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凛と白い接吻
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「ねえ、パパ」
「どうしたんだい?菫」
「家って金持ちなんだよな?」
そんな事を聞いてくるのは今見ているアニメのせいだろう。
本当に次から次へをネタを持ち込んでくる。
どうしてこんなのをクリスマスに流そうと思ったのか問い詰めたい。
その理由はすぐにわかった。
訳アリの御曹司と執事の話。
普通の内容に思えたから美希が見たいと言った。
美希は僕をこういう風にしたいとか思ったことがあるのかもしれないな。
内臓すらどこの内臓か分からなくなるまで切り裂く殺人鬼。
死体を蘇生させようとして失敗して呪われた肉人形。
そして希美がもっとも喜んでいたのは、その肉人形を剣で片っ端から切り倒していく御曹司の許嫁。
正行も将来こんな嫁を持つんだ。
安心していいよ。
守られるより守りたい。
そんな風に振る舞う許嫁に菫は憧れていた。
もうとっくにそうなってる気がするけど。
そんな綺麗な物じゃないよ。
返り血を浴びながら剣を振り続ける嫁。
翼がこうなったら僕は全力で逃げ出す方法を考えていたね。
きっと母さんと恵美さんが許さないだろうけど。
「嫁に守ってもらうなんて軟弱な男に育てた覚えはない!」
そのくらい母さんなら言うだろうな。
だとすると問題は正行だ。
今のままでは当然菫の方が強い。
母さんが絶対に正行の人生を狂わせるだろう。
父さんがそうだったらしいから。
ただのサッカー経験ありの平凡だった父さんは母さんによってロケットランチャーを顔に食らっても平気な化け物と戦う死神に変えられた。
あれは僕も一度遭遇したけど恐ろしかった。
面倒だと判断した父さんは僕に譲った。
言い方を変えると父さんは僕を売った。
あの時結がいなかったらと思うとぞっとするよ。
その結ですら止めをさせなかったらしい。
まあ、空の能力「最強の矛盾」でも倒せなかったのだからしょうがない。
この世界は一体何を望んでいるのだろう?
「なんで家には執事がいないんだ?」
「母さんだけじゃだめなの?」
このアニメの御曹司は両親を殺されて自身も悲惨な目にあっていた。
「じゃなくてさ、このアニメもそうだけど……」
金持ちの嫁さんなんて全部執事とかに任せておけばいいじゃないか。
子供だったらそう思うんだろうな。
子供っぽい思考で安心した僕は価値観がおかしくなっているのだろうか?
「菫、愛する夫や子供の世話くらい出来ないとダメでしょ」
翼が注意していた。
実際問題になった。
それは僕達に菫達が出来た時。
「せっかくだから大きな家買いなさい」
これから子供作るなら部屋が足りないでしょ?
僕達に何人子供を作らせるつもりなんだろう?
「そ、そんなひよこじゃないんだから、翼に無理させたらだめだよ」
「そ、それにそんな大きな家を用意されても掃除に困るし」
「そんなの家政婦でも雇えばいいでしょ?」
20代で社長になるんだ。
家政婦くらい余裕でしょ?
そういう母さんを父さんと翼が必死に説得していた。
だから普通の家では専業主婦なら家政婦を雇う理由がない。
翼はそう説明した。
「それだと変じゃないか?」
菫は違う考えの様だ。
それは茉莉の家だった。
「天音!あなた主婦でしょ!掃除くらいしなさい!」
「ロボットがあるから大丈夫だって!」
「畳の部屋はどうするのですか!?結莉は自分の部屋は自分でしてますよ?」
「だったら大地に頼んで家政婦雇えばいいだろ?」
社長夫人なんだから当然だろうと天音は主張したそうだ。
家政婦に家事を任せて自分は水奈とゲーム三昧。
それが天音の中でも一般的な社長夫人なんだろ。
当然愛莉さんも察する。
天音が水奈と遊んでいるという事は水奈も同じだという事。
すぐに神奈さんに電話すると神奈さんが水奈の家に向かったらしい。
そうすると優奈と愛菜と水奈はゲームに夢中になっている中、悠翔が部屋を片付けたり、茉奈が洗濯物を畳んだりしていた。
当然神奈さんは激怒。
学が帰ってくるのを待って二人で叱りつけていたらしい。
だから菫は思った。
「面倒なら家政婦雇えばいいじゃん」
で、このアニメを見てどうして家には執事がいないのか思ったらしい。
執事と家政婦は全く違う。
結構ややこしいので要約するけど家政婦にもその役割によって呼び方が違う。
その様々な家政婦を取りまとめするのが執事。
うちは一応一般的な一軒家だ。
ガレージには恐ろしい車が存在しているけど。
そんなに何人も家政婦を雇ったら家の中が混雑してしまう。
「だから大きな家にしなさいと言ったでしょ!」
そのくらい言うのが母さんだ。
菫にどういえばいいのか考えていると母親の翼が菫に説明していた。
「将来西原君のお嫁さんになるんでしょ?」
「ま、まだ決まったわけじゃねーよ」
キスしただけだぞ?
顔を真っ赤にして向きになってる菫を見て微笑ましいと思う反面寂しくもあった。
年末に大地や空と飲もうかな?
「じゃあ、とりあえず仮に西原君のお嫁さんになるとして説明するね」
愛する夫や子供の服を畳んだり、仕事や学校に行っている子供の事を考えながら家事をする。
スーパーで夫や子供たちが何を食べたいかな?と考えながら食材を見て回る。
それは母親だから出来る特権なの。
文句を言われながらもそれでも愛おしい存在なんだ。
だって自分で見つけた夫と苦労して産んだ子供達の事なんだから。
子供達の事を世界で一番愛しているのは絶対に母親だ。
どんなことをしても守り抜こうと思える。
それは菫が大きくなった時に分かる。
翼だって子供ができて意識が変わったらしい。
菫の子供に手を出そうものなら母さんより酷い仕打ちが待っていそうだね。
「だから菫が思ってるよりすごく楽しいことなのよ」
翼がそう言うと菫は理解したらしい。
だけどもう一つ悩みがあると打ち明けていた。
「私はあの許嫁の様に大人しくしていた方がいいのだろうか?」
正行の前に立って戦うより後ろで正行を見守っていた方がいいのか?
