?」

 大地の母親を参考にすればいいのか、愛莉を参考にすればいいのか。
 すると大地は苦笑いしていた。

「天音の思うようにやればいいよ。僕だって父親としてどうしたらいいのかわからないんだから」

 2人で悩んで2人で一つずつ解いていこう。
 それが夫婦というものなのだから。

「わかった。じゃあ、そろそろ寝ようか」
「そうだね」

 こうして私達の新婚生活は始まった。
 悲しみを連れて来て、希望を持って未来へ行く。
 まだまだ私達の物語は迷走を続ける。
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