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導きの光
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(1)
今年は色々あったけど、気づけばもう12月。
私はいつものように大地といっしょにお婆ちゃんの見舞いに向かっていた。
医者の見立てだと今年を越すのは難しいらしい。
だから大地に頼んで可能な限り見舞いに行っていた。
私達が生きる糧になるなら、希望になれるなら、どんなことだってする。
私の夫の大地はその事をちゃんと理解してくれた。
大地のお母さんからも言われたらしい。
「バイトで時間がとれない」
そんな事を大地が口にしたら、大地のバイト先は間違いなく悲惨な目にあう。
お婆ちゃんの入院先は鷲見にある西松病院。
市内でも腕利きの医者が集まる病院。
そんな病院で余命宣告を受ければ他が引き取るわけがない。
病院に着くと大地と一緒に病室に向かう。
先に空や翼、愛莉達が来てた。
いつも通りだ。
愛莉や善明と翼は病院から近い所にすんでいるので毎日来てるらしい。
「お婆ちゃん来たよ~」
お婆ちゃんが好きな菓子を持って病室に入る。
「あ、天音……」
翼の様子が変だ。
翼だけじゃなくて愛莉とお婆ちゃんも。
一番違っていたのはお婆ちゃんだった。
いつもなら返事をしてくれるのにこっちを漠然と見ているだけ。
私達をちゃんと認識してるのかすら怪しい。
私は翼に何があったのか聞いてみた。
翼の様子も気になる。
翼は少し考えてから愛莉と善明に「ちょっと天音と話してくる」と言って立ち上がった。
「天音、ちょっと来て」
翼の声は沈んでいる。
やっぱり何かあったのか?
大地も私について病室を出ようとすると、善明が大地は病室に残るように言った。
多分愛莉も善明も理由を知っているのだろう。
とりあえず翼についていって缶ジュースを買って翼に渡すとベンチに腰掛けた。
翼はうつむいたままだ。
「どうしたんだよ?なんか変だぞ?」
「……これから話すから落ち着いて聞いて」
まず翼が落ち着けと思ったけど、黙ってうなずいた。
それから翼の話を聞いて私も言葉を失った。
お婆ちゃんの病状はよくなったかのように見えたけど、それには理由があった。
通常の痛み止めでは効かないのでモルヒネを投与し始めた。
それはお婆ちゃんの病状は最終段階に来ている事を意味する。
もう、助からない。
だから痛みや苦しみを少しでも和らげる為の投与。
やっぱりお婆ちゃんは新年を迎えるのは難しいらしい。
パパ達も今月はいつ何があってもいい様に準備しているらしい。
先月、紅葉狩りに行った時にはあんなに元気だったのに。
何より動揺したのは翼の状態だった。
キレるくらいしか感情を露にしない翼が初めて見せる感情。
「私……どうしたらいいんだろう?」
翼のジュースを持つ手が震えている。
翼が泣いてるところなんて初めて見た。
私だって翼にそんなところ見せたくない。
翼もきっと同じはず。
でも、こらえきれないんだ。
気づいたら私も泣いていた。
「こんなんじゃだめだ。お婆ちゃんの前で泣いたらだめだ」
私はそう言って翼を抱きしめていた。
2人で泣いていた。
善明が大地を病室に呼び止めた理由が分かった。
そして善明も同じ理由で病室に残った。
きっと自分達がいたら無理するだろうから。
愛莉はきっと夜パパにすがっているのだろう。
だから私達の前では決して弱気にならない。
しばらく泣いて2人で落ち着くと話し合った。
どんな事があってもお婆ちゃんの前では笑顔でいよう。
最後くらいいい思い出を残してやりたい。
私達をちゃんと認識しているのかどうかは分からないけど。
落ち着いたら病室に戻る。
大地は善明から話を聞いたのだろうか?
私の気が済むまでお婆ちゃんの側にいさせてくれた。
夜になると仕事を終えたパパがやってくる。
「明日も学校あるんだろ?何かあったら連絡するから」
パパが言うと「また明日きます」と大地が言って私に「行こう?」と声をかけた。
「またね」
そう言える日があと何日続くだろう?
