優等生と劣等生

和希

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2ndSEASON

それから

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(1)

「冬夜君、おはよう~。大変だよ!!」

慌てふためく愛莉。
時計を見る、いつも通りの時間だ。
遅刻の心配はない。

「どうしたの?」

僕はそーっと起き上がる。
あ、やっぱり筋肉痛だ。
全身が痛い。

「と、とにかく下に降りてきて」

そう言って部屋を出る愛莉。
筋肉痛を堪えながら、着替えそしてダイニングへ向かう。

「おはよう……」
「お、冬夜!この記事を見なさい!」

父さんが新聞の一面を見せる
うん?地元新聞のスポーツ欄じゃないか。
まあ、みてみる。
頭が真っ白になった。

「地元産『ファンタジスタ』現る!」

ファンタジスタって言葉使いたがるけどあれって主にFWに使われる言葉であってDFの僕には関係ない言葉なんだよね。
DFなどは『クラッキ』ってポルトガル語で称賛されることが多いらしい。
って説明を愛莉たちにしたり顔で説明すると。

「トーヤお前途中からFWだったじゃん」

と突っ込みを受けた。
う、そうだった。

そのFWにいた5分間の時間も『冬夜の時間』などと称賛されてもいた。
そんな大層な事したかねえ。
まあ、もうサッカーはお終い。
それでいいじゃない。
だけど、それだけでは許されなかった。

テレビニュースでも『高校サッカーに新星現る』など褒めちぎられていた。
普段ならインハイ予選なんて取り上げないのに、なんだこの騒ぎ様は。

「今日は学校でも大騒ぎだな」

カンナがそんな事を言ってた。

「そんな、たかだか県予選勝ったくらいで……」

そう思っていたのが甘かった。

(2)

学校に着くと待っていたのはファンとマスコミの群れだった。

「○▼※△☆▲※◎★●」

何を言ってるのか分からない。
人ごみをかき分け教室に入るとクラスメートからも質問攻め。

「お前インハイ行くのか?いくよな!」
「行かないよ」
「なんで?」
「夏休みを満喫したいからだよ」
「インハイで充実すればいいじゃん」
「愛莉たちと過ごしたいんだよ」
「思ったより普通なんだな」
「そりゃ、予選までの約束だったしね」

そう言うとクラスメートの人だかりは解散していった。
ああ、こういえば良いのか?
僕は廊下にいる人たちに向かって声をかけた。

「あの、僕サッカー部辞めたんで」

逆効果だったみたいな。

「何で辞めるの!?」
「もったいないよ!?」
「U-18招待されるかもよ!」

そんな時間ないよ。
ただでさえ、テストで成績下がったのに。

「ほらHRの時間だぞ、教室にもどったもどった!」

水田先生が人ごみを解散させる。



混乱は一日中続いた。
昼休みの焼きそばパン買いに行くのも一苦労だ。
昼ごはんが学食じゃなくて良かったよ。
え?愛莉の弁当は?
食べてるよ?
愛莉の真心なのか白いご飯がぎゅうぎゅうにこれでもかってくらい詰まってう。
あ、ちゃんとおかずもあるよ。
さすがに今時の女子高生が作る弁当で日の丸弁当はないでしょ。


帰りも大変だった。
下駄箱を見たら大量のファンレター……なのかラブレターなのか分からないのがたくさん入ってた。
僕はため息を吐く。
愛莉は憤慨してる。
カンナは……ケラケラ笑っていた。
カンナいいのか?誠もおなじ境遇かもしれないぞ?

