姉妹チート

和希

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君の知らない物語

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(1)

「恭一。ちょっと相談があるんだけど」

 HRが終わって帰る時に川崎隆一から声をかけられた。
 隆一も珠希と同じ事務所の子役だ。
 珠希の事だろうか?

「そういう事なら色々小細工なしでストレートに言った方がいいんじゃないか?」

 俺に伝えてくれって言うのは誰が考えても変だろ?

「そうじゃなくてさ珠希の事なんだけど……」

 やっぱりそうじゃないか。
 違うようだった。
 珠希もUSEの中で友達がいる。
 その友達から珠希のファンがいて一度会いたいから会ってくれないかと言われた。
 しかしそれは口実だった。
 仲間数人で集まって妹を傷物にしようとしているらしい。
 主犯は珠希の人気に嫉妬している子役の女の子。
 それに協力しているのはFG。
 おかしいな。
 FGは壊滅したはずだが。
 まあ、妹の危機を見過ごすわけにはいかない。

「日時と場所は知っているのか?」
「うん、相談しているのを聞いてしまったから」
「わかった。後は俺に任せてくれ」
「いや、俺も協力するよ……」

 理由はなんとなくわかる。
 やっぱりそうなんじゃないか。
 珠希の兄として珠希にふさわしいか様子を見るとするか。
 しかしどうしよう?
 珠希に黙っておく必要もないな。
 家に帰ると夕食の時に隆一から聞いたことを話した。

「そうなんだ。じゃあ、行かない方がいいね」

 珠希にとっては何のメリットも無いのだからそう判断して当然だろう。
 しかし隆一にチャンスを与えてやりたい。
 
「それなんだけど珠希。敢えて向こうの罠に乗ってやってくれないか?」
「どうして?」
「恭一、妹を危ない目に合せて平気なの?」
「珠希の事はちゃんと守るよ」
「だったらその場面に行かせない方が良いんじゃない?」
「……恭一の言う通りかもしれない」

 父さんが力を貸してくれた。

「どうして?」
「今回はたまたまその珠希の友達が聞いていたからよかったけど、そうじゃなかったら気づかないだろ?」

 違う手法で珠希に手を出すかもしれない。
 だから珠希に手を出したらどうなるか警告しておく必要がある。
 俺はそういう風に判断したんだろ?と父さんが言う。
 
「ただし恭一一人じゃ無理だ。他の仲間の力を借りる事。それが条件だ」

 FGの名前を聞いた以上SHは動くだろう。
 父さんの条件を飲んでグルチャで相談した。

「あのゴキブリまだ生きていたのか」

 天音が怒っている。

「しぶといのは本当にゴキブリ並だな」
「水奈。多分そうじゃないと思う」
「どういうことだ?翼」

 皆が同じ事を考えたらしい。

「間違いなくFGには止めを刺した。それは間違いない」
「なんでそう言い切れるんだろ?」
「前に恭一が言ってたじゃない。新しいグループのリーダーになってくれってしつこく勧誘されてるって」

 それが紛れもない証拠だと翼が言った。
 同じ名前を使った新手の雑魚くらいしか考えられない。

「で、空はどうするつもりだ」
「そうだね。結はどう思う?」

 空は息子の冬夜に聞いていた。

「俺が決めていいの?」
「父さん達がわざわざそのふざけたガキを始末しないといけないほどのしょぼいグループじゃないだろ?」

 空もいい加減結に王の座を明け渡すつもりでいるらしい。
 だからまずいと思ったら空が手を貸すからまずは結が判断してみなさい。
 練習にはちょうどいいくらいの相手だ。
 すると天音も言った。

「大地の事務所の大事なタレントだからな。結莉と茉莉も手を貸してやれ」
「最近食ってばっかりだったからな、菫は嫌だったら来なくていいぞ」
「ふざけんな茉莉。今年はのんびりできると思ったが……。片っ端から始末してやる」

 後始末は天音がするらしい。
 恵美さんも空達と同じ事を考えていたらしい。
 いい加減恵美さん達が出る必要はないだろう。
 子供達の判断に任せよう。
 すると大地が隆一に聞いていた。