大地にお婆ちゃんの事を聞いたのか聞いてみた。
善明と愛莉から聞いたらしい。
私の想像通り私達に気づかって病室に残したらしい。
「今日は夕食外食にしようか?」
大地が言うと私は首を振った。
これからこんな日が続く。
私をだらしない嫁にしないでくれ。
私がそう言うと大地は帰りにスーパーに寄って帰った。
夕食を食べて片づけると風呂に入って2人でテレビを見ていた。
どんなお笑い番組も今の私には楽しむ余裕がなかった。
大地は優しい夫だ。
そんな私の肩を抱き寄せてくれる。
時間になるとベッドにはいる。
すると大地が言った。
善明と相談したらしい。
大地と善明がするべき事。
それはお互いのパートナーの不安を受け止めてやる事。
どんな事があっても絶対に揺らいだらいけない。
私が大地を頼りにしているのは大地が一番知っている事だったから。
大地が私を抱きしめる。
「不安があるなら僕にぶつけてくれても構わない。悲しかったら僕の前で泣けばいい」
大地以外に私の涙を見せたくないから。
プロポーズされた時に言われた事。
「わかった」
今年最後の月は片桐家にとって重要な月になるだろう。
(2)
私は晃也と一緒にイルミデートをしていた。
晃也は今専門学校に通いながらバイトを始めている。
この日の為に少しずつお金を貯めていたそうだ。
そしてクリスマスディナーを食べるレストランもちゃんと予約してあった。
高1の頃の晃也はちゃんと成長して立派になった。
ディナーを食べながら晃也と話をしていた。
「晃也は卒業したらどうするつもり?」
「働くよ。それなりの所で働けるはずだから」
ちゃんと将来も決めているようだ。
その割にはやけに不安そうな顔をしている。
それにさっきから全く落ち着きがない。
「何かあった?」
「あ、ごめん……」
何がごめんなんだろう?
「気にしないで、何か悩みがあるの?」
晃也は黙ってしまった。
食事もままならないらしい。
私はフォークとナイフをテーブルに置いた。
「そんなんじゃせっかくのイブが台無しだぞ。ちゃんと話しなさい」
何となく気づいていたけど、こればかりは私から切り出すわけには行かない。
晃也ももう一人前の男だ。
ちゃんと自分で伝えてくれるはず。
すると意を決したのか晃也は包装された小箱をテーブルの上に置いた。
ただのクリスマスプレゼントではないだろう。
私は晃也の一言に期待していた。
「卒業したらちゃんと働く。生活費だって稼いでみせる。……だから、卒業出来たら結婚してください」
晃也はちゃんと言えたようだ。
そして私の答えを待っている。
だから私もちゃんと答えてあげる事にした。
「ありがとう。こんなおばさんでよかったら是非」
晃也の固い表情がやっと笑顔に変わった。
きっとこんなレストランじゃなかったら、浮かれて叫んで喜んでくれるだろう。
「絶対に幸せにするから」
「もう十分幸せだよ」
それから食事をして店を出ると家に帰った。
地元の街では特攻服を着た暴走族が走りまわっているが、サンタの恰好をしたバイク乗りが走っている都会もあるらしい。
私達もシャワーを浴びてそんなテレビを見ていた。
一つだけ疑問があったので晃也に聞いてみた。
「でも、どうして卒業後なの?」
籍を入れるだけなら今でもいいじゃない。
同棲してるんだし。
「今は知代の稼ぎで生活してるようなもんだろ?それに……」
それに?
