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最大の敵
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(1)
「それじゃ乾杯」
僕が言うと皆話し始めた。
僕は学や善明と話をしていた。
翼は美希達と話をしている。
善明も大変みたいだ。
大学を卒業してから、さらに翼が変わっていった。
翼の機嫌ひとつでやはり甚大な被害がでるらしい。
翼の機嫌を損ねると善明の母さんの耳に入り、そして大事件になる。
善明の母さんを取り戻すのに善明の父さんと全力で宥めているんだそうだ。
とにかく善明は定時で帰れ。
残務処理は重役たちに任せたらいい。
それを徹底してるらしい。
この前僕達が挨拶に行った時も大騒動を起こしたそうだ。
その翼は麗華たちとゆっくり話をしているが。
「私もそろそろ子どもが欲しいんだけどね」
翼のその一言が善明を苦しめているそうだ。
子供を作る事にはメリットがある。
翼は専業主婦だから暇を持て余している。
だから、善明が構ってやらないと不満をぶつける。
なら、子供を作って育児に専念させておけばいいんじゃないか?
善明の父さんはそう善明にアドバイスしていたそうだ。
だけどリスクもある。
善明は仕事の上にさらに育児と翼に気を使わなければならない。
多分優先度は育児が一番先だろう。
善明は小学生の最初のイベントが誘拐だったらしい。
犯人は言うまでもなく酒井グループに恨みを持つ者。
警察よりも先に見つけて勝手に始末したらしい。
そして善明の母さんは善明に言った。
「たかが誘拐犯くらい一人で処理しなさい!」
それから文字通り千尋の谷に突き落とすような教育を受けたそうだ。
きっとそれは大地も一緒だろう。
「学はどうなんだ?」
「ああ、渡辺さんの下に配属されてな」
比較的楽な仕事を任せられているらしい。
それでも学の扱う書類は時として人の生死にかかわる。
公務員に残業がないなんて嘘らしい。
それに心配なのが水奈だ。
水奈を監視する人がいない。
それどころか遊達と学校をさぼって遊び惚けているそうだ。
ちゃんと卒業できるのか心配で仕方ないと学は言う。
「空はどうだ?もう慣れたか?」
「いや、そんな事無いよ」
僕達はまだ、ただデータを入力するだけの作業。
少なくとも、試用期間が終わるまでは担当をつけるつもりはないらしい。
それに父さんは偶に意地悪を仕掛けてくる。
「ここ、少し工夫すれば節税に繋がると思うんだけど空はどう思う?」
そんな質問を突然仕掛けてくる。
ただ入力すればいいだけじゃない。
ちゃんと中味を確認していかなければならない。
分からなかったら父さんに相談する。
社会に出ても勉強は終らないというのは本当らしい。
実際今年度から税制ががらりと変わったりしていた。
それにも対応しなければならない。
試用期間の間は残業手当が出ないからする必要が無い。
そういう風に父さんも僕達の能力を見極めて仕事を与えてくれる。
それでも残業をするのは僕達がちゃんと仕事をしていないからだと注意される。
職場の父さんはいつもの父さんじゃない。
社員の人生を背負った会社の社長だ。
子供だからと甘やかすわけがない。
父さんの後を継ぐのだから今のうちに厳しく指導するなんだ。
そういう面では善明に近い物があるのだろうか。
「まあ、最初の1年くらいは大変だけど段々コツを覚えるよ」
光太が言う。
光太は僕達よりも先に社会に出て、その厳しさ耐えて来た。
だから光太は言えるのだろう。
「働いて育児ってどうだい?」
善明が光太に聞いていた。
「前にも言ったけどどんなに仕事が辛くても嫁と子供を見ると疲れが飛ぶんだ」
そういや言ってたな。
いい加減な性格だった光太でも子供を持つと自覚が出来るらしい。
しかし麗華はそうは思ってなかった。
「だからって夜遅くまで遊んで帰ってきて、せっかく寝かしつけた子供を起こすのやめてくれない?」
子供の顔が見たいなら、もっと早く帰ってきて起きてる時間にしてくれと麗華は言う。
「今日は大丈夫なの?」
翼が麗華に聞いていた。
「光太の両親が面倒みるから少しは息抜きしなさいって言われた」
一日中家で家事と育児に奔走していたらストレスだってたまるだろう。
偶には休んだ方がいい。
光聖も玲衣ももう乳離れはとうに済んでるから光太の両親でも大丈夫なんだそうだ。
「皆同じだね」
みなみがそう言って笑う。
与留も子供が寝てるのに起こすから苦労しているそうだ。
アウェイに試合に行ってる時は散々遊んでるらしいけど。
それでも与留が稼いでくれるのだから浮気以外なら大目に見ようと決めたらしい。
適当な時間になると僕達は家に帰る事にした。
大学生組は2次会に行くらしい。
光太も行きたいと言っていたが、麗華が許さなかった。
学自身は帰って休みたいけど、水奈がいるから監督しておかないと何をしでかすか分からない。
僕達は代行を頼んで家に帰ると風呂に入って寝室で寛いでいた。
「ねえ、空。妙じゃない?」
美希がそう言った。
「何が?」
「遊達何か隠してる」
「それはあれじゃない?」
また風俗に行こうとか企んでるとか。
でも美希は首を振る。
「それだと、なずな達も一緒になって隠す理由にならないよ」
なずな達も?
