優等生と劣等生

和希

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3rdSEASON

雷鳥VS蒼い閃光

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(1)

「おはよう冬夜君、ご飯できたよ」

ご飯の一言に反応する僕。

「今日はね、ご飯食にしてみました」
「へ?」
「時間あるし、片桐家のお味噌汁の味知りたかったから」

なるほどね。でも2限からなのに7時起きは早すぎないか?

「早めに起きて復習しておかないと、課題もぱぱっとすませちゃおうよ」
「……写させて」
「ううん、今回は仕方ないか」

朝食を食べて準備をして出る時間まで勉強をする二人。
10時に出れば余裕で間に合う。
大学生活って楽だと思ってたけど、夏休みと春休みが長いくらいしかメリットはない。
あとはレポート書いたり、プレゼンテーション用の資料作ったり、宿題がみっちりでたり。小テストが重なる時間は地獄だ……。期末テストを考えると恐ろしく思える。それもこれも履修科目を最大限迄持っていったことに起因するんだけど。それは敢えて言わない、愛莉が気にするから。
罪滅ぼしにと思ったのか大学に入って愛莉は時々宿題を写させてくれたりしてる。もちろん解説付きで。同じ科目を履修してるのでそれは容易だった。
そのおかげもあって、今のところ順調にはすすんでる、何とかだけど。


そろそろ家を出る時間だ。

「行ってきます」

そう言って愛莉の軽4で学校を目指す。

いくら地獄の交差点とはいえこの時間に渋滞はない。
余裕をもって大学の教育学部の棟までつく。
事務室前の掲示板で教室を確認して、教室に移動する。
教室につくと荷物を置いて席を立つ。

「冬夜君?」

愛莉が袖を引っ張る。

ひとりにしないで。

そう訴えてる目だ。
でもね愛莉、男にも生理現象ってあるんだ。

「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」

ついでに飲み物飲んでくる。と心の中で付け足して僕は講義室をでた。

(2)

冬夜君がトイレに行った。
普通の事なんだけど、一人になるのは不安になる。
また変な人が言い寄ってこないか?とか。
高校の時はカンナがいたけど今はいない。

「遠坂さん?」

ほら、女性が声をかけてきた。
え?女性。
声のした方に振り返った。

「はじめまして、私大島花菜。よろしく」
「はじめまして……それで何の御用でしょうか?」

合コンのお誘いとかだったらお断りだよ?

「いや、いつも彼氏さんと一緒だったから話しかけづらくてさ、良かったら友達になってくれない?」
「合コンのお誘いとかだったらお断りだよ?」
「そんなんじゃないって、ただおしゃべり仲間が欲しかっただけ。何の他意もないから」
「それならまあ」
「じゃあ、メッセージのID交換しよっ!」

スマホをフルフルしてIDを交換する。
その後彼女の話を聞いている。
冬夜君まだ来ないのかな?

「へえ、あの辺に住んでるんだ。近くていいね。私なんてもっと田舎からだから1限目からの時とか地獄だよ」
「そうなんだ」
「愛莉の家の近所の山に出る『青い閃光』の噂知ってる?」
「青い閃光?」
「うん、夜にあそこ走り屋が良く走ってるんだけど時たま現れては横に並ぶ青いSUV車なんだけど、AT車でとにかく直線は遅いんだけどカーブになると説明のつかない速さで突っ込んでいって不気味な曲がり方をして追い抜いていくんだって『亡霊』って呼ぶ人もいるらしいわ」
「なるほど」
「その話なら俺も聞いた事あるぜ、何個かカーブ曲がると瞬く間に消えてしまうからそう呼ばれるようになったんだって」

後ろにいた男性が話に混ざってきた。

「助手席に彼女乗せてる時もある」とか「ドノーマル車なのにやたらめったら速い」とか。

聞いてるうちに要所要所をかいつまんでいくと、心当たりがでてきたんだけど……まさかね。
危ない運転はしないって言ってたもんね。
そうしてると、冬夜君が戻ってきた。

「悪い、ちょっと電話が入って遅れてしまってさ」
「電話?誰から?」
「誠から……あ、先生入ってきたよ」

そこからは授業が始まった。

(3)

「今度の金曜日の0時に峠に来てくれ」

誠はそう言っていた。
偶に愛莉の目を盗んで行ってるけど、今回は日時を指定だ。なんかあったのか?

