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12月25日
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(1)
クリスマスイブの夜。
僕達は家で過ごしていた。
「イブくらい美希を休ませてあげて」
母さんがそう言ったから。
たまの休日くらい自分の彼女を休ませてあげなさい。
それが片桐家のルール。
夕食は外食で済ませて家でテレビを見ていた。
風呂に入ってテレビを見ていると、母さんから電話があった。
「すぐに病院に来なさい」
お婆ちゃんの容体が急変したのだろうか?
病院に駆けつけると天音達が先に来ていた。
夕食を食べて、家に帰る前に見舞いに来てたらしい。
病室には今お婆ちゃんとお爺ちゃんの2人っきりになっているそうだ。
天音に事情を聞いた。
急に元気になったらしい。
色々話をして、お爺ちゃんと2人で話をしているそうだ。
その前に天音達もお婆ちゃんと話をしていたらしい。
体調が回復したように見えた。
だけど翼は不安そうにしている。
「嫌な予感がする」
そう言って黙っていた。
父さん達もあまり顔色が良くない。
やがて病室からお爺ちゃんが出てくると、僕達に中に入るように言った。
病室の中に入るとお婆ちゃんがにこりと笑っていた。
クリスマスの奇跡が起こったのだろうか?
お婆ちゃんは僕達一人一人に話をしていた。
「冬夜。よく頑張ったね。母さんも安心したわ」
「ありがとう」
「愛莉ちゃん。今まで冬夜を支えてくれてありがとう。これからも冬夜がくじけそうになったら支えてあげて」
「……はい」
「翼達もいい子に育ってくれた。冬夜と愛莉ちゃんと努力の成果がちゃんと実ったみたい」
「冬夜さんがいてくれたから……」
「翼と天音は良い夫に出会えてよかったわね。これから大変だろうけど、がんばりなさい」
「わかってる。ちゃんと元気なひ孫見せるから!」
「空も色々大変だろうけど、あなた達なら乗り越えられるから」
「うん」
その後も純也や茜、冬吾や冬莉達にも声をかけていくお婆ちゃん。
全員に声をかけると、お婆ちゃんはとても穏やかな笑顔を浮かべる。
「こんなに大勢の家族に囲まれて私はとっても幸せ。皆ありがとう。これからも力を合わせて頑張ってね。……お婆ちゃんも見守ってるから」
そう言ってお婆ちゃんは目を閉じた。
すると病室にあった機器が音を立て始めた。
「麻耶さん!?」
「麻耶!?」
母さんとお爺ちゃんが声をかける。
父さんはナースコールを押す。
すぐに学の母さんと深雪先生が駆けつける。
お婆ちゃんの返事がない。
深雪先生が色々お婆ちゃんの容態を確認している。
そして、深雪先生が時計を見た時、僕達は絶望した。
ドラマでよくあるシーンだ。
「残念ですが……」
深雪先生がそう言った時、翼は善明に抱きついて泣き始めた。
冬吾も泣いていた。
天音も大地に抱きついて泣いている。
「頑張ったな……」
お爺ちゃんはお婆ちゃんに声をかけている。
父さんは泣いている母さんをそっと抱いていた。
僕は頭の中が真っ白だった。
泣くという感情がマヒしていた。
人が死ぬってこういう事なんだ。
驚いたのは深雪先生や学の母さんまで泣き出したこと。
「片桐君、ごめんなさい!」
二人共父さんにそう言っていた。
お婆ちゃんが亡くなった時刻は、奇しくも冬吾や冬莉の生まれた日時と同じ。
12月25日の出来事だった。
(2)
後日お通夜と葬儀が行われた。
家族だけでしようと父さんが言っていたけど、父さんの仲間の渡辺班が駆けつけてくれることを考えて式場を手配してもらった。
式場は美希のお母さんが手配してくれた。
「私の親戚の葬儀よ。年末にハロワに人が並ぶ事態にしたくなかったらすぐに準備しなさい!」
もちろん美希の両親や善明の両親も駆けつけてくれた。
善明の父親は年末の仕事におわれていたが、来れないとか言おうものなら年末の駅のホームが大惨事になる。
たかが1個人の家の葬儀とは思えないほどの供花や花輪が飾られていた。