そんな悩みを持つこと自体が恐ろしいんだけどね。
まあ、最近物騒だからね。
僕や大地も空に言われて色々仕事の合間にやってる最中だ。
でもそれなら多分翼よりもうまく説明できる気がする。
「菫は祈の事を知ってるかい?」
「祈がどうかしたのか?」
「祈も子供の時は菫みたいに男の子に守られるという性格じゃなかった」
祈じゃなくて繭も同じだけど。
「今のままで良いって事なのか?」
「そうじゃないんだ。祈にも陸という存在が現れて考え方が変わったんだ」
「……やっぱり陸に守ってもらうのか?」
「違うよ」
「じゃあ、どうしたんだ?」
「陸の隣に立つようになったんだ」
陸に背中を預ける。
だから目の前の敵を退ける事が出来る。
陸も江口家の人間。
だからいつか自分の前に立つ時が来るかもしれない。
その時まではせめて隣にいたい。
そんな事を昔祈から聞いたことがある。
「男の子はね、いつの日か彼女の夢がかなうように見守るようになるんだ」
「私の夢?」
何か思う所があったらしい。
少し恥ずかしそうにしてた。
「こ、この話絶対茉莉にはするなよ!」
「わかってるよ」
「じゃ、もう寝る。若いうちは早く寝た方がいいって結莉が言ってた」
多分愛莉さんが言ったんだろうな。
そう言って菫は部屋に戻って行った。
「あの子もやっぱり娘なんですね」
「そうだね……翼の娘なんだね」
あんな一面も持っていたのか。
「で、善明はまた空達とこっそり飲むつもりなの?」
そこまで見破っているのか。
嫁って怖いね。
「年末の年越しパーティの時だから翼も一緒に飲むかい?」
「それは嬉しいんですけど私からもう一つ提案があるのですが」
なんだろう?
翼は不思議そうにしている僕を見て微笑みながら言った。
「あの子達も順調に育っているしそろそろもう一人くらいなら大丈夫だよ?」
この家もわずか7年くらいで売り払う事になるのだろうか?
(2)
「ああ、善明達はあれ見てたんだ」
「途中から話に夢中になっていたけどね」
「で、どんな内容だったの?」
僕はクリスマスイブにあったアニメについて善明から聞こうとしていた。
ないようからしてヒロインが死ぬとかそういうのじゃなさそうだからいいかと思った。
ぽかっ
「あれは子供に見せていいアニメじゃありませんよ」
「感動ものとかじゃないから良いと思ったんだよ」
「あのね、結がいるのですよ?結があれ見て真似しようと思ったらどうするの?」
ロボットアニメを見てパイロットになりたいとか、変身グッズを欲しがったりする普通の男の子。
アニメの影響を恐ろしいまでに受けている。
そんな結があんなアニメを見たら取り返しがつかない。
母さんも似たようなことを言って無難に歌番組を見ていた。
当然のごとく「クリスマスに仕事なんてふざけるな」と恵美さんの一声でUSEのアーティストは出演していない。
それでも人気なのだからすごい。
年末は仕事したくない。
そんな理由で年末の歌番組を断るアーティストもいた。
年末だから仕事をしない。
そのうらで純也や稼働を止められない工場の作業員は働いている。
数時間おきに工場内に音楽を鳴らすらしい。
工場の中にずっといたら昼夜の感覚が分からなくなったりするから。
まあ、仮にF・SEASONが出たとして今年のヒット作は間違いなくあの歌だろう。
あれをクリスマスに聞くのはどうかと思ったからいいけど。
「空!お前の息子は腰抜けか!?茉奈とまだキスしてないそうじゃねーか!?」
水奈がやって来た。
「まだ早いでしょ?私だって小5だったんだよ?」
そうか。あれが翼のファーストキスだったのか。
あんなので女子は満足なんだろうか?
ぽかっ。
「あの時はああでもしないと空を取られたくなかったんだから、必死だったの!」
だからってあんなのでいいの?
すると天音も思い出したらしい。
「大地、お前に謝っておくことがある」
「どうしたの?」
「私のファーストキスは大地じゃない。空なんだ」
「ああ、そうだったんだ」
それを聞いていた美希も言った。
「そっか、空の初めてにはなれなかったんだ」
それを聞いた僕と善明が動揺する。
「美希、姉弟のキスなんて親とキスと同じようなものんだよ」
「空の言うとおりだと思うよ。きっと空もそんなに意識してないよ」
「あ、空はそんな風にとってたんだ?」
「いきなり天音と翼にされたんだから気も動転するよ」
「まあ、悪い事したとは思ってるよ」
だからもう一人くらい子供を作ろうと翼がクリスマスに言ったそうだ。
「そういう事なら私も大丈夫ですよ」
美希が言う。
しかし僕達だってこれ以上子供が大きくなったら大変だ。
実家ですら部屋が足りないと問題になっている。
だから冬吾が帰ってきたらどっか一軒家を探そう。
翼とそんな話をしていた。
「それなら片桐君から聞いてるから大丈夫。私が考えてるから」
恵美さん達がやって来た。
そして驚くべき事を言った。
「マンションの最上階全フロア使えば十分足りるでしょうからそこに引っ越しなさい」
今の小学校区内に準備するから大丈夫。
じゅ、準備?
