姉妹チート

和希

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Anything Goes

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(1)

「水奈!お前は子供を殺す気か!?」

 学と水奈の母さんが水奈を叱っている。
 それは結達が寝た後に始まった。
 水奈はゆっくり休ませておいた方がいいと思ってやったそうだ。
 
「あれほどやめとけと言っただろ?」

 天音も呆れていた。
 水奈はこの暑い中車の中に優菜と愛菜を放置していた。
 下手すれば死ぬ危険を分かっていなかったらしい。

「子供は自分でエアコン入れたりできないから考えないと」
 
 学の母さんも注意していた。
 たまたま僕の母さんが見つけて慌てて水奈に教えたらしい。

「お前らは親という自覚があるのか!?」

 そんな感じで僕達は親に叱られていた。
 父親は何も言わなかった。
 これ幸いとばかりに集まって何かしている。
 近づいたらいけないと父さんに言われていたから近づかなかった
 特に水奈が酷いので色々教えられていた。
 そりゃ離乳食がカップラーメンじゃ怒るのも無理はないだろう。
 天音も庇いようがなかった。

「善明!あなたも他人事のようにしてるけど、秋久のあのやる気の無さはなんとかならないの!?」
「お、落ち着いて晶ちゃん。あの子がその気になったら3歳で殺人犯だよ!?」

 相変わらず善明の家は思考がすごいなぁ……。
 まあ、その気になったら死体の山を作りそうな結達だけど。
 これは確かに”最悪の世代”だな。
 そんな話を聞いていた桜子は頭を抱えてる。

「大丈夫。桜子には迷惑かけるなって言っておくから」

 翼と天音が言っている。

「まあ、あまり悩むと禿げるぞ」
「大丈夫だって。優翔と茉奈は不思議なくらいに大人しいんだ」

 天音と水奈が説得してる。
 水奈も場合は子供より母親が問題な気がしたのだけど。
 水奈の母親も頭を抱えている。
 遊は遊びに行くどころじゃない。
 夜遅いと琴音が寝ない。

「パパが帰ってくるまで我慢する」

 そんな事を言って起きてるんだそうだ。
 悪い事は言ってない。
 パパが大好きな娘なんだろう。
 なずなは慌てて遊に早く帰ってくるように伝える。
 遊も慌てて早く帰る。

「パパお酒臭い!嫌い!」

 そんな事を言われ出したら遊も禁酒を考えたそうだ。
 少なくとも琴音が寝るまでは我慢しようとなずなと相談したみたい。
 粋の息子の快は特に何も無いらしい。
 ただ、目を離すといなくなるそうだ。
 家の中をあらゆるところに隠れているらしい。
 花が探し回って「あら、こんなところにいたのね」というと嬉しそうに笑うらしい。

「それは普通だから心配しないでいいよ」

 天音が言ってた。
 しかしこうやって翼達が育児の悩みを聞いていると男性陣が野放しになる。
 学の父さんや水奈の父さんを中心に上機嫌で盛り上がっている。
 結達は寝てるから問題ないけど、家の中でも歌っていると溜息をつくなずな。
 すると水奈の母さんと学の母さん達が近づいていく。
 父さんや善明の父さん達はあらかじめ距離を置いていた。
 近づいている事に気づかない学の父さん達はだんだん過激な言葉を出していく。

「良いか光太!かみさんの言う事を聞いてるだけじゃダメだ!男の主張って物をちゃんと貫け!」
「誠の言う通りだ。もはやただのババアなんかこわがる必要ねーぞ!」
「わかってるぜ!かみさんが怖いわけないだろ!なあ、克樹!」
「おうよ、娘に男って物をみせてやらないとな!」

 光太達もいつの間にか加わっていたようだ。
 しかし水奈の父さんはフィールドを支配しているというけど現状に気づかないのはどういう理屈なんだろう?