「そのふざけた子役の子の名前は知ってるの?」
「はい、加藤エレンです」
「……空は動かなくていい。ただ僕の事務所の事だから僕は同行するよ」

 そんな馬鹿が事務所にいる事をしれたら恵美さんに怒られる。
 大地のミスだから大地が自分で手を下すと言った。
 
「旦那だけ楽しむのは許さないからな」

 天音も参加するらしい。
 ただし空と翼は絶対に手を出すな。
 こんなどうでもいいことに二人に出てこられるのは癪だ。
 皆同じ意見だったようだ。

「ああ、証拠抑えたよ~」

 菫が早速調べたらしい。
 芸能人だから名前さえ分かったらいくらでも引きずり出せる。
 もちろんセキュリティはしっかりしてるけど菫や茜達にとってはそんなもの無いに等しい。

「結、作戦は考えてるの?」

 茉奈が冬夜に聞いていた。

「まあ、あんまり奇抜な事するのも面倒だしべたで行こうか」

 結はそう言って作戦を伝えた

(2)

「あれ?社長と奥さん」

 エレンは大地と天音を見て驚いてた。
 一緒に来るとは伝えてないから当たり前だ。

「ああ、友達ってエレンだったんだ。なるほどね」

 大地はエレンの動揺など知るかと言わんばかりに話す。

「どうしてお二人が?」
「たまたま駅であってね。海翔達も大きくなったしたまには妻にサービスくらいしたかったんだ」
「そしたら珠希にあってさ。子供だけだと危険だから私達も同行するって言ったんだ」

 大地と天音は打ち合わせ通りに話を進めていく。

「珠希のファンが待っているんだろ?ほら、早く行こうぜ」

 天音が急かすとエレンは戸惑いながらも約束の場所に行くと思ったけど、その道は違うと感じた。
 大地達に言われた通りに私は話をする。
 撮影以外でこういう芝居をするのは初めてだった。

「エレン、そっちじゃないんじゃないの?」
「ほら、あそこだと人目が多いから……」

 エレンも私も人気女優。
 だからもっと人気のない所に変えたという。

「それなら先に言ってくれたらいいのに」
「ごめん、今朝気づいてさ」

 当然その場所の事は菫達がしっかりつかんでいた。
 そしてそこに私が現れると馬鹿な連中が私を囲んで暴行する段取りらしい。
 さすがに大地や天音がいるとはいえ怖い。

「どうしたの?珠希」
「え、すいません。なんか緊張しちゃって……」
「男の子と遊ぶのは初めてなの?」
 
 そう言いながら大地がスマホを触っていた。

「大丈夫。しっかり配置してるから」

 そんなメッセージを私に送って来た。
 本当に人気のないビルの裏の広場に来た。
 物騒な多分中学生くらいの不良が集まっていた。

「彼ら大東中の子達なの」

 そう言ってエレンがにやりと笑った。

「随分と物騒なファンだな」

 白々しく天音が言う。

「ここから先は社長たちはお引き取り願えませんか?用があるのは珠希だけだから」
「どういう事?」
「珠希は少し人気があるからって天狗になってるからお灸をすえてやろうと思って」
 
 それで暴行を企てた。
 どうせまだ初めても済ませてないだろう?
 とっておきの初めてにしてあげる。
 ちゃんと撮影もしておくから記念にあげるね。
 私は怯えていた。
 だけど自分に言い聞かせていた。
 恭一が大丈夫って言ってた。
 いつも通りにしていればいいって言ってた。
 天音達もいる。
 大丈夫だ、しっかりしろ!
 足に力を入れた。
 だけどそんな私の事エレンは見透かしていた。

「ま、そんなに味わえない撮影だから精々楽しむといいよ」
「そんなに貴重な撮影ならエレンがすればいいんじゃないのかい?」

 大地が初めて話した。
 だけどそんな事エレンには関係ない。

「社長は見ないふりをした方が良いですよ。私達の背後には大物がいるから」
「大物?誰がついているんだ?」
「フォーリンググレイス」

 得意気に話すエレン。

「つまりFGは僕達の手に負えないと?」
「当然じゃないですか?地元で最強だと自負しているセイクリッドハートより強いんだから……」
「私達がゴキブリより弱い?」
「寝言は死んでからいいやがれ」

 そう言って茉莉と菫が現れると手に持っていた武器で一人ずつ始末した。
 その後に恭一や隆一が現れた。
 どうして隆一が一緒なの?
 