その言葉を不思議に思ったのは僕だけじゃないらしい。
翼が恵美さんに聞いていた。
想像の斜め上の回答とはこの事だろうか?
「冬吾が帰ってくる前に建てるから心配しないでいい」
場所も決めてある。
ちょっと土地の買取で揉めてるけど十分間に合うから。
それ以上聞くのは恐ろしかったのでとりあえず笑っておいた。
「そうか、善明は次を考えてるのか?じゃあ、俺達も考えないとな」
光太がやって来た。
しかし一緒にいた麗華が一言言った。
「私はあんなしんどい思いは嫌だって言ったはずだけど?」
「俺はこれ以上子供を作るのは怖いよ」
学たちが来た。
水奈の話は母さんや翼から聞いてる。
相変わらず水奈と天音はやりたい放題の様だ。
茉奈は冬夜と一緒に料理を楽しんでいた。
「うーん、せめてうどんくらい欲しいよね」
「結はパスタが嫌いなの?」
「ミートソースはいいんだけど……」
シーフード系は苦手らしい。
そんな話をしていた。
あの価値観を作った父さんは笑って言っている。
「父さんもさ、本当は大晦日に神社でラーメン食べたかったんだよね」
ぽかっ
「そういう事を言うから結達がいつまでも変わらないんじゃないですか!」
母さんが父さんの頭を小突いていた。
「だってここじゃ年越し蕎麦もないよ?」
うどんにしろそばにしろ縁起物だ。
日本人なら食べておくべきじゃないのか?
それが父さんの主張だった。
「まずは片桐君から変えないとだめなの?」
恵美さんが悩んでいる。
「恵美。トーヤくらいどうってことないだろ?」
神奈さん達がやって来た。
「……それがあったわね」
恵美さんが誠さんを睨みつける。
「海翔って跡取りなんだろ?本当に私の孫娘で大丈夫か?」
その海翔は結について行って食べている。
それを見ながら優奈は寂しそうにしていた。
「どちらかって言うと海翔の方が問題じゃないか?」
誠さんが言う。
「多分問題ないよ」
父さんが来て言った。
「どうして?」
僕が父さんに聞くと父さんは笑っていた。
「結はああ見えて変わってきている。心配することない。海翔も同じようになるだろう」
まだ小学生なんだし長い目で見てやれ。
「冬夜。一言皆に挨拶頼んでいいか?」
「それは晴斗にさせたらいいんじゃないか?」
「……あいつは瑛大たちと一緒に騒いでいるよ」
そう言って渡辺さんはため息を吐く。
それでいいのか県知事。
まあ、酔いつぶれて床で寝ている天がいるんだから大丈夫だろう。
しっかり繭に怒られているけど。
「いつも自分の立場を弁えなさいと言ってるでしょ!」
繭も苦労してるなあ。
「じゃ、ちょっと行ってくる」
そう言って父さんが渡辺さんとこの場を後にする。
その後美希が言って来た。
「旦那様は分かりますか?」
「何が?」
「結の変化」
「……いや、わからない」
カウントダウンが終わって新年になると父さんが挨拶をしている。
外では新年を祝う花火が上がっていた。
その時気づいた。
「綺麗だね~」
「……そうだね」
花火に見とれる茉奈とそんな茉奈に見とれている結。
……ひょっとして?
「結。そろそろ寝ないと明日朝起きれないよ」
「うん、茉奈またね」
「うん、またね~」
気のせいだろうか?
水奈に連れられて部屋に戻る茉奈を寂しそうに見ている結。
茉莉は菫や愛菜たちと一緒に騒いでいた。
翌朝床で寝ている茉莉達を見て天音が母さんに怒られていた。
(3)
「明けましておめでとう」
「はい、お年玉用意してますよ」
愛莉がそう言って結莉達にお年玉をもらっていた。
俺ももらったらから特に問題ない。
だけどなぜか僕はリビングに来ていた。
天音達が僕を見るとお年玉をくれた。
相変わらず大量のお札をくれるので母さんに預けてる。
「天音。結は石原家の子じゃないんだから」
「私もそう言ったんだけど……」
母さんが天音に言うと天音がそう言って大地を見る。
「絶対に石原家の者にしなさい!他家に渡すなんて絶対に許さない」
そう言って恵美が用意したお年玉だという。
最近の変身グッズはメダルじゃなくて剣と本を使う。
パパは毎年変わる変身グッズをクリスマスプレゼントに買ってくれるけど「これくらいですむなら」と言っていた。
菫達も色々もらっていた。
愛莉から聞いたけど天音は「プレゼントなら大地がくれるから小遣いくれ!」と頼んであーりを怒らせたらしい。
さすがに天音でも彼氏に現金をねだるのは意味が違うと思ったらしい。
まあ、そうだろう。
まだ子供の俺にもそのくらい分かる。
海翔が優奈から好きと言われた時から俺は考えていた。
好きってどういう気分なんだろう?
茉奈が喜んでくれるからそれでいいと思っていたし、彼女の機嫌を損ねたらいけないと父さん達が言っていたからそうしていた。
でも俺が思うラーメンや変身グッズに対する感情とは違う物らしい。
かといって今更そんなこと茉奈に聞いたら絶対まずい。
母さんに相談しようかと思ったけど何か恥ずかしかったからやめた。
父さんにすればよかった?
そうじゃない。
何か他人に知られたくない気持ち。
それを好きと言うのだろうか?