「ほう?男の主張か?たまにはきいてやろうじゃねーか」
「前にも言ってたな。私がただのババアだったらお前な何なんだ?」
「光太はいい加減早く帰ってこないと玲衣達だって気づき始めてるわよ?」
「それを娘に見せて良い物かどうか判断する必要があるから今見せて。克樹」

 4人は嫁さんの声に気づいて恐る恐る後ろを振り返る。
 それぞれの嫁さんがただならぬ形相で立っていた。

「か、神奈。水奈の方はいいのか?」
「そっちは学がどうにかするだろ。今はお前だ」
「瑛大もまだ姫乃達がいるのに何考えてるんだ!」
「大体お前らの影響で水奈達がああなったんだろうが!」

 嫁さんの説教をしっかり受けていた。
 そこに男の威厳なんてものは微塵も感じなかった。
 そんな親を見ていると天音が言い出した。

「大地、お前もまさか同じ事考えてるんじゃないだろうな」
「遊も同じだよ。そのうち本当に琴音に嫌われるよ!」

 こっちにも飛び火してきたけど僕と善明は何も言われなかった。
 ちゃんと普段から美希を労わってきたから。

「水奈も翼もこの際しっかり聞いておいた方がいいんじゃねーのか!?」

 天音が言うと翼が言う。

「善明そういうのがまったくないの。娘に甘くて困ってるくらいだよ。それに……」

 そう言って翼が何か思い出したかのように笑っている。
 何があったんだろう。

「パパって平凡を装ってるけどすごいんだね。私達ならよくわかる」
「きっと秋久もパパみたいになるよ。私達もパパみたいな彼氏欲しいな」

 菫が恥ずかしいからと口止めされていたらしい。
 善明が羨ましかった。

「俺は逆に嫁に不満があるんだが」

 学が言い出した。

「俺が仕事に行ってる間くらい子供の面倒をしっかりしろ!」

 お腹を空かして泣いてるのにゲームの音で気づかないって何考えてるんだと学が水奈に怒っている。

「暇だからしょうがないだろ!」
「じゃあ、休みの日に俺が家中を掃除しないとダメなのはどういう理由だ!?」
「前から言ってるだろ!埃で人は死なねーよ」
「じゃあ、この真夏に車に子供を放置してるのはどう説明するんだ!?」
「パチ屋に行ってるわけじゃないからすぐ戻るし良いと思ったんだよ」
「水奈、それはやめとけって前に言っただろ?」

 天音もさすがに水奈を庇えなかった。
 流石に死ぬぞ……。

「天音の言う通りだな。どうも水奈には育児というのを再教育する必要がありそうだな」

 気づいたら水奈の母さんが戻ってきていた。

「家事も育児も仕事も学に押し付けて自分はゲームしてるだけの母親がどこにいるんだ!?」
「毎日掃除しても汚れなんてねーよ!」
「じゃあ、料理と洗濯はどう説明するんだ!」

 旦那に汚れた服を着せて仕事に行かせる気か?
 皆大変なんだな。
 僕と美希はそっと逃げ出した。
 善明は母さんにつかまっていた。

「翼から聞いたわよ!あなた陽葵達が出来てから全然翼の相手してないんですって?」
「疲れてるのに自分の欲望を押し付けるのはさすがに悪い気がしたから……」
「じゃあ、私の欲求は誰に押し付けたらいいの?」

 ちなみに僕は美希の相手をちゃんとしてる。
 美希も疲れてるから労わってやろうと思って。
 テントに入ると比呂と結と茉奈は熟睡していた。
 その隣に寝転がる。

「皆苦労してるんだな」
「私だってしてますよ」

 美希が言う。

「何か問題あった?」

 僕が聞くと美希は僕を指差す。

「結の性格が段々旦那様に似てきているから不安で」

 誰かを助けるのに理由がいるかい。
 そんな理由で幼稚園を炎上させようとする結の制御が大変らしい。

「まあ、茉奈がその役割を担ってくれてるみたいだけど」

 茉奈が結の後頭部をぽかっとするだけで暴走はとまるそうだ。
 これからは茉奈の役割だと結莉が教えたらしい。

「比呂はどうなの?」

 何も聞かないけど。

「それが恐ろしいくらいまでに普通なんです」

 結と双子とは思えないくらいに。

「だったら問題ないだろ」
「どうしてですか?」
「それって僕に似てないって事だろ?」

 だとしたら後は冬吾のようなタイプなんじゃないか?

