姉妹チート

和希

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Credens justitiam

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(1)

「はい、これあげる」

 そう言って私はミサンガを誠司郎に渡した。
 今日は運動会。
 誠司郎が足が速いのは知ってる。
 もうすでにサッカーを始めている。
 足を故障しないように足首にでもつけて欲しいと夜作っておいた。
 作り方はママに聞いたら喜んで教えてくれた。

「ありがとう」
「付けれないなら私が結んであげる」

 すると誠司郎が靴下を脱いで私に足を出す。
 普段見ることのない誠司郎の足。
 男の子の足でも十分ドキドキさせるじゃない。
 それに私は意識してみないようにしていたけどやはり誠司郎の股間が気になっていた。
 SHの女子グルを見ていたら否応なく入って来る情報。
 誠司郎のもそうなのかな?
 すると誠司郎の視線にも気づいた。
 私の胸元を見ている。
 私はくすっと笑って言った。

「まだそこから見える程発達してないよ」
「ご、ごめん」
「私以外の女子にしたら怒るからね」
「わ、分かってるよ」
「雪、そろそろ入場行進始まるよ」

 亜優が言うので私と誠司郎はグラウンドに出る。
 すでにみんな整列していた。
 そして入場行進、開会式、応援合戦と種目をこなしていく。
 誠司郎が走る時には精一杯応援していた。

「あんた達もよく飽きないね」

 亜優が話しかけてきた。

「亜優も諦めてくれないの?」

 そう言うと亜優は笑っていた。

「もうとっくに諦めてるよ」

 ただ、いい男子がいないから困ってるだけだという。

「雪を見てるとやっぱり恋愛に憧れちゃうしさ」

 なるほどね。

「SHで探せばいいじゃない」
「修学旅行までには見つけておきたいかな」

 きっと見つかるよ。

「雪が誠司郎を譲ってくれたらいいんだよ」
「絶対嫌」
「そういうと思ったよ」

 私達も徒競走の時間になると走る。
 誠司郎は走っていたけど私達はリレーには選ばれなかった。
 私は天音達と違ってその運動能力までは恵まれなかった。
 最後になぜこの時期にやるのか分からない盆踊りをやって午前の部は終了する。
 
「お疲れ様」
「雪もね」

 観客席にいるパパ達のところに行って弁当にありつく。

「片桐君の血筋にしては運動能力はないの?」

 恵美さんが聞いていた。

「関係ないんじゃないかな」
「それでも冬吾の子だぞ」

 誠も聞いてくる。

「その代わりに飛んでもない能力を与えられてるじゃないか」

 じいじが答えた。

”既成概念”
 ありえないと思う事象を完全に否定する能力は既成概念自体を上書きするという能力に進化した。
 この能力だけを見たら結にだって太刀打ちできない。
 天音や茉莉達の運動能力すら否定出来るだろうとじいじが言う。
 ひょっとしたらこの能力が私の運動能力をかき消してるのかもしれないと言われた。

「その力を使えばリベリオンとやらもすぐに始末できるんじゃないの?」

 恵美が聞くとじいじは逆に聞いていた。

「どうして?」
「だってリベリオンの存在がイレギュラーなんでしょ?」
「そのリベリオンをどうやって特定するの?」

 さすがじいじだ。
 私の能力の弱点を完全に把握していた。
 ただ”能力者はあり得ない”だと結や結莉も否定してしまう。
 リベリオンという物を完全にイメージできないと世界を消滅させてしまいかねない。

「いいのか?普段なら孫の弱点なんて絶対に言わないだろ?」

 こんな白昼堂々と言っていいのか?誠が言う。
 だけどじいじはやっぱり分かっていた。

「知られて困る事じゃないだろ」
「なんでだよ?」
「自分で言ってることをよく整理してみろ」

 リベリオンや能力者と言う事を隠しつつ能力や武装して私を仕留めなければならない。

「そんなの狙撃すればいいじゃない」

 当たり前の様に恵美が言うけどじいじは首を振る。

「それも無理だよ」
「どうして?」
「そもそも銃撃と言うこと自体がイレギュラーなんだ」

 銃殺なんてありえない。
 たったそれだけで無効化する。
 
「根拠ならあるよ。年末のパーティの時思い出して」

 誠司郎は撃たれたのに何ともなかった。

「あれもそういう理屈なのか?」

 神奈が聞く。

「冬夜さん……」

 愛莉がじいじに何か耳打ちしていた。
 じいじはそれを聞きながら私を見てにこりと笑っていた。
 愛莉がばらしたんだな。

「誠司郎には特殊な仕掛けをしていたみたいだ」
「なんだよそれ」
「孫娘の為にもそれは言えない」
「要は雪にはどんな攻撃も通用しないってことですか?」

 誠司が言うとじいじがうなずいた。

「僕には思いつかないね」

 すると校舎の向こう側。
 校庭の方で何か騒ぎがあったみたいだ。
 善幸や望はそれが銃声だとすぐ気づいた。
 さっそく動こうとすると私が止めた。

「じいじ達はもう隠居ってやつなんでしょ?わざわざ動かなくていいよ」

 手はきっと結が打ってるはず。
 結の異名は炎の皇帝。
 まさにその炎に飛び込む愚か者がいたようだ。

(2)