「こ、これはどういう事?」
「エレンはいくつか勘違いをしているから説明してあげるよ」
「勘違い?」

 大地は憔悴するエレンをみてにこりと笑うと片桐結達も姿を出した。
 この場所だと分かっていた結はステルスを利用してこの場所に待ち伏せをしていた。
 
「さあ、お前の罪を数えろ」

 結がそう言うと皆が動き出す。

「まず一つ。FGは存在しない」

 エレン達がFGよりも弱いはずのSHが完全に叩き潰したから存在しているはずがない。
 
「次に珠希はSHのメンバーだ」

 だからFGなんて名前を使って私を狙えば当然動き出す。

「そして君は不運だった」

 何も知らない私が一人出来たらエレンの望み通りになっただろうけど、隆一が話を聞いてしまった。
 うかつにもほどがある。
 大地が説明している間にも次々と叩きのめしていく茉莉達。
 私は離れていた方が良いのだろうか? 
 そう思って大地から離れた時だった。

「一人になったらダメだ珠希!」

 大地がそう叫んだ時には背後に私を人質にしようとする連中が羽交い絞めにしようとした。
 ミスをしたのは私も一緒?
 だけど隆一が叫んだ。

「俺の珠希に手出しさせない!」

 そう言ってそいつを殴り飛ばした。
 え?今なんて?

「世話の焼ける妹だな。自分が狙われているって忘れるな」

 恭一がそう言って隆一に「珠希は任せた」と言って他の雑魚の始末を再開する。
 大体のメンバーを茉莉達が始末する。
 最後の一人になると冬夜がそいつを睨みつける。

「俺達にこんな真似をしてただで済むと思うなよ?俺達は……」
「さっき聞いてた。大東中の連中なんだろ?大丈夫。ちゃんと後始末しておくから。それより君に教えてあげる」

 この先FGというグループは存在しない。
 ありえない。
 それはただの行方不明者。

「理解した?君は存在しないんだ」
「ま、待ってくれ。FGの名前を使えばだれも逆らえないって聞いたから利用しただけだ」
「それは相手が悪かったね。言ったろ?僕達の中ではもうFGはいないんだ」

 だから君は存在しない。
 今度生まれ変わったらしっかり覚えておくと良いよ。
 僕達にその名前は禁句だって。
 そう言って菫が全員を消し去った。
 エレン一人孤立する。
 逃げる事は許されない。
 天音がしっかり腕を掴んでいたから。

「さて、こいつはどうするんだ?」

 エレンが私にしたことをこいつにするか?と天音が大地に聞いていた。

「それは無理だよ天音」
「なんでだよ?」
「SHの男子は彼女以外の女性を抱くなんて絶対にしない」
 
 命がかかってるからね。

「それもそっか。じゃあ、どうするんだ?」
「そうだね……まだうちのタレントだしね」

 そう言って大地は懐から封筒を取り出した。
 中身はエレンと事務所の契約書。

「どんな理由があろうとうちのタレントを傷つけようとした者は許さない」
「ま、待って下さい。私だってUSEのタレント……」
「そうだね。だけどSHと同じなんだ」

 仲間を傷つける奴は何があろうと許さない。
 そう言って大地は契約書を破り捨てた。

「後は君の自由にしろ。他の事務所を当たってみるのもいいだろう」

 人気はあるんだからエレンを確保しようとする事務所はあるだろう。

「だけど、今後僕達の邪魔をすれば僕達は容赦しない」

 さっきのやりとりは大地達もしっかり記録してある。
 それをマスコミに垂れ流してやる。

「わかったらさっさと失せろ」

 大地がそう言うとエレンは私を睨みつけながら言った。
 それを見ると天音が冬夜達に言った。

「ご苦労さん。昼飯奢ってやるからついてこい」
「肉が食いたい!!」
「……茉莉達の希望聞いてたらキリがないからフードコートで好きなだけ食え」
「よっしゃ!菫、勝負してやってもいいぞ!」
「馬鹿かお前は?私は正行も一緒なんだ。そんな醜態曝せられないだろ?」
「そんな事言ったら私だって朔いるぞ?」
「朔はお前に女らしさとか求めてねーよ」

