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何年経っても
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(1)
「ええ、この地元を少しでも活気づけ賑わいのある県にするために立候補しました……」
「よろーす……」
「晴斗、それはダメって言われたでしょ?」
そんな感じで選挙戦が始まった。
僕達は暇そうにしてた楠木晴斗を立候補させた。
SHにあまり関わってないからと言うのもある。
少しでも綺麗に見える人物をと考えた。
「あげあげでいくっす」
そんな晴斗の公約を秘書の林田さんが上手くいい変えてみせた。
「ガンガンいくっすよ!」
そんな彼の言葉は若者を盛り上げる。
もちろん林田さんから注意を受けながらだけど。
昔こんな漫画を読んだ事がある。
若者に政治に興味を持たせるために大衆居酒屋に赴いて若者たちの疑問に答えながらざっくばらんに政治の仕組みを説明する。
晴斗にも同じ真似をさせてみた。
すると事務所のボランティアに若者が殺到する。
「よろしくお願いします」
そう言って懸命に晴斗のポスターを配る若者たち。
この分なら上手く浮動票を獲得できるだろう。
子供達も大胆な作戦に出た。
父さんの知り合いの新聞記者に僕が渡したファイルを渡した。
渡すのも手段だったけど狙いは他にあった。
どうせ尾行されてるだろうと判断した空が自ら渡す。
案の定原川組の実行部隊を引きずり出すことに成功した。
彼等はSHで始末してしまった。
やり方もかなり過激だった。
多分他の連中もSHの反撃を恐れているだろう。
そして空は晴斗に関係のない人間だけを選別して行動している。
空も立派に育ってくれた。
よく言う”言われた事だけをやる真面目な人間”ではないらしい。
僕の指示の何手先でも読んで僕が指示せずとも目的を遂行する。
SHの活躍のお陰で僕達渡辺班は何もせずに済む。
「良い跡継ぎになりましたね」
愛莉も嬉しそうに言っている。
原川組と福山茂、そしてアルテミスの繋がりが公になった。
元々森重知事が圧倒的支持を受けていた県政だ。
そんな汚点を暴かれた福山に勝ち目はないだろう。
「でも森重先生が選挙してた時に子供を攫おうとしてたじゃない?大丈夫なの?」
公生が聞いた。
「この時期にそんな自殺行為少なくとも僕ならしないね」
選挙が始まったこの時期にそんな馬鹿な真似をするわけがない。
誘拐か最終的に人質を殺すか交渉の時に足が着くかのどちらかしかない。
どっちにしろ関与が発覚したらもう二度と選挙に出馬する事すら出来ないだろう。
「とりあえずは問題なしというところね」
「問題はあるけどね」
「え?」
恵美さんが聞いてきた。
「晴斗の学生時代」
それは僕にも言える事だけど。
晴斗の無茶苦茶な学生時代を暴かれたら覆る事があるかもしれない。
しかしそんなやんちゃをやってきたから今の晴斗の人柄があるんだろう。
誠や公生たちがしっかり監視している。
変な噂が流れたら全力でもみ消している。
もちろん足跡を残すなんて真似はしない。
それはネットだけじゃないのは恵美さんも知っている。
どこから噂が流れたのかを突き止めて根っこから潰してる。
正直僕も晴斗の当選を確信していた。
浮動票もあるけどやはり4大グループが擁立した晴斗には組織票もかなり集めてる。
晴斗が馬鹿な真似をしなければ大丈夫。
ボランティアの人間も林田さんがしっかり監視している。
予想通りスパイが忍び込んでいるみたいだ。
不正な金品の受け渡しを仄めかす連中。
林田さんは歴戦の猛者だ。
そんな挙動不審な人間を見逃す節穴じゃない。
的確に指示を出す。
ボランティアの若者にも徹底している。
