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対価を払え
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(1)
「空、気を付けて」
「分かってる」
僕は美希と一緒に西松病院に向かっていた。
翼達は既についてるらしい。
病院の駐車場に車を止めると、中に入る。
玄関で僕達を待っていた大地が僕達に気付く。
「こっちです。今手術中です」
「状態はどうなの?」
美希が聞くと大地は何も言えなくなってしまった。
手術室の前には天音と父さん達と……遠坂のお爺ちゃんたちも来ていた。
手術中なので警察もそばにいる。
「相手はどこにいるの?」
文句の一つも言いたいのだろう。
美希が天音に聞いていた。
答えたのは警官だった。
「今、署で取り調べ中です」
手術中のランプが消える。
中から医者が出て来た……
「誠に残念ですが……」
医者が言うと母さんの膝が崩れるのを父さんが支えていた。
天音は大地にしがみついて泣いている。
どうして僕達の家族ばかりが……
僕にしがみついて泣いている美希の背中をさすりながら考えていた。
病気とかで医師の立ち合いで亡くなった場合はそのまま遺体を引き取れる。
だけど今回は病院に搬送された時には心肺停止していたらしい。
そういう場合まず警察が検死してそれから引き渡される。
検死をしないと死亡届も出せない。
すぐに済むと思ったら何日もかかっていた。
その理由は不明だった。
その間に葬儀場などの手配をしていた。
また検死をすると縫い目などが雑な為遺族は最後に顔を見る事くらいしかできない。
美希の母親の恵美さんの知っている葬儀社は丁寧に処置してくれたらしい。
父さんも礼を言っていた。
しかし片桐家の怒りの理由は他にあった。
ここまできて加害者が一度も詫びに来ない。
それどころか保険会社の担当すら来ない。
お爺ちゃんは信号が青になって横断歩道を渡ろうとした時に車にはねられた。
とても交差点で停まる意思があるとは思えないくらいの猛スピードだったらしい。
即死だった。
警察も死亡事故と断定するはずだと医師が言っていた。
だけど警察が出した決断は微妙に違った。
アクセルの誤作動による事故死。
最近アクセルとブレーキの踏み間違えの事故が多い。
ブレーキと思ってアクセルと踏み込む老人が多い。
しかしそうではない。
加害者は主張する。
「ブレーキを踏んだら加速した」
もちろん天音はキレた。
「ふざけるな!だったら本当にそうなるのかその爺で実験してやるから連れてこい!」
そんな天音を必死に宥めながらも、大地も抗議する。
「仮に故障だったとしても点検して無かった方にも落ち度があるんじゃないですか?」
第一人身事故だ。
加害者に落ち度がないとかありえない。
しかし、あり得ないと思っていたことが起こった。
加害者は僕達を相手にせず、自動車会社に訴えた。
車の動作不良だから損害賠償を請求する。
加害者は自分は無罪だと主張する。
そしてその主張が通ってしまった。
警察は書類送検すらしなかった。
いつもは僕達の前では怒らない父さんですら、駆け付けた渡辺さんが宥めるくらい怒っていた。
大地のお母さんは母さんを宥める。
「私の親戚の事故でそんなふざけた対応をとるならそれ相応の責任をとってもらうから」
「私の親戚でもあるわね……善君、わかってるわね?」
「まあ、ただ殺す程度じゃすませられないですよね」
酒井君のお母さん達も怒っていた。
そして葬儀の中遠坂のお爺ちゃんが言っていた。
「……お前の無念、俺が絶対に晴らしてやるからな。お前はゆっくり休め。麻耶さんと幸せにな」
遠坂のお爺ちゃんも怒りで身を震わせていた。
実際僕もキレそうだった。
ただ美希の事を考えると僕も軽はずみな行動に出る事が出来ない。
美希を落ち着かせながら自分も落ち着かせていた。
これ以上片桐家を刺激したらやばい。
しかし、加害者は刺激した。
葬儀の時に何食わぬ顔で現れた加害者。
父さんの前に立つと分厚い封筒を渡すと「これで十分だろ?」と言った。
さすがに父さんも我慢の限界を超えたらしい。
その封筒を加害者に叩きつける。
「ふざけるな!あんたもいい年してその前に一言言うべき事があるんじゃないか?」
