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3rdSEASON
旅人は出会う
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(1)
「冬夜。ちゃんとフェリーに乗るんだぞ」
「……もうチケット予約したよ父さん」
「冬夜。連休が終わったとはいえ、都会なんだから車は多いんだし気をつけるんだよ」
分かってるよ母さん。毎回言わなくても無茶はしてないって。
「愛莉……きをつけてな」
「愛莉ちゃん~神戸の夜景はぜひ見ておきなさいね~」
「は~い」
愛莉ママは全く心配してないようだ。
愛莉も呑気なものだ。
高校野球の決勝を見ながらのんびりしていた。
愛莉は部屋の掃除をしていた。
誰かがノックする。多分母さんだろう。当たっていた。
「あんたはまた愛莉ちゃんをこきつかって、自分はだらだらと……」
「愛莉、少しは休めよ」
「この部屋だけ掃除する~」
「……てなわけ」
「……どこか遊びに行ってきなさい」
母さんは気楽に言うけど、そう遊びに行くところなんてないよ。
「ねえ?連休も終わったし大阪行かない?」
「大阪?」
愛莉は頷いた。
「私冬夜君と一度行ってみたかったの。神戸の夜景と大阪のテーマパーク。今なら乗り物大丈夫だし」
「それはいいわ、冬夜行ってきなさい。どうせなら船旅がいいわよ」
二人で話しを進めていく。
のんびり過ごしたかったんだけど、家にいると愛莉が働くしなぁ。仕方ないか。
フェリー乗り場に着くと乗船手続きを始める。
時間になったら車をフェリーに載せ船員の指示通りに駐車する。
荷物を持ってデッキに上がると客室に向かう。
2段ベッドになっていた。
愛莉が下に僕が上にした。
愛莉が荷物を上にやるのに一苦労しそうだと思ったから。
狭いベッドなので、流石に一緒に寝ようとは言わなかった。
荷物をベッドに置くと外に出る。
「あ、船が動き出したよー」
愛莉が言うように船はゆっくりと岸を離れていく。
動き出したのを確認すると、早速レストランに向かった。
さ~て、何食べようかな~?
「はい、冬夜君の好きそうなのとっておいたよ」
「いや、自分で選ぶよ……」
「とっておいたよ」
……黙って受け取ると愛莉は自分の分を選びに行った。
食事を頼むと、浴場に向かう。
眺めがいい。
じっくり堪能すると部屋に戻り、愛莉が戻ってくるのを待つ。
……遅いな。
ゆっくりしてるんだな。
テレビを見ながら、時間を潰す。
やがて愛莉が戻ってきた。
「お風呂きれいだったよ~。あとね~旅をしている人に出会った」
「?」
「大学4年生でさ。日本一周をしてるんだって。もうこんな長い休暇取れないからって」
「一人で?」
「ううん、彼氏さんと二人で、いいよね~そういうの」
「そうだな」
「お風呂で意気投合しちゃってさ。プロムナードにいるって言ってた。瀬戸内海が綺麗なんだよ。冬夜君も行こっ」
愛莉に引っ張られ僕プロムナードに向かった。
(2)
「あ、沙也加さーん」
愛莉が大声で名前を呼ぶとボブヘアの女性とツーブロックの茶髪の男性が振り向いた。
二人共日焼けしていて色が黒い。
ツーブロックの男性の名前は秀太というらしい。
4人はソファに腰掛け話を始めた。
「君たちも旅行かい?」
ツーブロックの男性が話しかけてきた。
「はい、ちょっと愛莉……彼女の羽を休めにと」
「彼女じゃないよ!婚約者だよ!」
愛莉がそう言ってむくれる。
「ハハハ、なるほどね。実は僕たちもそうなんだ」
「え?」
同じ境遇の人がいるのか?
