姉妹チート

和希

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不滅の王

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(1)

「そこまでだゴミ共!」

 天音が喧嘩している二つのグループに向かって叫んだ。
 創世神と魅惑の魔眼。
 創世神がイーリスを力づくで奪おうとしているらしい。
 赤松景太郎の知らせを受けて僕達は駆け付けた。
 二組の闘争は止まり、僕達を睨む。

「あんさんには関係ないやろ?怪我せんうちに帰り」

 創世神のリーダーの翔和が言った。

「雑魚はすっこんでろ!空の王が直々に来たんだぞ」

 遊が言う。
 絶対に水奈や粋は笑ってる。

「……遊、それわざわざ言う必要あるのか?」
「だって王様の命令なら聞くだろ普通」

 天音も遊も必死に笑いをこらえている様だ。
 その二つ名返上したいんだけどな……
 だけど翔和は反応した。

「空の王やと?」

 効果はあったらしい。

「そうだ!王様が直々に伝えたい事があるってわざわざ出向いて来たんだ!大人しくひれ伏せゴミ共!……ぷっ」

 天音は我慢できなかったらしい。

「天音笑ったら失礼だろ!」
「我慢しろってのが無理だろ遊!」

 二人が笑い出すと水奈や粋、花やなずなにまで笑いが伝染する。

「今更何の用だ?空の王」

 真顔で聞いてくるキリク。
 そんな真顔で言われても困るんだけどな。

「空や、そろそろ始めていいんじゃないかい?」

 善明が言うと僕は話を始めた。

「翔和、お前たちの目的はもうバレている。諦めろ」
「なんやて?」
「……どういう意味だ?」

 翔和とキリクが僕に反応した。

「翔和の目的はイーリスの中味じゃない。イーリスそのものだ」

 僕がそう言うと皆がざわつく。
 
「言ってる意味がよくわからないんだけど、空の王」

 由衣さんが言うと、翼まで笑い出す。
 
「お遊びで来たんじゃないんだぞ?」

 そういう学も難しい表情をしている。
 SHのチャットでは僕のIDが「空の王」になってる。
 多分犯人は茜。
 とりあえず話を続ける事にした。

「イーリスの中味はキリクや由衣さん。それにおそらく翔和も知ってるんじゃないのか?」

 そう言うと翔和の体がぴくっと動いた。
 皆の目線が翔和にいく。

「今更隠す事じゃないからはっきり言う。イーリスの中味は空っぽだ」

 何もない形だけのファイル。
 だけどその事を知っているのはイーリスにアクセスした僕達とファナティック・フルートの由衣さん、それにキリク。
 ……だけだと思っていた。
 しかし、茜が突き止めた真実は他にあった。
 高橋グループ。
 父さん達が戦った地元の大企業グループ。
 文字通り地元の全てが記録されたファイル、IRIS。
 それは水奈の父さんが全て消し去った。
 だけどそれだけじゃなかった。
 高橋蒼良もまた持っていた。
 それは地元以外の企業群、通称”月”が持ち去っていた。
 マスコミにもリークされ何の価値もないファイル。
 しかし高橋グループはある計画を企てた。
 それがイーリス。
 ないはずのファイルをあると思わせる事で、まだ自分たちに主導権があるとちらつかせようとした。
 もちろんそんなものを信じる者などいない。
 そこで魅惑の魔眼の登場だ。
 イーリスを守る魅惑の魔眼とそれを狙うギャング。
 それによって何の価値もないイーリスにあたかも価値があるように見せかけた。
 しかしそれを翔和が奪い取ろうとした。
 それは自分たちがイーリスを握ることによって地元の闇社会を牛耳ろうとたくらんだから。
 そして抗争が起きて創世神と魅惑の魔眼に分裂した。
 形すらない虚像を追い求めて抗争は激化する。
 それが高橋グループの狙い通りとも知らずに。
 計算外だったのはSHの介入。
 僕達もその正体を知った時「どうしてこんな物の為に?」と疑問を持った。
 そして茜が調べつくした。
 イーリスが虚像なら全て辻褄があう。
 そもそも物理的に衝撃を与えたら分散して本体は消滅するなんて、そんな都合の良い物はあるわけがない。
 全て形の無い物に付加価値をつける為のでたらめ。
 これが明るみに出たら高橋グループの存在価値は無くなる。
 後は勝手に自滅していくのみ。
 キリクはそれを分かっていた。
 しかし明るみに出る前に奪い取ることで、再度イーリスに価値をつけようと翔和が企んだ。
 そして今に至る。

「……以上だけど。何か反論ある?」

 僕はキリクと翔和に尋ねた。

「甘く見ていたようだな……そこまで突き止められたか」

 キリクは観念したようだ。
 だけど翔和は違うようだ。

「ようそこまで調べはったわ。だけどまだ終わりやないで」

 翔和のやることは何となく読めていた。
 
「ここでSHと魅惑の魔眼を潰せば目的は達成でき……!?」

 翔和の話が止まったのは僕が右足を蹴り上げたから。
 もちろん蹴りが当たる位置まで接近してるわけじゃない。
 だけど僕の蹴りつけた地点から翔和たちがいる場所に目掛けて地面に亀裂が入る。
 天音達も驚いていた。
 翼は冷静に話す。