 結莉だって芳樹と一緒に喰い放題じゃないか。

「気にするな茉莉。そんなことでケチつける朔なら私が絞め殺してやる」
「天音。娘の彼氏を絞め殺すってどうなの?」
「結は何から食べる?」
「チャンポン」
「……私ホットドッグにしておくね」

 そう言いながらこの場から立ち去ろうとする皆について行こうとしたら恭一が止めた。

「悪いが珠希は別行動だ」
「どうして?」
「理由は隆一に聞けばいいさ」

 じゃあ、あとは任せるぞと隆一に言うと恭一も去っていった。
 残るのは私と隆一。
 いくら私でも薄々気づいた。
 でも隆一は緊張している。
 
「必ず男から言わないとダメなんて事はないんだよ」

 母さんがそう言ってた。

「私に用があるの?」
「……うん」
「何?」

 きっと素敵な言葉考えてくれるんでしょ?
 そうでもなかった。

「僕に珠希を守る資格があるかな?」

 自信がないのか。

「私も生れて初めてだったんだ。男の子に助けられるなんて出来事」
「……そんなにたくさんあったら大変だよ」

 それもそうだよね。
 でも……。

「さっき隆一が言った事覚えてる?」
「え?」
「俺の珠希に手出しさせない!って言ってた」
「あ、ごめん……」
「そうじゃなくてさ……本当に良いのかな?」

 あなたの物になってもいいの?

「……さすがにちゃんと言わないとかっこ悪いよね」

 そう言って隆一は頭を掻きむしっていた。

「……前から珠希が好きだった。珠希が欲しい」
「ありがとう」
「本当にいいの?」
「断る理由は無いよ」

 恋愛なんてどちらかが相手を好きになって、そしてそれを伝えて相手がそれを受け入れるかどうかでしょ?
 私の中ではまだいまいちわからないけど、隆一に好きって言われて嬉しかった。
 理由なんてそれでいいじゃない。

「よろしくな」
「うん」
「じゃあ、何か食べようか」
「そうだね」

 私のお腹もエンプティみたいだ。
 さすがに初めての彼氏の前でお腹が鳴るなんて真似は嫌だ。
 
「あのさ、私買い物が好きなんだ」
「そうなんだ」
「でさ、一度やって見たかったことがあるの」
「何それ?」
「買い物デート」
「……夏にでも誘うよ」
「夏になる前の方が良いんじゃない?」
「どうして?」
「だって水着とか好みないの?」

 慌ててる隆一が面白かった。
 後日改めて大地達に交際を始めた事を伝えた。

「さすがにまだ子供は勘弁してね」

 大地はそう言って笑っていた。

(3)