「彼が去年のクリスマスにプロポーズしてくれたの。卒業したら結婚しようって」
沙也加さんは恥ずかしそうにそう言った。
「お二人はどちらから来たんですか?」
愛莉が質問すると、秀太さんが答えた。
「沖縄だよ。沖縄から九州を回って関西に向かう途中」
あ、沖縄か。なんとなくイメージ通りだ。
日本一周か、なんかいいな。僕達もしてみたいな。
「本当は鹿児島から船でも良かったんだけど、彼女が大分の温泉に行ってみたいと言い出してね」
「そう言うのっていいですね」
「君たちもそのうち行ってみたらいい。3年生までに済ませておくと良いよ。就活大変だから」
「秀太さんは、内定もらったんですか?」
愛莉が聞くと、秀太さんは笑って答えた。
「ああ、地元企業だけどね。一応もらってる」
それで4年生になって日本一周か……。
「うちの大学はそんなに夏休みに課題を出すところでもないからね、卒論さえ出せばあとはOKな状態でさ」
「愛莉ちゃんたちはどうして関西へ?」
僕が答えた。
「本当にただの気晴らしなんです。彼女の希望を聞いただけで」
「あらあら、本当に愛莉ちゃんの言ってた通りなのね」
沙也加さんはそう言うと笑った。
「まあ、彼女の機嫌は取っておいた方が良い。その方が上手く行くこともある」
秀太さんはそう言うと笑った。
「秀太、聞こえてるわよ」
「あ、聞かれてまずい話はしてないから」
「あら、そうなの?」
「そうだよ。常にレディファーストって言っただけだから」
「そういう風には聞こえなかったよ」
そんなやりとりを聞きながら僕は二人の世界を羨ましく思えた。
「お二人は付き合って何年くらいなんですか?」
愛莉さっきから質問が直球すぎないか?
「小学生の時から好きだったかな。私から告白したの。でも彼こう見えてまじめでね。一度は断られたの。『勉強でそれどころじゃないから』って……。それでも諦めずに食い下がったわ……中2の夏にやっと認めてくれた」
沙也加さんて押しの強い人なんだな。なんとなく想像できたよ。困惑する秀太さんの姿が。
「いいなあ、私なんて中2のクリスマスにやっと彼の本音聞けたんですよ」
本当に羨ましそうに言う愛莉。
「私達似てるのかもね。彼の性格も似てそうな気がする」
そう言って沙也加さんは僕を観る。
いや、僕全然秀太さんみたいにモテそうなイメージないし、真面目でもなかったし……。
「今自分を卑下してるでしょ。そういうところがそっくりなのよ」
見透かされてる?本当に性格似てるんだろうな。
「彼だって気づいてるはずだよ。自分には取りえないけど。でも彼女がいるってだけで十分人に自慢できる。胸を張って生きていけるって」
秀太さんの言う通りだ。そこは誇れる所なんだろう。
「でもいいなあ、10年以上も一緒なんだ」
愛莉が羨ましそうに言った。
すると沙也加さんが答える。
「でも、愛莉ちゃんも気づいてるんでしょ?1年過ぎたら3年。3年過ぎたら5年。5年過ぎたら10年って決して揺るぎない絆が生まれるって」
「うん、沙也加さんはその事をどうやって秀太さんに伝えてますか?」
「うーん毎年の記念日に自分の気持ちを伝えてるかな。『私は十分幸せですよ。だから胸を張って生きて』って……」
「何気ない一日が幸せなんだってなかなか気づいてもらえないのよね」
「分かりますその気持ち」
「二人は、神戸港を出たらどうするつもりだい?」
秀太さんが聞いてきた。
話題を変えたかったんだろう。それは僕も同じだったので乗ってみた。
「店が開くまで車の中で寝てようかなって」
「ネカフェ使うと良いよ。リクライニングシートでゆっくり休める」
なるほど、ネカフェか。その手もありだな。
「沙也加さん達はどこに行くんですか?」
「私たちは京都にいくわ。そこで一泊するつもり。お寺とか見て回りたいし」
「いいなぁ~」
日本一周か、確かに憧れるものではあるな。僕達もやってみるかな?