「知代言ってたじゃん、子供を作れるかギリギリだって」
結婚したらすぐにでも子供を作ろうと思ってるらしい。
「……ちゃんと子作りできるのか?」
ちょっと意地悪を言ってみた。
しかしこのくらいであたふたする歳ではなかったようだ。
「試してみる?」
そう言って私をベッドに誘う晃也。
「素直に抱きたいって言えばいいのに」
私はそう言って笑って明かりを消すとベッドに入って晃也と聖夜を楽しんだ。
(3)
「ちょっと吉生……この店高いんじゃないの?」
今年は少し奮発して洒落てるレストランで夕食を楽しんだ。
学生の絢香は緊張していた。
「そりゃクリスマスくらい奮発するさ」
「いつもの店でいいのに」
「こういう店嫌いか?」
「そ、そんな事無いけど」
むしろ嬉しいらしい。
それはよかった。
それからコース料理を堪能しながら絢香と話をする。
学校生活の事とか、バイトの事とか。
絢香は調理師専門学校に通っている。
資格を取る為には1年くらいの実務経験が必要だから。
最後のコーヒーが来る頃には絢香もリラックスしていた。
俺は逆に緊張していたけど。
そんな俺の異変に気づいた絢香が「どうしたの?」と聞いてきた。
少し気分を落ち着かせてポケットに入れておいた小箱を取り出すと、テーブルに置いた。
「あ、クリスマスプレゼント?ありがとう」
そう言って箱をとろうとする絢香にまったをかけた。
「どうしたの?」
「そのプレゼントを渡す前に話しておきたい事があるんだ」
「話?」
絢香には気づいてもらえなかったようだ。
俺は静かに話を始めた。
絢香は来年には専門学校を卒業する。
パティシエの資格を取ると聞いた。
来年は絢香も20歳になる。
そろそろ頃合いだ。
だから……
「来年絢香が卒業したら俺と結婚してくれないか?」
絢香は静かに話を聞いていた。
そして頬に伝わる一筋の涙。
「私でよければ……ありがとう」
その一言を聞いて俺は体の力が抜けた。
やっとたどり着いたんだ。
正確にはまだだけど。
次の日の朝絢香の家に言って報告をした。
「至らないところがある娘だがよろしくお願いします」
絢香の父親が一言そう言った。
俺も頭を下げる。
「でも吉生も意地悪だね」
帰る時に絢香が言った。
「どうしてだ?」
「だって、高校卒業した時に言ってくれたら、私専門学校行かずに嫁になったのに」
「それだとダメだろ」
「どうして?」
自分で言った事忘れたのか?
俺はにこりと笑って答えた。
「一緒にお店やってくれるんだろ?」
その資格をとる為に専門学校に行くんじゃなかったのか?
「私をこき使うつもりだったの?」
意地悪な性格してるな。
俺は絢香を抱きしめて言った。
「常にそばにいて欲しいからさ」
「……しょうがないなあ」
絢香は笑顔で応えてくれた。
「でも、子供作る時にはどうするの?」
「その時はスタッフ探すよ」
「浮気しちゃだめだよ」
結婚前にそんな事考える奴いないだろ。
「じゃあ、また」
家の前で手を振る絢香。
手に届かないと思った幸せの光は目前にきていた。
今年は色々あったけど、気づけばもう12月。
私はいつものように大地といっしょにお婆ちゃんの見舞いに向かっていた。
医者の見立てだと今年を越すのは難しいらしい。
だから大地に頼んで可能な限り見舞いに行っていた。
私達が生きる糧になるなら、希望になれるなら、どんなことだってする。
私の夫の大地はその事をちゃんと理解してくれた。
大地のお母さんからも言われたらしい。
「バイトで時間がとれない」
そんな事を大地が口にしたら、大地のバイト先は間違いなく悲惨な目にあう。
お婆ちゃんの入院先は鷲見にある西松病院。
市内でも腕利きの医者が集まる病院。
そんな病院で余命宣告を受ければ他が引き取るわけがない。
病院に着くと大地と一緒に病室に向かう。
先に空や翼、愛莉達が来てた。
いつも通りだ。
愛莉や善明と翼は病院から近い所にすんでいるので毎日来てるらしい。
「お婆ちゃん来たよ~」
お婆ちゃんが好きな菓子を持って病室に入る。
「あ、天音……」
翼の様子が変だ。
翼だけじゃなくて愛莉とお婆ちゃんも。
一番違っていたのはお婆ちゃんだった。
いつもなら返事をしてくれるのにこっちを漠然と見ているだけ。
私達をちゃんと認識してるのかすら怪しい。
私は翼に何があったのか聞いてみた。
翼の様子も気になる。
翼は少し考えてから愛莉と善明に「ちょっと天音と話してくる」と言って立ち上がった。
「天音、ちょっと来て」
翼の声は沈んでいる。
やっぱり何かあったのか?
