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2ndSEASON
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(1)
とんとんとん……ぐつぐつ。
愛莉が、朝食の準備をしている。
微かにみそ汁の匂いが漂ってる。
愛莉は和食派か?
僕は、愛莉にそ~っと近づき後ろから抱きしめる。
「きゃっ」
と小さな悲鳴をあげ、驚いて振り向く愛莉。
「もう、おはよう。ダ~リン♡」
「おはよう愛莉。」
「もう朝からダメだよ~」
「良いじゃないか。今日はクリスマスイブだよ」
「……イブは夜から始まるって言ってたじゃない~」
「イブじゃなくてもいちゃついていいだろ?」
「それは嬉しいんだけど……」
「だけど?」
「いい加減に起きてくれなきゃやだ~」
愛莉はにこりと笑って僕の手に包丁を……えっ?
起きてるだろ……?
「寝ぼけるのもいい加減にしろ!!」
カンナに頭をどつかれて目が覚めた。
「あ、目が覚めたみたい」
どうやら夢を見ていたみたいだ。
気がつくと愛莉を後ろから抱きしめてる僕。
愛莉とカンナは二人で勉強を始めていた。
「どんな夢を見ていたの?」
愛莉は笑顔で僕に聞いてきた。
「……愛莉に手を包丁で刺される夢」
「なにそれ?」
愛莉は訝しげに僕の顔を見る。
ああ、適当に濁したかったんだけど……。
僕は夢の話を始めた。
「う~ん、それが冬夜君の夢なんだ!」
言うと思ったよ。
「朝から幸せなこって」
カンナは実際してるんだろ?
「冬夜君はダーリン派なんだね!分かった!!」
まあ、大人になってからも「冬夜君」はどうかと思うけど。
ダーリンは無いと思うぞ……。
「……てなわけで、飯食ってくる」
ご飯を食べて顔洗ったりして戻ってくると二人は勉強を再開してた。
よく見ると、愛莉の荷物がやけに多い。
ああ、そういうことなんだな。
そうだよな。
今日はクリスマスイブだしな。
服装も気合入ってる。
あ、そういや約束してたんだっけ?
あとで着替えないとな。
「おい、トーヤ」
今日は、ちゃんと計画練ってますよ。
いつもと同じじゃつまんないだろうし、調べてきましたよ。
イルミも良いけどたまには……ね。
ちょっと遠いけど。
でも泊まるんだから何時に帰っても同じだよね。
「こういうとときはこうやるんだよ……」
あ、また入ってたかな。
愛莉に泣かれちゃうかな。
いい加減に出てこようかな。
「ふむふむ……なるほど今夜の事を考えてくれてたんだね。嬉しいな」
え?
暖かい感触にどきっとして現実に引き戻された。
愛莉が腰に腕を回して、顔を僕の胸にうずめて、目を閉じている。
「何してるの?」
愛莉は僕を見上げると言った。
「冬夜君の心を聞いたら、冬夜君と同じ世界に入れるかなって」
ああ、そういうやり方をしていたわけね。
愛莉なりに色々考えてるんだな。
痛い方向に向かわないだけ助かってるけど。
でもその方法で僕の心が読めるなら、別に心臓の鼓動を聞かなくても入ってこれるんじゃないか?