そんな事を考えながらテレビドラマを見ていた。
恋愛ものというやつらしい。
母さんと愛莉はこの手のドラマが大好きだ。
天音は2秒くらいみて「つまんねーからチャンネル変えようぜ」と大地に言うと結莉から聞いていた。
で、時期的に最終回でクライマックスの場面になるとあることをする。
それがキス。
恋人同士でするものだと母さんから聞いた。
海翔もしていた。
聞いたら秋久や朔もしたと言っていた。
どうやらしてないのは茉奈と俺だけらしい。
「茉奈はしたくないのか?」
そう聞いたことがある。
怒られる事も覚悟した。
「したいけど条件があるの」
「条件?」
結莉はそう言うと笑顔で説明した。
「人生で初めてのキスだから大好きな結から誘って欲しい」
天音や母さんや愛莉はそうじゃなかった。
気づいてくれない父さん達に対して我慢できなくて自分からしたそうだ。
でも茉奈はそんなのがいやらしい。
初めてだから彼氏の方から誘って欲しい。
だから俺がその気になったらいつでも応えられるように準備している。
そんな事を言っていたのを思い出しながら結莉を見ていた。
結莉はそんな僕に気づいた。
「結。どうしたの?」
結莉が聞いてきた。
同じ女の子なら分かるんじゃないだろうか?
そんな気がした。
もちろん他の大人に聞かれたくない事だと思う。
「結莉、俺の部屋に来ない?ちょっと相談したい事があるんだ」
「相談?」
結莉はやや不安気味だった。
天音が何か言おうとすると大地が止めていた。
「パパ達はちょっと話をしてるから行っておいて」
大地が結莉にそう言うと結莉は一緒に僕の部屋に来た。
理由は分からないけど僕と結莉の二人きりになる時はドアを開けておくように言われていたので開けておいた。
それを不思議に思った結莉に説明すると、結莉は納得して適当に座る。
「で、相談て何?」
結莉が聞いていた。
こんなことを聞いていいのだろうか?
でも聞いてみないと分からない。
結莉に事情を説明した。
「つまり茉奈とキスしたいって事?」
言って恥ずかしくなった。
結莉は少し頬を赤く染めていた。
「なるほど、どう誘えばいいか分からないんだね」
結莉はそう言うと僕の隣に来た。
「でも結はキスの仕方知ってるの?」
結莉に言われて気づいた。
そういやよくわかってなかった。
後日にしてネットで調べた方がいいのだろうか?
「キスってのがどんなのかは知ってるの?」
俺の知ってる範囲で説明して欲しいと結莉が言った。
俺が知ってる範囲か。
「口と口をくっつける……くらい」
「なるほどね。最初はそれでいいんじゃない?」
本当はもっと愛情を込めたやり方があるらしいけどそれはきっと今の僕ならそのうち身に着けるだろう。
だから最初はそんな激しいのはしなくてもいいよ。
結莉がそう言うと僕に抱き着いて目を閉じる。
「さすがに目は閉じてね。恥ずかしいから」
結莉がそう言うと結莉の唇に唇を近づけて目を閉じる。
すごくドキドキする。
そして寸前で結莉が止めた。
「初めてのキスなんだから茉奈にとってあげないと」
そう言って結莉は笑っていた。
「ご、ごめん」
「気にしないで。その調子で茉奈に迫ればいいよ」
きっと茉奈は喜ぶだろうから。
「こ、この後どうしたらいいんだろう?」
「それより先はまだ駄目」
母さんの声で気づいて振り返る。
母さんがドアをノックしながら笑って立っていた。
「言ったでしょ?まだ結の歳では早いよ」
「硬い事言うなよ翼。結莉にその気はないんだから」
「天音がよくても大地と空が飲みに行く口実になるでしょ?」
そんな事を母さんと天音が話していた。
「どうして天音達がいるの?」
結莉が不思議と焦っていた。
「もらうもんもらったしさっさと撤収してゲームしようぜって茉莉がうるさくてな」
「あの野郎……」
結莉は機嫌が悪いみたいだ。
どうしたらいいかくらいなんとなくわかった。
「じゃ、頑張ってね」
「うん」
そう言ってリビングに戻ると父さん達がいる。
何かいけない事をした気分になってそれが顔に出る。
じいじや父さんはそれを理解したようだ。
後日やっぱり善明達を連れて飲みに行ったらしい。
夕食を食べて風呂に入るとリビングでテレビを見ていた父さん達に呼ばれた。
やっぱりいけない事だったのだろうか?
そうじゃなかった。
「今度茉奈を家に招待したらどうだい?」
母さんから話を聞いたらしい。
父さん達だって当たり前の様に母さんとキスをする。
だけど初めてのキスは二人とも半ば強引にされたらしい。
だから俺から誘ったみたいけど、どういう気分なのか分からないから教えて欲しいと言っていた。
俺もどう説明していいか分からなかった。
ずっとこのままでいたい、放したくない。
わずかな間の幸せ。
「なるほどね」
じいじがそう言って笑っていた。
「冬夜も茉奈が好きって意味が分かったんだね」
これからが大変だと父さんが言う。
「父さん達はどうだったの?」
僕が聞いたら父さんが苦笑していた。
「旦那様!その話はしたらいけません!」
母さんが怒っている。
聞かない方が良さそうだ。
「もう部屋に戻っていいかな?」
「ああ、いいよ。宿題が溜まってるという事はないだろうけど」
あまり夜更かししたらダメだよ。
父さんがそう言うと僕は部屋に戻って茉奈と話をしていた。
「茉奈、今度うちに遊びに来ないか?」
「うーん。色々しなきゃいけない事多くて遊びに行けないんだよね」
「そっか」
なんか残念だな。
「あまり構うことが出来ないかもしれないけど、よかったら家に来ない」
茉奈が誘ってくれた。
「いいのか?」
「うん、何かあるんでしょ?」
ずっと話をしていたいけど夜更かしは茉奈にはよくないらしいから我慢した。
「また明日ね」
そう言って電話を切る。
また明日って言える人がいる。
それがとても嬉しいと思える。
それが好きっていう意味なんだろうか?