「それがあんた達創世神の運命線。その亀裂を越えた奴から潰すよ」

 翔和たちは動けなかった。
 僕のこの技が自分たちに向かったらどうなる?と怖気ついたのだろう。

「……お前の狙いは何だ?空の王」

 だからそれ止めて。
 美希からも笑い声が漏れる。
 とりあえず気にせずに目的を伝えた。

「今からイーリスを破壊する」

 単純な目的だった。
 キリクたちは何も言わない。
 翔和の裏でこそこそ動いている斗翔を、大地は見逃さなかった。
 
「勝手に動かないでください。殺しますよ?」

 右手を掲げて発砲する。
 
「……分かった。案内しよう。空の王」

 だからそれ止めて。
 
「天音と大地も来るだろ?」

 僕と美希と大地と天音がキリクについて行く間、善明と翼がしっかりと見張っていた。
 僕達はイーリスのある部屋に案内される。
 
「大地、あれ貸せ」

 天音が言うと解体用のハンマーを大地が天音に渡す。

「本当に天音がやるの?」
 
 大地が不安そうに聞いている。

「何か問題あるのか?」
「いや、あまり妻にそう言う真似をさせるのはどうなんだろう?って」
「私はあいつ等に手を出さずに我慢したんだ!このくらいいいだろ!」

 ちゃんと大地の母さんの前では大人しくしてるから。と天音は笑った。

「んじゃいくぞお!!」

 天音がハンマーを振り下ろす。
 音を立てて崩れていく端末。
 
「天音、それだけじゃダメだ。後ろの機器も全部解体して」
「任せとけ!!」

 本当嫁にやらせる仕事じゃないよな。と、大地の心中も察しながら嬉々として粉々にしていく天音を見ていた。
 その間にボロボロになった端末から部品を探して拾っていた。
 茜に回収するように頼まれていたもの。
 茜自らの手で中身も確認して物理的に破壊するそうだ。

「最初からこうすればよかったのかもしれないな」

 守り抜いてきたイーリスが破壊されていく様を見ながらキリクが言う。
 
「景太郎も由衣もこれで元通り普通の生活に戻れる。よかったね」

 美希が二人に声をかけていた。

「ありがとうございます」
「お世話になりました」

 2人は頭を下げていた。
 天音の解体が済むと最後の仕上げ。
 文字通りひとかけらも残す気が無いらしい。
 大地が残骸に何かを取り付ける。
 何かは言わなくてもわかるだろう。
 大地が作業を終えると「ここは危険だから戻りましょう」という。
 外に出ると、膠着状態が続いたままだった。
 大地が僕にスイッチを渡す。

「これを押すだけです」

 大地が言うと僕が言われた通り押そうとすると、天音から待ったがかかった。

「そんなもんがあるなら、それ私にやらせろ!」
「待て!天音は中で解体してきたんだろ!私がやりたい」
「そういう事なら俺もやりたい!」

 天音と水奈と遊が揉め出した。

「……まあ、王自らの手で終わらせるのが普通なんじゃないですかね」

 善明が言う。
 大学生がダイナマイトの起爆装置を起爆するのが普通なのかは分からないんだけど。

「空はSHのリーダーで、空の王……空に任せようよ……ごめん、我慢できない」
 
 美希まで……

「しょうがねーなー」

 最後は結局僕の手に委ねられた。
 僕は落ち着いて起爆する。
 どれだけの火薬使ったんだろう?
 すさまじい音と煙をまき散らしていた。

「あとは好きにしたらいい。でも、まだ暴れたりない奴がいるなら来い。僕達が相手をしてやる」

 僕がそう言うと天音達が前に出る。
 
「……完全にゲームオーバーやな」

 翔和も諦めたようだ。
 この時、創世神と魅惑の魔眼は解散を宣言した。
 存在理由が無いから。
 それを聞いて僕達はその場から去った。
 実家に帰ると茜に部品を渡す。

「おっけー、後は任せておいて」

 家を出ようとすると父さんが声をかけて来た。

「ご苦労さん。よくやったね……空の王」

 父さんがそう言うと「空も偉くなりましたね」と母さんが笑う。
 家に帰ってシャワーを浴びると、美希がスマホを見て笑っている。

「何かあった?」
「グルチャを見てみて」

 美希が言うので僕はスマホを見てみた。

「今度から空は何になるんだ?」
「普通に空なんじゃね?」
「本当にそうだと思う?」

 そう言ったのは茜だった。

「どういう事だ?」
「中身のないファイルは今私の手にある。もちろん破壊するけど空が持ち去ったのは事実だよ」
「……つまり?」
「イーリスを手にしたものが空の王なんでしょ?」
「あいつ永久に王様かよ!!」
「随分偉くなったな!!」
「そのうち神になるんじゃね?なんかとんでもない技までつかいだしたし!」

 天音と水奈と遊が言いたい放題だ。

「空が王なら私はお姫様なのかな?」
「それはずっと変わらないんじゃない?」
「どうして?」

 美希の顔を見てにこりと笑って言った。

「僕にとって美希は可愛いいけどいつも困らせられているお姫様だよ」
「そんな意地悪言うの?」

 本当に拗ねたみたいだ。

「どうしたら機嫌を直してくれるかな?」
「言わなくても分かってるくせに」
「……そうだね」

 そう言って美希をお姫様抱っこしてベッドに運ぶと照明を消す。

「ねえ、空」
「どうしたの?」
「今日はお疲れ様」
「ありがとう」

 そう言って僕達は短い休息をとることにした。
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