ある意味痛いぞ。
「お前たちの世界がわかんねぇ……」
呆れるカンナ。
「ねえ!冬夜君、私たちの世界だって!!私も同じ世界に入って行けたのかな!?」
ある意味入ってきたな。
(2)
昼になるとカンナは「バイトがあるから」と帰って行った。
それから僕は着替える。
「あ、約束覚えていてくれたんだね!」
覚えているさ。
白のロング丈Tシャツに赤いクルーネックニット、ボトムスは黒スキニーパンツ。紺のチェスターコートも準備済み。
全部愛莉に選んでもらったものだ。
靴も買ってもらった黒のポストマンシューズを準備してある。
黒のスヌードを巻き、コートを着ると愛莉に「行こうか」と言う。
ミモレ丈のフレアスカート、白いハイネックのトップス。黒い帽子をかぶってコートを着ている。
色の合わせ方が大人っぽい感じを漂わせている。
今日は自転車で行くわけではないのでパンプスを履いてきたようだ。
バスで駅まで行ってそこから別府駅まで電車でいく。
電車は早くも混んでいた。
これでも早く出たつもりなんだけどな。
地元ではめったに見られない混雑した風景。
まあ、東京で味わったものに比べたら大したことないけどね。
愛莉を席に着かせ僕は愛莉の前に立つ。
片手はつり革を、もう片手は愛莉と手をつなぐ。
別府駅までは3駅。
ちょっとした時間だ。
席は出口の側をキープした。
駅に着くと愛莉と手を繋ぎながら愛莉の側に立って人ごみから守る。
そこまでは、良かった。
誤算だったのは夕食だ。
「すいません、只今予約で満杯になってまして……」
「今大変混雑していて1時間待ちで……」
しまった、予約してなかった。
食い物屋とか一杯あるから予約しなくてもいいだろ。
と、高をくくっていたのが失敗だった。
流石にクリスマスにラーメン屋さんに連れていったら怒るだろう。
かといって、1時間も待たせるのもどうかと思う。
こういう時にスマートに出来ないのが僕だ。
必死にスマホで店を探しながら歩き回る。
「ねえ、冬夜君……ちょっと休も?」
愛莉の一言で愛莉が足が辛そうにしていることに気づく。
大通りのベンチに腰掛けて休む。
悪いことは連鎖するものだ。
穴埋めしようとするとまた違うところに穴ができる。
休んでる時間も入れたら、もう席順待ちする時間すら無くなってしまった。
結局……。
花火を見る場所確保することを優先した。
ファストフード店で食べ物を買って場所取りをしながら食事をする。
情けない。
慣れないことをするんじゃなかった。
後悔してる。
「こんな事するんじゃなかったって思ってる?」
愛莉が肩を抱く。
愛莉の方を見ると愛莉はにこりと笑った。
「当たってた~。最近冬夜君の世界がわかるようになってきた~」
こんな事分かられたって嬉しくないぞ……。
「こんな事とか思わないで、冬夜君と世界を共有できるようになった。それは私だけって事が大事なんだから」
「ごめんな……こんなはずじゃなかったんだ……」
「花火もうすぐ始まるよ?」
打ち上げ花火が上がりだす。
パッと花火が夜に咲く。
夜に咲いて静かに消える。
「綺麗だね」
「ああ……」
「ちゃんと見ていてね。花火」
「うん」
花火が終わる前に人がぞろぞろと歩き出す。
渋滞を避けるためだろう。
僕たちには関係ない。
最後まで見ていた。
終わると立ち上がる愛莉の手を取る。
「足大丈夫?」
「大丈夫だよ」
僕とは対照的にどこまでも明るい愛莉。
僕に気を使っているつもりなのか?
駅への帰り道。
「綺麗だったね~」
「うん」
「イルミもいいけど花火もいいね~」
「そうだね」
「また来年も来ようね!」
「そうだな」
「……冬夜君!」
愛莉が立ち止まった。
いよいよ怒ったかな?
「どうした?」
愛莉は両手を交差してバツ印を作る。
「約束したよね!?自虐的にならないでって!」
「ああ……ごめん」
「ごめんじゃ許されませんね~。約束覚えてる?」
「覚えてる」
でもそんな気分じゃないんだ。
「気分じゃなくても言うの!約束なんだから!」
愛莉の勘は良く冴えわたっているようで。
「私今日冬夜君の気持ちに近づけたことが嬉しい、でもこんな気持ちを共有しても嬉しくない。嬉しかったよ、花火デート。別にディナーを楽しめなくてもいい。言いたい事わかる?私はいつも冬夜君の側にいるよ。今でも思い続けてる。冬夜君も私の事思い続けた結果でしょ。それは嬉しい!だから……」
だから?