喪主はお爺ちゃんがなった。
葬儀の最後にお爺ちゃんが挨拶すると火葬場に霊柩車が先導して向かう。
そこでお婆ちゃんと最後のお別れ。
僕達も礼服をすぐに用意して同行していた。
最後のお別れがすむと、棺桶が火葬炉に入っていく。
その時翼が驚いていた。
「パパが……」
翼が父さんを指差すので見てみると、僕も言葉を失った。
父さんが母さんに泣きついている。
体を震わせている。
母さんが懸命に慰める。
肉親を失うってそういうことなんだ。
火葬している間お爺ちゃんと話をしていた。
お婆ちゃんとの思い出話。
色んな事があったらしい。
父さんは家事が苦手で母さんに任せっきりでお婆ちゃんに怒られていたらしい。
父さんと母さんの交際にはおおらかで、気を利かせて中学の時から二人で一泊させたりして、お爺ちゃんはハラハラしていたそうだ。
母さんの方のお婆ちゃんも色々話を聞かせてくれた。
火葬が済むと骨壺に納骨していく。
骨というか灰のような物になり果てたお婆ちゃん。
みんなが順番に骨を入れていく。
最後にお爺ちゃんが喉仏をいれてお終い。
年が明けたら墓を探すらしい。
僕達は家に帰ると着替えた。
SHの皆がお悔やみのメッセージを並べていた。
それに返事を返す作業。
「最後はとても安らかな顔をしていたね」
美希が言う。
きっと天国に行ける。
「きっと幸せだったよね」
「そうだね」
夜になると今日は外食にしようと提案した。
美希も色々疲れているだろうから。
「大丈夫、何か作るよ」
「でも……」
僕が何か言おうとすると美希は僕を抱きしめる。
「空の気持ちは私には分からない、だけど辛い事だけは分かる。だから、今は私に頼って欲しい」
僕達に休息はゆるされない。
一秒一秒を大切に生きていかなければ。
美希が落ち込んでいた時に僕が支えになったから、今度は美希の番だ。
「あんまり無理しないでね」
「気にしないで。その代わり年末の大掃除は空も手伝ってね」
美希はそう言って笑った。
お婆ちゃんとの思い出は消えない。
僕達が生きている間は絶対に忘れない。
お婆ちゃんの愛を忘れない。
一緒に過ごした日が遠い光になろうとも、それでも僕達は行く。
明日を見つめていくんだ。
(3)
天音はずっと泣いたままだった。
僕は懸命に優しい言葉を天音にかけていた。
天音もそれに応えて必死に普段通りに振舞おうとしていた。
それがかえって痛々しかった。
葬儀が済んでしばらく天音の実家に残る事も考えた。
ちょうど冬休みだ。
天音も天音の母さんが心配だったそうだ。
だけど天音の父さんが言った。
「愛莉は僕の妻だ。僕に任せて。その代わり大地君、悪いけど……」
その続きは聞かなくても分かっていた。
僕も天音の夫なんだからちゃんと支えてやらないと。
泣かないように、寂しさに震えないように。
天音も僕に心配をかけたくないと思って普通に家事をしていた。
年末だからテレビも今年の事件を振り返ったり、歌番組だったり、お笑い番組だったり。
さすがに格闘は見る気になれなかった。
天音もきっとそうだろう。
天音が無理して笑っている。
無理しているのが分かっていた。
「じゃ、そろそろ寝ようぜ」
天音がそう言うとベッドに入る。
「天音」
「どうした?」
僕は天音を抱きしめる。
「ごめん、今そんな気分じゃないんだ」
「わかってる。だからこうしてる」
「どういう意味だ?」
天音は僕を見た。
「前に言った事覚えてる?」
プロポーズした時に言った言葉。
「天音の涙を見るのは僕だけでいい」
今がその時だ。
思いっきり僕に頼っていい。
思いっきり泣けばいい。
まだ頼りない旦那かもしれないけど頼って欲しい。
その為に僕がいるんだから。
その代わり朝は笑顔で迎えよう。
いつまでも深い闇の夜は続かない。
いずれ朝が訪れる。
世界に色がつく時がくる。
それまではゆっくり休んでいていいから。
僕がそう言うと天音は僕の胸の上で思いっきり泣いていた。
こんなに取り乱した天音は初めてだ。
戸惑ったけどしっかり天音の涙を受け止めてやった。
しばらく泣いた後、天音は静かになった。