酒を飲んで暴れたりすることだけは止めてくれとしっかり言い聞かせている。
もっと言うと選挙期間中は外に出歩いて飲むことは控えてくれと言っている。
僕達はのんびりと街宣の声を聞きながら順調に日々を過ごしていた。
(2)
「パパ、あれ何?」
比呂にはラーメンの出前の入れ物に見えたのだろう。
「あの中には食べ物は入ってないよ」
「そっか」
そうすると結莉を見ている。
「ここどこ?」
結莉も天音に聞いていた。
「ああ、すぐ終わるから待ってろ。何もないつまんねー場所だ」
「天音は子供にどういう教育をしているのですか!?」
「空達だって同じじゃねーか!」
とりあえず騒ぐ場所ではないと思うんだけど。
投票を終えると外に出る。
出口調査の報道員が待っていたが無視した。
学が水奈の手を引きずってきている。
「こいつは前祝だと昨日の夜飲んでいてこのありさまだ」
学はため息をついていた。
幸い夜は寝る時間だと子供達も認識しているようなので大丈夫らしい。
「だってよ……毎日育児で大変なんだぜ。たまにくらいいいじゃんな?」
「水奈がいつ育児をしていたのか俺にもわからないんだが」
いつも帰ったら夕食の支度もせずにゲームをしているらしい。
そしてその相手が天音だと知ると母さんが天音を睨みつける。
「茉莉達はゲームしてると大人しくしてるからそっちの方がいいだろ?」
「子供の前でするゲームじゃないと何度言えばわかるのですか!?」
母さんと天音が口論をしている間に学達が投票を終えてきた。
しかし様子が変だ。
「水奈!お前母親なんだぞ。将来勉強を教える立場なんだぞ!」
「あんな漢字小学生じゃ習わねーよ!」
「何があったの?」
美希が学に聞いていた。
聞いてあきれた。
楠木晴斗の字が分からなかったらしい。
そんなのちゃんと書いてただろう。
「画数が多くて面倒なんだよ……」
学は頭を抱えている。
「あれって確かあれひらがなで書いても良かったんじゃかった?」
美希が言うと水奈が学を睨みつける。
「お前騙したな!」
「いい歳した大人があれくらい漢字で書けないでどうする!?」
記入するところで学に「これどうやって書くんだ?」と聞いたらしい。
一応言っとくけど水奈は大卒だ。
今度はなずな達が来た。
なずなが琴音を抱えて遊を引きずっている。
こっちはどうしたんだろう?
「よう、なずな。また遊がやらかしたのか?」
「あ、天音。ちょっと聞いてよ」
こっちも大変だったらしい。
届いていた葉書をシュレッダーにかけようと遊がしていたそうだ。
慌ててなずなが遊を止める。
「あんた何馬鹿な真似してるの!?それがなんだか分かってるの!?」
「もう、大体決まってるんだろ?だったら俺行かなくても大丈夫だろ?」
「そんなわけ無いでしょ!まさか今までそうやってたわけ!?」
遊は学からも叱られていた。
天も同じらしい。
めんどくさいから行かないと言ってたのを繭が引きずって来た。
天はあれでも社長だよな……
「じゃ、私達一度家に帰るから」
「ああ、20時にホテルだっけ?」
そう言って天音達と別れて家に帰った。
ニュースをみると異様な投票率を出していた。
20%超えてればいいんじゃないかと思っていた投票率がまだお昼なのに50%を超えている。
多分楠木さんの人柄に惹かれた若者が出向いているのだろう。
「問題なさそうだね」
「どうしてみんな集まってるの?」
比呂が聞くと美希が分かりやすく説明していた。
もっとも結は「食べ物じゃない」と分かると全く興味を示さなかったけど。
夕方になると僕達はバスで街のホテルに向かう。
そこで楠木晴斗さんの祝勝会をする予定だった。
ホールに案内してもらうと善明達が来ていた。
「様子はどう?」
「順調にいけば間違いなさそうだね」
最前列には楠木晴斗さんとその奥さんの春奈さんが座っている。