結莉の唇の感触を思い出しながら……。
文章にしたら誠みたいになってしまうけど思い出しながら眠りについた。
「ねえ、パパ」
「どうしたんだい?菫」
「家って金持ちなんだよな?」
そんな事を聞いてくるのは今見ているアニメのせいだろう。
本当に次から次へをネタを持ち込んでくる。
どうしてこんなのをクリスマスに流そうと思ったのか問い詰めたい。
その理由はすぐにわかった。
訳アリの御曹司と執事の話。
普通の内容に思えたから美希が見たいと言った。
美希は僕をこういう風にしたいとか思ったことがあるのかもしれないな。
内臓すらどこの内臓か分からなくなるまで切り裂く殺人鬼。
死体を蘇生させようとして失敗して呪われた肉人形。
そして希美がもっとも喜んでいたのは、その肉人形を剣で片っ端から切り倒していく御曹司の許嫁。
正行も将来こんな嫁を持つんだ。
安心していいよ。
守られるより守りたい。
そんな風に振る舞う許嫁に菫は憧れていた。
もうとっくにそうなってる気がするけど。
そんな綺麗な物じゃないよ。
返り血を浴びながら剣を振り続ける嫁。
翼がこうなったら僕は全力で逃げ出す方法を考えていたね。
きっと母さんと恵美さんが許さないだろうけど。
「嫁に守ってもらうなんて軟弱な男に育てた覚えはない!」
そのくらい母さんなら言うだろうな。
だとすると問題は正行だ。
今のままでは当然菫の方が強い。
母さんが絶対に正行の人生を狂わせるだろう。
父さんがそうだったらしいから。
ただのサッカー経験ありの平凡だった父さんは母さんによってロケットランチャーを顔に食らっても平気な化け物と戦う死神に変えられた。
あれは僕も一度遭遇したけど恐ろしかった。
面倒だと判断した父さんは僕に譲った。
言い方を変えると父さんは僕を売った。
あの時結がいなかったらと思うとぞっとするよ。
その結ですら止めをさせなかったらしい。
まあ、空の能力「最強の矛盾」でも倒せなかったのだからしょうがない。
この世界は一体何を望んでいるのだろう?
「なんで家には執事がいないんだ?」
「母さんだけじゃだめなの?」
このアニメの御曹司は両親を殺されて自身も悲惨な目にあっていた。
「じゃなくてさ、このアニメもそうだけど……」
金持ちの嫁さんなんて全部執事とかに任せておけばいいじゃないか。
子供だったらそう思うんだろうな。
子供っぽい思考で安心した僕は価値観がおかしくなっているのだろうか?
「菫、愛する夫や子供の世話くらい出来ないとダメでしょ」
翼が注意していた。
実際問題になった。
それは僕達に菫達が出来た時。
「せっかくだから大きな家買いなさい」
これから子供作るなら部屋が足りないでしょ?
僕達に何人子供を作らせるつもりなんだろう?
「そ、そんなひよこじゃないんだから、翼に無理させたらだめだよ」
「そ、それにそんな大きな家を用意されても掃除に困るし」
「そんなの家政婦でも雇えばいいでしょ?」
20代で社長になるんだ。
家政婦くらい余裕でしょ?
そういう母さんを父さんと翼が必死に説得していた。
だから普通の家では専業主婦なら家政婦を雇う理由がない。
翼はそう説明した。
「それだと変じゃないか?」
菫は違う考えの様だ。
それは茉莉の家だった。
「天音!あなた主婦でしょ!掃除くらいしなさい!」
「ロボットがあるから大丈夫だって!」
「畳の部屋はどうするのですか!?結莉は自分の部屋は自分でしてますよ?」
「だったら大地に頼んで家政婦雇えばいいだろ?」
社長夫人なんだから当然だろうと天音は主張したそうだ。
家政婦に家事を任せて自分は水奈とゲーム三昧。
それが天音の中でも一般的な社長夫人なんだろ。
当然愛莉さんも察する。
天音が水奈と遊んでいるという事は水奈も同じだという事。
すぐに神奈さんに電話すると神奈さんが水奈の家に向かったらしい。
そうすると優奈と愛菜と水奈はゲームに夢中になっている中、悠翔が部屋を片付けたり、茉奈が洗濯物を畳んだりしていた。
当然神奈さんは激怒。
学が帰ってくるのを待って二人で叱りつけていたらしい。
だから菫は思った。
「面倒なら家政婦雇えばいいじゃん」
で、このアニメを見てどうして家には執事がいないのか思ったらしい。
執事と家政婦は全く違う。
結構ややこしいので要約するけど家政婦にもその役割によって呼び方が違う。
その様々な家政婦を取りまとめするのが執事。
うちは一応一般的な一軒家だ。
ガレージには恐ろしい車が存在しているけど。
そんなに何人も家政婦を雇ったら家の中が混雑してしまう。
「だから大きな家にしなさいと言ったでしょ!」
そのくらい言うのが母さんだ。
菫にどういえばいいのか考えていると母親の翼が菫に説明していた。
「将来西原君のお嫁さんになるんでしょ?」
「ま、まだ決まったわけじゃねーよ」
キスしただけだぞ?
顔を真っ赤にして向きになってる菫を見て微笑ましいと思う反面寂しくもあった。
年末に大地や空と飲もうかな?
「じゃあ、とりあえず仮に西原君のお嫁さんになるとして説明するね」
愛する夫や子供の服を畳んだり、仕事や学校に行っている子供の事を考えながら家事をする。
スーパーで夫や子供たちが何を食べたいかな?と考えながら食材を見て回る。
それは母親だから出来る特権なの。
文句を言われながらもそれでも愛おしい存在なんだ。
だって自分で見つけた夫と苦労して産んだ子供達の事なんだから。
子供達の事を世界で一番愛しているのは絶対に母親だ。
どんなことをしても守り抜こうと思える。
それは菫が大きくなった時に分かる。
翼だって子供ができて意識が変わったらしい。
菫の子供に手を出そうものなら母さんより酷い仕打ちが待っていそうだね。
「だから菫が思ってるよりすごく楽しいことなのよ」
翼がそう言うと菫は理解したらしい。
だけどもう一つ悩みがあると打ち明けていた。
「私はあの許嫁の様に大人しくしていた方がいいのだろうか?」
正行の前に立って戦うより後ろで正行を見守っていた方がいいのか?