と、いうより大学生組が何か社会人組に隠してる様だ。
「今度新歓の時に確かめてみようよ」
「そうだね……」
美希は何か考え込んでいる。
僕はあまり気にも止めなかった。
しかし一番あってはならないことが水面下で起こっていた。
(2)
「2次会はカラオケで問題ないな?」
学が念を押す。
本当は学も帰って欲しかったんだけど、どうも信用してもらえないらしい。
遊と相談する。
「まあ、カラオケとかの方がいいかもな」
遊達がそう言うと私は学に言った。
カラオケに入ると、いつもトップバッターの遊ですら端末を取ろうとしない。
ただ飲み物をオーダーして静かに座っていた。
さすがに学も気づいたのだろう。
「何か問題事か?」
学が質問していた。
私は遊達と相談して学に言った。
「これから話す事は空達には黙っていて欲しい」
「……何かもめ事でも起きたのか?」
「いや、まだそこまではいってないと思うけど」
高校も中学もまだ春休みだ。
表立っては行動しないだろう。
「何か厄介事なのは間違いないんだな?」
学が聞くと頷いた。
ちょうど注文しておいた飲み物が届くと説明をする。
SHの暴走。
もう、片桐茜一人の手に負えない程にSHは拡散していた。
もちろん茜だけでなく江口円香や茜の彼氏の佐原壱郎も協力してるけど。
しかし3人で管理できるのはグルチャだけ。
もちろんIDの個人情報は特定してあるがその量は想像以上だったらしい。
SHに逆らう者はただでは済まない。
そんな噂が噂を呼んで勢いを増すばかり。
最近ローカルニュースで聞く事件の7割がSH絡みだった。
その対策を今日考えようとしていたところだと学に言った。
空達に黙っていたのは、空達はまだ試用期間。
問題を起こせば職を失うかもしれない。
それでもその事を知れば社会人組は間違いなく対応するだろう。
出来れば今社会人組に迷惑をかけたくない。
私達で済ませられるなら済ませておきたい。
SHのやっかいなところは全体の把握が出来ない事。
誰がSHで誰が偽物なのか実際には区別がつかない。
新規の加入は茜たちが権限を付与しない限り発言権は無い。
だけど、SHに所属しているという事実は変わらない。
茜たちの知らないところでSHはさらに増強されていた。
大学生だけなら、高校生だけなら、私や片桐純也が対応できる。
だけど中学生や小学生を私達が制裁すればどう考えても私達が不利だ。
春休みの今ですら、FG狩り等をして遊んでいると茜から聞いた。
連中はSHの別グループを起ち上げてそこで相談してるらしい。
もちろん茜がそれを見逃すわけがない。
だが人海戦術という物がある。
茜たちも今年は受験の年だ。
24時間見張ってるわけにはいかない。
空に伝えて一度SHを解体するという手段も考えた。
しかしSHを解散したところで一度作られたグループは名前を悪用するのは明白だ。
それに今SHが解散したら折角押さえつけていたFGなどが息を吹き返して大惨事になる。
「それは俺以外の社会人組には伝えてないんだな?」
学が聞くと「うん」とうなずいた。
「子供の喧嘩に大人が介入するほど情けないことはないだろ?だから俺達だけで何とかしようと思ったんだ」
遊が言うと皆自分の意思を伝えた。
SHの名前を悪用する輩は誰であろうと許されない。
空達が築き上げた誇りもある。
「わかった。ただし約束してくれないか?」
学が言うと私達は学を見た。
「もし、実力行使なんてことになったら絶対にお前等だけで無茶をするな。空に相談するかは俺が判断する」