晴斗さんはやっぱり緊張してるみたいだ。
「これで落ちたら超やばいっすよね?」
「縁起でもない事言わないの。もっと自信を持って堂々としてればいい」
春奈さんが言い聞かせている。
「ああ、空達も来たのか。あいつでも緊張する事あるんだな」
渡辺さんが挨拶してきた。
天音や父さん達も続々と来ている。
「今夜は気分よく飲めるぞ瑛大!」
「任せとけ誠、今夜は俺達を止める者はいない!」
ああいう時は関わらない方がいい。
父さんからそう聞いていた。
「ほう、何処に飲みに行くつもりだ?」
「まさか嫁さん放って遊びに行くなんて真似はしないよね?」
水奈の母さんと学の母さんが睨みつける。
「い、いや。亜依達もそろそろ若い男と飲みたいだろ?」
「馬鹿!瑛大!!」
水奈の父さんが口を塞ぐがもう遅い。
「亜依、悪い。私こいつ引きずって帰るわ。また今度にしよう」
「そうね。私も瑛大を野放しにはしておけなさそうだから」
しっかり止める者がいたようだ。
「遊!あんたも天とどこ行くつもりだったの!?」
「風俗とかじゃないからいいだろ!」
「じゃあ、どこ!?」
「そ、それは……」
遊が言葉を詰まらせていると繭がやって来た。
「なずな。天から聞きました。美女を侍らせて飲むつもりだったみたいです」
「あんたって男は……琴音だってまだ手が離せないのに何考えてるの!?」
天音の育児がまともに思えて来た。
「今日はめでたいから結莉達も飲んでみろ?美味いぞ」
「な~にそれ?」
「ただの泡の出る麦茶だ」
「結も飲む?」
結は飲食物だと知ると興味を示す。
美希が慌てて結を説得する。
茜達も協力してくれた。
「家に帰ったら美味しいジュースが待ってるよ」
「……わかった」
知らない物を飲むより美味しいと知ってるジュースの方が安心なんだろう。
「天音!結まで巻き込まないで」
「それは結莉に言えよ!」
「そうじゃないでしょ天音!あなた3歳の子に何を飲ませようとしてるの!?」
母さんが天音を叱っている。
「まあ、大丈夫だと思うが仮に当選しても、ここで不祥事起こしたら大事になる。皆自粛してくれ」
渡辺さんがそう言っていた。
その後開票が始まる。
父さんの想像通りだ。
開始早々楠木さんの名前に当確がついた。
皆が騒めく。
まだ安心は出来ない。
翼とじっと見ていた。
開票率がどんどん上がっていき、楠木さんの票数も増えて行く。
そしてもう取り返し用の無い程の差がついた時皆が立ち上がって万歳をした。
ステージに立って礼をする楠木さん。
父さん達は喜んでいる。
だけど、まだ何か考えいるようだ。
多分僕と同じ事を考えているんだろう。
この後選挙法違反をしてないか捜査が入る。
でたらめな証拠を突きつけて来ることも考えられる。
父さん達を相手にするくらいの奴らだからそのくらいしてきてもおかしくない。
楠木さんの子供達を誘拐する線もある。
最悪楠木さんに森重さんと同じ真似をするかもしれない。
ただ、今は喜ぶことにしよう。
向こうがその気なら相手してやればいい。
「皆あざーっす!」
新知事はそう、感謝の言葉を言った。
「それはダメって言ったでしょ」
春奈さんに怒られていた。
そんな様子をみんな笑っていた。
(3)
今日の業務が終ると皆が集まっていた。
前には楠木桃花さんと社長が立っている。
明日から桃花さんは産休に入る。
産後も育休を取っていた。
せめて乳離れが出来るくらいまではとるつもりらしい。
父さんもそれは承知していた。
父さんが挨拶すると女性社員が花束を桃花さんに送る。
「元気な子供産んでくださいね」
「ありがとうございます」
それが終ると皆家に帰る。
「あ、お帰り~。もうすぐ夕飯出来るから着替えてて」
美希と母さんがキッチンに立つ。
とりあえず着替えた。
リビングでは冬莉達が比呂と結の相手をしている。