そんな悩みを持つこと自体が恐ろしいんだけどね。
まあ、最近物騒だからね。
僕や大地も空に言われて色々仕事の合間にやってる最中だ。
でもそれなら多分翼よりもうまく説明できる気がする。
「菫は祈の事を知ってるかい?」
「祈がどうかしたのか?」
「祈も子供の時は菫みたいに男の子に守られるという性格じゃなかった」
祈じゃなくて繭も同じだけど。
「今のままで良いって事なのか?」
「そうじゃないんだ。祈にも陸という存在が現れて考え方が変わったんだ」
「……やっぱり陸に守ってもらうのか?」
「違うよ」
「じゃあ、どうしたんだ?」
「陸の隣に立つようになったんだ」
陸に背中を預ける。
だから目の前の敵を退ける事が出来る。
陸も江口家の人間。
だからいつか自分の前に立つ時が来るかもしれない。
その時まではせめて隣にいたい。
そんな事を昔祈から聞いたことがある。
「男の子はね、いつの日か彼女の夢がかなうように見守るようになるんだ」
「私の夢?」
何か思う所があったらしい。
少し恥ずかしそうにしてた。
「こ、この話絶対茉莉にはするなよ!」
「わかってるよ」
「じゃ、もう寝る。若いうちは早く寝た方がいいって結莉が言ってた」
多分愛莉さんが言ったんだろうな。
そう言って菫は部屋に戻って行った。
「あの子もやっぱり娘なんですね」
「そうだね……翼の娘なんだね」
あんな一面も持っていたのか。
「で、善明はまた空達とこっそり飲むつもりなの?」
そこまで見破っているのか。
嫁って怖いね。
「年末の年越しパーティの時だから翼も一緒に飲むかい?」
「それは嬉しいんですけど私からもう一つ提案があるのですが」
なんだろう?
翼は不思議そうにしている僕を見て微笑みながら言った。
「あの子達も順調に育っているしそろそろもう一人くらいなら大丈夫だよ?」
この家もわずか7年くらいで売り払う事になるのだろうか?
(2)
「ああ、善明達はあれ見てたんだ」
「途中から話に夢中になっていたけどね」
「で、どんな内容だったの?」
僕はクリスマスイブにあったアニメについて善明から聞こうとしていた。
ないようからしてヒロインが死ぬとかそういうのじゃなさそうだからいいかと思った。
ぽかっ
「あれは子供に見せていいアニメじゃありませんよ」
「感動ものとかじゃないから良いと思ったんだよ」
「あのね、結がいるのですよ?結があれ見て真似しようと思ったらどうするの?」
ロボットアニメを見てパイロットになりたいとか、変身グッズを欲しがったりする普通の男の子。
アニメの影響を恐ろしいまでに受けている。
そんな結があんなアニメを見たら取り返しがつかない。
母さんも似たようなことを言って無難に歌番組を見ていた。
当然のごとく「クリスマスに仕事なんてふざけるな」と恵美さんの一声でUSEのアーティストは出演していない。
それでも人気なのだからすごい。
年末は仕事したくない。
そんな理由で年末の歌番組を断るアーティストもいた。
年末だから仕事をしない。
そのうらで純也や稼働を止められない工場の作業員は働いている。
数時間おきに工場内に音楽を鳴らすらしい。
工場の中にずっといたら昼夜の感覚が分からなくなったりするから。
まあ、仮にF・SEASONが出たとして今年のヒット作は間違いなくあの歌だろう。
あれをクリスマスに聞くのはどうかと思ったからいいけど。
「空!お前の息子は腰抜けか!?茉奈とまだキスしてないそうじゃねーか!?」
水奈がやって来た。
「まだ早いでしょ?私だって小5だったんだよ?」
そうか。あれが翼のファーストキスだったのか。
あんなので女子は満足なんだろうか?
ぽかっ。
「あの時はああでもしないと空を取られたくなかったんだから、必死だったの!」
だからってあんなのでいいの?
すると天音も思い出したらしい。
「大地、お前に謝っておくことがある」
「どうしたの?」
「私のファーストキスは大地じゃない。空なんだ」
「ああ、そうだったんだ」
それを聞いていた美希も言った。
「そっか、空の初めてにはなれなかったんだ」
それを聞いた僕と善明が動揺する。
「美希、姉弟のキスなんて親とキスと同じようなものんだよ」
「空の言うとおりだと思うよ。きっと空もそんなに意識してないよ」
「あ、空はそんな風にとってたんだ?」
「いきなり天音と翼にされたんだから気も動転するよ」
「まあ、悪い事したとは思ってるよ」
だからもう一人くらい子供を作ろうと翼がクリスマスに言ったそうだ。
「そういう事なら私も大丈夫ですよ」
美希が言う。
しかし僕達だってこれ以上子供が大きくなったら大変だ。
実家ですら部屋が足りないと問題になっている。
だから冬吾が帰ってきたらどっか一軒家を探そう。
翼とそんな話をしていた。
「それなら片桐君から聞いてるから大丈夫。私が考えてるから」
恵美さん達がやって来た。
そして驚くべき事を言った。
「マンションの最上階全フロア使えば十分足りるでしょうからそこに引っ越しなさい」
今の小学校区内に準備するから大丈夫。
じゅ、準備?