「良い旅になるといいですね」
「ありがとう、君たちもいい旅になることを願ってるよ」
「ありがとうございます」
そうして何時間か話込んでいると沙也加さんが言い出した。
「秀太、そろそろ寝ないと。明日も早いんだし……」
「そうだな、じゃあまた。良い旅を」
そう言って二人は去っていった、
「良い人達だったね」
「そうだな」
「私たちも明日の朝早いんだし寝よっ?」
「そうだな」
そう言って船室に戻っていった。
(3)
深夜の展望デッキ。
僕は瀬戸大橋を観る為にやってきた。
僕以外にも大勢の人が見に来ている。
僕は写真に収める。
朝起きたら愛莉に教えてやろう。
どうするかな?
悔しがるかな?
怒りだすかな?
早朝には明石大橋を観ることになるしそろそろ寝るか。
そう思った時不思議な女性にであった。
青い瞳に黄色のワンピース。
真夜中の月の下に彼女はいた。
夏とはいえ夜は冷え込んでいる。
そんな姿で寒くないのかい?
「寒くないのかい?」
僕は彼女に話しかけていた。
彼女は首を振る。
「君の名前は?」
「……夏海」
「そう、僕は冬夜っていうんだ。君は一人?」
夏海さんは頷いた。
「一人で何しているの?」
「旅を続けてる」
「どこまで?」
「わからない」
あての無い旅を続けているらしい。
「その旅はいつ終わるの?」
「いつでも終わらせることはできる、だけど終わりなんてない」
「そうなんだ……気をつけてね」
そう言うと彼女は去っていった。
ぽかっ
「こらっ!一人で外に出てるなんてひど過ぎない?」
振り返ると愛莉が立っていた。
「あ、愛莉。こちら夏美さん……」
「誰もいないけど?」
「え?」
僕が振り向くと彼女の姿はなかった?
あれ?
「さっきまで確かに女性が……」
「ふーん……で……」
愛莉が僕の頬をつまむ。
「その女性とどうして話をしていたのかな?」
「なんか不思議な女性だったから」
「婚約者と旅行をしていてナンパとかそういう度胸はいらないの!」
「そんなんじゃないって」
本当に不思議な女性だったな。
その晩夢を見た。
真っ白な部屋。
夏海さんは僕を見ると、次の扉を開いて次の部屋へと向かう。
僕はその後を追うかどうか迷う。
扉の向こうに何が待っているのか分からない。
不安がつきまとう。
彼女を追っていていいのだろうか?
誰かが背中を押す。
振り返ると愛莉がそこに立っていた。
「行こ?」と愛莉は言う。
思い切って扉を開いた。
また夏海さんが次の扉へと向かう。
果てしなく続く。
真っ白な部屋、黒い扉。
他には何も見えない。
彼女に追いつこうと駆け抜ける。
でもいつまでたっても追いつけない。
どこまでも続く、終わりなき旅。
ぽかっ。
目を覚ますと梯子に上った愛莉が、立っていた。
「おはよ、そろそろ時間だよ?」
僕はぼうっとしていた。
「どうする?見るの止める?」
「いや、行くよ。行こう」
そして展望デッキへと向かった。
(4)
日の出と共に見える明石海峡大橋は。格別だった。
とてもきれいで大きい。
あの娘はもう見えなかった。代わりに隣で愛莉が写真を取っている。
空と海が混じった水平線の先にはもう陸地が見える。
あっ
デッキの先端に彼女は立っていた。
僕達と同じように船の行く先を見つめている。
ぽかっ
「また自分の世界に入ってる~」
頬を膨らませる愛莉に説明する。
「ほら、あそこに昨日行った彼女が……」
「誰もいないよ……冬夜君疲れてるんじゃない?少し休んだ方がいいんじゃない?」
愛莉が心配そうに言う。
僕はもう一度彼女がいた場所を見ると誰もいなかった。
辺りを探すが彼女はいない。
「お気をつけて」
背後から声が聞こえた。
はっとして振り返る。
「どうしたの?」
愛莉が不思議そうにこっちを見ている。
「……いや、何もない」