「私は幸せ者だな。こんなに優しい旦那を持つことが出来た」
「僕も天音という人生最高のパートナーに出会えてよかった」
「ありがとな。もう大丈夫。心配かけてごめん」
「妻の心配をしない夫なんていないよ」
「うん……」
それから天音は僕に抱きついたまま眠った。
安らかな寝顔を見ながら僕も眠りについた。
そして朝を迎える。
「休みだからってだらだら寝てんじゃねーぞ!」
天音が僕を起こす。
「朝食出来てるから、食ったら気晴らしにどっか連れて行ってくれ!」
「……行きたいところあるの?」
「ドライブでもどうだ?山に行くなら私の車出すから」
それだけは絶対に避けないと。
「海でいいんじゃないかな?」
今日は晴れてるみたいだしきっと景色が綺麗だよ。
「なんだ。私の運転じゃ不満なのか?」
夫と心中するような真似はしないよ。
どんなに頑張ってもパパの領域には届かないから。
天音はそう言って笑っていた。
「妻に運転させて寝てしまったら、僕が母さんに埋められるよ」
「……まだ、未亡人にはなりたくないな」
天音は笑顔で言った。
天音のお婆ちゃんと過ごした日が遠い光になっていく。
それでも残った僕達は行かなければいけない。
天音に託された思いを背負って今を生きていく。
(4)
お葬式が終った後、家の中は沈んでいた。
愛莉が落ち込んでいる。
冬吾も泣いている。
大切な人を失うという事はそういう事なんだろう。
私はスマホを弄って遊んでいた。
時間になるとお腹がすく。
だけど、片桐家は時間が止まったかのように誰も動かなかった。
しょうがないな。
私はリビングに行って愛莉に言った。
「お腹空いた」
「もうそんな時間なのね……今日は何が食べたい?」
「ハンバーグ!」
「……じゃあ、僕が弁当買ってくるよ」
パパが言った。
「愛莉の手作りが食べたい」
「冬莉、今は愛莉をそっとしておいてあげよう?」
パパが私に言うと、私は首を振った。
「それ昨日も言ってた。いつまで続くの?」
パパも言ってたじゃない。
「思い出だけじゃお腹が空く」
いつまでもお婆ちゃんが亡くなったことを気にしていてもしょうがない。
それじゃ、お婆ちゃんは救われない。
お婆ちゃんは言ってた。
「見守ってる」
こんなんじゃお婆ちゃんは安心して天国にいけないよ?
パパは私の話を聞いて、私の頭を撫でていた。
「今日は遅くなるから、明日にしよう」
「冬夜さん」
「冬吾を呼んでおいで。焼肉でも食べに行こうか」
パパはにこりと笑って言った。
お爺ちゃん達も一緒に焼肉を食べた。
「やっぱり食事はこうじゃないと。私ずっとしょぼい料理で嫌気がさしてたんだよね」
「冬莉もやっぱり冬夜さんの血がながれてるのね」
愛莉がそう言ってた。
食事を終えると、家に帰ってパパがリビングに皆を集める。
「そろそろいいんじゃないか?」
さよならを伝えよう。
お婆ちゃんの愛しさは忘れない。
だけど、一緒に過ごした日が遠い光になっても、私達は行かなければならない。
お婆ちゃんがいない今を生きていこう。
「そうだよね。お婆ちゃんが見守ってくれてるのにいつまでも沈んでいても仕方ないよね」
茜が言う。
「愛莉、何かあったら僕が聞いてあげるから」
「……そうですね」
愛莉はまだ引きずっている様だけど、作り笑いをしていた。
時間になると皆眠りにつく。
悲しみを抱えて夜を迎えて、希望を抱いて朝を迎える。
希望という名の光。
光の正体は愛。
私達はお婆ちゃんから光を授かって今を生きていく。
(5)
「母さん、ちょっと冬吾君のところ行ってくる」
そう言って私は冬吾君の家に向かった。
呼び鈴を鳴らすと冬吾君のお母さんが出た。
「冬吾君いますか?」
「部屋にいるけど。上がっていく?」
冬吾君のお母さんが言うと私は頷いた。
冬吾君の部屋に案内されると、寝転がってスマホを弄っている冬莉と、ぼーっとテレビを見ている冬吾君がいた。
冬吾君が私に気がついて私を見る。
「どうしたの?」
私はにこりと笑って用意しておいた箱を冬吾君に見せた。
「私の自信作なんだ。一緒に食べようと思って」
どうせ今年はそれどころじゃなかったんでしょ?