「心配しなくていいんだよ」
愛莉はそう言って笑ってる。
「わかったよ。……愛してる」
「はい」
「愛してる……」
10回言い終えると愛莉は抱き着いていた。
「よくできました!じゃ、帰ろう?」
そう言って愛莉は歩き出す。
(3)
家に帰る途中にシャンメリーだけ買って帰った。
愛莉が「ケーキはいいから!」と言ったから。
そして僕の家の前で
「ちょっと用意するものがあるから!」
と、自分の家に帰った。
「お帰り~あら?一人?」
と、母さんが言った。
「愛莉は何か用があるらしくて」
「酷く落ち込んでるわね、何かあったの?」
「いや、慣れないことはするもんじゃないなって……」
「愛莉ちゃんと何かあったの?」
「いや、別に……」
「そう、ならいいけど……」
ピンポーン。
「あら?愛莉ちゃんかしら?」
母さんが玄関に行く。
「こんばんは~」
「愛莉ちゃんいらっしゃい。何かあったの?冬夜ひどく落ち込んでるみたいで」
「多分大丈夫です。私から言っておきますから」
そう言うと愛莉はダイニングにいる、僕のところに大きな箱を持ってきた。
それをテーブルに置くと箱を開ける。
「じゃじゃ~ん!!」
それはケーキだった。
「私の手作りだよ~!」
美味しそうだ。
「早速食べよ!」
愛莉の励まそうとする気持ちが痛い。
それでもケーキ食べなきゃな。
あ、結構おいしい。
「どう?」
「美味しいよ」
「良かった~♪」
愛莉は喜んでいる。
「あら?本当に美味しいわ、ねえ。父さん」
「うん、流石愛莉ちゃんだな」
両親も驚いている。
「こんなに本格的なの作ったの初めてだから。ドキドキだったんですよ~」
と、愛莉。
ケーキも食べ終わったところで、部屋に戻ろうとすると「お風呂入っていきなさい」と母さんが言う。
「わかった」
「じゃあ、私も入る~」
なに言ってるんだこの娘は。
そんなの母さんが許すわけが。
「ごめんね、うちのお風呂狭くて」
なんか理由が突っ込みどころあるけど、とりあえず拒否された。
しかし愛莉は構わず続ける。
「交互に入るから平気ですよ~」
いや、そういう問題じゃないだろ。
「じゃあ、時間も遅いしまとめて入っちゃいなさいな」
いやダメだろ!
「何を慌ててるんだ、前に一度入ってるだろ?」
父さんまで……。
「背中流してあげるね」
結局一緒に入ってた。
背中を流してもらう。
その時背中に少し大きくなったソレが当たる。
「また落ち込んでたみたいだね」
「今でも落ち込んでるよ」
「じゃあ、罰ゲームだね!」
一回だけじゃなかったのか?
「回数決めた覚えはないよ?」
教えてくれ、あと何回愛を叫べばいい?
「分かったよ。愛してる……」
「ブブーッ!感情が籠ってない!」
なんかさっきより条件増えてないか?