大地も私について病室を出ようとすると、善明が大地は病室に残るように言った。
多分愛莉も善明も理由を知っているのだろう。
とりあえず翼についていって缶ジュースを買って翼に渡すとベンチに腰掛けた。
翼はうつむいたままだ。
「どうしたんだよ?なんか変だぞ?」
「……これから話すから落ち着いて聞いて」
まず翼が落ち着けと思ったけど、黙ってうなずいた。
それから翼の話を聞いて私も言葉を失った。
お婆ちゃんの病状はよくなったかのように見えたけど、それには理由があった。
通常の痛み止めでは効かないのでモルヒネを投与し始めた。
それはお婆ちゃんの病状は最終段階に来ている事を意味する。
もう、助からない。
だから痛みや苦しみを少しでも和らげる為の投与。
やっぱりお婆ちゃんは新年を迎えるのは難しいらしい。
パパ達も今月はいつ何があってもいい様に準備しているらしい。
先月、紅葉狩りに行った時にはあんなに元気だったのに。
何より動揺したのは翼の状態だった。
キレるくらいしか感情を露にしない翼が初めて見せる感情。
「私……どうしたらいいんだろう?」
翼のジュースを持つ手が震えている。
翼が泣いてるところなんて初めて見た。
私だって翼にそんなところ見せたくない。
翼もきっと同じはず。
でも、こらえきれないんだ。
気づいたら私も泣いていた。
「こんなんじゃだめだ。お婆ちゃんの前で泣いたらだめだ」
私はそう言って翼を抱きしめていた。
2人で泣いていた。
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そして善明も同じ理由で病室に残った。
きっと自分達がいたら無理するだろうから。
愛莉はきっと夜パパにすがっているのだろう。
だから私達の前では決して弱気にならない。
しばらく泣いて2人で落ち着くと話し合った。
どんな事があってもお婆ちゃんの前では笑顔でいよう。
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落ち着いたら病室に戻る。
大地は善明から話を聞いたのだろうか?
私の気が済むまでお婆ちゃんの側にいさせてくれた。
夜になると仕事を終えたパパがやってくる。
「明日も学校あるんだろ?何かあったら連絡するから」
パパが言うと「また明日きます」と大地が言って私に「行こう?」と声をかけた。
「またね」
そう言える日があと何日続くだろう?
大地にお婆ちゃんの事を聞いたのか聞いてみた。
善明と愛莉から聞いたらしい。
私の想像通り私達に気づかって病室に残したらしい。
「今日は夕食外食にしようか?」
大地が言うと私は首を振った。
これからこんな日が続く。
私をだらしない嫁にしないでくれ。
私がそう言うと大地は帰りにスーパーに寄って帰った。
夕食を食べて片づけると風呂に入って2人でテレビを見ていた。
どんなお笑い番組も今の私には楽しむ余裕がなかった。
大地は優しい夫だ。
そんな私の肩を抱き寄せてくれる。
時間になるとベッドにはいる。
すると大地が言った。
善明と相談したらしい。
大地と善明がするべき事。
それはお互いのパートナーの不安を受け止めてやる事。
どんな事があっても絶対に揺らいだらいけない。
私が大地を頼りにしているのは大地が一番知っている事だったから。
大地が私を抱きしめる。
「不安があるなら僕にぶつけてくれても構わない。悲しかったら僕の前で泣けばいい」
大地以外に私の涙を見せたくないから。
プロポーズされた時に言われた事。
「わかった」
今年最後の月は片桐家にとって重要な月になるだろう。
(2)
私は晃也と一緒にイルミデートをしていた。
晃也は今専門学校に通いながらバイトを始めている。
この日の為に少しずつお金を貯めていたそうだ。
そしてクリスマスディナーを食べるレストランもちゃんと予約してあった。
高1の頃の晃也はちゃんと成長して立派になった。
ディナーを食べながら晃也と話をしていた。
「晃也は卒業したらどうするつもり?」
「働くよ。それなりの所で働けるはずだから」
ちゃんと将来も決めているようだ。
その割にはやけに不安そうな顔をしている。
それにさっきから全く落ち着きがない。
「何かあった?」
「あ、ごめん……」
何がごめんなんだろう?