私はテーブルに箱を置くと箱を開ける。
手作りのケーキだった。
「あ、瞳子すごいね。これ一人で作ったの?」
冬莉がスマホの操作を止めてケーキを見ていた。
「うん」
「じゃあ、皿とか持って来るね」
そう言って冬莉は部屋を出る。
冬吾君は浮かない顔をしていたけど「ありがとう」と言ってくれた。
冬莉が戻ってくるとケーキを切り分けて小皿に乗せて冬吾君に渡す。
ケーキを食べる冬吾君を見て私は感想を聞いていた。
「味どうかな?」
「わかんない」
やっぱり落ち込んでいるようだ。
しかし冬莉が言う。
「冬吾、それじゃだめ。どうして瞳子がケーキ持って来たのか意味考えた?」
「意味?」
「バースデーケーキだよ」
冬莉にはバレていたらしい。
あの日冬吾君のお婆ちゃんが亡くなったから渡しそびれた。
その後の冬吾君の様子はメッセージで知っていた。
だからあえてメッセージも残した。
ハッピーバースデー。
私は冬吾君に言う。
「亡くなっていく人もいるけど、生まれてくる人もいる。そして冬吾君は今を生きている」
生まれてくる意味、死んでいく意味、君がいる今。
そこにはたった一言伝言が残されているはず。
「私は冬吾君のお婆ちゃんの事は分からない。だけどきっとそんな辛そうな冬吾君を望んでいるわけじゃないよ」
幸せにおなりなさい。
私の声は冬吾君に届いているだろうか?
届いたようだ。
「瞳子の言う通りだね。ありがとう」
そういって冬吾君はあっという間にケーキを食べつくす。
「美味しかったよ。きっといいお嫁さんになるよ」
「本当に?」
「うん」
「じゃあ、冬吾君のお嫁さんにして下さい」
冬吾君は少し驚いていた。
冬莉はにこりと笑っている。
「なってくれますか?」
「大人になったらもう一回聞かせて欲しい」
少し恥ずかしかった。
「よかったね冬吾。これで将来は保証されたよ」
冬莉が言う。
「冬莉も早く彼氏作ったら?」
「色々大変そうだしな~」
恋という物をいまだに理解できない。
それから3人で話をして、夕飯前に私は家に帰る。
「また夜電話するよ。今日はありがとう」
「気にしないで。まだ幼いけど冬吾君を支えるのが私の役目だと思うから」
「じゃあ、僕も瞳子を幸せにしてあげないとね」
「ありがとう」
家に帰ると食事を済ませて風呂に入って部屋で冬吾君と電話をする。
お正月は法事があって忙しいみたいだから、次会うのは3学期が始まってからになるだろうと冬吾君が言う。
「寂しかったらいつでも電話してね」
「うん」
電話を終わると私はベッドに入る。
人はいずれ死を迎える。
その時にどれだけの人が自分の為に涙を流すかが大切な事だという。
冬吾君のお婆ちゃんはそれを残した。
そして私達に告げる。
幾度も悲しみを迎えてその上に今があるのだと。
クリスマスイブの夜。
僕達は家で過ごしていた。
「イブくらい美希を休ませてあげて」
母さんがそう言ったから。
たまの休日くらい自分の彼女を休ませてあげなさい。
それが片桐家のルール。
夕食は外食で済ませて家でテレビを見ていた。
風呂に入ってテレビを見ていると、母さんから電話があった。
「すぐに病院に来なさい」
お婆ちゃんの容体が急変したのだろうか?