「愛してるよ……」
言ってるうちに本当に愛おしくなってきた。
「……気分晴れた?」
あ!……
「私も愛してるよ~」
愛莉、ここは風呂場だ。声が響く、そんなに大声を出したら……。
「……仲睦まじいことで」
母さんの一言がぐさりと刺さる。
「はい」
部屋で愛莉にプレゼントを渡した。
すると愛莉も鞄から箱を取り出し僕に渡す。
「私からも」
二人で同時に箱を開ける。
同じものだった。手袋。
二人して「今年もかよ」と笑う。
「……やっと笑ってくれたね」
愛莉が言う。
「そうだな……」
「それでいいんだよ。冬夜君の笑顔が私を満たしてくれる。それ以上のご馳走なんてないよ」
「うん……ごめんな」
「そうじゃないでしょ?」
愛莉と目が合う。
あ、世界に入ったっぽい。
周りの時間が止まったような状態。
違うのは愛莉がいる事。
「愛しています」
愛莉の目がそう訴えてるように見えた。
「愛してるよ」
僕もそう訴える。
そうして二人のシルエットが重なろうとしたとき。
ピロリーン
スマホの音で一気に現実に戻された。
こんな時間に誰だ。
スマホを見るとカンナからだった。
「Merry Christmas。明日10時に駅前集合なby渡辺」
また勝手に……。
隣にいた愛莉にスマホの画面を見せる。
愛莉も困った顔をしていたが……。
「まあ、今夜仲良くできるしいっか!」
と、愛莉は言う。
「さて、と。じゃああまり夜更かしも出来ないし……」
と、おもむろに服を脱ぎだす愛莉。
せめて部屋の照明暗くしてからにしてくれ。
照明を切り替えると愛莉が「さっき全部見たくせに」と笑いながら言う。
全く恥じらいが無いのも男としてはどうかと思うぞ。
そう思いながら僕も服を脱ごうとすると。
「冬夜君はダメ!早くベッドの中に!」
「?」
よくわからないけどベッドの中に入る。
愛莉もその後に入ってくる。
「一度やってみたかったんだよね」
そう言うと僕の服を脱がしていく。
「¢£%#&□△◆■!?」
僕の性感帯に思いっきりキスする愛莉。
「やっぱりここが急所でしたか~」
そう言う愛莉の顔が一々可愛いから困る。
「神奈に聞いたんだよね?男子はここが弱い!って」
その情報をまたカンナと共有する気だね。うん。
別にいいけどさ。
「冬夜君……。ありがとうね」
何に対して感謝されてるのか分かんないけど、とりあえず「うん」と答えた。
伝えたい気持ちをうまく伝えられない。
「何気ない一時が今は恋しいの……」
愛莉が一言漏らす。
「心配しないで、この気持ち変わらないから、言いたい事わかるよね。アナタの事待ってる」
愛莉は僕の気持ちを理解してくれてる。
僕も愛莉の気持ちを理解できるように……。
こつん。
愛莉が僕をこづいた。
「理解出来たでしょ?さっき同じ世界に入ってた」
あ……。
お互いがお互いの事を想えばいつでもあの世界に入れるのかな。
「とりあえず今は……こっちに気持ちを入れて」
そうだった……。
まだ夜の作業が残ってるんだった。
とんとんとん……ぐつぐつ。
愛莉が、朝食の準備をしている。
微かにみそ汁の匂いが漂ってる。
愛莉は和食派か?
僕は、愛莉にそ~っと近づき後ろから抱きしめる。
「きゃっ」
と小さな悲鳴をあげ、驚いて振り向く愛莉。
「もう、おはよう。ダ~リン♡」
「おはよう愛莉。」
「もう朝からダメだよ~」
「良いじゃないか。今日はクリスマスイブだよ」
「……イブは夜から始まるって言ってたじゃない~」
「イブじゃなくてもいちゃついていいだろ?」
「それは嬉しいんだけど……」
「だけど?」
「いい加減に起きてくれなきゃやだ~」
愛莉はにこりと笑って僕の手に包丁を……えっ?
起きてるだろ……?
「寝ぼけるのもいい加減にしろ!!」
カンナに頭をどつかれて目が覚めた。
「あ、目が覚めたみたい」
どうやら夢を見ていたみたいだ。
気がつくと愛莉を後ろから抱きしめてる僕。
愛莉とカンナは二人で勉強を始めていた。
「どんな夢を見ていたの?」
愛莉は笑顔で僕に聞いてきた。
「……愛莉に手を包丁で刺される夢」
「なにそれ?」
愛莉は訝しげに僕の顔を見る。
ああ、適当に濁したかったんだけど……。
僕は夢の話を始めた。
「う~ん、それが冬夜君の夢なんだ!」
言うと思ったよ。
「朝から幸せなこって」
カンナは実際してるんだろ?
「冬夜君はダーリン派なんだね!分かった!!」
まあ、大人になってからも「冬夜君」はどうかと思うけど。
ダーリンは無いと思うぞ……。
「……てなわけで、飯食ってくる」
ご飯を食べて顔洗ったりして戻ってくると二人は勉強を再開してた。
よく見ると、愛莉の荷物がやけに多い。
ああ、そういうことなんだな。
そうだよな。
今日はクリスマスイブだしな。
服装も気合入ってる。
あ、そういや約束してたんだっけ?
