姉妹チート

和希

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(1)

「おめでとうございます。2人とも元気な赤ちゃんですよ」

 助産師の人がそう言った。
 私の側では大地がしっかりと手を握ってくれていた。

「頑張ったね。お疲れ様」
「ありがとう。赤ちゃんを見たいんだけど……」

 私が言うと助産師の人と大地が1人ずつ抱えてみせてくれた。
 生まれたばかりで本当に人間の赤ちゃんなのか?って笑ってしまった。
 赤ちゃんに触りたいけど腕をあげる力も無い。
 
「良く生まれて来たな。よろしくな……」

 私はそう言って眠りについた。
 しかしそんなに休んでいる時間はない。
 赤ちゃんの泣き声で目を覚ます。
 母親としての最初の仕事。
 それが授乳。
 赤ちゃんの胃袋はそんなに大きくないらしい。
 3時間おきに必要とするそうだ。
 
「しばらくは入院してなさい」

 恵美さんも愛莉もそう言った。
 下手に退院して家事でもされたらたまらない。
 それならいっそ病院でゆっくりしていたらいい。
 おっぱいは二つある。
 双子でも大丈夫みたいだ。
 私にも母親の資格があるらしい。
 少しずつだけど出ていた。
 その間だけは私と赤ちゃんと大地だけの3人にしてもらえた。

「で、大地相談なんだけど……」
「多分僕も同じ事考えると思う」

 まだ生まれたばかりで特徴が無い。
 大地は娘の名前をちゃんと考えいている。
 だけど問題はここからだ。
 どう区別したらいい?
 悩んでいると大地が気がついたらしい。

「右の子の方が沢山飲んでるみたい」

 私も右側の子を見ると少々左の子より大きいみたいだ。

「じゃあ、こっちを茉莉にするか」
「そうだね」
「茉莉。パパだよ~」

 大地が手を振っている。
 茉莉は無視して乳を飲んでる。
 代わりに結莉の方が大地を見ている。

「結莉。よろしくね」

 大地が笑って結莉に話しかけている。
 2週間くらいしてからなずな達が見舞いに来た。
 その頃には結莉は青色の髪の毛、茉莉は緑色の髪の毛が生えていた。

「可愛いね」

 祈が羨ましそうに見ている。

「祈も経験するだろうから言っておくけど……かなりきついぞ」
「天音が言うんだからそうなんだろうな」

 大地は大学から直接病院に寄る。
 まだ危なっかしいけどそっと抱いていた。

「祈達も抱いてみる?」
「どうやればいいのかな?」

 大地がコツを教えながら慎重に祈達に渡す。
 茉莉と結莉はちょっとした人気者になっていた。
 
「天音はまだ休んでいた方がいいらしいから……」

 大地が言うと挨拶してなずな達が帰っていった。

「僕も帰るけどゆっくり休んでてよ」
「それはいいんだけど家は大丈夫か?」
「母さん達がしてくれるから」
「そっか、今度礼言っておかないとな」

 赤ちゃんが寝てる間は母親も休んでおけ。
 愛莉がそう言っていたから私も2人と一緒に寝る。
 パパ達もたまにやってくる。 
 パパは相変わらず赤ちゃんを抱くのが苦手なようだ。
 四苦八苦していた。

「大地、言っておくけど……」

 これで終わりじゃないからな。
 お前の跡取り息子作らなきゃいけないんだ。

「うん、でもまずは休んでよ」
「分かってる」

 産んでお終いじゃない。
 この子達をちゃんと導いていかないといけない。
 私と大地だけの物語が始まる。

(2)

「空、いつまでやってるの?」

 社長が社長室から出て来て僕に言った。
 まだ就業時間内。
 ただ、お昼休みの時に美希の陣痛が始まったとメッセージで聞いた。
 母さんと恵美さんが付き添いで病院に向かったらしい。
 陣痛から出産までは結構時間がかかるらしい。
 だったら定時まで仕事をしていても問題ないだろうと思っていた。
 だけど違うようだ。
 女性社員の先輩がにこりと笑って言った。

「片桐君は知らないの?”出産のときの恨みは絶対に忘れない”って」

 何年経とうと絶対に恨みは忘れない。
 どうしても外せない仕事があるならともかく、社長が良いって言うなら見舞いに行ってやるべきだ。

「僕も空達を産むときに先輩から聞かされてね」

 長い時だと12時間くらいかかる陣痛の苦しみの間、会社で時間を潰してゲームをしてたり、病室にいったもののスマホでゲームをしていた先輩がいたそうだ。
 その恨みは永遠に続いて、離婚に踏み切る嫁もいるらしい。
 ましてや相手は恵美さんの娘だ。
 恵美さんが黙っていない。