病院に駆けつけると天音達が先に来ていた。
夕食を食べて、家に帰る前に見舞いに来てたらしい。
病室には今お婆ちゃんとお爺ちゃんの2人っきりになっているそうだ。
天音に事情を聞いた。
急に元気になったらしい。
色々話をして、お爺ちゃんと2人で話をしているそうだ。
その前に天音達もお婆ちゃんと話をしていたらしい。
体調が回復したように見えた。
だけど翼は不安そうにしている。
「嫌な予感がする」
そう言って黙っていた。
父さん達もあまり顔色が良くない。
やがて病室からお爺ちゃんが出てくると、僕達に中に入るように言った。
病室の中に入るとお婆ちゃんがにこりと笑っていた。
クリスマスの奇跡が起こったのだろうか?
お婆ちゃんは僕達一人一人に話をしていた。
「冬夜。よく頑張ったね。母さんも安心したわ」
「ありがとう」
「愛莉ちゃん。今まで冬夜を支えてくれてありがとう。これからも冬夜がくじけそうになったら支えてあげて」
「……はい」
「翼達もいい子に育ってくれた。冬夜と愛莉ちゃんと努力の成果がちゃんと実ったみたい」
「冬夜さんがいてくれたから……」
「翼と天音は良い夫に出会えてよかったわね。これから大変だろうけど、がんばりなさい」
「わかってる。ちゃんと元気なひ孫見せるから!」
「空も色々大変だろうけど、あなた達なら乗り越えられるから」
「うん」
その後も純也や茜、冬吾や冬莉達にも声をかけていくお婆ちゃん。
全員に声をかけると、お婆ちゃんはとても穏やかな笑顔を浮かべる。
「こんなに大勢の家族に囲まれて私はとっても幸せ。皆ありがとう。これからも力を合わせて頑張ってね。……お婆ちゃんも見守ってるから」
そう言ってお婆ちゃんは目を閉じた。
すると病室にあった機器が音を立て始めた。
「麻耶さん!?」
「麻耶!?」
母さんとお爺ちゃんが声をかける。
父さんはナースコールを押す。
すぐに学の母さんと深雪先生が駆けつける。
お婆ちゃんの返事がない。
深雪先生が色々お婆ちゃんの容態を確認している。
そして、深雪先生が時計を見た時、僕達は絶望した。
ドラマでよくあるシーンだ。
「残念ですが……」
深雪先生がそう言った時、翼は善明に抱きついて泣き始めた。
冬吾も泣いていた。
天音も大地に抱きついて泣いている。
「頑張ったな……」
お爺ちゃんはお婆ちゃんに声をかけている。
父さんは泣いている母さんをそっと抱いていた。
僕は頭の中が真っ白だった。
泣くという感情がマヒしていた。
人が死ぬってこういう事なんだ。
驚いたのは深雪先生や学の母さんまで泣き出したこと。
「片桐君、ごめんなさい!」
二人共父さんにそう言っていた。
お婆ちゃんが亡くなった時刻は、奇しくも冬吾や冬莉の生まれた日時と同じ。
12月25日の出来事だった。
(2)
後日お通夜と葬儀が行われた。
家族だけでしようと父さんが言っていたけど、父さんの仲間の渡辺班が駆けつけてくれることを考えて式場を手配してもらった。
式場は美希のお母さんが手配してくれた。
「私の親戚の葬儀よ。年末にハロワに人が並ぶ事態にしたくなかったらすぐに準備しなさい!」
もちろん美希の両親や善明の両親も駆けつけてくれた。
善明の父親は年末の仕事におわれていたが、来れないとか言おうものなら年末の駅のホームが大惨事になる。
たかが1個人の家の葬儀とは思えないほどの供花や花輪が飾られていた。
喪主はお爺ちゃんがなった。
葬儀の最後にお爺ちゃんが挨拶すると火葬場に霊柩車が先導して向かう。
そこでお婆ちゃんと最後のお別れ。
僕達も礼服をすぐに用意して同行していた。
最後のお別れがすむと、棺桶が火葬炉に入っていく。
その時翼が驚いていた。
「パパが……」
翼が父さんを指差すので見てみると、僕も言葉を失った。
父さんが母さんに泣きついている。
体を震わせている。
母さんが懸命に慰める。