一緒にテレビを観ていて結が質問している。
「あれ美味しいの?」
「あれは食べれないかな」
「じゃあ、これは?」
「うーん、食べた事無いから分からないな~」
結の基準は食い物かどうからしい。
結も来月には幼稚園児だ。
最初は美希がついていくらしいから大丈夫だろう。
夕食の時間は結は必死にご飯を食べている。
夕食を終えて風呂に入るとリビングでジュースを飲みながら父さんと結と比呂とテレビを観ていた。
酒を飲まないのは比呂が興味を持つから。
結達が寝てる時に飲んでる。
美希も風呂を終えてリビングに来た。
「結と比呂、そろそろ寝んねの時間だよ」
美希が言うと結と比呂が「おやすみ」と言って部屋に戻る。
「あの子達は大丈夫なのでしょうか?」
何を見せてもまず「食べられるか?」を聞いてくる子だから恋愛なんて絶対興味を持ちそうになかった。
「結は大丈夫だと思う」
「どうしてですか?」
普通に考えて結莉は無理ですよ?
「他にも想われてる女の子がいるじゃないか」
「茉奈ですか?」
美希が言うと僕がうなずいた。
でもさすがにどうなるか分からない。
まだ3歳なのだから。
「問題はあの子が集団生活に馴染めるかだね」
一人でボーっとしてそうな気もするけど、結莉達も一緒だから多分大丈夫だろう。
問題は依然山積みだけど、解決策は見えて来た。
きっと解決できるだろう。
子供達がいよいよ自分たちの社会を作る時が来た。
「これから美希も大変だと思うけど……」
「任せてください。多分結達より結莉達の方が大変だろうし」
天音も反省するんじゃないのか?
愛莉に散々迷惑かけて来たし、と美希が笑う。
「桜子が心配だね」
「そうだね……」
そんな話をしながら子供達の未来を考えていた。
「ええ、この地元を少しでも活気づけ賑わいのある県にするために立候補しました……」
「よろーす……」
「晴斗、それはダメって言われたでしょ?」
そんな感じで選挙戦が始まった。
僕達は暇そうにしてた楠木晴斗を立候補させた。
SHにあまり関わってないからと言うのもある。
少しでも綺麗に見える人物をと考えた。
「あげあげでいくっす」
そんな晴斗の公約を秘書の林田さんが上手くいい変えてみせた。
「ガンガンいくっすよ!」
そんな彼の言葉は若者を盛り上げる。
もちろん林田さんから注意を受けながらだけど。
昔こんな漫画を読んだ事がある。
若者に政治に興味を持たせるために大衆居酒屋に赴いて若者たちの疑問に答えながらざっくばらんに政治の仕組みを説明する。
晴斗にも同じ真似をさせてみた。
すると事務所のボランティアに若者が殺到する。
「よろしくお願いします」
そう言って懸命に晴斗のポスターを配る若者たち。
この分なら上手く浮動票を獲得できるだろう。
子供達も大胆な作戦に出た。
父さんの知り合いの新聞記者に僕が渡したファイルを渡した。
渡すのも手段だったけど狙いは他にあった。
どうせ尾行されてるだろうと判断した空が自ら渡す。
案の定原川組の実行部隊を引きずり出すことに成功した。
彼等はSHで始末してしまった。
やり方もかなり過激だった。
多分他の連中もSHの反撃を恐れているだろう。
そして空は晴斗に関係のない人間だけを選別して行動している。
空も立派に育ってくれた。
よく言う”言われた事だけをやる真面目な人間”ではないらしい。
僕の指示の何手先でも読んで僕が指示せずとも目的を遂行する。
SHの活躍のお陰で僕達渡辺班は何もせずに済む。
「良い跡継ぎになりましたね」
愛莉も嬉しそうに言っている。
原川組と福山茂、そしてアルテミスの繋がりが公になった。
元々森重知事が圧倒的支持を受けていた県政だ。
そんな汚点を暴かれた福山に勝ち目はないだろう。
「でも森重先生が選挙してた時に子供を攫おうとしてたじゃない?大丈夫なの?」