「俺と神奈も行くからさ、頼むよ」
「なんかあったの?」
「実はさ……」

県外の走り屋集団に絡まれた。
交流会をしたいとかなんとか言ってるけど実は勝負を仕掛けられてるとか。
地元の走り屋が歯が立たない。
そこで『青い閃光』と異名がついてる僕に来て欲しいとのこと。
ああ、前に走ってた黄色いスポーツ車か。
某走り屋漫画まがいの事やってる人本当にいたんだね。
まさか医者の息子とか言わないよね?
九州最速プロジェクトとか言い出さないだろうね?
まさか医学部で「公道最速理論」とか訳の分からないレポート提出するわけじゃないよね?
まあ、前回会った時は余裕で抜いたから別にいいけど。
あそこギャラリーとかいないしね。
確かステッカー張ってたな……。

「雷鳥ってチーム?」
「何で知ってんだ?」
「前に勝負して勝ったことあるから」
「おっしゃあ!これで勝つる!」

誠は興奮してる。

「ただ問題がさ……」
「なんだ?」
「週末だろ?愛莉が……」
「こっそり抜け出して来ればいいだろ?」
「まあ、そうか」

ただこの時ばかりはそうはいかなかった。


金曜11:30頃愛莉はいつも通りすやすや寝てる。
最近は寝るのが早い。
家事もこなしたりで忙しくて疲れてるんだろう。
それは助かる。
僕はゲームをして時間を潰してた。
そして誠からメッセージが。

「そろそろ出てこれるか?家の前まで迎えに行くけど」
「いや、カンナの車五月蠅いから愛莉に気づかれる」
「そうか、じゃあ。いつも通りふもとのコンビニで」
「わかった」

ごめんな愛莉。
そっと愛莉の頭を撫でる。
そして着替えるといつも通り部屋を出ようとしたその時。

がしっ。

背後から誰かが抱き着き。部屋の照明が点く。

「こんな事だと思った!」
「あ、愛莉!?」

寝てたんじゃなかったのか!?しかも部屋着じゃないし!

「噂を大島さんから聞いて、もしやとは思ったけどまさかね……」
「ごめん、今回だけは見逃して!」

愛莉に事情を説明する。

「要するに助っ人ってこと?」
「何でも地元の走り屋チームは絶対に負けちゃいけないって不文律があるらしいんだ」

どうでもいいと言えばどうでもいいけど。

「う~ん、それで受けちゃったんだ……」
「ごめん、見逃してくれないか」
「ブー!私に隠し事をしたのは許せませ~ん。罰を与えます」
「な、なんだよ」
「明日洗車に連れて行って♪」
「それって罰になるの?」
「車に無茶させるんだから、そのくらいしてあげようよ」
「愛莉がそう言うなら……」
「それともう一つ!」
「ま、まだあるの?」
「今度から行くときは私も連れて行って♪」
「愛莉危険な運転はするなって前怒ってたろ?」
「私がいなくてもするんでしょ。だったら一緒じゃない。それとも私がいたらヤバいような運転するの?」
「い、いやそれは無いと思うけど」
「じゃ、決まり。誠とカンナ待たせてるんでしょ?早く行こう」

案外乗り気なんだな。愛莉……。


ふもとのコンビニで。

「遅いぞ冬夜……ってなんで、遠坂さんが?」
「私がいたらまずいの?誠君」
「いや、遠坂さんこういうの嫌いだろうって」
「嫌いだよ?でも冬夜君の運転凄いから」
「愛莉、今日は遊びじゃないんだ」