肉親を失うってそういうことなんだ。
火葬している間お爺ちゃんと話をしていた。
お婆ちゃんとの思い出話。
色んな事があったらしい。
父さんは家事が苦手で母さんに任せっきりでお婆ちゃんに怒られていたらしい。
父さんと母さんの交際にはおおらかで、気を利かせて中学の時から二人で一泊させたりして、お爺ちゃんはハラハラしていたそうだ。
母さんの方のお婆ちゃんも色々話を聞かせてくれた。
火葬が済むと骨壺に納骨していく。
骨というか灰のような物になり果てたお婆ちゃん。
みんなが順番に骨を入れていく。
最後にお爺ちゃんが喉仏をいれてお終い。
年が明けたら墓を探すらしい。
僕達は家に帰ると着替えた。
SHの皆がお悔やみのメッセージを並べていた。
それに返事を返す作業。
「最後はとても安らかな顔をしていたね」
美希が言う。
きっと天国に行ける。
「きっと幸せだったよね」
「そうだね」
夜になると今日は外食にしようと提案した。
美希も色々疲れているだろうから。
「大丈夫、何か作るよ」
「でも……」
僕が何か言おうとすると美希は僕を抱きしめる。
「空の気持ちは私には分からない、だけど辛い事だけは分かる。だから、今は私に頼って欲しい」
僕達に休息はゆるされない。
一秒一秒を大切に生きていかなければ。
美希が落ち込んでいた時に僕が支えになったから、今度は美希の番だ。
「あんまり無理しないでね」
「気にしないで。その代わり年末の大掃除は空も手伝ってね」
美希はそう言って笑った。
お婆ちゃんとの思い出は消えない。
僕達が生きている間は絶対に忘れない。
お婆ちゃんの愛を忘れない。
一緒に過ごした日が遠い光になろうとも、それでも僕達は行く。
明日を見つめていくんだ。
(3)
天音はずっと泣いたままだった。
僕は懸命に優しい言葉を天音にかけていた。
天音もそれに応えて必死に普段通りに振舞おうとしていた。
それがかえって痛々しかった。
葬儀が済んでしばらく天音の実家に残る事も考えた。
ちょうど冬休みだ。
天音も天音の母さんが心配だったそうだ。
だけど天音の父さんが言った。
「愛莉は僕の妻だ。僕に任せて。その代わり大地君、悪いけど……」
その続きは聞かなくても分かっていた。
僕も天音の夫なんだからちゃんと支えてやらないと。
泣かないように、寂しさに震えないように。
天音も僕に心配をかけたくないと思って普通に家事をしていた。
年末だからテレビも今年の事件を振り返ったり、歌番組だったり、お笑い番組だったり。
さすがに格闘は見る気になれなかった。
天音もきっとそうだろう。
天音が無理して笑っている。
無理しているのが分かっていた。
「じゃ、そろそろ寝ようぜ」
天音がそう言うとベッドに入る。
「天音」
「どうした?」
僕は天音を抱きしめる。
「ごめん、今そんな気分じゃないんだ」
「わかってる。だからこうしてる」
「どういう意味だ?」
天音は僕を見た。
「前に言った事覚えてる?」
プロポーズした時に言った言葉。
「天音の涙を見るのは僕だけでいい」
今がその時だ。
思いっきり僕に頼っていい。
思いっきり泣けばいい。
まだ頼りない旦那かもしれないけど頼って欲しい。
その為に僕がいるんだから。
その代わり朝は笑顔で迎えよう。
いつまでも深い闇の夜は続かない。
いずれ朝が訪れる。
世界に色がつく時がくる。
それまではゆっくり休んでいていいから。
僕がそう言うと天音は僕の胸の上で思いっきり泣いていた。
こんなに取り乱した天音は初めてだ。
戸惑ったけどしっかり天音の涙を受け止めてやった。
しばらく泣いた後、天音は静かになった。
「私は幸せ者だな。こんなに優しい旦那を持つことが出来た」
「僕も天音という人生最高のパートナーに出会えてよかった」
「ありがとな。もう大丈夫。心配かけてごめん」
「妻の心配をしない夫なんていないよ」
「うん……」