「どっちにしろ制御する彼女が必要ですね」
「母親としては彼女が出来るってどうなの?」
「旦那様。まず父親と母親では前提が違い過ぎます」

 成長を見守って来た娘が嫁いでいくのが寂しいのは分かる。
 でも母親はそんな寂しさはもっと前から味わっている。
 自分の胎内から生まれて行動範囲が自分の腕の中だけだった子供が、自由に行動できるようになって手元を離れていく。
 やがて自我が芽生えて何もしなくても手元を離れていく。
 でもそれが成長なんだ。
 親離れしていくのは自然の摂理だと母親は理解している。
 理解できない母親が非常識な子供を作り出す。

「じゃあ、美希に寂しい思いをさせないようにしないとね」
「お願いします」

 いつか父さん達と同じように子供の思い出話に浸る時が来るのだろうか?
 母さんや父さんにも聞いてみようと思った。
 
(2)

「昨夜は参りましたね」

 石原君がそう言いながらコーヒーを入れてくれた。
 いい加減誠達も学習していい気がするんだけどどうしてだろう。
 片桐君と石原君といつもの3人で話をしていた。
 その後に善明と大地と空がやってくる。
 結と茉奈は朝ごはんが出来るまで起きるつもりがないらしい。
 しかし秋久と陽葵と菫は違うようだった。
 何となく気配がして気になって起きて来たらしい。
 静かに周りを警戒しながら子供達にはジュースを与えていた。
 やはりこの子達は純粋な能力なら少し上かもしれない。
 ただ結の能力がチート過ぎてその程度の差なんて簡単に覆してしまう。
 海翔もまだ幼い。
 流石にここまで能力を持ったらもう平凡な男の子なんて誰も思わないだろう。
 スポーツでもさせてみようかとも思ったけど能力がひどすぎる。
 ありとあらゆるジャンルでも構うことなく人を殺すだろう。
 結自身のやる気の無さも幸いしているけど、やはり茉奈の存在が制御弁になっているのだろう。

「結が茉奈を守ろうとして、結に何かがあったら茉奈が悲しむよ」

 空がそう言ったらしい。
 結は素直だ。
 だから茉奈と一緒にいる間は怒らせない限りのんびりしているだけ。
 問題は結に手を出そうとする命知らずがまだ存在している事。
 FGとやらは結の警告で大人しくなった。
 そのあげく何も害のなさそうな秋久を狙ったらしいけど。
 普通なら姉の陽葵や菫を狙いそうだけど常日頃茉莉と遊んでいるらしくて、その様子を見ていたらとても手出し出来るもんじゃないらしい。
 しかし酒井家を狙うということ自体が命を捨てる行為に等しいという事に気づいてくれなかったみたいだ。
 
「あの子も訓練しないと、あの情けないのは直らないの?」

 晶ちゃんはそう言っていたけどとんでもない。
 あの子達は常に何かを見て吸収している。
 何もしなくても立派な暗殺者になるよ。
 そんな求人この世界にもないけどね。
 陽葵と菫の能力も地味だけど善明を手こずらせるくらいには使いこなす。
 茉莉と互角に戦っているってだけでも普通じゃないけどね。
 そうなるとSHの中でも能力のない浅井さんや朝倉君を狙っている。
 分かっていない。
 茉奈と結はともかく茉莉と陽葵達は口実があればすぐに暴れ出す。
 そして陽葵達にやらせて男の秋久が動かないと晶ちゃんが知れば大変なことになる。
 秋久はそれを分かっていたので仕方なく巻き込まれていく。
 四宮という子もいきなり切り札のプラズマを秋久にぶつけようとした。
 しかし秋久が見事に防いだ。
 持ってる能力を全部出させて見抜いた後にステイシスという状態に持っていく。
 秋久に言わせたら人類を滅亡させるくらいの隕石を落としかねない結。
 しかしその能力は多分秋久にも使えるだろう。
 能力を2つ以上同時に使えないなんてどうでもいい規模だ。
 結は別格だとして結莉と茉莉、秋久と陽葵と菫の5人がいれば日本壊滅くらいやってのけるだろう。
 そんな事をしても面白くない。
 そう思っている今は大丈夫なんじゃないかと片桐君は言っている。
 