校門で出くわす一人の女性。確か佐古下さんだっけ?
佐古下さんは僕を見るなりこう言った。

「もう帰るの?」
「帰ります」
「本当に部活辞めたのね」
「言ったはずですけど?」
「残念ね。明日U-18代表監督が視察に来るって情報聞いてきたんだけど」
「だ、代表監督!?」

愛莉が甲高い声で言った。

「関係ないです。僕サッカーやらないんで」
「そ、それは意固地になってるだけではなくて?」
「違います」
「まあ、いいわ。じゃあ、また明日」

そう言って佐古下さんは帰って行った。

「何が言いたいんだろうな。あの人」

カンナが聞いてきた。
僕にもわからない。


翌日、本当に代表監督が来たらしい。
美樹本先生に「今日だけ練習に出てくれないか?」と頼まれたが断った。
それで目をつけられるなんてことになったら冗談じゃない。

「部活やめたんでって断っておいてください」


そう言って家に帰った。
家に帰ると親が電話対応してた。
こんな時間に珍しい。

「あ、はい。わかりました。お待ちしております。……はい。ではまた後ほど」

電話が終わると僕は「誰?」と聞いた。

「た、大変よ冬夜!日本代表の監督さんが来るって……」

ふぁっ!?

「断ればよかったのに」
「母さんだってパニクる時はあるわよ。あんたどうするの?」
「いいよ、僕が断るから」
「そ、そう?でも本当にいいの?」
「くどいよ!どうしてもやりたきゃ大学行ってから、社会人になってからフットサルでもやるよ」

そういうと上に上がる。
と、その前に……。

「愛莉の前でサッカーの話するなよ。不安がるから」
「わ、わかってるわよ」


その後、愛莉が家にやってきて勉強を始める。
すると呼び鈴が鳴る。
来たみたいだ。

「冬夜、ちょっときなさい」
「わかった!」

そう言うと席を立つ。

「だ~れ?」

愛莉が質問する。

「日本代表の監督だって……愛莉も来るか?」
「……行っていいの?」
「話聞いていた方が安心するだろ?」
「……うん」

そして、二人でリビングに向かった。

「あれ?愛莉ちゃんも降りてきたの?」

母さんが驚いている。

「愛莉も無関係てわけじゃないしね」
「初めまして、片桐冬夜君」

テレビで見たことある人だ。
ああ、この人が監督か。

「どうも……」

そう言って差し出された手を握手する。

そして監督、コーチ、愛莉と僕の4人は席に着いた。
最初に話し出したのは監督だった。

「片桐君に単刀直入に聞こう。君はサッカーを辞めたというのは本当かい?」
「はい、やめました」
「そうか……もう未練はないと」
「もともと未練なんてありませんでした。ただ、県予選まではやって欲しいって言われたのでやっただけです」
「そちらの……彼女さんの為かな?」
「そうです。一緒の大学行くって決めたから、サッカーなんてやってる場合じゃないです。落ちたら浪人するって言ってるんで」

嘘はついてない。
しかし愛莉は逆の事を考えていたようだ。

「冬夜君がサッカーしたいなら私がそっちに合わせるって手も……」
「サッカーしたいなんて一言もいってないんだけど」

すると監督は2枚のDVDを差し出した。

「すぐにいい返事をもらえると思って来たわけじゃない。ただ、このDVDを見て考え直してほしい。そちらの彼女さんともよく考えて。一緒の進路じゃなくても心は通じ合えるのはサッカーと一緒だよ」

そう言って二人は帰って行った。
2枚のDVDを愛莉が持って部屋に戻る。
勉強を再開する、僕。
愛莉は2枚のDVDを気にしている。

「……そんなに気になるなら見ようか?」

僕が提案すると愛莉は頷いた。

「うん、気になって勉強どころじゃなくて……」

僕はなんとなく想像つくけどね。


1枚のDVDはU-18の練習風景だった。
二人のファンタジスタと一人のレジスタの練習ぶり。
ふーん、良い動きするね。
まあ、共通してるのは3人ともトップ下を狙ってるってところか。
一人のファンタジスタに注目していた。
動きが似ている。
ドリブルするあたりか、違うのは。
こんな動きされたら止めれないかな?
まあ、止めれないなら。パスを潰せばいい、動けなくさせればいい。
DF的思考だけどね。

入り込んでいて気づかなかった。
不安そうに僕を見る愛莉の表情に。

もう一枚のDVDはイタリアのU-18の練習風景だった。
レジスタとファンタジスタの動きがうまく連携できてる。
こっちのファンタジスタは僕と動きが似ているようで違う。
左足しか使わない点とドリブルを多用する点だ。
どっかでみたことあるな……。
思いだした。
極上の虹の人だ。
ところでさっきからファンタジスタやレジスタって見ただけで分かるのは何故って?
動き見てたら分かるだろ?