「わかった」
「それと水奈はこの件で新しい情報が入ったら俺に必ず相談してくれ。空に伝えるべきかは俺が判断する」
「わかったよ」
「……とりあえずは新学期が始まってからだな」
学が考え込む。
「……この件天音は知ってるのか?」
「さすがに今の天音に言えるわけねーよ」
天音の事情はみんな知ってる。
ただでさえ情緒不安定な天音に言えばどうなるかくらい遊達でもわかるらしい。
大地にだけ伝えてると学に言った。
「空が良く言ってた言葉なんだが……」
学が言う。
切り札は先に見せるな。
「まずは相手がどう出るかを見極めて対処しよう。先に動けばこちらが不利になる」
「学の言う通りかもね」
なずなが言う。
やることはどうせ想像がつく。
SHへの強制勧誘。恐喝。暴行。
きっと新学期が始まったら手あたり次第動くつもりなのだろう。
「それでお前たちはどうしようと思っていたんだ?」
「前に空が言っていた」
目に映る鬱陶しい輩は全部排除する。
だけど空達だけで全部を把握するのは無理だ。
しかしそうやって一つずつ潰していけば噂は流れる。
それが抑止力になるんじゃないか。
私達はそう結論を出した。
それを聞いた学は頷いた。
「俺もそれでいいと思う。空達に言わなかったのは正解だろう」
SHでも最も危険なのが片桐家。
厄介なのはSHの末端はその事を知らない。
「問題はいつ話すかだな」
学が言う。
連中が暴れ出せば否応なくニュースになる。
空達だってきっと見るに違いない。
「わかった。この件は今日はここまでにしよう」
しかし誰も騒ぎたい気分じゃない。
怒りと困惑が入り混じって暗い空気だった。
遊ですらいつ爆発するかわからない。
結局私達は話が済むとカラオケ店を出て帰る事にした。
「学、ごめんな。お前を厄介事に巻き込んだ」
「大丈夫だ、気にするな。むしろ俺でよかったよ」
空や光太が知ったら絶対に動く。
「それよりこの件も大変だけど水奈はちゃんと進級できる程度には勉強してくれ」
「わかってる」
それでも険しい表情をしている私に学は耳打ちする。
「水奈の卒業祝いは子供でいいか?」
私はどきっとして学を見る。
「さすがに何かしてやりたいと思ってな」
「それは嬉しいけど”仕事がきつく手それどころじゃない”とか言ったら私も怒るからな」
「1年も猶予があれば流石にコツを覚えるよ」
そうやって二人でベッドに入る。
九州には絶対に逆らう奴がいないと誰もが思っていたSH。
だけどそのSHが敵に回ることになるとは思いもよらなかった。
「それじゃ乾杯」
僕が言うと皆話し始めた。
僕は学や善明と話をしていた。
翼は美希達と話をしている。
善明も大変みたいだ。
大学を卒業してから、さらに翼が変わっていった。
翼の機嫌ひとつでやはり甚大な被害がでるらしい。
翼の機嫌を損ねると善明の母さんの耳に入り、そして大事件になる。
善明の母さんを取り戻すのに善明の父さんと全力で宥めているんだそうだ。
とにかく善明は定時で帰れ。
残務処理は重役たちに任せたらいい。
それを徹底してるらしい。
この前僕達が挨拶に行った時も大騒動を起こしたそうだ。
その翼は麗華たちとゆっくり話をしているが。
「私もそろそろ子どもが欲しいんだけどね」
翼のその一言が善明を苦しめているそうだ。
子供を作る事にはメリットがある。
翼は専業主婦だから暇を持て余している。
だから、善明が構ってやらないと不満をぶつける。
なら、子供を作って育児に専念させておけばいいんじゃないか?