「で、陽葵と菫はどうなの?」

 片桐君は僕の息子の善明に聞いていた。

「パパが理想の彼氏って言ってるそうです」

 善明が笑う。
 今でも十分善明を超えてると思うんだけどね。
 その割には桜子を手こずらせてるみたいだけど。
 同情するよ。
 そのうち凄いのがくるんだよ。
 桜子が病気にならないことを祈るよ。

「しかし子供達の育児を見てると僕達も随分年を取ったって気になりますね」

 石原君が言う。
 それは分かる。
 僕達もようやくのんびりできる時が来た。
 何かの漫画でやっていた。
 いつか僕達もあつまって昔話を思い出す日が来るだろう。
 その時に笑って過ごせるように頑張ろう。
 僕達もそんな時が来たんだなって片桐君が言った時だった。

「まだ冬吾や冬眞達がいるから早いです。それにどうしてそんな素敵な話に私達を混ぜてくれないのですか?」

 片桐君が振り返ると愛莉さん達が立っていた。
 気づいたらいないからまたかと思ったらしい。

「どうして毎年毎年男だけで集まろうとするの?」
「え、恵美は昨夜遅くまで大変だったから」

 そう、夜遅くまで多田君達を叱りつけていた。
 僕達は離れていたから難を免れた。

「望の言う通り。だからこういう話で楽しみたいっていう気持ちくらい気づいてくれてもいいじゃない」
 
 そう言って3人は夫の隣に座るとコーヒーを貰う。

「でも冬夜さんの言う通りですね。天音が結莉達に手こずってるのを見ると面白くて」

 愛莉さんが笑っている。
 一時はババア呼ばわりされて悩んでいたこともあったけどね。
 泉も彼氏が出来て大人しくなって、いよいよ作中最強キャラは結を制御できる茉奈なんじゃないかと思えて来た。

「でも善君、善明に秋久を任せて大丈夫なの?」

 秋久の性格は僕に似ているから心配なんだろう。
 でもそれは違う。
 秋久の凄い所はそこなんだ。

「どう違うの?」
「……よくも悪くも自分の役割を心得ている」

 渡辺班もSHも片桐家が出てきたら終わりだ。
 だからその前に片づけてしまいたい。
 それをあの子は既に分かっている。
 結が動いたら文字通り幼稚園が崩壊する。
 だから近づく前に処理をする。
 その事を分かっているから常に2人の動向を見ているのだろう。
 僕や善明ならそんな面倒な事しない。
 穏やかに過ごしたいと思っているはずだ。
 だけど他に適役がいないから自分と朔で受け持とう。
 そんな暗黙の了解があるんだろう。

「なるほどね……。で、陽葵と菫はどうなの?」

 晶ちゃんが一番聞かれたくないことを聞いてきた。
 恐らく石原君も分かっているのだろう。
 苦笑していた。
 片桐君もそんな僕達を見て分かってしまったみたいだ。
 そしてその事を愛莉さんが察してしまった。