あとで着替えないとな。
「おい、トーヤ」
今日は、ちゃんと計画練ってますよ。
いつもと同じじゃつまんないだろうし、調べてきましたよ。
イルミも良いけどたまには……ね。
ちょっと遠いけど。
でも泊まるんだから何時に帰っても同じだよね。
「こういうとときはこうやるんだよ……」
あ、また入ってたかな。
愛莉に泣かれちゃうかな。
いい加減に出てこようかな。
「ふむふむ……なるほど今夜の事を考えてくれてたんだね。嬉しいな」
え?
暖かい感触にどきっとして現実に引き戻された。
愛莉が腰に腕を回して、顔を僕の胸にうずめて、目を閉じている。
「何してるの?」
愛莉は僕を見上げると言った。
「冬夜君の心を聞いたら、冬夜君と同じ世界に入れるかなって」
ああ、そういうやり方をしていたわけね。
愛莉なりに色々考えてるんだな。
痛い方向に向かわないだけ助かってるけど。
でもその方法で僕の心が読めるなら、別に心臓の鼓動を聞かなくても入ってこれるんじゃないか?
ある意味痛いぞ。
「お前たちの世界がわかんねぇ……」
呆れるカンナ。
「ねえ!冬夜君、私たちの世界だって!!私も同じ世界に入って行けたのかな!?」
ある意味入ってきたな。
(2)
昼になるとカンナは「バイトがあるから」と帰って行った。
それから僕は着替える。
「あ、約束覚えていてくれたんだね!」
覚えているさ。
白のロング丈Tシャツに赤いクルーネックニット、ボトムスは黒スキニーパンツ。紺のチェスターコートも準備済み。
全部愛莉に選んでもらったものだ。
靴も買ってもらった黒のポストマンシューズを準備してある。
黒のスヌードを巻き、コートを着ると愛莉に「行こうか」と言う。
ミモレ丈のフレアスカート、白いハイネックのトップス。黒い帽子をかぶってコートを着ている。
色の合わせ方が大人っぽい感じを漂わせている。
今日は自転車で行くわけではないのでパンプスを履いてきたようだ。
バスで駅まで行ってそこから別府駅まで電車でいく。
電車は早くも混んでいた。
これでも早く出たつもりなんだけどな。
地元ではめったに見られない混雑した風景。
まあ、東京で味わったものに比べたら大したことないけどね。
愛莉を席に着かせ僕は愛莉の前に立つ。
片手はつり革を、もう片手は愛莉と手をつなぐ。
別府駅までは3駅。
ちょっとした時間だ。
席は出口の側をキープした。
駅に着くと愛莉と手を繋ぎながら愛莉の側に立って人ごみから守る。
そこまでは、良かった。
誤算だったのは夕食だ。
「すいません、只今予約で満杯になってまして……」
「今大変混雑していて1時間待ちで……」
しまった、予約してなかった。
食い物屋とか一杯あるから予約しなくてもいいだろ。
と、高をくくっていたのが失敗だった。
流石にクリスマスにラーメン屋さんに連れていったら怒るだろう。
かといって、1時間も待たせるのもどうかと思う。
こういう時にスマートに出来ないのが僕だ。
必死にスマホで店を探しながら歩き回る。
「ねえ、冬夜君……ちょっと休も?」
愛莉の一言で愛莉が足が辛そうにしていることに気づく。
大通りのベンチに腰掛けて休む。
悪いことは連鎖するものだ。
穴埋めしようとするとまた違うところに穴ができる。
休んでる時間も入れたら、もう席順待ちする時間すら無くなってしまった。
結局……。
花火を見る場所確保することを優先した。
ファストフード店で食べ物を買って場所取りをしながら食事をする。
情けない。
慣れないことをするんじゃなかった。
後悔してる。
「こんな事するんじゃなかったって思ってる?」
愛莉が肩を抱く。
愛莉の方を見ると愛莉はにこりと笑った。
「当たってた~。最近冬夜君の世界がわかるようになってきた~」
こんな事分かられたって嬉しくないぞ……。
「こんな事とか思わないで、冬夜君と世界を共有できるようになった。それは私だけって事が大事なんだから」
「ごめんな……こんなはずじゃなかったんだ……」
「花火もうすぐ始まるよ?」
打ち上げ花火が上がりだす。
パッと花火が夜に咲く。
夜に咲いて静かに消える。
「綺麗だね」
「ああ……」
「ちゃんと見ていてね。花火」
「うん」
花火が終わる前に人がぞろぞろと歩き出す。
渋滞を避けるためだろう。
僕たちには関係ない。
最後まで見ていた。
終わると立ち上がる愛莉の手を取る。
「足大丈夫?」
「大丈夫だよ」
僕とは対照的にどこまでも明るい愛莉。
僕に気を使っているつもりなのか?