そう、何もなかったんだ。
ただ見えたのは夏の幻。
多分僕たちの未来を暗示する何か。
何もわからない、僕達の次の扉をノックする僕自身。
何も心配することは無い。
二人ならどんな部屋が待っていようと綺麗にしていける。
そう、彼女は未来の僕自信。
「冬夜君大丈夫?何か変なのに憑りつかれたとかないよね」
「大丈夫だよ。それよりお腹空いた。ご飯にしようか」
「うん」
そう言って僕たちはレストランに向かった。
ご飯を食べる時に秀太さん達にまたであった。
いっしょにご飯を食べる。
その時に体験したことを話した。
「なるほどね、それは冬夜君が考えている通りのものかもしれないな」
秀太さんがそう言った。
「ま、いい旅を楽しんでね」
沙也加さんがそう言うと「ありがとう」と、答えた。
食事を終えると僕たちは船室にもどり、荷物をまとめる。
纏め終えると、再び展望デッキを見える。
岸壁が近づいてきてる。
「そろそろ下船の準備を……」
みたいなアナウンスが流れる。
部屋に戻り荷物を持って、車に向かう。
「神戸に着いたらまず何するの?」
愛莉が聞いてきた。
「そうだな、どこかお店に入って時間潰すかな?」
「冬夜君が平気なら私行ってみたいところあるんだけど」
「どこだい?」
「六甲山」
「それは夜に行けばいいんじゃ……」
「朝も綺麗なんだって!」
「まあどうせ暇だし行ってみるか?」
「わ~い」
喜ぶ愛莉の頭を撫でてやる。こうすると意外と愛莉は機嫌が良くなる。
じゃれる愛莉を観ながら思う。
愛莉と一緒なら何も怖くない。
どんなに暗い部屋でも一瞬に虹色に変えてくれるだろう。
愛莉が背中を押してくれるなら何も恐れることは無い。
ただ前を歩くのみ。
疲れたら愛莉にもたれかかろう。
きっと疲れを癒してくれる。
誘導員から合図が掛かる。僕達は船を出て車を走らせる。
朝陽がまぶしく、青い空が僕らを歓迎してくれた。
「冬夜。ちゃんとフェリーに乗るんだぞ」
「……もうチケット予約したよ父さん」
「冬夜。連休が終わったとはいえ、都会なんだから車は多いんだし気をつけるんだよ」
分かってるよ母さん。毎回言わなくても無茶はしてないって。
「愛莉……きをつけてな」
「愛莉ちゃん~神戸の夜景はぜひ見ておきなさいね~」
「は~い」
愛莉ママは全く心配してないようだ。
愛莉も呑気なものだ。
高校野球の決勝を見ながらのんびりしていた。
愛莉は部屋の掃除をしていた。
誰かがノックする。多分母さんだろう。当たっていた。
「あんたはまた愛莉ちゃんをこきつかって、自分はだらだらと……」
「愛莉、少しは休めよ」
「この部屋だけ掃除する~」
「……てなわけ」
「……どこか遊びに行ってきなさい」
母さんは気楽に言うけど、そう遊びに行くところなんてないよ。
「ねえ?連休も終わったし大阪行かない?」
「大阪?」
愛莉は頷いた。
「私冬夜君と一度行ってみたかったの。神戸の夜景と大阪のテーマパーク。今なら乗り物大丈夫だし」
「それはいいわ、冬夜行ってきなさい。どうせなら船旅がいいわよ」
二人で話しを進めていく。
のんびり過ごしたかったんだけど、家にいると愛莉が働くしなぁ。仕方ないか。
フェリー乗り場に着くと乗船手続きを始める。
時間になったら車をフェリーに載せ船員の指示通りに駐車する。
荷物を持ってデッキに上がると客室に向かう。
2段ベッドになっていた。
愛莉が下に僕が上にした。
愛莉が荷物を上にやるのに一苦労しそうだと思ったから。
狭いベッドなので、流石に一緒に寝ようとは言わなかった。
荷物をベッドに置くと外に出る。
「あ、船が動き出したよー」
愛莉が言うように船はゆっくりと岸を離れていく。
動き出したのを確認すると、早速レストランに向かった。
さ~て、何食べようかな~?