「冬夜さんは気づいてるみたいですけどどうして言わないのですか?」
「……翼の娘だけど、酒井家に口出しするのもどうかと思ってね」

 上手く逃げたね。
 出来れば僕達にも逃げ道を教えておくれ。
 しかし愛莉さんが逃げ道を塞いだ。

「2人とも知ってるのなら話せばいいじゃない」
「なんですって?望、わかってるなら白状しなさい」
「善君もよ!どうしてそうやって隠すの!?」

 もう逃げ道が無いと思った石原君が話した。

「多分翼に似たんじゃないかな」
「どこがですか?」

 振り返ると翼達もいた。
 善明が観念したようだ。

「翼はクリスマスイブの事を覚えているかい?」
「あのアニメや映画の事ですか?」
「どんなアニメを見てたの?」

 恵美さんが聞くと翼が説明した。

「……そういう事なのね」

 恵美さんは分かったみたいだ。
 あんなのばっかり見てたら菫や陽葵のような事になるのは明白だろう。

「別にいいじゃん。たくましく成長してるじゃねーか」

 それだけならいいけど天音。あの子は女の子だよ?
 まあ、結莉や茉莉の母親なら普通なんだろうね。

「お前ら朝から元気良いな……」

 水奈がかなり体調悪そうだ。

「水奈こそなんか具合悪そうだけどどうしたんだ?」
「飲み過ぎて頭痛いんだよ」
「だから、いつも飲み過ぎに気をつけろと言ってるだろ!」

 二日酔いでも育児はサボれないんだぞと学が注意する。
 もっとも普段から育児をしているのかどうかすら怪しいけど。
 
「誰に似たんだろうな。その酒の弱さは」

 酒癖の悪さは引き継がなかったみたいだけど。
 皆が起きてくると朝食の準備に入る。
 朝食が終るとテントを撤収して帰りに銭湯に寄る事にした。

(3)

 疲れた後に風呂に入ると気持ちが良い。
 ゆったりと風呂に浸かって疲れを癒す。
 夏休みも試合はある。
 むしろ夏休みだから起用するチャンスだと思ってるみたいだ。
 コンディションはいつでも整えておかないといけない。
 すると誠司や育人に志希が集まって来た。
 誠司が馬鹿な事を言わなかったら普通の会話だ。

「志希デビューが決まったんだって?」

 誠司が聞くと志希が頷いた。
 志希は冬莉と音楽ユニット”F・SEASON”を結成した。
 ネットで感触を確かめていたら頼子の母さんの会社に目をつけられた。
 高校はちゃんと卒業させるという条件で2人はすぐに契約した。
 夏にテーマパークでフェスを催している。
 それが二人の初舞台。
 志希はそれに向けて曲を準備したらしい。
 内容は秘密だそうだ。
 
「それで思い出した。育人さ、間に合いそう?」
「ああ、順調に進んでる。でもあんなのでいいの?」
「うん、せっかくだから派手にやろうと思ってね」
「あの衣装で?」
「あの衣装だからいいんだよ」

 よく分からない会話をしてた。

「何をやる気なんだよ?」

 誠司が聞いたけど、それは当日のお楽しみと返された。

「それはいいけど、育人は泉の相手してるの?」
「それが結構ノルマがきついし志希みたいに突然注文あったりで忙しくて」

 サイズあわせの時くらいしか2人っきりになれないらしい。

「……瞳子が気にしていた。泉はただのマネキンなのかって」
「あ……」

 育人も思い当たる節があったらしい。
 すると誠司が言った。

「あのさ、趣味とか仕事に夢中になるのはいいけど、少しは彼女の事も気にしてやれ」

 不安だったり悩んでいるうちはいい。
 だけどそれすらなくなったら本当に終わりだぞ。
 恋の神様はいるけど怠けてる奴には力を貸してくれない。
 努力をしてる奴だけに力を貸してくれるんだ。
 誠司の父さんも言ってたらしい。
 僕の父さんも言ってた。

「好きの反対は嫌いじゃない。無関心だ」

 そうなったらもう何もやっても、頭を下げても無駄。
 女子にとって恋は上書き保存。
 他の人を好きになった時点で育人の事は気にも止めなくなる。
 そうなってからでは遅いから少しくらい苦労してでも大事にしてやれ。
 誠司はそれで失敗したから、同じ思いを育人にも泉にも味合わせたくない。

「1日2日予定を作ったって変わらないだろ?今は夏休みなんだ。今構ってやらないと間違いなく将来後悔するぞ」
「花火なんかいいんじゃないかな。誘ったらきっと泉も喜ぶよ」

 志希が言っていた。

「あとで誘ってみる」
「まだ大丈夫だから頑張れ」
 
 誠司がそう言って笑った。
 風呂を出るとファミレスに行く。
 僕達の世代は皆集まっていた。
 僕が育人の横腹をつつく。
 育人は分かったみたいで泉に言っていた。

「泉、今度良かったら花火見に行かない?」
「……誰に言われたの?」

 泉はにやりと笑って答えた。
 僕達は驚いてた。
 バレていたか。
 まずいかな?