善明の父さんはそう善明にアドバイスしていたそうだ。
だけどリスクもある。
善明は仕事の上にさらに育児と翼に気を使わなければならない。
多分優先度は育児が一番先だろう。
善明は小学生の最初のイベントが誘拐だったらしい。
犯人は言うまでもなく酒井グループに恨みを持つ者。
警察よりも先に見つけて勝手に始末したらしい。
そして善明の母さんは善明に言った。
「たかが誘拐犯くらい一人で処理しなさい!」
それから文字通り千尋の谷に突き落とすような教育を受けたそうだ。
きっとそれは大地も一緒だろう。
「学はどうなんだ?」
「ああ、渡辺さんの下に配属されてな」
比較的楽な仕事を任せられているらしい。
それでも学の扱う書類は時として人の生死にかかわる。
公務員に残業がないなんて嘘らしい。
それに心配なのが水奈だ。
水奈を監視する人がいない。
それどころか遊達と学校をさぼって遊び惚けているそうだ。
ちゃんと卒業できるのか心配で仕方ないと学は言う。
「空はどうだ?もう慣れたか?」
「いや、そんな事無いよ」
僕達はまだ、ただデータを入力するだけの作業。
少なくとも、試用期間が終わるまでは担当をつけるつもりはないらしい。
それに父さんは偶に意地悪を仕掛けてくる。
「ここ、少し工夫すれば節税に繋がると思うんだけど空はどう思う?」
そんな質問を突然仕掛けてくる。
ただ入力すればいいだけじゃない。
ちゃんと中味を確認していかなければならない。
分からなかったら父さんに相談する。
社会に出ても勉強は終らないというのは本当らしい。
実際今年度から税制ががらりと変わったりしていた。
それにも対応しなければならない。
試用期間の間は残業手当が出ないからする必要が無い。
そういう風に父さんも僕達の能力を見極めて仕事を与えてくれる。
それでも残業をするのは僕達がちゃんと仕事をしていないからだと注意される。
職場の父さんはいつもの父さんじゃない。
社員の人生を背負った会社の社長だ。
子供だからと甘やかすわけがない。
父さんの後を継ぐのだから今のうちに厳しく指導するなんだ。
そういう面では善明に近い物があるのだろうか。
「まあ、最初の1年くらいは大変だけど段々コツを覚えるよ」
光太が言う。
光太は僕達よりも先に社会に出て、その厳しさ耐えて来た。
だから光太は言えるのだろう。
「働いて育児ってどうだい?」
善明が光太に聞いていた。
「前にも言ったけどどんなに仕事が辛くても嫁と子供を見ると疲れが飛ぶんだ」
そういや言ってたな。
いい加減な性格だった光太でも子供を持つと自覚が出来るらしい。
しかし麗華はそうは思ってなかった。
「だからって夜遅くまで遊んで帰ってきて、せっかく寝かしつけた子供を起こすのやめてくれない?」
子供の顔が見たいなら、もっと早く帰ってきて起きてる時間にしてくれと麗華は言う。
「今日は大丈夫なの?」
翼が麗華に聞いていた。
「光太の両親が面倒みるから少しは息抜きしなさいって言われた」
一日中家で家事と育児に奔走していたらストレスだってたまるだろう。
偶には休んだ方がいい。
光聖も玲衣ももう乳離れはとうに済んでるから光太の両親でも大丈夫なんだそうだ。
「皆同じだね」
みなみがそう言って笑う。
与留も子供が寝てるのに起こすから苦労しているそうだ。
アウェイに試合に行ってる時は散々遊んでるらしいけど。
それでも与留が稼いでくれるのだから浮気以外なら大目に見ようと決めたらしい。
適当な時間になると僕達は家に帰る事にした。
大学生組は2次会に行くらしい。
光太も行きたいと言っていたが、麗華が許さなかった。
学自身は帰って休みたいけど、水奈がいるから監督しておかないと何をしでかすか分からない。
僕達は代行を頼んで家に帰ると風呂に入って寝室で寛いでいた。
「ねえ、空。妙じゃない?」
美希がそう言った。
「何が?」
「遊達何か隠してる」
「それはあれじゃない?」
また風俗に行こうとか企んでるとか。
でも美希は首を振る。
「それだと、なずな達も一緒になって隠す理由にならないよ」
なずな達も?
と、いうより大学生組が何か社会人組に隠してる様だ。
「今度新歓の時に確かめてみようよ」
「そうだね……」
美希は何か考え込んでいる。
僕はあまり気にも止めなかった。
しかし一番あってはならないことが水面下で起こっていた。
(2)
「2次会はカラオケで問題ないな?」
学が念を押す。
本当は学も帰って欲しかったんだけど、どうも信用してもらえないらしい。
遊と相談する。
「まあ、カラオケとかの方がいいかもな」
遊達がそう言うと私は学に言った。
カラオケに入ると、いつもトップバッターの遊ですら端末を取ろうとしない。
ただ飲み物をオーダーして静かに座っていた。
さすがに学も気づいたのだろう。
「何か問題事か?」
学が質問していた。
私は遊達と相談して学に言った。
「これから話す事は空達には黙っていて欲しい」
「……何かもめ事でも起きたのか?」
「いや、まだそこまではいってないと思うけど」
高校も中学もまだ春休みだ。