その言葉を不思議に思ったのは僕だけじゃないらしい。
翼が恵美さんに聞いていた。
想像の斜め上の回答とはこの事だろうか?
「冬吾が帰ってくる前に建てるから心配しないでいい」
場所も決めてある。
ちょっと土地の買取で揉めてるけど十分間に合うから。
それ以上聞くのは恐ろしかったのでとりあえず笑っておいた。
「そうか、善明は次を考えてるのか?じゃあ、俺達も考えないとな」
光太がやって来た。
しかし一緒にいた麗華が一言言った。
「私はあんなしんどい思いは嫌だって言ったはずだけど?」
「俺はこれ以上子供を作るのは怖いよ」
学たちが来た。
水奈の話は母さんや翼から聞いてる。
相変わらず水奈と天音はやりたい放題の様だ。
茉奈は冬夜と一緒に料理を楽しんでいた。
「うーん、せめてうどんくらい欲しいよね」
「結はパスタが嫌いなの?」
「ミートソースはいいんだけど……」
シーフード系は苦手らしい。
そんな話をしていた。
あの価値観を作った父さんは笑って言っている。
「父さんもさ、本当は大晦日に神社でラーメン食べたかったんだよね」
ぽかっ
「そういう事を言うから結達がいつまでも変わらないんじゃないですか!」
母さんが父さんの頭を小突いていた。
「だってここじゃ年越し蕎麦もないよ?」
うどんにしろそばにしろ縁起物だ。
日本人なら食べておくべきじゃないのか?
それが父さんの主張だった。
「まずは片桐君から変えないとだめなの?」
恵美さんが悩んでいる。
「恵美。トーヤくらいどうってことないだろ?」
神奈さん達がやって来た。
「……それがあったわね」
恵美さんが誠さんを睨みつける。
「海翔って跡取りなんだろ?本当に私の孫娘で大丈夫か?」
その海翔は結について行って食べている。
それを見ながら優奈は寂しそうにしていた。
「どちらかって言うと海翔の方が問題じゃないか?」
誠さんが言う。
「多分問題ないよ」
父さんが来て言った。
「どうして?」
僕が父さんに聞くと父さんは笑っていた。
「結はああ見えて変わってきている。心配することない。海翔も同じようになるだろう」
まだ小学生なんだし長い目で見てやれ。
「冬夜。一言皆に挨拶頼んでいいか?」
「それは晴斗にさせたらいいんじゃないか?」
「……あいつは瑛大たちと一緒に騒いでいるよ」
そう言って渡辺さんはため息を吐く。
それでいいのか県知事。
まあ、酔いつぶれて床で寝ている天がいるんだから大丈夫だろう。
しっかり繭に怒られているけど。
「いつも自分の立場を弁えなさいと言ってるでしょ!」
繭も苦労してるなあ。
「じゃ、ちょっと行ってくる」
そう言って父さんが渡辺さんとこの場を後にする。
その後美希が言って来た。
「旦那様は分かりますか?」
「何が?」
「結の変化」
「……いや、わからない」
カウントダウンが終わって新年になると父さんが挨拶をしている。
外では新年を祝う花火が上がっていた。
その時気づいた。
「綺麗だね~」
「……そうだね」
花火に見とれる茉奈とそんな茉奈に見とれている結。
……ひょっとして?
「結。そろそろ寝ないと明日朝起きれないよ」
「うん、茉奈またね」
「うん、またね~」
気のせいだろうか?
水奈に連れられて部屋に戻る茉奈を寂しそうに見ている結。
茉莉は菫や愛菜たちと一緒に騒いでいた。
翌朝床で寝ている茉莉達を見て天音が母さんに怒られていた。
(3)
「明けましておめでとう」
「はい、お年玉用意してますよ」
愛莉がそう言って結莉達にお年玉をもらっていた。
俺ももらったらから特に問題ない。
だけどなぜか僕はリビングに来ていた。
天音達が僕を見るとお年玉をくれた。
相変わらず大量のお札をくれるので母さんに預けてる。
「天音。結は石原家の子じゃないんだから」
「私もそう言ったんだけど……」
母さんが天音に言うと天音がそう言って大地を見る。
「絶対に石原家の者にしなさい!他家に渡すなんて絶対に許さない」
そう言って恵美が用意したお年玉だという。
最近の変身グッズはメダルじゃなくて剣と本を使う。
パパは毎年変わる変身グッズをクリスマスプレゼントに買ってくれるけど「これくらいですむなら」と言っていた。
菫達も色々もらっていた。
愛莉から聞いたけど天音は「プレゼントなら大地がくれるから小遣いくれ!」と頼んであーりを怒らせたらしい。
さすがに天音でも彼氏に現金をねだるのは意味が違うと思ったらしい。
まあ、そうだろう。
まだ子供の俺にもそのくらい分かる。
海翔が優奈から好きと言われた時から俺は考えていた。
好きってどういう気分なんだろう?
茉奈が喜んでくれるからそれでいいと思っていたし、彼女の機嫌を損ねたらいけないと父さん達が言っていたからそうしていた。
でも俺が思うラーメンや変身グッズに対する感情とは違う物らしい。
かといって今更そんなこと茉奈に聞いたら絶対まずい。
母さんに相談しようかと思ったけど何か恥ずかしかったからやめた。
父さんにすればよかった?
そうじゃない。
何か他人に知られたくない気持ち。
それを好きと言うのだろうか?
