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(1)
「いつ来ても綺麗だね~」
そう言って吊橋から紅葉を写真に収めている瞳子。
今年も僕達は大吊橋に紅葉狩りに来ていた。
純也達も彼女を連れてきている。
毎年同じだからそうなるんだろうか?
誠司はつまらなさそうにしていた。
あまりそういう態度を冴の前でとらない方がいいと思うんだけど。
「誠司は私と一緒にいるのがそんなに退屈なわけ?」
案の定冴が怒り出す。
「毎年同じもの見てたら飽きるだろ?」
「冬吾君は平気なの?」
瞳子が聞いてきた。
僕はほら、お楽しみがあるから……
「あ、そうだね」
瞳子は笑っている。
そんな僕達を見て誠司の母さんが言う。
「なんで同じ6年生なのにこうも違いが出るんだ」
「誠司にはまだこういうのは分からないんだよ」
「そういや誠もつまらなさそうにしてたな」
「そ、そんな事無いぜ」
誠司の母さんは驚いていた。
誠司の父さんにもこういうのを楽しむ趣味があるのか?
大人になれば分かるものがあるのか。
「と、冬夜なら分かるだろ?」
父さんに聞いてみたけど、父さんは苦笑していた。
「俺には分かるぜ誠!」
「だろ!?」
千帆や姫乃の父さんが言った。
父さんが言ってたな。
この二人の話はほぼ間違いなくろくな事じゃない。
「この歳になるとやっぱり若い年頃の娘がお洒落してるのは染みるよな」
「だ、だろ!」
うん、僕にはわからない。
誠司には分かったようだ。
そして3人そろって怒られてる。
「冬吾は理解しなくていいのですよ」
母さんが言うから間違いないだろう。
橋を渡って戻ってくると売店に行く。
「私はソフトクリームだけにしとくね」
瞳子が言う。
冬莉は僕と同じサイズのハンバーガーを二つ食べていた。
ちなみに冬莉は運動を嫌う。
苦手じゃなくて嫌いなんだそうだ。
「疲れるし面倒」
父さん達もそれでいいと思ってるらしい。
考えたら翼達もそうだったな。
今年は正俊君は来ていない。
高校生なりの過ごし方があるんだそうだ。
「あいつもやっと色気づいたか」
正俊君の母さんが言った。
食べ終えると車でいつものレストランに行く。
そこでもハンバーグを頼む僕と冬莉。
「いい意味でも悪い意味でも2人はトーヤに似たな」
誠司の母さんが言う。
「この食べ癖だけは何とかしたいと思うんだけど……」
僕の母さんは悩んでいる様だ。
父さんは笑っていた。
そんな中、険悪なムードを垂れ流しているのが誠司と冴。
誠司は冴の機嫌を取ることを忘れて誠司の父さん達と話していた。
この2人よく続くな。
その秘訣を教えて欲しい。
僕が誠司の様になろうってわけじゃない。
誠司なりの冴の機嫌の取り方があるのか気になっただけ。
「いい加減にしろ!」
誠司の母さんが怒り出す。
「そろそろ出ようか?」
昼食が終る頃、正俊君のお父さんが言う。
地元のファミレスに寄って夕食をとって、解散らしい。
車の中で瞳子が話し出した。
「さっきは誠司君のお母さんがいたから、言いづらかったんだけど……」
瞳子が母さん達をちらりと見て話す。
父さん達は2人で話を始めた。
「冴もかなり参ってるみたい。誠司君にとって冴はただの玩具じゃないのか?って」
「そうなの?」
冬莉も知らなかったらしい。
修学旅行の時に冬莉が聞いた時はまだ冴に「好き」という感情が残っていたそうだ。
あれからもやりたい放題だったからな……
運動会が終った後、誠司は何人かから告白を受けていたことを得意気に話していた。
ちなみに僕には無かった。
いつも瞳子がそばにいるから遠慮するんだろう。
その時も冴は機嫌が悪かったな。
「飽きたら捨てられるんじゃないか?って不安もあるみたい」
瞳子が言う。
そんな小学生いるのかどうかわからないけど。
「そういう事ならまだ大丈夫なんじゃない?」
冬莉が言う。
「どうして?」
「だって来年私達中学生でしょ?」
セーラー服姿という興味が誠司ならあるでしょ。
冬莉は言う。
根本的に誠司の癖を直さないとダメなんじゃないかと僕は思った。
「それを言ったら冬吾と私だって致命的な大食いって癖あるじゃない」
世の中完璧な人間なんていない。
それを受け止めてくれる人と結ばれていくんじゃないの?