「若造の癖に生意気だな。素直に受け取っておいた方がいいぞ?どうせ裁判してもお前らに勝ち目はない」
つまりそういう圧力を持っているという事か。
しかしそういう圧力は父さん達には通用しない。
「勝ち目があるかどうかはやってみないと分からないわよ?」
「裁判?上等じゃない。受けてやるわ」
酒井君と石原君の母さんが食ってかかる。
大地は天音を抑えるのに必死だ。
「ふざけんなこのくそじじい!裁判なんてまどろっこしい真似やってられるか!私がこの場でお前を解体してやる」
「落ち着いて天音!」
「大地もこの爺の味方なのか!?」
「天音の手を煩わせるまでもない。殺すだけで満足ならこの場で射殺するよ」
でも、それだけじゃ気が晴れない。
もっと後悔させてから、死んだ方がましだと思うくらいに追い詰めないと気が晴れないだろと大地が天音を説得していた。
大地も我慢の限界を超えていたらしい。
茜や純也もキレていた。
莉子ですら「おじいちゃんを返せ!」と言っている。
「礼儀知らずの若造ばかり揃って何が出来る?儂は……」
「元官僚で現在は天下り先でのんびりしてるただのぼけ老人。よく免許更新出来たわね?」
石原君のお母さんが言う。
もうすでに調べていたらしい。
死亡事故を引き起こして置いて書類送検すらないのはあまりにもおかしいと、前もって調べていたそうだ。
遠坂のお爺ちゃんも一緒だった。
管轄内の署長と親密にしているらしい。
任意保険の担当すら来ない異常な事態で片桐家で冷静でいられる者はいなかった。
「……冬夜君。とりあえず火葬が済むまでは落ち着きなさい。その後で対策を練ろう」
「愛莉ちゃん~こんな時に冬夜君を支えるのが嫁の役目でしょ~」
遠坂のお爺ちゃんとお婆ちゃんが言う。
母さんに泣いてる場合じゃないと言う。
火葬している間、遠坂のお爺ちゃんたちと「今頃麻耶さんと幸せにしてるだろうな」と話をしていた。
「どうする空?あのじじいを北国に放り込む事もできるがそれじゃすぐ死ぬからつまらないぞ」
天音が相談する。
かと言ってアフリカに放り込んでも役に立ちそうにない。
「……田中さん程度じゃ片桐君の気がすまないだろうしね」
酒井君のお父さんが言う。
納骨が終ると、お婆ちゃんと一緒の墓に入れた。
きっとあの世で幸せに僕達を見守っているはずだ。
(2)
「あの爺を地べたに張り付けてローラー車でひき殺してやろう!」
天音はそう主張していた。
「公道じゃなかったら事故届出す必要ないですよね?」
だったらいい土地がある。
大地が言う。
しかしただ殺すんじゃ俺も気が済まない。
死んだ方が楽だと思わせるくらいの地獄に叩き落とす必要がある。
とりあえず刑事告訴は愛莉パパに任せる事にした。
早速元部下の県警本部長に口を聞いてもらっている。
それには恵美さんも協力してくれているらしい。
これまで泳がせていた甲斐があった。
管轄所長は様々な汚職疑惑がこれでもかというくらいあるらしい。
それを利用してまず警察の方は正常に動き出すだろう。
死ぬまで監獄に閉じ込めておくのも手だけどそれでもまだ生温い。
恵美さんは次に加害者の汚職を突き止めた。
自動車メーカーにも協力してもらい車に異常が無かったことを立証してもらう。
晶さんは天下り先の企業に目をつけた。
天下りといってもただの相談役。
どうとでもなる。
行政法人だったけどそれでも晶さんは容赦しない。
息のかかった政治家を利用してその職を奪い取る。
横領していた金を全部突き止め、賠償請求させる。
石原家と酒井家に目をつけられたら加害者本人だけでは済まさない。
一家離散くらい簡単にやってのける。
警察が正常に動き出すとすぐに加害者はすぐに逮捕される。
今さら反省の態度を示したところで意味がない。
しかし執行猶予をつけてもらうように愛莉パパが働きかけてくれた。
重い刑を受け、多額の賠償金支払い命令を受け、保険会社も江口生命の圧力を受け、1割ほどしか負担してもらえなかった。
執行猶予をつけたのは理由がある。
服役させるだけでは気が済まない子供達に後を任せる事にした。
(3)
「何か言い残す事ある?」
僕は加害者に聞いていた。
「これ以上儂をどうするつもりだ?」
加害者が聞いてきた。が、答える義務はない。