表立っては行動しないだろう。
「何か厄介事なのは間違いないんだな?」
学が聞くと頷いた。
ちょうど注文しておいた飲み物が届くと説明をする。
SHの暴走。
もう、片桐茜一人の手に負えない程にSHは拡散していた。
もちろん茜だけでなく江口円香や茜の彼氏の佐原壱郎も協力してるけど。
しかし3人で管理できるのはグルチャだけ。
もちろんIDの個人情報は特定してあるがその量は想像以上だったらしい。
SHに逆らう者はただでは済まない。
そんな噂が噂を呼んで勢いを増すばかり。
最近ローカルニュースで聞く事件の7割がSH絡みだった。
その対策を今日考えようとしていたところだと学に言った。
空達に黙っていたのは、空達はまだ試用期間。
問題を起こせば職を失うかもしれない。
それでもその事を知れば社会人組は間違いなく対応するだろう。
出来れば今社会人組に迷惑をかけたくない。
私達で済ませられるなら済ませておきたい。
SHのやっかいなところは全体の把握が出来ない事。
誰がSHで誰が偽物なのか実際には区別がつかない。
新規の加入は茜たちが権限を付与しない限り発言権は無い。
だけど、SHに所属しているという事実は変わらない。
茜たちの知らないところでSHはさらに増強されていた。
大学生だけなら、高校生だけなら、私や片桐純也が対応できる。
だけど中学生や小学生を私達が制裁すればどう考えても私達が不利だ。
春休みの今ですら、FG狩り等をして遊んでいると茜から聞いた。
連中はSHの別グループを起ち上げてそこで相談してるらしい。
もちろん茜がそれを見逃すわけがない。
だが人海戦術という物がある。
茜たちも今年は受験の年だ。
24時間見張ってるわけにはいかない。
空に伝えて一度SHを解体するという手段も考えた。
しかしSHを解散したところで一度作られたグループは名前を悪用するのは明白だ。
それに今SHが解散したら折角押さえつけていたFGなどが息を吹き返して大惨事になる。
「それは俺以外の社会人組には伝えてないんだな?」
学が聞くと「うん」とうなずいた。
「子供の喧嘩に大人が介入するほど情けないことはないだろ?だから俺達だけで何とかしようと思ったんだ」
遊が言うと皆自分の意思を伝えた。
SHの名前を悪用する輩は誰であろうと許されない。
空達が築き上げた誇りもある。
「わかった。ただし約束してくれないか?」
学が言うと私達は学を見た。
「もし、実力行使なんてことになったら絶対にお前等だけで無茶をするな。空に相談するかは俺が判断する」
「わかった」
「それと水奈はこの件で新しい情報が入ったら俺に必ず相談してくれ。空に伝えるべきかは俺が判断する」
「わかったよ」
「……とりあえずは新学期が始まってからだな」
学が考え込む。
「……この件天音は知ってるのか?」
「さすがに今の天音に言えるわけねーよ」
天音の事情はみんな知ってる。
ただでさえ情緒不安定な天音に言えばどうなるかくらい遊達でもわかるらしい。
大地にだけ伝えてると学に言った。
「空が良く言ってた言葉なんだが……」
学が言う。
切り札は先に見せるな。
「まずは相手がどう出るかを見極めて対処しよう。先に動けばこちらが不利になる」
「学の言う通りかもね」
なずなが言う。
やることはどうせ想像がつく。
SHへの強制勧誘。恐喝。暴行。
きっと新学期が始まったら手あたり次第動くつもりなのだろう。
「それでお前たちはどうしようと思っていたんだ?」
「前に空が言っていた」
目に映る鬱陶しい輩は全部排除する。
だけど空達だけで全部を把握するのは無理だ。
しかしそうやって一つずつ潰していけば噂は流れる。
それが抑止力になるんじゃないか。
私達はそう結論を出した。
それを聞いた学は頷いた。
「俺もそれでいいと思う。空達に言わなかったのは正解だろう」
SHでも最も危険なのが片桐家。
厄介なのはSHの末端はその事を知らない。
「問題はいつ話すかだな」
学が言う。
連中が暴れ出せば否応なくニュースになる。
空達だってきっと見るに違いない。
「わかった。この件は今日はここまでにしよう」
しかし誰も騒ぎたい気分じゃない。
怒りと困惑が入り混じって暗い空気だった。
遊ですらいつ爆発するかわからない。
結局私達は話が済むとカラオケ店を出て帰る事にした。
「学、ごめんな。お前を厄介事に巻き込んだ」
「大丈夫だ、気にするな。むしろ俺でよかったよ」
空や光太が知ったら絶対に動く。
「それよりこの件も大変だけど水奈はちゃんと進級できる程度には勉強してくれ」
「わかってる」
それでも険しい表情をしている私に学は耳打ちする。
「水奈の卒業祝いは子供でいいか?」
私はどきっとして学を見る。
「さすがに何かしてやりたいと思ってな」
「それは嬉しいけど”仕事がきつく手それどころじゃない”とか言ったら私も怒るからな」
「1年も猶予があれば流石にコツを覚えるよ」
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