公生が聞いた。
「この時期にそんな自殺行為少なくとも僕ならしないね」
選挙が始まったこの時期にそんな馬鹿な真似をするわけがない。
誘拐か最終的に人質を殺すか交渉の時に足が着くかのどちらかしかない。
どっちにしろ関与が発覚したらもう二度と選挙に出馬する事すら出来ないだろう。
「とりあえずは問題なしというところね」
「問題はあるけどね」
「え?」
恵美さんが聞いてきた。
「晴斗の学生時代」
それは僕にも言える事だけど。
晴斗の無茶苦茶な学生時代を暴かれたら覆る事があるかもしれない。
しかしそんなやんちゃをやってきたから今の晴斗の人柄があるんだろう。
誠や公生たちがしっかり監視している。
変な噂が流れたら全力でもみ消している。
もちろん足跡を残すなんて真似はしない。
それはネットだけじゃないのは恵美さんも知っている。
どこから噂が流れたのかを突き止めて根っこから潰してる。
正直僕も晴斗の当選を確信していた。
浮動票もあるけどやはり4大グループが擁立した晴斗には組織票もかなり集めてる。
晴斗が馬鹿な真似をしなければ大丈夫。
ボランティアの人間も林田さんがしっかり監視している。
予想通りスパイが忍び込んでいるみたいだ。
不正な金品の受け渡しを仄めかす連中。
林田さんは歴戦の猛者だ。
そんな挙動不審な人間を見逃す節穴じゃない。
的確に指示を出す。
ボランティアの若者にも徹底している。
酒を飲んで暴れたりすることだけは止めてくれとしっかり言い聞かせている。
もっと言うと選挙期間中は外に出歩いて飲むことは控えてくれと言っている。
僕達はのんびりと街宣の声を聞きながら順調に日々を過ごしていた。
(2)
「パパ、あれ何?」
比呂にはラーメンの出前の入れ物に見えたのだろう。
「あの中には食べ物は入ってないよ」
「そっか」
そうすると結莉を見ている。
「ここどこ?」
結莉も天音に聞いていた。
「ああ、すぐ終わるから待ってろ。何もないつまんねー場所だ」
「天音は子供にどういう教育をしているのですか!?」
「空達だって同じじゃねーか!」
とりあえず騒ぐ場所ではないと思うんだけど。
投票を終えると外に出る。
出口調査の報道員が待っていたが無視した。
学が水奈の手を引きずってきている。
「こいつは前祝だと昨日の夜飲んでいてこのありさまだ」
学はため息をついていた。
幸い夜は寝る時間だと子供達も認識しているようなので大丈夫らしい。
「だってよ……毎日育児で大変なんだぜ。たまにくらいいいじゃんな?」
「水奈がいつ育児をしていたのか俺にもわからないんだが」
いつも帰ったら夕食の支度もせずにゲームをしているらしい。
そしてその相手が天音だと知ると母さんが天音を睨みつける。
「茉莉達はゲームしてると大人しくしてるからそっちの方がいいだろ?」
「子供の前でするゲームじゃないと何度言えばわかるのですか!?」
母さんと天音が口論をしている間に学達が投票を終えてきた。
しかし様子が変だ。
「水奈!お前母親なんだぞ。将来勉強を教える立場なんだぞ!」
「あんな漢字小学生じゃ習わねーよ!」
「何があったの?」
美希が学に聞いていた。
聞いてあきれた。
楠木晴斗の字が分からなかったらしい。
そんなのちゃんと書いてただろう。
「画数が多くて面倒なんだよ……」
学は頭を抱えている。
「あれって確かあれひらがなで書いても良かったんじゃかった?」
美希が言うと水奈が学を睨みつける。
「お前騙したな!」
「いい歳した大人があれくらい漢字で書けないでどうする!?」
記入するところで学に「これどうやって書くんだ?」と聞いたらしい。
一応言っとくけど水奈は大卒だ。
今度はなずな達が来た。
なずなが琴音を抱えて遊を引きずっている。
こっちはどうしたんだろう?