カンナが愛莉を諭す。

「それも冬夜君から事情は聞いた」
「それでもいいんだな?」
「冬夜君の安全弁代わりになるの」

神奈は僕の顔を見る。
僕はお手上げといった仕草をしてみせた。

「じゃあ、急いで上に行こうかもう待ってるらしいし」


山頂に上る途中車を止めて見物に来てる観客がいた。
山頂に上るともっと人がいる。

車をジャッキで上げてライトで照らしてセッティングしてる姿も見える。
僕達は地元のチームの顔なじみに挨拶をした。

「今日は来てくれてありがとう。負けてもいいから」
「そういう考え無しにしましょうよ」

そんな会話をしてると雷鳥の一人がやってきた。

「じゃあ、先日説明した通り下りと上りの二本勝負で。あ、あくまでも交流会だから」

余裕すら見て取れるこの態度、勘に障る。

「じゃあ、試合する車をセットしてくれ」

さっきの人が合図する。僕は車に乗り込みスタートラインにつく。
愛莉は……。

「愛莉はここで待ってような?」

カンナが肩を掴む。

「私は冬夜君のナビなの!」
「遠坂さん、本気でやばいんだ。冬夜の集中力欠く真似はしたくないだろ?」

誠も説得する。

「うぅ……静かにしてるのに……前乗ってる時は平気だったもん」

駄々をこねる愛莉に僕が一言いう。

「すぐ戻ってくるから、そしたら一本また走ってあげるから」
「本当?わーい」
「噂には聞いてたけど、まさか本当に彼女連れで来るとはな。良い度胸してるぜ」

相手のドライバーが近づいてきた。

「俺の名前は橋本浩介、お前は?」
「片桐冬夜だけど」
「いくつだ?」
「18」

橋本さんは鼻で笑った。

「なめられたもんだな。18の若葉マークも取れてないペーペーのドライバーを出してくるとはな。しかもドノーマルのSUV車と来てる。FFでATなんて車じゃねーよ」

この人あほの子なのかな。SUVって「スポーツ・ユーティリティ・ビークル」スポーツ用多目的車って意味なんだけど。

「FF車じゃないもん!ちゃんとした四駆だもん」

あ、愛莉それは違うんだ。
橋本さんは笑い声をあげる。

「これだから馬鹿な女は困るな、SUV車の高速走行時は基本的にFFなんだよ!」

カチン。

「ダメだ話にならねぇ、せめてその赤いE-ST202にしろよ!」

ごめん、愛莉。
愛莉は笑われて恥ずかしさと、悔しさで泣いている。
そんな愛莉を優しく撫でてやる。

「トーヤこいつムカつく。私の車貸してやるから徹底的に負かせてこい!」
「冬夜どうする?お前ならMT車でも大丈夫だと思うし、勝つなら神奈のスポーツ車の方が……」

カンナと誠がカンナの車に乗るように勧める。

「今から負けたときの言い訳?」
「なに?」

僕の言葉に眉がピクリと動く。

「いいよ、その条件。もし負けたら上りはカンナの車で勝負してあげる。ただしこっちの条件も飲んでもらうからな」
「勝つつもりでいるのかよ?そのDAA-RU4で」
「僕が勝ったら二度とこの山に現れない事、それと君の車に10円玉で傷入れるから」
「なんだと!?」
「飲む?飲まない?どっち?」
「良いだろう。俺が買ったらE-ST202で勝負だな?」
「良いよ」

そう言うと橋本さんは自分の黄色いFDに乗り込んだ。

「冬夜君大丈夫?」
「愛莉ごめん、怖い目に会わせるかもしれない」
「ほえ?」
「冬夜何言ってるんだ?」
「トーヤ?」

誠とカンナが僕の真意を確かめる。
僕は自分でも信じられない事を言ってる。
自分の彼女にそんな危険な真似させるか?
自己嫌悪に陥る。
それでも愛莉の言う安全弁が欲しい。

「多分前みたいな丁寧な運転はできない。多少荒っぽい運転になると思う。それでもあえて言う、隣に座ってくれない?」
「……いいの?」
「トーヤそれはダメだろ!?」
「冬夜!やめとけ!」

カンナと誠が止める。

「愛莉が乗ってる、そう思ったらギリギリの走行はしないと思うから」
「そういうことならいいよ♪」

そう言って愛莉は助手席に乗る。

「おいおい、彼女乗せるなんて、ドライブ楽しむわけじゃないんだぞ」

この山以外から来た走り屋たちは口々にそう言う。

「これだからよそ者は……青い閃光の恐ろしさをわかってねーな」

山で知り合った仲間は皆口々にそう言う。

僕が運転席に乗ると。愛莉のシートベルトをロックしてやる。

「揺れると危ないから」と、一言言って。

僕が乗ったことを確認すると雷鳥の一人がカウントを始める。

「3.2.1……」
「お前に生命を吹き込んでやる!!」

ぽかっ

「それ調べたよ。また漫画に影響されて……」

愛莉がいるとやっぱり落ち着くな

「スタート!」

やはり、相手の車の方が出だしは早い。
アクセルを目一杯踏んだけどギアのつながりが遅い。
最初のストレートで思い切り差をつけられた。
想定済みだ、勝負は最初のコーナーから!