「どうせ、皆恋人と夜を過ごすつもりなんでしょ?」

 冬莉が言った。
 どうせ皆花火デート考えてたんでしょ。
 でも私達の世代はちょっと特殊だ。
 サッカー、歌手、デザイナー。
 高校を卒業したらみんなバラバラになる。
 デートはいつでもできる。
 だから高校生活の間は皆で騒ごう。
 もちろんSHにいる限り私達の絆は切れない。
 だけど今だけの思い出だって重要じゃないか。
 そんな話を女子は話していたらしい。
 
「真っ直ぐ家に帰るなんていったら怒るよ?」

 泉はそう言って笑っていた。

「そうなると問題は誠司じゃないか?」

 颯真が言う。
 一人だけ一人でいいのか?

「お前冬莉の何を聞いていたんだ。皆の思い出作りなら彼女いなくても問題ないだろ」

 それに夜の過ごし方なら冬吾の100倍くらい色々経験したからいいよ。
 誠司がそう言って笑っていた。

「誠司……お前どんなプレイしてきたんだ?」

 誠司の父さんが聞いていた。
 遊の父さん達も混ざっている。
 僕の父さんは聞こえないふりをしてた。
 誠司は笑って答える。

「ちょっと冬吾達には刺激が強すぎるから家に帰ってからでもいい?」
「む……そういう息子の性癖も知っておくべきだろうな」
「じゃ、俺も今夜誠の家に行くよ。誠司も酒くらい飲んでいいだろ?酒の肴にでも……いてぇ!」
「瑛大は何他人様の子供をそそのかしてるんだ!れっきとした日本代表の選手が未成年で飲酒なんてバレたら大変だろうが!」
「だから誠の家で飲むんだったら平気だろ?」
「んなわけあるか!」
「誠も家には崇博達がいるんだぞ!誠司と同じ道を歩ませるつもりか!?」

 飲酒については誠司の母さんは言及しなかった。

「そうだな、どうせ海外に行くんだし息子と飲むってのはありかもな」

 本当にいいのだろうか?
 それに気になる。
 刺激の強い事ってなんだろう?

 ぽかっ
 ぽかっ

 瞳子と冬莉に叩かれた。

「冬吾は気にしなくていい。そんな物に興味を持ったら瞳子が困るでしょ!」
「わ、私も今で十分だから。変な事要求されても恥ずかしいよ」

 まあ、瞳子が嫌がってるならやめとこうか。

「でも誠司本当にいいのか?高校生活で彼女作らないって聞いたけど海外にいったらますます彼女つくれないんじゃないのか?」
「冬吾分かってないな。イタリアだぜ。白くてきれいな肌だし、毛だって剃ってるのが常識の国なんだ……いてぇ」
「お前はそれが目当てで移籍先を選んだんじゃないだろうな!」
「そ、そんなわけないだろ!?」

 それならフィリピンとかロシアを選ぶだろ?

「そういう問題じゃないだろ!大体どこからそんな情報仕入れて来たんだ!?」

 ネットで検索するにもその検索ワードはどうやって知ったんだ。
 それを誠司の母さんが聞いて誠司の父さんが慌ててるのを見て分かってしまった。

「父さんがそう言ってた」
「ば、馬鹿……」

 誠司の父さんが慌ててる。

「誠……お前は子供に何を教えてるんだ?」
「男のロマンって言ってた」
「誠君、まだそんな事言ってたの!?」

 恵美さんがまで怒り出す。
 そりゃそうだろう。
 恵美さんの娘の杏采は誠司の弟の崇博と付き合っているのだから。

「恵美、大丈夫だ。どういうわけか崇博は真面目なんだ」

 誠司の母さんが言っていた。

「そういえば、崇博は杏采と済ませたの?」
「そういえば、修学旅行の後の話聞いてなかったね」

 そういう事を平然と聞いてくる桐谷姉妹。

「まさかお前……」

 誠司の母さんが崇博を睨みつける。

「そう言えば私も崇博が家に泊ったのは知ってるけどその夜の話は聞いてないわね」

 もちろん杏采の父親は娘の声が聞きたいとか言う願望を持っていない。
 ただ気にするかもしれないと父さん達と飲みに行っていたらしい。

「だ、大丈夫。慣れてないみたいだけど優しくしてくれたよ」

 杏采が恥ずかしそうに言う。
 慣れてるなんて言ったら大変なことになりそうだ。

「それならいいの、神奈ちゃん。崇博の事しっかり見ててね」
「わかってる。崇博は2人目だ。同じ過ちはしない」
「あ、歩美はどうなんだ?」

 誠司の父さんが聞いていた。

「もう中3だよ?経験済みに決まってるじゃん……」

 その割にはなんか落ち込んでる様に見えるのは気のせいだろうか?