「はい、冬夜君の好きそうなのとっておいたよ」
「いや、自分で選ぶよ……」
「とっておいたよ」
……黙って受け取ると愛莉は自分の分を選びに行った。
食事を頼むと、浴場に向かう。
眺めがいい。
じっくり堪能すると部屋に戻り、愛莉が戻ってくるのを待つ。
……遅いな。
ゆっくりしてるんだな。
テレビを見ながら、時間を潰す。
やがて愛莉が戻ってきた。
「お風呂きれいだったよ~。あとね~旅をしている人に出会った」
「?」
「大学4年生でさ。日本一周をしてるんだって。もうこんな長い休暇取れないからって」
「一人で?」
「ううん、彼氏さんと二人で、いいよね~そういうの」
「そうだな」
「お風呂で意気投合しちゃってさ。プロムナードにいるって言ってた。瀬戸内海が綺麗なんだよ。冬夜君も行こっ」
愛莉に引っ張られ僕プロムナードに向かった。
(2)
「あ、沙也加さーん」
愛莉が大声で名前を呼ぶとボブヘアの女性とツーブロックの茶髪の男性が振り向いた。
二人共日焼けしていて色が黒い。
ツーブロックの男性の名前は秀太というらしい。
4人はソファに腰掛け話を始めた。
「君たちも旅行かい?」
ツーブロックの男性が話しかけてきた。
「はい、ちょっと愛莉……彼女の羽を休めにと」
「彼女じゃないよ!婚約者だよ!」
愛莉がそう言ってむくれる。
「ハハハ、なるほどね。実は僕たちもそうなんだ」
「え?」
同じ境遇の人がいるのか?
「彼が去年のクリスマスにプロポーズしてくれたの。卒業したら結婚しようって」
沙也加さんは恥ずかしそうにそう言った。
「お二人はどちらから来たんですか?」
愛莉が質問すると、秀太さんが答えた。
「沖縄だよ。沖縄から九州を回って関西に向かう途中」
あ、沖縄か。なんとなくイメージ通りだ。
日本一周か、なんかいいな。僕達もしてみたいな。
「本当は鹿児島から船でも良かったんだけど、彼女が大分の温泉に行ってみたいと言い出してね」
「そう言うのっていいですね」
「君たちもそのうち行ってみたらいい。3年生までに済ませておくと良いよ。就活大変だから」
「秀太さんは、内定もらったんですか?」
愛莉が聞くと、秀太さんは笑って答えた。
「ああ、地元企業だけどね。一応もらってる」
それで4年生になって日本一周か……。
「うちの大学はそんなに夏休みに課題を出すところでもないからね、卒論さえ出せばあとはOKな状態でさ」
「愛莉ちゃんたちはどうして関西へ?」
僕が答えた。
「本当にただの気晴らしなんです。彼女の希望を聞いただけで」
「あらあら、本当に愛莉ちゃんの言ってた通りなのね」
沙也加さんはそう言うと笑った。
「まあ、彼女の機嫌は取っておいた方が良い。その方が上手く行くこともある」
秀太さんはそう言うと笑った。
「秀太、聞こえてるわよ」
「あ、聞かれてまずい話はしてないから」
「あら、そうなの?」
「そうだよ。常にレディファーストって言っただけだから」
「そういう風には聞こえなかったよ」
そんなやりとりを聞きながら僕は二人の世界を羨ましく思えた。
「お二人は付き合って何年くらいなんですか?」
愛莉さっきから質問が直球すぎないか?