「冬夜君大丈夫!?」
「舌噛まないよう気をつけて!」

コーナー入り口付近ギリギリまで加速をすると一瞬フェイントを入れブレーキを踏みこむ。

「お前に魂があるのなら…応えろ!!」

車はドリフト状態になる。

コーナー出口に差し掛かったら、すかさずアクセルを踏む。
四駆状態になり、加速がかかる。
二つ目のコーナーで捕らえた。

「冬夜君ぶつかるよ!」

愛莉が思わず叫ぶくらいに肉薄する。
相手の車も必死に振り切ろうとするが、魅せるドリフトではなくて、高速状態を維持したままコーナーをクリアする技術。
ふとした瞬間、相手の車から少し離れる。
案の定アンダーを出したみたいだ。
制御に苦しむ相手の内側をめがけて飛び込む僕。

「きゃっ!」

恐怖ででた叫び声じゃない。
単に車の揺れに驚いたんだろう。
キッチリ車一台分の空いたスペースを縫うように走る。
勝負は終わった。
そのままぶっちぎって山を下りる頃には相手の車は見えなくなってた。

(4)

「悪いけどタイムアタックなんでな」

最初のストレートで目一杯差をつけた。

やはり、ATの性。加速は鈍い。
そのままコーナーの2,3個抜ける頃にはぶっちぎるだろう。
そう思ってた。
しかしコーナーを抜ける度に差を縮めてくる。
2個目のコーナーで肉薄された。
なぜだ!?なぜ振り切れない!?
ベストの走りをしてるつもりだったが、おせーよと言わんばかりに迫ってくる。
相手が早いのじゃなくて俺が遅い……?
もっと、もっと加速を!!
ストレートでぶっちぎってコーナーで追いつかれる。
走り屋としては最悪の状態だ。
しかも相手は若葉マーク。
ATのFF車……、マフラーとかも弄ってる気配はなかった。
なんか特殊なエンジンでも積んでるのか?
焦る俺。
そのとき相手の車が少し離れるのがルームミラー越しに見えた。

「よしっ!」

そう思ったのもつかの間だった。
明らかにオーバースピードで突っ込んでいた。
リア流してしのぐしかない。
すると相手の車が猛突進してくる。
やめろ!!ぶつける気か!?
すると気味が悪いくらい華麗な4輪ドリフトでインをついて俺を抜き去る相手の車。
負けた……。
あれで18歳だ?
悪い冗談だろ?


山を下りて自販機の前に着くと彼女連れでジュースを飲んでる。
相手のDAA-RU4の隣に車を止める。

「悔しいけど負けだよ。完敗だ」
「これから上るけど勝負する?」
「いや、下りで負けたんだ、上りで勝っても嬉しくねーよ」
「じゃ、とりあえずもどろうか?」
「ああ……」

上りくらいぶっちぎってやろうと思ったけど。
上りも圧倒的に早かった。
こっちはターボ車なのに屈辱だぜ……。

(5)

山頂にて。

「負けだ、俺の完全敗北だ」

橋本さんはそう言って頭を下げた。
そして10円玉を僕に渡す。

「約束だ、傷つけてくれ」

そう言って頭を下げたまま黙り込んだ。
周りの空気も重苦しい。
僕は橋本さんの肩に手をかけた。

「頭を上げなよ」
「?」

橋本さんは頭を上げる。

「悔しいよね、悲しいよね、車を傷つけられるって、プライドをぼろぼろにされるって。あんたが僕にやったことはそういう事だよ?もう少し相手の気持ちに立って物事言いなよ」
「ああ……悪かった」
「じゃあ、約束だからね。二度とこの山に現れないで」
「ああ……さあ、傷入れてくれ」
「傷なら君の自尊心に十分入れたからいいよ」

そう言って僕はカンナたちのところに戻った。

「車さん、よくがんばったね」

愛莉が僕の車を労わってる。
本当によくやったよ。
明日洗車してやるからな。

「すげーなトーヤ。どうやって抜いたんだ?」
「だからキキーってなってバーンと抜いたんだってば……」

愛莉の言葉じゃ説明になってないな。
カンナ達に説明した。


「なるほどな、そりゃお前の車に肉薄されたら焦りもするわな」
「そそ、それで自滅したってだけ」
「でもどうして相手がオーバースピードってわかったんだ?」

説明できそうもないな……。

「敢えて言うなら……勘……かな?」
「は?」
「なんか相手の車の挙動怪しかったし、明らかに突っ込み過ぎだって分かったから」
「お前意外と冷静だったんだな。なんか熱くなってたけど」

僕は愛莉の頭を撫でて言った。

「愛莉の事馬鹿にしてたから思わずね……」
「なるほどな」
「冬夜君私の事でも怒ってくれるんだね」

愛莉は嬉しそうだ。

「当たり前だろ?婚約者馬鹿にされて怒らない奴なんていないと思うよ。愛莉」

そう言って頭を撫でると、愛莉は恥ずかしそうにもじもじしてる。

「いつもキレる時って神奈がらみの時だったから……」

愛莉はそう小声で行った。

「でも始まった時はヒヤっとしたぞ。ぶち切れて車に愛莉乗せるなんて。自殺する気かと思ったくらいだ」

カンナがそう言うと僕は首を振った。

「逆だよ、ぶちぎれてるで分かったから愛莉乗せたんだ。愛莉乗せてるって認識したら自然と自覚したから。押えなきゃって……」
「なるほどな……、でも危ないことに愛莉巻き込むのはこれっきりにしとけ?」
「そうだな、冬夜キレると何するか分からないからな」
「愛莉がいる時は無茶しないって」
「じゃあ、無茶してる時の片桐と勝負してみたいんだがな」