「まさか善久がやらかしたの?」
「あ、晶ちゃんそういうのはあまり深く追求しない方が……」

 すると歩美がぼそっと言った。

「善久は優しいの、こんな乏しい胸をやさしく触ってくれた」
「……すまんな、歩美」

 なぜか誠司の母さんも落ち込んでいた。

「あまり触れてやらない方がいい」
 
 父さんがそう言っていたので黙っていた。
 しかしそんな思いやりを無駄にしてしまうのが千帆達のお父さんだ。

「善久、お前ひょっとしてロリか?」

 その言葉は知ってる。
 でもそれ善久の年齢でそうだったら重症じゃないのだろうか?」

「お前は他人の子供に馬鹿な事を吹き込むんじゃない!」

 奥さんに叩かれていた。

「冬夜。お前娘を寝取られたら石原達と飲みに行ってるんだろ?」
「若干意味が違うんだけど、まあ娘が成長したら飲みに行ってるね」
「俺も混ぜてくれよ」
「ダメ!」
「ダメだ!」
「却下よ!」

 母さんと誠司の母さんと恵美さんが言ってた。
 恵美さんの旦那さんと善久のお父さんと僕の父さんは誠司の父さんと違うと主張していた。

「冬夜さんに変な事吹き込むつもりなんでしょうけど絶対に許さない!」
「どうしても一緒にしたいなら神奈ちゃんが一緒なのが条件よ!」

 母さんと恵美さんが言う。
 父さん達は母さんを誘うという条件で許してるらしい。
 それは子育てご苦労さんという思い出話だから。
 それなら母さん達が一緒でも問題ないんだから楽しい時間を一緒に過ごしたいという母さん達の要求だった。
 しかし誠司の父さんは違うみたいだ。

「お、俺だって色々思い出あるぜ」
「じゃあ、今ここで話せ」
「例えば歩美のオムツを替えてやったり胸が大きくなるように揉んでやったり……」
「善久の前でそういう話止めて!」
「神奈が話せっていうから話しただけだぞ」

 あれ?
 気のせいだろうか?
 今誠司の父さんさらりと凄い事言ったような。

「父さん、今なんて言った?」

 水奈が怒っている。
 聞き間違いじゃなさそうだ。

「誠、お前……何やらかした?」

 誠司の母さんも聞いたみたいだ。

「小さい時の話だ!鍵付きの部屋に移ってからは手を出してねーよ!」
「だから問題なんだろうがこのド変態!」
「瑛大……お前もまさか」
「俺は見てるだけだったよ。手は出してない」
「それが問題だろうがこの馬鹿!」

 父さん達は手に負えないといった状態で様子を見ていた。
 結は食べるだけ食べて寝ている。
 そんな結を天音や翼は優しく見守っていた。
 だって茉奈の膝に頭を乗せて幸せそうに結が眠っていたから。
 家に帰って夕食は出前を頼んで風呂に入って部屋に戻ってから瞳子と話をする。

「冬吾君も私以外の胸が気になったりするの?」

 そりゃまあ、家の中を裸に近い状態でうろうろしてる姉がいるから。

「大きさは確かに気になるけど触ろうとは思わない」
「なんで?」
「だって触ったら痴漢って言うんだろ?」

 彼女のしか触ったらダメ。
 母さんがそう言ってた。

「なら安心だね」
「何か不安だったの?」
「そりゃ冬吾君も海外に行くでしょ?」

 そうしたら瞳子よりスタイルのいい人がいるだろうから。

「でもそれって比べる物なの?」
「え?」

 彼女と他人じゃ違うでしょ。
 比べる理由が分からない。

「冬吾君がそう思ってるならそれでいいよ」
「……花火の時はまた浴衣で来るの?」
「うん、愛莉さんが言ってたから」

 片桐家の男性は彼女が浴衣姿だと普段以上に優しくなるって。
 夏はこれからだ。
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