そんな事を考えながらテレビドラマを見ていた。
恋愛ものというやつらしい。
母さんと愛莉はこの手のドラマが大好きだ。
天音は2秒くらいみて「つまんねーからチャンネル変えようぜ」と大地に言うと結莉から聞いていた。
で、時期的に最終回でクライマックスの場面になるとあることをする。
それがキス。
恋人同士でするものだと母さんから聞いた。
海翔もしていた。
聞いたら秋久や朔もしたと言っていた。
どうやらしてないのは茉奈と俺だけらしい。
「茉奈はしたくないのか?」
そう聞いたことがある。
怒られる事も覚悟した。
「したいけど条件があるの」
「条件?」
結莉はそう言うと笑顔で説明した。
「人生で初めてのキスだから大好きな結から誘って欲しい」
天音や母さんや愛莉はそうじゃなかった。
気づいてくれない父さん達に対して我慢できなくて自分からしたそうだ。
でも茉奈はそんなのがいやらしい。
初めてだから彼氏の方から誘って欲しい。
だから俺がその気になったらいつでも応えられるように準備している。
そんな事を言っていたのを思い出しながら結莉を見ていた。
結莉はそんな僕に気づいた。
「結。どうしたの?」
結莉が聞いてきた。
同じ女の子なら分かるんじゃないだろうか?
そんな気がした。
もちろん他の大人に聞かれたくない事だと思う。
「結莉、俺の部屋に来ない?ちょっと相談したい事があるんだ」
「相談?」
結莉はやや不安気味だった。
天音が何か言おうとすると大地が止めていた。
「パパ達はちょっと話をしてるから行っておいて」
大地が結莉にそう言うと結莉は一緒に僕の部屋に来た。
理由は分からないけど僕と結莉の二人きりになる時はドアを開けておくように言われていたので開けておいた。
それを不思議に思った結莉に説明すると、結莉は納得して適当に座る。
「で、相談て何?」
結莉が聞いていた。
こんなことを聞いていいのだろうか?
でも聞いてみないと分からない。
結莉に事情を説明した。
「つまり茉奈とキスしたいって事?」
言って恥ずかしくなった。
結莉は少し頬を赤く染めていた。
「なるほど、どう誘えばいいか分からないんだね」
結莉はそう言うと僕の隣に来た。
「でも結はキスの仕方知ってるの?」
結莉に言われて気づいた。
そういやよくわかってなかった。
後日にしてネットで調べた方がいいのだろうか?
「キスってのがどんなのかは知ってるの?」
俺の知ってる範囲で説明して欲しいと結莉が言った。
俺が知ってる範囲か。
「口と口をくっつける……くらい」
「なるほどね。最初はそれでいいんじゃない?」
本当はもっと愛情を込めたやり方があるらしいけどそれはきっと今の僕ならそのうち身に着けるだろう。
だから最初はそんな激しいのはしなくてもいいよ。
結莉がそう言うと僕に抱き着いて目を閉じる。
「さすがに目は閉じてね。恥ずかしいから」
結莉がそう言うと結莉の唇に唇を近づけて目を閉じる。
すごくドキドキする。
そして寸前で結莉が止めた。
「初めてのキスなんだから茉奈にとってあげないと」
そう言って結莉は笑っていた。
「ご、ごめん」
「気にしないで。その調子で茉奈に迫ればいいよ」
きっと茉奈は喜ぶだろうから。
「こ、この後どうしたらいいんだろう?」
「それより先はまだ駄目」
母さんの声で気づいて振り返る。
母さんがドアをノックしながら笑って立っていた。
「言ったでしょ?まだ結の歳では早いよ」
「硬い事言うなよ翼。結莉にその気はないんだから」
「天音がよくても大地と空が飲みに行く口実になるでしょ?」
そんな事を母さんと天音が話していた。
「どうして天音達がいるの?」
結莉が不思議と焦っていた。
「もらうもんもらったしさっさと撤収してゲームしようぜって茉莉がうるさくてな」
「あの野郎……」
結莉は機嫌が悪いみたいだ。
どうしたらいいかくらいなんとなくわかった。
「じゃ、頑張ってね」
「うん」
そう言ってリビングに戻ると父さん達がいる。
何かいけない事をした気分になってそれが顔に出る。
じいじや父さんはそれを理解したようだ。
後日やっぱり善明達を連れて飲みに行ったらしい。
夕食を食べて風呂に入るとリビングでテレビを見ていた父さん達に呼ばれた。
やっぱりいけない事だったのだろうか?
そうじゃなかった。
「今度茉奈を家に招待したらどうだい?」
母さんから話を聞いたらしい。
父さん達だって当たり前の様に母さんとキスをする。
だけど初めてのキスは二人とも半ば強引にされたらしい。
だから俺から誘ったみたいけど、どういう気分なのか分からないから教えて欲しいと言っていた。
俺もどう説明していいか分からなかった。
ずっとこのままでいたい、放したくない。
わずかな間の幸せ。
「なるほどね」
じいじがそう言って笑っていた。
「冬夜も茉奈が好きって意味が分かったんだね」
これからが大変だと父さんが言う。
「父さん達はどうだったの?」
僕が聞いたら父さんが苦笑していた。
「旦那様!その話はしたらいけません!」
母さんが怒っている。
聞かない方が良さそうだ。
「もう部屋に戻っていいかな?」
「ああ、いいよ。宿題が溜まってるという事はないだろうけど」
あまり夜更かししたらダメだよ。
父さんがそう言うと僕は部屋に戻って茉奈と話をしていた。
「茉奈、今度うちに遊びに来ないか?」
「うーん。色々しなきゃいけない事多くて遊びに行けないんだよね」
「そっか」
なんか残念だな。
「あまり構うことが出来ないかもしれないけど、よかったら家に来ない」
茉奈が誘ってくれた。
「いいのか?」
「うん、何かあるんでしょ?」
ずっと話をしていたいけど夜更かしは茉奈にはよくないらしいから我慢した。
「また明日ね」
そう言って電話を切る。
また明日って言える人がいる。
それがとても嬉しいと思える。
それが好きっていう意味なんだろうか?
結莉の唇の感触を思い出しながら……。
文章にしたら誠みたいになってしまうけど思い出しながら眠りについた。
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