駅への帰り道。
「綺麗だったね~」
「うん」
「イルミもいいけど花火もいいね~」
「そうだね」
「また来年も来ようね!」
「そうだな」
「……冬夜君!」
愛莉が立ち止まった。
いよいよ怒ったかな?
「どうした?」
愛莉は両手を交差してバツ印を作る。
「約束したよね!?自虐的にならないでって!」
「ああ……ごめん」
「ごめんじゃ許されませんね~。約束覚えてる?」
「覚えてる」
でもそんな気分じゃないんだ。
「気分じゃなくても言うの!約束なんだから!」
愛莉の勘は良く冴えわたっているようで。
「私今日冬夜君の気持ちに近づけたことが嬉しい、でもこんな気持ちを共有しても嬉しくない。嬉しかったよ、花火デート。別にディナーを楽しめなくてもいい。言いたい事わかる?私はいつも冬夜君の側にいるよ。今でも思い続けてる。冬夜君も私の事思い続けた結果でしょ。それは嬉しい!だから……」
だから?
「心配しなくていいんだよ」
愛莉はそう言って笑ってる。
「わかったよ。……愛してる」
「はい」
「愛してる……」
10回言い終えると愛莉は抱き着いていた。
「よくできました!じゃ、帰ろう?」
そう言って愛莉は歩き出す。
(3)
家に帰る途中にシャンメリーだけ買って帰った。
愛莉が「ケーキはいいから!」と言ったから。
そして僕の家の前で
「ちょっと用意するものがあるから!」
と、自分の家に帰った。
「お帰り~あら?一人?」
と、母さんが言った。
「愛莉は何か用があるらしくて」
「酷く落ち込んでるわね、何かあったの?」
「いや、慣れないことはするもんじゃないなって……」
「愛莉ちゃんと何かあったの?」
「いや、別に……」
「そう、ならいいけど……」
ピンポーン。
「あら?愛莉ちゃんかしら?」
母さんが玄関に行く。
「こんばんは~」
「愛莉ちゃんいらっしゃい。何かあったの?冬夜ひどく落ち込んでるみたいで」
「多分大丈夫です。私から言っておきますから」
そう言うと愛莉はダイニングにいる、僕のところに大きな箱を持ってきた。
それをテーブルに置くと箱を開ける。
「じゃじゃ~ん!!」
それはケーキだった。
「私の手作りだよ~!」
美味しそうだ。
「早速食べよ!」
愛莉の励まそうとする気持ちが痛い。
それでもケーキ食べなきゃな。
あ、結構おいしい。
「どう?」
「美味しいよ」
「良かった~♪」
愛莉は喜んでいる。
「あら?本当に美味しいわ、ねえ。父さん」
「うん、流石愛莉ちゃんだな」
両親も驚いている。
「こんなに本格的なの作ったの初めてだから。ドキドキだったんですよ~」
と、愛莉。
ケーキも食べ終わったところで、部屋に戻ろうとすると「お風呂入っていきなさい」と母さんが言う。
「わかった」
「じゃあ、私も入る~」
なに言ってるんだこの娘は。
そんなの母さんが許すわけが。
「ごめんね、うちのお風呂狭くて」
なんか理由が突っ込みどころあるけど、とりあえず拒否された。
しかし愛莉は構わず続ける。
「交互に入るから平気ですよ~」
いや、そういう問題じゃないだろ。
「じゃあ、時間も遅いしまとめて入っちゃいなさいな」
いやダメだろ!