「それだけ?じゃあ、善明あと任せる」
「待て空!それじゃ、私の気が済まない。大地!のこぎり持ってこい!」
天音は不服の様だ。
それを大地が説得する。
「空はきっと天音の手を汚すまでも無いと思っているんだよ。僕もそう思う。こんな奴相手に天音の手を汚すまでもないよ」
「うぬぬ……」
天音は受け入れたらしい。
善明が指示すると加害者を船に積み込む。
「儂をどこに連れていくつもりだ?」
加害者はそう言ったらしい。
「何の事ですか?」
善明はとぼけてみせた。
自分が頼まれたのは臓器の輸出。
なるべく鮮度の高い物を。
加害者の事なんて知らない。
加害者は青ざめていた。
「まあ、どうせ日本にいても戸籍はもうとっくに消えてるでしょうから諦めた方がいいかもしれませんよ」
善明はそう言って船を降りる。
船はゆっくりと沖へと向かって行った。
昔父さんが持っている漫画で読んだ事がある。
とある地下街を彷徨っていた人物が、数時間後骨だけ残っていたというやつ。
年寄りの臓器にそこまでの価値があるのかどうか知らないけど、まあ「友愛された」と言っとけば問題ないだろう。
船を見届けると僕たちはそばにあったファミレスに向かった。
天音を宥めるのは大地に任せて、僕は翼と相談をしていた。
父さんが心配だ。
僕達の前では絶対に弱音を吐かない父さん。
だからこそ心配だ。
この短期間で両親を失った父さんのショックは僕にも想像つかない。
翼でも分からないらしい。
でも翼のそれよりはるかに重い事くらいは分かる。
「大丈夫かな?」
翼も不安らしい。
「母さんに任せるしかないんじゃないかな」
僕達には見せないけど母さんには見せるかもしれない。
僕達に出来る事は何かないだろうか?
「空もやっぱりパパの事心配してたのか?」
天音が聞いてきた。
天音も父さんの事が気がかりだったらしい。
子供の僕達の前では滅多にキレない父さんがキレた。
あまりにも理不尽な事件だった。
「やっぱり愛莉に任せるしかないよ」
翼が結論を言う。
ファミレスを出ると家に帰る。
風呂に入ってニュースを見る。
今日も理不尽な殺人事件が起きていた。
人の命を何だと思ってるのか?
そんな事を考えさせられずにいられない日々を過ごしていた。
「空、気を付けて」
「分かってる」
僕は美希と一緒に西松病院に向かっていた。
翼達は既についてるらしい。
病院の駐車場に車を止めると、中に入る。
玄関で僕達を待っていた大地が僕達に気付く。
「こっちです。今手術中です」
「状態はどうなの?」
美希が聞くと大地は何も言えなくなってしまった。
手術室の前には天音と父さん達と……遠坂のお爺ちゃんたちも来ていた。
手術中なので警察もそばにいる。
「相手はどこにいるの?」
文句の一つも言いたいのだろう。
美希が天音に聞いていた。
答えたのは警官だった。
「今、署で取り調べ中です」
手術中のランプが消える。
中から医者が出て来た……
「誠に残念ですが……」
医者が言うと母さんの膝が崩れるのを父さんが支えていた。
天音は大地にしがみついて泣いている。
どうして僕達の家族ばかりが……
僕にしがみついて泣いている美希の背中をさすりながら考えていた。
病気とかで医師の立ち合いで亡くなった場合はそのまま遺体を引き取れる。
だけど今回は病院に搬送された時には心肺停止していたらしい。
そういう場合まず警察が検死してそれから引き渡される。
検死をしないと死亡届も出せない。
すぐに済むと思ったら何日もかかっていた。
その理由は不明だった。
その間に葬儀場などの手配をしていた。
また検死をすると縫い目などが雑な為遺族は最後に顔を見る事くらいしかできない。
美希の母親の恵美さんの知っている葬儀社は丁寧に処置してくれたらしい。
父さんも礼を言っていた。
しかし片桐家の怒りの理由は他にあった。
ここまできて加害者が一度も詫びに来ない。
それどころか保険会社の担当すら来ない。
お爺ちゃんは信号が青になって横断歩道を渡ろうとした時に車にはねられた。
とても交差点で停まる意思があるとは思えないくらいの猛スピードだったらしい。
即死だった。
警察も死亡事故と断定するはずだと医師が言っていた。
だけど警察が出した決断は微妙に違った。