冬莉はそう言った。
天音だってそうだったんだから。
きっと2人なら大丈夫だよ。
冬莉はそう言っていた。
そして話題を変えた。
「冬吾は瞳子の制服姿とか楽しみじゃないの?」
「楽しみだよ?」
僕は即答した。
母さんが僕を見てる気がする。
多分誤解されたんだろう。
「誠司のような意味じゃなくてもっと違う意味だよ」
「どういう事?」
瞳子も気になったらしい。
瞳子はこれから成長していく。
中学生、高校生、大学生……そしていつかは僕と結ばれるといいなと言った。
瞳子は照れていた。
「人間誰だって成長するんでしょ、そしたらその時期に応じて服装とかも変わっていく」
瞳子の服装の変化が楽しみだと説明した。
父さんも言ってた。
自分の好きな服を着てくれるだけで嬉しいんだって。
瞳子も成長したらお洒落の範囲も広がるはず。
それが楽しみだと言った。
「なるほどね。それだけ?」
「もちろん他にもあるよ。体の成長とか」
成長したら楽しみが待ってるんでしょ?
「冬吾君も男の子なんだね」
瞳子は笑っていた。
「でも、期待しないでね。修学旅行の時に見てたんだけど私成長が遅いみたいだから」
「大きさは関係ないって父さんが言ってた」
「冬夜さんは冬吾に何を教えたんですか!?」
母さんが父さんを叱っている。
慌てて言い訳をする父さん。
「うーん、そう言われると私も気になるな」
冬莉が言い出した。
「どうしたの?」
「愛莉は結構いい大きさだと思うんだよね」
「それがどうかしたの?」
「でも翼や天音はそうでもないじゃん」
冬莉は自分がどこまで大きくなるのか気になったらしい。
「冬莉は愛莉にとても似ているからきっと綺麗になるよ」
「自分の娘に言うセリフじゃありません!」
そう言う母さんも本気で怒っているわけではないんだろう。
僕の両親は誠司の両親のようにそんなに喧嘩しているところを見た事がない。
スキンシップの一つの様に見える。
そんな風に問う事慣れたらいいな。
夕食を食べて家に帰ると風呂に入る。
そして自分の部屋に戻ろうとすると母さんに呼び止められた。
どうしたんだろう?
「冬吾は来年には中学生になります」
「うん」
「前に母さんが言った事覚えてる?」
「何の話?」
せめて中学生になるまでは待ちなさい。
ああ、その話か。
「瞳子にも言われたよ」
心の準備だってまだだって。
「今までは2人っきりでいる時はドアを開けておくように言ったけど……」
中学に入学したら僕の部屋の扉に鍵をつけてくれるらしい。
「隣は冬眞と冬莉がいる事を忘れてはいけませんよ」
「そ、それを親が認めるってどうなの愛莉?」
「だから小学生の間は監視してました」
僕は誠司と違って瞳子にそういう真似をしていない。
だってそう言われたから。
だけど中学生になったら話は別だと母さんが言う。
「瞳子にもっと優しく接してあげなさい。瞳子の気持ちなら冬吾がよく分かるでしょ?」
まあ、何となくは分かる。
瞳子の口から言わせるな。
僕がその雰囲気を察してあげなさい。
父さんはただ笑っていた。
そして最後に父さんが言う。
「言っておくけど僕はまだ冬吾の孫はみたくないからね。それと……」
中学生になったら自分がどの道を選ぶのかしっかり考えて行動しなさい。
それならサッカー選手になるってすでに決めてあるけど?