「この人達冬夜君に似てるね……」

愛莉が重い口を開いた。

「そうだね、まあレベルが違うけど」
「そんなことないよ、冬夜君なら対抗できると思う……」
「愛莉?」

やっと気づいた。
しまった!
また入り込んでいた。
どうしていつも後になって気づくんだ。
悲しそうな愛莉の表情。

「やっぱりサッカー続けた方がいいんじゃない?冬夜君目が輝いてた」
「愛莉……本音言ってもいい?」
「う、うん」

怯えるような愛莉の目。

「もうサッカーの話は止めよう。さっき監督さんの前で言ったろ?サッカーに未練なんて元々持ち合わせていないんだ」
「でも……」
「愛莉、前にもっといい大学行けよって言った時怒ったろ?私には選択権はないの!?って……同じことを言わせてもらうよ。僕に選択権はないのかい?」
「それはそうだけど」
「いい選択肢なんて個人の勝手だろ。僕は愛莉と一緒の道を選ぶ。こんな2枚のDVDに揺るがされるほど軟弱な意思じゃない」
「うん、ごめんね……」
「いや、いいんだ。こっちこそごめん、無駄に愛莉の不安煽っただけだったね」
「そんなことない。一緒に話聞こうって言ってくれた時嬉しかった。ただ私が勝手に揺らいでいただけ」
「んじゃ、勉強しようか?だいぶ時間無駄にしちゃった」
「うん!」

(2)

とんとんとん……、コンコン、ガチャッ!
一日の始まり。

「冬夜君おはよう、あれ?起きてる」
「ああ、おはよう愛莉。なんか早起きする癖ついちゃってさ」

……嘘つくの下手だね。
目に隈出来てるよ。
眠れなかった理由もなんとなく察しがついた。
ふとテーブルのDVDに目をやる。
すると一枚DVDが無い。
プレーヤーの中なのか?

「DVD見てたんだね?」
「あ、ごめん。ちょっと入り込んでたみたいだ」

笑って誤魔化す冬夜君。
やっぱりサッカーに未練があるの?
冷めた熱に再び火がついた?
昨日DVD一緒に見たとき明らかに冬夜君目がいきいきしていた。
決勝の時もそうだ。
めんどくさそうにしてたけど、目が輝いてた。
そこまでしてサッカーを我慢するのはわたしのせい?

「愛莉、下降りよう?」
「本当にこのままでいいの?」
「愛莉?」

私の異変に冬夜君がやっと気がついた。

「このままサッカー辞めちゃっていいの?」

すると冬夜君は笑って答えた。

「良いに決まってるだろ?どうしたんだ愛莉?」
「私……冬夜君の全てを受け止めるって言ったよ。本当のこと話してよ」
「だから本当の事言ってるだろ!」

だんだん冬夜君の語調が強くなっていく。
その時神奈が上がってきた。

「どうしたんだ、朝から痴話げんかなんで珍しい」

私は神奈に泣きついていた

「冬夜君が……!!」
「冬夜、何やったんだよお前」
「愛莉に聞けよ!」

その怒声に私はびくっとする。
あれだけ全部受け止めるって言ってるのに冬夜君は自分の本心を話してくれない。

「夜中にこっそりDVD見ておいて、サッカーする気が無いなんて信じられないよ!したければすればいいじゃない……!」

私はついていくよ。

その一言を言うのを忘れてた。
それが間違いだったのかはわからないけど。

「……愛莉なら分かってくれると思ってた。やりたくもない事を才能だけでやれと押し付けられる人の気持ちが愛莉なら分かってくれると思ってた」

本当にやりたくなかったの?

「凄いプレーヤーだったから、好きだから見たかった。それだけでやりたいってことになるのかよ!」

冬夜君だって凄いプレーヤーの一人だよ?