アクセルの誤作動による事故死。
最近アクセルとブレーキの踏み間違えの事故が多い。
ブレーキと思ってアクセルと踏み込む老人が多い。
しかしそうではない。
加害者は主張する。
「ブレーキを踏んだら加速した」
もちろん天音はキレた。
「ふざけるな!だったら本当にそうなるのかその爺で実験してやるから連れてこい!」
そんな天音を必死に宥めながらも、大地も抗議する。
「仮に故障だったとしても点検して無かった方にも落ち度があるんじゃないですか?」
第一人身事故だ。
加害者に落ち度がないとかありえない。
しかし、あり得ないと思っていたことが起こった。
加害者は僕達を相手にせず、自動車会社に訴えた。
車の動作不良だから損害賠償を請求する。
加害者は自分は無罪だと主張する。
そしてその主張が通ってしまった。
警察は書類送検すらしなかった。
いつもは僕達の前では怒らない父さんですら、駆け付けた渡辺さんが宥めるくらい怒っていた。
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「私の親戚の事故でそんなふざけた対応をとるならそれ相応の責任をとってもらうから」
「私の親戚でもあるわね……善君、わかってるわね?」
「まあ、ただ殺す程度じゃすませられないですよね」
酒井君のお母さん達も怒っていた。
そして葬儀の中遠坂のお爺ちゃんが言っていた。
「……お前の無念、俺が絶対に晴らしてやるからな。お前はゆっくり休め。麻耶さんと幸せにな」
遠坂のお爺ちゃんも怒りで身を震わせていた。
実際僕もキレそうだった。
ただ美希の事を考えると僕も軽はずみな行動に出る事が出来ない。
美希を落ち着かせながら自分も落ち着かせていた。
これ以上片桐家を刺激したらやばい。
しかし、加害者は刺激した。
葬儀の時に何食わぬ顔で現れた加害者。
父さんの前に立つと分厚い封筒を渡すと「これで十分だろ?」と言った。
さすがに父さんも我慢の限界を超えたらしい。
その封筒を加害者に叩きつける。
「ふざけるな!あんたもいい年してその前に一言言うべき事があるんじゃないか?」
「若造の癖に生意気だな。素直に受け取っておいた方がいいぞ?どうせ裁判してもお前らに勝ち目はない」
つまりそういう圧力を持っているという事か。
しかしそういう圧力は父さん達には通用しない。
「勝ち目があるかどうかはやってみないと分からないわよ?」
「裁判?上等じゃない。受けてやるわ」
酒井君と石原君の母さんが食ってかかる。
大地は天音を抑えるのに必死だ。
「ふざけんなこのくそじじい!裁判なんてまどろっこしい真似やってられるか!私がこの場でお前を解体してやる」
「落ち着いて天音!」
「大地もこの爺の味方なのか!?」
「天音の手を煩わせるまでもない。殺すだけで満足ならこの場で射殺するよ」
でも、それだけじゃ気が晴れない。
もっと後悔させてから、死んだ方がましだと思うくらいに追い詰めないと気が晴れないだろと大地が天音を説得していた。
大地も我慢の限界を超えていたらしい。
茜や純也もキレていた。
莉子ですら「おじいちゃんを返せ!」と言っている。
「礼儀知らずの若造ばかり揃って何が出来る?儂は……」
「元官僚で現在は天下り先でのんびりしてるただのぼけ老人。よく免許更新出来たわね?」
石原君のお母さんが言う。
もうすでに調べていたらしい。
死亡事故を引き起こして置いて書類送検すらないのはあまりにもおかしいと、前もって調べていたそうだ。
遠坂のお爺ちゃんも一緒だった。
管轄内の署長と親密にしているらしい。
任意保険の担当すら来ない異常な事態で片桐家で冷静でいられる者はいなかった。
「……冬夜君。とりあえず火葬が済むまでは落ち着きなさい。その後で対策を練ろう」
「愛莉ちゃん~こんな時に冬夜君を支えるのが嫁の役目でしょ~」
遠坂のお爺ちゃんとお婆ちゃんが言う。
母さんに泣いてる場合じゃないと言う。
火葬している間、遠坂のお爺ちゃんたちと「今頃麻耶さんと幸せにしてるだろうな」と話をしていた。
「どうする空?あのじじいを北国に放り込む事もできるがそれじゃすぐ死ぬからつまらないぞ」
天音が相談する。
かと言ってアフリカに放り込んでも役に立ちそうにない。
「……田中さん程度じゃ片桐君の気がすまないだろうしね」