「それだけじゃないだろ?国内か国外。どっちを選ぶかで随分変わってくるはずだ」
少なくとも国外には瞳子を連れていけない。
そう言う事も考えて瞳子と付き合いなさい。
いずれは瞳子と結婚まで考えているだろうけど、少なくとも瞳子が大学生の間は、瞳子一人になるんだ。
その間どうするかもしっかり相談しておきなさい。
時間はあるようですぐに過ぎてしまうから。
「決して迷ってはいけない。迷いが瞳子に不安を与える」
父さんがそう言った。
「わかった」
「じゃあ、今日は疲れたろうから早めに寝なさい」
「うん、おやすみ」
そう言って部屋に戻って考える。
恋愛って楽しい事ばかりじゃない。
辛い局面だってあるんだ。
それを乗り越えられた二人が結ばれる。
しかし4年間の空白か。
もちろん海外のクラブに入れたらの話だけど。
初めて自分の人生について悩んでいた。
(2)
ひたすら何も無い風景の道路を走り続ける。
暴走をする者も当然現れる。
一度や二度注意したからって止められるはずがない。
また現地で彼女に怒られるんだろうな。
僕の彼女はとても機嫌が良さそうだ。
前に母さんと相談をしてからというもののずっと機嫌がいい。
美希に「何があったの?」と聞いても「まだだめ」と言うだけ。
そんなに嬉しい事がだったんだろうか?
「それにしても相変わらずだね」
「みたいだね」
変わったのは粋くらいだ。
美希から聞いた話だと粋はあまり花に心配させたくないらしい。
そういう話合いがあったんだそうだ。
その割には馬鹿な歌を相変わらず歌って怒られているけど。
でも怒っている花は本気で怒ってるわけじゃない事くらい僕にも分かった。
「2人ともお金貯めてるみたい。多分今年のクリスマスが目標だと思う」
お金……クリスマス……?
何か分かった気がする。
「来年は大変だね」
「そうだね、天音も何か企んでるみたいだし」
もっと沈んでいると思っていた片桐家はなぜかお婆ちゃんが亡くなった時ほどではなかった。
その理由が天音と美希?
余りしつこいと機嫌を悪くしそうだからそれ以上は聞かなかった。
今年は臼杵に来ていた。
紅葉狩りと言うにはちょっと遅い時間。
臼杵の市街から少し離れた場所にある駐車場に止めて、公園でのんびりしていた。
光太や与留達も子供達を連れて来ていた。
二人共一人ずつ子供を抱っこしている。
天音や翼は子供を見ていた。
翼はやっぱり子供が欲しいのかな?
父さんがいつも言ってた言葉。
「揺らぐな」
その意味は最近になってよく分かるようになった。
大地も同じ見たいだ。
あたりが暗くなる。
そろそろシャトルバスの時間だ。
僕達は並んでバスに乗る。
バスは臼杵市街まで運んでくれる。
臼杵の市街には竹の中にろうそくを灯した物が綺麗に並んでいた。
女性陣はそれに見とれて写真を撮っていた。
一部を除いて。
「腹減った!」
天音が騒ぎ出す。
光太達の子供より質が悪い。
紗理奈達も「どっか酒飲むところないのかよ!」と騒ぎだす。
水奈も同じだ。
しかしそう言う出店は一ヵ所だけしかなくて混雑している。
そして値段があまりにも高い。
「ぼったくりじゃねーか!」
天音が怒り出す。
もちろん天音……大地の財布だったらどうってことない値段だ。
それでも天音は普通の金銭感覚でやり繰りしようと思っているのだろう。
「子供じゃないんだから、大地に恥をかかせるんじゃないの!」
翼が天音を叱る。
「与留達の分買って来るよ。子供連れてこの混雑はしんどいでしょ?」
「ありがとう」
文句を言っていた割には焼き鳥タコ焼きお好み焼きチョコバナナピザ……。
お好み焼きが問題だった。
「なんだこれ!焼きそばじゃねーか!?騙しやがったな!!」
天音が激怒する。
「これが広島焼きなんだからしょうがないでしょ!?」
「なんで関西風がないんだよ!」
大体広島風はもっとキャベツ入ってるだろうが!