「……同じ舞台に立てるのに立とうとしないなんてそんなの……あっ」

しまった!
言って後悔した。
神様やり直しさせてください。
もう言わないから。

「……話は大体分かったからとりあえずトーヤは飯食って準備しろよ。遅刻しちまう」
「わかった」

そう言って冬夜君は私の横をすり抜けて下に降りる。
冬夜君が下に降りたのを確認すると神奈が私に言う。

「愛莉、今のは愛莉が悪いぞ。冬夜だって色々悩んでるんだよ。その上での選択だったんだろ?今まで散々受け入れるって言っておいて今更冬夜の判断を否定するのはどうかと思うぞ」
「……だって昨日……」

私は神奈に昨夜のことを離した。

「そんな事がねえ……でも冬夜は断ったんだろ?」
「でもDVD見てる時の目が輝いてた。あれで心変わりしたんじゃないかって」
「まあ、秤にはかけただろうな。でも愛莉を選んだんだろ?それでいいじゃないか。愛莉だって有名大学行けるんだから行けよって言われたら嫌だろ?」
「……うん。……ちゃんと謝れるかな?」
「かな?じゃないだろ。謝るんだよ。修正が利くうちに」
「わかった」



その日夕方また冬夜君の家に行った。
学校にいる間は大変だったようだ。
職員室に呼び出されたり、急増したファンに対応したリ。
凄く困ってるようだったけど。
助けてあげたかったけど、朝の事が過って話しかけづらかった。

今夜謝ろう

そう思って冬夜君の家に行くと知らない車が止まっている。
またお客さんかな?
嫌な予感がする。
呼び鈴を押す。
麻耶さんが出た。

「ごめんね、今お客さんが来てて……」
「愛莉が来たんだろ!!入ってもらえよ」

冬夜君の声が奥から聞こえる。

「……じゃあ、上がって」

麻耶さんにリビングに案内されると冬夜君と冬夜君のパパさん。それに外人ぽい人とその通訳の人がいた。
また、スカウトか何か?
昼間もたしか地元JリーグチームのU-18の人が学校に来てるって言ってた。
外人ぽい人が何かしゃべってる。
この響きからしてイタリア語かな?
冬夜君はぼーっと立ってる私を見て言った。

「ぼーっと立ってないでこっちに座れよ」

冬夜君が隣を空けると私はそこに座った。

「この人達イタリアのプリマヴェーラのスカウトさん」

イタリア!?プリマヴェーラって何!?
流石にイタリアにはいけないよ!
いけない泣きそうになる。
行っちゃやだって叫びそうになるのを必死に堪える。
そんな私を冬夜君は全然見てない。
怒ってるの?
行っちゃうの?
そんな私の訴える目を冬夜君は全く見ずに話をしだした。
私の肩を抱き寄せ笑いながら話す。

「この娘がさっき話してた愛莉です。すぐ拗ねたりするけど放っておけないんです。彼女を置き去りにしてイタリアに行くなんて無理です」

どうせすぐ拗ねますよーだ。
今だって拗ねちゃうんだから。

「君は本気で言ってるのか?彼女の為に輝ける将来を棒に振るというのか?」

通訳の人が必死になってる。

「輝ける将来なんてどんなものか分からないけど、少なくとも僕にとって今輝ける将来は愛莉とのキャンパスライフだから」

外人の人が頭を振る。
諦めてくれたのだろうか?

「非常にもったいないが、それが君の選択なら仕方ない。諦めるよ……。でももし気が変わったらここに連絡してくれ」

そう言って一枚の名刺を渡す。
ちらりと名刺を見る。
え?これって有名チームじゃない?
サッカー音痴の私でも知ってるよ!
口をパクパクさせる私。
そんな私を冬夜君は見てない。

「多分ないです」

にこにこ笑って答える冬夜君。

「心変わりしてくれることを願っているよ……では」

そう言って二人は帰って行った。


(3)

スカウトの人達が帰った後、僕と愛莉は部屋に戻った。
唖然としている愛莉。
どうしたんだろう?
あ、DVDしまっておかないとな。
またトラブルのもとになる。
……そうだな。朝の事謝らないとな。
僕も言い過ぎたかもしれない。