「よう、なずな。また遊がやらかしたのか?」
「あ、天音。ちょっと聞いてよ」
こっちも大変だったらしい。
届いていた葉書をシュレッダーにかけようと遊がしていたそうだ。
慌ててなずなが遊を止める。
「あんた何馬鹿な真似してるの!?それがなんだか分かってるの!?」
「もう、大体決まってるんだろ?だったら俺行かなくても大丈夫だろ?」
「そんなわけ無いでしょ!まさか今までそうやってたわけ!?」
遊は学からも叱られていた。
天も同じらしい。
めんどくさいから行かないと言ってたのを繭が引きずって来た。
天はあれでも社長だよな……
「じゃ、私達一度家に帰るから」
「ああ、20時にホテルだっけ?」
そう言って天音達と別れて家に帰った。
ニュースをみると異様な投票率を出していた。
20%超えてればいいんじゃないかと思っていた投票率がまだお昼なのに50%を超えている。
多分楠木さんの人柄に惹かれた若者が出向いているのだろう。
「問題なさそうだね」
「どうしてみんな集まってるの?」
比呂が聞くと美希が分かりやすく説明していた。
もっとも結は「食べ物じゃない」と分かると全く興味を示さなかったけど。
夕方になると僕達はバスで街のホテルに向かう。
そこで楠木晴斗さんの祝勝会をする予定だった。
ホールに案内してもらうと善明達が来ていた。
「様子はどう?」
「順調にいけば間違いなさそうだね」
最前列には楠木晴斗さんとその奥さんの春奈さんが座っている。
晴斗さんはやっぱり緊張してるみたいだ。
「これで落ちたら超やばいっすよね?」
「縁起でもない事言わないの。もっと自信を持って堂々としてればいい」
春奈さんが言い聞かせている。
「ああ、空達も来たのか。あいつでも緊張する事あるんだな」
渡辺さんが挨拶してきた。
天音や父さん達も続々と来ている。
「今夜は気分よく飲めるぞ瑛大!」
「任せとけ誠、今夜は俺達を止める者はいない!」
ああいう時は関わらない方がいい。
父さんからそう聞いていた。
「ほう、何処に飲みに行くつもりだ?」
「まさか嫁さん放って遊びに行くなんて真似はしないよね?」
水奈の母さんと学の母さんが睨みつける。
「い、いや。亜依達もそろそろ若い男と飲みたいだろ?」
「馬鹿!瑛大!!」
水奈の父さんが口を塞ぐがもう遅い。
「亜依、悪い。私こいつ引きずって帰るわ。また今度にしよう」
「そうね。私も瑛大を野放しにはしておけなさそうだから」
しっかり止める者がいたようだ。
「遊!あんたも天とどこ行くつもりだったの!?」
「風俗とかじゃないからいいだろ!」
「じゃあ、どこ!?」
「そ、それは……」
遊が言葉を詰まらせていると繭がやって来た。
「なずな。天から聞きました。美女を侍らせて飲むつもりだったみたいです」
「あんたって男は……琴音だってまだ手が離せないのに何考えてるの!?」
天音の育児がまともに思えて来た。
「今日はめでたいから結莉達も飲んでみろ?美味いぞ」
「な~にそれ?」
「ただの泡の出る麦茶だ」
「結も飲む?」
結は飲食物だと知ると興味を示す。
美希が慌てて結を説得する。
茜達も協力してくれた。
「家に帰ったら美味しいジュースが待ってるよ」
「……わかった」
知らない物を飲むより美味しいと知ってるジュースの方が安心なんだろう。
「天音!結まで巻き込まないで」
「それは結莉に言えよ!」
「そうじゃないでしょ天音!あなた3歳の子に何を飲ませようとしてるの!?」
母さんが天音を叱っている。
「まあ、大丈夫だと思うが仮に当選しても、ここで不祥事起こしたら大事になる。皆自粛してくれ」
渡辺さんがそう言っていた。
その後開票が始まる。
父さんの想像通りだ。
開始早々楠木さんの名前に当確がついた。
皆が騒めく。