「私も行ったほうがいいと思います。やっぱり頼りにしてるのは夫だと思うし」

 桃花さんも言うので仕事にキリをつけて病院に向かった。
 病室にはベッドに寝て苦しそうにしている美希と、恵美さんと母さんがいた。

「随分早く来たのね。仕事は大丈夫なの?」

 母さんが聞くと父さんから聞いたことを話した。

「まあ、冬夜さんもそうでしたからね」
「望もそうだった」

 美希が産まれたときは何社か不渡りをだしかけたらしい。
 
「お前の命はあらゆる意味で尊い犠牲の上にあるものだから大切にしなさい」

 美希が望さんから聞いた言葉だそうだ。

「旦那様が来たの?」

 美希が無理に上身を起こしそうにすると僕がそれを止めて顔を見せた。

「大丈夫?」
「正直言うときついです」
「何か僕に出来ることはないかな?」
「それなら……」

 腰のあたりをマッサージしてやるといいと母さんが言うのでさすってあげた。

「それじゃ、後は空に任せるから」
「何かあったらすぐにナースコールを押しなさい」

 母さんと恵美さんがそう言って病室を出る。
 それから15分置きに美希が苦しそうにしていた。
 出産て本当に大変なんだな。

「麗華が言ってたの。”スイカをお尻から出すくらいの苦しみだ”って」

 それはきつそうだ。
 しかも美希は双子だ。
 大丈夫なのか?
 どう声をかけていいか分からなかった。
 夜になって「夕食でも食べてきたら?」と美希が言っていた時だった。
 美希の苦しみ方が変わる。

「旦那様……看護師を呼んでくれませんか?」

 美希がそう言うと慌ててナースコールを押す。
 すぐに看護師さんが駆けつけてきた。

「ご主人は付き添いしますか?」
「いいんですか?」
「その方が奥さんも安心すると思いますよ」

 大地も言っていたな。
 僕は付き添う事にした。
 普段の美希からは想像もつかない程の悲鳴が聞こえる。
 僕の手を握る握力が想像を絶する。

「がんばれ」

 美希にひたすら声援を送っていた。
 光太は一緒に呼吸法を真似ていたらしいけど。
 結果「うるさいから出ていけ!」と言われたらしい。
 やがて小さな産声が周りを支配した。

「よく頑張ったね……」
「まだですよ!あと一人!」

 看護師が言うと美希はもうひと頑張りする。
 もう一人も無事産まれた。
 今度こそ終わりの様だ。
 赤ちゃんの鳴き声を聞きながら涙を浮かべる美希。
 僕は美希より先に赤ちゃんを抱きかかえていた。
 父さんの言っていた意味が分かる気がする。
 一つ間違えたら壊れてしまいそうな小さな赤ちゃん。
 美希はそのまま眠ってしまったので病室に戻る。
 美希が寝ている間に母さん達も二人の赤ちゃんを見ていた。
 すると赤ちゃんが突然泣き出す。
 鳴き声で美希も目が覚めたみたいだ。
 突然泣き出した赤ちゃんに困惑している美希に恵美さんが笑っていた。

「美希の母親としての最初の役目でしょ。しっかりしなさい」

 そう言って母さんと恵美さんは部屋を出ていった。
 僕もついて行こうか悩んだけど「あなたはお父さんなんだから今さら何を慌ててるのですか」と母さんに怒られた。
 美希が二人に授乳をしている時に気付いたこと。 
 紅い瞳をしている子は積極的に乳を吸っているのに対して、青い瞳の子は最初はぼーっと美希の乳房を眺めていて、思い出したかのように少し吸い始める。
 それを見ていてなんとなく思う事があった。

「旦那様、この子達の名前決めてありますか?」

 美希が聞いてきたので答えた。

「こっちの青い目の方の子は僕が決めてもいいかな?」
「2人とも構いませんよ」
「いや、せっかく双子なんだから一人ずつ決めようよ」
「それじゃあ、こっちの紅い目の子は……比呂で」
「うん、じゃあ僕は結で」
「よろしくね、比呂に結」

 美希がそう言って赤ちゃんの頭を撫でると比呂は嬉しそうに反応していた。
 授乳が終わると美希に確認して親を中に入れる。
 父さんと望さんも駆け付けたようだ。
 その時父さんの恐ろしさを知った。
 父さんは結を見ると頭を撫でて言う。

「よろしくね。結」
 
 美希も母さん達も驚いていた。

「どうしてわかったんですか?」

 美希が当たり前の質問をしている。

「あれ?違った?」
「いえ、主人から聞いていたのですか」
「多分そうなんじゃないかなと思っただけ。ちなみにこっちの子は?」
「比呂です」
 
 そっかと2人の孫を見て笑みを浮かべる父さん。
 しかし比呂と結が寝ると父さんはまじめな顔になる。

「比呂は大丈夫だと思うけど、結の事は慎重にね」
「何か問題があるのですか?」
「多分美希一人じゃ荷が重いと思うから愛莉も手伝ってあげて」

 天音の子供の事もあるだろうけど。
 父さんには分かっていたのだろうか?
 この小さな幼子に秘められた僕や冬吾ですらはるかに凌駕するチートを……
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