ペラペラの生地が焼きそばと目玉焼きの上に乗っているだけのお好み焼きに天音は不満をぶつける。
「空や。帰りにファミレスにでも行った方がいいんじゃないかい?」
善明の言う通りかもしれない。
僕達は地元に帰ってファミレスに寄った。
「臼杵まで行って散々な目にあったぞ!」
「日田とか竹田でもやるそうだから……」
「ふざけんな大地、あんなしょぼい火を見たくらいで私は納得しないぞ!」
家一軒丸焼きにするくらいじゃないと気が済まないらしい。
「あんまり旦那を困らせるんじゃない。愛莉から言われたんでしょ?」
すると天音は話題を切り替えた。
「愛莉で思い出した。美希、愛莉と何か企んでないか?」
「え?」
母さんと美希の母さんは何が隠してる。
天音が二人にあった時にそう感じたらしい。
美希の母さんも噛んでるのか?
「私は何も聞いてないけど……」
美希が動揺してる。
やっぱり美希は何か隠してる。
でもあまり困らせたくない。
時期が来たら教えてくれるらしいし。
少し美希を援護してやるか。
「天音こそ大地と何か企んでるんじゃないか?」
「それはちょっと触れないであげてくれないかな?」
大地が天音を庇っている。
天音は若干落ち込んでいるようだ
どうやらカマをかけたら当たっていたみたいだ。
すると大地が席を立つ。
「空、飲み物取りに行かない?」
「いいけど?」
そして大地とフリードリンクのコーナーに行くと大地が耳打ちした。
「……そういうわけで今はあまり触れないであげて」
天音もさすがに弱ってるらしい。
「分かった」
そして席に戻ると皆騒いでいた。
「与留の子供はやっぱりアスリートなのか?」
「まだ1歳だからわからないよ」
「私はその才能があるならさせてあげたいと思うんだけどね」
みなみはその気の様だ。
「光太はどうなんだい?」
善明が聞いていた。
「俺もやっぱり子供が大きくなって夢を持ったら叶える手伝いくらいはしてやりたいな」
娘は嫁に出さないと意気込んでいるが。
麗華は「間違ってもそんな馬鹿な事玲衣に言わないで!」と注意していた。
善明の子供の将来は善明の母さんによって既に準備されてるらしい。
善明は自身の体験談を話しだした。
それは壮絶な物だった。
小学生になると同時に誘拐されて、転校前に文字通り谷底に突き落とされてサバイバル術を叩きこまれたらしい。
大地も同じだったと苦笑していた。
僕と美希は笑うしかなかった。
夕食を済ませると家に帰る。
美希と風呂に入ると、寝室に行く。
「この部屋もそのうち別れがくるかも」
「どうして?」
美希に聞いてみた。
「ただの勘かな」
「それと母さん達の話と関係あるの?」
「それはない。ただ……」
ただ?
「そろそろ私達も将来の事真面目に考えていいと思うの」
「どういう意味?」
「空もあと半年もすれば社会人だよ?」
もういい加減”まだ学生だから”という意識は変えるべきじゃないのか?
「気にしないで。そろそろ寝よう?」
「分かった」
そう言って眠りにつく。
将来か。
天音も天音なりに頑張っている。
翼も同じだ。
遊や粋も覚悟を決めているみたいだ。
なら僕もそろそろ覚悟を決めるべきじゃないのか?