「気にしないで、何か悩みがあるの?」
晃也は黙ってしまった。
食事もままならないらしい。
私はフォークとナイフをテーブルに置いた。
「そんなんじゃせっかくのイブが台無しだぞ。ちゃんと話しなさい」
何となく気づいていたけど、こればかりは私から切り出すわけには行かない。
晃也ももう一人前の男だ。
ちゃんと自分で伝えてくれるはず。
すると意を決したのか晃也は包装された小箱をテーブルの上に置いた。
ただのクリスマスプレゼントではないだろう。
私は晃也の一言に期待していた。
「卒業したらちゃんと働く。生活費だって稼いでみせる。……だから、卒業出来たら結婚してください」
晃也はちゃんと言えたようだ。
そして私の答えを待っている。
だから私もちゃんと答えてあげる事にした。
「ありがとう。こんなおばさんでよかったら是非」
晃也の固い表情がやっと笑顔に変わった。
きっとこんなレストランじゃなかったら、浮かれて叫んで喜んでくれるだろう。
「絶対に幸せにするから」
「もう十分幸せだよ」
それから食事をして店を出ると家に帰った。
地元の街では特攻服を着た暴走族が走りまわっているが、サンタの恰好をしたバイク乗りが走っている都会もあるらしい。
私達もシャワーを浴びてそんなテレビを見ていた。
一つだけ疑問があったので晃也に聞いてみた。
「でも、どうして卒業後なの?」
籍を入れるだけなら今でもいいじゃない。
同棲してるんだし。
「今は知代の稼ぎで生活してるようなもんだろ?それに……」
それに?
「知代言ってたじゃん、子供を作れるかギリギリだって」
結婚したらすぐにでも子供を作ろうと思ってるらしい。
「……ちゃんと子作りできるのか?」
ちょっと意地悪を言ってみた。
しかしこのくらいであたふたする歳ではなかったようだ。
「試してみる?」
そう言って私をベッドに誘う晃也。
「素直に抱きたいって言えばいいのに」
私はそう言って笑って明かりを消すとベッドに入って晃也と聖夜を楽しんだ。
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今年は少し奮発して洒落てるレストランで夕食を楽しんだ。
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「そりゃクリスマスくらい奮発するさ」
「いつもの店でいいのに」
「こういう店嫌いか?」
「そ、そんな事無いけど」
むしろ嬉しいらしい。
それはよかった。
それからコース料理を堪能しながら絢香と話をする。
学校生活の事とか、バイトの事とか。
絢香は調理師専門学校に通っている。
資格を取る為には1年くらいの実務経験が必要だから。
最後のコーヒーが来る頃には絢香もリラックスしていた。
俺は逆に緊張していたけど。
そんな俺の異変に気づいた絢香が「どうしたの?」と聞いてきた。
少し気分を落ち着かせてポケットに入れておいた小箱を取り出すと、テーブルに置いた。
「あ、クリスマスプレゼント?ありがとう」
そう言って箱をとろうとする絢香にまったをかけた。
「どうしたの?」
「そのプレゼントを渡す前に話しておきたい事があるんだ」
「話?」
絢香には気づいてもらえなかったようだ。
俺は静かに話を始めた。
絢香は来年には専門学校を卒業する。
パティシエの資格を取ると聞いた。
来年は絢香も20歳になる。
そろそろ頃合いだ。
だから……
「来年絢香が卒業したら俺と結婚してくれないか?」
絢香は静かに話を聞いていた。
そして頬に伝わる一筋の涙。
「私でよければ……ありがとう」
その一言を聞いて俺は体の力が抜けた。
やっとたどり着いたんだ。
正確にはまだだけど。
次の日の朝絢香の家に言って報告をした。
「至らないところがある娘だがよろしくお願いします」
絢香の父親が一言そう言った。
俺も頭を下げる。
「でも吉生も意地悪だね」
帰る時に絢香が言った。
「どうしてだ?」
「だって、高校卒業した時に言ってくれたら、私専門学校行かずに嫁になったのに」
「それだとダメだろ」
「どうして?」
自分で言った事忘れたのか?
俺はにこりと笑って答えた。
「一緒にお店やってくれるんだろ?」
その資格をとる為に専門学校に行くんじゃなかったのか?
「私をこき使うつもりだったの?」
意地悪な性格してるな。
俺は絢香を抱きしめて言った。
「常にそばにいて欲しいからさ」
「……しょうがないなあ」
絢香は笑顔で応えてくれた。
「でも、子供作る時にはどうするの?」
「その時はスタッフ探すよ」
「浮気しちゃだめだよ」
結婚前にそんな事考える奴いないだろ。
「じゃあ、また」
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