「愛莉あの……」
「冬夜君あのね……」

何でこういう時息が合うんだろ?
僕が思わず笑ってしまうと愛莉もようやく笑ってくれた。

「僕から言ってもいいかな?」
「どうぞ」

頭を下げて両手を差し出す愛莉。
頭を下げるのは僕の方なのに。

「朝はごめん!ついかッとなってあんなこと言ってしまって。また愛莉に負担かけたかもしれない!」
「負担だなんてそんな……私の方こそ自分の気持ちばっかりぶつけて冬夜君の気持ち無視してた。ごめんなさい」
「でも……」

僕がいいかけたところで愛莉は人差し指を僕の唇にあてる。

「その話はもうお終い。お互い悪い所あった。それでいいじゃない」
「……わかった。で、愛莉の話ってなんだ?」
「……さっきお終いって言ったからもう言えないよ」

それじゃ、気になるじゃないか?

「愛莉の主張、しっかり聞いておきたい。今度はしっかり受け止めるから」
「じゃあ、言うよ?準備はいい?」
「ああ、いつでもどうぞ」

愛莉は突然僕に抱き着く。

「イタリアなんて行かないで!!ずっとそばにいて!」

は?
何を言ってるんだこの娘は?

「それならさっき断ったばかりじゃないか?」
「イタリアもイギリスもスペインもドイツもブラジルも全部だめ!!」
「……行かないよ」

僕は優しく愛莉を抱き返す。

「ちゃんと話するね。サッカーに興味が全くないわけじゃない。だから凄いなあと4人の選手の姿を追ってた。でも自分がああなろうとは思わない」
「だからそれなら、冬夜君はすでにあのレベルにいるって……」
「正確には同じ舞台に立ちたいって思えないってことかな?少なからずあの人たちにはサッカーに情熱持ってるんだろ?僕にはない。そんな僕がおなじフィールドに立つなんて失礼だろ?」
「うぅ、さっき言ったばかりなのにごめん。冬夜君DVD見たとき目が輝いてた。情熱が無いっていう風には見えない」
「情熱で言うなら今は愛莉に向ける愛情の方が強いよ」

自分で言ってて恥ずかしい。
勉強と愛莉は愛莉が一緒だから両立できてるけど、サッカーと愛莉は愛莉を置き去りにしてしまう。
その間に愛莉攫われちゃうんじゃないかと思うととてもじゃないけどサッカーという選択肢はないかもしれない。
その事を言うと愛莉また不安にさせちゃうから言わないけど。
そんなに顔つきが変わってたのかな?DVD見てる時。

「なあ愛莉?愛莉が不安ならあのDVD割ってしまおうか?」
「え?」
「あのDVDが愛莉の不安の原因のような気がして」
「うーん……大丈夫だよ」

本当か?
まだ無理に笑顔を作ってるように見えるのは気のせいか?
僕はゲーム機からDVDを取り出すと膝でパキッと割る。

「ちょっと!!」

慌てふためく愛莉をよそに僕はもう一枚のDVDも割っていた。

「これで心配の種はなくなったろ?」

そう言ってにこりと笑う。

「ごめんね、私がいなかったら冬夜君サッカーに打ち込めたのに」
「それは言わない約束だろ?愛莉の『僕のお嫁さんになる』って夢につきあってるんだから僕の我儘も受け入れてよ」
「……わかった」

本当に分かってくれたようだ。
嬉し泣きなのかどうかわからないけどすすり泣いている。
そっと肩を抱いてやる。
すると張り詰めていたものが一気に弾けたのか僕に抱き着き号泣する。
ちょっと待て。
この状況でそんな大声で泣かれると僕がまた何かやらかしたようじゃないか。
必死で愛莉をなだめる。

「ま、まあこの件はこれでお終いってことで……勉強しようか?」
「うん……」

これからも傷つけあう日もあるだろうけど。
そばにいたいと思う限り。
まだ知らない未来へつながっていくだろう。
まだまだこれから先は長いのだから?
愛莉も僕も互いに信じあう心忘れないようにいたい。
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