卒業する前にやっておくべきことが分かった気がする。
僕達の未来は少しずつ光の方へ向かってる気がした。
「いつ来ても綺麗だね~」
そう言って吊橋から紅葉を写真に収めている瞳子。
今年も僕達は大吊橋に紅葉狩りに来ていた。
純也達も彼女を連れてきている。
毎年同じだからそうなるんだろうか?
誠司はつまらなさそうにしていた。
あまりそういう態度を冴の前でとらない方がいいと思うんだけど。
「誠司は私と一緒にいるのがそんなに退屈なわけ?」
案の定冴が怒り出す。
「毎年同じもの見てたら飽きるだろ?」
「冬吾君は平気なの?」
瞳子が聞いてきた。
僕はほら、お楽しみがあるから……
「あ、そうだね」
瞳子は笑っている。
そんな僕達を見て誠司の母さんが言う。
「なんで同じ6年生なのにこうも違いが出るんだ」
「誠司にはまだこういうのは分からないんだよ」
「そういや誠もつまらなさそうにしてたな」
「そ、そんな事無いぜ」
誠司の母さんは驚いていた。
誠司の父さんにもこういうのを楽しむ趣味があるのか?
大人になれば分かるものがあるのか。
「と、冬夜なら分かるだろ?」
父さんに聞いてみたけど、父さんは苦笑していた。
「俺には分かるぜ誠!」
「だろ!?」
千帆や姫乃の父さんが言った。
父さんが言ってたな。
この二人の話はほぼ間違いなくろくな事じゃない。
「この歳になるとやっぱり若い年頃の娘がお洒落してるのは染みるよな」
「だ、だろ!」
うん、僕にはわからない。
誠司には分かったようだ。
そして3人そろって怒られてる。
「冬吾は理解しなくていいのですよ」
母さんが言うから間違いないだろう。
橋を渡って戻ってくると売店に行く。
「私はソフトクリームだけにしとくね」
瞳子が言う。
冬莉は僕と同じサイズのハンバーガーを二つ食べていた。
ちなみに冬莉は運動を嫌う。
苦手じゃなくて嫌いなんだそうだ。
「疲れるし面倒」
父さん達もそれでいいと思ってるらしい。
考えたら翼達もそうだったな。
今年は正俊君は来ていない。
高校生なりの過ごし方があるんだそうだ。
「あいつもやっと色気づいたか」
正俊君の母さんが言った。
食べ終えると車でいつものレストランに行く。
そこでもハンバーグを頼む僕と冬莉。
「いい意味でも悪い意味でも2人はトーヤに似たな」
誠司の母さんが言う。
「この食べ癖だけは何とかしたいと思うんだけど……」
僕の母さんは悩んでいる様だ。
父さんは笑っていた。
そんな中、険悪なムードを垂れ流しているのが誠司と冴。
誠司は冴の機嫌を取ることを忘れて誠司の父さん達と話していた。
この2人よく続くな。
その秘訣を教えて欲しい。
僕が誠司の様になろうってわけじゃない。
誠司なりの冴の機嫌の取り方があるのか気になっただけ。
「いい加減にしろ!」
誠司の母さんが怒り出す。
「そろそろ出ようか?」
昼食が終る頃、正俊君のお父さんが言う。
地元のファミレスに寄って夕食をとって、解散らしい。
車の中で瞳子が話し出した。
「さっきは誠司君のお母さんがいたから、言いづらかったんだけど……」
瞳子が母さん達をちらりと見て話す。
父さん達は2人で話を始めた。
「冴もかなり参ってるみたい。誠司君にとって冴はただの玩具じゃないのか?って」
「そうなの?」
冬莉も知らなかったらしい。
修学旅行の時に冬莉が聞いた時はまだ冴に「好き」という感情が残っていたそうだ。
あれからもやりたい放題だったからな……
運動会が終った後、誠司は何人かから告白を受けていたことを得意気に話していた。
ちなみに僕には無かった。
いつも瞳子がそばにいるから遠慮するんだろう。
その時も冴は機嫌が悪かったな。
「飽きたら捨てられるんじゃないか?って不安もあるみたい」
瞳子が言う。
そんな小学生いるのかどうかわからないけど。
「そういう事ならまだ大丈夫なんじゃない?」
冬莉が言う。
「どうして?」
「だって来年私達中学生でしょ?」
セーラー服姿という興味が誠司ならあるでしょ。
冬莉は言う。
根本的に誠司の癖を直さないとダメなんじゃないかと僕は思った。
「それを言ったら冬吾と私だって致命的な大食いって癖あるじゃない」
世の中完璧な人間なんていない。
それを受け止めてくれる人と結ばれていくんじゃないの?