酒井君のお父さんが言う。
納骨が終ると、お婆ちゃんと一緒の墓に入れた。
きっとあの世で幸せに僕達を見守っているはずだ。
(2)
「あの爺を地べたに張り付けてローラー車でひき殺してやろう!」
天音はそう主張していた。
「公道じゃなかったら事故届出す必要ないですよね?」
だったらいい土地がある。
大地が言う。
しかしただ殺すんじゃ俺も気が済まない。
死んだ方が楽だと思わせるくらいの地獄に叩き落とす必要がある。
とりあえず刑事告訴は愛莉パパに任せる事にした。
早速元部下の県警本部長に口を聞いてもらっている。
それには恵美さんも協力してくれているらしい。
これまで泳がせていた甲斐があった。
管轄所長は様々な汚職疑惑がこれでもかというくらいあるらしい。
それを利用してまず警察の方は正常に動き出すだろう。
死ぬまで監獄に閉じ込めておくのも手だけどそれでもまだ生温い。
恵美さんは次に加害者の汚職を突き止めた。
自動車メーカーにも協力してもらい車に異常が無かったことを立証してもらう。
晶さんは天下り先の企業に目をつけた。
天下りといってもただの相談役。
どうとでもなる。
行政法人だったけどそれでも晶さんは容赦しない。
息のかかった政治家を利用してその職を奪い取る。
横領していた金を全部突き止め、賠償請求させる。
石原家と酒井家に目をつけられたら加害者本人だけでは済まさない。
一家離散くらい簡単にやってのける。
警察が正常に動き出すとすぐに加害者はすぐに逮捕される。
今さら反省の態度を示したところで意味がない。
しかし執行猶予をつけてもらうように愛莉パパが働きかけてくれた。
重い刑を受け、多額の賠償金支払い命令を受け、保険会社も江口生命の圧力を受け、1割ほどしか負担してもらえなかった。
執行猶予をつけたのは理由がある。
服役させるだけでは気が済まない子供達に後を任せる事にした。
(3)
「何か言い残す事ある?」
僕は加害者に聞いていた。
「これ以上儂をどうするつもりだ?」
加害者が聞いてきた。が、答える義務はない。
「それだけ?じゃあ、善明あと任せる」
「待て空!それじゃ、私の気が済まない。大地!のこぎり持ってこい!」
天音は不服の様だ。
それを大地が説得する。
「空はきっと天音の手を汚すまでも無いと思っているんだよ。僕もそう思う。こんな奴相手に天音の手を汚すまでもないよ」
「うぬぬ……」
天音は受け入れたらしい。
善明が指示すると加害者を船に積み込む。
「儂をどこに連れていくつもりだ?」
加害者はそう言ったらしい。
「何の事ですか?」
善明はとぼけてみせた。
自分が頼まれたのは臓器の輸出。
なるべく鮮度の高い物を。
加害者の事なんて知らない。
加害者は青ざめていた。
「まあ、どうせ日本にいても戸籍はもうとっくに消えてるでしょうから諦めた方がいいかもしれませんよ」
善明はそう言って船を降りる。
船はゆっくりと沖へと向かって行った。
昔父さんが持っている漫画で読んだ事がある。
とある地下街を彷徨っていた人物が、数時間後骨だけ残っていたというやつ。
年寄りの臓器にそこまでの価値があるのかどうか知らないけど、まあ「友愛された」と言っとけば問題ないだろう。
船を見届けると僕たちはそばにあったファミレスに向かった。
天音を宥めるのは大地に任せて、僕は翼と相談をしていた。
父さんが心配だ。
僕達の前では絶対に弱音を吐かない父さん。
だからこそ心配だ。
この短期間で両親を失った父さんのショックは僕にも想像つかない。
翼でも分からないらしい。
でも翼のそれよりはるかに重い事くらいは分かる。
「大丈夫かな?」
翼も不安らしい。
「母さんに任せるしかないんじゃないかな」
僕達には見せないけど母さんには見せるかもしれない。
僕達に出来る事は何かないだろうか?
「空もやっぱりパパの事心配してたのか?」
天音が聞いてきた。
天音も父さんの事が気がかりだったらしい。
子供の僕達の前では滅多にキレない父さんがキレた。
あまりにも理不尽な事件だった。
「やっぱり愛莉に任せるしかないよ」
翼が結論を言う。
ファミレスを出ると家に帰る。
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