まだ安心は出来ない。
翼とじっと見ていた。
開票率がどんどん上がっていき、楠木さんの票数も増えて行く。
そしてもう取り返し用の無い程の差がついた時皆が立ち上がって万歳をした。
ステージに立って礼をする楠木さん。
父さん達は喜んでいる。
だけど、まだ何か考えいるようだ。
多分僕と同じ事を考えているんだろう。
この後選挙法違反をしてないか捜査が入る。
でたらめな証拠を突きつけて来ることも考えられる。
父さん達を相手にするくらいの奴らだからそのくらいしてきてもおかしくない。
楠木さんの子供達を誘拐する線もある。
最悪楠木さんに森重さんと同じ真似をするかもしれない。
ただ、今は喜ぶことにしよう。
向こうがその気なら相手してやればいい。
「皆あざーっす!」
新知事はそう、感謝の言葉を言った。
「それはダメって言ったでしょ」
春奈さんに怒られていた。
そんな様子をみんな笑っていた。
(3)
今日の業務が終ると皆が集まっていた。
前には楠木桃花さんと社長が立っている。
明日から桃花さんは産休に入る。
産後も育休を取っていた。
せめて乳離れが出来るくらいまではとるつもりらしい。
父さんもそれは承知していた。
父さんが挨拶すると女性社員が花束を桃花さんに送る。
「元気な子供産んでくださいね」
「ありがとうございます」
それが終ると皆家に帰る。
「あ、お帰り~。もうすぐ夕飯出来るから着替えてて」
美希と母さんがキッチンに立つ。
とりあえず着替えた。
リビングでは冬莉達が比呂と結の相手をしている。
一緒にテレビを観ていて結が質問している。
「あれ美味しいの?」
「あれは食べれないかな」
「じゃあ、これは?」
「うーん、食べた事無いから分からないな~」
結の基準は食い物かどうからしい。
結も来月には幼稚園児だ。
最初は美希がついていくらしいから大丈夫だろう。
夕食の時間は結は必死にご飯を食べている。
夕食を終えて風呂に入るとリビングでジュースを飲みながら父さんと結と比呂とテレビを観ていた。
酒を飲まないのは比呂が興味を持つから。
結達が寝てる時に飲んでる。
美希も風呂を終えてリビングに来た。
「結と比呂、そろそろ寝んねの時間だよ」
美希が言うと結と比呂が「おやすみ」と言って部屋に戻る。
「あの子達は大丈夫なのでしょうか?」
何を見せてもまず「食べられるか?」を聞いてくる子だから恋愛なんて絶対興味を持ちそうになかった。
「結は大丈夫だと思う」
「どうしてですか?」
普通に考えて結莉は無理ですよ?
「他にも想われてる女の子がいるじゃないか」
「茉奈ですか?」
美希が言うと僕がうなずいた。
でもさすがにどうなるか分からない。
まだ3歳なのだから。
「問題はあの子が集団生活に馴染めるかだね」
一人でボーっとしてそうな気もするけど、結莉達も一緒だから多分大丈夫だろう。
問題は依然山積みだけど、解決策は見えて来た。
きっと解決できるだろう。
子供達がいよいよ自分たちの社会を作る時が来た。
「これから美希も大変だと思うけど……」
「任せてください。多分結達より結莉達の方が大変だろうし」
天音も反省するんじゃないのか?
愛莉に散々迷惑かけて来たし、と美希が笑う。
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そんな話をしながら子供達の未来を考えていた。
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だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
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