冬莉はそう言った。
天音だってそうだったんだから。
きっと2人なら大丈夫だよ。
冬莉はそう言っていた。
そして話題を変えた。
「冬吾は瞳子の制服姿とか楽しみじゃないの?」
「楽しみだよ?」
僕は即答した。
母さんが僕を見てる気がする。
多分誤解されたんだろう。
「誠司のような意味じゃなくてもっと違う意味だよ」
「どういう事?」
瞳子も気になったらしい。
瞳子はこれから成長していく。
中学生、高校生、大学生……そしていつかは僕と結ばれるといいなと言った。
瞳子は照れていた。
「人間誰だって成長するんでしょ、そしたらその時期に応じて服装とかも変わっていく」
瞳子の服装の変化が楽しみだと説明した。
父さんも言ってた。
自分の好きな服を着てくれるだけで嬉しいんだって。
瞳子も成長したらお洒落の範囲も広がるはず。
それが楽しみだと言った。
「なるほどね。それだけ?」
「もちろん他にもあるよ。体の成長とか」
成長したら楽しみが待ってるんでしょ?
「冬吾君も男の子なんだね」
瞳子は笑っていた。
「でも、期待しないでね。修学旅行の時に見てたんだけど私成長が遅いみたいだから」
「大きさは関係ないって父さんが言ってた」
「冬夜さんは冬吾に何を教えたんですか!?」
母さんが父さんを叱っている。
慌てて言い訳をする父さん。
「うーん、そう言われると私も気になるな」
冬莉が言い出した。
「どうしたの?」
「愛莉は結構いい大きさだと思うんだよね」
「それがどうかしたの?」
「でも翼や天音はそうでもないじゃん」
冬莉は自分がどこまで大きくなるのか気になったらしい。
「冬莉は愛莉にとても似ているからきっと綺麗になるよ」
「自分の娘に言うセリフじゃありません!」
そう言う母さんも本気で怒っているわけではないんだろう。
僕の両親は誠司の両親のようにそんなに喧嘩しているところを見た事がない。
スキンシップの一つの様に見える。
そんな風に問う事慣れたらいいな。
夕食を食べて家に帰ると風呂に入る。
そして自分の部屋に戻ろうとすると母さんに呼び止められた。
どうしたんだろう?
「冬吾は来年には中学生になります」
「うん」
「前に母さんが言った事覚えてる?」
「何の話?」
せめて中学生になるまでは待ちなさい。
ああ、その話か。
「瞳子にも言われたよ」
心の準備だってまだだって。
「今までは2人っきりでいる時はドアを開けておくように言ったけど……」
中学に入学したら僕の部屋の扉に鍵をつけてくれるらしい。
「隣は冬眞と冬莉がいる事を忘れてはいけませんよ」
「そ、それを親が認めるってどうなの愛莉?」
「だから小学生の間は監視してました」
僕は誠司と違って瞳子にそういう真似をしていない。
だってそう言われたから。
だけど中学生になったら話は別だと母さんが言う。
「瞳子にもっと優しく接してあげなさい。瞳子の気持ちなら冬吾がよく分かるでしょ?」
まあ、何となくは分かる。
瞳子の口から言わせるな。
僕がその雰囲気を察してあげなさい。
父さんはただ笑っていた。
そして最後に父さんが言う。
「言っておくけど僕はまだ冬吾の孫はみたくないからね。それと……」
中学生になったら自分がどの道を選ぶのかしっかり考えて行動しなさい。
それならサッカー選手になるってすでに決めてあるけど?