それから天音は僕に抱きついたまま眠った。
安らかな寝顔を見ながら僕も眠りについた。
そして朝を迎える。
「休みだからってだらだら寝てんじゃねーぞ!」
天音が僕を起こす。
「朝食出来てるから、食ったら気晴らしにどっか連れて行ってくれ!」
「……行きたいところあるの?」
「ドライブでもどうだ?山に行くなら私の車出すから」
それだけは絶対に避けないと。
「海でいいんじゃないかな?」
今日は晴れてるみたいだしきっと景色が綺麗だよ。
「なんだ。私の運転じゃ不満なのか?」
夫と心中するような真似はしないよ。
どんなに頑張ってもパパの領域には届かないから。
天音はそう言って笑っていた。
「妻に運転させて寝てしまったら、僕が母さんに埋められるよ」
「……まだ、未亡人にはなりたくないな」
天音は笑顔で言った。
天音のお婆ちゃんと過ごした日が遠い光になっていく。
それでも残った僕達は行かなければいけない。
天音に託された思いを背負って今を生きていく。
(4)
お葬式が終った後、家の中は沈んでいた。
愛莉が落ち込んでいる。
冬吾も泣いている。
大切な人を失うという事はそういう事なんだろう。
私はスマホを弄って遊んでいた。
時間になるとお腹がすく。
だけど、片桐家は時間が止まったかのように誰も動かなかった。
しょうがないな。
私はリビングに行って愛莉に言った。
「お腹空いた」
「もうそんな時間なのね……今日は何が食べたい?」
「ハンバーグ!」
「……じゃあ、僕が弁当買ってくるよ」
パパが言った。
「愛莉の手作りが食べたい」
「冬莉、今は愛莉をそっとしておいてあげよう?」
パパが私に言うと、私は首を振った。
「それ昨日も言ってた。いつまで続くの?」
パパも言ってたじゃない。
「思い出だけじゃお腹が空く」
いつまでもお婆ちゃんが亡くなったことを気にしていてもしょうがない。
それじゃ、お婆ちゃんは救われない。
お婆ちゃんは言ってた。
「見守ってる」
こんなんじゃお婆ちゃんは安心して天国にいけないよ?
パパは私の話を聞いて、私の頭を撫でていた。
「今日は遅くなるから、明日にしよう」
「冬夜さん」
「冬吾を呼んでおいで。焼肉でも食べに行こうか」
パパはにこりと笑って言った。
お爺ちゃん達も一緒に焼肉を食べた。
「やっぱり食事はこうじゃないと。私ずっとしょぼい料理で嫌気がさしてたんだよね」
「冬莉もやっぱり冬夜さんの血がながれてるのね」
愛莉がそう言ってた。
食事を終えると、家に帰ってパパがリビングに皆を集める。
「そろそろいいんじゃないか?」
さよならを伝えよう。
お婆ちゃんの愛しさは忘れない。
だけど、一緒に過ごした日が遠い光になっても、私達は行かなければならない。
お婆ちゃんがいない今を生きていこう。
「そうだよね。お婆ちゃんが見守ってくれてるのにいつまでも沈んでいても仕方ないよね」
茜が言う。
「愛莉、何かあったら僕が聞いてあげるから」
「……そうですね」
愛莉はまだ引きずっている様だけど、作り笑いをしていた。
時間になると皆眠りにつく。
悲しみを抱えて夜を迎えて、希望を抱いて朝を迎える。
希望という名の光。
光の正体は愛。
私達はお婆ちゃんから光を授かって今を生きていく。
(5)
「母さん、ちょっと冬吾君のところ行ってくる」
そう言って私は冬吾君の家に向かった。
呼び鈴を鳴らすと冬吾君のお母さんが出た。
「冬吾君いますか?」
「部屋にいるけど。上がっていく?」
冬吾君のお母さんが言うと私は頷いた。
冬吾君の部屋に案内されると、寝転がってスマホを弄っている冬莉と、ぼーっとテレビを見ている冬吾君がいた。
冬吾君が私に気がついて私を見る。
「どうしたの?」
私はにこりと笑って用意しておいた箱を冬吾君に見せた。
「私の自信作なんだ。一緒に食べようと思って」
どうせ今年はそれどころじゃなかったんでしょ?