「何を慌ててるんだ、前に一度入ってるだろ?」
父さんまで……。
「背中流してあげるね」
結局一緒に入ってた。
背中を流してもらう。
その時背中に少し大きくなったソレが当たる。
「また落ち込んでたみたいだね」
「今でも落ち込んでるよ」
「じゃあ、罰ゲームだね!」
一回だけじゃなかったのか?
「回数決めた覚えはないよ?」
教えてくれ、あと何回愛を叫べばいい?
「分かったよ。愛してる……」
「ブブーッ!感情が籠ってない!」
なんかさっきより条件増えてないか?
「愛してるよ……」
言ってるうちに本当に愛おしくなってきた。
「……気分晴れた?」
あ!……
「私も愛してるよ~」
愛莉、ここは風呂場だ。声が響く、そんなに大声を出したら……。
「……仲睦まじいことで」
母さんの一言がぐさりと刺さる。
「はい」
部屋で愛莉にプレゼントを渡した。
すると愛莉も鞄から箱を取り出し僕に渡す。
「私からも」
二人で同時に箱を開ける。
同じものだった。手袋。
二人して「今年もかよ」と笑う。
「……やっと笑ってくれたね」
愛莉が言う。
「そうだな……」
「それでいいんだよ。冬夜君の笑顔が私を満たしてくれる。それ以上のご馳走なんてないよ」
「うん……ごめんな」
「そうじゃないでしょ?」
愛莉と目が合う。
あ、世界に入ったっぽい。
周りの時間が止まったような状態。
違うのは愛莉がいる事。
「愛しています」
愛莉の目がそう訴えてるように見えた。
「愛してるよ」
僕もそう訴える。
そうして二人のシルエットが重なろうとしたとき。
ピロリーン
スマホの音で一気に現実に戻された。
こんな時間に誰だ。
スマホを見るとカンナからだった。
「Merry Christmas。明日10時に駅前集合なby渡辺」
また勝手に……。
隣にいた愛莉にスマホの画面を見せる。
愛莉も困った顔をしていたが……。
「まあ、今夜仲良くできるしいっか!」
と、愛莉は言う。
「さて、と。じゃああまり夜更かしも出来ないし……」
と、おもむろに服を脱ぎだす愛莉。
せめて部屋の照明暗くしてからにしてくれ。
照明を切り替えると愛莉が「さっき全部見たくせに」と笑いながら言う。
全く恥じらいが無いのも男としてはどうかと思うぞ。
そう思いながら僕も服を脱ごうとすると。
「冬夜君はダメ!早くベッドの中に!」
「?」
よくわからないけどベッドの中に入る。
愛莉もその後に入ってくる。
「一度やってみたかったんだよね」
そう言うと僕の服を脱がしていく。
「¢£%#&□△◆■!?」
僕の性感帯に思いっきりキスする愛莉。
「やっぱりここが急所でしたか~」
そう言う愛莉の顔が一々可愛いから困る。
「神奈に聞いたんだよね?男子はここが弱い!って」
その情報をまたカンナと共有する気だね。うん。
別にいいけどさ。
「冬夜君……。ありがとうね」
何に対して感謝されてるのか分かんないけど、とりあえず「うん」と答えた。
伝えたい気持ちをうまく伝えられない。
「何気ない一時が今は恋しいの……」
愛莉が一言漏らす。
「心配しないで、この気持ち変わらないから、言いたい事わかるよね。アナタの事待ってる」
愛莉は僕の気持ちを理解してくれてる。
僕も愛莉の気持ちを理解できるように……。
こつん。
愛莉が僕をこづいた。
「理解出来たでしょ?さっき同じ世界に入ってた」
あ……。
お互いがお互いの事を想えばいつでもあの世界に入れるのかな。
「とりあえず今は……こっちに気持ちを入れて」
そうだった……。
まだ夜の作業が残ってるんだった。
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