「それだけじゃないだろ?国内か国外。どっちを選ぶかで随分変わってくるはずだ」
少なくとも国外には瞳子を連れていけない。
そう言う事も考えて瞳子と付き合いなさい。
いずれは瞳子と結婚まで考えているだろうけど、少なくとも瞳子が大学生の間は、瞳子一人になるんだ。
その間どうするかもしっかり相談しておきなさい。
時間はあるようですぐに過ぎてしまうから。
「決して迷ってはいけない。迷いが瞳子に不安を与える」
父さんがそう言った。
「わかった」
「じゃあ、今日は疲れたろうから早めに寝なさい」
「うん、おやすみ」
そう言って部屋に戻って考える。
恋愛って楽しい事ばかりじゃない。
辛い局面だってあるんだ。
それを乗り越えられた二人が結ばれる。
しかし4年間の空白か。
もちろん海外のクラブに入れたらの話だけど。
初めて自分の人生について悩んでいた。
(2)
ひたすら何も無い風景の道路を走り続ける。
暴走をする者も当然現れる。
一度や二度注意したからって止められるはずがない。
また現地で彼女に怒られるんだろうな。
僕の彼女はとても機嫌が良さそうだ。
前に母さんと相談をしてからというもののずっと機嫌がいい。
美希に「何があったの?」と聞いても「まだだめ」と言うだけ。
そんなに嬉しい事がだったんだろうか?
「それにしても相変わらずだね」
「みたいだね」
変わったのは粋くらいだ。
美希から聞いた話だと粋はあまり花に心配させたくないらしい。
そういう話合いがあったんだそうだ。
その割には馬鹿な歌を相変わらず歌って怒られているけど。
でも怒っている花は本気で怒ってるわけじゃない事くらい僕にも分かった。
「2人ともお金貯めてるみたい。多分今年のクリスマスが目標だと思う」
お金……クリスマス……?
何か分かった気がする。
「来年は大変だね」
「そうだね、天音も何か企んでるみたいだし」
もっと沈んでいると思っていた片桐家はなぜかお婆ちゃんが亡くなった時ほどではなかった。
その理由が天音と美希?
余りしつこいと機嫌を悪くしそうだからそれ以上は聞かなかった。
今年は臼杵に来ていた。
紅葉狩りと言うにはちょっと遅い時間。
臼杵の市街から少し離れた場所にある駐車場に止めて、公園でのんびりしていた。
光太や与留達も子供達を連れて来ていた。
二人共一人ずつ子供を抱っこしている。
天音や翼は子供を見ていた。
翼はやっぱり子供が欲しいのかな?
父さんがいつも言ってた言葉。
「揺らぐな」
その意味は最近になってよく分かるようになった。
大地も同じ見たいだ。
あたりが暗くなる。
そろそろシャトルバスの時間だ。
僕達は並んでバスに乗る。
バスは臼杵市街まで運んでくれる。
臼杵の市街には竹の中にろうそくを灯した物が綺麗に並んでいた。
女性陣はそれに見とれて写真を撮っていた。
一部を除いて。
「腹減った!」
天音が騒ぎ出す。
光太達の子供より質が悪い。
紗理奈達も「どっか酒飲むところないのかよ!」と騒ぎだす。
水奈も同じだ。
しかしそう言う出店は一ヵ所だけしかなくて混雑している。
そして値段があまりにも高い。
「ぼったくりじゃねーか!」
天音が怒り出す。
もちろん天音……大地の財布だったらどうってことない値段だ。
それでも天音は普通の金銭感覚でやり繰りしようと思っているのだろう。
「子供じゃないんだから、大地に恥をかかせるんじゃないの!」
翼が天音を叱る。
「与留達の分買って来るよ。子供連れてこの混雑はしんどいでしょ?」
「ありがとう」
文句を言っていた割には焼き鳥タコ焼きお好み焼きチョコバナナピザ……。
お好み焼きが問題だった。
「なんだこれ!焼きそばじゃねーか!?騙しやがったな!!」
天音が激怒する。
「これが広島焼きなんだからしょうがないでしょ!?」
「なんで関西風がないんだよ!」
大体広島風はもっとキャベツ入ってるだろうが!