ちょっと大人びた感じのクールなイケメンが僕たちを見てる。

「俺の名前は橋本涼太。雷鳥のリーダーをやってる。」
「……それがなにか?さっきこれっきりにするって約束したはずだけど?」
「それは弟の浩介とだろ?俺とは約束してない」
「大人の癖にそんな屁理屈言うんですか?」

愛莉がかみついた。

「こっちもプロジェクトがかかってるんでね。おめおめと引き下がるわけにはいかないんだ」

ああ、九州最速プロジェクトってやつね。諦めたら?
僕は首を縦に振らなかった。

「そうか、しょうがないな。強引な手段をとらせてもらう」

そう言って涼太さんは自分のチームの方へと帰って行った。

「た、大変だぞ。さっきの涼太って人お前の記録塗り替えやがった」

走り屋の仲間がそれを伝えに来た、
この坂の下りの最速記録を塗り替えたらしい。
そんなのどうだっていいけどね。
坂への入り口でざわついてる。
なんとその涼太さんののってるFCが下りへの入り口……さっきのスタートラインに車をピタリとつけてるらしい。
ああ、あれね、僕が通過したらよーいどん!ってやつね。

「ど、どうする?」

誠が聞いてきた。

「無視して帰るよ」

当然のように答える。

「でも追いかけてくるかもだぜ?」

カンナの言うことも最もだな。
僕は考える……って言っても答えは一つしかないか?

「二人は後から追いかけてきて。そしたら僕先行していくから」

イコール勝負を受けるって事なんだけどね。

「冬夜君勝負うけるの?」

愛莉が心配そうに尋ねる。

「無茶はしないから」
「うん」

誠が走り屋仲間に帰ることを伝える。

「ああ、今日はありがとうな」

走り屋仲間に礼を言われる。
なにか礼させろよと言われたけど、じゃあ、洗車一回おまけして?とだけ笑って答えた。

「愛莉シートベルトロックするから」

車に乗り込むと愛莉のシートベルトに手をやる。

「自分で出来るよ、ほらっ」

きつく締め思い切り引っ張るとがしっとロックがかかる。
それを見届けると亮介さんの白い車の横を通過する。
すると案の定追いかけてきた。

「愛莉バーに捕まってろよ」
「き、気をつけてね」

僕は目一杯の速度で駆け降りる、


結局僕が振り切って勝負は終わった。
後半までは食らいついて来てた。
だけど、後半相手の車のタイヤが熱ダレを起こしたらしく、食らいつくことができなくなったらしい。
下に降りてジュースの自販機前でカンナ達を待ってると先に白い車が降りてきた。

「俺の負けだ。お前ならもっと高みを目指せるよ。まずは車を変えるところからだけど」
「さっきの人にも言ったけど人の車にとやかくいうのは失礼だと思うよ?」
「そうだったな、すまん。じゃあな」

そう言って白い車は山に戻って行った。
その後カンナ達が来た。

「お前どんだけ速いんだよ」
「私らも腕磨かないとな」

誠とカンナが言う。

「あ、そうだ。さっきのタイムでまたお前が勝ったらしいぜ」

誠がメッセージを見せた。

「まあ、前に邪魔がいなかったから当然なんじゃない?」

平然と言ってのける僕。
愛莉は僕の車によしよし頑張ったねと撫でてる。

「じゃあ、僕たちは帰るよ。明日車を労わってやるって愛莉と約束してるから」
「ああ、私たちも帰るよ。今日はお疲れ様」
「じゃあな、冬夜」

そう言って二人が帰っていく。

「はーい」

愛莉はそう言って助手席に座る。

「でも、何で僕がここで走ってるってわかったんだ?」
「有名になってるらしいよ。山の青い閃光って名前で」

なんだその厨二全開な名前。

「でもそんなので有名になったってえらくないんだからね?」
「分かってるよ」
「それとこれからは、山に行きたくなっても私に黙って行かないで。その事知ったことの方がショックだったんだから」
「ごめんってば」
「……車さん労ってあげてね」
「そうだな」

そう言って暗闇の道路を照らしながら家路に着くのだった。
これがまだ、始まりに過ぎない事を知るのはまだ先の事だった。
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