「小学生の時から好きだったかな。私から告白したの。でも彼こう見えてまじめでね。一度は断られたの。『勉強でそれどころじゃないから』って……。それでも諦めずに食い下がったわ……中2の夏にやっと認めてくれた」
沙也加さんて押しの強い人なんだな。なんとなく想像できたよ。困惑する秀太さんの姿が。
「いいなあ、私なんて中2のクリスマスにやっと彼の本音聞けたんですよ」
本当に羨ましそうに言う愛莉。
「私達似てるのかもね。彼の性格も似てそうな気がする」
そう言って沙也加さんは僕を観る。
いや、僕全然秀太さんみたいにモテそうなイメージないし、真面目でもなかったし……。
「今自分を卑下してるでしょ。そういうところがそっくりなのよ」
見透かされてる?本当に性格似てるんだろうな。
「彼だって気づいてるはずだよ。自分には取りえないけど。でも彼女がいるってだけで十分人に自慢できる。胸を張って生きていけるって」
秀太さんの言う通りだ。そこは誇れる所なんだろう。
「でもいいなあ、10年以上も一緒なんだ」
愛莉が羨ましそうに言った。
すると沙也加さんが答える。
「でも、愛莉ちゃんも気づいてるんでしょ?1年過ぎたら3年。3年過ぎたら5年。5年過ぎたら10年って決して揺るぎない絆が生まれるって」
「うん、沙也加さんはその事をどうやって秀太さんに伝えてますか?」
「うーん毎年の記念日に自分の気持ちを伝えてるかな。『私は十分幸せですよ。だから胸を張って生きて』って……」
「何気ない一日が幸せなんだってなかなか気づいてもらえないのよね」
「分かりますその気持ち」
「二人は、神戸港を出たらどうするつもりだい?」
秀太さんが聞いてきた。
話題を変えたかったんだろう。それは僕も同じだったので乗ってみた。
「店が開くまで車の中で寝てようかなって」
「ネカフェ使うと良いよ。リクライニングシートでゆっくり休める」
なるほど、ネカフェか。その手もありだな。
「沙也加さん達はどこに行くんですか?」
「私たちは京都にいくわ。そこで一泊するつもり。お寺とか見て回りたいし」
「いいなぁ~」
日本一周か、確かに憧れるものではあるな。僕達もやってみるかな?
「良い旅になるといいですね」
「ありがとう、君たちもいい旅になることを願ってるよ」
「ありがとうございます」
そうして何時間か話込んでいると沙也加さんが言い出した。
「秀太、そろそろ寝ないと。明日も早いんだし……」
「そうだな、じゃあまた。良い旅を」
そう言って二人は去っていった、
「良い人達だったね」
「そうだな」
「私たちも明日の朝早いんだし寝よっ?」
「そうだな」
そう言って船室に戻っていった。
(3)
深夜の展望デッキ。
僕は瀬戸大橋を観る為にやってきた。
僕以外にも大勢の人が見に来ている。
僕は写真に収める。
朝起きたら愛莉に教えてやろう。
どうするかな?
悔しがるかな?
怒りだすかな?
早朝には明石大橋を観ることになるしそろそろ寝るか。
そう思った時不思議な女性にであった。
青い瞳に黄色のワンピース。
真夜中の月の下に彼女はいた。
夏とはいえ夜は冷え込んでいる。
そんな姿で寒くないのかい?
「寒くないのかい?」
僕は彼女に話しかけていた。
彼女は首を振る。
「君の名前は?」
「……夏海」
「そう、僕は冬夜っていうんだ。君は一人?」
夏海さんは頷いた。
「一人で何しているの?」
「旅を続けてる」
「どこまで?」
「わからない」
あての無い旅を続けているらしい。
「その旅はいつ終わるの?」
「いつでも終わらせることはできる、だけど終わりなんてない」
「そうなんだ……気をつけてね」
そう言うと彼女は去っていった。
ぽかっ
「こらっ!一人で外に出てるなんてひど過ぎない?」
振り返ると愛莉が立っていた。
「あ、愛莉。こちら夏美さん……」
「誰もいないけど?」
「え?」
僕が振り向くと彼女の姿はなかった?
あれ?
「さっきまで確かに女性が……」
「ふーん……で……」
愛莉が僕の頬をつまむ。
「その女性とどうして話をしていたのかな?」
「なんか不思議な女性だったから」
「婚約者と旅行をしていてナンパとかそういう度胸はいらないの!」
「そんなんじゃないって」
本当に不思議な女性だったな。
その晩夢を見た。
真っ白な部屋。
夏海さんは僕を見ると、次の扉を開いて次の部屋へと向かう。
僕はその後を追うかどうか迷う。
扉の向こうに何が待っているのか分からない。
不安がつきまとう。
彼女を追っていていいのだろうか?