「だから”亜咲とその他”でいいだろ!」
「その他扱いするな!」

 夏にライブが決まった。
 だからバンド名くらい考えておいてくれ。
 それで今日は放課後教室で相談していた。

「んじゃナイトメアってのはどうだ?」
「なんか拗らせた中2くさくていやだ」

 まあ、俺達は高校生だけど。

「しょうがねーな……”ASAKI”だったら文句ないだろ?」
「ローマ字にすればいいってもんじゃないでしょ!」
「大体なんでお前の名前が前提なんだ!」

 増渕兄妹のやりとりをぼんやり見ていると樹理が話を振って来た。

「悠翔は何かいいアイデア無いの?」

 そう言われると何か考えないといけないな。
 なんとなく浮かんだ言葉が出た。

「Queen Eyes」
「え?」

 樹理が反応した。
 前に父さんに買ってもらった昔のロックバンドの曲名を弄ってみた。

「王妃の眼?意味が分かんねーぞ」
「でも響きは良いと思う。私は悠翔の案に賛成!」

 樹理は賛成した。
 すると将弥も何かを感じたらしい。

「それでいいんじゃないのか?」

 そう言って賛成していた。
 もともと考えるのが面倒そうだった亜咲が反対するわけがない。

「わーったよ。じゃあ、それにしようぜ」

 そう言って話し合いが終わると将弥と亜咲は教室を出る。
 俺も出ようとした時に樹理に呼び止められた。

「少しだけ時間くれないかな?」
「別にかまわないけど」

 何が問題でもあったのか?
 兄妹だと色々問題あるんだろう。
 うちの妹たちもやりたい放題で困ってるし。
 でもそういう問題じゃないみたいだ。

「あ、あのさ……。悠翔は誰か付き合ってる人とかいる?」
「いや、いないけど?」
「じゃあさ、好きな女子とかいるの?」
「そういう余裕がなくてさ」
 
 茉奈と母さんの代わりに家事とかしないといけないし休日もギターの練習でいっぱいだから。
 茉奈も結とのデートの時間を作ってやりたいから。
 そう言うと樹理の表情が明るくなった。

「それならいい方法があるんだけど」
「いい方法?」

 俺が聞き返すと樹理は頷いた。
 少し照れているみたいだった。
 なんとなく察してしまった。
 だけど最後まで聞くのが礼儀だろう。
 樹理の言葉を待っていた。

「私と付き合ってもらえないかな?」

 やっぱりそう言う話だった。
 どうして?とかは聞かなかった。
 分かり切ってる。

「小学校の時から悠翔の事が好きだった」

 海翔にはない俺の強さ。
 すごく頼りになる面倒見のいい男子。
 ずっと一緒にいれたらいいな。
 そんな事をずっと考えていた。
 それが恋愛感情なんだって気づいてしまった。
 俺は悩んだ。
 さっきも言ったとおりに俺が樹理に構ってやれる時間があるのだろうか?
 この場で即答していいような問題じゃない気がした。

「あのさ、明日まで考える時間をくれないか?」
「やっぱり私じゃいや?」
「そうじゃないんだ」
 
 仮に樹理の告白をOKしたとして俺は樹理に恋人らしいことをしてやれるか判断する時間が欲しい。
 
「わかった。いい返事待ってるね」

 そう言って樹理は教室を出た。
 俺も家に帰ると母さんがゲームをしていた。
 
「あ、お帰り。遅かったな」
「バンドで話し合いがあって」
「そっか、バンドは順調か?」

 今度聞かせてくれと母さんが言う。
 部屋に戻ると着替えて今日の宿題をする。
 隣の部屋から優奈達の馬鹿笑いが聞こえている。
 多分ネットの動画サイトでも見てるのだろう。
 優奈達の勉強も見てやらないといけない。
 やっぱり樹理の告白を受け入れられる状態じゃない。
 さっさと宿題を済ませると夕飯の支度に入る。
 慌てて母さんが手伝ってくれた。