私はテーブルに箱を置くと箱を開ける。
手作りのケーキだった。
「あ、瞳子すごいね。これ一人で作ったの?」
冬莉がスマホの操作を止めてケーキを見ていた。
「うん」
「じゃあ、皿とか持って来るね」
そう言って冬莉は部屋を出る。
冬吾君は浮かない顔をしていたけど「ありがとう」と言ってくれた。
冬莉が戻ってくるとケーキを切り分けて小皿に乗せて冬吾君に渡す。
ケーキを食べる冬吾君を見て私は感想を聞いていた。
「味どうかな?」
「わかんない」
やっぱり落ち込んでいるようだ。
しかし冬莉が言う。
「冬吾、それじゃだめ。どうして瞳子がケーキ持って来たのか意味考えた?」
「意味?」
「バースデーケーキだよ」
冬莉にはバレていたらしい。
あの日冬吾君のお婆ちゃんが亡くなったから渡しそびれた。
その後の冬吾君の様子はメッセージで知っていた。
だからあえてメッセージも残した。
ハッピーバースデー。
私は冬吾君に言う。
「亡くなっていく人もいるけど、生まれてくる人もいる。そして冬吾君は今を生きている」
生まれてくる意味、死んでいく意味、君がいる今。
そこにはたった一言伝言が残されているはず。
「私は冬吾君のお婆ちゃんの事は分からない。だけどきっとそんな辛そうな冬吾君を望んでいるわけじゃないよ」
幸せにおなりなさい。
私の声は冬吾君に届いているだろうか?
届いたようだ。
「瞳子の言う通りだね。ありがとう」
そういって冬吾君はあっという間にケーキを食べつくす。
「美味しかったよ。きっといいお嫁さんになるよ」
「本当に?」
「うん」
「じゃあ、冬吾君のお嫁さんにして下さい」
冬吾君は少し驚いていた。
冬莉はにこりと笑っている。
「なってくれますか?」
「大人になったらもう一回聞かせて欲しい」
少し恥ずかしかった。
「よかったね冬吾。これで将来は保証されたよ」
冬莉が言う。
「冬莉も早く彼氏作ったら?」
「色々大変そうだしな~」
恋という物をいまだに理解できない。
それから3人で話をして、夕飯前に私は家に帰る。
「また夜電話するよ。今日はありがとう」
「気にしないで。まだ幼いけど冬吾君を支えるのが私の役目だと思うから」
「じゃあ、僕も瞳子を幸せにしてあげないとね」
「ありがとう」
家に帰ると食事を済ませて風呂に入って部屋で冬吾君と電話をする。
お正月は法事があって忙しいみたいだから、次会うのは3学期が始まってからになるだろうと冬吾君が言う。
「寂しかったらいつでも電話してね」
「うん」
電話を終わると私はベッドに入る。
人はいずれ死を迎える。
その時にどれだけの人が自分の為に涙を流すかが大切な事だという。
冬吾君のお婆ちゃんはそれを残した。
そして私達に告げる。
幾度も悲しみを迎えてその上に今があるのだと。
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この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
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