ペラペラの生地が焼きそばと目玉焼きの上に乗っているだけのお好み焼きに天音は不満をぶつける。
「空や。帰りにファミレスにでも行った方がいいんじゃないかい?」
善明の言う通りかもしれない。
僕達は地元に帰ってファミレスに寄った。
「臼杵まで行って散々な目にあったぞ!」
「日田とか竹田でもやるそうだから……」
「ふざけんな大地、あんなしょぼい火を見たくらいで私は納得しないぞ!」
家一軒丸焼きにするくらいじゃないと気が済まないらしい。
「あんまり旦那を困らせるんじゃない。愛莉から言われたんでしょ?」
すると天音は話題を切り替えた。
「愛莉で思い出した。美希、愛莉と何か企んでないか?」
「え?」
母さんと美希の母さんは何が隠してる。
天音が二人にあった時にそう感じたらしい。
美希の母さんも噛んでるのか?
「私は何も聞いてないけど……」
美希が動揺してる。
やっぱり美希は何か隠してる。
でもあまり困らせたくない。
時期が来たら教えてくれるらしいし。
少し美希を援護してやるか。
「天音こそ大地と何か企んでるんじゃないか?」
「それはちょっと触れないであげてくれないかな?」
大地が天音を庇っている。
天音は若干落ち込んでいるようだ
どうやらカマをかけたら当たっていたみたいだ。
すると大地が席を立つ。
「空、飲み物取りに行かない?」
「いいけど?」
そして大地とフリードリンクのコーナーに行くと大地が耳打ちした。
「……そういうわけで今はあまり触れないであげて」
天音もさすがに弱ってるらしい。
「分かった」
そして席に戻ると皆騒いでいた。
「与留の子供はやっぱりアスリートなのか?」
「まだ1歳だからわからないよ」
「私はその才能があるならさせてあげたいと思うんだけどね」
みなみはその気の様だ。
「光太はどうなんだい?」
善明が聞いていた。
「俺もやっぱり子供が大きくなって夢を持ったら叶える手伝いくらいはしてやりたいな」
娘は嫁に出さないと意気込んでいるが。
麗華は「間違ってもそんな馬鹿な事玲衣に言わないで!」と注意していた。
善明の子供の将来は善明の母さんによって既に準備されてるらしい。
善明は自身の体験談を話しだした。
それは壮絶な物だった。
小学生になると同時に誘拐されて、転校前に文字通り谷底に突き落とされてサバイバル術を叩きこまれたらしい。
大地も同じだったと苦笑していた。
僕と美希は笑うしかなかった。
夕食を済ませると家に帰る。
美希と風呂に入ると、寝室に行く。
「この部屋もそのうち別れがくるかも」
「どうして?」
美希に聞いてみた。
「ただの勘かな」
「それと母さん達の話と関係あるの?」
「それはない。ただ……」
ただ?
「そろそろ私達も将来の事真面目に考えていいと思うの」
「どういう意味?」
「空もあと半年もすれば社会人だよ?」
もういい加減”まだ学生だから”という意識は変えるべきじゃないのか?
「気にしないで。そろそろ寝よう?」
「分かった」
そう言って眠りにつく。
将来か。
天音も天音なりに頑張っている。
翼も同じだ。
遊や粋も覚悟を決めているみたいだ。
なら僕もそろそろ覚悟を決めるべきじゃないのか?
卒業する前にやっておくべきことが分かった気がする。
僕達の未来は少しずつ光の方へ向かってる気がした。
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神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
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飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
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彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
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でも。
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