誰かが背中を押す。
振り返ると愛莉がそこに立っていた。
「行こ?」と愛莉は言う。
思い切って扉を開いた。
また夏海さんが次の扉へと向かう。
果てしなく続く。
真っ白な部屋、黒い扉。
他には何も見えない。
彼女に追いつこうと駆け抜ける。
でもいつまでたっても追いつけない。
どこまでも続く、終わりなき旅。
ぽかっ。
目を覚ますと梯子に上った愛莉が、立っていた。
「おはよ、そろそろ時間だよ?」
僕はぼうっとしていた。
「どうする?見るの止める?」
「いや、行くよ。行こう」
そして展望デッキへと向かった。
(4)
日の出と共に見える明石海峡大橋は。格別だった。
とてもきれいで大きい。
あの娘はもう見えなかった。代わりに隣で愛莉が写真を取っている。
空と海が混じった水平線の先にはもう陸地が見える。
あっ
デッキの先端に彼女は立っていた。
僕達と同じように船の行く先を見つめている。
ぽかっ
「また自分の世界に入ってる~」
頬を膨らませる愛莉に説明する。
「ほら、あそこに昨日行った彼女が……」
「誰もいないよ……冬夜君疲れてるんじゃない?少し休んだ方がいいんじゃない?」
愛莉が心配そうに言う。
僕はもう一度彼女がいた場所を見ると誰もいなかった。
辺りを探すが彼女はいない。
「お気をつけて」
背後から声が聞こえた。
はっとして振り返る。
「どうしたの?」
愛莉が不思議そうにこっちを見ている。
「……いや、何もない」
そう、何もなかったんだ。
ただ見えたのは夏の幻。
多分僕たちの未来を暗示する何か。
何もわからない、僕達の次の扉をノックする僕自身。
何も心配することは無い。
二人ならどんな部屋が待っていようと綺麗にしていける。
そう、彼女は未来の僕自信。
「冬夜君大丈夫?何か変なのに憑りつかれたとかないよね」
「大丈夫だよ。それよりお腹空いた。ご飯にしようか」
「うん」
そう言って僕たちはレストランに向かった。
ご飯を食べる時に秀太さん達にまたであった。
いっしょにご飯を食べる。
その時に体験したことを話した。
「なるほどね、それは冬夜君が考えている通りのものかもしれないな」
秀太さんがそう言った。
「ま、いい旅を楽しんでね」
沙也加さんがそう言うと「ありがとう」と、答えた。
食事を終えると僕たちは船室にもどり、荷物をまとめる。
纏め終えると、再び展望デッキを見える。
岸壁が近づいてきてる。
「そろそろ下船の準備を……」
みたいなアナウンスが流れる。
部屋に戻り荷物を持って、車に向かう。
「神戸に着いたらまず何するの?」
愛莉が聞いてきた。
「そうだな、どこかお店に入って時間潰すかな?」
「冬夜君が平気なら私行ってみたいところあるんだけど」
「どこだい?」
「六甲山」
「それは夜に行けばいいんじゃ……」
「朝も綺麗なんだって!」
「まあどうせ暇だし行ってみるか?」
「わ~い」
喜ぶ愛莉の頭を撫でてやる。こうすると意外と愛莉は機嫌が良くなる。
じゃれる愛莉を観ながら思う。
愛莉と一緒なら何も怖くない。
どんなに暗い部屋でも一瞬に虹色に変えてくれるだろう。
愛莉が背中を押してくれるなら何も恐れることは無い。
ただ前を歩くのみ。
疲れたら愛莉にもたれかかろう。
きっと疲れを癒してくれる。
誘導員から合図が掛かる。僕達は船を出て車を走らせる。
朝陽がまぶしく、青い空が僕らを歓迎してくれた。
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