「なんだお前?」

 俺はボスの命令を受けて東小学校に部下を連れて襲撃をかけようとした。
 たかだかガキにこんなに数を集めないといけないのか?とボスに聞いた。

「その甘い考えはこの場で捨てていけ。やつらは前のボスを完膚なきまでに叩き潰した連中だ」

 ここは平和ボケした日本。
 だけど渡辺班とSHだけは別格の存在。
 リーダーが片桐家の者じゃなかったらクーデターくらいやってのけるだろうとボスは言っていた。
 それでも装甲車両数台と乗せて来た数十名の傭兵。
 みな実戦経験豊富なエリート部隊。
 そんな精鋭をこのガキ一人で止めるつもりか?
 このガキの力なのか知らないけど校門を抜けようとしても前に進めない。
 で、何人かで車を降りてガキ一人に問い詰めた。

「僕の名前なんてどうだっていいでしょ。ここを通してはいけないとマスターに言われている。大人しく引き返すなら特別に命だけは助けてやる」
「ガキ。悪いがお前みたいなのを黙らせる一番の方法があるんだ」

 そう言って部下に合図をすると手に持っていたアサルトライフルをガキに問答無用で撃ち込もうとした。
 だけどガキの悲鳴ではなく部下が悲鳴を上げていた。
 振り返ると部下の両腕が銃と一緒に消失していた。
 ちぎられたわけでもなく吹き飛ばされたわけでもなく消失していた。
 このガキ能力者か?

「これがお前の能力か?」
「それを教える間抜けが死んでいくルールって教わらなかったの?銃声なんて立てられたら折角の運動会が台無しになっちゃうじゃないか」
「……てめぇ、何者だ?」
「何者でもないよ。そうだな。このくらいなら教えても差し支えないだろ。僕はただの宣告者」

 ガキに見える姿はただのヴィジョンだ。
 証拠に一発だけ撃たせてやるから試したら?
 他の部下がハンドガンを撃つと銃はガキの体を通過した。

「本体はどこにいやがる?」
「マスターの居場所をわざわざ教える間抜けな部下なんていらないと思わないか?」
「……伝達者と言ったな?用件はなんだ?」

 それを言ったらお前の役目は終わりなんだろ?
 するとガキはにやりと笑った。

「相手が誰だろうと手を出してくるなら容赦する気はない。マスターは忙しいんだ。だから僕がお前らのボスに伝えるよ」
「どうやって?」

 そういうと隣に立っていた部下が突然スマホを取り出し電話を始めた。
 相手はボスらしい。
 まるでガキに操られているかのようにしゃべりだす。

「お、俺達に手を出すな。俺は両親程甘くはない。忠告代わりに土産を送り飛ばしてやる。それでもやるつもりならしっかり殺してやるから勝手にしろ」

 そう言って部下は電話を切る。

「じゃあね。今度は幸せな世界に生まれる事が出来る事を祈るよ」

 ガキがそう言ったとドジに俺一人を残して全員消失した。
 このガキヤバイ!
 俺は自分の足で逃げ出そうとしたが、転倒してしまった。
 気がついたら片足を失っていた。
 血が流れている。
 痛みより恐怖が頭の中を支配していた。

「全員消しました。じゃ、流石に納得いかないだろうから、君を使って警告することにするよ」

 ガキは無表情でそう言った。

「お、俺をどうするつもりだ?」
「今聞いてなかった?警告に利用させてもらう……まだ足りないな。両腕も必要ないよね?」

 ガキがそう言うと両腕も吹き飛ばされた。

「俺を殺す気か?」
「それじゃ伝わらないでしょ。僕の時間はそろそろ終わり。じゃ、君も今度生まれ変わったらいい人生を送れることを願ってるよ」

 ガキがそう言って消えると同時に俺は全身を切り付けられ、失血死寸前のところでボスのいるアジトに転送されていた。
 ボスが驚いている。
 何かを伝えようとしても声が出ない。
 意識もだんだんと薄れていく。
 俺達はすでに選択を間違えていたんじゃないのか?
 とても相手になるような奴じゃない。
 初めてそんな絶望を味わいながら絶命した。
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