「母さんは優奈達の世話してたらいいよ」
「悠翔の世話もしてやらないといけないしな。お前、今日学校で何かあっただろ?」

 え?
 驚いた俺を見て母さんはにやりと笑った。

「私だって悠翔を産んだ母親だぞ」

 当然父さんに恋をしたりしている。
 つまりそこまで筒抜けだったか。

「その話夕飯の時でいいかな?」

 父さんの意見も聞きたい。

「でも優奈達に聞かれてもいいのか?」
「同世代の女子の意見も聞いてみたいから」
「年下なのか?」
「いや、同級生」
「なるほど、同級生だったか」

 母さんはそう言って笑った。
 父さんが帰ってくるとちょうど夕飯の時間になる。
 夕飯を食べながら放課後に樹理に告白されたことを伝えた。

「へえ~樹理が相手なんだ」

 優奈達も興味を示していた。
 父さんと母さんもしっかり話を聞いていた。
 そして父さんが言う。

「俺も小学生の時に母さんと付き合いだしたんだ」

 母さんと天音が問題を起こすたびに父さんは困っていたらしい。

「その時俺も母さんは看護師だし、父さんは遊びに行ってるから家事を代わりにしていたんだ」

 だから俺と同じようにとてもじゃないけど彼女に構ってやれる時間が無い。
 そう思ったらしい。

「じゃあ、なぜ付き合ったの?」
「それでも母さんは諦めなかった」

 一緒にいる時間がないなら作ればいい。
 休みの日とかに家に来て恋の相手をしてくれたりしてたんだ。
 そうまでしても一緒にいたいと思う気持ちが好きって感情なんだ。
 俺だってそうだろ?

「どういう意味?」
「彼女に何もしてやれないという気持ちは、彼女の事をすでに考えてるって事じゃないのか?」

 父さんの一言で気が付いた。
 俺はいつの間にか樹理の事を考えていた。
 樹理に何もしてやれない自分が不安だった。
 俺では樹理を幸せにしてやれない。
 それはつまり俺は樹理に幸せになって欲しいと思ってる証拠だろ?と父さんは言った。
 
「母さんも息子が恋をしたというのに邪魔をするつもりは無いよ」

 もっと子供らしく家の事は親に任せて彼女と楽しめ。
 せっかくお前の事を好きになってくれたのにもったいないぞ。

「普通親は恋愛なんてまだ早いと言うと思ったんだけど」
「それを言ったら父さん達はどうなるんだ?」

 俺くらいの時には一緒に夜を過ごしたりしていたんだぞ。
 それに優奈や愛菜だって彼氏いるじゃないか。
 俺だけ作るなって馬鹿げた事言わないよ。
 
「ただし、付き合うからにはちゃんと真面目に相手してやれ」

 母さんも父さんがなかなか構ってくれないから寂しかったそうだ。
 家の事を気にして恋愛をしないなんて恋愛小説でありえるわけないだろ。

「お前の様な不安を抱えていたからな。だから一つだけ言わせてくれ」

 父さんはそう言った。

「悠翔の歳で彼女を幸せに出来るかなんて考えるだけ無駄だ。その為の力を身につけている最中なんだから」

 でもいざその時に都合よく彼女が現れるはずがない。
 今の俺を気に入ってくれている女の子がいるなら逃すな。
 
「わかった……」
「麻里達に心配かけるなよ」

 さすがに俺の歳で妊娠したら悩むぞ?
 それを聞いて食事を終えて風呂に入ると優奈達の部屋に向かった。

「なんだ?風呂上がりの妹が見たいとか思ったのか?」

 そんなの彼女に見せてもらうまで楽しみにしとけ。
 意味が分からないがとりあえず「そうじゃない」と伝えた。
 すると茉奈がにこりと笑た。

「分かってる。樹理の連絡先知りたいんでしょ?」

 ちゃんと樹理に許可もらったから教えてあげる。
 茉奈に教えてもらうと部屋で樹理に電話する。
 なぜかドキドキしていた。

「あ、悠翔?どうしたの?」
「返事、早く伝えようと思って」
「うん……」

 樹理も緊張しているみたいだ。

「俺みたいな堅物でいいなら……付き合ってくれないか」
「ありがとう。よろしくね」
「でさ、早速なんだけど……」
「どうしたの?」
「俺はまず何をすればいい?」

 恋愛なんて考えた事無かったからさっぱり分からない。

「そうね、まず今度一緒に寝よう」

 え!?
 俺が驚くと樹理は笑っていた。

「そんな彼氏が欲しいわけないでしょ」

 明日から一緒に帰ろう?
 その時にまた何が出来るか探したらいい。
 2人で色んなことを体験して楽しめばいいんだから。
 樹理はそれを俺と楽しみたいらしい。
 そういう人を彼氏に選ぶんだって言っていた。

「まあ、お手柔らかに頼むよ」
「こちらこそ」

 話が済むと充電器にセットして電気を消すと寝る事にした。
 朝には「おはよう」と樹理からメッセージがスマホに届いてた。
 今日からまた少し違う毎日が日常になろうとしていた。
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